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短編集

ダンジョンボスのダンジョン生活日記

作者: ゆきびし

 ・五月一日

 今日も自称勇者を名乗る冒険者達が現れた。

 これで八十三組目だ。正直うんざりする。

 再戦を避けるべく葬ってしまいたいが、魔王様の命令で命を奪うことは許されていない。

 曰く『人間の魂は美しい』そうだが、魔王様のお考えはよくわからない。


 ・五月三日

 秘宝を守る為、今日も今日とてダンジョン生活。

 ダンジョン内で生活している以上、当然食事や睡眠などもダンジョンで済ませている。

 なので食事中に冒険者が来ることもしばしばある。

 事前に部下が知らせてくれるので最悪の場面は見られていないが、それでもたまに米粒が顔に付いていることもたまにある。

「なんだコイツ濡れてんぞ!」

 冒険者がそう言うのも無理もない。先刻まで入浴中だったのだから。

 だからといって雷属性の攻撃でガシガシ攻めてくるのはやめてもらいたい!


 ・五月六日

 今日の冒険者はえぐかった。

 股間とか目を執拗に狙ってくる。一撃一撃が急所狙いだ。

 さすがの私も身の危険を感じた。


 ・五月十二日

「ボスは普段休みとかなにされてるんすか?」

 最近このダンジョンに配置された部下チャラッスから、何気ない質問が来た。

 部下達は大きな役割を持っていないので、週休二日をしっかりと与えている。

 だが、私はこのダンジョンのボスという立ち位置上、私が倒されるまでは休日どころか外出なんて許されない。

 留守の間に秘宝を取られていたら大問題だ。私の存在価値が完全崩壊。

「というわけだから、ここ暫くはなにもできていないよ」

 そう答えると「僕は出世したくないっすわ」とチャラッスは軽く笑っていた。

 私がチャラッスの推薦状を密かに書いていることを、彼はまだ知らない。


 ・五月二十日

 今日は月に一度の部下と鍋パーティ。これが地味に楽しみなのだ。

 にも関わらずこのタイミングでも冒険者はやってくる。

 速攻で追い返したが時折こう思う。

 もしも魔物に友好的な冒険者がいたら、折角の鍋パに誘えたのにと。


 ・五月二十六日

 今日の冒険者は酷かった。実力的には下の中で苦戦する要素は一切なかったが。

 奴らのやりとりが見るに、そして聴くに堪えなかった。

「くそ、ここで俺達は終わってしまうのか……?」

「諦めちゃダメよ! あたし達の力、いま発揮しないでいつ出すの!?」

「そうか……そうだよな! いまこそ全力を出すときだ! いくぞおおお!!」

 いまどきラスボス前でもそんなセリフは吐かねぇよ。

 あっけなくぼこぼこにすると、去り際に主人公風味の男がこう叫んでいた。

「空気読めよ、バーカ!」

 次来たらその減らず口を縫う。


 ・六月三日

 部下のチャラッスがどでかい魚を持ってきた。

 釣りが趣味で、休日にはよく海や川に行っては釣りを満喫しているらしい。そしてこうしてたまに私の食事として持ってきてくれる。

「ドドドダイっつーんすよ。ドの数が多い程でかいんす」

 にしてもでかい。二メートルはくだらない。

 どう捌けばいいものか。


 ・六月四日

 ドドドダイ。美味だった。

 チャラッスに感謝。


 ・六月十七日

 今日の冒険者はよくわからなかった。

 ニヤニヤしながら「僕達、魔王軍に寝返ります!」とか怪しさ全開。

 後ろに巨大なハンマーを隠しているのも実に評価点。

 案の定、油断した振りをして背を向けたらそのハンマーで襲い掛かってきた。

 世の中にはいろいろな冒険者があの手この手でやってくるものだ。


 ・六月二十日

 月に一回の鍋パ。

 相変わらず部下のチャラッスは面白い食材を持って来る。

 ドドドドドダイとかどうやって釣り上げるんだよ。

 だが、美味。


 ・六月二十二日

 新聞の勧誘が来た。

 丁重にお断りしたが、魔物相手に物怖じしないセールストークには感動した。

 というかなにを思ってこのダンジョンに来たのだろう。

 魔物ノルマとかでもあるのだろうか?


 ・六月三十日

 部下のチャラッスが亡くなった。

 休日に釣りをしている最中、冒険者に不意打ちをくらったそうだ。

 我々は魔物ゆえ人間に殺されるのはよくあることだが、逆はそうそうない。

 だからこそ、こう強く思う。

 殺したいほど憎い。


 ・七月七日

 今日の冒険者は手強かった。

 隙のない連携攻撃、用意周到な策略、武力知力ともに申し分なかった。

 第二形態によってなんとか勝利を収めたが、負った腹の傷が痛む。

 次の冒険者が来るまで治るだろうか?


 ・七月十三日

 両親から手紙が来た。

「そろそろ故郷に戻って来ないか」などの取るに足らない内容だ。

 私はこのダンジョンのボスだ。ボスとして、最後まで責務を果たさなければならない。

 責務を果たしたときは、魔王様の完全勝利か、私の死か。

 いずれにしても故郷に戻ることはないだろう。

 両親の顔を忘れるほど、もう長いこと会っていない。


 ・七月十七日

 意識を取り戻したときには、既に秘宝は無くなっていた。

 幸い部下に死者は出ず、私自身もこうして生きている。

 ……いや、幸いというのは違うか。

 どうやら私は勇者との戦いで負け、そして生かされたようだ。

 この日記帳の上に手紙が置かれていた。


『このダンジョンのボス』へ

 悪いが秘宝は頂いた。ついでに金目の物も少し頂いたわっはっは。

 そういうことなので、もうお前がここにいる意味なんてないわけだ。

 俺は魔王以外に執着はないから、お前や部下の命なんてどうでもいい。

 だから、残りの人生を好きに過ごすがいいさわっはっは。

『最強の勇者』より

 追伸。今日が月に一度の鍋パじゃなくて残念だ。


 物凄くむかつくが、確かに鍋パだったら誘っていたかもしれない。

 ともあれ秘宝を取られてしまっては、このダンジョンは無意味に等しい。

 当然、私も用済みだ。魔王様もきっとお払い箱扱いするだろう。

 このダンジョンで骨を埋めるつもりだったのだが……まさか生きてしまうとは。

 自害も考えてはみたが、部下に強く止められてしまい、

 結局、私は。

 故郷に帰ることにした。


 ・七月二十五日

 空は晴天。

 大地は草木や花々が仲睦まじく並んでいる。

 すっかり痩せ細った両親の小さな笑顔。

 長年見なかった光景だからか、その美しさを上手く表現することができない。

 ただただ、心が落ち着く。

 けしてダンジョン生活が苦痛だったわけじゃない。

 共に過ごした部下もとい仲間がいたし、多くの思い出があそこにはある。

 全てが私にとって、大切なものだ。

 だが、もう日記を書くのは充分だろう。

 ここはダンジョンではないのだから。


 本日をもって、このダンジョン日記の筆をおくとする。

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