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伯爵令嬢の華麗なる暇潰し  作者: 水野沙彰
本編 第四章
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夜会に備えて

それから数日、ニナはどこか困っているようだった。アリアンヌはあえてニナにもマリユスにも何も聞いていない。ニナには、ニナの返事を尊重するとだけ伝えていた。フーリエ伯爵の夜会は、明後日に迫っている。

そんな時、シャリエ伯爵邸にリヒャルトが訪ねてきた。まだお茶の時間で、いつもはリヒャルトはまだ王城にいるはずである。アリアンヌはぱたぱたとエントランスまで出迎えた。


「──いらっしゃいませ、リヒャルト様」


ふわりと微笑んでカーテシーをすると、リヒャルトはぱっと甘い笑みを浮かべてアリアンヌに挨拶をした。


「アリアンヌ、急に訪ねて申し訳ない。会えて嬉しいよ」


「私も会えて嬉しく思いますわ。今日はどうなさったの?」


おずおずと近付くアリアンヌの髪をリヒャルトは優しく撫でた。表情を引き締め、口を開く。


「今度の夜会の件だ。時間は取れるかな?」


「ええ、もちろんです。ちょうどお茶にしようと思っていましたの。ご一緒して頂けますか?」


「ありがとう。是非そうさせてもらうよ」


アリアンヌはリヒャルトをサロンに案内する。人払いをし、サロンに残ったのはナタリーとニナだけだ。アリアンヌは窓際のティーテーブルを選び、リヒャルトと向かい合うように座った。ナタリーが紅茶と焼き菓子を運んでくる。アリアンヌは一口紅茶を飲み、口を開いた。


「今度のフーリエ伯爵家の夜会……リヒャルト様がエスコートしてくださると伺いました。ご迷惑をお掛けしますわ」


「いや、私がお願いしたことだ。アリアンヌは気にしなくて良いよ。それで、今日はその件について調査が上がってきたから、貴女にも伝えておいた方が良いと思ってね」


「──まぁ!ありがとうございます」


アリアンヌはリヒャルトが話してくれることが嬉しかった。以前よりもアリアンヌを信頼してくれていることの証だ。


「いや──貴女にはいつも苦労を掛けているから。向き合ってくれて感謝しているよ」


リヒャルトは苦笑して、いくらか柔らかい口調で話を続けた。


「フーリエ伯爵だが、彼は奥方を亡くしていて、大規模な夜会を開くのは珍しい事のようだ。表向きは、息子の誕生パーティという名目らしい。今回はシャリエ伯爵殿にも声を掛けているように、随分と幅広く招待しているようだね。派閥に限ってもいないようだ。使用人が足りなくて、期間限定で何人か雇っていると言うから、それだけの人数を呼びたい何かがあるのだろう」


権力を見せつけたいのか、他に理由があるのか──と、リヒャルトは考えながら呟く。アリアンヌは首を傾げた。


「ですが、息子さんのお誕生日なのでしょう?」


「そうだな。だが、だから何もしないとも言えないのが貴族の世界だ。気を付けるに越したことはない。……特に貴女は」


リヒャルトはすうっと目を細めた。エメラルドグリーンの瞳がアリアンヌを射抜くように見る。


「リヒャルト様……?」


「今回、招待を受けているのはシャリエ伯爵家の面々だ。もちろん私が出向くことを予測してはいるだろうが、アリアンヌの方が危険は大きい。本当は夜会なんて行かないでいて欲しいくらいだ」


「そうは参りませんわ。何かが起こると決まった訳ではありませんし、お父様が断れなかった夜会に参加しない訳にはいきませんもの」


それに何かがあるからといって逃げたくはない──という内心をアリアンヌは飲み込んだ。リヒャルトは短く嘆息する。


「ウーヴェに探らせたところ、フーリエ伯爵家では慌ただしく夜会の準備が進められているが、邸内でも数室だけ、警備が厳重な部屋があるらしい。そこはウーヴェでも忍び込めない程だそうだ。フーリエ伯爵にそんな芸当ができるとは思えない。何をしているのか分からないからには、当日は私か家族から離れないように気を付けてくれ」


「──分かりました。リヒャルト様こそ、無理をなさらないでください。今日だって、私を訪ねてくださって……お忙しいのでしょう?」


リヒャルトは普段の仕事以外に、今はアリアンヌとの結婚式の準備にも追われている。ロージェル公爵家でメイドとして短期間とはいえ一部の仕事を手伝ったアリアンヌは、リヒャルトの仕事量も分かっているのだ。睡眠はしっかり取っているのだろうか。アリアンヌは右手でリヒャルトの頬に触れた。


「アリアンヌ……」


「私は大丈夫ですわ。リヒャルト様がいてくださるのなら、怖いことなんてありません」


強がりとはいえ、アリアンヌは勝気な笑みを浮かべた。リヒャルトはそんなアリアンヌの手に自らの左手を重ねる。アリアンヌはリヒャルトの手の温かさに指先を震わせた。


「貴女は大胆なことをする割に初心な反応をするね。そこがまた愛らしいのだが……本当に無理はしないでくれ。困った時は、いつでも言うんだよ」


リヒャルトはそのままアリアンヌの手を取ると、テーブル越しにその指先に唇を寄せた。アリアンヌは頬に集まる熱に、瞳を伏せる。


「はい。──お約束します」


リヒャルトはアリアンヌにとけるような笑顔を向けると、レイモンと話があると言って席を立った。アリアンヌはリヒャルトを見送り、明後日の夜会へと思いを馳せた。

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