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異世界で最初に出会った者

 珍客の男は若かった。見た目でいうなら、だいたい18くらいだろうか。

 皮の胸当てを着け、腰には皮のベルトで皮の袋と剣を鞘ごと吊っている。これぞ冒険者、って感じ。この世界に冒険者という概念はあるかわからんが。

 で、どことなくダンジョン慣れしている雰囲気を放っているから、たぶんそれなりの場数をこなしているのだろう。

 そんな男が、なぜこんなところに現れたのか。

 それは、次の男の独り言でわかることになる。


「この先に、英雄神の神殿が・・・」


左手に持っている地図らしきものを見ながら、そう言ったのだ。


 英雄神、と言ったな、この男は。

 その名はおそらく、俺をこの世界に転生させたあの神に間違いないだろう。


 ・・・そういえば、どうして俺はこんなところにいるんだ?

 落とし穴に落ちたから?いや、そういう答えではない。何のためにここにいるのか、その目的は、何だったのか。それを己に問うているのだ。


 ・・・ここで、何をしている?


 ・・・何か、間違っているのではないか?



 ああ、大事なことを忘れていたんだ、俺は。


 

 ここしばらく、スキルの訓練にかまけていて、何故俺が転生させられたのかをすっかり忘れていた自分を恥じた。


 あの神は俺を頼ってくれたのだ。


 この世界を、救ってくれ、と。


 どうしてそんな大切なことを忘れていたのだろう。


 ・・・いや、初めは覚えていたのだ。

 そのための手段として、スキルを訓練し始めた。

 だが、長い年月を経るうちに、いつの間にか手段が目的に変わってしまっていたのだ。

 なんとも情けない。


 だが、今は違う。


 この場にこの男が現れたのは、偶然ではなく、必然。あの神は、俺に愛想をつかせ始めたから、喝を入れるためにこの男を送ってきたのだろう。

 それが事実かどうかはわからない。

 だが、俺はそう思うことにした。

 でなければ、俺は俺自身を許せないから。


 それに、あの神は最後にこう言ったのを、うっすらと覚えている。


 頼んだよ、親友、と。


 それは、遥か昔、俺がまだ高校生だった頃。もう覚えていない友から言われた言葉。

 ・・・そういえば、その彼は、ある日を境に、人々の記憶から消えていたのを思い出した。

 当時はあまりに違和感がありすぎて、現実離れしていることだったので、俺はそのことを夢の中の出来事だ、と思うことにしたのだ。

 そうしていつしか、そのことすら忘れてしまっていた。


 もしかしたら、あいつは・・・・・


 と、そう思い出に浸っている暇はないな。

 今は、どうやってあの男に俺の存在を知らせるかが重要だろう。

 男は、周囲を軽く見回し、短く「【サーチ】」と言うと、迷うことなくあの仕掛けがありそうな壁へと向かっていく。

 そして、皮袋の中から、窪みにぴったり合いそうな宝石らしきものを取り出して嵌め込んだ。

 すると、すぐに異変が生じる。


 軽い揺れが起こり、ゴゴゴ、という大きな音と共に、宝石らしきものを嵌め込まれた壁が、扉のように開いたのだ。その先には、人工的な通路があった。

 それだけではない。

 この部屋にあった白骨やら動物の骨やらが、何かに操られているようにむっくりと起き上がり、一斉に男に襲いかかったのである。

 なるほど、あの違和感は、そういう仕様だったのか。


「ちっ・・・さすがに何の罠も用意していないはずはないよね・・・」


 男は軽く舌打ちをすると、地図を皮袋にしまい、腰の剣を抜いて応戦する。

 骨たちの数はそこそこだったが、所詮体当たりしか攻撃手段のない相手。男が剣を振るって10分くらいで元の屍に戻っていた。まぁ、そんなものか。


 だが、それだけでは終わらなかった。

 骨たちは再び起き上がり、今度は通路の前に立ち塞がったのだ。まるで、この先には行かせまい、との意思を持っているように。


「随分面倒な相手なようだね・・・」


 男はまた10分ほどで元の屍に戻すが、骨たちはまたすぐに起き上がり、通路の前を塞ぐ。


 そして、そんなやりとりが延々と続いていく中、俺はあることに気づいた。

 男の倒すスピードが落ちてきている。おそらく疲れからだろう。

 それに対し、骨たちの再生速度が徐々に上がってきているのだ。このままでは、いずれ男がやられてしまうかもしれない。


「このままだと、さすがにまずいね・・・」


 男の額に、汗が流れ始めている。


 骨たちと対峙しながら、何か考えているのだろうか。


 俺だったら、骨たちを無視して通路へ向かうな。


 しかし、事態はさらに深刻なものへと変わっていく。


 骨の一体が、カチカチと歯を鳴らし出すと、つられて別の骨も歯を鳴らし、ついには全ての骨たちが鳴らしだしたのだ。

 なんか、めちゃくちゃ嫌な気配がする。


 そう思った瞬間。


 ピカッ、と骨たちが光った。


 光が収まると、そこには身長3メートルほどのでかい骨巨人が立っていた。その手には、長めの骨棍棒が握られている。


「何っ?!<スケルトンジャイアント>に進化したのか?!」


骨巨人はスケルトンジャイアントという名前らしい。てか、あれ、メッチャヤバくない?!


 スケルトンジャイアントは、手にした骨棍棒を男に振り下ろす。だが、男はその前にバックステップで下がっていたため、直撃は避けられた。それでも、骨棍棒が振り下ろされた地面は抉れ、小さなクレーターができていた。

 うわ、怖っ!!


 追撃を警戒して、男はスケルトンジャイアントと距離を置き、次の攻撃を見定める。

 しかし、意外にも追撃は来なかった。

 それどころか、その場から全く動こうとしないのだ。


 もしかして、このスケルトンジャイアント、神殿のガーディアンなのか?


 男も俺と同じ考えに至ったのか、それを証明するようにスケルトンジャイアントへと接近すると、やはり骨棍棒を振るってきたのだ。


 うん、多分そうなんだろうな。


 となると、神殿へ向かうためには、どうにかしてスケルトンジャイアントの攻撃を避けて通路へ向かうか、倒すしかない。

 まぁ、多分倒してもすぐに復活しそうな気がするが。

 そう考えると、次の疑問は、復活に限界はあるのか、ということだろう。何か復活のためのエネルギーがあるのなら、その供給を止めればいい。では、そのエネルギーはどこにあるのか。


 それを把握するために、俺はスケルトンジャイアントの鑑定をしてみる。


 しかし、結果は不明。今の俺ではまだ分からないらしい。もっと鍛えなければならないようだ。


 ならば、通路の先に向かうためには、前者をとるしかあるまい。


 おそらく、盾の俺であれば、あの骨棍棒は受け止められると予測している。いくら威力がありそうな武器とはいえ、所詮打武器であるなら、武器の素材よりも発生する衝撃を周囲に分散させれば問題あるまい。特に、俺のスキル<一体化>なら、衝撃と一体化すれば、逆に相手にその衝撃を返すこともできる。

 衝撃は、物と物がぶつかることで起こる反発のようなものだ。物理法則が成り立つ以上、多少コツはいるが、一体化できないものではない。

 ただ、問題はどうやってあのスケルトンジャイアントに近づくか、だ。土人形をまた作って特攻させることもできるが、たぶん近づく前に壊れるだろうな。


 なぜそう予測できるかって?


 なぜなら、土人形を作るといっても、その出来にはムレがあるからだ。

 ここに落ちる前の土人形は、俺が何十年もかけて丹念に作り上げたものだ。自信作と言ってもいい。

 だからこそ、遺跡内を動き回ることができたし、そう簡単に壊れたりしなかったのだ。


 だが、仮にこれから短時間で作るとしたら、せいぜい泥団子程度のお粗末な出来になってしまう。以前のものと遜色のないものを作るとなれば、また何十年とかかるだろうから、それまで目の前の男が立っていられるとは思えない。

 以上の理由から、俺が土人形を作って特攻させるのは現実的でない。

 一番いいのは、あの男が自分で俺の存在に気づいて手にすることだ。そうするには、どうすればいい?


 音を鳴らす?

いや、そのためには、一度物理的なものを作り出さなければなるまい。それでは時間がかかるし、音を出すとしても、それなりに大きいものでなければ、気づいてもらえないだろう。


 ならば、男の視界に入るようにする?

耳で入る情報よりは、目から入る情報の方が有効なはずだ。そのためには、どんな方法がある?


 視界に入るほど大きくなる?

 いや、それでは土人形を作るのと大して変わらない。しかも、ただの土人形では、この薄暗い空間ではあまり目立たない。それこそ、目立つような色合いでなければならないだろう。


・・・ん?色?


 そうだ、嫌でも目立つ色であれば、ほぼ気づいてもらえるに違いない!


 そして、この空間でもっとも目立ちそうな色は、白だろう。その色に適するものといえば、光。

 光とは、元は複数の色が混じりあって白く見えるのだろう、と記憶している。


 うん、これならいけそうだ。


 俺は<一体化>を使い、謎物質を纏め始める。

 そうしてできた謎物質の塊から、相反する分子を取り出していく。これらを衝突させることで、ほんの僅かな爆発を発生させるのだ。その爆発が、一瞬の光となる。


 着々と段階を重ねていく中、男の方は疲労を抱えながら、どうにかスケルトンジャイアントの攻撃を避けていた。

 奥の通路に近づかなければ攻撃を受けないことを了承しながらも、あえて向かっていくことから、余程あの通路へ行きたいのだろう。

 だったら、一度街に戻るなりして、しっかりと準備をすればいいのではないか、とも思ったが、そういえばこの空間から脱出するための出口が、はるか上の落とし穴の口か、あのスケルトンジャイアントの守っている奥の通路しかないのを思い出した。

 しかも、骨達が動きだしてから、頭上の落とし穴の口は閉じてしまっていた。

 つまり、ここから出るには、あの通路の先にしかない。


 何度目かの攻撃を避け、ついに男が俺の近くまでやってきた。

 ・・・おそらく、今がチャンスだ。

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