王城の舞踏会1
日曜の夜に見てる人いるのかなー。
とりあえず更新します。
舞踏会の始まりを告げる王城の鐘が鳴り響いた。鐘の音が止み、管弦楽団が音楽を奏でると、国王と王妃がダンスホールとなった大広間の中心に滑り出る。最初のダンスは国王と王妃と決まっていた。これが終わるとアリアンヌ達もダンスに加わるのだ。中心で二人きりで踊る国王と王妃は、揃いのシルバーの衣装だった。キラキラとシャンデリアの灯りがそれに反射して輝いている。まるで一枚の絵画のようだ。
曲が止み、二人は一礼すると席へと戻っていった。しばらくして、次の曲が演奏される。アリアンヌもマリユスのエスコートで中心へと歩を進めた。
「体を預けて」
マリユスはアリアンヌの耳元で囁く。色っぽいその声音に憧れて、アリアンヌもマリユスの耳元でそっと囁いた。
「ええ、お兄様」
マリユスはまだまだだなと笑って、ステップを踏み出した。くるくると回る体と、ひらひらと揺れるドレス。マリユスに注がれる令嬢達の視線が刺さる。マリユスはこれでも女性から人気があるのだ。
「お兄様、見られていますわよ」
「何を。……見られてるのは、そっちだろう」
アリアンヌがほんの少しだけ顔を顰めて言うと、マリユスは言い返した。兄弟なだけあって、マリユスとはアリアンヌもとても踊りやすい。昨年一緒に社交シーズンを乗り切っただけある、と言うべきか。踊っていると、視界にアンベールとリゼットの姿が入った。アリアンヌがマリユスに伝える。
「アンベールお兄様だわ」
マリユスはくるくると回りながらその姿を視界に入れた。
「うわ……こっちが当てられる。幸せそうな顔しやがって」
「マリユスお兄様も負けていられませんわ」
顔を顰めたマリユスに、アリアンヌが朗らかに笑う。ダンスは楽しくて、アンベールも幸せそうで、アリアンヌは嬉しかった。
「そう言えば……お父様はどうしていらっしゃるのかしら」
アリアンヌの質問にマリユスは難しい顔をする。
「またどこかの未亡人のエスコートでも引き受けてるんだろ。知らねーよ。もう」
レイモンは妻のレティシアを亡くしてから、社交界に同じ女性を二度続けて連れてきたことがなかった。毎度、違う女性──それも未亡人や独身の中年女性──をエスコートしているのだ。アリアンヌはレティシアに永遠の愛を注いだからだと期待しているのだが、潔癖なところのあるマリユスには許せないことらしい。
「ふふ、お兄様。せっかくの素敵なお顔が台無しですわよ。笑っていれば女性の方からアプローチしてくれるでしょうに」
「それが嫌なんだよ。きゃいきゃい言って、面倒じゃねーか」
アリアンヌはそう言うマリユスに苦笑を返す。次男だからとアンベールのように婚約者を決められていない分、マリユスは女性という敵と戦っているのを知っていた。
音楽が終わり、アリアンヌはマリユスと共に端へと戻ろうとした。途中声を掛けてきた男性が、マリユスにアリアンヌとのダンスの許しを求めた。マリユスは相手が既婚の中年男性だと確認すると、アリアンヌに声を掛けた。
「だとさ、アリアンヌ」
「はい、お受けします。侯爵様」
アリアンヌはにっこりと笑顔をつくり、侯爵の手を取った。マリユスはパブリックスクールの頃の友人に声を掛けられ、そのまま男性の集まりに紛れた。
それから三曲ほど誘われるままに立て続けに踊り、少し疲れたアリアンヌは、壁の花となるべく大広間の端へ寄った。ダンスは楽しいが、踊り続けるのはなかなかに疲れる。給仕から受け取った果実水を飲み、上がった体温を沈めようとした。
ダンスホールには、多くの人々がダンスに興じている。流石社交シーズンの始まりを告げる王城の舞踏会だ。アリアンヌは、きっと友人のフェリシテもいるはずだと見渡したが、人が多く、見つけることはできなさそうだった。
「──あら、アリアンヌ様」
声を掛けられ視線を向けた先にいたのは、初対面の女性とその取り巻きの令嬢達であるようだった。アリアンヌは怪訝に思い、口を開く。
「はじめまして──ですわよね。私、シャリエ伯爵家の娘、アリアンヌと申しますわ」
カーテシーで挨拶をしたアリアンヌに、その女性は硬い声で挨拶をした。
「私はトレスプーシュ侯爵家の娘、ポレットですわ」
「ポレット様、どのような御用でしょうか」
アリアンヌは周囲の令嬢達からの不穏げな空気に眉を寄せた。舞踏会も開始から三十分以上が経ち、端にも多くの人がいる。それでも視界に兄達の姿はなく、旧知の友人達も見当たらなかった。この様な場で、揉め事に好んで首を突っ込む勇者もいるはずがない。名乗った名前からして、彼女は侯爵令嬢なのだ。
「貴女、マリユス様のパートナーとしてご入場されてましたわよね。……いつまでお兄様と一緒にいらっしゃるつもり?見苦しいわ」
蔑む目で睨んでくるポレットとその取り巻きの令嬢達は、アリアンヌを壁へと追い詰めていた。