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伯爵令嬢の華麗なる暇潰し  作者: 水野沙彰
本編 第四章
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王城の禁書庫へ

リヒャルトは王城に着くと、すぐに自らの執務室で夜会服から着替えた。僅かの間逡巡し、ラインハルトの執務室へと向かう。ウーヴェが指示通り動いていれば、ラインハルトはまだ起きているはずだ。扉の前に立つ近衛騎士は、リヒャルトの姿を見ると驚いてすぐに室内へと通してくれた。


「ラインハルト、夜分に申し訳なかった」


リヒャルトが頭を下げると、ラインハルトは首を左右に振り、否定の意を示した。もう日付が変わろうとしている時間だが、ラインハルトにもまだ眠ろうという意思は見えない。


「いや、構わない。リヒャルトの遣いが来て大急ぎで調べたら、王太后の部屋からこれらが見つかった」


ラインハルトが示したテーブルの上には、いくつかの物が置いてあった。キャンドル、破れたノート、インク壺、何かの動物の爪、ガラス瓶等、今のリヒャルトには何に使う物なのか分からない。それらの横には、イーゼルに立て掛けられた小振りな絵画に、布が掛けられている。


「その絵は、王太后の部屋から見つかったんだ。──見てみると良い」


リヒャルトは布を取り払い、額の中の絵を見て息を飲む。それは肖像画だった。リヒャルトの知るアリアンヌと良く似た姿が、精緻に描かれている。名のある画家による作品だろうか。柔らかく微笑む表情は、アリアンヌのものと同じだ。しかし、その絵は所々の絵具が乾き、劣化していた。


「これは……」


「アリアンヌ嬢に見えるが、随分と古い絵のようだよ。呪いと関係があるかは分からないが、部屋の隅に隠すように置かれていたから気になって持って来たんだ。……そもそも今の時代に呪いの存在を知っている人間など、一部の研究者を除いていない筈だ。私だって、リヒャルトに聞かなければ信じなかったよ。やっと尻尾を出したと思えば、呪いとは──公にできない以上、法で裁くこともできないな」


ラインハルトは嘆息した。リヒャルトもまた眉間に皺を寄せる。


「──今、王太后はどうしている?」


「部屋に監視を付けている。侍女も外したから、何もできないだろう。……会っていくか?」


「いや、会ったところで何も得られないことは分かっているよ」


「リヒャルト、お前──」


何の感情も浮かべないままそう言ったリヒャルトに、ラインハルトは表情を歪めた。リヒャルトはどこか寂しそうな声音で呟く。


「……もう良いんだ、ラインハルト」


ラインハルトはリヒャルトを直視できずに俯いた。五年前から失い続けたものは、未だリヒャルトに傷として残っている。それを癒していたはずのアリアンヌの無事は、まだ分からないのだ。



「アリアンヌ嬢はどうしているんだ?」


「家で眠っているよ。目が覚めたら連絡をもらえるように頼んでいる。呪いの内容もまだ分からないな。──ラインハルト、聞きたいんだが」


「何かな?」


「禁書庫の立ち入りは王族にしか認められていないだろう。私は今は公爵だが、入っても構わないだろうか?」


真面目な表情で聞くリヒャルトに、ラインハルトは苦笑した。


「臣籍降下した王族についての規定はなかったと思うが、そもそもリヒャルトは、第二王子を名乗っている間に何度も入っているし、まだ鍵を持っているだろう。今更入るなとは、言うつもりはないよ。だが何か言われたときの為に、一筆書いておこう」


ラインハルトはその場でガラスペンにインクを付け、禁書庫に入る許可を与える旨を紙に書く。リヒャルトはそれを受け取り、ポケットにしまった。


「ありがとう、助かる」


「──無理はするなよ」


「ああ、善処する。これだけ持って行かせてくれ」


「呪いじゃ証拠品にもならないし、構わないよ。気をつけて」


リヒャルトはやっと少し微笑むと、肖像画だけを持って執務室を出て行った。ラインハルトは気を取り直し、今回の事件について、リヒャルトの指示でウーヴェから受けた報告を見直した。





禁書庫は、王城の最奥にある王族の生活区域への通路のすぐ手前にある。手前の廊下で警備をしていた兵士にラインハルトに貰った書状を見せ、壁にある隠し通路を抜け、細い階段で地下に下りる。そこにある入口の鍵は、王族のみが所持していた。リヒャルトは、臣下に下ったときにラインハルトに鍵を回収されなかった為に、今でも鍵を持っている。鍵を開けて中に入ると、古い紙の臭いが鼻についた。持ってきた肖像画を壁に立て掛ける。明かりを灯し、壁に埋め込まれた本棚の背表紙を確認した。


「呪いについては読んだことがないから──この辺りか」


呟きながら向かった先の棚は、考古の分類の中でも、眉唾なものが集められているところだった。他の棚よりも埃が積もっていないようで、誰かが継続的に動かしていたことがわかる。リヒャルトは呪いについてはほとんど知識がない。アリアンヌが目覚める前に、最低限の知識と、可能なら使われたであろう道具から呪いの種類を推測したかった。それはアリアンヌの為でもあり、リヒャルトの為でもある。何もせずにいては、不安でおかしくなってしまいそうだった。

リヒャルトは本棚から何冊かの本を取り出すと、部屋に置いてある机にそれを積み上げる。椅子に座り、持ってきたランプの灯りをつけると、リヒャルトは紙を傷めないよう注意して表紙をめくった。

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