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リゼットお姉様

舞踏会は陽が沈むと始まる。アリアンヌはそれに間に合うよう、早めに軽食を取り、ナタリー達の手によって身支度を整えた。

淡い緑色のドレスはウエストで切り替えられ、腰に薄いピンクの大きなリボンをあしらっている。スカート部分は薄いシフォン生地が花弁のように重ねられ、パニエでふわりと広がっており、動く度にひらひらと動いた。胸元にはリボンと同色の薔薇の花のコサージュを着けている。ネックレスには中心に大きなエメラルドが使われ、小粒のピンクサファイアがそれを囲んでいる意匠のものだ。同じ仕立ての髪飾りを、一部を編み込みハーフアップにした亜麻色の髪に飾った。自然なウェーブを描く長い髪には、薔薇の香油がつけられている。化粧を施されいつもより紅の差した整った顔は、華奢な肢体と相まって、少女から大人になる間の危うい美しさがあった。


「かんっぺきですわ!アリアンヌ様、とても美しいですわ。まるで、おとぎ話の森の妖精のよう……!」


恍惚とした表情でアリアンヌを見つめるナタリーは、頬を紅潮させ、自らの仕事を賞賛している。


「ナタリーの腕ですわ。……マリユスお兄様、まだかしら?」


今アリアンヌは、自室でマリユスの迎えを待っていた。アンベールはリゼットを迎えに行き、そのまま王城へと向かうらしい。その時、部屋の扉がノックされた。


「アリアンヌ、待たせた。準備はどうだ?」


「平気です、今参りますわ」


アリアンヌはナタリーからショールを受け取り肩に掛けた。扉を開けると、マリユスにカーテシーをする。


「マリユスお兄様、本日はよろしくお願いします。できれば、なるべく早くご自身のエスコートすべきご令嬢を見つけて頂きたく存じますわ」


目線を上げたアリアンヌは、渋い顔でアリアンヌを見るマリユスに苦笑した。マリユスはグレーの夜会服で、ポケットチーフをアリアンヌのドレスと同じ薄い緑色にしている。


「余計なお世話だ。アリアンヌ……ええと、あの……だな。綺麗だ!……よく似合ってる」


最後の方は消えるように声が小さくなっていったが、アリアンヌを褒めたマリユスに驚いた。


「まあ!お兄様、ありがとうございますわ!」


「ほら……いくぞ」


アリアンヌは頬を染め喜び、マリユスの左手に自らの右手を乗せた。





王城の大広間は、華やかなシャンデリアで煌々と照らされており、華やかに装った貴族達が舞踏会の開始を待っている。コールマンに呼ばれ、マリユスのエスコートで大広間へと入ったアリアンヌは、一年振りに見るその光景に圧倒された。


「……アリアンヌ、大丈夫か」


「ええ、大丈夫です。ごめんなさいお兄様、ちょっと圧倒されましたわ」


アリアンヌの返事に頷いたマリユスは、まず王族が座っている奥の席に挨拶するべく足を向けた。王族席では、国王であるラインハルトが妃と先代王妃とともに並ぶ貴族の挨拶を受けている。アリアンヌ達もそれに並んだ。マリユスが意地悪な笑顔でアリアンヌに話しかける。


「アリアンヌ、社交シーズン二年目だ。緊張するか?」


アリアンヌは強気な笑みでそれに答えた。


「いいえ、お兄様。昨年のデビュタント程ではございませんわ」


マリユスは笑い、そうかと小さく言うと、目線を前に向けた。アリアンヌ達の番は次らしい。アリアンヌは片膝をついて礼をとるマリユスの横で、カーテシーをした。マリユスの挨拶を聞きながら、そっと王であるラインハルトを見た。金の髪にサファイアブルーの瞳の美丈夫だ。前王の側妃との間に生まれた前王の長男で、病のために退位した前王に代わって即位したらしい。まだ二十七歳だというその顔には、年相応ではない深い表情が浮かんでいた。


挨拶を終え大広間の端へと移動したアリアンヌとマリユスは、共に小さく溜息をついた。


「とりあえず挨拶は終わったな。ダンスが始まったら一曲は踊ってくれるだろう?」


「ええ、当然ですわ」


「途中で友人と挨拶に回るが、アリアンヌはどうする」


「私も友人を見つけて過ごしますわ」


マリユスは近くにいた給仕から果実水と葡萄酒を受け取り、アリアンヌに果実水を渡した。どこか心配そうなマリユスに、アリアンヌは笑って果実水を口にする。


「何かあったら、俺か兄上のところへ。無理に口説かれてもだ。……悪い虫でも付けたら、俺が父上にどやされる」


「わかりましたわ。……私に虫が付いて、一番困るのはお父様ですものね」


寂しそうに微笑んだアリアンヌに、マリユスは慌てる。アリアンヌは、自分に虫が付いたら政略結婚の障りになると知っていた。しかし、マリユスはアリアンヌの予想の斜め上の返答をした。


「母上に生き写しのアリアンヌに悪い虫でも付いてみろ。父上は本気で怒るだろうな、間違いない。アリアンヌが社交界デビューしてもまだ婚約者を作らないのだって、あれは手元に置きたいからだろ?嫁ぎ遅れたらどうするんだか」


「お兄様?!何を──」


驚いたアリアンヌが言い返そうとしたとき、背後から声を掛けられた。


「マリユス、アリアンヌ。ここにいたのか」


「お兄様っ!」


アンベールがリゼットをエスコートしていた。リゼットは深紅のドレスに身を包み、嫋やかに微笑んだ。まっすぐな金髪は軽く結われサイドに流されており、紅茶色の瞳が艶やかだ。


「アリーちゃん、久しぶり」


「リゼットお姉様!お久しぶりですわ、お会いできて嬉しいです!」


アリアンヌはアンベールからすぐにリゼットに視線を移すと、瞳を潤ませてリゼットに近付いた。リゼットはアリアンヌにとって、最も身近な年上の女性で、憧れでもある。リゼットはアリアンヌを見つめて暖かく笑った。


「私も嬉しいわ。アリーちゃん、今日はとっても可愛い。まるで妖精さんみたいよ」


「そんなことないです。お姉様こそ、相変わらずお美しいですわ。私、羨ましくて……」


リゼットは出るところは出ている、大人の女性らしい体型だ。全体的に華奢なアリアンヌはそれが羨ましかった。


「アリーちゃんにはアリーちゃんの可愛らしさがあるのよ。華奢で儚げで、連れて帰って閉じ込めちゃいたい」


「お姉様……」


リゼットの言葉にアリアンヌは顔を赤くし、両手を頬に当てた。


「リゼット、アリアンヌを揶揄わないでやってくれよ。……余計に男っ気がなくなってしまう」


「まあ、アンベール様。それは私のせいではありませんわ。会場の独身男性の殆どがアリーちゃんを見ているのに、寄せ付けさせないようにしているのは誰かしら?」


リゼットの的確な指摘に、アンベールとマリユスは視線を逸らし、手元の葡萄酒を一口飲んだ。


社交シーズンの始まりを告げる王城の舞踏会です。

舞踏会で何が起こるのか、次回をお待ちください!

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