第2クエスト 異界のとある出来事
――異世界“SOW”のどこか“謎”――
『あーもうーこの本でもなーいっ!』
薄暗い書斎部屋で、山のように積まれた分厚い文献を読んでは投げ捨て、読んでは投げ捨てるを繰り返す一人の少女がいた。
「もうなんで書かれてないのよー。もしかしてはずれ引いたのかなー?」
椅子に座っているゴスロリ姿の少女は、頬を膨らませて両足をバタつかせて役に立たない本に怒りをぶつける。
(ラッテで奪ってきた本になら、あの方について書かれていると思ったのに……。なんでどれもかしこも書かれてないのー! やっぱり下読みだけじゃいけないか)
少女は、次の本に手を伸ばして読み始めた途端。
「失礼します、お嬢様」
燕尾服を着込んだ老人が扉をノックして書斎部屋に入ってきた。
「どうしたのですの、セバスー。ぼくは今読書中だよー」
「申し訳ございません。ですが、あと十分ほどで大部屋にて会議が行われます。ですので私目がお呼びに来ました」
「あー会議するって言われてたね~忘れていたよ。分かった、すぐ行く」
少女は椅子から下りて老執事に言われた通りにして、書斎部屋を出た会議が行われる大部屋に向かった。
(会議って何話すんだろう? ぼくは早く積み本を片付けたいのに~)
顎に手を当てて考え事をしていると、ドンッと体長三メートル強はあるであろう屈強な体つきをした黒肌の男にぶつかった。上半身には幾多の戦いで負った傷を縫った跡が幾か所あり、上を支える腰、そして機動力となる足は傷一つない漆黒の鎧で守られていた。
「いったーい! もう! 何突っ立っているのよ!」
少女は男のすねを力強く蹴るも、鎧が堅すぎることもあり逆に足を痛める羽目になった。
「つぅ~……もう痛いじゃないか!」
「自業自得だろ。俺様は知らん。それより貴様も大部屋に行く途中なのだろ?」
「そうだけど? なんならぼくが案内してもいいんだよ~クアルト・セイテン」
「俺様を番号で呼ぶな!」
「そういうけど。これはあの人が決めたルールだから仕方ないよ。本当の名を言っていいのはここからでた時だけ。あるいはあの方の許しが出た時だけだから」
「なら仕方ないな」
「そう仕方ない」
二人は等間隔で飾られたロウソクだけが灯る薄暗い廊下を進んでいき一つの大扉の前に辿り着いた。
扉を開け部屋に入ってみれば質量を持たない人の形をした影が上質な素材でできた椅子に座っていた。
「……ナンダ。オマエタチカ」
「むっ! その言い方はないんじゃないかな~……セクスト」
「……」
「だんまりですか。あれ? キントはまだ来てないの?」
「アイツハゲカイノホウニイッタキリダ」
「ふーん……。それよりなんの話し合いかは聞かされていたりする?」
「キカサレテハイナイ。テルセロタチハドウナンダ?」
「ぼくたちも聞かされてはいないよ」
「同じく俺様もだ」
「いったい何話すんだろうね~……って言ったそばから来た来た」
カツッカツッ、と足音を立て、深紅の甲冑を身にまとった男が静かに大扉を開けて部屋に入ってきた。
「集まったのはこれだけか」
「キントは下界に。プリメロ、セグンドは彼によって消されたよ。あ、セグンドを殺ったのはぼくだった」
テルセロは自身の手でセグンドを殺ったのを思い出し、ぷぷっと笑った。
「そうだったな。……まあいい。本日君たちに集まってもらったのはほかでもない。魔王を討つものとして結成した同盟ギルド“クロス・D”が動き出したことは皆も知っているな。そこで、君たちに仕事だ。まず、テルセロ、クアルトの二人はギルド『ラース・タイタン』を潰してくれ。もちろん、巨人族を一掃してくれても構わない」
「うぇー……殲滅かー……一番めんどいの押し付けてくれたねー」
「一国を滅ぼした奴が何を言う。……セクストどこに行く? 君にもやってもらいたい仕事があるんだ」
「オレハオレノシゴトヲスル。ソレダケダ」
そういってセクストはボンッと音を立てて姿を消した。
「まったく……キントといい自分勝手なやつが多いな。話は以上だ。私も仕事が残っているのでなこれで失礼する」
男は席を立ち、そのまま部屋を出ていった。
「みんな行っちゃったね。ぼくたちも行く?」
「たりまえだ。俺様の中の血が滾る……!」
「そう。じゃあめんどうだけどお仕事に行こうか」
テルセロとクアルトも離席し、彼女が描いた魔法陣に上に乗ってギルド『ラース・タイタン』の拠点でもある巨人族の住処“シャマール・ルドニーク”に転移した。
*
「うぅー……さっむーいっ! もっと厚着してくればよかったー!」
「軟弱だな」
「軟弱って言わないでよ。さ、ぼくを君の肩に乗せてよ」
「……いいだろう」
「ありがとう♪」
テルセロはクアルトの肩に座り、巨人族の拠点を目指して歩くよう命令する。
突きつける強風によってあたりの岩々は長い年月をかけて風化し、鋭く尖っていた。
クアルトは吹き付ける冷風をもろともせず歩き続けた。そして、距離にしておよそ二百メートル先は高さ百メートルは優に超えているであろう巨大な外壁が聳えてっていた。
「見えてきたきた♪ さあ仕事の時間だよ。ぼくはぼくでやっておくからさ」
「チッ……。一人だけ楽しよう立ってそうはいかねえぞ!」
「じゃあお願いねー」
肩から飛び降りたテルセロは地面に着地すると少し離れたところに移動した
「行きやがったか。……まあいい。そのほうが俺様も思う存分暴れることができる!」
両足にグッと力を込めたクアルトは、力強く縮められたバネが溜めた力を一瞬にして溜めた力を開放するようにして外壁を守る巨人族に向かっていった。
『ッ! お、おいっ! 誰がが突っ込んでく――!』
「華々しく散れ……!」
右手に力を込めたクアルトは一瞬にして門番兵の胸部を殴った。何層にも厚く作られた防具など紙切れに等しく、いともたやすく拳に破られ巨人の身体は殴られた衝撃に耐えられず無残に散った。
「なっ!?早急に本部に連絡しろ! 侵略者だっ!」
「侵略者とはひでえ言われようだ。普通は光栄に思うだろう? 遠路はるばる天災と謳われた魔王が直々に来てやったんだからよ!」
念通で増援を呼んでいる兵士にも間髪入れず右拳で殴り飛ばした。
壁内からは緊急を要する鐘の音が響き渡り、ドタドタと慌ただしい足音が門に向かって響き渡ってくるのが地面を通じてわかった。
(さあ来いよ、『ラース・タイタン』 俺様が直々に滅ぼしてやる)
開閉門が開き、重装備をした巨人族が隊列をなしてクアルトの前に現れた。
「よう。先頭に立つあんたがギルトマスターか?」
「いかにも。俺はギルド『ラース・タイタン』の長、リーゼだ。そういう貴様は……」
「死に逝く奴に名乗るほどの名じゃないぜ!」
クアルトはリーゼとの間合いを一瞬にして詰め、右拳を振りかざした。しかし、リーゼは顔色一つ変えず、クアルトの重い一撃を左手一本で受け止めた。そして、受け止めたとき生じた衝撃波が後ろで待機していた兵士を軽々と吹き飛ばし地面と壁に亀裂が走る。
「ほお……俺様の一撃を受け止めるとは……!」
「……なかなか重い一撃だな!」
負けじと、リーゼも右拳に力を籠めて振るうも、たやすく受け止められ、クアルトの第二撃がリーゼの腹部を襲った。
「なっ!」
込み上げてくる激痛と吐き気。脳を揺さぶられたわけでもないのにめまいが生じ、全身がしびれたような感覚がした。
「どうやら俺様の思い違いだったようだ。ギルドマスターだから強いのかと思ったが、貴様は、ただタフなのが売りなだけの巨人にすぎん」
グッと右拳に力を込めたクアルトは魔力で硬化させ、バチバチっと音を立てる雷を拳にまとわせる。
「塵と化せ……巨人族の戦士よ」
うな垂れるリーゼの顔面に躊躇なく、クアルトの雷をまとった拳が直撃した。拳の勢いは凄まじく、雷はリーゼの皮膚を溶かし、物理的に彼の首をはね上げた。そして、雷はリーゼの身体を通って地面に伝わって、地面を割っていった。その力は震度7を優に超えるほどの力を持っており、逃げ惑う巨人たちを地走る雷が焼き殺していった。
「チッ……。弱すぎて反吐が出るぜ。これで殲滅はおしま……いや、まだ何万かは生き残っているか……。探しだして殺すか……!」
クアルトは拳にこべり着いた血をぬぐい取り屍の上を悠々と歩き進んだ。
「やっぱりクアルトは強いな~。ぼくが調整しただけはある。に、しても、屍を消し済みにしないでほしいな! 人形がいなくなるじゃないか! さて、ぼくはぼくで、あの城に行ってみよう♪」
テルセロは外壁に腰かけてクアルトとリーゼの戦いを見終わると、国の中心にそびえる城に転移した。
城内は、逃げ延びた市民は保護するために慌ただしく兵士が行きかいしていた。
「陛下! たった今ですが、一瞬、南西に雷が落ちた模様です!」
「そうか……。ところで、リーゼはおらんのか?」
「彼は現在、兵を束ねて開閉門のほうに向かい――」
『華々しく散りました』
「「っ!」」
巨人族の王と兵士の会話にテルセが割って入ると、弧を描くようにして巨人族に囲まれ壁に大穴を開けられるであろう巨大な槍の矛先が向けられた。
「き、貴様は何者だ!」
「ぼく? 初めまして巨人族の王様。そして生き残った皆さま。ぼくは君たち巨人族を滅ぼしに来た天災ですっ♪ では、さっそくではありますが、死んでください」
ニカッと笑ったテルセロは閃光玉を地面にたたきつけて兵士たちの視覚を奪い、その場から姿を消して、城の真上に転移した。
「さようなら、巨人族の皆さま。死んでも生きながらえるよ。ぼくの人形としてだけどね♪」
紫のビー玉ほどの光球を作り出したテルセロは、ポンッと、城に向かって投げ捨てた。
徐々に落下速度が加速していく光球が、城のてっぺんに触れた瞬間、核爆弾でも落とされたかのように爆発して国一帯を焼き尽くしていった。
「ん~……何度聞いてもやはり爆焔魔法の爆発音は身体に沁みるね~。あぁ~……軽くイっちゃったかも……」
頬を赤らめてテルセオは身震いして荒れ果てた地に降りた。
『……これはまた派手にやってのけたな』
ドンッ! と何億ホルトの雷がテルセオのそばで落ち、そこからクアルトが姿を現した。
「爆発に巻き込まれたのかと思ったよ」
「ひどいこと言うなー……。お前が城の上空に現れたのを見てすぐに避難したんだよ」
「そう。で、もう巨人族の生き残りはいないよね?」
「……電場には何も反応しない。殲滅は完了したみたいだ」
「そっかー……全滅しちゃったか―……。何人か生け捕りしておくんだったかなー……。あ、そうだっ! ねえクアルト! その手についている血って巨人族のだよね!?」
「ん? あ、あぁ、そうだが……これをどうするんだ?」
「クローン技術で巨人族を造るんだー♪ それに血中にも遺伝子情報は含まれているからねー」
テルセオは純白のハンカチを取り出して、クアルトの手に着いた血を拭った。
「クアル……うんん、インドラ仕事は済んだし帰ろっかっ♪」
「そうだな、アイリ」
テルセオ改め、アイリが召喚した魔法陣に二人は入り、その場から姿を消した。




