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波乱の幕開け

ニナをマリユスが迎えにきてしばらくして、リヒャルトもまたアリアンヌを迎えにやってきた。リヒャルトのすっきりとしたシルエットの黒い貴族の夜会服は、事前に伝えていたアリアンヌのドレスと同じ、緑色の小物で揃えられている。


「アリアンヌ、待たせたかな?」


「いいえ、今日はありがとうございます。よろしくお願いしますわ」


アリアンヌはふわりと微笑んだ。今日のアリアンヌのドレスは、あまり目立たないようにとの配慮から、少し控えめだ。緑色のドレスに淡いピンク色の糸で刺繍が入れられているAラインのドレスに、ピンクサファイアの小振りなネックレスとイヤリングを合わせている。緩くウェーブした亜麻色の髪は、ドレスと同じ生地のリボンで部分的に編み込んだハーフアップに纏めた。華美ではないはずだが、それでも目を引いてしまうのはアリアンヌ自身の魅力と、隣に立つリヒャルトのせいでもあるだろう。


「私の瞳の色に合わせてくれたのかな?」


リヒャルトが悪戯な微笑みを浮かべれば、アリアンヌもまたそれに応えようと笑みを深める。


「ええ。私がリヒャルト様のものであると、一目で分かってもらえるでしょう?」


リヒャルトはアリアンヌの言葉に驚き、何度か瞬きをし、気が抜けたように笑い声を上げた。アリアンヌはリヒャルトの無邪気な笑顔に嬉しくなる。


「──そうだな。今日はずっと側にいてくれ」


リヒャルトが差し出した左手に、アリアンヌはいつものように右手を重ねた。エントランスではマリユスとニナが先に待っている。リヒャルトはニナの姿を見て一瞬目を見張ったが、特に何も言わなかった。

アンベールはリゼットの家に、レイモンは何処かの女性の家に、それぞれ迎えに行き、直接フーリエ伯爵邸へと向かうことになっている。リヒャルトとアリアンヌ、そしてマリユスとニナは、シャリエ伯爵家の馬車に四人で乗り、家を出た。





フーリエ伯爵家のタウンハウスには、本当に多くの人が呼ばれていたようだ。子爵、男爵はもちろんのこと、同じ家格である伯爵家の者も多く呼ばれている。事前の情報の通り、派閥を問わず招いているようだが、家格が上の貴族はやはり貴族議会派の者ばかりだ。


「──だから、あまり目立たない方が良さそうだね」


リヒャルトがアリアンヌにそう説明する。アリアンヌは納得して頷いた。


「ニナ達には……」


「マリユス殿がついているから大丈夫だろう。彼もまた、詳しいだろうから」


ニナは久しぶりの夜会に緊張しながらも、アリアンヌが視界に入る距離感を保っている。マリユスが苦笑し、アリアンヌに小さく手を振った。アリアンヌはそれに微笑みで返した。


フーリエ伯爵の息子らしき男の挨拶で始まった夜会は、人が多く、パーティに慣れた使用人も少ないのか、混沌としていると言って良いほどだった。食事は足りていないようだし、ダンスのための音楽もなかなか始まらない。飲み物も間違ってしまっているのか、端に置かれているテーブルの上には、手付かずのグラスがいくつも置かれていた。アリアンヌは、マリユスがニナをフォローし、一生懸命に話しているのを見た。



「──ああ、ここにいたのか」


背後から聞き慣れた声がして、アリアンヌとリヒャルトは振り返った。


「お父様!……これはどういうことなのでしょうか?」


アリアンヌは声を落としてレイモンに問う。リヒャルトは控えめに一礼した。レイモンは眉間に皺を寄せて口を開く。


「見栄を張ったのか、盛大であることに拘ったのか。どちらにせよこれでは、無駄に家の品位を落とすばかりだな。御子息は折角の誕生日だというのに、可哀想なことだ。……私は適当なところで帰るが、二人はどうする?」


リヒャルトは声を低くしてレイモンに頷く。アリアンヌがリヒャルトを見ると、最近では珍しく、その眉間にははっきりと皺が寄っていた。


「私達もそうさせてもらいます。出席したとだけ分かるよう、一曲だけは踊りますが。何かが起きてしまう前に、帰った方が良いでしょう」


「でも、お兄様方はこのことは──?」


「アンベールにはもう話をしたよ。マリユスのところには、これから行くところだ。良いか、くれぐれも気を付けるように」


レイモンはアリアンヌに向かって言うと、すぐに踵を返して言葉通りにマリユスとニナのところへ歩いて行った。


「──夜会を開くって、大変なのですね。私の家ではあまり大きなものは開かないから、なんだか不思議だわ」


アリアンヌはリヒャルトを見上げて言った。リヒャルトはアリアンヌの顔を見て初めて自分が難しい表情をしていたことに気付いたのか、困ったように笑う。


「そうだね。私の家では一度も開いたことがないから、分からないけれど……大変なのは間違いないだろうな」


アリアンヌはリヒャルトの言葉に数回瞬きをした。少し考えれば、リヒャルトは少し前まで声が出ない振りをしていて、厳しい表情ばかりだったというのだから、当然のことだと分かる。アリアンヌは重ねている右手で、リヒャルトの手をぎゅっと握った。


「これから、たくさん賑やかになりますわ。リヒャルト様がもういいって思うくらいにしましょう!」


アリアンヌが自信を滲ませた笑顔でリヒャルトに言うと、リヒャルトは優しく笑って、アリアンヌの手を握り返した。

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