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鎮魂の森

 遺跡の外に出たのは、転生してから初めてだ。俺は少しでもこの世界を知ろうと、あらゆるものを片っ端から鑑定していく。

 同時に、エドから話を聞きながら、情報収集とスキルの訓練を行っていった。


 草木をただ鑑定していくだけで、どんな効果があるものなのかはなんとなくわかるのだが、名前が未だによくわからない。あくまでも予測だが、この鑑定の結果は、俺の知識をもとに出ているのではないか?


 少し前の帰還の魔法陣は、たまたま英雄神が教えてくれたから判明しただけだろうし。

 ならば、今も教えてくれてもいいじゃないか、と突っ込みたくなるが、よくよく考えると、基本は神は地上に干渉しないものだ。あの時は、英雄神の神殿だったこともあり、ほんの少しだけ干渉できたのかもしれない。


 そのように仮定すると、鑑定の結果をより良いものにするためには、この世界にまつわる図鑑や歴史書などの知識を得なければなるまい。


 そういえば、初めてエドと出会った時、エドは【サーチ】と言っていたのを思い出した。あれはスキルなのか?それとも魔法なのか?


《なぁ、エド。神殿に行く前、【サーチ】って言ってたよな。あれはなんだ?》


「あれか。あれは観測魔法の一種だよ。冒険者ギルドに登録すると、よく使いそうな観測魔法を講習で教えてもらえるんだ。始めは魔道具を利用して感覚を掴むんだけど、数回使うだけで、普通は覚えられる。一度覚えてしまえば、あとは魔道具なしで発動できるようになるんだ」


《なるほど。そんな便利なものがあるんだな。他には何か使える魔法はあるのか?》


「俺が使えるのは、【サーチ】の他は【マッピング】と【収納】だね。ただ、練度はそれほどでもないから、できることもあまり多くないんだ」


《練度?なんだ、それは?》


「あ、そっか。トーヤは転生者だから、この世界のシステムに疎いんだね。練度とは、使い続けることによって、効果が高まっていく指標のことだよ。例えば、【サーチ】なら、最初はダンジョンの仕掛けがありそうな場所がわかる。練度が上がると、罠を発見できたり、宝や敵を察知できたり、指定の薬草を探せたりできるようになるんだ」


《なるほど・・・。ということは、攻撃魔法なら、練度が上がれば、威力や範囲が大きくなる、という考えで合っているか?》


「うん、そうだよ。ただ、攻撃魔法の場合、練度が上がると消費魔力も増えていくから、消費魔力調整のための魔力制御が別に必要になってくる。これがかなり難しいから、一つの攻撃魔法の練度を徹底して上げていく魔術師は多くないんだ。大体は同じ系統の上位魔法を、スクロール―――魔法書で新たに覚えていくパターンかな。そっちの方が、時間が掛からないし、自分の魔力を管理しやすいしね」


《そういうものなのか・・・》


 もしかしたら、俺のスキルも同じような原理かもしれないな。使い続けることにより、その効果を理解し、新たな効果を発揮するわけだし。

 ただ、それがなかなか時間がかかるわけだけど。


 ん?・・・待てよ。

 仮に、俺が【サーチ】を覚えたとして、その効果をスキルで解明し、発展させることでも練度は上げられるのではないか?

 練度は繰り返し使っていくことによって、効果が高まっていく指標だ。その仕組みが、無意識下で己が理解していくという理解度に基づくのであれば、俺の仮説は正しいことになる。

 やってみる価値はありそうだ。


《なぁ、エド。【サーチ】を俺に教えてくれないか?》


 すると、エドは困ったように答えた。


「うーん、それは無理かな。俺の場合、魔道具を利用して覚えたものだから、感覚だけを伝えることになる。自力で覚えた人なら、たぶん教えてもらえるだろうけど、残念ながら俺の知り合いにそういう人物はいないんだ」


《そうか・・・無理を言ってすまなかった》


 自力で覚えた人物など、おそらく賢者クラスの超人くらいかもしれない。いるかどうかはわからんが。

 ま、俺のスキルでも、仕掛けのサーチくらいならできるし、別に【サーチ】を覚えなくてもいいかもしれない。あ、でも、【マッピング】は覚えたいかも。

 となると、冒険者ギルドに登録する必要があるが、今の俺では、まだ人化はできないな。せいぜい土人形を作れるくらいだし。

 もしかしたら、【変化】の魔法でなれるかもしれないが、そもそもそんな魔法あるのか?


《エド。姿を変える【変化】の魔法って、存在しているのか?》


「【変化】という魔法はないけど、【変身】の魔法はあるよ。魔術師が偵察として、動物の姿に変わる魔法なんだ。ただ、需要が少ないから、覚えている人もそんなにいないかも。偵察なら、スカウトの職についている冒険者の方が慣れてるし、ね」


《そうか・・・ありがとう》


となると、まずは【変身】を使える魔術師を探さなければならないな。望みは薄いが。

 確実なのは、俺のスキルをさらに鍛えることだろう。土人形の出来から発展させていけば、できるはずだ。まぁ、その分時間がかかるけど。




 会話しながらの移動の途中、俺の鑑定に新たな反応があった。草木の鑑定をしていたはずなのに、何故か植物以外の物質が現れたのである。


《エド、この近くに金属の類いを含む植物って生えているのか?》


「えっ、そんな植物知らないよ?トーヤ、何か気になるものでもあった?」


《いや、付近一帯を見て回っているんだが、どうも植物とは思えないものが見えたのでな》


「あぁ、それなら、おそらくお墓だよ。この森は、鎮魂の森って呼ばれていて、昔戦争で亡くなった人たちの使っていた武具を目印にして、お墓にしているんだ。この地域一帯は、強力な浄化魔法がかけられていてね、土葬してもアンデッド化しないように管理されているんだ」


《なるほど。じゃあ、鎧があっても不思議じゃないわけだな。だが、勝手に動き回る鎧はおかしくないか?》


そうなのだ。この先数十メートルに、誰かが操っているような動きをしている鎧があるみたいなのだ。

 鎧は俺達を察知したのか、徐々にこちらに近づいてきている。


「・・・!!もしかして、リビングアーマーか・・・?!」


エドの顔に、緊張が走る。


《ヤバい奴なのか?》


「ヤバいと言えばヤバい。リビングアーマーは、魔王領域に存在しているモンスターなんだけど、全身鎧で身を守っているから、通常武器ではダメージが通りづらいんだ。しかも、何らかの理由で鎧そのものに霊が取り憑いた状態のモンスターだから、完全に倒すには、強力な浄化魔法か、霊体に直接ダメージを与えるような技量かスキルが必要なんだ。残念だけど、今の俺ではろくなダメージは与えられないかな・・・」


《どうする?》


「・・・今は撤退しよう。こちらに有効な攻撃手段がない以上、戦うのは不利だ」


《そうか・・・。だが、そうもいかないようだな》


突如、近くの木々を薙ぎ倒して、目の前に斬撃が飛んできた。予めそれを察知していた俺が、盾の身体をエドの前に展開し、どうにか防ぐ。


「・・・これは回避できない戦闘になりそうだね」


エドの額に、冷や汗が滲んできている。相手は、今のエドにとってはかなりの強敵なのだろう。


《・・・守りは俺に任せろ。お前は回避重視で動け。まずは相手の動きを見たい》


「・・・わかった。頼んだよ、()()


 相棒、か。いい響きだ。

 そこまで期待されると、俺もできることを最大限にやっていこうではないか。


 俺達の前に、先程斬撃を飛ばしてきた奴が、ゆっくりと倒れた木々を掻き分けて現れる。エドは剣を抜き、戦闘態勢をとった。


 どことなく中世の騎士を連想させる、漆黒の全身鎧。青銅の盾を左に持っているが、フルフェイスの兜の内側は、闇が渦巻いているようだ。

 一応確認のため鑑定してみると、使用者のいない、森をさ迷う鎧と出た。おそらく、エドの言うリビングアーマーで間違いないだろう。

 そして、最も驚いたのが、右手に持つ片手剣だ。刀身に荒々しい風を纏っている。あれはかなりヤバそうだ。魔剣の一種だろうか?

 気になったので、さらに剣を鑑定すると、鑑定結果とは思えない結果が出たのだ。


武器種:剣?

属性:狂風


え?なに、それ。

てか、狂風属性ってなんだよ。

そもそも、剣じゃねーのかよ!


《エド、あいつの持ってる武器、何かありそうだ。気を付けろ》


「ああ、わかってる。あんな武器、ただの剣じゃないのは、見ただけでわかるさ・・・!」


 リビングアーマーは、エドと対峙する。

 お互いの距離は、大体5メートルほど。普通に考えると、まだ剣の間合いではない。

 次の瞬間、リビングアーマーは無造作に武器を振るってきた。


「・・・!!」


 エドに襲い掛かってきたのは、無数のカマイタチ。それが、正面から、左右から、上下から飛んできた。

 この攻撃は全く予想してなかったが、エドは何度か大きく後方に跳び、被害を抑える。

 正面と上下の攻撃は俺が防いだが、左右からの攻撃までは防ぎきれなかった。そのせいで、エドは両肩に軽傷を負ってしまう。


《エド、大丈夫か?!》


(ああ、大丈夫。掠り傷だから問題ない。それにしても厄介だね、あれは。まともに受けたら、とんでもないことになっていそうだ)


先程までエドがいた地面が、そこそこ抉れていた。

この前の骨巨人ほどの威力ではないが、発動までの時間が短い分、対処が難しい。スキルを使っても、今の俺では衝撃を分散仕切れないだろう。

 さて、どうしようか。


 すると、エドが何かに気づく。

(トーヤ、あの武器が纏っている風、さっきより弱くなってない?)

《何・・・?》


 エドに言われて再びリビングアーマーの剣を見ると、確かに風の渦巻き方が弱まっているように見える。

 再度鑑定すると、属性が狂風から風へと変化していた。


(もしかして、あの攻撃を出すには、少し時間が掛かるのかも)

《なるほど、一理あるな。ならば、そう仮定すると、もしかしたら接近戦の方が意外と被害が抑えられるかもしれんな》


「ただ、あまり時間に余裕はないかもね・・・」


奴の武器の纏う風が、また強くなってきている。現段階で、風属性が強風属性へと変化しているようだ。

 エドは俺を前面に構え、リビングアーマーへ駆けていく。

 奴はそれを見て、最初の斬撃を飛ばしてくるが、俺の身体はそれを易々と防ぐ。


「はあぁぁぁぁぁぁっ!」


エドは気合いを込めて、リビングアーマーへ斬りかかる。


ギィィィィン、と甲高い金属音が森に響いていく。


リビングアーマーが武器でそれを受けると、衝撃が小さな風刃となって、エドに襲いかかってきた。


「ぐぅぅぅぅぅっ!」


咄嗟にバックステップでリビングアーマーから離れるが、全身が細かい切り傷を負ってしまう。


《くそっ、剣を合わせるだけでも、ここまでの傷を受けるのかよ・・・!》


纏っている風は・・・弱くなった気配がない。むしろ、強くなってないか?!




――――た――――け―――て―――――





・・・ん?今、なにか聞こえたような?


《エド、今、何か聞こえなかったか?》


(いや・・・俺は何も聞こえなかったよ?)





―――た―――す――――け―――――て―――――





やはり、誰かが叫んでいるようだ。


《・・・なあ、やっぱり、誰かの叫び声がするよな?》


(トーヤ、大丈夫?俺にはほんと、聞こえないよ?)


どうやら、俺にしか聞こえないらしい。




・・・た・・・す・・・け・・・て・・・




誰だ?

誰が叫んでいる?


(トーヤ、そろそろあいつのカマイタチ攻撃が来そうだよ!)


エドに言われ、リビングアーマーを見ると、武器に再び荒々しい風が纏われていた。


確認のため、鑑定すると、やはり属性が狂風となっていた。ところが、その瞬間。






―――私を、止めて。








奴の武器自体から声を聞いた気がした。

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