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伯爵令嬢の華麗なる暇潰し  作者: 水野沙彰
本編 第一章
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ガラスの蝶

アリアンヌ達がカフェを出るタイミングに合わせ、ナタリーとニナも席を立つ。カフェの出口でアリアンヌはナタリーとニナと合流した。


「アンナ様、大丈夫でしたか!?あの男に何もされてませんか?!」


「ふふ、アンナ様も楽しく過ごせていたらよろしいかと存じますわ」


「ええ、大丈夫よ」


心配するところがずれているニナと、含みのあるナタリー。アリアンヌは会計を済ませ少し遅れて出てきたアルトに向き直り、笑ってそっとアルトの手を引いて歩き始めた。


「アルト様は、露店を見て回ったことはありますか?面白い物が色々とあるようなのですよ!」


「あ、ああ──。あまりゆっくりと回ったことは、ない、かな」


戸惑いつつも答えたアルトの手を引いたまま、アリアンヌは露店のある裏通りへと歩を進めた。ナタリーとニナは驚きを隠せず、後に続きながら思わず声を掛けた。


「アンナ様?!食事の間に何があったのです!」


アンナは足を止め振り返る。アルトから手を離し、ナタリーとニナに向き直った。困惑から同じように眉が下がるナタリーと、怒っているような顔になっているニナに、アリアンヌはシンプルな一言を発する。


「お友達になったのよ。ナタリーとニナもよろしくね」


「ですが――」


目を丸くしたナタリーの否定の言葉を遮ってアリアンヌが口を開いた。


「アルトは『アンナ』の友人になったの。……問題はないでしょう?」


アンナは真面目な顔でナタリーとニナの手を左右の手でそれぞれに取った。分かってほしいと無言のままでもその瞳が告げている。先に折れたのはナタリーだった。アリアンヌの気持ちを理解しているのか、笑顔を作った。


「そうですね。特に問題はないと思いますわ。ね、ニナ」


そう言われてしまうと、ニナは否定できない。


「……はい」


「では、みんなで行きましょう。ニナと行きに見たガラス細工の蝶も気になるわね。まだあるかしら?」


アリアンヌが笑うと、ニナも笑顔になる。露店の並ぶ裏通りに入ったところで、それまで無言で付いてきていたアルトが、アリアンヌに左手を差し出した。


「アンナさんが逸れないように」


アリアンヌは頬を染めて右手を重ねる。アルトの手はアリアンヌの手よりも暖かい。その体温に自分とは違う熱を感じたアリアンヌに、アルトは少し強引に手を引いた。

ナタリーは咄嗟に前に出ようとするニナを手を出して止めた。アリアンヌは全て理解した上でそうしようとしている。そしてそれは、アルトにとってもそうだった。 ナタリーはニナに近寄り、周囲に聞こえない程度の小さな声で告げた。


「良いのよ、ニナ。これはきっと、アンナ様の──いえ、アリアンヌ様のご意思よ」


はっと動きを止めたニナは、ナタリーの真意を測るように目を見つめる。その様子にナタリーは笑った。


「良いじゃない。私達も二人の側に行きましょう。それこそ、逸れて護衛にならない、なんて訳にはいかないわ」


「はい、もちろんです!」


ナタリーは俯いてしまったニナの肩を軽く叩く。ニナは顔を上げ、笑顔で頷いた。





商業地区の裏通りは、大きな店の多い表通りとは違い、露店や異国の物売りが並んでいる。手作りの品や花束、工房のクズ鉱石で作ったアクセサリーなどが並び、大いに賑わっていた。

アリアンヌはひとつひとつの露店で足を止め、時にはそれに見入る。しばらく回っていると、アリアンヌが足を止めてニナを呼んだ。


「ニナ!ここよ、あのお店!」


ニナが顔を輝かせてアリアンヌの横に並ぶ。


「やっぱり素敵ですねぇ」


値段を聞くと、一般的な庶民の安価なアクセサリーよりも少し高いくらいだった。なんでも教会等に納品するステンドグラスを作った余りのガラスを使っているらしく、価格が抑えられているそうだ。

ニナは買える値段であることに喜び、すぐに購入を決め、カラフルなヘアゴムを一点選んだ。それを見ているだけのアリアンヌに、アルトが声をかける。


「アンナさんは買わないの?」


「私はいいわ。滅多に使えないし……」


アリアンヌのアクセサリーは、夜会や屋敷で付けているものを含め、ナタリーの管理だ。そのような場で露店で売っているアクセサリーを着ける訳にもいかない。しかし、お忍びで使うのには少々印象が強すぎる。少し残念に思いつつ、アリアンヌは首を振った。


「そう。……ちなみに、アンナさんはどういうのが好き?」


笑顔で聞かれ、アリアンヌは棚に並べられた蝶を見比べる。白や青だけでなく、実在しない色の蝶も多かった。その中から一点を選んだ。中心から外側に向けて緑から青へとグラデーションになっているヘアピンだ。


「そうね、私ならこれかしら」


「これか。アンナさんの瞳の色に似ているからきっと似合う。でも……、この内側の緑は、私の色だね」


アルトは悪戯な笑みを浮かべてアリアンヌを見た。アリアンヌはその指摘が恥ずかしくて、繋いだままだった手を振り払った。


「──そういう意味じゃ、ないわよ!」


「だけど、ほら。このあたり」


重ねて指差すアルトが今は恨めしい。アリアンヌは自分の瞳の色を選んだだけのつもりだった。しかしアルトの色だと言われると、確かにその通りで、それを嬉しいと思ってしまった自分が余計に恥ずかしかった。


「ほらっ、ニナの買い物も終わったし、早く行きましょう!」


アリアンヌは急いで次の露店へ移動しようと、アルトの服を摘み、引いた。


「いや、ちょっと待って。おじさん!これちょーだい」


「はい、まいど!」


アリアンヌが止める間も無くアルトは店員にお金を渡し、その蝶の髪留めの中からヘアピンを選んで買った。そのまま道の端に移動する。


「なんで買ったの?!」


「アンナさんに似合うと思ったから。友達になった記念にって思って。ナタリーさん。それ、アンナさんに着けてもらえますか?」


受け取ったナタリーは頷き、そっぽを向くアリアンヌに苦笑しつつ、左耳の上に蝶を飾った。ニナもそれを覗き込む。


「可愛いですね、これ。アンナ様、良かったですね」


「あまり使う機会がないわよ。勿体ないじゃないの」


「良いではありませんか。大変お似合いですよ」


「そうですよ!アンナ様、とっても可愛いです!」


ナタリーとニナとアリアンヌの会話に、アルトも加わる。


「そうだよ。良く似合ってる。無理に贈ってしまったけれど、貰ってくれないか?」


眉を下げたアルトに、アリアンヌは拗ねた笑顔を見せた。十六歳という年齢より少し幼い笑い方だが、今日のアリアンヌにはそれも良く似合った。


「ありがとう、アルト様。……大事にするわ」


アルトはアリアンヌのその言葉に、やはり溶けるように笑ったのだった。アリアンヌは恥ずかしさを誤魔化したくて話題を変えた。


「そういえば、貴方の依頼って──」


思い出したように言うアリアンヌに、アルトは苦笑した。陽が傾いてきている。今日はもうしばらくしたら帰宅しなければならないだろう。アルトにも夕刻からは予定があった。


「次はいつ事務所に行けば会えるかな?」


アリアンヌは少し考える素振りをした。明後日は王城の舞踏会なのだ。前日は家にいる必要があり、翌日は貴族の屋敷で行われるお茶会に招待されている。


「四日後。四日後の午後なら、きっといるわ」


「わかった。じゃあ四日後、また事務所に行くよ。後は三人で楽しんで。邪魔して悪かったね」


アリアンヌが止める間もなく、アルトは人混みに紛れていった。

アリアンヌは耳の上のガラスの蝶に指先でそっと触れ、また会う時にも着けようと思った。

会話に違和感のあるところもあると思いますが、後日伏線回収します。


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