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シャリエ家の朝

日常回です!

窓から差し込む朝日が、アリアンヌに朝を告げている。寝台の中で目を開けると、控え目に部屋を暖めている暖炉のパチパチという音がした。


「アリアンヌ様、おはようございます!朝でございます」


洗顔用の盥を持っているニナが、天蓋の外から声を掛ける。アリアンヌは布団の温もりから身を起こした。


「おはよう。今朝はニナなのね」


「はいっ!」


シャリエ伯爵家では、レイモン以外の家人の目覚め係は新人が交代で担当している。研修の意味があるらしい。天蓋がかき分けられ、そこからグラスに入った水が渡された。


「ありがとう、ニナ。──今日は、お父様とお兄様達は?」


「旦那様は午後から王城へ行かれるそうですが、アンベール様とマリユス様はお聞きしておりません」


「そう。起きるわ」


アリアンヌは差し出されるがままに朝の支度を進めていく。今朝ナタリーが選んだ服は、清楚な令嬢らしく紺色のベロアの長袖ワンピースだ。深紅のリボンで背中から腰までを結っており、ちょうど腰のところで結ぶことになる。スカート部分はペチコートで緩く形作るものだ。


「いかがですか」


「ええ。それでお願い」


そのレイモンと兄達を意識したデザインに嘆息したアリアンヌに、ナタリーは苦笑で返す。ニナはまだ複雑な衣装を一人で着せることはできないため、ナタリーの補助をしながら勉強中だ。アリアンヌを着替えさせながら、ナタリーは口を開く。


「今日は、午前中に明日のドレスの最終調整を、午後からは準備としてエステとマッサージをさせて頂きます。夕食は少し早まりますので、湯浴みに少々多く時間を頂きたいのですが……」


ちらっと表情を窺うナタリーにアリアンヌは笑って頷いた。


「明日の夜が舞踏会だから、今日と明日は仕方ないわ。よろしくね」


「はい!勿論でございますわ!」


それからアリアンヌは、化粧台で軽く化粧を施され、ハーフアップに纏めた髪をドレスと揃いの赤いリボンで結び、普段使い用の小振りのルビーのネックレスを着けた。


「ナタリー。少し久しぶりとはいえ、気合い入り過ぎじゃないかしら……?」


アリアンヌの言葉に、ナタリーは満面の笑みで返す。


「いいえ、そんなことございません。アリアンヌ様はお可愛らしいのですから、もっと磨いて着飾るべきですわ!」


ナタリーはアリアンヌが大好きだ。精巧な人形のような美しさを持つアリアンヌを、飾ることも磨くことも、共に育った中で最も好きなことの一つだった。


「そ、そう……ありがとう」





朝食のために食堂へ行くと、レイモンはおらず、アンベールが新聞を読みながらマリユスと会話をしていた。


「おはようございます、お兄様」


「おはよう、アリアンヌ。今日も可愛いね」


「おはよう。女は朝から大変だな」


顔を上げ笑顔で返したアンベールと、表情を変えずに目線だけを寄越したマリユスは、それでもアリアンヌに席を示した。アリアンヌはそのいつもの席に座る。

今日の朝食は白パンとサラダとベーコンエッグとスープだった。運ばれてきた食事を食べつつ、口を開いた。


「お兄様方は、今日はどうなさいますの?」


「私はリゼット嬢のご機嫌伺いに行ってくるよ」


リゼットは、アンベールの婚約者である。オラール侯爵家の三女で、女性らしい丸みのある体型の柔らかい雰囲気の美人だ。

隣の領地で父同士が旧知の仲であったために、よくそれぞれの領地で会っていた幼馴染の関係だ。アリアンヌにとっても姉のように親しみ深い。


「まぁ!リゼットお姉様のところへ?私もお会いしたいわ」


「明日の舞踏会で会えるだろう?」


ぱっと顔を輝かせたアリアンヌに、アンベールは甘い笑みで返す。


「そうですわね。……マリユスお兄様は?」


「あいにく俺は会いに行く彼女も婚約者も居ないんだ。今日は午後から父上が王城へ行くようだから、一緒に行って手伝いと勉強かな。アリアンヌは明日のために磨かれてろよー?」


今回アリアンヌをエスコートするのもマリユスだ。


「余計なお世話ですわ!では着飾りますので、たまにはアンベールお兄様のように褒めてくださいませっ」


マリユスは顔を顰め、手を扇ぐように振った。


「俺にそんなこと、できるわけないだろーが。そんなこと期待すんな」


勉強熱心なマリユスは今十八歳だ。三年前に社交界デビューをしてから、先に社交界で人気のあったアンベールと共に、女性達に人気である。アリアンヌと同色の亜麻色の髪とレイモン譲りの赤褐色の瞳は、その凛々しい姿をより魅力的なものにしていた。アンベールと違い女性に甘い言葉を使わない点すら、ただ女性が苦手なだけなのに、硬派だと言われ持て囃されている。


「諦めておりますわ」


嘆息したアリアンヌに、アンベールが笑った。


「まあ、それがマリユスの良いところでもあるからね。アリアンヌ、お手柔らかに頼むよ」


「茶化すなよ、兄上!」


「勿論ですわ。私も、お兄様に負けないように綺麗にして行かなければなりませんわね」


マリユスが不満げにアンベールに言い返し、アリアンヌも笑う。アンベールは読み終えた新聞をテーブルに置き、立ち上がった。


「私はそろそろ行くよ。マリユスも王城に行くなら、私は新聞読み終わったから、部屋に持って行って構わないよ」


「ありがとう、兄上」


「アリアンヌも、明日の舞踏会でリゼットに会うのを楽しみに、今日は準備をしっかりしてるんだよ」


「ありがとうございます、お兄様。行ってらっしゃいませ」


マリユスも新聞を手に席を立つ。アリアンヌは残りの食事を終えると、自室に戻った。ナタリーがきっと首を長くして待っていることだろう。

準備は面倒だし、社交界も得意ではなかったが、アリアンヌも年頃の女性らしく可愛く着飾ることは好きだった。気持ちを切り替え、今日と明日を過ごそうと前を向いた。

次回舞踏会に向かいます。

よろしくお願いします!

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