表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
便利屋アンサーの六重奏曲  作者: カピバラ2号
『ポルターガイスト』編
9/33

前夜の会議 視点:ルーク

て、展開が遅い…!

どうしようかなぁ


な〜にが可愛かったぜ、だ。この野郎。

あーあー疲れた。

今日はもう動かないぞ〜。


アーサーの低レベルな皮肉を無視して、瞳を閉じ…かけたらトムが居た。

うわっ⁉︎

慌てて飛び起きる。

えー、化粧落としたっけ? 着替えはしたけど。

目を擦るふりして顔を袖で拭っても何も付かない。

うん、大丈夫だ。


「やあトム。何か御用かな?」

「こんばんは。あー、言いにくいんだけどね、調査の進捗具合が気になって。どう?」


ああ、それね…。

まあそうだろうなぁ。


「原因についてはほぼ目星がついたよ」


僕の言葉に2人は目を見開く。


「本当かい⁉︎ それで、どんな…?」

「落ち着けトム。…喉乾いたし、この話は長くなるだろう。アーサー、お茶」

「オッケー。ちょい待ち」


アーサーが用意をする間、トムに尋ねた。


「トム。これは今回の件に関わる事だから正直に話して欲しい。…ユピテル電機の前社長、引退なんかしていないな。4ヶ月前に逮捕されてる。それも…婦女暴行で。どういう事だ?」


それまでの柔和な雰囲気が一転、トムは身を固くする。

警戒する顔つきになって僕を見据えた。


「……どこでそれを?」

「前社長のマーク・フリードマン。彼は父親から受け継いだ会社を1代で大きくした人として有名だからね。著者を読んだ事があって元から知っていたが、確かまだ42歳だった筈だ。その歳で引退はおかしい…気になってツテを調べた。公表されてはいないが簡単に分かったよ」


ツテがどこかは教えられないけど。と付け加えると、トムは唇を噛み締めて天井を仰いだ。

やがてゆっくりと息を吐くと、目線を机に落とす。

その顔は、悔しそうに歪んでいた。


「知っているなら仕方ないね。その通りだよ。…4ヶ月前、女性社員が訴えてきた。社長室まで呼び出されて、そこで乱暴されたってね。

信じられなかったよ。だってあの人はとても優しくて、素晴らしい紳士だったからね。私のような末端の社員にまで気を遣ってくれるし、奥さんと娘さんをとても大切にしていたし。……当然本人は否定した。私達も庇った。 訴えてきた女性社員は異性関係が派手だったから、何かそう言った事情があったのかもしれないけど、少なくとも社長は人を傷つけるような事は絶対しない。きっと何かの間違いだ」


話しながらトムは、拳をきつく握りしめている。

当時の悔しさを思い出したのか。

にしても、前社長は随分信頼されているな。


「でも、逮捕されたんだろう?」

「ああ、そうなんだ。…最初はそんなんじゃなかった。社長は人格者で通っていた上に、彼女の異性関係と、お金に困っていた事はすぐ調べられて、被害を取り消す代わりに金を出せって脅すつもりじゃないかって見方が強かったから。でも、目撃者が出たんだよ。部長さ。社長室に入った時現場に出くわして、その場で喋ったらクビだって脅されたって。そんな訳ないって全員で抗議した。

それもすぐ下火になったけど。何しろ、社長本人が犯行を認めたんだ。…もう、無駄だったよ。それ以来、会社はその事実を隠して何事もなかったみたいにしてるよ」


そう言ってトムは自嘲気味に笑った。

そうか…。そんな事g


「そんな事があったんだ…ふーん」


背後から声がして同時に紅茶とサンドイッチが僕らの前に置かれた。

振り返るとアーサーが突っ立っていた。


「…聞いてたのか。てか、頼むから気配消して後ろにいるのはやめろ」

「ん。そんでさ、あの現象は一体なんなの? その事件にどんな関係があるんだよ。夕方お前に話したけど、ちゃんとした意志を持って動いてるぞ、アレ」


例の子供が怪我したっていうやつか。

アーサーはソファにあぐらをかいて座った。


「そうだったな。 じゃ、2人はポルターガイストって知ってるか?」

「?…知らね」

「どこかで聞いた…かも」


そうか。

僕は紅茶を一口飲んで、説明を始めた。

ポルターガイストとは、一種の心霊現象とされている、通常では説明も証明も出来ない現象の1つ。

その場にいる人が誰も手を触れていないのにも関わらず、物体が動いたり出所不明な音や光が出たり、凄いものでは発火したりする。

何もない場所から小石が降り注いだ、なんてのも図書館の本に載っていた。

今回の事件も恐らくその『ポルターガイスト』だ。

そう言うとトムは顔を青くした。


「やっぱり…心霊現象なのか…」

「そうとも限らないよ。原因については様々な議論が交わされているからな。心霊現象だ、と言う意見もあれば、悪戯や誤認とする人もいる。建物の欠陥だと指摘され、その欠陥を直したら収まったってのもある」


今度は安堵した表情を作る。

どうでもいいけど忙しいやつだな。

が、その安堵を次はアーサーがぶち壊した。


「でもさ、あれそーゆーのあり得ないと思うんだけど。アパートだって、その場以外はなんともなかったし」

「ぅ…まぁそうだね…」


ついでに悪戯とか誤解もない。

流石に無理があるだろ。

無理が通れば道理がひっこむ、なんて諺もあるにはあるが。


「話を聞いた限りでは霊が絡むような事情もないしな。そこでだ。もう一個可能性を提示しよう。それは…」

「それは…?」


2人が唾を飲み込む気配。

充分に間を開けて僕は言った。


「超能力だ…! 所謂サイコキネシスだよ!!」


ふはは! どうだ、驚いたか? ああん?

反応を伺うとアーサーが首を捻った。


「いやいや、なんでそーなるんだよ。お前、祟りとか魔法とかUFOとか、オカルト系は否定派だっただろ?」


んん? 何ほざいてるんだアーサー。


「祟りなんて代物あり得ないだろう。魔法はファンタジーだ。そして超能力者とUFOは実在する…と思う。知らないからって何でもかんでもオカルトで括るな」


トムまで疑念の目を僕に向けた。


「祟りとUFOの境界線が分からないよ…ああ区分とかではないからね。ただなんて言うか…本気なの?」


失礼な。本気も本気。もう本気(マジ)と読んでもいいぐらいだ。

僕だって適当に主張している訳じゃない。

ちゃんとそうした見解はある。

それは超心理学的解釈と呼ばれている。

主に、精神が不安定な思春期の少年少女が、無意識に念力を発動して起こる…って内容。


「?…なら、それ違くね? 無意識なんだろ」


チッ…アーサーは無駄に察しがいい時あるから嫌なんだよ。


「だーかーらー、無意識ではないって事だろ。要するにポルターはれっきとした超能力者で、その能力を制御できているやつって事だ」

「え、何、ポルターって」

「対象の仮名だ。ポルターガイストだと長いだろ」


トムが何か残念なものを見たっぽい反応をした。

それにアーサーがごしょごしょと耳打ちをすると、ああ、と納得した。

は? 何だよ、文句でもあるのか?

…もういい。話が進まん。


「で、だ。ユピテル電機の周りで念力を持っていそうでこの事件に関わりがある女性をピックアップしてみた。その結果…3人の候補が上がった」


机の上に3人について纏めた資料を出す。

これを作る為に今日はかなりがんばった。

言わないけどな!!!


「まず1人目…メラニー・アドラム。さっき聞いた社長に襲われたと訴えた人。今は新社長の秘書になってるな」

「あの人が? でもそんな素振りなかったよ」

「今回の件で不安定になって覚醒したのかもしれない。前社長への自責の念でな」


4ヶ月前、マークの弟が自宅で社長就任記念パーティーを開いた。

図書館にあった雑誌に載っていたのだ。

勿論引退の理由は伏せられて。

記念できる事だとは思えないが、部長と新社長とで率先して行ったんだと。

部長が協力した理由は良く分からなかったが、トムの話で納得。

仲がおよろしいようで。


写真ではなく挿絵なのが何となーく気になって調べた。

そしたら、そこでもポルターガイストは起こったらしい。てか初回がそこだ。

詳細は不明だが、記者を騙して手に入れた唯一の現場写真は、凄い、の一言に尽きる。

まるで嵐が通ったか、アーサーとポピーが暴れたかと見紛う程の散らかりよう。

ポルターは、そこで色々と爆発しちゃったのでは?

そして能力に目覚め、ポルターガイスト騒ぎを起こして新社長を辞めさせることを思いついたのでは。


それは何故か。

調べた結果と話を聞いての推測だが恐らく、マークは嵌められたのだろう。

弟と部長とメラニーに。

メラニーの主張と部長の証言以外に、絶対的な証拠がない。せいぜい破れた服くらいだが、そんなもんの偽造はちょろい。

メラニーは金で抱き込まれたのだろう。

目立たない程度だが、最近羽振りが良い…ってのは彼女の行きつけのバーで聞き出した。


僕の意見にトムはかなり嬉しそうだ。

良かったな。


が、まぁそんな感じだ。

多少は良心が咎めているんじゃなかろうか。

彼女は母子家庭で、学歴は低いのに雇ってくれたマークに対しては恩がある筈。

そうじゃないならクズだ。

で、その抑圧された良心が、呑気にパーティーなんか開いた2人への嫌悪感とか怒りとかで能力発現に繋がった…とかね。

22歳とギリギリ思春期と言えなくもない…かも。


2人目は奥さんのエリン・フリードマン。

動機は言わずもがな、行動する時間もある。

割と前から病気で入院しているから。

細かい事情を知っているかは疑問だが。

まあ、この入院が旦那を欲求不満にして犯行に走らせたのではって言われちゃったりもしてるしな。

責任を取るつもりで能力を解放…良くね?

ぶっちゃけ1番好みのストーリーだ。


それで3人目…エミリー・フリードマン。

前社長の一人娘。歳は15、アーサーと同い年。

こちらも動機は充分、更に思春期ど真ん中。

更にアーサーが調べてきた家具屋の話、ポルターのセリフはかなり子供っぽい印象がした。

悪魔なんてのを持ち出す辺りも、犯人像では1番近い。


「こんな所だが、どう思う?」

「私は…メラニーじゃないかな、というより、メラニーであって欲しい」


切実な願いだなぁ。

まーそうだろう。

……その可能性は低いがな。

わざわざ伝える事もない。


「アーサーは?」

「え、オレ? オレはー、エミリーさんだと思うぜ。勘だけど」

「そうか。…この3人以外の線もあるが、時間もないしこれで行こう。ひいては、明日直接問い質してみたいんだが」


けれど、メラニーは会社、エリンは病院、エミリーは学校から家。

それぞれ距離がある。1日で回るのは面倒だ。

丁度3人だし、トムにも御助力願おう。


「トム、君、ポルターガイストの原因を突き止める他に仕事はあるか?」

「ん?そうだね…クビ直前だからないなぁ。一応顧客巡りはしてるけど」

「そうか。なら、君はメラニーに接触してくれ。同僚相手なら彼女も油断するかも知れない」


トムは顕著に嫌がった。

けどそこは譲らんよ。

報酬割り引くからって条件で了承させた。


「で、僕は狂言の証拠探しにユピテル電機に潜入しようと思う。それから病院に行ってエリンに会ってみる。…流れで分かるだろうがアーサーはエミリーをよろしく」

「オッケー。学校行けばいい?」

「いや、家にしてくれ。住所はこれ。第一君、明日の午前は別の仕事あるだろ」


住所を書いたメモを受け取ったアーサーは、そうだった、と舌を出す。


「それでは本日は解散! 各々明日に備えろよ。トム、もう遅いし泊まっていくかい?」

「いや、ここからなら割と近いから。おやすみ」

「バイバーイ、トムさん」

「おやすみ、トム」


アーサーはその後すぐ眠りにつき、僕も潜入の準備をして寝た。

明日は忙しいな…。




なんか矛盾がある気がします。

気づいた方は教えてください

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ