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どんCの夏のホラー  作者: どんC
4/6

夏のホラー2019  ~ 丘の上の病院 ~

あんまり怖い話ではないです。

 あはははははは


 子供達が土手を走ってくる。

 俺の横をすり抜ける。

 俺は慌てて花束を反対に持つ。

 病院に入院しているばあちゃんに持って行く花だ。

 ついでにばあちゃんの好きな『とらや』のおはぎもお土産だ。

 子供達は5・6人いて。

 皆着物を着ている。

 何処の撮影だろう?

 京都は時代劇の撮影が多く。

 俺は美大生で、この間も寺に写生に行った時も撮影していた。

 大河ドラマで『新選組青い時』と言うタイトルだった。

 この間はサスペンス劇場の撮影で馬ずらの俳優を見かけた。

 夏に放送する戦時中のドラマなんかも良く撮影されているが。

 あの着物を着た子供達も戦前の衣装だろうか?

 映画だろうか? ドラマだろうか?

『おしん』みたいなやつかな?

 でも赤い着物を着た女の子はお嬢様ぽっかったかな。

 流石に子役になるだけあって可愛い子だった。

 大人になったら凄い美人になるんだろうな。

 そんな事を考えていると丘の上の病院にたどり着いた。

 ばあちゃんはもう年で、転んで足を骨折してしまった。

 体力も落ちていて……退院出来ないかも知れない。

 ナースセンターに居る看護婦さんに挨拶してばあちゃんの病室に入る。


「ばあちゃん具合はどうだ?」


 ばあちゃんはアルバムを見ていた。


「ぼちぼちかな」


 ぱたんとアルバムを閉じて俺に微笑む。

 俺はばあちゃん子でばあちゃんに纏わりついていた。


「はい。とらやのおはぎ」


 俺はばあちゃんにおはぎを渡すと花瓶を探す。


「いつもありがとね」


 俺は笑うと花瓶を見つけ祖母がおはぎを食べているうちに花瓶に水を入れて花を生ける。

 アルストロメリアを生けた素焼きの壺を窓辺に置く。

 ヒメジョオンも少し活けてある。

 祖母はヒメジョオンが好きだ。俺にはただの雑草にしか見えないが。

 祖父との思い出の花だという。

 祖父は戦争に行って……帰ってこなかった。


「本当に薫は宗次郎さんにそっくりだわ」


 ばあちゃんはそう言って目を細める。

 ばあちゃんは良い所のお嬢さんで空襲で何もかも失くしてしまったという。

 ただ一つ父だけは残った。

 父も俺も宝物だと言うのがばあちゃんの口癖だ。


「子供の頃の夢を見たのよ」


「どんな夢を見たんだい?」


 ばあちゃんは幸せそうに笑って。


「赤いお気に入りの着物を着てみんなと一緒に走り回っている夢よ」


 少し悲しげに俯き、横になる。


「源ちゃんも花江ちゃんも幸喜くんも森沢さんもみんな死んでしまって今は私だけ……」


「……?」


 そのまま祖母は眠ってしまった。

 俺はそっと病室を出る。



 ~~~~~*~~~~~*~~~~~


「はいからさん?」


 俺は土手を歩く少女を見る。

 袴に矢絣の着物を着てブーツを履いている。

 長い髪に赤いリボンを付けている。

 この間見た赤い着物の女の子が成長した姿だろうか?

 うん。美人だ。

 少女は子守唄を歌いながら俺の横を通り過ぎる。

 あれ?

 あの子守唄は……


「どうしたんだい? 薫」


「ついさっき土手ですれ違った子が子守唄を歌っていたんだけど何処かで聞いたことがあるんだが思い出せないんだよな~」


「どんな子守唄だい」


「ねんねんよ~おころりよ~可愛い坊やはねんねしな~」


「七草数えてねんねしな~良い子にしてれば父様が~馬のおもちゃを買って来る~ねんねんころりよおころりよ~」


 ばあちゃんが歌う。ああ……そうか。

 ばあちゃんが子供の頃歌ってくれた歌なんだ。

 彼女は誰に聞いたんだろう?

 映画で使う歌なのかな?


「星を数えてねんねしな~良い子にしてればかかさまが~赤いおべべを縫ってくれる~ねんねんころりよおころりよ~」


 この歌を聴いて、子供だった俺は直ぐに眠ってしまったな。

 ばあちゃんはまた眠ってしまった。

 俺はばあちゃんを寝かせて掛布団をかける。

 段々と眠る時間が長くなる。

 俺はそっと病室を出た。



 ~~~~~*~~~~~*~~~~~*~~~~~



 今日は少し遅くなってしまった。

 美大で飼っている孔雀の世話をしていたのだ。

 あの糞孔雀~~~女には攻撃しないが俺には攻撃してきやがる。

 なんだ自分の事を人間だと思っているのか!!

 そしてハーレムに俺は邪魔なのか!!

 何時か焼き鳥にしてやる~~~~!!


 ああ……彼女だ。

 赤い着物を着て。白い日傘をさしている。

 髪は結い上げて色っぽい。

 白い花束を大事そうに抱えている。

 今日は隣に男がいる。

 若い男で着物を着て丸い眼鏡をかけている。

 二人は笑い合って幸せそうだ。

 若夫婦と言った感じか。

 ん?

 白い花はヒメジョオンか?


 ふと昔にばあちゃんがじいちゃんの事を話してくれた事を思い出す。

 じいちゃんは戦争に行く前に両手いっぱいのヒメジョオンをくれたそうだ。

 そして……戦争から帰って来たら、一緒にヒメジョオンの咲き乱れるその場所に行こうと。

 約束したが、じいちゃんは戦死して……

 約束は守れなかった。


 しかし二人共見たことない顔だな。

 新人俳優か?

 二人とすれ違い足を止める。

 振り返り男の顔を見る。

 俺にそっくりだ。

 二人の姿が蜃気楼の様に歪み消えた。

 !!

 俺は駆けだした。

 息を切らし病院に駆け込む。

 慌ただしく三階のばあちゃんの部屋に入る。

 医者と看護婦さんが居て。


 ばあちゃんは亡くなっていた。

 とても幸せそうな顔だった。


 九州に転勤していた両親は知らせを受け飛んできた。

 ばあちゃんの葬儀が終わり。

 遺品整理をしていると。ばーちゃんが病院で見ていたアルバムを見つけた。

 とても古いアルバムで白黒写真だ。

 そこに赤い着物を着て笑っている女の子がいた。

 袴姿のハイカラさんもいて。

 白無垢を着たばあちゃんの横に丸い眼鏡の俺に似たじいちゃんがいる。

 ああ……

 じいちゃんがばあちゃんを迎えに来たんだな。

 ばあちゃんの好きな花を持って。

 何て粋なじいちゃんだ。


「オヤジばあちゃんのアルバム貰っていいか?」


「ああ良いよ。お前はばあちゃん子だったから。母さんも喜ぶだろう」


 両親はばあちゃんが住んでいた田舎の家を引き払うと九州に帰って行った。


 俺は安アパートに帰るとアルバムの横にヒメジョオンをコップに生けた。

 それから俺は孔雀に蹴りを入れられながら、何とか美大を卒業して貧乏画家になり。

 結婚して娘も産まれ。

 子供の手を引いてあの土手を歩く。

 娘のお気に入りの散歩コースだ。

 白いヒメジョオンが風に揺れる。

 土手にはヒメジョオンが咲き乱れ。

 じいちゃんがばあちゃんに見せたかった花畑はこんな感じだったのだろうか?

 娘は楽しそうに花を摘む。

 俺は娘と手をつなぎ。

 あの子守唄を歌いながら家路に着いた。


              完


 *************************************

 2019/7/25 『小説家になろう』 どんC

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 ~ 登場人物紹介 ~


 ★ 薫 20歳 

 主人公。京都の美大生。両親は共働きだった為、夏休み・冬休み・春休みは、ばあちゃんの家に預けられる。

 そのためにばあちゃん子になる。美大で飼っている孔雀に蹴りを入れられる。

 画家になるが貧乏。日本画の画材は高い。嫁さんは美人でバリバリ働くエリート。

 他人が見たらヒモにしか見えない。主夫?


 ★ ばあちゃん 75歳

 夫は戦死。一人息子を抱えて苦労した。

 じいさんに似た孫が可愛い。

 田舎に住んでいたが骨折したので京都の病院に入院。


 ★ じいちゃん 享年22歳

 戦争に行く前にばあちゃんにヒメジョオンを贈る。

 花畑を見に行こうと約束するが戦死する。


 ★ 薫の両親

 共働き。転勤族。










最後までお読みいただきありがとうございます。

因みに友人は京都の美大生でした。孔雀に蹴りを入れられた男子は実在します。

おまけに美大の先生のお父さんはスターウ○ーズのヨ○ダのモデルで先生もヨー○にそっくりだったとか。

あれってデフォルメじゃなかったんだ。友人もお寺にスケッチに行くとよく撮影しているとか。

友人の話から思いついた物です。友人に感謝を込めて書きました。ではまた。

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