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生ける鎧と剣の少女

 武器が・・・意志を持っているのか?


 そう思わずにはいられなかった。











―――私を、止めて。








先程と同じ声が、やはり奴の武器から聞こえてくるようだ。


ということは、もしかしたら、あの武器は、俺と同類なのかもしれない。


 だが、どうやって止めればいい?


 奴の武器と話ができれば、何かいい解決策が出るかもしれないが・・・。


 ん?話が出来る?


 ちょっと待てよ。


 俺とエドが会話出来ているのは、契約をしたからだ。


 だが、その前は?


 確か、エドが俺に触れたから、話が出来たと記憶している。

 ならば、同じことが、あの武器と出来るのではないか?


 となると、俺がどうにかあの武器と接触する必要があるな。


 ならば、奴の武器の攻撃を、この身で受けねばなるまい。

 そのためには、エドにも協力してもらわなければならないな。


《エド、もう一度奴に近付けるか?》


(出来ないわけじゃないけど、あのカマイタチ攻撃を受けきれる自信がないかな・・・)


《大丈夫だ。今度は必ずお前を守ってみせる》


(作戦がある、ってこと?)


《そうだ。ただ、あまり時間は掛けられないが》


(なら、信じるよ。トーヤを。俺はできるだけ早く奴に近付けばいいんだね?)


《ああ。頼んだ、エド!》


(トーヤこそ。頼んだよ、相棒!)


 俺のスキル<一体化>は、誰かを守りたい、との想いが強い俺なら、きっと上手く使える。

 英雄神はそう言っていた。

 なら、その言葉を信じてやろうじゃないか。


 スキル<一体化>。【分割思考】発動。


 向かってくるエドに、リビングアーマーはカマイタチ攻撃を仕掛けてくる。


 俺は一つの思考で、エドの正面と上下からの風の刃を受け止める。

 別の二つの思考で、エドの左右の風と一体化し、それぞれの風の刃を相殺する。

 くっ・・・情報量が多すぎて、頭が焼けるように熱い・・・俺、盾なんだけどな・・・。


(す、凄いよ、トーヤ!)


 カマイタチ攻撃をなんとか切り抜けると、リビングアーマーは既に次の攻撃動作に移っている。


《エド、感心するのはまだ早いぞ!次、斬撃来るぞ!》


【分割思考】を解除し、飛んできた斬撃を正面で防ぐ。


 その間、エドは真っ直ぐにリビングアーマーへと駆けていく。


 奴の武器は・・・狂風属性から風属性へと変化しているようだ。時間が足りないのか、まだ強風属性へは至ってない。


「さぁ来い、鎧野郎!!」


 エドは挑発しながら、リビングアーマーに上段から斬りかかる。

 対するリビングアーマーは、斬り上げでエドの攻撃を防いだ。


 ガキィィィィン、という金属音が周囲に響き渡ると、すぐさまエドは後方へ飛び退く。


 だが、予想していた風の刃は来なかった。


 もしかしたら、風刃のカウンターは、強風属性の状態でないと、起きないのか?

 そんなことを考えていると、代わりにリビングアーマーが踏み込みでエドとの間合いを詰めてきた。


《ここは任せろ!》


俺はエドの前に展開し、奴の剣を受ける。


同時に、スキルを発動。【分割思考】を再度使う。


一つの思考は、衝撃を分散。もう一つの思考は、奴の武器に<一体化>を試みる。













―――私を、止めて。













 ほんの僅かな時間。


 奴の武器の中に、黒い靄のようなものに雁字搦めにされた銀髪の少女が見えた。耳が尖っていたようなので、おそらくエルフ族だろう。


 その少女が、あの言葉を叫んでいたのだ。


《・・・失敗か。まぁ、あの武器が無機物でないのはわかっただけ、よしとするか》


 エドは俺を使って奴の武器を押し退け、その反動でリビングアーマーから少し距離を取っていた。


(トーヤ、何か分かった?)


《ああ。おそらく、奴の武器にはエルフの魂が宿っているようだ。しかも、自分の意思とは関係なく、無理矢理力を引き出されているようだな》


(エルフの?!なるほど、だから風なのか・・・)


《エド、作戦を変更するぞ。奴の武器に構うな。リビングアーマー本体を狙え》


(それって、作戦と言えるかなぁ?それに、奴の本体は鎧だよ?どうやってダメージを与えるんだ?)


《ダメージを与える必要はない。奴の身体の一部に俺が触れられれば、後は俺がスキルでどうにかする》


(まさか・・・リビングアーマーに直接<一体化>を仕掛けるつもりなのか?!)


《よくわかったな。その通りだ。リビングアーマーとはいえ、俺の鑑定では、使用者のいない、さ迷う鎧と出ている。つまり、元々無機物の鎧だ。ならば、目に見えない衝撃とまで一体化出来る俺が、単なる無機物と一体化できない道理はないだろう?》


(それは・・・そうかもしれないけど)


《それにな、勝算もある。仮に、奴が誰かの魔法により操られているのであれば、俺が解析して無効化することも出来るはずだ。》


 たぶん、出来るだろう。エーテル粒子がスキルや魔法の素になっている、と英雄神は言っていた。

 ならば、その構成を解析し、それと相反する性質のものをぶつけてやれば、お互いに打ち消し合い、最終的には効力を失うはずだ。


(・・・わかった。トーヤに任せる。でも、危ないと思ったら、すぐに戻ってくること。それが条件だ。)


《承知した。ただ、エドに頼みたいことがある。先程の作戦で、力を相当消耗した。奴に<一体化>を仕掛けるまで、お前を守りきれん。そこは覚悟してくれ》


(そこはどうにか堪える。トーヤはベストを尽くしてくれ。俺もベストを尽くすよ。)


 さて、俺もエドも、この作戦が失敗したら、最早手の打ちようがないな。その場合、なんとか生き残ることを考えねばなるまい。それを許してくれる相手ではないだろうが。


 奴の武器の纏う風が、より強くなっている。おそらく、強風属性に変化しているのだろう。こうなってしまうと、カウンターが来るのを前提に対処せねばなるまい。


「はあぁぁぁぁぁっ!!」


エドは気合いを込めて、リビングアーマーへ斬りかかる。


奴は当然、武器で受ける。


そして、カウンターの風刃がエドを襲う。


「ぐぅぅぅぅぅぅっ・・・」


全身に、無数の切り傷が刻まれる。相当のダメージがあるはずだが、エドはなんとか耐えている。


《エド!!》


(トーヤ、俺はまだ大丈夫だ・・・トーヤはスキルを!!)


リビングアーマーと鍔迫り合いをしつつ、エドは俺を奴の本体へ近づけていく。


「いっ・・・・けぇぇぇぇぇぇぇ!!」


痛みに耐えながら、エドはようやく俺を奴に接触させることに成功する。


《うぉぉぉぉぉぉぉっっっ!》


スキル<一体化>発動!!


奴の全身の情報が頭を巡る。

武器への情報をカットすると、俺のスキルに抵抗してくる情報を見つける。おそらく、これがこいつを動かしている存在だろう。


【分割思考】起動。

もう一つの思考で、この存在を解析する。


―――出テイケェェェェェ!


やはり、意思がある。こいつを潰さなければならないな。


《出ていくのは、お前だぁぁぁぁぁっ!!》


さらに、【分割思考】を起動。三つ目の思考で、奴の意思を呑み込んでいく。


《お前の意思は、俺の意思。つまり、お前は俺だ。お前は俺の意思に逆らえない》


―――出テイケェェェェェ!


《またそれか。それしか言えないなら、お前はただの意思なき意思だ。無機物と変わらない。それは意思とはいえない。お前は・・・邪魔だ》


同時進行していた解析が完了した。

コレは、魔法的なものによって、擬似的な意思とされたものらしいな。ならば、それを解除する!


奴を構成しているエーテル粒子を、少しずつ剥がしていき、それらを俺のスキルで、俺に一体化させていく。


―――出テ・・・・・・・・・・・


ついに奴が沈黙し、リビングアーマーの支配権が俺に移ったのを感じる。

 念のため俺自身を鑑定してみると、


名称:トーヤ(分体)

種族:リビングアーマー(憑依体)


と出た。どうやら成功したらしい。


(・・・トーヤ?)


エドが俺に声をかけてくる。


《ああ、聞こえているぞ、エド》


【分割思考】を解除すると、リビングアーマーの姿が光に包まれ、俺の本体へと吸い込まれていく。そして、本体の一部に、鎧を象った紋章が刻まれた。


「急に動きが止まったから、もしかしたら、と思ったんだけど、上手くいったんだね、トーヤ」


《なんとかな。ただ、相当疲れた。少し休むぞ。》


「俺も少し休む。さすがにダメージを負い過ぎたかな」


エドは近くの木に寄りかかる。そして、革袋から瓶詰めの液体を取り出し、一気に飲み干した。


《それは?》


「あぁ、これは回復薬。軽い怪我なら、これを飲むだけで治る。傷口に振りかけても効果はあるけど、その場合は体力までは回復しないんだ」


おお。さすが異世界。予想を裏切らない道具が出てきた。


《それ、俺にも効果があるのか?》


「試してみる?一応、予備のが一つあるから」


エドが再び革袋から回復薬を取り出し、俺に振り掛ける。すると、不思議なことに、俺の疲れがあっという間に消え去った。


《おおっ、疲れが吹き飛んだ!マジで効くとは思わなかったぞ!》


「えっ、コレ、トーヤにも効くの?!なら、街についたら、多めに仕入れておかないとね!」





 エドの回復を待ち、ようやく移動を開始しようとする。


《さて・・・これ、どうする?》


俺達の前には、リビングアーマーが持っていた剣が地面に刺さっている。


「強力な武器なのはわかるけど、エルフの魂が宿っていると思うと、なんか躊躇しちゃうんだよなぁ・・・。かといって、このまま放置するのも気が引けるし・・・」


《うぅむ・・・ちょっと話をしてみるか》


 リビングアーマーの身体を手に入れたことで、新たに【分体創造】が出来るようになった。

 早速使ってみると、鎧の紋章が淡く光り、エドの前にリビングアーマー姿の俺が出現した。

 おそらく、これは【分割思考】の派生型なのだろう。最初に【分割思考】を起動した時と同じくらい疲れるし。今の俺なら、多分3時間くらいが限度っぽいかな。


 リビングアーマー姿の俺は、地面に刺さっている剣に手を伸ばす。

 すると、柄を握る前に、剣から風が俺の手に纏わりついてきた。


《んんっっ?!なんだ?》


「トーヤ!!」


エドが心配そうに俺に駆け寄ってくる。


《大丈夫だ。ちょっと驚いただけだ。少し時間をくれ》


「・・・わかった」


そう言うが、やはり心配なのか、エドは俺に肩を貸してくる。


《ありがとな》


 エドに感謝をし、俺は剣に<一体化>を使う。

 すると、意識が剣の中に入っていき、そこで自我を持つ意識体と遭遇した。


―――私を止めてくれてありがとう、盾の方。


《どういたしまして、剣の方》


 意識体は、銀髪で耳が尖っている少女だった。見た目はまだあどけない、13歳くらいの外見だ。あの時に見たのと違い、黒い靄のようなものは綺麗さっぱり消えている。


《君は・・・剣なのか?エルフなのか?》


―――どちらも正解で、どちらも不正解。


《どういうことだ?》


―――私はある者の魔法によって、身体を剣にされた。


《魔法だと?人を武器にする魔法があるのか?》


―――【武器化】の魔法。本来は信頼し合う二人が、絆と覚悟の象徴として行使する魔法だけど、今では完全に失われたはずの禁呪魔法。私に掛けられた魔法は、オリジナルとは別の、いわば独自の魔法だった。対象を強制的に武器へと変え、その魂をエネルギーにして事象変化を引き起こす。オリジナルより悪質で、人の命を道具のように使い潰す魔法よ。


《そんな非人道的な魔法を行使する輩がいるのか?!》


―――いるの。現魔王を自称している者の配下に。名前はわからないけど、確か『人形使い』と呼ばれていたはず。カエルのような顔つきだったのを覚えているわ。


『人形使い』か。話を聞く限り、相当なクズのように思えてきた。

 よし、決めた。絶対そいつをシメる。


《ちなみに、君を元に戻すための方法はあるのか?》


―――可能性は二つ。一つは、術者本人に解いてもらうこと。もう一つは、貴方のスキル。私を蝕んでいる魔法を、目に見える状態にしてもらえれば、おそらく解除できると思う。


《俺のスキルはまだそこまで出来ないぞ》


―――助けになるかわからないけど、エルフの集落にある『世界樹』から力を借りられれば、多少は確率が上がるかもしれない。


《世界樹?》


―――この世界を支えている、と言われている大樹よ。エルフは世界樹を守り神として崇めているの。その葉はあらゆる病に効果があり、その枝は砂漠を一瞬で恵みの森へと変化させ、その果実は大いなる生命力を授けてくれる。


《そんなに凄いなら、あらゆる者から狙われているんじゃないか?》


―――その通り。だから、エルフは世界樹を守るために、街とは別に集落を作って、人の目に映らないように外部と接触を絶っているの。


《うーん、世界樹が凄いのはよくわかった。力を借りられれば、という理由もなんとなくわかった。だが、そもそも集落へ行くこと自体、不可能に思えてきたんだが》


―――だから、助けになるかわからないけど、と前置きしたでしょう。それに、無理に元に戻さなくてもいい。この身体だからこそ、出来ることがあるから。


《出来ること?》


―――貴方の力になれる。前はリビングアーマーに操られる形で、力を無理矢理行使させられていた。でも、今は貴方のスキルによって、魂をエネルギーとせず、貴方の力を原動力とするものへ変化したの。


《それはありがたいが・・・いいのか?出会ってまだ少ししか経ってないぞ。》


―――いいの。それが、私を助けてくれた恩返しだから。それに、『人形使い』に一矢報いたい。だから、私を連れてってくれない?


《そこまで言うなら、断る理由がないな。だが、いつかは元に戻す。こればっかりは譲れない》


―――それでいい。じゃあ、これからよろしくね。


《こちらこそ。俺はトーヤ。君は?》


―――私はリーファス。よろしくね、トーヤ。



【分体創造】を解除すると、俺の本体に、風を纏った細剣の紋章が刻まれていた。おそらく、リーファスと契約をしたと扱われたのだろう。


《話は終わった。どうやら、俺に力を貸してくれるらしい》


「それは良かった!これで問題の一つが解決したね!」


エドが嬉しそうに俺の本体を小突く。


《だが、あまり嬉しくない情報も得た。どうやら、魔王配下に、人を武器化する魔法を使う奴がいるらしい。》


「なん・・・だって・・・!」


エドの顔が、一瞬固まる。

次の瞬間、激しい怒りを浮かべていた。


「・・・許さない」


《俺も同感だ。魔王の前に、そいつをシメるぞ》


「ああ・・・!!」


新たな目標が決まった。

『人形使い』を倒す。

そのための情報を手に入れる。


《エド、怒りはまだ抑えとけ。奴のクズっぷりをさらに知ることになるかもしれないからな》


「・・・わかった」


 まずは、俺達がもっと強くなる必要がある。あのリビングアーマーに傷を与えられないのでは、話にならないだろう。

 強くなるために、冒険者ギルドやダンジョンを使う。

 そのために、街へ向かわねばなるまい。


 新たな仲間(?)と共に、俺達は街への移動を再開したのだった。

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