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契約

 男が俺の近くに来たのを見計らい、俺は分子を一気に衝突させる。

 その現象は俺の本体の前で起こり、一瞬の光として男の視界に入った。


「こんなところに盾、だと・・・?」


 作戦は成功。男は俺に気付き、一度剣を鞘に納め、俺を手に取った。


《やっと俺に気づいたな》


「・・・?!誰だ!俺の頭に直接話しかけてくる奴は!?」


男は驚いて周囲を見回すが、当然そんな奴は盾である俺以外にいない。


《俺は盾。今お前が手にしている盾だよ》


俺は<一体化>を使い、俺の意思をこの男に伝えている。


「盾、だって・・・?意思ある盾なんて、まさか呪いの類いじゃ・・・」


《心外だな。まぁ、俺自身もお前の意見には概ね賛成するが。》


「賛成してくれるのか・・・」


男はどこか呆れたような表情になる。


《さて、お前は今、あの骨巨人をどうにかしたい。この仮定に間違いはないか?》

「ああ・・・もちろんさ」

表情を引き締め、しっかりと返答してくる。


《ならば俺を使え。盾の俺であれば、あの骨巨人の攻撃を防げるはずだ》

「はずだ、って、確定じゃないのかよ・・・」

《当然だ。なぜなら、俺も実際に盾としての仕事をしたことがないからな!》

「・・・それ、自慢にならないからね?」

男は再び呆れ顔になる。


《まぁ、騙されたと思って、俺を使ってくれ。》

「こんな状況で、騙されたくはないんだけど・・・」


うーむ、あと一押しみたいなんだが。よし、試しに、あれを言ってみよう。


《勇者よ、我を手にするがよい!さすれば、強大な力を授けよう!!》


「・・・代償は?」


《お前の身体の一部を・・・》

「やっぱり呪いの装備じゃないか!!」


男は俺を地面に叩き落とそうと、腕を振り上げる。


《す、すまん!!冗談だ!調子に乗りました、ごめんなさい!だからどうか俺を捨てないで!!》


俺の必死の懇願に、男はゆっくりと腕を下げていく。


《ほんとにすまん。何せ、この世界に来て最初に出会った人だから、ちょっと話をしたかっただけなんだ。》


嘘ではない。なにせ、この世界に転生して約100年。その間誰一人として出会わなかったのだから。


「この世界に来た・・・?まさか異世界からの侵略者・・・?」

《侵略してどうする。てか、盾の姿でどうやるんだよ》

「それは・・・装備者を操る、とか?」

《ああ、なるほど・・・。そんな力があれば、確かにできるかもな。そんな発想はなかったぞ。》

うむ、妙に感心してしまったな。例えを出すまでの短時間でそんなことが思い付くとは。

「侵略者じゃないなら・・・何らかの世界を渡る魔法で転送されてきた・・・?」

《近いが、そうじゃない。俺はとある事情で盾に転生したんだよ。》

このくらいは話しても問題ないだろう。おそらく、この部屋にいる限り、今後はもう二度とこの世界の人に会えないだろうから。

 何がなんでも、この男に俺を連れていってもらわなければなるまい。そのためなら、俺の身の上話など、些細なリスクだ。

「転生・・・?盾に?どうして?」

《そんなこと、俺に聞かれても困る。知りたいなら、神様にでも聞け。俺は知らん。》


ほんと、なぜあの英雄神は俺を盾に転生させたんだよ。どうせなら、まだ生物の方が良かった。

 まぁ、盾である利点は、生物には避けられない死を回避できるところだな。

 ・・・ん?待てよ。

 ということは、あの神の頼みを叶えるには、それだけ時間がかかる、ということなのか?


「ははっ、なんか、人間みたいな返し方をするんだね、君は。とても面白い存在だよ」

 男がクックッと小さな笑いをしている。


《それは誉め言葉として受けておくぞ。・・・俺は元々人間だ》

「へぇ~、名前は?」

男が面白半分で聞いてきた。


《俺の名は・・・そうだな、トーヤ。トーヤと呼んでくれて構わん。》

「自己紹介をありがとう、トーヤ。俺の名はエドワード。エドと呼んでくれ」


 お互いの自己紹介を終え、やっと今後のことを相談できる。

《さてエド、先ほどの話に戻るが、お前は俺を使う気はあるか?》

「もちろんだ。一応確認しておくけど、トーヤを使うには、本当に何の代償もいらないんだよね?」

《ああ。俺をただの盾として使うなら、何の代償もいらん。ただ、それだけではこの場を確実に乗りきることはできない可能性があるのも事実だ。それを確実のものとするには、どうしてもお前との契約が必要だ。》

「契約・・・?まさか、血をよこせ、とか?」

《そんな犠牲なんぞ、欠片もいらん。むしろ不快感しか残らんぞ。》

「じゃあ、どうすればいい?」

少し警戒をしているらしいが、そんなに心配はいらないんだが。


《ならば、お前には知ってもらわねばならんな。俺の能力を。》

「能力・・・?」


この際だ。ちゃんと俺のことを理解してもらおうか。


《俺には<一体化>というスキルがある。それを使い、俺がお前の一部になることを許可してもらいたい。》

「俺の一部に・・・?まさか、俺の身体を乗っ取るつもりじゃ・・・」

《安心しろ。いくらスキルでも、そこまではできない。俺がお前の一部となることで、俺はお前の意思に基本的には従うことになる。お前が守れ、と念じれば、俺が自動的に守るようになる。まぁ、例外として、俺自身がお前に対しての危険を感知すれば、例えお前が念じなくても勝手に守るようになるが。》

「なるほど・・・それは便利だね。だけど、俺の一部になったとしたら、以降俺の経験や見聞きしたものもトーヤに筒抜けになる、っていうことだよね?」

《察しがいいな。その通りだ。それがお前にとってのメリットにもデメリットにもなる。どうだ?》


 プライベートなことまで知られるとなると、人によっては嫌がるだろう。俺は別に知ったことを周りに言いふらすなんて芸当はできないし、するつもりもない。エドはどうだろうか。


「・・・悩むところだけど、どうせこのままじゃいけない、ってわかってる。一応確認だけど、トーヤは男だよね?」

《盾である俺に性別など無いが・・・まぁ、俺は自分を男だと思ってる。ついでに加えておくが、ゲイではない、と断言しておこう。》

「よし、わかった。契約しよう。ただし、三つ条件がある」

《条件?》

「俺はトーヤを、単なる盾とは扱わない。戦友とさせてもらう。それから、俺のプライベートには口出ししないこと。最後に、俺の許可なく他人の盾にはならないこと。以上が守られるなら、トーヤと契約するよ」

《なんだ、そんなことか。もとよりそのつもりだったからな。いいだろう。これで契約成立だ》


 契約が成立すると、俺の本体の一ヶ所に、剣の装飾が発現する。それは、よく目を凝らしてようやくわかるほどの、ほんの小さな変化だった。

 同時に、一瞬だけ俺が光に包まれ、それが収まると、俺はエドの左腕に出現していた。


「なるほど、これがトーヤの言う、俺の一部になる、ということか」


 そう、俺の本体は、エドの左腕と融合していると言っていい状態になっていた。何せ、継ぎ目が全くわからないような一体感だ。いや、むしろエドの左腕の一部になっている。


《うまくいったようだな》

「そうみたいだね。てか、端から見ると、俺って結構ヤバい状態じゃない?独り言をブツブツ言っているような気がしてならないんだけど」

《それなら問題ない。俺はもうエドの一部だ。口に出さなくても、頭の中で話し合うことができるはずだ》

(あ、本当だ。わざわざ声を出さなくても伝わるみたいだね。)

すぐに実践するとは、流石だな、エド。

《よし。なら、人前に出ているときは、この会話でいくとしよう。》

「了解!・・・で、まずはあのスケルトンジャイアントをどうかするのが先決だけど、作戦みたいなのはある?」


 スケルトンジャイアントは、相変わらず通路を塞ぐように立っている。動いてくれる様子は全くない。


《簡単だ。あいつの攻撃を俺で受けるだけでいい》

「そんな無茶な・・・。ずっと見ていたならわかるだろう。あの攻撃の凄まじさを」

《問題ない。エドにはもう教えただろ、俺の能力を。》

「能力って、<一体化>のこと?まさか、あの武器と一体化して、威力を抑えるつもりかい?」

《惜しいな。俺が一体化するのは、俺にぶつかることで生じる衝撃そのものだ。衝撃と一体化することで、生じるエネルギーを周囲に分散させる。エドには一切衝撃が向かないようにするから、その隙に通路へ飛び込め。》


「・・・できるのか?」


《正直、わからない。だが、やってみせるさ。まぁ、初の試みだから、上手くいくかはわからん。それでも、お前を必ず守ってやる。こればっかりは、俺を信じてもらうしかないな。》


最悪、上手く出来なくても、エドに伝わるダメージは、一体化した俺が引き受けてやればいい。俺のスキルなら、必ずできるはずだ。


「・・・わかった。信じるよ、()()


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