第二一話 厄介な二人
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なんとなく納得がいかないダニロたちの血塗れ熊の討伐の後、流人たちも村を離れて、一路家に向かって森をひた走った。
一日駆けて森の奥深くにある家に着いたとき、流人は流石にほっとしたものだった。
家には当然のようにローブを頭かぶっている男―――ケイオスが居た。
「やぁ、旅は順調だったようだね。おかえり我が友人たちよ」
まるで、ケイオスの方がこの家の主のようである。
「お前、この家はわしの家だぞ?何を自分の家の顔ようなをして、でかい顔をしておるんだ」
ドゥークがすかさず文句を言う。
「まぁ、そう固いことは言いっこなしってことにしよう。先に帰って僕は家の掃除なんかしてあげたんだからね」
そう言って目で示した先では、箒がひとりでに華麗に舞い踊るように家の中を掃き掃除している。
相変わらず無駄なことに魔法を使う男である。
あれで本当に部屋が綺麗になるのだろうか。
そもそもあれは何という魔法なのだろうか。
流人の疑問は尽きない。
魔法を見ていると、ブレアのことを思い出す。なかなか凄い魔法の使い手だった。
そこで、ふと疑問に思っていたことを思い出して、ケイオスに質問する。
「・・・なぁ、ケイオス。いきなり変な質問をするようだけど、この世界では魔法を使うのに杖使うのが一般的なのか?俺は杖なしでぽんぽん魔法を使っていたが」
「うん?本当に突然だね?何かあったのかい?」
そう聞かれたので、流人は森に帰る途中の村で出会った冒険者のダニロとブレアのことについて語る。
「ふむ、なるほど。そのブレアという冒険者が魔法を使うのに杖を使っていたから、そういう疑問を抱いたんだね。確かに魔法を専門的に使う人間はその補助として杖なんかを使う」
「ふぅん、あくまで補助なんだな」
「そうさ。魔法というのは術者のイメージを魔力で具体化する技術なんだ。究極的にいえば呪文さえもその補助に過ぎない。杖を使うのは魔法の威力を増強したり、魔法を行使することによる負担を軽減したりするためだね」
「じゃあ、俺も杖を持っていた方がいいのか?」
「いやいや、真の魔法使いたる者、いくら便利だからと言って補助付きで魔法を使い続けるのはいただけないね。そんなことではいつまで経っても無詠唱の魔法行使などできないからね」
どうやらケイオスにはケイオスの魔法に対するこだわりがあるらしい。
まぁ、使わなくていいんなら、使わなくて済む方が良い、戦闘中にいちいち剣と杖を持ち替えるなど面倒だ。
「それにしても、そのダニロとブレアという冒険者はドゥークに対してそんな舐めた真似をしてよく無事で済んだね。僕の知っているドゥークなら良くて半殺しにしているところだけど」
「こら!人を人間凶器みたいに言うな!わしは年長者の冒険者として当然の対応をしたまでのことだ」
ドゥークがケイオスの言いぐさに文句をつける。
「ふぅん、我が友も随分と大人になったようで」
ケイオスは何やらニヤニヤしている。
「そうだ、師匠、残りの依頼はどうします?また二重依頼してるかもしれませんが」
「行くしかねぇだろ。二重依頼してるかどうかなんてわしらにはわからないんだから。もう一回メルゲンまで行って確認する方が面倒だ」
「そうですね。じゃあとりあえず明日から依頼に取り掛かりますか」
「そうだな。ま、金には困ってねぇんだ。あいつらが先に片付けちまうならそれもいいさ」
そういうことになったのだった。
ここは『黒の森』東側にある名もなき村。
そのに流人とドゥークが魔物退治にやって来ていた。
ここでの標的は大猿。体長が大人の二倍ほどもある大きな猿である。同じ猿の魔物であるキラーエイプなどとは危険性は段違い。その強さは一匹で血塗れ熊に匹敵するほどである。その特性は何と言っても強力な手足の力と、群れで行動すること。こんなに巨きくなっても群れで行動する猿の特性は失われないらしい。その危険性はギルドの基準で討伐はレベル四以上推奨とされているほどである。
村にやって来ると、道々の家の多くが半壊または全壊している。
大猿の仕業だろう。
道を歩いている村人を捕まえて大猿についての情報を聞き出す。
大猿は不定期の時間にやって来て、村の家々を破壊して回り、人々を殺しているらしい。
ついでに退治にすでに冒険者が来ていることも聞いた。
十中八九、ダニロとブレアだろう。
ついでにその冒険者がいるところまで案内してもらった。
「まーた、あんたらか。あんたらあれか?俺のファンだったりとかするのか?」
流人とドゥークを見たダニロは開口一番に嫌そうにそう言った。
「そんなわけあるか、馬鹿たれ。また依頼が被っただけだ。ついでに聞くんだが、お前さんたち西の村で突撃猪の退治とか請け負ってないか?」
ドゥークは討伐がはじまる前からすでに疲れたように言う
「ああ、それなら昨日、俺たちがやっつけてやったぜ。いやぁ、俺の華麗な剣捌きをあんたらにも見せてやりたかったぜ」
「・・・・・・・」
饒舌なダニロに対して黙して語らないブレア。
またきっとブレアの魔法で倒したんだろうなと流人は思いながら、ダニロの言葉を聞き流す。
「・・・・まったく、結局、三件とも依頼が被ってるじゃねぇか。またこいつらと鉢合わせするし」
「・・・師匠、プラス思考で行きましょう。西の村に行ったら無駄足を踏むところだったんですから」
流人がドゥークを宥める。
「へへへ、こっちに来たのも無駄足だったぜ。何しろこっちの大猿も俺たちがみんな片付けてやるんだからな」
「・・・・お前、今度も自分たちだけでやるつもりか?」
「おうともよ。当たり前じゃねぇか」
ドゥークは頭痛がするというように苦い顔をして頭を押さえる。
「・・・・お前、大猿がどんな魔物か知っているか?」
「ああ、要はでっかい猿だろ」
「・・・・大猿が群れで人を襲うのは知らないか?」
「えっ・・・・あ、ああ、猿くらい何匹来ようが、どうってことねぇよ」
「あのな、大猿ってのは少なくても四、五匹。多ければ十匹以上の群れでやって来るんだ。この前みたいに、お前が前に出て剣を振り回しているうちに後ろからお嬢ちゃんが倒してくれる、なんてやり方は通用しねぇんだ。今回は俺たちも一緒にやってやるから、共同戦線と行こうぜ」
「・・・・・ははーん、さては前回何もすることなくて、すごすご帰ったから、今度はなんとかして分け前をせしめようって腹だな。その手は食わないぜ。共同戦線なんぞ不要だ」
「違うよ、馬鹿。わしが共同戦線を張ろうって言ってるのは、この村の安全と、ついでにお前さんたちの安全をだな―――」
ドゥークがどうにかしてダニロを説得しようとしている途中で村の中から声が上がる。
「猿だ!またでっかい猿の奴が来やがったぞー!!」
「悪いな。お先に失礼するぜ。あんたらはじっくり見物でもしていなよ」
ダニロが身を翻して声のした方に走り出す。
それに付いて行ってブレアも走り出す。
「・・・ああ!くそ!まだ話の途中だろうが!しょうがねぇ、リュート、わしらも行くぞ!」
そう言ってドゥークも流人も戦いの渦の中に突入していくのだった。
村の大猿が暴れている現場はひどいものだった。
家屋がめちゃくちゃに破壊され、逃げ惑う人々が次々と大猿によって、あるいは張り飛ばされ、あるいは絞殺される。
流人の目の前でダニロが剣を振るっているが、その剣は大猿の分厚い筋肉を断てず、薄皮一枚斬るのみに止まっている。
正直、ダニロの剣の腕は中の下程度で決して腕が良いとは言えない。しかし、その攻撃を避けるセンスだけは一人前だ。大猿の当たれば一撃で骨を砕く攻撃を紙一重で躱している。
ダニロが無駄な攻撃と無駄のない回避動作を行っている後ろで、ブレアが杖を掲げる。
「・・・・《赤炎嚆矢》」
ダニロが大きく距離を取ったところで、ブレアの魔法が炸裂する。
「馬鹿!こんなとこでそんな魔法使ったら―――」
ドゥークの警告も空しく、炎の矢が大猿に向かって数十本も放たれる。
炎の矢は、大猿とその周囲にある家屋に降り注ぐ。
あっという間に周囲の家から火の手が上がり火事になる。
燃え上がる大猿と家屋にあたりの光景はいっそう壮絶なものとなる。
そんな中に流人とドゥークは戦いの中に躍りこむ。
「鎮火は後だ!先に大猿の方をなんとかするぞ!」
「承知しました!」
流人はまず大猿に向かって〈分析〉を使う
ヘビーコング
魔獣
筋力:C
耐久:D
敏捷:C
魔力:D
技巧:G
強さは大体血塗れ熊と同じくらいだ。それが複数体。厳しいがやってやれないことはない。
流人の角刀が大猿の首を素早く斬り裂き、ドゥークの剣が大猿の体を豪快に袈裟懸けに断ち切る。その場の大猿が這う這うの体で逃げ出すまではそう時間がかからなかった。
「お前らちょっとそこに座れ」
ドゥークは厳然とダニロとブレアに言い放った。
「はぁ!?なんだよオッサン、なんか文句あるのかよ!?」
「・・・・・・・・」
「いいから座れ」
「座れって、ここで座るとこなんて地面ぐらいしかないじゃねぁか!何でそん―――」
「座れ」
ドゥークから醸し出される雰囲気に押されて、ダニロとブレアが不承不承地面に座る。
「まずお前、ダニロとか言ったな。お前は勇気と無謀を完全に履き違えている」
「何だよ!俺のどこが無謀だってんだよ!?」
「倒せもしないのに、大言壮語を吐きまくって、敵の群れに突っ込んでいくのが無謀じゃないって言う気か?」
「あのままやってりゃ倒せたさ!いいところであんたらが邪魔に入ったんだろうが!」
「ほう、あんな髪の毛一本分ほどの傷をどれだけ相手に与えれば倒せるって言うんだ?一〇〇年後か?」
「くっ・・・・ちっ!」
ダニロは拗ねたように横を向く。
「それから、そっちの・・・えぇと確かブレアとか言うの。お前には危険に対する意識というものがないのか?」
「・・・・・・・」
「あんな周りに家が建っているところで、炎の魔法なんぞ大規模に使ったら、家に火が点くくらいこと五歳児でもわかる。どうしてあんな魔法を使った?」
「・・・・今、私が使える魔法の中で一番効果的な魔法を使った」
「・・・・つまり、敵を倒すことに夢中で、周りの被害には考えが及ばなかったってことか?」
ブレアがこくりと頷く。
「はぁ・・・・お前たち揃いも揃って突撃馬鹿か?今までよく生き残ってこれたな」
「・・・・・まだ一週間」
ブレアがぽつりと呟く。
「うん?何だって?」
「・・・・・私はまだ冒険者になって一週間」
「・・・・おいおい、冗談じゃねぇよな。冒険者になって一週間で森の魔物の退治を請け負ったのかよ。もしかしてそっちのお前もそうか?」
「馬鹿にするんじゃねぇ。俺は冒険者になって一ヵ月半だぜ」
「おいおい、素人同然なのは同じじゃねぇか。ギルドの連中はどこに目をつけてやがるんだ。こんな奴らに緊急性の高い討伐依頼なんか回しやがって」
ドゥークは眩暈がすると言うように頭を押さえる。
「どうします、師匠?」
流人はドゥークにこれからどうするのか聞いた。
「そのまんま放っておいたら、どこかでおっ死ぬだろうな。だが知っちまった以上それも寝覚めが悪い。俺らでこいつらを一人前の冒険者にしてやるしかあるまい」
なんだかんだと言って面倒見が良いドゥークらしい答えなのであった。