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転生先は人ですらなかった

初投稿です。拙い文章ですが、ご了承ください。

 俺の目の前に、一人の高校生くらいの男が立っている。どこかで彼を見たような記憶があるが、今混乱している状態の俺には全く思い出せなかった。


「やっと会えたな」


彼は俺を見ると、微笑みながらそう言った。その笑顔は、誰もがつられて笑みを浮かべるほど暖かく、神々しい。俺の周囲の真っ暗な空間を照らすような光みたいだった。


 そう、俺は今、彼と俺以外に何も存在しない無の世界にいる。

 ここはどこなのだろうか。

 そして、俺は死んだのではなかったか。

 何より、彼は一体何者なのか。


 複数の疑問が浮かんでくる。その問いに答えるように、彼は言葉を紡ぐ。

「ここは俺の世界。館山刀矢(たてやまとうや)。君は確かに死んだ。だが、俺は君の魂をここへ連れてきた。俺自身の力、英雄神の力を使ってな」

「英雄神の力だと?だったら、お前は神だとでも言うのか?」

「そういうことさ」

当然だ、と言うように、彼はそう返してきた。しかし、その後に出てきた言葉に、俺は驚くこととなる。

「もっとも、元はお前と同じ人間だった。ホッフルグという世界で勇者として生き、寿命が尽きるまでホッフルグに貢献して死んだ。その後、ホッフルグに住まう人々の信仰を受け、ホッフルグの神々の一柱となった」


 勇者が王になる話は数多くある。が、神になるというのはそれほど多くないだろう。


「単刀直入に言おう。ホッフルグを救ってくれないか?」

「はぁ?」

いきなりスケールがぶっ飛んだので、思わず変な返事をしてしまった。

「あんたが勇者で神になるほど信仰を集めたのなら、ホッフルグはおそらくもう救われたのだろう?でなければ、そこまで信仰を集められるなど考えにくいのだが」

「確かに、俺は一度ホッフルグを救った。だが、その後の平和の中で、私利私欲を持つ者が徐々に増え、世界は再び争いに包まれている。俺は一応神だが、一つの世界を俺の思い通りにする力など持っていない。精々、戦いに赴く者に僅かばかりの幸運を授けたり、希望を持たせる程度だ。だから、俺の代わりにそれができる者を探していた」


 なるほど。つまり、神はあくまで概念的な存在だから、世界に直接干渉することはできない。できるのは、その世界に物理的な影響を与えられる、実際にそこに存在している者だけだ、ということか。


 だが、今の俺は只の魂だけの存在だ。その俺に願うということは、俺をホッフルグで存在できるだけの用意がある、ということ。つまり・・・

「君が思っている通り、俺は君をホッフルグに転生させる用意がある。もちろん、俺の願いを断っても構わない。その場合、君は輪廻の輪へと戻り、新たな魂として地球で生まれ変わることだろう。俺は俺の願いを聞いてもらえる他の者を待つだけだ」

「いいのか?」

「それは君が決めることだ。ただ、俺は君を良く知っているつもりだ。共にあったのはほんの僅かな時だとしても、俺は君を信頼している。だから、君に頼みたい」


 どこか引っ掛かる言い方だ。俺を前から知っている・・・?


 何か思い出せそうだが、靄がかかった様に曖昧な感覚だ。ひとまず、それは置いといて、そこまで俺を信頼しているなら、断る理由はない。


「・・・やるよ。お前にそこまで言われたら、引き受けさせてもらう」

「ありがとう」


彼はそう言うと、ぱちり、と指を鳴らす。同時に、俺の身体が淡い光に包まれた。


「これは・・・」


光はあっという間に消え去る。そして、俺の中に特殊な能力が備わった感覚が満ちていく。


「俺からのプレゼントだ。スキル<一体化>。効果は文字通り、何かと一体になる。使い方は自分で研究するといい。きっと、君なら上手く使えるはずだ。誰かを守りたい、との想いが強い君なら・・・」

「・・・!!」


俺の視界がみるみる変化していく。どうやら、転生が始まったらしい。


「まずは、ホッフルグという世界を知ってくれ。初めは何もできない自分を悔いるかもしれないが、多くの人々と出会い、別れることで自分の糧とするんだ。頼んだよ・・・・・・()()()()


遠ざかる意識の中、どこか懐かしくもあり、嬉しくもあった言葉に戸惑いを覚えつつ、俺はホッフルグへと転生した。




 34歳、独身でおっさん。高校時代から法律家を目指し、大学の法学部を卒業したのは良かったのだが、そこから国家試験に挑戦しては落ちる、というのを既に12年繰り返していた。実家暮らしだったから衣食住は特に困ることはなかったが、それでも家族にはどこか引け目を感じていたので、勉強がてらアルバイトをしていた。


 そんな俺は、どうやって死んだのか。


 わりと簡単な話だ。友人の身代わりになっただけ。


 もう少し詳しく話すと、大学で仲の良かった友人から結婚式の招待状が届き、その前日に、その友人から「相手を紹介したい」と言われた。

 無事に顔合わせは済んだのだが、解散間際に相手の元彼を自称する刃物を持ったストーカーに友人が襲われ、それを庇って刺された、というわけ。

 まぁ、高校時代にちょっと武道をやっていたから、刺された直後にストーカー男を取り押さえ、警察に引き渡したところまでは良かったが、それから意識を失い、そのまま死亡。多分、出血が多すぎて、病院につく前に力尽きたんだろうな。


 なぜそんな無茶をしたかって?

 それは狙われたのが仲の良かった友人だから。ただの友達程度の奴だったら、俺は命を賭けることはなかっただろうな。

 自慢じゃないが、俺は基本、人見知りで友達が少ない。多分、一桁。でも、本当に仲の良い奴らは、俺にとってかけがえのない大切な存在だ。たとえ俺に彼女ができたとしても、奴らを優先したいくらい。

まぁ、地味で平凡な俺は34年間、一度も女性と付き合ったことはないけど。死ぬ前に一度でいいから彼女が欲しかったぜ。今さらだがな!



 異世界ホッフルグ。どんなファンタジーが待っているのだろうか、なんてワクワクしたのもつかの間。


 転生初っぱなから絶望する。


・・・・どうして体が動かない?!

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