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伯爵令嬢の華麗なる暇潰し  作者: 水野沙彰
本編 第四章
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それぞれの後悔

意識の戻らないままのアリアンヌは、ナタリーを含む侍女達の手によって着替えさせられ、シャリエ伯爵邸の私室のベッドに寝かされた。規則的な深い呼吸は睡眠時のものなのに、身体を動かしても着替えさせても反応がない。

あの後、報告を受けたラインハルトが遣わした王家の馬車で、リヒャルト達はフーリエ伯爵邸を辞した。シャリエ伯爵邸の応接室には、レイモンを始め、アンベールとリゼット、マリユスとニナ、そしてリヒャルトが揃っていた。


「──本当に申し訳ありません」


リヒャルトはツェツィーリエとの間の出来事を説明し、何度目になるか分からない謝罪の言葉と共に深く頭を下げた。できるなら誰かに罵倒され、責められてしまいたかった。しかし、この場にリヒャルトを糾弾する者は一人もいない。リヒャルトは一人唇を噛んだ。


「いいえ、私のせいです。アリアンヌ様と逸れてしまったから……」


マリユスの隣でニナが薄茶色の瞳からぽろぽろと涙を溢している。リヒャルトとアリアンヌがツェツィーリエと話していた時、ニナはマリユスと共に会場から動けずにいたのだ。会場の明かりは全て消され、扉には鍵が掛けられていたという。サプライズのイベントだと言われ、ダンスの音楽だけが流れる中、まだ会場にいた参加者は足止めをされていた。

ダンスの後、フーリエ伯爵に絡まれたリヒャルトとアリアンヌが、ぎりぎり会場から抜け出せたのだ。しかし、もしも会場に残っていたとしても、暗闇に乗じて連れ出されたていたのだろうとも思う。どちらにしても、きっとニナにはどうしようもなかったのだ。


「……ニナ、貴女は悪くない。自分を責めないで良い」


「そんなこと……っ!」


「そうよ、ニナちゃん。この男は、全部自分のせいにしたいみたいだから。放っておきなさい」


それまで黙っていたリゼットが、冷たく言い捨てるように言う。ニナはその言葉の鋭さに息を飲んだ。マリユスはニナにハンカチを差し出す。ニナはそれを受け取り、流れていく涙を拭った。リヒャルトはリゼットにそこまで言わせた自分が、情け無くて仕方がなかった。レイモンは深く嘆息する。


「──呪いだと言ったか。にわかには信じられないが……実際、医師の診察では外傷はなく、身体にも問題はないのだ」


ラインハルトの気遣いで、王城に常駐している医師が派遣されており、アリアンヌは診察を受けていた。レイモンは眉間に皺を寄せながら、淡々と話を続ける。


「リヒャルト殿の見立てでは、アリアンヌは問題なく目覚めるだろうとのことだし、先程の話によれば、どのような呪いかは目覚めてみないと分からないだろう。王城の禁書庫か……私はそこに入ることはできないが──」


王城の禁書庫は、王族しか入室ができない場所だ。書籍の持ち出しもしてはいけないことになっているはずだ。


「私が調べてきます。これまで呪いを可能性に入れてこなかったのは、私です。彼女をこのような形で巻き込んでしまいました。……守ると約束していたのに」


「そうだね、君は約束を破ったのだろう。だけど、自らを責める時間があるのなら、解決への道を探すべきだ、リヒャルト君」


あえて厳しく言うアンベールに、リヒャルトははっと顔を上げた。アンベールはこのような状況でも、僅かに微笑んでいるようだ。


「アンベール殿……」


「この場合、悪いのは呪いなんて物騒なものを持ち出した人だね。その場では、それぞれができることをしていたんだから。なら、今できるのは少しでも知識を増やすことと、アリアンヌの目覚めを待つことだ。……まずは、もう休むべきかな。ねえ、父上」


「──そうだな。皆、もう遅い。客室を貸すから、今夜はそこで休んでくれ」


「お気遣いありがとうございます。そうさせて頂きますわ」


リゼットは一礼してその場を辞した。アンベールもすぐそれを追う。


「俺も寝る。……ニナは」


「私は……今夜はアリアンヌ様に付いております。旦那様、お許しを頂けますでしょうか」


「ああ、構わん。無理はしないように」


ニナは足早に出て行き、マリユスは自室へと引き上げていく。レイモンとリヒャルトだけが残された。


「……リヒャルト殿も、良ければ客室をお貸ししますよ」


「いえ、私は帰らせて頂きます。まだすることがありますので、申し訳ありません。……彼女が目覚めたら教えて頂けますか」


リヒャルトはレイモンを真っ直ぐに見つめる。その瞳の色は、先程までと違って見えた。


「分かった、知らせよう」


「では、失礼させて頂きます」


リヒャルトは一礼して、シャリエ伯爵邸を出た。待たせていたロージェル公爵家の馬車に乗ると、大急ぎで王城へと向かう。少しでも早くラインハルトに会う必要があった。


一人応接室に残されたレイモンは、疲れた表情で嘆息し、天井を仰いだ。


「──私のせいだな、これは。最初に断れば良かったものを……」


レイモンがぽつりと呟いた言葉を、部屋の隅にいた執事は聞こえなかったことにした。

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