夏のホラー2019 ~ 第三病棟 ~
幽霊以外ほぼ実話です。
「う~~いたたたた~」
私はお腹を押さえた。
歩くと手術の傷が痛い。
お腹を?マークの逆に切られている。
立て切腹だ。
3日前に手術したのに、医者も看護師さんも「歩け歩け」と五月蠅い。
だから私は病院の中を歩いている。
二階の病室の窓から建て替えが決まった、第三病棟が見える。
古くなったので壊される事に決まったのだ。
二階の渡り廊下を歩く。
第一病棟も第二病棟も新しく綺麗だ。
第三病棟に入る。
確かに内装は古臭く、廊下も狭い。
「ふ~ん。二階は医院長室に職員の食堂と病室か……」
案内図を見る。
「一階が診療室と散髪屋か。それとトイレ」
私はペタペタと歩く。
廊下にスリッパの音がやけに響く。
昼食を済ませて散歩に出たから病棟の中は明るい。
廃病院ではないからごちゃごちゃとゴミが散らばっている訳では無いが。
ガラーンとした病室は昼間でもそれなりに怖い。
ほら、昼の学校と夜の学校ではフンイキがガラリと変わる。
それと同じ。
窓から覗くと診察室だったのだろうかなり広い部屋があった。
取り外すのを忘れたのか中央にカーテンが垂れ下がっていて。
何故か取り残されたようにポツンとベッドが一つだけあり。
カーテンはユラユラと風に吹かれ。髪の長い女の人の影が見える。
「あれ?」
全部の窓が閉まっている。
女の人が動いてそれでカーテンが揺れているのかな?
あの人は看護師さんかお医者さんなんだろうか?
休み時間を人の来ないここで休んでいるのかな?
見つかると怒られそうなので私は足音を立てずにその場を去ろうとした。
不意にカーテンが開き綺麗な女性が出てきた。
私はあわあわしながら言い訳を考える。
「あれ?」
長く美しい黒髪が風に揺れ、色白の品のいい彼女は白い着物を着ている。
どう見ても看護師さんでもお医者さんでもない。
彼女はガラリと戸を開ける。
彼女は私の前を通ると医院長室に消えて行った。
「えっ?」
彼女は文字道理消えた。
昼間だよ!!
お日様がさんさんと輝いているんだよ!!
私は泡を食って走り出す。
ここが病院だろうが構うものか!!
「山田さん廊下は走らないでください」
看護師さんの注意も耳に入らなかった。
二階の病室のベッドに飛び込むなり布団を被りガタガタ震える。
「見間違え!! 見間違え!! 見間違え!!」
呪文の様に唱えそのまま気を失った。
4日後私は退院する事になり、25歳の息子が迎えに来た。
病室で荷物を纏めていたら、不意に息子が尋ねる。
「お母さん第三病棟に行った事ある?」
「あ……うん。散歩で一回だけあるわ。それがどうしたの?」
「幽霊見なかった?」
「幽霊?」
「出るんだって白い着物を着た美人の幽霊が」
息子はクスクス笑う。
「何でもここの患者で腹痛を訴えて何回も通院していたけど医者はただの腹痛だと放置されて……彼女は死んでしまった」
「どうして彼女は亡くなったの?」
「慢性盲腸で病院に運ばれた時は手遅れで亡くなったんだって」
「怖いよね~誤診。母さんもやばかったからね」
そう私も誤診だった。
8月に酷い腹痛があり医者に診てもらったが何ともないという。
結局卵管と卵巣が捻じれ腸に癒着していた。
それが分かったのは11月の末で、手術して12月の中頃に退院だ。
痛み止めの薬が効きにくく、一週間腹痛で苦しんだ。
ああ……彼女も苦しかったのだろう。
病気なのに病気と認めてもらえないのは辛いよね。
「で……彼女は医院長室に出るの?」
「あれ? この話知ってた? そうだよ医院長に恨み言を言うらしい」
「何て?」
「『このやぶ医者!!』って罵るらしいよ」
「うん。そうだね。彼女には罵倒する権利があるよ」
息子は荷物を持つと看護師と医者に挨拶をして車に乗り込む。
私も助手席に座る。
「本当に幽霊なんかより【やぶ医者】の方が何倍も怖いわよ」
バックミラーに第三病棟が写る。
第三病棟は近々取り壊される。
彼女はどうするんだろう?
このまま建物と一緒に消えるのか?
それとも新しい病棟に現れるのか?
私がその病院を訪れることは無かった。
だから彼女がどうなったのか知らない。
~ 完 ~
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~ あとがき ~
バスに乗っていたら偶然中学校の同級生にあって。
話をしたんですが、彼女は腹痛が収まらず別の病院で診てもらったら【慢性盲腸】で即手術。
あと1日遅れていたら死んでいたそうです。幽霊のモデルは彼女です。
この作品の私のモデルは作者で手術が終わると歩かされました。
入院した総合病院は建て替えになる病棟がありがらんとしていました。
私は見えない人なので幽霊にはあっていません。
この間もバイクで転んで痛くて。
大きい病院に行ってレントゲンやら検査しても原因が分からず。
痛みが再発して、接骨院に行ったらぎっくり腰でした。
本当に幽霊よりやぶ医者の方が怖いです。
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2019/7/30 『小説家になろう』 どんC
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