黒き狐 第2話 胡堂再び!!
予測通り、憑き物を奪いに来た、深見胡堂を追い返した。
超常現象総合研究所 所長 拝 頼光と外道憑き世話役当主 糸重 要であったが
あれで諦めるようには思えなかった。
そして、先の見えない戦いは始まり告げた。
立ち去ったの確認した拝は、メガネを外し、ジャケットの胸ポケットから取り出したハンカチでレンズを拭きながら
「ふう、僕にはこれ以上の化け物じみた人の相手は難しいかもしれません、どう対策するか聞いてみますか。」
そう言って、スマホを操作し耳に当てた。
「要さんですか、先程はありがとうございました、なんとか、胡堂は引いたみたいですが、直ぐにでも戻ってきそうです。」
「拝さん、どうやら私が着くよりも早く、私の妹が後30分ぐらいで、先に、到着できそうだから合流してほしい。」
「解りました、でも、問題がありまして、次に胡堂と戦う手段が尽きてしまったので、どうしたら良いでしょうか?」
「そうですか、では今から尾咲さんの家にはFAXがあるので、私の式の符を印刷したものを送るので、それを受け取ったら直ぐに玄関に
置いて、完了のメールを渡しに送って下さい、では」
といって切れた途端に、尾咲家の奥から電話の音が聞こえてきた。
早速FAXから出てきた、魔法陣のような符が印刷された紙を、玄関の前に置き、完了のメールを送った
すると、どこからもなく、聞きなれない音が聞こえて来た。
当たりを見回すうちに、東の空から
「ゴッゴゴゴゴゴゴォー」と音が聞こえてきて
「ドォーン」と音がして、目の前に突然、
符が印刷された紙の上に
高さ1メートル80センチ、10センチぐらいの太さの丸太が1本立っていた。
その丸太には、侍の薄い青色の着物のような絵が書かれていて、顔の部分には目が4つ書いてあり
ちゃんと丁髷が人の髪で作られていて、腰には30センチぐらいの木製の、いかにも作り物の刀を1本下げている
それが、最初は、自分たちのを方を向いていたのだが
「フン!」と聞こえたと思ったら
するりと180度回転して、表の方を向いたではないか
ちょうどその時、1台の白い軽自動車が尾咲家の前の道路に停車したのだ。
その、軽自動車から、巫女装束を纏った、長い髪をした女性が運転席から降りてきた。
そして、いつの間にかその女性の傍らには、黒い大きな犬が女性の隣を、ぴったりと横についている。
その、大きな黒い犬の姿は、狼のようにも見える、若干細身だが、体高がかなりあるので迫力がある。
その女性は、丸太を見てにっかりと笑ってから視線を戻して
「はじめまして、もしかしてあなたが、拝さんですか?兄から聞いています、
私は、外道憑き世話役の一人で糸重 要の妹の静流と言います、宜しくお願い致します。」
そういって、深くおじきをした。
肌は雪のように白く、髪は日にあたってキラキラとしていてスッキリとした顔立ちは巫女装束が似合い過ぎている、こちらを見る目は、大きく力強さを感じるが、華奢な体格で
とても先程の怪人と戦えるようには見えない、
そんな可憐な少女は、丸太の方に寄って手で頭をなでながら、「兄さんは、武光さんを送って来たのね。」
「この、丸太が、たけみつさん?」と拝が聞き返した。
「武光さんが、私より早くここに居るということは、胡堂は既に、ここへ来たのね。」
「ええ、先程なんとか追い返しましたが、また戻ってくると要さんに相談したら、この武光さんを送って貰いました。」
「武光さんは、兄さんの式神の一つで、大変由緒ある侍の魂が使われていて、200年間幕府に仕えてたとされる強力な式神で
武光さんが選ばれて来たということは、噂通り、深見胡堂がかなりの使い手である証明ということです、兄さんの守護者的存在である、武光さんでないと守りきれないと考えたのね。」
言いながら、静流は、目を伏せ何やら考えごとしているのかと待っていると
「拝さん、この家の人と、ここのお狐様に挨拶がしたいのですけど.」
「解りました、尾咲さんは中にいますので、こちらにどうぞ.」
拝に付いて、静流が家に上がり、奥の居間を目指して歩き始めた時
奥に居た、尾咲ウネから声がかかった。
「あんた達、人間は上がってもいいけど、犬は勘弁して貰えんもんかね.」
「大変失礼いたしました.」
そう言って、静流が前に出て「私の犬は、本物の犬ではありません、黒伏と言う名の犬神の式神で、大変古くから存在する恐らく日本で現存最古の犬神、
その強力な霊力が隠しきれなくて、霊能力の無い人にも視えるらしく、ご迷惑なら、退出させますが、黒伏が言うには
ここのお狐さまが力が弱くなり、その本質である役目が果たしていないことから、別のものに変わりつつある、言い方はが悪いかも知れないのですが例えるのなら
怨霊のように感じるので直接話しをしたいと言っているので連れて来てしまいました。どうか許可を頂きたいのですか。」
「本当に、この犬が式神なの?」
「はい」
「ねぇ、少し触ってもいいかしら。」
うねは、そう言いうと、好奇心いっぱいの目でくるぶしの目の前に座り、頭をなで始めた、
「触れられるし、何故かしら、怖くもない、大人しくて、本当にお利口さんの顔をしている、あっ、ごめんなさいね、あなたのほうが歳上なのに。」
うねは、自分のお狐様を見たことも、声を聞いたことも無いため、その反動かとても愛しそうにしている。
「解りました、是非お二人とも、家の御狐様に挨拶して下さい。」
「優しいのねくるぶし、触れるようにしてあげたのね」
尾咲家の神棚の前で、座った静流は、同じようにすぐ右隣でお座りしているくるぶしに小さな声で話しかけた。
式神自体、本来は、見えるが普通の人は触れられない、しかし、今回は長く使えた人に対して労をねぎらったと返事があった。
お狐様が祀ってある、神棚の前で
挨拶を済ませた、静流はこちらに振り返って言った。
「過去のわだかまりは、確かにありますが
しかしながら、このままという訳にもなりません、この家にあるお狐様の本体で、分け身の片割れを持って、兄の待つ、石上家に移動しましょう、あの外法師がいつ、戻ってくるか解らないですし。」
「そうですね、尾咲さん、大変だとは思いますが、ここは一緒に移動しましょう。」
拝が言って、促すと
尾咲うねは、目を伏せ
「いよいよ、この時が来たねぇ、良いも、悪いも、これで終わりだと思うと少し淋しい気がするよ。」
尾咲うねが、立ち上がろうとした時。
地面が少しぐらりと来た、
そして、キイィィィンと耳鳴りが聞こえた。
「この感じは、あいつがもう来たのね、武満さんが強力な結界を重ねて張ったようだわ。」
ゴゴゴ、小さな地面の揺れが続く
窓ガラスや、戸、ぶら下がっているものや、不安定なものは揺れ始めた。
「でも、おかしい、どんどん近づいて来てる、武光さんの結界は、半径500メートルにもなる巨大なもので、大抵の憑き物や式神は近寄ることも出来無いはずなのに。」
ついに家全体が大きく揺らいだ
まるで地震が来たかのようだ。
「拝さんは、尾咲さんを連れて家の外に出てください」
「ただの、地震ってことはないですか?」
「早く、外へ、もう来ます」
「ゴォォォン、バキ、バリイィ」
なんと廊下の床が、爆発したかのように弾けた、その周りの壁をも破壊しながら
地面に5メートルほどの、穴が空いて
穴の中は真っ暗だが、焦げたような匂いがした。
中から出てくる様子がない。
「なるほど、そういうことですか、武光さんの結界の下方向が薄いという事に
気付いたのね、でも地中を物理的に移動できる、式神や、憑き物を、今まで聞いた事が無いんだけど」
「ねぇ、黒伏知ってる?」
黒伏は、頭を横に振った。
「そう、知らないのね、黒伏は拝さんと、うねさんを守ってあげて。」
黒伏は、頷くと同時に、自分の影に沈み、その影が素早く外の庭の方へ移動した。
「さぁ、出番です、白銀。」
「うむ。」と渋い年配の男の声が聞こえた。
ボッと大きな音が、静流の右上に
するとそこには、大人ほどの大きさがあろう
豪奢な毛並みと、6本の尾を持つ白い狐が現れた
「ほう、珍しいな、静流これは、モグラの憑き物だ。」
「800年生きて初めて見るわい、武光殿の結界が極端に下方向が薄いと気付いての選択か
ならば、一度でも武光殿の結界を見たことがあるという事か、問題はこれを実行できる使い手の凄さだ。」
「白銀、楽勝?」
「誰に、ものを言っている、ただ、武光殿に結界を緩めさせろ、あれの結界はエゲツない、強力すぎて動きづらいぞ!」
「解った、今、お願いしてくるね」
「待て、静流それは、後に回してよい、モグラの憑きものは対したことは無い、だが人の子が憑き物と同じように
地中から来るのは気に食わんな!!」
空いた穴から、1メートルぐらいもあろうか
土で汚れたモグラの頭が視えたが、頭だけを出して、キョロキョロと頭を動かし、様子を伺っている。
モグラの頭に手をかけ
黒尽くめの男が地面から這い出てきた。
「むぅ、狭いな、地モグリよ、このガラクタを吹き飛ばせい!!」
体の大きさに合わない、小さいモグラの目が赤く光ると、グラグラと
家が大きく揺れ始めた。
「ええぃ、辞めよ!!」
白金が吠えた声の振動の方が勝って
地モグリという、憑き物の姿を消した
どうやら、地面の穴の奥に落っこちたようだ。
「ハッハッハ、威勢がいいな、
ただの狐ではないな、神吏の出か?」
神吏とは、神社なのどの神様の使いである。
黒尽くめの男は、落ちずに何やら黒い煙のようなものの上に浮かんでいる。
「しかぁし、次から、次へと邪魔が入る日だな、お前は誰だ?」
「私は、外道憑き世話役の一人糸重静流、このおキツネ様は白金と申します、深見胡堂、あなたの運命はここで終わります
覚悟してください。」
白金が先に動いた。
「神吏それがどうした、私は妖狐族だ、その力見せてやろうぞ!」
口から青白い狐火を吐きながら
身を翻して、胡堂に襲いかかった。
「油断大敵だぞ、くそ狐。」
胡堂が黒い煙の中に沈んでいくと同時に頭が一抱えほどあろう
真っ黒な大蛇が、一匹、二匹と現れ、合計4匹の大蛇が頭をゆらゆら漂わしながら
白銀の行く手を遮り、そのうちの一匹が大きく口を広げ今までにない速さで向かってきた。
その時であった。
玄関の前で、黒蛇の方へ、武光が向きを変えた、すると作り物の
腰の刀が光ったのだ
「カッ!!」光の筋が弧を描き、横一文字にあたり一面を薙ぎ払った
すると黒蛇の頭が4つとも綺麗に跳ねられて地面に転がったのである。
「俺の出番は無しか、あいつは、空気が読めん、共には戦えんな。」
そう言って白銀は静流の側に戻った。
顔をだけを黒い煙から覗かせ
「今回は、しくじったが、次は10倍返しだ、ここにいるクソ式神の力も、式神使いの面子もしかと、この目に焼き付けた、戻るぞ、地モグリ。」
深見胡堂は穴の中に消えた。
「逃げ足が早いな。」
「あやつを生かしておくわけにはなりません、逃せば、この後、必ず禍根を残すでしょう、ここであったが運の尽き、糸姫よ、トドメをお願いします。」
静流の影から、人よりも大きな蜘蛛が這い出てきた、昆虫の専門家が見れば、なんとお大きい女郎蜘蛛といったであろう
但し顔の部分は人の顔であり、それも真っ白いまるで能面のよう、切れ長の目がまっ赤で口は耳元まで裂けている、こちらをチラリとも見ず
蜘蛛のどくとくの動きですばやく、胡堂と地モグリを追って穴の中へ入っていった。
胡堂が進む
地モグリの穴の中は、後も先も真っ暗だ、しかし地モグリの後を追って
胡堂は、黒い煙の上を滑るかのように進む。
「ムッ!」」
何かの気配を感じた胡堂が後ろを振り返る
後方に、2つ赤い光が小さく見えるが
確実に間を詰めてくる。
追ってくるものは、まるで地モグリの穴の中を左回りしながら自由自在に来るではないか
天井も壁もお構いなしに移動している。
「何者だ?」
胡堂の右手は包帯で巻かれていて
その右手を後ろに出すと
「これでも喰らえ!」
包帯がスルスルと外れていき、ものすごい勢いで伸びていく。
相手の動きを止めるつもりで放ったはずが
胡堂の方が、逆に包帯を引っ張られ
後方に引っ張られた、尋常ではないパワーを感じた胡堂は
しからば、「カカカビサンマエイソワカ」
左手で印を作り、右手の包帯を全て解き
その右腕全面の皮膚には、小さな、3センチぐらいの沢山の人の顔があった。
俗に言う人面瘡と言うやつが
盛り上がり、右腕から離れて、半透明の赤子の姿になって次々と空に浮かび上がり
追ってくる、まだ見えぬ敵に向かって行く。
「集めに、集めた水子の霊の、この世に向けた恨みの重さで潰されるがいい!!」
所が、その赤く光る目の持ち主は
すでに、胡堂の目の前に来て居たのである。
自分の頭上、ほぼ目の前に、2つ赤い光がある
あまり大きくない穴なので
顔を挙げた先に居る。
脂汗が大量に吹き出す。
「久しぶりのこの感覚
ちっ、虫唾が走る。」
「俺の、水子縛りが効いていない、どうなっている」
「エイヤッ」
胡堂の右目だけが青白く光る。
はっきりと暗闇でも見えるようになった
胡堂の目に写るものは。
人の顔を持つ大きな蜘蛛が天井にぶら下がり
女の顔に見えないことはないが
明らかに異形の笑みを浮かべている。
そして大型の蜘蛛のお尻から大量に出された白い糸が
周りの土の壁一面に広がっていて
水子の霊は全て、蜘蛛の糸で絡め取られて動けなくなっていた。
「鬼ごっこはもう終わりなの?」
薄気味悪い声で蜘蛛女は言った。
そして、「戴きます」そう言うと
長い舌を突き出して
筒状にすると、まるで、槍が如く伸ばしてきた
それを、躱したはずだった。
右手と、右足が動かなくなっていた。
紫色の粘液のようなものがへばりつき
糸を引いて蜘蛛女の口に繋がっているのが見えた,
[シュウウウウウ]という音を立てて右手と、右脚が
気味の悪い色に変わりながら、ゆっくり溶け始めている。
「殺される、この感覚、この光景
こんな、穴蔵の中で、蜘蛛の化物に捕まり
俺はどうなる。
クククッ、笑い始める
残念だったなぁ、痛みなんてとっくに無いんだよ
でもな、こんな気持になったのは
何度もねぇよ、俺としては
考えが変わった、皆殺しだ、皆殺しにしてやるよ!!」