一人と一機
今回はとうとう戦闘シーンに入ります
一番好きな部分ではあるので、頑張って書きました
楽しんでいただけたら、幸いです
「ねえ、何あの人たち?」
「すげえ可愛い……」
「男の子の方もかっこいい……」
緊迫した現場に突如現れた緊張感の欠片もない二人組に、周りの生徒がまた騒ぎ出す。
しかし、キルエはそんなことは微塵も気にせず、目を閉じて意識をリリィに集中する。
リリィもそれに習い、意識をキルエに集中する。
キルエは自分自身を広げるように、リリィは己の全てをキルエに預けるように、互いの意識を意識する。
不意に、カチリ……と歯車が噛み合うように二人が繋がる。
キルエが再び目を開けた時には、リリィとの間に自分にしか見えない糸が繋がっていた。
名を『契糸』というこの糸は、意思を流し込むことによって対象を操作する、言わば契約の証。
これによって、二人の関係は『人形』と『人形遣い』となる。
そう、リリィは人形。
『人形のような美少女』ではなく、実際に彼女は『人形』なのだ。
契糸が確実に繋がったことを確認し、キルエは右手をかざす。
「主様。ご命令は?」
「殺すな」
「承知致しました」
スカートの裾を摘み、絵に書いたような礼をしてからリリィは言った。
「では、参ります」
にこやかな顔でそう宣言した直後、
ゴキッ…………!!!!
と、骨を砕く音が不気味なほど綺麗に響いた。
「「「「えっ……?」」」」
女子生徒も、周囲の生徒たちも、表情は見えないが恐らく仮面の生徒たちも驚愕している。
ついさっきまでキルエの側にいたはずのリリィが、ほぼ正反対の位置にいた女子生徒の近くの人形を、蹴り砕いていたのだ。
リリィ渾身の蹴りを受けた仮面の生徒の人形は、いくつものパーツを撒き散らしながら、まるで紙屑のように吹き飛ばされた。
しかし、仮面の生徒たちの反応は早かった。
静かに右手を上げ、残った三人が人形に命令を送る。
そのうち、斧を持った人形は一度後退し、残った二体が腕を変形させる。
腕のパーツを肘の手前から折り、その中から金属質な光沢を持つ、複数の筒が連なったものを解放する
「機関銃か」
キルエがそう呟いた矢先、合計4門の機関銃が火を噴く。
連続した銃声が周囲に響き、硝煙によって視界が塞がれる。
棒立ちになっていたリリィの姿は、瞬く間な見えなくなった。
どれくらい経っただろうか。
甲高い金属音が鳴り止み、生成され続けていた硝煙が風に吹き流されていく。
晴れた視界の只中に立っていたのは、
「身体が硝煙臭くなってしまいましたね……」
服にすら傷一つないリリィだった。
「嘘っ……!?」
「まさか、『弾性強化』で……!?」
「ど、どんな強度だよ……!?」
ザワザワとさらに騒がしくなる中、キルエだけは当然といった顔をしている。
『弾性強化』は、戦闘人形の基本的な機能の一つだ。
体表を一時的に硬化弾性化し、防御力を上昇することができる。
優秀な人形の中には、自分の身につけているものも強化できる者もいる。
だからこそ、生徒たちは驚いているのだ。
あの弾幕を受けてボディーに傷一つない人形は、特に珍しいというほどではない。
だが、衣服も含めてとなれば話は別だ。
通常、武器や衣服などに弾性強化をすると、その効果は著しく低下する。
武器によっては『弾性強化しない方が強いのではないか?』というほどに。
しかし、リリィはいとも簡単にそれを覆してしまった。
先程の移動スピードと蹴りの威力、そしてこの弾性強化だけでも、リリィがどれだけ規格外かよくわかる。
それでも、仮面の生徒は動じない、恐れない。
まるで感情の全てが欠落したかのように、淡々と右手を上げて人形を動かす。
斧を持った人形がリリィの正面から突撃、その隙に人形を戦闘不能にされた一人がキルエに襲いかかる。
リリィは200キロはあろうかという両手斧を、いとも簡単に片手で受け止め、その握力を持って粉砕。
散らばった斧の欠片を殴打しながらバックステップ。
欠片は吸い込まれるように人形の顔に命中し、深く食い込む。
機構制御の中枢である頭部破壊され、人形は比喩でもなんでもなく、糸を失った人形のように崩れ落ちる。
リリィはバックステップした勢いを利用し、反転しながら加速。
一瞬でキルエの元に辿りつき、仮面を砕きながら男子生徒を殴り飛ばす。
ぐるぐると回転しながら男子生徒は地面に落下し、気を失った。
それを尻目に、キルエはリリィを操る。
弾切れで棒立ちになっていた人形に接近、背中を蹴ってボディーをくの字に曲げる。
当然ながらそれでは衝撃を殺しきれず、人形は仮面の生徒に直撃した。
もう一体は弾切れした機関銃を格納し、リリィに殴りかかる。
突き出された右腕をしゃがんで回避。
その腕を下から掴み上げ、離れた位置にいる仮面の生徒に狙いを定め、腰を捻って勢いよく投げつける。
派手な衝突音を鳴らし、人形は仮面の生徒ごと壁に叩きつけられた。
後に残ったのは、斧を持った戦闘人形を操っていた仮面の男子生徒だけになった。
そして、その男子生徒も、
─────カラン
と音を立てて仮面が剥がれ、膝から崩れ落ちた。