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二度目の恋1

アリアンヌは、リヒャルトの迎えが来たと聞いて、ドレスの裾を整えて部屋を出た。優雅に見えるように気を付けてサロンに降りると、リヒャルトがアリアンヌに微笑みを向ける。


「今日はありがとうございます、アルト様」


アリアンヌは優雅にカーテシーをする。リヒャルトは一歩アリアンヌに近付き、左手を差し出した。リヒャルトの悪戯な笑顔に、アリアンヌの心は少し軽くなる。


「いや──私を選んでくれてありがとう、美しいお姫様。どうぞ、夜会へ参りましょう」


レイモン達は皆、エスコートを約束している女性の元へ出掛けている。最後に残っていたアリアンヌは、リヒャルトには芝居掛かった仕草が似合うなと思いながら、自らの右手を重ねた。





王城の大広間は、華やかなシャンデリアで煌々と照らされており、華やかに装った貴族達が夜会の開始を待っている。リヒャルトのエスコートでアリアンヌは大広間へと入った。

アリアンヌは、記憶を無くしてから今日が初めての社交の場だ。この場にいる人々は、アリアンヌの無くした記憶を知っているのだと思うと緊張する。アリアンヌの僅かに震えていた手が、エスコートするリヒャルトによって優しく握られた。


「大丈夫。ちゃんと守るから、私から離れないで」


「──ありがとうございます」


強張っていた表情が、自然と微笑みの形になる。リヒャルトはアリアンヌの笑顔に、同じように笑顔を返した。


アリアンヌとリヒャルトは、まずは王族が座っている奥の席へと、挨拶するべく足を向けた。今日もまた参加者が多い。王族席では、ラインハルトが妃と先代王妃ツェツィーリエとともに、並ぶ貴族の挨拶を順に受けているのが常だった。しかし少しずつ列が進み、今日は違っていることがアリアンヌにも確認できる。


「あら、お二人……だけ?」


そこにいたのは、ラインハルトと王妃だけだった。先代王妃である王太后ツェツィーリエはいない。リヒャルトはアリアンヌの言葉に一瞬表情を固くしたが、すぐにそれを微笑みに変えた。


「ああ。王太后は、先代王の療養に同行することになったんだよ」


「……そうでしたの」


リヒャルトの言葉には含みがあったが、アリアンヌは深く考えるのを止めた。最初から体調を悪くするのは避けたい。

少しして、アリアンヌ達の番が回ってくる。アリアンヌはリヒャルトのエスコートで、王族席の前へと進んだ。リヒャルトは王族に対する礼をとる。アリアンヌもリヒャルトに従い、深くカーテシーをした。


「ああ、リヒャルト。今日はアリアンヌ嬢と来たんだな」


リヒャルトに気軽に挨拶をするラインハルトに、アリアンヌは二人が兄弟であったことを改めて意識した。


「ああ。彼女はまだ本調子ではないが、共に来てくれると言ってくれたからね」


暗に深く聞くなと釘を刺すリヒャルトに、ラインハルトは笑みを深めた。


「……アリアンヌ嬢、体調を崩していたと聞いている、無理はしなくて良い。今日は春の訪れを祝っていってくれ」


アリアンヌは、これまでラインハルトからこんなに気軽に声を掛けられたことは無かった筈だと思った。リヒャルトから話を聞いているのだろうかと考える。畏れ多くも直接掛けられた配慮の言葉に、アリアンヌは頭を下げた。


「陛下、お気遣い頂きありがとうございます。……彼には迷惑を掛けてしまっておりますが、こうして春の訪れを共に祝えること、嬉しく思います」


リヒャルトを何と呼ぶか悩んだアリアンヌは、無難な呼び方を選ぶ。アリアンヌが横目でリヒャルトの表情を窺うと、リヒャルトは困ったようにラインハルトを見ていた。


「大丈夫だよ、リヒャルト。──二人共、今日は楽しんでくれ」


ラインハルトは溜息混じりにそう言って、アリアンヌとリヒャルトを解放した。リヒャルトは、アリアンヌを連れて人混みを避けるように会場の端へと寄った。


「大丈夫?まだどこも辛いところはない?」


瞳に心配の色を浮かべたリヒャルトが、アリアンヌの顔を覗き込むように見る。アリアンヌは、不意に近付いたリヒャルトの精緻な美貌に思わず身体を引いた。赤銅色の髪と、エメラルドの緑を湛える瞳。今のアリアンヌにはまだ見慣れないそれに、鼓動が高鳴るのが分かる。


「あ……だ、大丈夫ですわ。お気遣いありがとうございます」


「いや、……すまない。近かったな」


リヒャルトはアリアンヌから視線を外した。気まずさを誤魔化すように近くにいる給仕からグラスを受け取り、一つをアリアンヌに渡す。


「弱い酒だから安心して。今日は乾杯までが長いから、先に少し飲んでおくと良いよ」


リヒャルトの勧めで、アリアンヌはグラスを傾けた。甘い苺の香りがアリアンヌの不安を取り払っていくようだ。頬を緩ませたアリアンヌに、リヒャルトは柔らかく微笑んだ。


「──ですが、乾杯までが長いとは、どういうことですの?」


アリアンヌが首を傾げると、リヒャルトが王族席の方へと視線を向けた。ちょうど貴族達の挨拶が終わったのか、いつの間にか列は無くなっている。いつもならすぐにも夜会の開始の合図の鐘が鳴るのに、今日はまだ鳴っていない。代わりにラインハルトが立ち上がり、口を開いた。

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