外道狩り
憑き物筋を聞いたことは無いだろうか
狐憑きとか
犬神憑きとか
と言えば聞いたことがある人も多いかと
その憑き物と代々暮らす人の事を
憑き物筋と言いうらしい。
その中でも、一部の地域では
外道、ゲドと呼ぶ憑きものと
暮らす人のお話である。
外道、ゲド、お外道さんは
現代でも語り継がれている。
私が興味を持ったのは
憑き物筋には、いろんな憑き物や地域に合わせて
名前が変わる、そして憑き物筋の話を
身近に聞いた事を思い出したのだ。
いつの頃かわからないのだか
「道路で車に引かれた動物を見ても
可哀想だと思ってはだめだ」
「あいつらは、その思いを逆手にとって憑いてくる。
何でもかんでも拝むもんじやない」
「逆に、唾吐いて立ち去れ
と年配の方に言われた事がある」
後で、憑いてくるものを
この地方では、ゲドと呼んでいることを
知った。
外道憑きに関わる、言い伝えや逸話は主に、中国山間部とされ、山陰地方でも伝え聞くことが出来る。
山陰東部の山奥の田んぼに囲まれた
とある家の神棚の前で
母娘が並んで正座し
神棚の下には、小さめの祭壇があって
娘の方が、祭壇の真ん中にあるものを指さして
「そこにあるものなに?」娘の高崎市子通称イコ、この時6歳が母親に聞いた。
「これは、お外道さん」母、高崎あやねは優しく答えた。
「お外道さん?」
うちの神棚には
神さまじゃないものが祀らてれいた
綺麗な柄の和紙で飾られている
四角い箱
片手に乗るほどの小さな箱だ。
娘は、母親に聞いた。
「これはお外道さんよ。
いいかい、これから言うことを他人に話してはだめよ」
「何で、話しちゃ、ダメなの?」
「お外道さんはね
とても、怖いの
怒りん坊で凄く気が強いから」
「どんな風に怖いの」
「嘘ついたり、悪口を言う人を
頭から、バリバリ食べてしまうんよ」
「えーどうして」
「良く聞いてね、お外道さんが食べるのは
私や、イコをいじめたり、意地悪する人を
食べるのよ、私達を守ってくれる」
本当はそうじゃない、と言いかけた
母は、何か悲しげだった。
高崎家の周りには
憑き物筋は、一軒だけ
悪いうわさが、一度でも広まると
大変な事になる。
イコの、祖母海子は
お外道さんを使って、自分たちを迫害する者を
沢山殺したり、脅して来たのだ。
それを、知っている母は
本当は良いものでないと
知っているのだけど
娘のいこには、知らせたくなかった。
殺したり、脅したり、困らせたり
破壊したりする。
お外道さんを使えば
必ず、不幸になる人が出来ることが問題だった。
「お外道さんは、どうして、いこの家にいるの?」
どうしてこのお外道が家にいるのかは
この家では秘密になっていたので、この時は教えてくれなかったが
後に、いろんな事件があって
それを解決するためにお外道さんを
この家に呼んだ、招いたらしい。
しかし、その事件を解決するにあたって
死人が出たりと、表立って改めて
細かい事をいうと、私達のご先祖様たちを
悪く言ううことになるから
これ以上のことを
イコは、知らない方が良いと教えてくれなかった。
「お外道さんは、いつもお腹を空かしていて
お外道さんの住んでいる家の人は
お外道さんにいろんな食べ物を食べさせているのよ
お腹一杯になったお外道さんは満足して
その家が気に入って、その家に住むの。」
「ふう~ん」
「そして、この家にいれば腹一杯になると解ったら
お外道さんは、ここを縄張りにする
そして、他のお化けや、この家に危害を加えようとするものから
守ってくれるの」
「ただ、お外道さんは、ご飯をくれた人だけを守る
イコはいつもお母さんと一緒にお供えを上げてるから
覚えてくれているはず、
お外道さんは匂いで覚えるから
覚えておきなさい。」
「後、男の人は嫌い、お父さんは一応覚えて居るみたいだから、大丈夫」
「でもね、お友達を家に連れて来る時は、あなたの服を着せないとダメだからね
余所者には、お外道さんは噛み付くからね」
「良く、覚えていてね,
一つは、一日3回のご飯は切らさないこと
但し、3回分を一度に与えても
許してくれるから」
「それと、もうひとつ、お友達や他のお客さんが来るときは
魚を焦げるまで焼き続けておきなさい
その匂いに夢中になるのでお外道さんは
お客さんの事を気にしないから」
「最後に、もう一つ他のお外道さんに関わったら、家に入らず、私か、お父さんを大きな声で呼びなさい
うまくやり過ごす、呪文があるけど、イコには、難しいからそうしなさい」
「あと、他のお外道さんのいる家には入ってはだめ
私たちには、この家のお外道さんの匂いがついてるから
他の家のお外道さんがすぐに気付いて噛み付いて来るからね」
「お外道さんが居る家には
けっして動物が近寄らないからそれでわかるのよ
鳥も野良猫、野良犬、ネズミ、昆虫迄、決して近寄らない
だから、注意して見ていれば解るのよ
うちの庭ですずめ見たことある。」
「無いよ」
「お外道さんはね、ともかくじぶんの縄張りを大事にする
住んでる人、ご飯をあげる人よりも大事にするから
他人を連れて来る時は用心しなさい。」
「表の門から、玄関までは、お外道さんから見えないよう
呪い(まじない)がしてあるから、そこまでは短い時間なら大丈夫。」
母は、いつもこの事を繰り返し、繰り返しご飯をあげる度にそう言った。
しかし、母はお外道さんに殺され
私も、お外道さんに追われるようになったのは
ある日の出来事だった
10年後
8月の終わりのある朝、電話で連絡があった。
はぐれ外道が大阪吹田で出た
ある家の、外道とその家の人を食ったらしい
そこで、西の世話役である
糸重家から電話が、うちにあって
そこの当主である
要さんが様子を見に行っている。
お外道さんはその気になれば
数百キロも移動する例も過去にあるので
どの憑き物筋の家も油断ならないと。
母は早口で説明していたが
イコは、学校の用意でろくに聞いていなかった。
「はぐれ外道は、外道持ちの家を荒らしまわっているらしいは
ともかく、はぐれ外道らしいのに出会ったら、あの札を使うんよ!」
「はぐれ外道って何なの」
「住処が何かで、無くなって家無し外道の事言うんよ
他の外道が、人の家で腹いっぱいなのが気に入らないから
外道持ちの家を巡って襲うらしいから、気をつけてね。」
イコは、外道に関する話題を意識的に避けるようになっていたので
もらったお札を身に着けるのが嫌で部屋に置いたままになっていた。
「ともかく、行ってきます」と玄関を出て
いつも私が見えなくなるまで見送ってくれる母を
子供じゃないのに恥ずかしい思いでいた半面
いつものことなので手を振ろうと振り返った時
お母さんのすぐ後に、見たことない黒い両手を広げたぐらいの大きな塊が浮いていた、
「お母さん、後ろ!!!」
「きゃあ!!」
後ろに振り返った、母の前に
ぱっくりと大きな口がその黒い塊から現れた
そのとき、家の中から、玄関の扉を吹き飛ばして
同じく黒いに何かが、口だけの黒い塊を吹き飛ばした、
私のすぐ横に、その口だけの黒い塊は飛ばされ
大きく地面をえぐった!
飛んできた、小石や砂をを払いながら
家から飛び出して来たものに目をやると。
牙を向いて、唸る。真っ黒な大きな犬の顔だけが空中に浮かんで
母を守るよう口だけの黒い塊を威嚇していた。
これの大きさは普通の犬の倍も無いようだった
「イコ、この先の神社にいって隠れてなさい、さぁ早く」
「お母さんは?」
「私は、うちのお外道さんと一緒に、このはぐれ外道をどうにかするは、さぁ早く行きなさい。」
地面にめり込んでいた、口だけの黒い塊が「ぐおぉぉぉぉ!!!!」
大きな声をあげた、瞬間
生臭い匂いが風となって私に吹き、余りの臭さに目を閉じ
数秒後に目を開けると
「バリバリバリ」
あの黒犬のお外道様に齧りつき
飲み込む処だった
そして、「ゴキュン!」と飲み干した。
黒く大きな人魂みたいな、口だけのはぐれ外道は
口から、黒い液体みたいなの垂らしながら
私の方を向いた。
「イコ、お札はどうしたの」
「ごめん、お母さん、部屋に置いたままなの」
私の言葉をまるで理解したように
赤黒いヌメヌメした舌を、くちゃくちゃさせ
私の方に、向かって来た。
しかし、母の動く方が早く私とはぐれ外道との間に入り
何やら、お札を手にはぐれ外道に見せつけた。
「このお札が何か、匂いでわかるでしょう?、そうこれは、人の肝が練りこまれているは
これをお食べなさい」
そう言って、お札を左手の庭の奥のほうに投げた
すると、はぐれ外道はその札に釣られて動いた
地面に落ちた札の匂いを嗅いでいる「くんくん」とも言えるような音が鳴りひびいた。
「イコのお札じゃなきゃ効かないの、私が取って来るから」
「イコは、神社に行ってなさい、邪悪であればあるほど、神様や神様に関連のあるものを嫌うのよ
ともかく神社の社の中に隠れてなさい、そこなら絶対大丈夫だから」
「お母さんも一緒に行こうよ。」
「あのお札は、効き目が違うから、あのはぐれ外道をどうにかしないと周りにも迷惑が掛かるでしょ、
イコ、私を信じなさい」
そういって母は、家に戻ろうと玄関へ走った
私は、その時、地面のお札をはぐれ外道が舌で拾って
母に投げ返したの見た。
その札が母の足首に当たり
母は、前に倒れこんだ
その母に向かってはぐれ外道は、自分の正面の殆どが口になるほど
口を開き
牙を向き、舌を躍らせ、襲いかかった。
「ぶちん、ごりごり」
大きな音とがした
お母さんの上半身が無くっていて
下半身は座ったまま後ずさりの恰好のまま残っていて
後ろ側に指先を向けた手首から下が横に残っていた。
私は、そのとき
何も考えられなくなっていたが
お母さんを食らった、はぐれ外道がゆっくりとこちらを向いたとき
まるで、電気が走ったかのように
神社に向かって走りはじめた。
私は、裏山にある
神社まで、一心不乱に走った
いつもお参りする時に見るあの風景
10段ほどの石段の先に鳥居が見え
ここを駆け上がり鳥居の下をくぐり抜けた所で
初めて振り向いた
ここまで5分ともかかっていない
振り返った時私は目を疑った
まだ、朝早かったはず
なのに霧が立ち込め
どんよりした厚い雲が空を覆い
何とも言えない暗さが、もうすぐ日が落ちるように視え
言葉にならない、異様さを覚え
自分の腕を見ると鳥肌が立ち
小刻みに震えていた。
道沿いの松林から一斉にカラスがギャーギャーと飛んでいくと
真っ黒でぼんやりとした道幅いっぱいの黒い影がスーッと、奥から迫って来るではないか。
それを見た私は、一目散に
奥の社に走り
賽銭箱を押しのけ、扉を開けて
これまた薄暗い社の中に入り込んだ。
そこは、たたみ1枚を横にしたぐらいの
スペースがあって正面には祭壇が視えた
薄暗いのでどんなものが置いてあるかは詳しくは見えなかった。
怖い、怖い、怖い、
私は、小さく丸まって震えていた
涙が止まらず、自然とお母さんの事を思い出していた。
家に、お外道様が居るからって
そんなに辛い事は今は無いのよ
昔は、あそこの家には化け物がいるとか言われて
大変なこともあったけれど
あなたの代になったら
他の家とは、違うものを
祀っているだけで
あとは普通で
他の人と変わらなくなるわよ。
「違うよ、お母さん
お外道さんって怖いよ
臭いし、人をばりばり食べるよ
それに、ずっと後をついて来て
怖くて耐えられないよ。」
恐ろしくて、涙が止まらない
怖い怖い怖いよ
頭がおかしくなりそうだよ
助けてお母さん
お母さんははぐれ外道が食べてしまった
助けてよ、お外道さん、と口に出していた
その時、声がした。
「イコ、離れすぎだ、もう少し近くにくれば
俺が守ってやろう、もどってこい俺の住処に、イコの家に」
「さぁ、早く帰ってこい!!」
「あなた誰?」
「いちろう」
「お前が、小さいとき、俺にいちろうと名付けたではないか?」
「嘘、あなたは、私の家で、はぐれ外道と戦って
頭から食べられたじゃない」
そう思いながらも
私が幼稚園に通う頃、お外道様ではかわいそうと
名前をつけた、これは母しか知らないはず、つまり
今の声の主は、それを知っていたのだ
生きていたのかもしれない。
家の主、お外道様、別の名をいちろう
「他にも、ちゃんと、イコのこと、お前の母、あやねのことも知っている」
「生きてたんだね」
「そうだ、俺はあのくらいでは死ねない、縄張りから外に出なければ大丈夫だ
早く家に戻って来い!」
確かに、はぐれ外道と戦ってくれたけど
本当に、うちのお外道さんだろうか?
そういえば、母が昔に言っていた、今は崇め、奉っているだけだけど
本当は、お外道様を言うことを従わせることが出来ると
今は、その時で無いし、そうならないように暮らして行かないといけないから
イコが、大きくなったら教えてあげるね。
そう言われたのは一度だけだった。
私は、本当は大きくなるにつれ、お外道様とかかわるのが嫌になっていた、
学校でも噂になることもあり、心は、お外道様から離れていた
普段は、お外道様の事を意識的に関わらないように
なっていたから、この話の事を忘れていた。
お外道様の使い方が解っていれば、お母さんもお父さんも助かったかもしれない
でも、どうやったら従わせる事が出来るんだろう?
私は、突然忘れていたことを思い出す。
私が、小さい時に、まだ生きていた祖母と母が、夜遅くに大きな声で
口論していたことを
その内容は、祖母が私たちを邪魔者扱いする人を
お外道様を使って殺してしまえば良いと
それを聞いた、母はまた、そんな事をすれば、ばれた時に大変なことになるからやめた方がいいと
「そんなんもん、ばれたらその人を脅して大人しくさせるさ」祖母がそう言うと
母は、言い返した「私は、そう言いうのが嫌なの、これ以上悪者になりたくない!!」
「なら、うちがやる、そしてあの世までこの罪をを持って行くわい
いいか、うちが死んだら、外道使いはもう死んだ、お前やいこは、外道の扱いは
教えて貰ってないというんや、うちが皆にそういってやるわい」
そして、本当に祖母が死んで葬式が行われたあと
お外道様の世話役という人がやって来て
お外道様を、お守り様に格上げして
悪さが出来ないようにするんだとご近所にもわかるぐらいの
派手な儀式を行い、それを見に来た通行人に
お外道様を、格上げして守り神にすることで
悪さが出来なくなると説明していた
さらに、娘や孫は、関わっていないと
説明していた。
直接、この話を聞いたのは、ご近所数人だけだったが
この噂は、瞬く間に広まっていった。
しかし、母はお外道様の扱いを知っていて私に伝えようとしていたのかもしれない
けど、もう遅いのだ、私はもうはぐれ外道に目をつけられたのだ。
私は、この隠れている
神社から、私の家までどのくらいの距離があるかなんてどうでも良かった
帰りたかったのだ、あの家に
もしかしたら、まだ、うちのお外道さん、いちろうがまだ生きているかもしれない
そう思うと、怖さは吹き飛び
私は、逃げ込んだ神社のお社から慌てて飛びした。
ぱっと周りを見ると、あいつは見えなかったし、あの霧も晴れていた
今しかないと、鳥居の下をくぐり2.3歩歩いたところで
突然、目の前が真っ暗になったと思ったら
でっかい両手を広げるほどの大きさの口が目の前に現れた
視界の全てが赤黒く染まる寸前
私は、よけるつもりで左に倒れたつもりだったのだが
「ばりばり、ぶちん」
と音が聞こえ
私は、10段ぐらいの階段を転げ落ちた
私は、すぐに解ったのだ
あの声は、はぐれ外道が私を呼んだのだ
私のいちろうの名を借りて
「でも何で、いちろうって知っていたの」
右手の肘から下、右足の殆どを齧られ
血にまみれていた。
意識が薄れていく中で
それだけが引っかかっていた。
「オン、キリキリ、ウン、ハッタ!!!」
本当に大きな声が聞こえた。
目の前まで迫った、はぐれ外道が止まった。
私の後ろから、小柄で小太りの黒づくめの格好の男が横に立った。何やら薄汚れた木箱を背負っていて、はぁはぁと息を切らしている
「間に合ったようですね」
全然間に合ってないよ、そう言い返す力も残っていない。
既に、右足と右手の肘から下がはぐれ外道にかじられて無くなり、大量の出血でもはや、意識も切れ切れなっている。
「えええぃ、もっと離れろ!この外道ぅぅ、オン、キリ、キリ、ウン、ハッタァァ!!!」
両手を合わせ、黒づくめの男が気合を飛ばす、はぐれ外道が数メートル下がり
縮こまっている。
「お嬢さん良くお聞きなさい」
「私は、外道筋、つまりは外道たちを飼っている人たちを管理する世話役の一人で、深実胡堂 (ふかみこどう)といいます。あなたのお母さんあやねさん、おばあさまの海子さんも、知っています。はぐれ外道がこちらに来ていると報告を受け急いだつもりだったのですが、遅れて申し訳ない、ですがこの事態を解決する方法があるので協力してもらえますか?」
よく見ると格好は黒の上下のスーツに白いカッターシャツ、黒のネクタイ、黒い革靴で、この男の顔はまるで大仏そっくりでニッカリと笑み浮かべたが、その細めた目は不気味な感じがしたが
他に出来ることはない
「はい」
「では、これを嗅いで貰えますか」
そう、言って左手の手のひらを、私の鼻先につけてきた。
「臭い」
これは、お外道様そのものの匂いだ
お母さんから聞いたことがある
お外道さんの中には直接人に憑りつくものがいて
中には乗っ取られない人もいると
そう、お外道さんの住処を自分の体にすることで
お外道さんの力を借りる事が出来る人が居ると。
「それでですね、はぐれ外道を自分の体に憑りつかせて
はぐれ外道を支配下に置くことで、この場を納めます。」
「人間一人に、お外道も一体のみ、私にはすでにお外道が居ます、今回は、あなたにあの、はぐれ外道を憑りつかせるつもりですが
心配はありません、私はこの方法の専門家ですから信用してください。」
では行きますよ。
私の意思なんて関係無いのね
でも、今はあいつをはぐれ外道なんとかしないと
「お願いします。」
私は、もう意識下なくなりかけていく。
「オン、アボキャ、ベイシャロウ、マニハンドマ…」
何やら呪文の声が遠のいて聞こえなくると同時に
目の前が真っ暗になった。
「エィヤァー観念せい、外道」
全身汗びっしょりになりながら横を向く
「成功しましたよ、お嬢さん」
野球ボール程まで、どんどん小さくなったはぐれ外道を右手に掴んだまま
イコの方へと向き直す。
完全に力が抜けて動かなくなったイコとを見て
慌てて近づいた、
「ん、もしかして死んでしまったか」
鼻先に指を近づける
微かに、息がある。
「気を失ったか、まぁ都合がいい、」
そう言って、イコを肩に担ぎ
満面の笑みを浮かべ、一人で喋り始めた。
「今回も上手く言ったわい
恐らく、この娘が目を覚ましたとしても
正気を失い、気が狂うか
外道に憑かれ、これもまた、精神がまともで住むはずがない
それにしても外道に憑りつかれ、正気でない小娘を好んで遊ぶ変態どものおかげで
今回もガッポリ儲かるわい」
「ひっひっひっいい」
下衆な笑いを響かせて
相当嬉しいのか
独り言をさらに続けた。
「あのババァ、高崎家のババァが生きていた頃
あの当時の高崎家の外道は
頻繁に人を殺したり、脅したりするのに使っていたから
異常なくらいの禍々しさと獰猛な覇気を持っていた
そこで、俺は、あのババァに、ここの外道を
100万円で譲ってくれって頼んだ時のババァの目は
完全に外道のとりこで、明らかに、人殺しの目だった
それを見てこっちの方がビビッて商談もろくにせず帰る羽目になった。
あれから20年で、ここの外道はお守り様に格上げ
つまりは、手足を封じられて、すっかり大人しくなっているの見て
俺の心は踊った、やっと俺の思い通りになるってね、
弱った外道でも、外道は外道、買い手はいくらでもあるってね。」
「あの娘は、使い方すら教えて貰ってなかったみたいだな
使い方は簡単だ
お供えを三日断つ間中
憎い相手がいる事、そしてどれだけ憎いのか
相手を罵ったり、恨み言をお外道様に聞かせ続け
三日目に、腹いっぱいになりたければ
あいつを殺してくれれば良いと告げるだけだ。
すると、直ちに、お外道様は、相手の所に行って
相手の頭をかじり取るだろう。」
「くっくっくっ、こんな簡単な事で、使役できるのだ
使わなければ持ったない無い。
はぐれ外道が出たと、偽の情報を流しただけで
誰も疑わない、まったくもってして
嫌われ者の外道のことなど
誰一人として、ちゃんと知ろうとはしない。」
胡堂は、大きい声で
「だから、俺は儲かるんだけどな、ヒヤッヒヤッ~」
良くやったぞ、私の外道、たらふくお供えをやるぞ、はっはっは」
「戻るぞ外道」、はぐれ外道は二つに分かれ
一つは、イコの口から入り込み
もうひとつのはぐれ外道は
胡堂の頭の上に移動し後ろの木箱に入った。
悠々と
乗ってきたのだろう
霊柩車に、少女を乗せると
深見胡堂は
何事も無く走り去って行った。
後には、血の匂いと
獣の気配が残った。
外道持ちの家にはこんなしきたりが昭和の初めごろから新しく追加された。
年に一回わざわざ、四国からお外道さんを、きちんと扱えて管理できているのかを確認するため
世話役という人が訪ねて来る事。
何でも、お外道さまの管理を引き継く
事をしない、扱いかたが解らない家が多くなり。
憑き物筋の間で災いが発生して問題なっているらしく、中には、自分が外道持ちの家筋と知らない者まで居る、外道は子孫にもついて行くので実家から離れても安心出来ない事が多く、きちんと憑き物筋、中でも外道持ちの家はどうすべきかを指導管理するために、一軒一軒訪ねて周る
一族があった。
四国では、当たり前のように、世話役と称して外道持ちの家を回っていたのが、今では、日本全国歩いて管理しているという、しかし中には、世間の目を恐れて訪ねても追い返されることも多い中、これから訪ねる淀川家は、50年ほどの付き合いになる。
西日本を担当している、世話役当主糸重要は
この度は、山陰を周り始めていた。
世話役の名を語る
人さらい外法師、深見胡堂を追って。
高崎家の家族が殺され、死体のない、娘の姿が行方が分らなくって半年たったころ。
山陰、因幡の国と呼ばれ
現在は鳥取県の中ほどにある
ごく普通の民家で
この地方の一部でしか残っていない
言い伝えを守る者たちの会話があった。
「なんでも
はぐれ外道が出て
お外道様の居る
家の人を襲う事件が、少し前に合ったらしいけん
その家は、両親ははぐれ外道に殺され
その家の子供は行方不明になったと
世話役から、今、連絡があったから
あなた達も気をつけるのよ
はぐれ外道が出ても
わが家のお外道様はは、既に、お守り様に
格上げされたお外道様だから
はぐれ外道の対処の仕方は違って来るから
今日来る、お外道様の世話役に
やり方聞いて置こうね。」
そう母が言うと
娘の香音は、まだ八つ
とりあえず「は~い」と返事を返した。
今晩は、「夜分遅くにすいません。」
その日の、日が落ちる頃
淀川家を訪ねる者があった。
「お外道さまを管理する、世話役の深実胡堂と申し上げます。」
その男は、小柄で小太りの黒づくめ、背中に大きめの木箱を背負った出で立ちて
薄気味悪い笑みを隠すため
帽子を目深に被り、お辞儀をする振りをしていた。
やり方なんてどうでもいい、どうやって、騙して連れ帰ろうか
「ひひひっ」と小さく笑った。
本当に恐いのは
人が鬼か、鬼が人か解らないほど
一つになれるという事なのだ。
また、外道狩りが始まる
その後には、呪われた血の跡と生臭い獣の気配がいつまでも残るだろう。
憑き物筋は、呪われ忌嫌われ例え滅んだとしても
周りの人々は、関わる事を恐れ
忘れ去ることだろう。
そして、また一つの血筋が絶えることになる。
続く。