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リヒャルトとラインハルト

本編の途中からラインハルトの過去編になります。

ワルツの音楽に合わせ、くるりくるりと移動する。リヒャルトは手を合わせ身体を預けて踊るアリアンヌを見た。動きに合わせて揺れる亜麻色の髪から甘い薔薇の香りがして、踊るのは久しぶりなリヒャルトを、アリアンヌは酔わせる。頬を染め恥じらいながら踊るアリアンヌは、淡い緑色のドレスも相まって、まるで薔薇の妖精のようだと思った。目線を少し下に向けると、白い首筋に輝くエメラルドのネックレスが目に留まる。アリアンヌは僅かなリヒャルトの動きの変化に気付いて目線を追い、ネックレスを見ていることに気付くと、目線を少し伏せた。


「──貴方の色よ」


アリアンヌの柔らかそうな唇から発せられたその言葉は、リヒャルトを後悔させるには充分だった。しかし今が幸せなこともまた事実で、リヒャルトは少しでも長く曲が続くことを祈り、アリアンヌにだけ向けるとけそうな笑顔を浮かべた。






リヒャルトは幼い頃から優秀な子供だった。今では端整な美貌も、子供の頃は天使のようだった。リヒャルトは前王フェリシアンと正妃ツェツィーリエの初めての子供だったこともあり、多くの大人達が彼を特別な存在だと思っていた。

異母兄であった王太子のラインハルトは、リヒャルトを可愛がっており、リヒャルトもまた、六歳上のラインハルトを慕っていた。二人はとても仲が良く、家庭教師と勉強するラインハルトの部屋にリヒャルトが入り浸ることもあったほどだった。


隣国ネーレウスの王女であったツェツィーリエは、自らの美しい子供が両国の友好の証、ひいては外交の要となることを夢見て、様々な異国の言葉を教え、またリヒャルトもそれを良く学んだ。家庭教師に教えられる礼儀作法も剣技も、歳を重ねる毎にめきめきと頭角を現した。

王太子であり早くから実務を学んだラインハルトと違い、第二王子であるリヒャルトはパブリックスクールにも通った。クローリス王国の貴族のパブリックスクールは、十二歳から十六歳の貴族の息子を集めた教育機関で、将来の人脈作りの場でもある。リヒャルトはそこで優秀な成績を修め、王族であっても驕らず、図らずも多くの信奉者を作った。


事件はパブリックスクールの卒業の日に起こった。その日、昼過ぎに王城へと帰宅したリヒャルトは、ラインハルトの執務室へ卒業の報告をしに行った。当時リヒャルトは十六歳、ラインハルトは二十二歳。既に王太子として執務をしつつフェリシアンから仕事を教わっていたラインハルトは、リヒャルトが訪ねて来たと聞き、席を立った。


「おかえり、リヒャルト。卒業おめでとう」


「ありがとうラインハルト!これで私もラインハルトの側で学べるんだね!」


リヒャルトは将来クローリスの王となるラインハルトの側でこの国を支えたいという夢があった。それは幼い頃、母ツェツィーリエがリヒャルトに言い聞かせた、外交の要となる意味も含んでいた。リヒャルトは共通語以外に、地方の民族言語や海の向こうの国の言葉など、七ヶ国語を学んでいた。日常会話にはどの国の言葉も問題ない程だ。ツェツィーリエの教育により、リヒャルトはラインハルトと共に描く王国の未来を夢見れたのだ。同じ夢を見る二人は対等であり、互いに敬語を使わず、友人のように関わっていた。


「ああ、私も楽しみだよ」


暖かく笑うラインハルトは、リヒャルトに優しかった。この日、リヒャルトは式典と挨拶で疲れており、かつ、昼食を食べそびれていた。空腹のリヒャルトが見つけたのは、ラインハルトの執務室の休憩用のテーブルに置かれた焼菓子だった。


「ねえラインハルト。あの焼菓子、食べても良い?昼を食べ損ねたんだ」


弟らしく甘えた声で言うリヒャルトに、ラインハルトは頷く。


「構わないよ。さっき侍女が持ってきたばかりだ」


リヒャルトがそれを一口に放り込み咀嚼する。ラインハルトが、私も一つと手に取ったとき、リヒャルトがその手を掴み、焼菓子を叩き落とした。空気が抜けるような音がする。


「──だ、めだ……ラインハルト。それを、食べ……て、は……」


リヒャルトは急に咳き込み、両膝をついた。自らの片手を無理に口中に突っ込むと、執務室であることも構わず吐き出す。ラインハルトはそれが毒物であると確信した。青い顔で水差しからグラスへ水を移すと、ラインハルトの横に駆け寄り、次から次へと水を飲ませる。


「リヒャルト、リヒャルト!水を飲むんだ。沢山水を飲んで、全て吐き出せ」


リヒャルトは言われるままに無理に水を飲み、それら全てを吐き出す。ラインハルトはベルで側近の男を呼び、急ぎ侍医を呼びに行かせたのだった。





リヒャルトはラインハルトの私室の隣室に匿われ、治療を受けていた。一切の面会を認めず、侍医が付きっ切りで介抱している。曰く、毒消しを使用したのと最初に吐き出したため、体内の毒物はほぼ残っていないが、耐性がなかったので高熱が出続けているらしい。リヒャルトはもう三日ほど眠り続けている。

ラインハルトは仕事の傍ら、王太子付きの信頼できる近衛数人に、今回の事件の犯人を追わせていた。事件から二日後に捕まったのは、焼菓子を運んできた侍女だった。彼女は後宮で、リヒャルトの母である正妃ツェツィーリエ付きの侍女として、最近入ってきた人物だった。しかし、だからツェツィーリエが指示しているという確信には至らず、正妃を問い詰めることはできない。ラインハルトは、決定的な証拠がないながらも、犯人はツェツィーリエないしその周辺人物であると考えていた。ラインハルトを狙った暗殺未遂は、今回が初めてではないのだ。リヒャルトがパブリックスクールに通い始めてしばらくしてから、ラインハルトは何度もその命を狙われている。


そして事件から五日後、リヒャルトの熱が微熱まで下がり目が覚めたと聞き、ラインハルトは仕事を早めに終わらせてリヒャルトの元へと顔を出した。リヒャルトはやってきたラインハルトを見ると、上半身を起こし、これまでラインハルトが見たことのない程に顔を険しくした。


「ラインハルト、本当のことを教えて欲しいんだ」


ラインハルトはリヒャルトのその言葉と真剣な瞳に、今のリヒャルトに誤魔化しは通用しないことを悟った。

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