そして冬にはお手紙と……?
ちょっと長め。
赤や黄色の葉っぱが地面に落ちて、冷たい風が吹くようになったある冬の日のこと。ぼたんちゃんのもとにヒューくんからの手紙が届きました。
そして封筒をお母さんに開けてもらうと、春や夏、秋と同じようにそっと手紙を取り出して読みました。
『ぼたんちゃんへ
あめありがとう!
おいしかったよ
ふゆになってさむくなったね
こっちはゆきがふったよ!
ぼたんちゃんのところはゆきがふったかな
かぜひいちゃだめだよ
ペンダントをつくったよ!
よろこんでくれるとうれしいな
ヒューより』
ぼたんちゃんはヒューくんからのお手紙を読んで、封筒の中に入っていた毛糸とビーズでできたペンダントを見ながら、ちょっとしょんぼりとしたような顔になりました。なんだか元気がありません。どうしたのでしょうか。
お母さんは心配になりました。あんなにヒューくんからの手紙を楽しみに待っていたのに……
手紙とペンダントを持ってしょんぼりしているぼたんちゃんのもとへ行き、そっと小さな頭を撫でながら聞きました。
「どうしたの? ぼたんちゃん。」
ぼたんちゃんはしばらく唇をぎゅむっと固く閉じていましたが、少しすると小さな声で言いました。
「ヒューくんね、いつもヒューくんが字をかいておてがみかいてくれるの。でもね、ぼたんは字がかけないからね、お母さんにおしえてもらってシールでおてがみかくの。ヒューくんはかけるのにね……ぼたん、か、けないっのっ! そっ、それっにっ、ひっ、ひゅ、くん、あえなっ、いのっ、さび、し、よう!」
小さな声にだんだんと涙声が混じってきました。とうとう目から涙が出てくると、ぼたんちゃんはお母さんに抱き着いて、大きな声で泣き始めました。お母さんはぼたんちゃんの背中をトントンと優しくたたきながら、静かにぼたんちゃんが泣き止むのを待ちました。
ぼたんちゃんの泣き声が小さくなり、ひっくひっくとしゃっくりのような声だけになると、お母さんは手を止めずにぼたんちゃんに静かに話し始めました。
「ぼたんはヒューくん大好きだもんね。会えなくてさびしいよね。よしよし、よく頑張った。でもね、ヒューくんだってさびしいんじゃないかな?」
ぼたんちゃんはしゃっくりが止まらないまま顔を上げると、涙に濡れた目でお母さんの方をじっと見つめました。
「ひゅっ、く、もっ、さびしっ?」
ぼたんちゃんの問いに、お母さんは大きく頷きました。
「ヒューくんもぼたんが大好きだったもの。きっとさびしいと思ってるよ。ヒューくんもぼたんも一緒。大丈夫よ。また会えるわ。」
「……ほ、んと?」
お母さんの言葉に、ぼたんちゃんは聞き返します。本当に、またヒューくんと会えるのでしょうか?
お母さんはまた、大きく大きく頷きました。
「ヒューくんと約束したんでしょう? それともヒューくんは約束を守ってくれないかな?」
そういわれて、ぼたんちゃんはヒューくんのことを考えました。お母さんの言うとおり、ヒューくんはいつだって約束を守ってくれました。遊びに行くことも、おもちゃで遊ぶ順番も、絵本の交換をするときも……いつもいつもぼたんちゃんとの約束をヒューくんは守ってくれました。
「まも、って、くれ、た。」
「それなら大丈夫。ヒューくんはまた会いに来てくれるよ。」
お母さんは優しくぼたんちゃんに笑いかけました。そして、
「……う、んっ!」
ぼたんちゃんの涙もだんだんと止まり、やっとその顔に笑顔が戻りました。
「それとね、ぼたん。」
「なーに?」
お母さんの問いかけに、ぼたんちゃんは首をかしげました。お母さんはすっかり泣き止んだぼたんちゃんに笑いかけながら言いました。
「字がかけないなら、練習しましょうか。」
「れんしゅー?」
「そうすれば、ヒューくんにぼたんの字で手紙が書けるようになるよ。」
「ほんとっ?」
ぼたんちゃんの顔にいっそうの笑顔が広がります。
「ぼたん、がんばるっ!」
「うん、頑張ろうね。」
意気込むぼたんちゃんの頭を、お母さんはまたそっと優しく撫でました。
それからぼたんちゃんは頑張って字の練習をしました。うまくかけなくて落ち込んでしまう事や、もういやだと思ったこともありましたが、あきらめずに字の練習をつづけました。
そして今年初めての雪が降り始めたある日、ぼたんちゃんは初めて自分の字でヒューくんへの手紙を書きました。やっとヒューくんへの手紙を自分でかけたのです。ぼたんちゃんは嬉しくてかきおわると同時に飛び上がって喜び、お母さんにその手紙を見せました。
お母さんも「良くかけたね。」と頭を撫でてほめてくれました。そしてかいた手紙を封筒に入れ、お母さんに宛名をかいてもらって切手を貼ると、急いでお母さんと家の近くのポストに出しに行きました。早くヒューくんに手紙を届けたかったのです。
そして赤いポストの中に、ヒューくんへの手紙を入れました。早く届くといいな、と思いながらお母さんと雪の帰り道を帰りました。
あと少しで家につくというところで、ぼたんちゃんは家の前に誰かが立っているのを見つけました。誰が立っているのでしょう。お母さんに手をつないでもらいながら歩いていきます。立っているのはふわふわの栗色の髪の、男の子です。寒いのか青いマフラーに顔をうずめ、両手を口のところにもってきてハア、と息をかけているようでした。その男の子を見た途端、ぼたんちゃんはお母さんから手を離して、一直線に走りだしました。そこに立っていたのは……
「おかえりなさい! ヒューくん!!」
「ただいま! ぼたんちゃん!!」
これにて完結、めでたしめでたし。