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エドの目的

「さて、いきますか」


エドはそう言って、スケルトンジャイアントへ向かっていく。剣は抜かず、ただ俺が顕現している左腕を前面に構えながら。

 そう。剣は今は必要ではない。

 奴の攻撃を受け、次の動作に移るまでのほんの僅かな時間のうちに、奴の後方にある通路に飛び込むのが目的だから。

 エドの接近に合わせ、スケルトンジャイアントは骨棍棒を振り上げる。

 そして、手前に来た瞬間にエドに向けて振り下ろしてきた。

《エド!》

「ああ!」

短いやり取りで、お互いのやるべきことを実行する。


 エドは降り下ろされる骨棍棒と自分との間に俺を割り込ませ、視線はスケルトンジャイアントの後方の通路へむける。

 そして、俺は奴の骨棍棒に触れると同時にスキルを発動。衝撃を解析、事象を起こす分子の力の方向性を周囲に分散させる。

 すると、轟音と共に骨棍棒が砕け、エドを中心とする周囲直径一メートル以外の地面や壁が抉られた。

 スケルトンジャイアントは得物を失うも、今度は自らの両腕を振り上げ、追撃をしようとしている。

 エドは僅かに衝撃を受けたのか、一瞬硬直している。

《いけるか、エド?!》

「・・・ああ!」

すぐさま通路へ向かって飛び込んでいく。

そして、ようやく通路へ辿り着いた頃に、後方から轟音が聞こえてきた。


「・・・ふう、危なかったところだね・・・」

通路の真ん中で、エドはごろりと横になる。息は荒く、余程緊張していたのがわかる。

 スケルトンジャイアントは、俺達が通路へ辿り着いてしばらくすると、元の骨達に戻っていた。

《・・・エド、すまなかった。完璧に衝撃を分散させられなかった》

「いや、いいさ。初の試みだったんだろ。あの程度の硬直なら、上出来だよ。トーヤはよくやってくれた。結果として、こうして目的を果たせたし」

《だが、たまたま今回はいい結果だっただけで、次もいい結果を出せるとは限らない。だから、謝らせてくれ》

「それを言うなら、俺だってトーヤに謝らないと。俺があの衝撃に怯まないくらい鍛えていれば、もっと安全に目的を達成できたはずだからね。だから・・・これから共にもっと努力していこう」

《・・・そうだな》


 俺もエドも、まだまだ未熟だ。今後、もっといい結果を出せるように精進していかねばなるまい。

 さて、エドが落ち着くまでもう少しかかりそうだし、少し話題を変えようか。


《ところで、エド。確か、この先に英雄神の神殿があるんだよな。そこに、何か用事があるのか?》

「え?ああ・・・。そうだった。トーヤには先に話しておくよ」


 エドの話をまとめると、こうだ。


 まず、この世界には人間以外に亜人と呼ばれる種族が多数存在している。例えば、長命なエルフ族やドワーフ族、白翼族、ケンタウロス族、竜人族、魔族など。基本的には各種族の国王がそれぞれの国を治めていて、相互に協力しあって生活しているそうだ。


 その中で、世界に不満を持つ魔族の一部が新たな国を作り、その王が魔王を名乗り、世界に宣戦布告をしたのだという。各国はそれを受け、自国を守るべく戦力を集め始めた。


 エドがいる人間族の国では、新たな勇者を探し出すべく、国が自ら冒険者ギルドに依頼したのだという。


 そもそも、勇者とはどんな存在なのか。


 それは、はっきりとした答えはないが、人間族の国では魔王を倒す者、とか、神に選ばれし存在、とか言われているらしい。

 また、数十年前までは、異世界召喚という儀式魔法が存在していたらしく、それによって召喚された者が勇者として人々の希望になっていたそうだが、現在ではその魔法が失われていて、勇者と認められるためには、世界各地に点在している英雄神の神殿に赴き、試練を乗り越えることが条件とされているのだそうだ。


 ただし、勇者となれるのは世界でただ一人。


 しかも、試練を受けられるのは一日に一ヶ所のみ。それがどこなのかわからないのである。


 さらに、試練は一人一度しか受けられず、誰かが乗り越えた時点で、その者が死亡するまで試練は与えられないのだそうだ。


 無事に試練を乗り越えた者は、身体のどこかにその証が浮かび上がるという。しかしながら、仮にその証があるからといって、何らかのスキルが手に入ったり、急に強くなったりはしないらしい。単なる証明でしかない、ということだ。

 で、エドはその証を得るために、この先の英雄神の神殿に行きたいらしい。


《エド、どうしてその証を求めるんだ?手に入れたからといって、強くなるわけではないんだろ?まさか、勇者と呼ばれることで悦に浸りたい、なんて理由じゃないだろうし》

「ああ、もちろん。俺は、魔王を倒したい。そのために強くなりたい。証を手に入れたいのは、俺が自分自身を鍛えるための決意であり、逃げ道をなくすためのものさ」

《なら、なぜ魔王を倒したいんだ?魔王は悪い奴だから、とか、人々のため、などという理由なら、俺は納得せんぞ》


 そんな正義面なんて、クソくらえだ。そういう奴ほど、偏屈で頑固で自分勝手で自己中なのが定番だ。俺は絶対信用しない。


 俺の問いに、エドはどこか遠くを見るような目で天井を眺める。


「・・・俺の故郷は、魔王の軍勢に滅ぼされたんだ。その時からもう5年くらいは経つのかな。自然が豊かで、水も綺麗で、ただ生きていくのに不自由はなかった、いい村だったよ。そんな村だからこそ、俺は日々何の目標も見出だせず、13歳の時に村を飛び出した。それから一週間くらい経ってから、故郷が滅ぼされた、という話を聞いたんだ」


《なるほど。つまり、故郷を滅ぼした魔王に復讐したい、ということか》


 実にシンプルではないか。それなら、魔王を倒したいのもよくわかる。


「・・・まぁ、大雑把にまとめると、そういうことかな」


ふむ・・・。ならば、あえて俺はエドに言っておくべきことがある。


《エド。仮に魔王を倒したとして、それからどうする?魔王軍の残党狩りでもするのか?》

「えっ・・・それは・・・」

どうやら考えていなかったようだな。


《魔王を倒したいのは分かる。だが、お前はその後も生きていくことになるんだぞ。もしかしたら、生き残った魔王配下達が、徒党を組んでお前に襲いかかってくるかもしれない。または、魔王の家族がお前を殺そうとするかもしれない。お前には、その覚悟があるのか?》


「・・・・」


エドは、何も言えなかった。


《いいか、エド。敵を許せ、とまでは言わないが、復讐心に駆られて行動するな。復讐は新たな復讐を産み出す。つまり、負の連鎖だ。その先には、破滅が待っていることを忘れるな。何かを為そうとするなら、その先のことまで考えて行動しろ。》


 某番組で、撃っていいのは、撃たれる覚悟のある者だけだ、という台詞があったのを思い出す。

 そして、負の連鎖はどこかで止めなければならない。俺は、エドにそんな勇気を持って欲しいと思っているのだ。


《エド、お前はまだ若い。今はまだ、俺の言葉がわからなくてもいい。だが、いずれお前が決断する時、俺の言葉をほんの少しでも思い出してくれ。そして、間違った選択をして不幸になるような事態は避けてほしい。これは俺の願いだ。》


「・・・トーヤ・・・。わかったよ」


 エドの顔が、ほんの僅かに緩んだ気がする。たぶん、まだ割りきれないところがあるのだろう。大いに悩み、考えるといいさ。それが、エドの成長に繋がるはずだ。


《そろそろ先に行くか。エド》

「ああ、そうしようか」


 エドは立ち上がり、軽く身体を動かす。

 今は、この先に進むしかない。

 例え、どんなことが待ち受けていたとしても。

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