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2.5次元の狭間にて  作者: 黒覇 媄兎
第1章 現実と仮想に異世界あり
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第3クエスト  ギルド結成


      *LOG IN


「はいみなさん、着きましたよ」

 少女の合図で俺たちはつい怖くてつぶっていた目を開けると、そこは俺だけが知っている気がする場所だった。

 大海原のように広大に広がる青い空。

 太陽光を直に受け深々と生い茂る草原。

 そして地上を低く飛びかう雲……。

 俺の夢に似ている。いや、似ているんじゃなくて同じだ。

「おい神夜、どうかしたか?」

「いや、別に。えーっと……君のことはなんて呼んだらいいのかな?」

「『アリス』って呼んでください。それがわたしの名前です。それとお嬢ちゃんって呼ぶのやめてください。こう見えて十七歳なんですよ」

『見た目は子ども、頭脳は大人』

 なんてフレーズが合うようなことを少女――アリスに言われちょっと驚愕してしまった。

「わ、わかった。改めて聞くけどアリス。ここって俺が見てた夢の世界だよな?」

 我ながら馬鹿げた質問していると実感している。別次元の世界が俺の夢とリンクするはずがない。

「はい。ここは神夜さんの夢の世界ですよ。もっと解りやすく言えばわたし達の世界と神夜さんの夢は繋がっているといったほうが正しいですかね」

 自分の立てた仮説が正しかったとは――。いやでも、俺がこの世界を夢で見るようになったのは確か、小学校に入学してからだったかな? ってことはそれ以前からこの世界はあったということになるのかな?

 一人でぶつぶつ考えている間に俊から感じる視線が痛かった。

「神夜。お前、大丈夫か?」

「あ、あー大丈夫。な、アリス。ここが“SOW”の世界なら俺たちがゲームで装備しているものとかもこの世界にあるのか?」

「はい、ありますよ。みなさん、左の人差し指をスライドさせるような動作をするとメニューが開いて装備とアイテムの確認ができます」

「そ、そうなのか?」

 アリスに言われるがままそのような動作をすると、スタートメニュー欄がタッチ画面式で現れゲーム時の自分のアバターデータと同じものが全て表示された。俺はすぐにアバター『夜神』と同じ装備“漆黒のロングコート”と“ブラッディ・ジーンズ”に着替えメニューボタンを閉じた。

「全員、着替え終わりましたか?」

「終わったぞ」

「右と同じく」

「………」

「ご苦労様です。では今から、私が属するギルド本部まで移動しますので」

 そういってアリスは再び、小声で魔法詠唱を始めここにいる全員を移動させた。


 夢で見た草原を離れた俺たちを待っていたのは十何世紀にタイムスリップしたかのような風貌を残す大きな街だった。外には天まで届きそうな外壁に街中にはいくつもの雑貨店と武具屋など、本当に異世界に来たことを実感する。

「みなさん、この先にギルド本部がありますのでついてきてください」

 アリスの後ろ姿を見ていると童話のアリスを思わせられる。服装、容姿はもちろんのことだが、あそこまで完璧に装備で再現できるものなのか。

 お茶会に遅刻しそうなアリスを追っかけているうちに、彼女の属するというギルド本部についた。なかなかいい門構えをしているし、中からは街の雰囲気を表現するような陽気な音楽が聴こえて――。

 グゥゥゥウウウウウウウウウ―……。

 と大衆酒場のほうから漂ううまそうに匂いに反応して腹の音が反応した。

 いかん、腹の音が……。

「なぁ、アリス、先にご飯にしないか? 俺、腹減って力が……」

「構いませんよ。そろそろギルド内の大衆酒場が込み合う時間帯ですからね。その間にギルド結成申請と皆さんのジョブを知りたいですし」

 西部劇にある酒場の扉を開け、誰も座っていない四人掛けの円卓に腰かけメイド姿の受付嬢に飲み物と各自で違う料理を頼み、出来上がるのを待った。その間に、アリスは俺たちにギルド結成申請の書類をスタートメニュー欄の『メッセージボックス』に送ってきた。

「これが、申請書です。青ボタンの『YES』の方を押せば申請完了です。リーダーは…

…神夜さんにお願いします」

「え、俺っ!?」

「はいっ。皆さんがサインしている間に個別でステータスのほう拝見させていただきました。戦闘力・スキルのパラメーターを全員のと比較してみても断トツで神夜さんのほうが高いですし戦闘経験も豊富とみます。それに神夜さんの種族は混血種。それも魔法力に長けるエルフと天界族ですし背中の紅翼は実際に空を飛ぶことが可能ですので空からの敵軍を打ち落としてくれることに期待してます」

「この紅翼が?」

「はい。慣れるのにちょっと時間が掛かるかと思いますが飛べることに間違いはないかと」

「へぇ―…この翼がな―…」

この世界でもただの飾りかと思っていた紅翼で空を飛べるとは。なんか面白くなってきた。

「ところで、この『ギルド名』の欄はなんて書けばいいんだアリス?」

「そ、そうですね―…。そこは神夜さんに決めてもらいましょう」

「俺かよ!? そ、そうだな……“六芒神聖”ってのはどうだ?」

 場の空気が一気に重くなった。誰か助けてくれ。

「い、いいんじゃないでしょうか。では早速、『ギルド名』の欄に」

申請書のサインが終わると無所属だったギルド名に俺が提案したギルド名が記入された。それと同時に注文していた料理と飲み物が運ばれ、殺風景だった円卓の上がパーティのごちそうのように彩った。

「料理も運ばれてきましたし。ギルド結成を祝って、かんぱ―いっ!」

「「かんぱーいっ!」」

「……かんぱい」

 推定Lサイズはあろうジョッキグラスを高々と掲げたグラス同士が爽快にぶつかり中の飲み物が波打ちのど越しのいいのが乾いたのどを潤していった。

「ぷはぁ――生き返る―っ。のど越しサイコ―っ!」

「確かにおいし―…。でもこれ、酒じゃないよな?」

「お酒ですよ」

 アリスの冷静な回答が返ってきて思わず口にふくんでいたものを吹き出しそうになる。

「さ、酒!? てか、俺たちまだ未成年なんだけどっ!」

「わたしも未成年ですよ。それに皆さんぐらいの年で普通に飲んでる人もいますから」

「へぇー…そうなんだ」

 この街には、未成年飲酒禁止法というものはないのかと疑ってしまいたい気分だ。俊とユキも飲んでるし、酔い潰れたりしないのだろうか?

 なんやかんやで盛り上がった夕食タイムを終え、食べ散らかったテーブルの上が綺麗に片付けられると、アリスがA3サイズの洋紙に描かれた地図を広げた。

「えー、今からこの世界の地形と理を説明しますねっ。まずは、ここ。神夜さんが『ここは俺の夢だ』って言っていた“スカイグランド”がここにあります。そして今、私たちがいる街がここ“ヘブンス・ドア”でして、先ほどの場所から南西に約五十キロ離れた場所に位置しています。そこからさらに東に数千キロ、大体このあたりに現世に侵略した魔王の城があるとされて―…」

 途切れ悪く人差し指の動きが止まり四つあった影が一つ増えていた。

「ん、んッ……。アリス、先ほど『聖王十字軍』の広報情報部に貴様ら四人が申請した書類が届いたのだがアリス。まさか貴様、聖王軍を退団し先ほど結成したギルドに寝返るつもりか?」

「――その通りです副団長。退団願いは昨日団長さんに出してます」

「退団してこんな力も対してなさそうな奴らと組むというのか!? 組んだところで貴様が命を落とすだけだ! 今すぐ解散し再び我がギルドに戻れ!」

「おいおっさん。言わせておけばいい気になってんじゃねーぞッ!」

「ちょ、ちょっと俊。落ち着け」

 キレる寸前の俊を宥めようとしたが、俊は聞く耳を持とうとせず副団長とアリスが呼んでいる男を睨み付ける。

「ここいらじゃ見ねえ顔だな。一人はエルフ……もう一人は天界人……いや、ハーフエルフとの混血種か。それに貴様はただの人間か」

 男は瞬時に俺らの種族を見抜き俊の胸座を掴む。

「この私に喧嘩を売っているのかガキ?」

「おっさん以外、誰がいるっていうんだよ。やり合うなら表でやろうぜ。ギルド内での乱闘はご法度なんだろ」

「ちょっと、俊。見知らぬ人に喧嘩売るのは――」 

「神夜」

「……ユキ」

 中立に入った俺をユキは手を差し出し、首を横に振って『ここは俊に任せましょ』というアイコンタクトを送ってきた。

「よくわかってんじゃないか。表へ来いよ」

 アリスが属しているギルドの副団長につられ俊は大衆酒場を出て行った。まさか、本当にやり合うつもりか?

 まあでも喧嘩売ったのは俊だけど。だが、喧嘩とはいえここでの喧嘩は決闘というのが正しいかな。もし仮に、俊が敗けたとき俊の命はどうなる? ゲーム時は確かデスペナを押し付けられ強制ログアウトの後、教会で蘇生される。

「なぁ、アリス。もし俊がこの決闘に敗けたらどうなるんだ?」

「ここは、神夜さんたちのいた人間界に極めて近い存在ですから……この世界で命を落とすということは『死』が待っていますね。とはいえさすが副団長も命までもはとらないと思いますよ。それに勝てばいいだけの話です。それより早く俊さんの応援に行きましょう。副団長は決闘の時必ず結界を張ります。その結界は誰も寄せ付けませんので早く行きましょう」

「それは、決闘以外のことでもか?」

「はい現実と同じです。ですからモンスターとの戦闘でやられた場合もありとあらゆる蘇生方法は通用せずに死にます」

「教えてくれてありがとうアリス」

 敗けたら……『死』か……。まるで、デスゲームをしているような気分だ。俊だって自分の命を懸けて決闘に出たんだ。勝てよ、俊。


「さて、かなりのギャラリーが集まっているようだが、みせる気はさらさらない。空間魔法 “固有結界”」

「誰の観賞を寄せ付けないわけか。なら、おもっいきりやり合おうぜ!」

 右腕を大きく前に突き出した俊は、亜空間から黒鋼の大銃『ハイオペリオン』を引き抜き銃身に属性弾を詰め込み戦闘態勢に入る。

「さ、始めようぜっ!」

「生きがるなよクソガキがーッ!」

 盾に納めていた長剣を抜刀し、俊との間合いを詰め盾で俊の銃口から出る属性弾から身を守りながら腹部に斬撃を入れるも俊は紙一重のところで後ろに避け銃口を向け属性弾“火炎”を数発撃ちつけるも盾で全部弾かれ再び間合いを詰められる。

「くそ……さっさとくたばれよ」

「貴様がな!」

 

           *


 周りに押し掛けたギャラリーたちの隙間をぬって最前列まで来たが俊たちの姿はすでになかった。そして、前方にはブヨブヨした不可視な結界が張られていた。ってことはここに結界がはられて――。

「どいて、神夜。私がこの結界に侵入コードを入れる」

 ちょっ、ユキ。まだ、どいてなー!?

「侵入コード。アクセス開始」

 目の前の不可視な結界に自分の利き腕を突っ込み、何やら怪しげなコードと呪文を唱え始め徐々に結界の一部が中和され始め。

「アクセス完了。これで中に侵入できる」

「サンキューユキ。さぁ行こうー!」

 ユキが作ってくれた不定形な侵入口を突破した途端、結界は不定型な侵入口を閉じ再び形状を維持し始め俺たちを空間内に留めた。

「いざ結界内に入ったのはいいが、意外と広いんだなー」

「わたし達のいた空間とここは孤立してますからね」

 周りには円を描くようにギャラリーがいたからここが壁だとして、結界はどのくらい広いんだか。それより俊はいったいどこに?

「神夜、俊の居場所を発見した。あと、数秒後にここに来る」

 と、コートの袖をクイクイっとユキが引っ張って耳元で予言のようなことを呟いたその直後。レンガ造りの雑貨店が突然倒壊し、煙とともに黒鋼の銃身を光らせ、銃口から赤い光弾を連射している俊が出てきた。

「くそっ! 盾は破壊したのはいいが、なんで見切られるんだよって神夜達じゃないか。どうやって入って――」

「よそ見してる暇はないはずだがッ!」

 煙を蹴散らして副団長と名乗っていた男が剣先を俊に向けて突撃してくるも、俊は大銃を盾にして自身の身を守る。

「ハッ! あっぶねぇなーッ!」

 自由の利かない空中で俊は大銃を振るって副団長をふき飛ばし、腰に巻いていたベルトから投げナイフを数本取り出し副団長めがけ投げつける。

「ふんッ! こんなの――」

「隙だらけだぜおっさん。俺の勝ちだッ!」

 投げナイフを剣技の一振りで全部振り落した時に生じた隙を俊は見逃すことなく、大銃の大口径の銃口を男の胸部に押し付け、問答無用でゼロ距離からトリガーを引き紅色の光弾を発砲させ、副団長を瓦礫の山と化した雑貨店に撃ち落とす。

「俺の勝ちみたいだな、おっさん」

「……確かに、そのようだ。ならば貴様らの実力を信じて、一つ依頼をこなしてくれ……」

「急にいい人ぶるのはやめろ、気持ち悪いっ」

 そういいつつも、俊は副団長から一枚の洋紙を受け取っていた。

「いいか? これより東に数百キロ先にある“和の国”に行ってもらう。依頼内容は、直接依頼主に訊いてくれ……。なんでも内乱の鎮圧を鎮めるのに戦力が不足しているらしくてな」

「ふーん……なるほどねー。よしその依頼引き受けた。神夜達もいいよな?」

「もちろんだ。道中で氷空や咲妃たちに会うかも知れないし」

「異議なし」

「てなわけで、引き受けさせてもらうぜおっさん。だが、そのかわりにもし魔王と出くわして戦になったときは聖王軍の力を借りるが、いいか?」

「もちろんだ……。我々は打倒魔王を掲げているギルド。では、頼んだぞ……」

 決闘が終わったことにより、外界との接触を拒んでいた結界が消え瓦礫の山と化した雑貨店は元の形を取り戻し青々しい月光が明るい街中を照らしていた。

「さて、決闘も終わったことだし。気分がいいぜ―」

「まったく、無茶しやがって」

「へへっ。こずくなよっ。それより、神夜。この後どうすんだ? もう街を出るか?」

「いや、明日朝一で街を出ればいいだろう。今日のところは宿屋にでも行って身体を休めたい」

「それもそうだな。なあこの近くに宿屋とかあるのか?」

「もちろんありますよ。それが、こちらですっ!」

 アリスのハツラツとした声で指差した宿屋は、西洋の館に近い形をした宿屋で周りには返し刃の付いた塀にやたらごつい重装備をした門番付きの宿屋だった。

「ここ、ほんとに宿屋? 収監所の間違いじゃないよな」

「いえここは列記とした宿屋ですよ。門番がいるのはわたし達の装備品を守護するためにいるのですよ。そのおかげで守りは鉄壁です」

「そ、そうなのか。なら入ろうか」

 重装備の門番の前をおどおどしながら通過し、宿屋の受付でチェックインを済ませた俺たちは今晩泊まる部屋のカギを二本手に入れ、一本をアリスとユキペアに渡しそれぞれの部屋に入っていた。

「じゃあ、また明日な。おやすみー」

「おやすみ神夜、俊」

「おやすみです。神夜さん、俊さん」

「おーおやすみー」

 アリスたちと別れた俺たちを待っていたのは、一等地に建てられたマンションの一室を思わせるほど豪華な内装をした寝室だった。

「内装すげーなー……てか、超疲れた……」

「せっかくの褒め言葉が台無しだぞ俊」

「そう言ってもよー俺の武器、めちゃくちゃ重たいんだよ。でも、あれはあれでしっくりくるんだよ。まあいいや。じゃあ俺は寝る。おやすみ神夜……」

 着ていた装備から赤のインナーに着替えた俊は、ばたりとベッドにうつ伏せになって寝込んだ。

 俊もルてしまったことだし、俺も寝ようかな……。

着ていた装備から黒のインナーに着替えいざ、ベッドに横になるも。

 ……眠れない……。

 寝ても覚めても咲妃と氷空の安否ことばかりかんがえてしまう。俺が知っている中ではあの二人がこの世界にいると考えたが“SOW”をしているのは俺たち以外にも学級委員の白星さんや全国各地にたくさんいる。もし仮にゲームプレイヤー全員がこの世界にいたらって考えると余計眠れなくなってきた。

外で風に当たるか。

 ベッドから起き上がり、さっきまで装備していた衣服に着替え直し部屋を出て、宿屋の中庭に設置されたべンチに座り、夜の冷たい風に身体と小さくしていた紅翼を広げて浸す

「ホントに動かせるんだな、この翼。ちょっと飛んでみるか」

 ベンチから立った俺は、芝生を思いっきり跳躍して翼を羽ばたかせ空高く舞い上がった。

「すごい、ホントに飛んでる! 現実の世界じゃまず味わえない感覚だ」

 空中を舞いながら、黒太刀を鞘から抜刀し少しばかり素振りをして来たるべき空中戦に備えて身体をならす。


 素振りを始めて、どれくらいの時間が経ったのだろうか? 袖の中が徐々に蒸れはじめ、遠くの外壁からは眩しい光が街中に入ってきた。

 そろそろ朝か……部屋に戻って少し休むかって!? ユキ、お前いつから……。

「昨日の晩から。正確には、あなたが空でその黒太刀を振っている時から」

「そ、そうか……」

 気配というものをまったく感じなかった……。いるなら声の一つでもかけてくれればいいのに。

「ユキ、俺はもう部屋に戻るが。お前も戻るか?」

「うん」

 間が開いてしまったが、ユキは俺に早歩きで追いつきキュッとコートの袖を握ってきた。

「ちょっ、ユキっ!?」

「……少しだけ」

「…………」

 言葉の出ないため息とともに顔が少しほてってきた。ユキのこんな姿を見たのは初めてだ。しかし、こうしてまじまじと見るとユキもかわいいもんだ。

 ユキと一緒に寝室フロアに戻るなり、タイミングよくアリスと俊に会った。

「おはよう。俊、アリス」

「おはようございます、神夜さん。あれ、ユキさんもいっしょでしたか」

「うん」

 どうやら、アリスはユキが部屋を抜け出していたことを知らなかったようだ。

「まぁみんな起きてきたわけだし、これから朝食でも食べに行こうぜ」

「そうですね。早く食べて“和の国”へ行きましょう」

 来た道を逆走してアリスの案内のもと、朝から館を模様した宿屋を一時退出し朝早くから多くの人が賑わうギルドの大衆酒場で朝食を摂ることにしたのはいい。しかし、周りの人が食べているものを見る限り、どれも高カロリーなものばかりで朝の苦手な俺にとってはきついメニューだ。とても、食べきれん。

「あの、神夜さん大丈夫ですか?」

「大丈夫じゃない……。ここは、あんな高カロリーメニューしかないのか?」

「いえあんな高カロリーメニューを食べるのはあの方々だけですよ。さすがにわたしもー…太りたくありませんからね……。わたし達はわたし達で低カロリーなものを摂りましょう」

 昨日座っていた円卓に腰かけアリスがいつも食べているという定食を四人分、ジョッキグラスを運んでいる受付嬢に注文して料理がくるまでの間、談笑して時間をつぶした。 

「そういや、神夜。その背中の紅翼ってホントに空を飛べるのか?」

「あー飛べるぞ。夜中にちょっと飛んでみた。今は邪魔だから小さくしてる」

「空飛べるってそうそうないよな。俺も飛んでみたいな―」

「あとで担いでやろうか?」

「遠慮しとく。空中で落とされたら命がね―よ。それにまだ、死にたくねー」

「そうかい」

 談笑をしているうちに、四人分の定食が二人の受付嬢によって運ばれてきた。しかし、お盆の上に載っている料理を見る限りなんとなくだが日本食に似ているな。日本食に欠かせない米に味噌汁。それにちょっとデカいが色艶な黄色で型崩れしてない卵焼きに巨大魚の姿焼き。

「低カロリーメニュー?」

「そうですよ。では、いただきます」

 アリスは、一人だけ箸を持って湯気立つ味噌汁に手を付け始めた。

「……俺も食おう。いただきます」

「いただきます」

 アリスにつられて、俊とユキも定食にありつき始めた。残るは俺だけ……。全部食べきったところで、胃もたれは確定だな。(低カロリーなのに……)

 しかし、俺だけ食わないわけには……。あーもうーっ!

「いただきますっ!」

 普段食べない量の朝食にやけくそになりながらも、俺は朝食を懸命に口に運び続けた。

 

 そして、その数分後。

「「「ごちそう様でしたっ」」」

「ご、ごちそう様……」 

 胃袋から逆流してきそうなものを食道で押さえ込みながらもお盆に乗せられたメニューを全て完食したわけだが、吐きそうだ……。

 なんで、あの三人は平然としていられるんだ……。うらやましい……。

 青ざめた顔で湯呑に注げられた熱々のお茶をすすりながら平然としているユキ達をじっと死んだ魚のような目で見つめた。

「? 神夜さん、どうかしましたか?」

「い、いや別にっ!?」

 視線を察知されたのか、アリスが疑問を吹っかけてきたがすぐにしらを切った。

 日本食のようで量が半端じゃないない朝食を食べ終えた俺たちは来た道を戻りチェックインした宿屋の各部屋で自分の装備と回復アイテムを整え、受付でチェックアウトを済ませすぐに宿屋の門前に集まった。

「全員、集まりましたね。ではこれからいよいよ“和の国”に向かうわけですが、道中亜人種や獣種などと言ったモンスターが出ますので気を付けていきましょう。でも、皆様の力があれば楽勝でしょう」

「随分と買い被るねアリス」

「いえいえ、昨日の俊さんの戦闘を見れば皆様の実力も大幅理解できますから。それでは東街門に向かいましょう」

 街のほぼ中心に位置する宿屋から東に進み城壁以上の高さを誇る街門をくぐり疾風によって波打つただ広い草原に出た。

「ここからは、馬に乗って行きましょう。 “和の国”には大体二日ぐらいで着きます」

「結構遠いんだな―…。途中で小さな村とかそういうのはないのか、アリス?」

「えーっと、ありませんね。最近までは“和の国”の近くにあったのですか、何者かによって村人全員が一夜にして殺されましたから」

「い、一夜で……こっわ―…」

 歩きながら俊が少し怯えていた。

「その村は通らなきゃ“和の国”に行けないのか、アリス?」

「いえ別に通らなくても“和の国”には行けます。でも、どうしそんなことを?」

「ちょっと見ていきたいからな。村人全員を一夜で殺した者の爪痕とか」

 平然とした態度で話しているが実際のところ俺も俊と同じで心中は怯えている。

「それより馬で行くなんていうけど馬小屋が見当たらないぞ? まさか歩きなんてことは――」

「そんなことはしませんよ。とりあいずみなさんにこれを」

 アリスはアイテムストレージを展開し、そこから陶器でできた馬笛を四つドロップして俺たちに一つずつ手渡す。

「これは馬笛だよな? ゲームで見たことあるから分かるけど。これを吹くと馬がくるとか?」

「その通りです神夜さん! まあ普通に吹けば馬はどこからともなく現れますよ」

 ピィ――っと高い音が笛から奏でられる。そして、しばらくして遠くから力強く草原を踏み締めて走る馬が四頭現れた。

 馬は飼いならしていないのに気性はおとなしく、人懐っこくモンスターにあっても怯えはしなさそうな感じがした。俺たちは馬に跨り手綱を手にし

「よろしく頼むよ」

 とあいさつを交わしてモンスターなんていなさそうな広い草原を某RPGゲームのようにバランスのとれたパーティが疾風の吹き付ける草原を駆け抜ける。


 多々広い草原を日中に駆け抜けた思いきや、次に待っていたのは太陽の光を遮るほど青青々と茂った樹木の森だった。幸いにも、過去幾度となく馬車が通ったと思われる道があったため俺たちはそこを通って“和の国”を目指すも今どのあたりにいるのか判らないまま夕暮れ時を迎えてしまった。

「日も暮れてきましたし、今日はここまでにしときましょう」

 馬から降り手にしていたカンテラを地面に置いたアリスは、アイテムストレージから必需アイテムの『焚き木』を出してカンテラの灯火を木に移す。そして俺たちと周りに不可視な結界を張り、ちょっとしたテントを張って木々の枝に馬の手綱を結ぶ。

「これで、寝ている間に襲われることはありませんのでご安心を」

「それはいいが、煙で一酸化中毒起こさないか心配だな……」

「それなら大丈夫ですよ。煙は外に出ていきますから充満することはありません」

 便利に結界だな。

 苦笑しながらも俺たちは馬たちに干し草を与える。ほっと一息つき火の周りに腰かけ道中食べた携帯食料を数本胃袋に詰め込んで疲れ切った体にエネルギーを補給したけど、何かものたりない。

「なんか―…肉とか魚がほしいな」

 肉……。ちょっと視線をずらせば馬肉が四頭分ある。でも、あの馬たちは食用なのか? い、いかん! よこしまな考えが!

「た、確かに。なら俺が捕ってくるよ。肉は食えるものなら何でもいいよな?」

「ちゃんと食えるものならなんでもいいぜ神夜」

「あいよ。じゃ行ってくッ!?」

 不可視な何かに鼻をぶつけた。そういや、アリスが不可視な結界張ってたっけ。すっかり忘れていた。

「き、気を取り直して行ってくる……」

 痛むデコをおさえて、人一人分は出れるほどの穴を開け結界の外へと出ていき一人常闇の森林内をカンテラ一つの灯火で焼いたらうまそうなモンスターを探したが、なかなかいないものだ。よく夜行性のモンスターをソロで狩って経験値稼いでたんだけどなー。

 一人モンスターを追い求め先に進んでいると、空を斬る音が聞こえた。

「魔力解放“A.T.フィールド”全方位展開ッ!」

 何層にも及ぶ“A.T.フィールド”を隙間なく張り巡らせ飛んできた武器の勢いを止めすぐに周りを見渡すと青白い光がいくつも浮いていた。

「霊……魂?」

 気配を探ってもその位置に浮いている霊魂からは気は感じられずただ浮いているだけだったが突然、急激に紅く輝きだし一斉に飛んでくるも展開している“A.T.フィールド”の前では無力。すぐに爆炎と化して全て消えたが全方位が煙で覆われ視界が奪われ。

「動くなッ!」

 耳元で少し曇りかかった声で脅しをかけ、喉元には冷たい冷気を放つ鋭利にペティナイフを突きつけられた。山賊か?

「金目のものと武器を捨てろ。従えば命だけは助けてやる」

「従ってもどのみち殺すんだろ。だったら抵抗はさせてもらうぜ!」

 喉元に押しつけられたナイフの刀身を手で握りつかみ相手の腹部にひじ打ちを決め、間合いを作り相手から奪ったペティナイフに魔力を送り凝縮する。そして敵目掛け勢いよく投げつけたが、頬をかすっただけで致命傷までとはいかなかった。

 しかし、投げたナイフの勢いは止まらず木々に刺さるや否、貫き小さなクレーターを地面に作り上げ周りの木々を吹き飛ばし青白い月光を森林の中に注ぎこみ相手の容姿を照らす。

 ピンッとえり立った耳にフサフサした尻尾……まぎれもなく亜人種の中でも人間に一番近い種『獣人種』

「なんて力だ……ここは一時退却ッ!」

 赤い光球を地面に叩き付け瞬間白い煙を立ち昇らせた。そして風で煙が晴れるころには獣人の姿はなく気配を探っても近くには誰もいなかった。

完璧に逃げられたな。

 俺は小さくしていた紅翼を広げ力強く羽ばたかせアリスたちのいる結界テントへと戻った。


 漆黒の森の中から一本のゆらゆらと揺れる灰色の煙柱が見え始め、一歩手前で急降下し、地面に降り立った俺は“紅翼”を再び小さくして不可視な結界に振れ人一人分入れるほどの穴を作って結界内へと入った。

「お、神夜。おかえり。収穫はあったか?」

「残念ながら無しというところか」

「そうか……しゃあない。今日はもう寝るか。おやすみ……」

 と俊は木に寄り掛かり目を閉じ寝てしまった。

 ほんと俊って寝つきいいようなー。

「わたしも寝ますねおやすみ……」

 アリスも寝てしまった。結局起きているのは昨夜と同じで俺とユキだけとなった。

「えーっと……また起きているの俺たちだけになったな……」

「………」

 会話が長続きしない……。

「お、俺も寝るなッ! おやすみ、ユキ」

「おやすみ神夜」

 腰におさめていた太刀を装備から外し後ろに聳え立つ木に腰かけゆっくり瞳を閉じ眠りについた途端、何やら甘い香りが鼻腔を通ってきた。瞼を開けるとぼんやりとだが、見慣れた黒マントに白髪ショートヘアが俺の目の前にいた。

「神夜。まだ、起きてる?」

 柔らかな吐息とともに甘い声で呟かれた。

「ユ、ん、んぐぅ!?」

「だーめっ……そんな、大きい声出したら俊たちが起きちゃう……」

 な、なんか、ユキのキャラがこっちの世界に来てから随分変わっているような……てか、やたら積極的。

「あ、あの……ユキ。ホントにユキ……なのか? 」

「そうだよ、神夜……。私は私。香西ユキ本人だよ。今から結界内の人目につかないところに移動するね。あ、その前に火、消さなきゃ」

 冷たい吐息一つで燃え盛ったたき火を消し去ったユキは魔法陣一つ描かず、瞬時に人目に付きそうにない草木に俺を移動させギュッと抱きついてきた。

「ちょっ、ユキっ!?」

「神夜、私ね……ずっと前からあなたのことを想っていた……。私あなたのこと想うと心が熱くなって……。それで告白しようと思ったけど、なかなか言う勇気が無くて……だから、今ここで言わせて……私、あなたのことが好きなの……」

 目と鼻の先でユキは瞳を潤わせ頬を紅めぎこちない感じで俺にユキ自身の想いを告白され、どう反応すればいいのやら……。

「ユ、ユキっ……」

 小さな胸の膨らみを押しつけながらユキの頬から雪解けのように冷たい雫が隣り合っていた俺の頬に伝わってきた。

 俺には泣いているユキにどう声をかけたらいいのか判らなかった。ふつう、こういうときってどうすればいいのか。全国のリア充さんに問い訪ねたい気分だ。

 

 現実世界の地元でもお目にかかれない満点の星空が広る常闇の夜空を東のほうから白々しい光が周りの風景を閉ざしていた瞼の隙間に入り込み朝の訪れを教えてくれた。

「ん……もう朝か……」

 半覚醒状態の瞼をこすりながらあたりを見渡し、俊たちに気づかれない内に俺の身体に抱き着いたまま寝ていたユキを起こした。

「ユキ、起きろー。朝だぞーっ」

「ふ、ふみゅぅ……あ、神夜。おはよう―…」

「おはようユキ。とりあいず、俊たちのところに戻るか」

『誰のところに戻るって?』

「いや、だから。俊たちのとこ―…」

 訊き慣れた声が後ろから聞こえた途端、冷や汗が額から滲み頬を伝ってきた。

「起きたらユキと神夜がいなくなったから驚いたが、まさかこんなところにいたとはな」

「ちょっ、変な誤解するな俊!」

「誤解するなって言われてもーユキが神夜に抱き着いたまんまだから―…」

「えっ? あっ……」

「……わひゃぁ―ッ!」

 ユキと目があった瞬間、突然視界が歪み頬には物理ダメージによる痛みが走り、身体が宙を舞って頭から地面に激突し頭部への痛みが二割増しになった。

「ユキ……いきなり殴ることはないだろ……」

「ご、ごめん……神夜……」

 呼吸を乱しながらもユキはすぐに俺のもとまで寄って謝ってくれた。やっぱり意識しているのか? それとも、ユキなりの照れ隠しなのだろうか?

「とりあいず戻ろうぜ。アリスも心配している」

「それもそうだな。行こうぜユキ、俊」

「……うん……」

「お前が仕切んなよな。迎えに来たのは俺だぞ」

 俊にこづかれながらも、俺たちはたき火がたっていた小規模の拠点に向かって足を進めた。

 拠点はそう遠くはなく、歩いて数歩でアリスの姿が見えてきた。

「あ、神夜さんとユキさん、おはようございます。二人そろって昨晩はどこにいたんですか?」

「う……。それは―言えない……」

「………」

「二人そろって赤くなるなんて。まあいいでしょう。詳しくは聞きませんから朝ごはんにしましょう」

 朝食とは言っても昨日の朝食のようなメニューではなく夕食の時に食べた携帯食料だ。これ、一本だけでも腹の足しにはなる。

 朝食がほんの数分で済むとアリスは張っていた不可視な結界を解き、地図を開いて朝日が照りつける東へと馬に跨って駆け抜ける。

「皆さん、あと数十キロで例の小さな村に着きます」

 朝から元気いいな―…。俺にもその元気を分けてもらいたいものだ。

大きなあくびをしながら親父臭いことを呟きつつ黙々と走り続けていると、昨晩の襲撃地を通りかかった。しかし、そこには誰一人触れることなくスルーして先を進んだ。そして、小さなクレーターの中心には木端微塵に砕け散ったナイフの刃の残骸が太陽光を受け、砂金のごとく光っていた。

 太陽の位置が南中に差し掛かりここ一番ともいえる熱気を帯びた光が緑豊かな森林に降り注ぐ頃、俺たちは“和の国”への中間ポイントと栄えていた村に着いた。

 村は見る影もなく寂れ、木造建築の家の壁には生々しい血痕がこべりついており惨劇の恐ろしさを物語っていた。

「ここが、例の村です。もう間もなくどの地図からもこの村は消されるでしょう」

「アリス。俺、ちょっとこの村で起きた惨劇について調べるから先に“和の国”へ行っててくれないか?」

「は、はい。あ、神夜さんそのちょっと待ってください」

とアリスは、肩掛け鞄から丸められた少し大きめの洋紙を手渡された。

「予備で持ってきた地図です。では、わたし達は先に行ってますね」

 そう言い残してアリスたちはさらに東へと行ってしまった。さて、この村で起きた殺戮ショーの謎でも調べるか。

 地図を見る限り村の面積は広く、江戸時代の日本家屋に近い造りの家が多いから一軒一軒調べると少し骨が折れそうだ。

的を絞るか。

 茶菓子屋の前に馬を停泊させ、探偵にでもなったような気分で村中をたった一人で調べ上げた。重要だと思うことをダイレクトメールの下書き用にメモし、大方判ったところで茶菓子屋前に戻って再び馬に跨って分かったことを一つ一つ整理していく。

 一つは殺戮を大人数で決行していること。

 二つ目に武器も多数使用された痕跡。

 そして、三つ目に奴らは魔法が使える。証拠隠滅のためか至る所に焼失した家があった。たいまつを使った痕跡は見当たらないとするとこの線は濃い。

 ってもう夕方か。かなり時間食ったな―…しゃあない。飛ばして――ッ!

「魔力解放ッ! “A.T.フィールド”展開ッ!」

 殺気を感じた方に手をかざして鉄壁ともいえる“A.T.フィールド”を張るも、眼下に隠れていた思われる敵二人が馬の強靭な足の腱を斬り裂き逃げ道を断つ。そして、俺と馬の影を隠すほどの屈強な大男が俺の背後に立ち巨大な拳を振りかざす。俺は馬から飛び降り直撃を免れるも馬の背骨はへし折れ無残にも殺されてしまった。

 ――ごめんよ、許してくれ。

 殺された馬に頭を下げ、助けることが出来なかったことを悔いる。

「こんなところに山賊と出くわすとはな。隠れている奴も出てこいよ」

 腰に納刀していた黒太刀の鍔に親指を当て、いつでも抜刀できる体勢に入り廃屋に身を隠す山賊どもをおびき寄せる。

「なかなかいい装備してるじゃないか兄ちゃん。いいから金目のものを置いて行きな」

「おいても俺を殺す気なんだろ? 俺が葬ってやるから早くこいよ」

「ちっ。ただのガキではないらしい。野郎どもーッ! 準備はいいか―!?」

「「「「オーッ!」」」」

 キ――ンっと耳を劈くほどの野太く活気あふれる声が全方位から聞こえ隙間なく山賊たちが姿を現し一斉に襲い始めてきた。

「これだけの大人数で隙の一つも作れないなんて。あんたらバカ?」

 襲い掛かってくる山賊たちの隙間を瞬間的にかいくぐり頭上高く飛び上がり中央に大方群がった山賊どもに手を添える同時に座標を絞り。

「魔力解放“A.T.フィールド”展開」

 何重にも展開した“A.T.フィールド”を勢いよく中央に群がった山賊たちの頭上に突き落とし群がった山賊を一網打尽にする。

「ぞ、賊長。あいつ魔法が使えますー」

「う、狼狽えるなっ。こんなこともあろうかと用心棒の先生をよんである。先生、お願いします」

「なんだい、あんたら。あんなガキ一人始末できないなんて。とんだ無能どもだね。まあいい、あたいに任せなッ!」

 突然、目の前に碧い柄を輝かせた薙刀を持ち、自身は袴姿で胸部を白のさらしで覆い隠し紅色の道着を肩にかけた黒髪ロングヘアの女性が俺とほぼ同じ高さまで跳躍し。

「ごめんよ、少年。これも仕事だからね!」

「くぅ“A.T.フィールド”展開っ!」

「そんなの張っても無駄だよ!」

“A.T.フィールド”を張るも反り立つ薙刀の刃がフィールドをいとも簡単に破壊しそのまま、廃屋と化した小屋に俺を叩き落とす。

「殺りましたか!?」

「殺ったかもな。フィールドを破壊してこの高さからスピードで廃屋に突っ込み地面に叩き付けられれば――!」

「誰を殺ったって?」

「しょ、少年……。どうして……ここ、に……」

「いちゃわるいかよ!」

 鳩尾を殴った右腕を離し、滞空していた用心棒がよろめき堕ちる寸前に両手を合わせると同時に、魔力で両手を硬化させ後頭部を殴りつけ地面に垂直に叩き落とす。そして用心棒が落下してくる前に地面に降りてった俺は、タイミングを見計らって用心棒の腹部に回し蹴りを決め、肉体に物理的ダメージを蓄積させ木造の牛舎に放り込む。

 これで残るは遠くでただ一人反り立つ湾刀を持ち全身をガクガクに震わせる賊長だけとなった。しかし、俺が一歩歩いただけで恐怖に怯えた賊長は後退りし一目散に森の中へと逃げてしまった。

 逃がしちゃまずかったかな?

 アイテムストレージからポーションを取り出した俺は、ぱっくり裂けた左の手平の傷と消耗した体力を癒し、頬についた返り血をぬぐい取って空を見上げた。空はすでに太陽が月に時間帯のバトンを渡しており、満点の星空が顔を出していた。おまけにメールボックスにはアリスから

『現在、和の国の天守閣第三層にて依頼主と以来の詳細を訊いています。神夜さんも早く来てくださいねっ。それと、関所で入国手続きをしてくださいね。入国期間は三日間です』

 メールボックスを閉じ、東に位置する和の国まで全力で背中の紅翼を羽ばたかせ流星のごとく飛んで行く。


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