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便利屋アンサーの六重奏曲  作者: カピバラ2号
『ポルターガイスト』編
6/33

受諾と受難 視点:ルーク


「頼めるだろうか」


事情を説明するうちに、異様な事態と自分の置かれた立場を再認識したのか、僕らに向かってトムは頭を下げた。



話を聞いた感想としては、二流の小説、って所だ。

信じるには値しない、ゴシップ記事に面白半分で書かれる話。


それでも。


チラ、とアーサーを見た。

アーサーも僕を見ていたらしく目が合う。

こいつが何を言いたいのかは分かりきっていた。

そしてその言いたい事は僕も同じだった。


「頭を上げろ、トム」


トムはゆっくり頭を上げ僕を見た。

その目は何かを期待している。

同時に不安を孕んでもいたが。

良いだろう。その期待、応えてやるよ。


「その依頼」

「受けるぜトムさん!!!」


…肝心な所をアーサーは持って行く。

いつもそうだ。

流石に慣れたよちくしょう。


「ほ、本当かい⁉︎ 良かった〜」

トムは緊張感から解き放たれてふにゃりと笑った。

…マジで28かこいつ。


「いや〜受けないなんて事はないとは思ってたけどね〜。ありがとう! よろしく頼むよ」

「おう! 任せとけ!」


そんなやり取りをして2人はまた千切れそうな勢いで握手した。

おいおい、知らない間に随分仲良くなってるな。

別に、構わないけどね。


「それじゃあ時間もあまりないし、すぐにでも調査に取り掛かろうか」


調査、の単語に2人は握手をピタッと止める。


「調査って何やんの? テレビ調べる?」

「いや、それは恐らく無駄だ。第一、僕達が仕組みを調べたって何もわからないよ。専門家のトムが既にみてあるし」


アーサーは首を傾げた。

「じゃあ…どーすんの?」


ふむ。どうするか。

顎に手を当てて脳内1人会議を開く。


調べる前に僕なりにこの現象を考察してみよう。


電化製品に異常が無い可能性はゼロではない。

トムは開発担当とは違うらしいし、設計の段階で何かが組み込まれていたらまず発見できないだろう。

…だが、そんな行為に意味はあるのか?

自分の勤める会社にワザと不利益を出すって、何の為だよ。

他社からの工作員が入り込んで…とか?

回りくどすぎだろ。

そんな事するなら単に情報を流出させたり、適当な人身事故を起こす方が早いし確実だ。漏電で火事とか。

…つーかこれは技術的に無理か。

操作が効かないくらいならできそうな感じだけど浮かしたりはちょっとなぁ…。

脳内の僕ががっくりと肩を落とした。


それならば自然現象…はどうだ?

昔、磁場の影響で方位磁石やら時計やらが狂う、と言うのを本で見た。

時計はこれで説明がつく…と思う。

あと、これは眉唾だが強すぎる磁力で物が勝手に動いた、なんてのもあったな。

うーん。


……あっ! ダメだ。これだとトランシーバーの『声』の説明がつかない。

偶然ノイズが人の声に聞こえたってのは、なくはないかも知れないけど、それは呻き声とか泣き声とかの話だ。

明確な、それもオカルティックな台詞とか、ヤバすぎるだろ、自然現象。


黙り込んだ僕を待ち疲れたのか、横でアーサーがトムとしりとりを始めた。

ええい、うるさいな。

人が真剣に悩んでるのに、呑気か。

文句を言っても何にもならないし、集中しよう。


えー、人為的なもの、自然現象は今の所却下だったな。

じゃあやっぱり…心霊現象?

えー、ないない、それは無い。うん。


…………。


結論。分からん。


まあとりあえず、この現象について理解を深める必要性はあるな。

実際どんなものなのか見れるなら尚良い。

意外な共通点とかあるかもしれん。

それなら…


「聞き込みするか。怪現象を報告してきた顧客に」

アーサーとトムが顔を見合わせた。

無難な選択とか言わないでくれ。


しかし、予想より上々な反応が返ってきた。


「聞き込み⁉︎ いいじゃんか、警察みたいで」

「あ、それなら案内するよ。ここから行ける範囲でも結構居るから。どうせ回る予定だったし丁度いいね」


……オイオイ、トムさんよ。

それ仮にも顧客情報。

ま、拒否されても話は進まないし、この依頼が無事達成できたら注意しておこう。


「それじゃあ早速行こう。今は…午後1時過ぎか。昼飯とかは終わってる時間だな」

「よっしゃあ、レッツゴー!!」


トムを待たせて軽く身支度を整えさせてもらう。

まあ僕は財布と変装道具、メモくらいしか持たないしアーサーも金属バットしか持たない。

その有名なエクストリームスポーツに主に使用される金属製の棒を持ち出した時、トムはまた情けない声を出した。


「え? ちょ、何それ⁉︎ なんでバット⁉︎」

「あ、これ?これな、オレの相棒!名前はエクスカリバー!よろしく」


得意げにバットを構える。

相棒…僕じゃないんだ? ふーん。

いや気にしてなんかない。

全然ない。


「まぁアーサーの武器兼お守りと言うか…こいつの必需品みたいな物ですからお気になさらず」

「バットが必需品…? 変わってるね…」


そう言ってくれるな。

ズボラなアーサーもエクスカリバーだけはこまめに手入れして毎日屋上で素振りするんだ。

必要ない時も持って行って邪魔にならない場所に置いておく。

そのくらい気に入っているんだ、良いじゃないか。

…まさしく相『棒』なんだよ。

我ながら上手い。


「ルーク…何ニヤニヤしてんの? キモ…」

「ああ、ほっといた方がいいよ。思春期には色々あるからさ〜」


外野がうるさい。

ヤジでさりげなくHPが削られたぞ、オイ。


「ええい、良いから行くぞ ホラ!」

「ほーーーい」


外に出ると太陽は出ているものの、気温は低く寒い。

冬だから当たり前っちゃ当たり前だが、寒いのは嫌だ。帰りたい。

暑いのはもっと嫌だけどね。

そんな中でもアーサーは元気だ。

いるよね、冬でも半袖短パンを貫くやつ。

見た目に寒すぎるからコート着せたけど。


「でさー、どこなの?」

「ここから少し行った所だよ。こっち」

「あ、ちょっと待ってくれ」


いかんいかん。忘れるところだった。

僕はドアの前まで引き返してノブに『外出中。要件は〈スノーバニー亭〉店長まで』の札をかけた。


「これで良しっと…お待たせ」

「なんか本格的にお店だねえ。て言うかさ、なんで2人は子供なのに便利屋なんてやってるの? 親御さんは?」



トムに悪気はないだろう。

この質問が出てくるのは当然か。

アーサーに特に気にする様子はなさそうだ。

移動の暇つぶしにはなるか。


「もう察しはついていると思うが、僕らに親はいない」


途端にトムは気まずい顔をする。

反対にアーサーはなんでもないように笑った。


「えっと、オレの両親は生まれた時からいなくて、じいちゃんと一緒だった。ルークの家族も火事で死んじゃったんだって。だから3年前までイーストエンドでストリートチルドレンやってた」


ああもうこいつは。

もう少しオブラートに包んでくれよ。

見ろ、トムすっかり萎縮してるじゃないか。


「そう…なんだ。なんか、ごめんね。あー、えーと、て事は、2人は兄弟じゃなかったのかー」


話題を逸らしに来たか。

アーサーは黒髪緑眼、僕は金髪碧眼だぞ!

兄弟じゃないとかそんなんぱっと見でわかるだろうが。

明らかに逃げたな。

だがしかし、そっちは地雷原だよ。


「うん! その辺の孤児とか集めて、みんなで生きてたから。結構大人数だったんだぜー」


アーサーは両手を広げて楽しそうに話す。

それにトムは暗い話ではなさそうだと安心したらしい。


「そうなんだ? じゃあなんで今2人なの? あ、救貧院に引き取られた? それとも里親が見つかったとか?」


トムはニコニコしながら地雷を踏んだ。

ああ、さよならトム。お前のことは忘れないよ〜。


「違ーよ。みんな死んじゃった」



シーン……って音が聞こえそうだ。

辺りが水を打ったように静まり帰った。

いや、せいぜい半径2メートルの範囲だけど。


どうするか。

ここまで来て誤魔化すのもアホらしいなぁ。

ここはトムに爆散してもらおう。


「トムはそーゆーのに縁なさそうだし、教えてやろう。救貧院はな、貧乏人を助けてくれる楽園と思われがちだが、実際はそんなのじゃあない」


救貧院とは、政府が運営する福祉施設だ。

もう自分の力ではどうしても暮らせない人が入所する。

そこに入ると全てを失くすことになる。


まず家族。

親だろうと兄弟だろうと関係なく部屋はバラバラに割り当てられる。

食堂でばったり会っても会話するのも許されず、お互い関係のない者として接するのだ。

それから服。

そこに入った時持っていた物、身につけていた服は全部没取。制服を渡される。

一縷の自由もそこにはない。


そして仕事を言い渡される。

荒縄を解いて藁に戻したり、骨を石臼で挽いて粉々にしたりとどれも重労働だ。

……なんの骨かは…まあ言わないでおこう。


歳や障害で働けない者は、それ相応の扱いを受ける。


運び込まれた骨にこびり付いた肉を奪い合う程度には劣悪な環境だ。

そんな場所に入りたくもないし、仮にも仲間を放り込みたくなかった。


「だからストリートチルドレンなんてやっていたんだよ」


結果は散々だったけど、と付け加えると、トムはそれはもう見事な顔面蒼白ぶりを披露してくれた。


「そ、れは、その、なんて言ったら良いのか…ごめんね」

「別に。トムには関係ないことだし、店長と縁があって今はまともに暮らせてるから」


イーストエンドを抜け出して2人でぶらぶらしていた時、トラブルに巻き込まれた店長を助けたのがキッカケで、店舗の2階を家として貸してもらうことになった。

そのまま〈スノーバニー亭〉で働いても良かったけど、色々な偶然とアーサーのおふざけが重なって今に至る。


なーんて説明しているうちに、トムの顔色は大分回復してきた。

ついでに目的地にも着いた。


「ついでじゃねーだろルーク。こっちが本命だっつーの」


アーサーに正論言われるとムカつく。


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