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幕間 ある夜の出来事

 時間は遡る。

 これは、まだ流人が目を覚ます前の話。

 

 黒づくめの服装に、頭から熊の皮衣をかぶった男―――ドゥークが夜一人で酒を飲んでいる。

 ドゥークは酒が好きであった。

 彼は体質的に毒に強いせいか、どれだけ飲んでも酔っ払うことはないが、酔っ払ったつもりになって素面しらふではしないことをするのが好きなのであった。

 この日も大きな瓶二本分の酒を飲み干したところだった。体の中をいい具合に酒精アルコールが巡っている。

 この良い気分のまま、一曲歌でも歌うか、と考えだしたとき、不意に自分の家の扉を叩く音が聞こえた。

 ドゥークの家は、人里離れた――――もっと言えば人外魔境にある。

 そんなドゥークの家をおとなう者はほとんどいない。ごく限られた知り合いか、もしくは本物の怪物バケモノだけだ。

 自然、ドゥークの顔に緊張が現れる。酒気はいっぺんに飛んでしまった。三歩離れたところに立てかけてあった自分の剣を手元に引き寄せる。

 再び扉を叩く音が聞こえた。とんとんとんと三回扉を叩く音がした。風のいたずらではない。確かに意思ある者が扉を叩いているのだ。


「誰だ?こんな時間に。何かわしに急ぎの用事でもあるのか?」


 ドゥークは慎重に声をかける。手元の剣は鯉口を切っている。


 すると、扉の向こうから返事が返ってきた。


「おい、おい、我が親愛なるドゥークよ。君の友が訪ねてきたぞ。早くこの扉を開けておくれ」


 若い男の声が、芝居がかった言葉を朗々と言う。


 ドゥークは、気組みを外された気分であった。どうやらごく限られた知り合いの方であったようだ。それも悪い方の。 

 

「おい、ケイオス。また、厄介なことをしでかして来たのだろう。できれば回れ右をして帰ってくれないか?」


「おお、ドゥーク。我が友よ。そんな冷たい言葉は聞きたくない。それに僕一人なら回れ右をして帰ってもいいかもしれないが、こちらには君の助けを必要としている幼子が一人いる。君はいたいけな子どもを見捨てるような男だったか?」


 芝居っ気たっぷりにケイオスが言う。


 どうもこの男と話しているとからかわれているような気がしていかん、とドゥークは思いつつ、聞き捨てならない言葉がケイオスの話の中にあったので、確認する。


「ちょっと待て。子どもがいるのか?」


「ああ、いる。今はすやすやと眠っている。」


「・・・・・しょうがない。待ってろ、今開ける」


 ドゥークは、子どもがいると聞いては、聞き捨てにもできないと思い、扉に付いたかんぬきを引き抜き、扉を開ける。


「おお、ドゥーク。やはり持つべきものは友達だな。今僕は猛烈に感動して――」


「子どもというのは、どこだ。」


 ドゥークがケイオスの長台詞を遮って聞く。


「ああ、ここだよ。この子がそうだ。」


 ケイオスが自分の腕の中で眠っている子どもを顎で示す。


「ああ、そこか。一体なんでお前が子供など・・・・・・!」


 子どもを見るドゥークの顔が驚愕で固まる。


「おまえ!この子は角が一〇本も・・・・!いったいどこでこの子を見つけたんだ!」


 子どもを見るドゥークの体が驚愕と畏怖で震えている。


「いやぁ、思わぬところで思わぬ逸材を発見ってね。僕は運命論者じゃないけど、その子に関しては間違いなく運命を感じるよ。・・・・・・まったく、異世界まで行った甲斐があったってものさ」


「異世界?お前は一体どこに行っていたのだ」


「まぁまぁ、話は中でじっくりとしよう。その子の育成にはぜひ君の手を借りたいと思っているんだ。君に預けてじっくりと鍛えてもらいたいとね」


「何!わしに子どもを預かれというのか!?だめだ、だめだ。わしは子どもは苦手なんだ。すぐに泣きおるからな」


「その子に限っては、そんなに心配しなくても、大丈夫じゃないかな。・・・・・なにしろ中身はもっと大きいんだからね」


「???・・・・お前の言うことは、相変わらずよくわからん」


 騒がしく、夜は更けていく。


 流人が目を覚ます二日前の晩の出来事であった。

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