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どんCの夏のホラー  作者: どんC
3/6

夏のホラー2019 ~ 四ノ宮病院 ~

「ほら、あそこに立っているの28号室の原田さんじゃない?」


 そう尋ねたのは先輩看護師の川崎さんだ。

 28号室の原田さんはこの間ガンで亡くなっている。

 そう、そこに立っているのは世間で言う所の幽霊。

 私も川崎先輩も世に言う視えちゃう人なんだよね。


「自分の家には帰らないのかしら?」


「う~ん。病院暮らしが長かった人はここが終の棲家になっているからね」


 この病院は何故だか末期の人が多く訪れる。

 海の近くの崖の上に立つ病院は確かに終の棲家にはいいかも知れない。

 今は無いが森の中に平安貴族の館があったとか。

 それでここらの地名はその貴族の名で四ノしのみやと言うらしい。


「それに亡くなられた原田さんには家族がいないらしいから」


「私達(看護師)が家族ですか?」


 川崎先輩は儚く笑う。


「でも不思議ですね。ああ言う人達は四十九日を過ぎると居なくなる」


「そうね。お迎えが来るのかしら?」


「ああ。そう言えば海外旅行に行った友人が言ってました」


「なんて?」


「日本は割と浮遊霊が多いけど害はないそうです。外国は割と浮遊霊はいなくって。居るのは質が悪い奴ばっかりだと。」


「不思議ね」


「本当に不思議ですね。どうしてなんでしょう? 宗教の関係でしょうか?」


「そうかも知れないわね」


 川崎綾香先輩は美人だ。

 色が白く白黒映画に出てくる女優のようだ。

 立ち振る舞いも品がある。

 言っちゃ悪いが掃き溜めに鶴だと思う。


「でも……最近多く無いですか? 入院患者では無い幽霊も見かけるようになったし……」


「霊道でも変わったかしら?」


 川崎先輩は首を傾げる。


「こらこら君達お喋りしてないで手を動かす」


 狸に似た医院長が手を叩く。

 何故だか動物が出てくるゲームの店主のタヌキに似ていてムカつく。

 あの狸どれだけ人を借金まみれにすれば気が済むんだ。

 最も私は医院長に借金は無いが。


「あっ。いけない。検診の時間だわ。網谷さん交替よ」


「あ……もうこんな時間、お疲れ様です」


 私は挨拶をして着替えると電動自転車を置いている駐輪場に向かう。

 その道すがらまた5人ほど幽霊に出会う。

 若い女の人が一人と初老の老人一人と男子高校生一人と後は中年男性が2人だ。

 私は夜勤明けの体に鞭打って自転車で坂を降りる。

 朝日が眩しい。下りるのは良いが、上るのは『弱虫○ダル』の主人公の家の坂の様にキツイ。

 坂の下には町があって、私はコンビニで買い物をする。


「ただいま~」


 誰もいないけど安アパートのドアを開け声を掛ける。


「京子姉ちゃん。お帰り~」


 妹の安奈が出迎えてくれる。


「安奈なんであんたがここに居るの?」


「大学の郷土研究でこの土地に関する事で調べたいことがあったのよ。暫く厄介になるわ。朝ご飯? 昼ご飯? 作っといたよ」


「おお~心の友(妹)よ~」


「あんたは何処のジャイアンよ!!」


 私達は笑う。妹が作った豆腐の味噌汁に焼き魚にきゅうりの漬物を美味しく頂きました。

 デザートはコンビニで買って来た芋羊羹とお茶だ。


「じゃ、私はちょっと寝るね」


「うん。私はお茶碗洗ったら郷土資料館に行ってくる」


 私は布団に入って寝た。

 気が付けば夕方になっていて、妹が晩御飯を作っていてくれた。


「やっぱ~あんたの料理は、ばあちゃん仕込みで美味いわ~」


 もしゃもしゃと筑前煮を食べる。


「姉ちゃんもばあちゃんに倣ったろう」


「う~ん。でもね何故だか私が作るとこれじゃない感があるのよね~」


 ああ……豚汁がうめえ~。

 焼きナスもうめえ~。きゅうりの漬物もうめえ~。


「ところでさ~何か分かった?」


「ああ……今は無いけど昔この地方に【一宮神社】【二宮神社】【三宮神社】【四宮神社】があってね。おねえちゃんが勤務している【四ノ宮病院】は【四宮神社】の跡地らしいんだ」


「ふ~ん」


「それでその神社は何故だか一直線に並んでいてね。もしかしたら海の方に【五宮神社】【六宮神社】【七宮神社】があったのかも知れない」


「島の上に? 海の中に? レイラインポイ奴?」


 ふふ私ムー民です。


「北斗七星信仰かは分からないけどね。もっと資料を調べないと分からないけどね」


「ふ~ん。それよりゲームしない?」


「ゾンビゲーム? ストレス溜まってる?」


 私達は皿を洗った後、ゾンビを殲滅した。

 妹は次の日も資料館に入りびたり。

 私は電動自転車で坂の上を駆け上がる。


「おはようございます」


「おはようございます」


 私は看護師仲間に挨拶すると。

 看護師長が私の元にやって来た。


「貴方川崎さんを知らない? 昨日の休憩時間から居ないのよ」


「えっ? 先輩居なくなったんですか?」


「ええ。20年前にも若い看護師が行方不明になって……あ……なんでもないわ。医院長は何か知っているかも……」


 看護師長は気になることを言かけて慌てて医院長に聞きに行った。

 どす黒い不安が広がっていく。

 川崎先輩のロッカーには着替えや財布の入ったバッグがそのままで、看護師の制服のまま何処に行ったというのだろう?

 更衣室ロッカーの前で幽霊の原田さんが立っていた。

 亡くなったと時のパジャマのままで。パッと見には生きている人のように見える。

 亡くなった方が顔色が良いのはどういう事だ?

 えっ? 覗き? いくら幽霊でも40代おっさんに見られるのは嫌なんですけど。

 えっ? 違う? こっちにこい?

 もしかして川崎先輩がどこに居るのか知っているの?

 原田さんの幽霊が頷く。

 私は幽霊に案内されるがままに着いていく。

 あんなことになるとも知らず。



「防空壕?」


 原田さんの幽霊が案内してくれたのは病院の裏にある防空壕だった。

 鍵がかかっている。

 原田さんの幽霊が鍵に触る。

 ガチャリと鍵が地面に落ちた。

 おお~凄い泥棒で食べていける、幽霊だけど。

 防空壕の中に入る。

 5m程行くと赤い鳥居があった。

 そして……小さな神社がある。

 私は急いで神社の中に入り。縛られている川崎先輩を見つけた。


「川崎先輩!!」


 私は床に転がる先輩の縄をほどく。

 薬を嗅がされているのか目を覚まさない。

 私は川崎先輩をおんぶする。

 原田さんが神社の裏に隠れるように言う。

 不思議だ。声は聞こえないのに頭に指示が浮かぶ。

 私は言われるがまま神社の裏に隠れる。

 そして……見てはいけない物を見てしまった。

 そこには三つの赤い鳥居と三つの神社があった。

 鳥居と神社があった空間は捩れ奈落の底のように暗い空間に繋がっていた。

 三半規管が可笑しくなりそうだ。

 しかもドクンドクンと空間が生き物のように脈を打っている。

 私は吐いた。

 その空間は見る者の平衡感覚を狂わせ異臭がした。

 その異臭は暗い穴から流れて来ていて。

 鉄の臭いと何か腐った匂い。

 気持ち悪くて動けない。


「見てはいけない物を見てしまったね」


 医院長がいた。

 いつもの白衣が神主姿に変わっている。


「医院長……もしかして四宮神社の神主何ですか?」


「はは……神主としての役目があってね。悪いけど贄になって貰うよ」


 このオヤジあっさり言いやがったよ!!


「この変な空間は何なんですか? まるで……まるで地獄の様な……」


「網谷君は鈍そうなのに勘が鋭いね。でも余計なことに首を突っ込んで破滅するタイプだね」


 医院長は屈託なく笑う。

 余計なお世話だ!!


「そう……地獄の門だよ。この地方には元々七つの神社があってね。【一宮神社】【二宮神社】【三宮神社】は空襲で焼けてしまい。【五宮神社】【六宮神社】【七宮神社】は御覧のように地獄に引き込まれてあの有様さ」


 医院長はねじれた空間にある三つの神社を見上げる。


「もうこの【四宮神社】しかないんだ。ここが飲み込まれる前に封印しないとね。もう地獄の門が開きかけてる」


 医院長はため息をついた。諦念の表情で私に頼み込む。


「すまないね。この世を守るために生贄になってくれ」


 私達と医院長の間に原田さんが割り込んだ。

 医院長の後ろに昨日見た5人の幽霊が立っていた。

 若い女性だけ巫女の装束で後の4人は神主の装束だ。

 原田さんもいつの間にか神主の装束に身を包んでいる。


「なっ……お前たちは? まさか……」


 6人は医院長を取り押さえると赤い鳥居をくぐる。

 いきなり医院長がへたり込み血を吐く。

 6人はグルグルと医院長の周りを回る。

 まるでかごめをしているように。


 ゴゴゴゴゴゴゴオオオォォォ-オォォォォ


 大地が揺れてあの空間も捻じれた。


 ___ いきなさい ___


 原田さんの声がした。

 私は先輩を抱えて走る。

 火事場の馬鹿力という奴だろうか。

 いつもの鈍亀とは思えないスピードで私は防空壕の入り口まで走る。

 私が防空壕の入り口から転がり出ると同時だった。

 バカリと大地が割れ。海の中に崩れ落ちて行った。

 私は先輩を抱いたまま気を失なう。




 私と川崎先輩は白い花束を持って今は廃病院となった病院を訪れた。

 病院の前には立ち入り禁止の黄色いテープが張られ。

 侵入者を拒んでいる。


「早いものですね。あれから1年も経つなんて」


 病院の真後ろまで崖崩れが起き。

 大騒ぎとなった。

 病院は廃病院となり。

 病院の患者さんは町の各病院に搬送された。

 私と先輩は口裏を合わせ。

 医院長と川崎先輩と私が防空壕が崩れ始めていることに気づき。

 みんなを避難させる前に崖崩れが起きて医院長は崖崩れの犠牲となったと嘘をついた。

 本当のことを言っても誰も信じない。

 医院長の事は怨む気はない。

 私はあれを見てしまったのだから。

 ぶっちゃけ人一人の命であの空間が閉ざされるのなら安いものだろう。

 自分が生贄にされないのであれば。

 つくづく私は自分勝手な人間だ。

 でもあの6人は何者だったのだろう。

 皆神主の装束を纏っていた。


 私達は花束を置き手を合わせた。

 川崎先輩は婚約者の車に乗り込み。

 妹は赤い車の前で待っていてくれた。

 妹は最近免許を取って、私と折半で車を買った。


「明後日の結婚式にまた会いましょう」


 と手を振って婚約者と共に去っていった。

 ちくせう~~リア充爆発しろ!!

 私は妹と共に指を立てる。

 私達も赤い車に乗り込み家路につく。


「それでね。色々調べて見たんだ」


 妹はこの地方の古い地図を出した。

 江戸時代ぐらいの地図で、例の神社も載っている。


「空襲の前までは【一宮神社】【二宮神社】【三宮神社】は町の中にあって、【四宮神社】はやっぱり崖の上にあった。【五宮神社】【六宮神社】【七宮神社】はここら辺の小さい島にあったんだと思う」


 私は冷蔵庫から麦茶を出し妹のコップに注ぐ。


「それでね郷土研究会で無くなった神社の事を調べてる。神社の神主だった人の話も聞きたいと言ったら皆さん協力的で色々教えてくれた。それでね。姉ちゃんが見たのはやっぱり喪失した神社の神主の子孫だったわ」


 妹は6枚の写真を紙袋から出す。

 私があの日見た人達で、ここ数年のうちに亡くなっていた。

【一宮神社】 一宮晶いちのみやしょう17歳 相沢高校2年 交通事故で死亡。

【二宮神社】 二宮神治にのみやしんじ60歳 会社員 肺炎で死亡。

【三宮神社】 三宮真太郎さんのみやしんたろう54歳 大工 建築現場から転落死。

【四宮神社】 四宮譲二しのみやじょうじ 49歳 医者 崖崩れにより行方不明。

【五宮神社】 五宮亜里沙ごのみやありさ 20歳 大学生 白血病で病死。

【六宮神社】 六宮金次郎ろくのみやきんじろう 87歳 老衰

【七宮神社】 原田勇はらだゆう 43歳 養子の前の苗字は七宮 癌で病死。


「原田さん養子だったんだね」


 私は原田さんの写真をなでる。


「この七つの神社は北斗七星を祭っているのかと思ったけど。違うみたい」


「【七福神】? それとも……【七人みさき】?」


「七福伸って船に乗ってる福の神よね。【七人みさき】は幽霊? 妖怪? 7人で行動して人を取り殺し仲間に引きずり込んでそうすると前に居た霊が成仏するっていう。でも……みさきって神様の使いなんだけど……」


「結局本当の事は分からないのか……」

 私はため息をついた。


 ___ いきなさい ___


 原田さんが最後に言った言葉は。


 ___ 行きなさい ___


 ではなく。


 ___ 生きなさい ___


 だったのではないのか?

 私は亡くなった人達の写真に手を合わせる。

 今年の夏も蝉が命の限り歌っている。

 私は彼らに救われた命を精一杯生きて行こうと思った。




                  完




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 2019/7/18 『小説家になろう』 どんC

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 ~登場人物紹介~


 ★ 網谷京子 23歳

 看護師。ゾンビゲームでストレス発散。オカルト雑誌の愛読者でムー民を自称。

 幽霊が視えちゃう子で作者の友人にモデルあり。


 ★ 川崎綾香 24歳

 看護師。京子の先輩。この人も視えちゃう人。

 美人で婚約者あり。


 ★ 網谷安奈 20歳

 京子の妹。大学生。郷土研究会に入っている。

 この子も視えちゃう子。


 ★ 四宮譲二 49歳

 四ノ宮病院の医院長。四宮神社の神主でもある。

 6人の幽霊に生贄にされる。そのおかげで異界の門は閉ざされる。

 医院長君の雄姿は忘れない。


 ★ 北斗七星信仰と七福神

 余り本編とは関係無い。


 ★ ムー民

 某オカルト雑誌の愛読者をそう呼ぶ。


 ★ 七人みさき

 海岸などに現れる妖怪? 常に七人で行動する。

 人を取り殺し仲間にすると一人が成仏する。

 常に七人でその数は増えも減りもしない。

 みさきとは神の使いの意味がある。









この作品に出てきた看護師は作者の友人がモデルで初めの会話は実際の会話です。

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