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アリアンヌの目覚め

それからどれくらい経っただろう。リヒャルトは扉を叩く音で目が覚めた。本を読んだまま、気付けば少し眠っていたようだ。叩かれ続ける扉に、立ち上がり内鍵を開ける。そこにいたのはウーヴェだった。


「ウーヴェ、一応、ここは王族しか入れないという建前があるんだが……」


リヒャルトが言うと、ウーヴェは珍しく顔を歪めた。


「主、自分がどのくらいここにいたか分かってます?丸一日ですよ、丸一日。執事が、主がいないって真っ青になってましたけど」


リヒャルトは、夜会の後、王城に行くと連絡して以来、モーリスに何も言っていなかったことに思い至る。モーリスに申し訳なく思い、額に手を当てて嘆息した。


「──ああ、悪いな。アリアンヌは……」


「まだ寝てます。アリアンヌ様より、主の方が青い顔してます。もう深夜ですが、これを」


ウーヴェがリヒャルトに差し出したのは、カゴに入ったパンと葡萄酒だ。リヒャルトは驚きつつもそれを受け取った。


「主がいなくなったら、アリアンヌ様も悲しむ。気を付けてください」


リヒャルトは本を退かして机の上にカゴを置くと、パンを葡萄酒で流し込んだ。少し血色が戻ったリヒャルトに、ウーヴェは内心で安堵する。


「ありがとう、ウーヴェ。今日は素直だな」


「傷口に塩を塗り込む趣味はないです」


リヒャルトはウーヴェの軽口に苦笑すると、すぐに切り替えて表情を引き締めた。


「──ウーヴェ、中に入って鍵を閉めろ。頼みがある」


「はい。俺にできることなら何なりと。呪いが出てくるお伽話は、めでたしめでたしが定石だ。オウジサマとオヒメサマの幸せの為に、一肌脱ぎますか」


ウーヴェは扉に鍵を掛け、リヒャルトの横に立つと、漆黒の瞳を細めて笑った。リヒャルトがウーヴェの笑顔を見たのは、これが初めてだった。





アリアンヌが目覚めたのは、更に翌日の昼頃だった。ぼんやりとした視界に、陽の光が刺さる。アリアンヌはナタリーに時間を聞こうとして、乾いた喉に咳き込んだ。


「──アリアンヌ様!お目覚めですか!?」


天蓋越しにナタリーの慌てた声がする。アリアンヌは、返事をしようとして更に咳をした。差し出されたコップに入った水を、少しずつ飲む。やっと呼吸が楽になり、アリアンヌは安堵した。


「ナタリー、今は何時なの。……私、寝過ぎてしまったのかしら?」


ゆっくりと上半身を起こし、アリアンヌはナタリーに問う。ナタリーはアリアンヌの背にクッションを重ね、背凭れにした。アリアンヌから空になったコップを受け取ると、安堵の溜息を吐く。


「アリアンヌ様、今日は夜会から二日後の昼でございます」


「まあ!私、どうしたのかしら……?」


アリアンヌは、夜会に行ったことを思い出す。夜会に行って、倒れて意識を失って──それ以降の記憶がない。まさか、ずっと寝ていたと言うのか。


「ごめんなさい。心配掛けたわね、ナタリー。ニナはどうしている?」


「ニナは今、昼休憩です。ああ、でも早く教えてあげないと!アリアンヌ様、お腹は空いていませんか?」


「……そうね。そう言われると、空いている気がするわ」


「では、少々お待ちくださいませ」


ナタリーはアリアンヌの寝室を出て、そこにいる護衛の男にニナへの伝言を頼んだ。アリアンヌが目覚めたことと、食べやすい物を持ってくるようにと。そして、王城で仕事をしているレイモンへの伝言も忘れない。護衛はナタリーの話にぱっと表情を明るくすると、すぐに早足でその場を離れていった。ナタリーはアリアンヌの元へ戻る。


「すぐに食事を持ってニナが参りますわ」


ナタリーは心から嬉しそうに微笑む。アリアンヌはまだしっかとしない意識の中、皆に心配を掛けてしまったことを案じていた。



「──アリアンヌ様!」


ノックから間もなく開けられた扉から、ニナが飛び込むような勢いで入ってくる。アリアンヌは今にも泣き出してしまいそうなニナの腕を、優しく摩った。


「ごめんなさいね、ニナ。……心配を掛けてしまったわね」


「いえ、いいえ。──本当に……申し訳、ございませんでした。よかっ、良かったです……!」


ニナは話しながらも涙を溢し、しゃくり上げている。ナタリーが呆れて苦笑した。アリアンヌもまた、子供のような泣き方に思わず微笑む。


「アリアンヌ様、ニナがスープを持ってきましたわ。すぐに医師が参ります。こちらをお召し上がりになって、それまでもう少しお休みになってくださいませ」


ナタリーに渡されたスープを一口飲むと、長く眠っていたらしい身体に血が巡っていくように感じる。アリアンヌがほっとして息を吐くと、ナタリーとニナは嬉しそうに笑った。



「アリーちゃん、目が覚めたの?」


空になった器をナタリーに渡し、少し休もうとしたアリアンヌを訪ねてきたのは、アンベールとリゼットだった。


「リゼットお姉様、アンベールお兄様。ご心配をお掛けしました」


アリアンヌはベッドの上で小さく頭を下げる。リゼットはアリアンヌの横に歩いてくると、その手をがしっと力一杯握った。


「アリーちゃんは馬鹿よ。本当に心配したわ……!何ともないの?痛いところとか変なこととかない?」


瞳を潤ませたリゼットに、アリアンヌは眉を下げる。アンベールがリゼットの肩を軽く叩いた。アンベールも珍しくすっかり緩んだ表情でアリアンヌを見ている。


「アリアンヌ、体調はどうかな?」


「特に問題はないようなのですが……何でこんなに長く眠ってしまっていたのかしら?」


アリアンヌは首を傾げる。アンベールが口を開きかけたその時、レイモンとマリユスの帰宅が告げられた。

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