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2.5次元の狭間にて  作者: 黒覇 媄兎
第4章 リェータイルシオン・フェスティバル
26/32

第1クエスト 旅先での新しい出会い

 翌日。

 現実的に見れば長く感じる平日も、金曜日を過ぎれば『あっという間の平日だったな』なんて錯覚を起こすのは俺だけか?

 てなわけでやってきました。夏休み最初の土曜日、の昼前。

 今日は来たる月曜日の小旅行に向けて、俺を含めて氷空とアリスの十六夜家。目的が同じということで咲妃とユキに俊の六人で都心にあるショッピングモールに来た。まあぶっちゃけると、いつものメンバーで買い物に来たわけだ。

 傍から見るとちょっとしたリア充集団と思われるかな? 

 週末だから、子連れにカップル、俺たちみたいな男女グループの客さんたちが多くまわっていた。

「ねえお兄ちゃん。昨日話した事考えてくれた?」

「考えたけど。この際だからはっきり言っておくよ氷空。新しい水着は買いません。買いたいのなら自腹でな。自腹で」

「私の所持金が少ないの知っているくせにー!」

「無駄遣いしすぎるからだ。自業自得だ氷空」

 保護者顔負けの説得を氷空に言い聞かせ、俺たちは目的地でもあった水着売り場に着いた。

 シーズン中とだけあって、値段はそこそこ張る物の品ぞろえ数は豊富。今年の新作モデルからプロ御用達の競泳用までそろっている。これは何を着るか迷うなあっと、その前に。

「咲妃、頼みごとがあるんだがいいか?」

「? いいわよ神夜」

 店に入る前に俺は咲妃を呼び止めちょっとした頼みごとをした。

「この封筒の中に四万入っているからアリスと氷空の水着買ってやってくれ」

「分かったわ神夜。に、してもあんたって立派に保護者していると思ったけど氷空ちゃんの頼みをしっかり聞き入れるなんてねー。さっき説得していたくせに」

「う、うるせーよ咲妃! それじゃあ買い終わったらそこのベンチで落ち合おうぜ」

「了解。ユキ達にもそう伝えておくわ」

 咲妃に頼みごとを伝え終えた俺は俊と一緒にメンズ水着売り場へと、咲妃たちはレディース水着売り場に向かっていった。


「あっ! これかわいい~。ユキはどっちがいいと思う?」

「そうねー私的には右の黒ドット模様が入ったホルターネックフリル付スカートビキニがいいと思うよ」

「よね~いいセンスしてるわよ、ユキ♪ でもちょっと胸の部分が小さいわね~ちょっと大きいのあるか聞いてみよう。それでユキはどうするの?」

 左手に持っていた水色のスカートビキニを棚になおした。

「私は咲妃みたいに胸、大きくないし……でも、神夜に可愛いって言われたいし……。わ、私はこれかな?」

 ユキが棚から取り出したのは、藍色のバンドゥフリルビキニだった。

「どう……かな?」

「いいと思うわよユキ♪ 髪色と合っていてすっごくいいよ~」

「あ、ありがとう咲妃……なんだか照れくさい」

 ぎゅっと手に持っていたバンドゥフリルビキニで赤く火照った頬をユキは隠した。

「値段は~っと。あたしのが一万七千八百円と税込。ユキのが一万三千八百円と税込。可愛いけどお金持っていかれるわねー」

「確かに。お金足りるかなー?」

 ポーチの中に入れていた長財布を取り出した二人は揃いも揃って、所持金を計算して手にした水着が買えるかどうかの見積もりを立てて氷空たちのところに向かった。

「氷空ちゃーん、アリスーいいのあったー?」

「あ、咲妃さん。いいのありましたよー♪ でも、お金が……」

「それなら問題ないわよアリス。はいこれさっき神夜から預かったお金」

 カバンから咲妃は神夜から受け取った封筒をアリスに手渡した。

「ありがとうございます咲妃さん。うわぁ四万も入ってる」

「お礼は神夜に言ってちょうだい。それとその四万には氷空ちゃんの分も含まれているそうよ」

「わ、私の分もですかー!?」

「そう。まったくあんたの兄貴ってとことん氷空ちゃんに甘いわよね」

「そうですね。えへへ……ありがとうお兄ちゃん……」

「それはそうと。二人はどんなの選んだの?」

 そろそろ話しの本筋に移ろうと、ユキがアリスと氷空にどんな水着を選んだのか問いかけた。

「私はこれでーす! 今持っているハート模様の藍色ビキニのと合わせて使える白黒ボーダーストライプのタンキトップ・ビキニですっ! 値段は一万六千八百円の税込です!」

「わ、わたしは、ピンクのフリル付ワンピース水着です。少し子どもっぽいですけどね……」

 えへへっと、アリスは頬を赤めいて笑って見せた。

「二人合わせても十分に足りそうね。それじゃあ会計済ませて神夜たちと合流しましょうか」

 咲妃たちは各々が決めた水着を手にしてレジへと向かった。でも、一応確認で今持っているのよりも他にいいのがないかの確認もきちんとして後悔しないようにした。


「お、来たか。おーい咲妃―ユキーこっちこっちー」

 と、買い物を済ませた咲妃たちに気付いた俊がベンチから立ちあがり、手を振り始めた。

「もう店内で大声あげないでも分かるわよ俊。それより神夜たちも買ったの?」

「あぁ。俺はスカイブルーのサーフパンツ。神夜はブラックのサーフパンツな。こいつの水着選びに結構時間喰ってよ~」

「俊! それを言うなよ! だっていいのがあまりなかったから……。と、とにかく、全員買い物は済んだしフードコートにでも行こうぜ。そろそろ昼時だしよ」

 早々に話を切り上げた俺は、そろそろ込み始めるであろう一階にある大型フードコートに向かった。

 移動しながらの会話は『どんな水着を買った?』だの『どんな旅行になるのかな』など、遠足を楽しみにしている小学生のような心躍る会話だった。

 正直なところ、俺も楽しみだ。

 俊とユキたちと夏休みを過ごすようになったのは高一から。そして今年からはアリスに白星姉妹が加わり、一層楽しい夏休みになる気がする。

 そうこうしている間に、一階のフードコートに着いた。ファストフードから鉄板料理のお好み焼きやたこ焼き、パスタにオムライスなど多種多様な店が出回っていた。

「さて、着いたのはいいが。お前ら何食べるか決めたか? 俺は久々にミクド(ミクドナルドの略)にするけど」

「あたしも神夜と同じでミクドにするわ。注文は―……神夜と一緒でいいわ。あ、飲み物はコーラのLサイズで」

「私も咲妃と一緒でお願い。飲み物はQのすっきりしろブドウのMで」

「じゃあ私もお兄ちゃんと一緒にする~! あ、飲み物はオレンジのMね」

「か、神夜さんっ! わたしも氷空さんといっしょのでお願いします」

 全員一緒って……。こりゃあどうするかなー……選択肢は俺に委ねられたし。まあミクドとは言ったけど、事実上何を食うかまでは決めていない。

 とりあえず、注文すっか。

「俊。俺と一緒に来てくれ。一人じゃあ人数分の持てないからよ」

「おう、分かった」

 俊を連れて俺は三列渋滞を作っているミクドのレジ前に並んだ。その間、咲妃たちには空いているであろう六人席を確保しに行ってもらった。

 三分ちょっと過ぎた頃合いで前の人がレジ担当の人に注文を言い終え、横にずれようやく自分たちの番が来た。

 俺は店員にミクバのクーポンを使うことを伝えて、手早く注文し会計を人数分済ませた。もちろん代金は後でいただくつもりだ。

 深緑色のトレー三つの上に、注文した品々が次々と乗せられていく。やっぱ手際いいなー。むしろこの状況に慣れているとでもいうべきかな?

「お待たせしました。それではごゆっくり」

 店員からトレー三つを渡され、どっちが二つ持つかなんてじゃんけんで決めず、自分から進んで俺が二つ持って席を確保してくれているはずの咲妃たちのもとに向かった。

「さーって。咲妃たちは何処に……?」

 目を凝らして家族連れや学生パーティが行きかうフードコートにいる美少女四人を探した。

「なあ神夜。あれ咲妃たちじゃないか?」

 と、俺よりも先に俊が咲妃たちを発見してくれた。さすが、サバゲで鍛えただけの観察眼を持っている。

 俊が指差す方に目をやると、何やら咲妃たちは大学生? と思われるチャラけた男性三人に絡まれていた。

「どうする? 止めに行く?」

「いや、あっちには咲妃と氷空がいるから暴力沙汰は無いと思うけど。止めに行くか。俊、しばらくの間右手の方のトレー持ってもらっていいか?」

 トレーを一つ俊に渡して、俺たちは咲妃たちがいる席に歩み寄った。

「ねえ君たちさ~今暇?」

「よかったら俺たちと昼飯でもどうよ?」

 咲妃たちに声をかけていたのは、やたら軽薄そうな格好をした三人組。それも金髪、耳ピアスに色黒と言って三拍子そろって一昔前のドラマに出ていたチャラ男たちだった。

「生憎だけど、あんたたちみたいな下衆でチャラけた男性と食事する気は毛頭ないので、お引き取りください」

 立ち上がった咲妃は見下したにこやかな笑顔と『今すぐここから消えろ~』という怒の籠ったオーラを放った。

「へぇ~……言ってくれるね~クソアマァー!」

 一人の男性が咲妃の言い方にキレ、右手を振りかぶり彼女目掛け拳を振るも。咲妃は横にかわし、伸びきった右手を掴みそのまま男性の背まで持っていきグキッといやな音を立てた。

「い、いぎゃあああああああああ!」

 咲妃に関節を外された男性は痛みに悶え苦しみ悲鳴を上げた。

「お、おい大丈夫か!?」

「か、関節が! 関節が外れて―!」

「女だからってあんま調子乗るなよ!」

 関節技を決められた男性の友人がポケットからバタフライナイフを取り出し、刃先を咲妃に向けまっすぐ走ってきた。

 刃物の扱いに慣れている咲妃は、すぐに身構え左足を上げナイフを持った手を蹴ろうとしたが。

「はいはーい。女の子に刃物なんて向けちゃ~だめですよッ!」

咲妃たちの席に到着した俺はパイなげの要領で左手に持ったトレーを、男性の顔面に勢いよく投げつけた。

「ぬぁ!?」

 いきなり顔面にハンバーガーを乗っけたトレーをぶつけられた男性は、トレーの勢いに押されてそのまま倒れ込み後頭部を床にぶつけ気を失った。

ふぅ~危なかった~。てか、こいつら弱くね?

「――テ、テメェら覚えてろよー!」

 気を失った男性を担いで悪人らしいセリフを言い捨ててチャラ男三人組みは走り去った。

「覚えたくないよ。まあそれはさておき。ケガはないか咲妃?」

「当たり前でしょ神夜。でも、すこし怖かった……かな?」

 えへへっと笑っている反面、咲妃の足はガクガクに震えていた。無理もないか。ひと回り身体の大きいあいつらに、咲妃は一人で立ち向かったんだからよ。

「怖い思いさせて悪かったな咲妃」

「うん……」

 今にも泣きそうな咲妃を俺はぎゅっと抱きしめて慰めた。

 その後、暴力沙汰を聞きつけた警備員に俺と咲妃はそろって事情徴収され、事は丸く収まり一件落着した。

 ぶちまけた分のハンバーガーのお咎めはなく、俺が買い直すはめとなった。あいつら、今度会ったときはきっちりと落とし前をつけさせてもらわなきゃな。

 ふぅー……と、買い直してきた分を乗せたトレーをテーブルの上に置いてため息を一つついた。

「ため息一つで幸せが抜けるよ、神夜」

「このため息は幸せを手放すものじゃない。疲れたという意味でのため息だよユキ」

 ビッグミクドバーガ―の包み紙を開いて、かぶりつき空っぽの胃の中に流し込んだ。

「お疲れ様神夜。それはそうと。咲妃は食べないの?」

「えっ? あ、あぁそうね。いただきます……」

 ユキの呼びかけでハッと、咲妃は我に返った。

「まだ、さっきのこと気にしているのか咲妃?」

「うん……ちょっとだけね。あれをもう少し穏便に済ませておけば、あんなことにはならずに済んだって今になって後悔してるよ」

「そう気に病むことじゃねえよ。公衆の面前であんなことをるあいつらが悪いことだ。咲妃は悪くねえよ」

「そう言ってもらえると少しは気が楽になるかな? ありがとう神夜っ」

「お、おうっ」

 咲妃の満面の笑顔を見て、俺の心はドキンッと跳ね上がり顔が妙に赤く染まった……気がした。

 昼食を終えた俺たちは、トレーを片付けそのまま駅の方に向かい雛乃町に直帰した。もうしばらくは遊んでいられるけど、明後日の準備等もしなきゃいけないし無駄に時間と金を浪費するわけにはいけないという個々の意志が強かったためである。

「それじゃあまた明後日なー」

 雛乃駅に着いた俺たちは自転車で来ていたユキと俊と別れ、そのまま雛乃商店街で夕食の買い物を済ませ。

「あ、神夜―。今日もうち両親いないから夕食ごちになるね」

 などと、買い物を済ませた後に咲妃の口から重大発表ときた。

 そういうのはもっと早く言ってほしいよ、咲妃。

 はぁ……重たいため息を一つついた俺は、買い物袋に詰まった食料で足りるかどうか考えたけど、念には念をということで買い足しに戻った。

 咲妃と氷空、アリスには先に帰ってもらい夕食の下準備をしとくよう伝えた。

 一日に二度も同じ店に行くことになるなんてなぁ……。二度手間だけは幾度と避けていたのにやれやれ……。

 一人分の、咲妃の分だけを買い足して俺は帰路に立った。

 夏休み初日もいよいよ終盤。家に帰れば氷空たちが下準備してくれている夕食の食材に手を加えて食すだけだし。そして、夜と明日一日は月曜日に向けての準備期間として利用すれば万事解決だな。

 家に帰ってみればアリスと氷空が家の中をドタバタと行ったり来たりしていた。

「お前ら、何してるんだよ? それより夕食の下準備は終ったのか?」

「あっ。おかえりなさい、お兄ちゃん。もちろんそれは終ってるよ~。それにね、今は旅行の準備してるんだっ」

「おう。ありがとう氷空、アリス。とりあえずあとは俺がするから二人は準備してていいからな」

「「はーいっ」」

 と、小学生顔負けの元気のいい返事をして二人は二階へと上がっていった。

 さて、俺は俺で夕食のほうを終わらせるか。

 靴を脱いでそのまま台所へと向かい、買い足した食材を氷空たちが切ってくれた食材同様に切りそろえ、熱したフライパンの中に投下した。


           *


 二日の時間が過ぎ去り、新しい一週間が始まった。

 先日……日曜日は丸一日費やして小旅行の準備に使い、必要なモノが無い場合は俺が商店街までひとっ走り行ってきた。

「氷空、アリスー。忘れ物は無いか?」

「もちろんないよーお兄ちゃんっ」

「わ、わたしも無いです」

「よし、行くか。じゃあルナ姉さん。留守番お願いします」

「はーいっ。……でも、私も行きたかったな~小旅行。しかたないよね~シフト入ってるから仕方ないわよね~。みんな、楽しんできてねっ」

「「「はいっ」」」

「じゃあルナ姉さん、行ってくる」

 まだ少し眠たそうにしているルナ姉さんに『行ってきます』って、三人そろって言い待ち合わせ場所である雛乃駅に向かった。


 待ち合わせは『九時に雛乃駅に集合』とのこと。現時刻は八時をちょっと過ぎた頃だから十分な余裕があ――。

『遅いわよ、神夜っ!』

 雛乃駅に着くと、白のスクエアブラウス、その中に黒のTシャツを着込みカジュアルニデニムのショートパンツを着た咲妃がビシッと人差し指を向けて言ってきた。

「さ、咲妃っ!? それに、ユキに俊に白星さんたちまで!?」

 な、なんで全員集合しているんだ? まだ、約束の時間まで十分な余裕があったはずっ! ってことはまさかッ!

「ごめんね~十六夜くん。十六夜くんだけ、約束の時間を一時間遅く伝えたの。本当は八時集合なのよ」

「なっ!」

 あぁ……つまり、あれですか? 主役は遅れてやってくる? 的なあれですか? 

「じゃあ氷空とアリスはこのこと知ってて――」

「う、うんっ。ごめんねーお兄ちゃん……。とおりん先輩から口止めされて~」

「すみませんでした、神夜」

 すでに何かを条件にしてこの二人を買収したのか。策士だ……。

「二人とも謝ることはないよ」

「さて、ネタバレも済んだことだし。そろそろ電車に乗ろうと思うけど、その前に! これっ! 引いて!」

 そういってとおりんさんは八枚もの紙切れを差し出した。

「これはいったい……?」

「そう疑問に思わなくてもいいよ園崎君。ほら、皆も引いて引いて」

 戸惑いながらも全員とおりんさんの周りに集まり握られた紙切れを一枚ずつ引いて行った。そして、紙切れの端っこには番号が書かれていた。ちなみに俺は四番だ。

「八雲さん、この番号は?」

「咲妃さんそう焦らないで。皆紙切れの下の方に番号が書かれているわね。それは都心から乗る電車の座席番号よ。ちなみに私は八番ね」

 座席の番号かー。確かこういうシチュがよくラノベや漫画で見るな~。

「それとグループ一は一~四。二は五~八ね。隣に座るのは隣接する番号同士でね」

「一~四……。神夜は何番だった!?」

「俺は四だけど。咲妃は何番だった?」

「あたしは二番だよ。よかった―……神夜と一緒のグループだ。でも隣じゃないのが残念かな」

「咲妃。喜ぶのはまだ早いよ。私も神夜と同じグループ」

「ユキもかー。それで番号は?」

「一番。咲妃の隣ね」

 と、いうと俺の隣に座るのは誰だ?

「わ、わたしです。神夜さん!」

 少し頬を赤めながらアリスが三の番号が書かれた紙切れを手にしていた。

「そうか。よろしくなアリス」

「はいっ」

 にぱーっとアリスは朗らかに笑った。

 そのまま俺たち八人は都心行の電車に乗り込み四十分ちょっと横一列になって空いた座席に座り都心に着くのを待った。

 都心に到着した俺たちを待っていたのは大勢の帰省客や通勤者たちだった。さすがは都心だ。平日だからこの時間帯は人が多い。

「皆―離れないようについてきてねー」

 と、ガイドさんのようにとおりんさんは俺たちに指示を出して先頭を歩き、別荘がある駅へと向かう電車に乗った。

 俺たちが乗った二両編成の電車の一車両目はガラリと空いており前の座席には俺たちと年の変わらない? 男女のカップルが座っていた。二人で彼氏さんか彼女さんの実家にでも帰省して祖父母に紹介でもしに行くのかな?

「あの二人……どこかで?」

「? 白星さんどうかしたの?」

「うんっ。あそこに座っている二人、どこかで見たことあるなあと思って」

「ただの気のせいだよ、白星さん」

「そうだよねっ」

 俺と白星さんは二人して納得し席に着いた。

 席は二人かけで前の席も同様になっており向かい席となっている。なるほど、このことを見越してとおりんさんは席クジを行ったのか。

 俺たちは乗車したところから近い席に着いた。向かいの席には咲妃とユキ。窓際にはアリスと通路側に俺が座った。隣の列の通路側かつ俺の隣には氷空。窓際には俊が座り、彼らの向かい側の席にはとおりんさんと白星さんが座った。

 あの二人ってどんな時でも一緒にいるけど、クジでも一緒の席になるなんてな。どんだけクジ運高いんだよ。

 今から目的地までは三、四時間の旅路か。何して時間をつぶそうか? ……それより、隣の席からものすごい視線を感じるなぁ。

「うぅー……お兄ちゃんの隣が良かった―……」

「そ、氷空さん。心の声が漏れてますよ」

「だってとおりん先パーイ! 先輩はいいですよね! 好きな人が隣にいて―! 私もお兄ちゃんの隣がいいです~!」

「わがまま言うな氷空。お前も通路側。俺も通路側。これも立派な隣じゃないのか?」

「そ、そうかもしれないけど……」

「まだチャンスはあるよ氷空。その時勝ち取ればいいんだよ」

「そうだねっ。私がんばるよっ!」

 氷空が納得してくれたと思うと、やっと一息つけるような感じがする。

「ねえ神夜。あんたは夏休みどうするか決めてるの?」

「一応はな。八月入ったら親父の実家に帰ってしばらくはじいちゃんに稽古つけてもらおうと思っているよ。それ以外は課題とレベリングだな」

「あたしもかな。課題終らせてサキのレベリングもしなきゃだしね」

「私は家の仕事があるから、頑張らなくちゃ」

 皆それぞれにやらなきゃいけないことがあるようだ。俺も、充実した休みにするか。

 和気藹々と会話がはずむにつれて電車と時間が一緒に進んでいき、正午を少し過ぎたころ。電車が長い長いトンネルを抜けた途端、咲妃たちの座っている窓から空の色をそのまま地に移したかのように綺麗な海が見えてきた。

「みんなーっ! こっち来てー! 見えてきたわよー!」

 一足先に、窓に映る風景に気付いた咲妃が大声を上げて皆に海が見えてきたことを伝えると同時に目的の駅に着いた。

 電車を降りた俺たちは、意気揚々に背伸びをしたりして強張った筋肉をほぐした。そして、隣には前列に座っていたカップルも俺たちと一緒の駅で降りていた。

「やっと着いたねー。別荘までは少しあるけど、そう遠くはないからね。じゃあ私についてきて―」

 各々のカバンを手にして海が見える別荘地帯に向かおうとしたとき。

『あれ? 白星さん? 白星ミチルさんだよね?』

 と、一緒の駅で降りたカップルさんが白星さんに声をかけてきた。

「えっ? あ、も、もしかして黒樹くんと聖奈(せな)さん!? うわぁー久しぶり~っ。中学校の卒業式以来かな?」

 どうやら、白星さんとは中学時代の友達みたいだ。

「あ、こちらね。私の中学時代の友人でね。名前が」

「桜音高校二年の黒樹(くろき)圭介(けいすけ)。気軽に圭介って呼んでくれていいからな」

「お、同じく桜音高校二年の小鳥遊(たかなし)聖奈(せな)です。よろしくねっ」

「で、こっちが今通っている鳳仙学院でのお友達でね。一番背の高いのが十六夜神夜くんで、栗色のツーサイドが妹さんの氷空さんで金髪がアリスさん。そして、茶髪のポニーテールが八雲咲妃さんで、白髪のボブカットが香西ユキさんで、二番目に背が高いのが園崎俊くんだよ」

 自分から自己紹介する前に白星さんが全員の紹介をしてくれた。とおりんさんだけが紹介されなかったが彼らとの面識があるのかと見た。

「ご紹介に預かった十六夜神夜だ。よろしくな圭介」

「こちらこそ。よろしくね、十六夜君」

「俺のことも神夜と呼んでくれ。それに今日は兄妹でこっち来ているから十六夜は三人もいるんだ」

「それは失礼した。では、改めてよろしくな神夜」

 ガシッと俺と圭介は出会って早々意気投合し合いあつく握手を交わし、ひとまず別荘地帯に向けて歩きながらしゃべった。

「ところで、今日は黒樹くんたちだけでここに来たの? 確か妹さんとお姉さんがいたわよね?」

「あぁ。ねえちゃんはサークルの友人たちと旅行。千亜妃は部活中でね。今年は俺と聖奈の二人で――」

「二人で……だとっ!?」

 此処に机があったらガタッっと勢いよく立ち上がっていたところだ。

 えっ? 今圭介の口からは『二人』って聞こえたけど……? えっ? どゆこと!?

「なあ圭介。お前と小鳥遊さんってどういう関係?」

「俺と聖奈の関係? 彼女とは幼少期からっといっても親同士が仲良くてな。それで仲良くなった感じかな? 俗にいうと幼馴染みって奴だ。それに今は恋人関係だ」

「へぇー幼馴染で恋人か」

圭介ってなんだがラノベの主人公みたいな人生を送っているなぁ。

「神夜と俊は恋愛とかしないのか?」

「んー……考えたことないな。そもそも恋愛というモノがいまいち分からん」

「今度解説してあげるよ俊。神夜はどうなんだ?」

「俺か? 俺はー……ちょっと恋愛で一度怖い思いをしたからな」

「怖い思いって? あー言いたくないなら言わなくていいよ」

 察してくれたのか。圭介は深く聞こうとしなかった。

 そうこうしている間にセレブ御用達の別荘地帯に着いた。どこの家も豪邸並に大きく俺たち庶民にとっては場違いともいえる場所だった。

「さあ皆―着いたわよー。ようこそ、白星家の別荘に」

 小中規模の別荘が建ち並ぶ地帯を通り抜けた先には、白の外壁に沖縄の首里城で使われている赤瓦が屋根に敷き詰められた大豪邸が建っていた。先ほどまで見てきた家々とは格が違った。

「マジか……」

 ゴクりと生唾を飲み込み、目の前に建つ大豪邸の存在感を痛感した。

「白星さん、神夜。俺と聖奈はあっちにある黒樹家の別荘に行くから。またあとでな」

「あぁ。またあとでな」

 圭介は彼女の小鳥遊さんと一緒に黒樹家の者が持つ別荘に向かって行った。

「じゃあそろそろ中に入りましょうか」

 俺たちは各々の荷物を手にして大豪邸に入った。

 扉を抜ければ大理石の玄関と数百万はするであろう絵画が俺たちを待っており、圧倒されながら俺らは靴を脱いでリビングに入った。

「あ、荷物は適当な場所に置いてくつろいで。今飲み物を注いで来るから」

「あっ。俺も手伝います、とおりんさん」

 裕に三十畳はあると思うリビングの隅に置いて、対面キッチンへと入りとおりんさんの隣に立った。

「い、十六夜くん!? 近いよう……」

「わ、わりぃ……。に、しても冷蔵庫デカいな……。これって厨房とかに置いている奴だよな?」

「うん、そうだよ。ここ家族だけじゃなくて親戚も来るから、普通のじゃ食糧が足りないからといって父がこれをね。とりあえず飲み物運ぶから手伝ってー」

「あいよ」

 とおりんさんが茶葉をティーポットに入れている間に、戸棚からグラスを人数分取り出し中に氷を入れた。

 そして、紅茶ができるなり氷の入ったグラスへと注がれキンキンに冷えたアイスティが出来上がった。

「皆お待たせ~。ガムシロップやミルクがほしい人はすぐ言ってね」

 トレーに四つずつ置かれたグラスを咲妃たちに渡して俺もソファに腰かけた。

「え~っと。皆お疲れ様でしたー。時間もまだ昼過ぎだからこれから着替えて海に遊びに行こうと思います。が、その前に部屋割りを決めたいと思いますっ! あ、私とミチル、それから十六夜くんと園崎くんは一緒ね。だから八雲さんたち四人はこのくじを引いてもらいまーすっ」

 電車での座席決めで使ったくじをカバンから取り出したとおりんさんは、アイスティを飲んで涼んでいる咲妃たちの前に差し出した。

 くじを前にして咲妃たちは何も言わず一枚、また一枚と引いて行き、咲妃とユキペア。氷空とアリスペアという結果になった。

「ゲストルームは二階にあるからどこを選んでもいいからね。じゃあこのあと、水着に着替えて海辺に集合ねっ♪」

「あ、とおりんさん。パラソルとレジャーシートはある? それからクーラーボックスもあればいいんだけど」

「あー。それなら確か庭のほうにある倉庫に入っていたかな?」

「ありがとう。俊あとで手伝ってな」

「お、おう。男子は強制荷物持ちかよ……」

「たりまえだ。ぶつくさ文句言うな」

「はいはい」

 アイスティを飲み干した俺はグラスをキッチンへと持っていき、軽く水洗いしてからカバンを抱えて二階のゲストルームへと向かった。各部屋の前には誰がどの部屋を選んだという張り紙が貼られていた。これなら事案発生しなくて済むな。

 ひとり納得して俺は“十六夜・園崎ペア”と書かれた張り紙が貼られた部屋に入った。

「お、神夜遅かったな。何してたんだ?」

 一足先に部屋に来ていた俊がスカイブルーのサーフパンツの水着に着替えながら質問してきた。

「グラス洗ってた」

「さすが、主夫の鑑だな」

「主夫言うな。好きでやってるんじゃないんだしよ」

 カバンからブラックのサーフパンツを取り出し着替え始めた。

 試着せずただ直観で選んでしまったがぴったりだ。

「俊。先に外いって準備しとくからお前も早く来いよ」

「了解っ」

 着替え終えた俺は脱いだ下着等をカバンにしまい、貴重品等を持ち合わせたカバンに入れ、ビーチサンダルと薄手の彗色パーカーを手にして部屋を出た。



 ――“とおりん・ミチルペア”の部屋――


「ん、んぅー……久しぶりにこの部屋に入ったねーお姉ちゃん」

「そうねー。あの時ミチルとベランダに描いたラクガキがまだ残っていたのには驚いたわ」

「お父さんが残してくれてたのかな?」

「そうかもしれないわね。さ、私たちも着替えましょうか」

「うんっ。あ、お姉ちゃん、ワンピースのファスナー外してくれる?」

 下ろしていたセミロングの銀髪を束ねたミチルはとおりんに白ワンピのファスナーを外してもらうよう頼んだ。

「いいわよミチル。しばらくの間あっち向いててね」

「うんっ」

 ミチルの頼みを快く引き受けたとおりんは白ワンピのファスナーを外した途端、透き通るような白い素肌と白のフリル付きブラのホックが彼女の目に入った。

「今日のミチルも……一段と可愛いわぁ~……」

「お、お姉ちゃん。目が怖いよ……?」

「あっ。ご、ごめんなさい……ついスイッチがはいっちゃったわ」

「う、うん……」

 ワンピースをベッドの上に置いたミチルはカバンから新調したモノクロのタンクトップ・ビニキに着替え始めた。

(はぅ~……ミチルが私の目の前で、小振りでかわいいおっぱいとおしりを無防備に……♡)

「お、おねえちゃんは早く着替えなくていいの!?」

「そ、そうねっ! (いけない、いけないっ! 私ったら、しっかりしなきゃねっ!)」

 我に返ったとおりんもカバンから水色と白のストライプが入った、フリル付ビキニと同系色のパレオを取り出し着替え始めた。



 ――“咲妃・ユキペア”の部屋――


「外装もすごかったけど部屋もすごいわねー……」

 スーツケースを置いて、ぽろりと咲妃は感想をいった。

「さっき見たけど、庭にはプールがあったわよ咲妃」

「マジで!? あとで泳がせてもらおうかしら……。に、してもやっぱお金持ちって庶民とは違うわね~。こーんな大きな別荘まで持っているし、それに――」

「それより早く着替えましょう」

 着ていたTシャツを脱いだユキは、すでに藍色のバンドゥフリルビキニを中に着ていた。

「ちょッ! 中に着て来るなんて反則よユキ―!」

 黒のTシャツとブラ、ショートパンツ等をベッドに脱ぎ去った咲妃は黒ドット模様が入ったホルターネックフリル付スカートビキニに着替えた。

「あ、咲妃。後ろ向いて。髪結んであげるわ」

「ありがとう。いつも通りポニーテールでお願いしていいかな?」

「分かったわ」

 咲妃をベッドに座らせたユキは彼女の髪を一度櫛でとき、側に置いていた赤と黒のギンガムチェック柄のシュシュで結ってもらった。

「ありがとうユキ。やっぱりこの髪型がしっくりくるわ~」

「私もそう思う。……ねえどうして咲妃はいつもその髪型なの? ほかの髪型とかしてみたりしないの?」

「ん~……してみたいけどあたし的にはこれが一番好きだし、それに―……ねっ! ってほら行こうユキッ! 神夜たちももう行っていると思うし!」

「う、うんっ」

 手提げカバンとビーチサンダルを手にして咲妃はユキの手を引いて部屋を飛び出し、そのまま海辺へと向かった。



 ――“氷空・アリスペア”の部屋――


「ん、んぅー……! 移動だけで、すっごく疲れたよ―」

「氷空さん、そろそろ着替えないと一人だけ置いてけぼりですよ」

 紺のノースリーブシャツのボタンをはずしてアリスは、ベッドに出していたピンクのフリル付ワンピース水着に着替え始めた。その際、セミロングの金髪を黒のリボンで一本に束ねあげた。

「あれ? 一緒に暮らしているのに気付かなかったけど。アリスさんの首筋っていうよりうなじのところに魔法陣が描かれてるっ」

「えっ? 魔法陣ですか?」

「うん。あ、ドレッサーの椅子に座って―。今手鏡で見せるから」

 ベッドから起き上がった氷空は手鏡を手にしてアリスを椅子に座らせ、合わせ鏡でうなじに描かれた魔法陣を見せた。

「見えますか―アリスさん?」

「見えますよ氷空さん。いつ描かれたんだろう。わたしも気づかなかったなー」

 描かれた陣を指でなぞりながらアリスは陣を読み取ってみたが、複雑な術式が刻まれており解読は不可能だった。

(解読不可能っ!? ありえない……。それに触れて感じたあの妙な懐かしさはいったい……! もう一回触れて――ッ!)

 うなじの魔法陣にもう一度触れた瞬間、ピリッと微力な電流が生じ『これ以上触れる』という警告を出した。

「アリスさん大丈夫ですか!」

「平気です、氷空さん。それより早く着替え――っ!」

「? アリスさんどうかしましたか?」

 氷空が白のTシャツを脱いだ途端、たぷんっとピンクのブラに収まった豊満な柔肌が揺れた。

「い、いえ……。あの、氷空さんって今高一ですよね?」

「そうだよー。十二月で十六歳なんですよー」

「へ、へぇー……そうなんですねー……」

 氷空の胸を見ながらアリスは自分のつるぺたの胸をペタペタとさわった。


           *


 一足先に着替え終えた俺は、屋敷の庭にある倉庫へと赴いた。倉庫には鍵がかかっていなかった。たぶん、とおりんさんが開けておいてくれたんだろう。

とおりんさんの話しだと、ここにレジャーシートとパラソル等があると言われたけど……ダンボールの山しかないじゃないか。いったいどこにあるんだ?

一つずつ積み上げられたダンボールの山を外に吐き出して目的の物を探した。

「っ! あった! あったぞって! ちょっとホコリかぶってやがるっ!」

 せき込みながら、パラソル二本と袋に入ったレジャーシートを手にして倉庫を出た。結局クーラーボックスだけが見つからなかった。俺は外に出したダンボールを倉庫に戻し、シートをカバンに入れパラソルとカバンを担いで砂浜へと出向いた。

 相部屋の俊は愚か、咲妃たち女子六人の姿もなかった。女子の着替えに時間がかかるのはともかく、俊が遅いのは納得いかん。

 に、しても砂浜を出れば別荘地帯だというのに。人っ子一人いないなんてな。皆どこ行っちまったんだ―? やっぱあれか? セレブの夏は日本じゃなくて海外で過ごすのがセオリーって奴かな?

シートを広げた後、パラソルを砂浜に刺し立ててシートの上に腰を下ろして一息ついた。

今更だが、もうパラソル一本とシート一枚持ってくればよかったなあ。って、だったらまだ別荘の方にいる俊に連絡すればいいじゃないか。

 カバンから自分のスマホを手にして俊に連絡しようとした矢先。

『わりぃ神夜ッ! 遅れちまった。それとパラソルとシートをもう一つずつ持ってきたぜ』

 連絡をする前にパラソルとシート、それにクーラーボックスを俊が運んできてくれた。

 俊が珍しく空気を読んだ……だとッ!

「ん? なんだよその顔は?」

「あぁいや。ありがとう俊。それより、クーラーボックスなんてどこにあったんだ? 倉庫内は探したけどなかったぞ」

「それはよ。とおりんさんが出してくれたんだ。中にはぎっしり氷と水を入れて冷たくなった缶ジュースがたっぷりよ」

 持ってきてくれたパラソルとシートを隣に敷き、風で飛ばないようそこにクーラーボックスを置いた。

「とおりんさんがねー……。まあでも助かったよ。ありがとよ」

「いいって事よ。まあ女性陣が来る前に準備終ったからいい――」

『ずっと後ろで見ていたわよ。俊、神夜』

 後ろを振り向けば、黒ドットのホルターネックフリル付スカートビキニの上に薄手の彗色パーカーを着た咲妃。そして、ひとまわり大きい麦わら帽子をかぶりバンドゥフリルビキニを着たユキたちが来た。

「やっと来たか。おせぇーぞ咲妃、ユキ!」

「女の子は着替えに時間がかかるの!」

「そ、そういうものなのかー……。ならよ。とおりんさんたちと一緒じゃなかったのか?」

「さあね。どうせ委員長と一緒に来るんじゃないのって。ほ~っら、噂をすれば」

『ごめんねー遅れちゃったー。あ、十六夜くん、園崎君も準備ありがとう』

 と、屋敷の方から声が聴こえた方を向けば、貴重品等が入っているであろうカーキ色のトートバッグを手にし、軽く走ってきているだけで激しく上下に揺れる巨峰ともいえる柔肌を水色と白のストライプが入ったフリル付ビキニに隠れてなお隠し切れていない。

 あれほどの胸を持つ者は一人しかいない。とおりんさんだ。

 その後ろからは水玉の浮き輪を抱えセミロングの銀髪をツインテールに束ねた、妹である白星さんが必死になって彼女の後ろを走っていた。

「やっと追いついた―……もうお姉ちゃん速いよーっ!」

 ぷくーっと、頬を膨らませて白星さんはとおりんさんに抗議した。

「ミチルが遅いだけだよ。雛乃町に帰ったら、速く走れるように二人で特訓しようね♪」

「う、うんっ……」

 白星さんは曖昧な返事をとおりんさんにした。

 これであとは氷空とアリスペアだけか。氷空もとおりんさんと咲妃ほどではないが、それなりにスタイルいいからアリスの精神ライフが削られていなきゃいいなあ。って考え事をしている間に来た来た。

『お兄ちゃーんお待たせ~!』

 水色のトートバッグを手にし、栗色の髪は団子状に束ねた氷空が左手を大きく振りながらこっちに向かってきた。その後ろからは自慢の金髪をリボンで一本にまとめたアリスが走っていた。

「いや~みなさん遅れてすみません。着替えるのに結構手間取っちゃって~」

「別にいいよ氷空。皆今来たようなものだしよ」

 これで全員そろったか。しかし、男は俺と俊の二人。あと六人は全員が全員美少女だからなあ。絵面的にこれはどう見ても一つのハーレム系ギャルゲー……。

「ねえお兄ちゃん。私の水着似合っているかな~?」

 カバンを置いた氷空はチラッチラッと、豊満な柔肌をちらつかせながら近づいてきた。

 くっ……。我が妹ながら実の兄に色仕掛けを仕掛けて来るとは! こいつもできるようにって、なんか咲妃とユキとアリスの雰囲気がなんか違うような……?

(まさか氷空ちゃんに先を越されるなんて思ってもいなかったわ……)

(神夜妹……恐るべし……!)

(そ、氷空さん大胆です~……)

 ギリッと右親指の爪を噛む咲妃にじっと氷空を凝視するユキ。そして赤くなった顔を両手で隠すも指の隙間から覗き見るアリス。

まさかと思うが、氷空の一言が雰囲気を変えちゃったのか?

「十六夜くんはどうなのー? 八雲さんと香西さん、アリスさんに氷空さんの誰が一番なの? やっぱり妹のアリスさんか氷空さん? それとも幼馴染の八雲さん? 親友の香西さん?」

 さっきまで白星さんの側にいたとおりんさんが突如俺の背後に現れ、ぎゅーっとその軟らかい双方の巨峰がつぶれるくらい密着してきた。

「そ、それは……って! と、とおりんさん何か当たって――!」

「ふふふっ。これはね~……当たってるんじゃなくて、当てているのっ♪」

 当てているのっていわれたも……。あぁ……咲妃たちが俺をじっと睨んでいるよ。は、早く答えねば……。

「お、俺には誰が一番かなんて選べねえよ! 全員が一番って~……ことでいいかな……なんてね」

 うっ……皆の視線が痛い……。や、やっぱり誰が一番か選んだ方がいいのか?

「ふぅ~ん……。十六夜くんはあくまでそういうんだね~」

 ニヤニヤしながらとおりんさんはじっと俺の方を見ていた。

「か、神夜がそういうなら仕方ないわね! うんっ!」

「咲妃と同意見」

 咲妃たちは何に期待して……まさか自分が一番だと思っていたりするのか? まあとおりんさんは別格として、正直なところを言って俺的には咲妃が……って何言ってんだ俺はっ! 一人を断定するなど俺には―っ!

「お兄ちゃーん。大丈夫―? おーい、お兄ちゃーん」

「っ! そ、氷空!?」

「そうだよ~お兄ちゃんの妹の氷空ちゃんだよ~」

「あ、うん。知ってるよ氷空。それでどうかしたか? 喉でも渇いたか?」

「うんん、大丈夫だよ~。それよりお兄ちゃん。日焼け止め、塗ってくれる?」

 ん? 今なんていった? 日焼け止めを塗ってくれ……っていったのか?

「お、おう分かった。ほら、うつ伏せになって」

「うんっ」

 嬉しそうな反応? を見せた氷空はシートの上でうつ伏せになった。

「少しひやっとするから。くれぐれも変な声出すなよ」

「そんなのわかっているよ~お兄ひゃんッ!!」

 言ってるそばから変な声出しやがったぞこいつ!

「ほら、我慢しろ氷空。もうすぐ終わるから」

「そ、そうはいっても~……」

「はいおしまい。な、すぐ終わっただろ」

「そ、そうだね~お兄ちゃん。ありがとう♪ 次は私がお兄ちゃんに塗ってあげるね」

「ちょ、ちょっとまてー! 氷空ちゃん!」

 両手を前に突き出して咲妃が大声でストップコールをかけてきた。

「? 咲妃さん、どうしたんですか?」

「だ、だって……これ以上兄妹であんなことやそんなことは……」

「いやいや、あんなことやそんなことはしてないから。ただ日焼け止め塗ってあげただけだから」

「とにかく! これ以上兄妹でそんなことをダメなの! だ、だから……か、神夜には私が……」

「咲妃。抜け駆けは許さないよ!」

 ずいっと片手に日焼け止めを手にしたユキが咲妃の前に立ちふさがった。

「別に抜け駆けなんてしてないわよ!」

「ウソはよくないよ咲妃!」

「ま、まあまあお二人さん少し落ち着いてー……」

「「俊は黙ってて!!」」

「は、はい―っ!」

 うおッ! あの二人、威圧で俊を黙らせたぞ。

「と、とにかく神夜にはあたしが塗ってあげるのッ!」

「そこは咲妃でも譲れない。神夜には私が塗ってあげる」

「もう咲妃さんたち私を差し置いて話を進めないでください! お兄ちゃんには私が」

「お、おい……三人ともそれぐらいでケンカするなよ……別に今日だけ海に入るわけじゃないしよ」

「ん~十六夜くんモテモテだね~……これぞまさに両手に花ってやつですな~」

 手を口に当ててニヤニヤしているとおりんさんがムフフンッと笑っていた。笑い事じゃないからねこれ。下手すると大乱闘だよ。

 てか、なんとかして終止符を討たねえと……。俊に塗ってもらうのが一番かもしれないが。なんかウホッって感じがするし。ぶっちゃけ腐女子歓喜だ。ここは流れで氷空か咲妃、ユキたちの誰かに? いや、ここで一人を選んでしまっては大乱闘間違いなし! 結論から言おう。詰ん――。

「あの神夜さん。お背中塗りましょうか?」

 と、咲妃たちが言い争っているのを余所に、第三者。いや。第四者としてアリスが先陣を切った。

「お、おう。じゃあアリスにお願いしよっかな?」

「はいっ。任されました♪」

 ニコッと笑って見せたアリスは俺から日やけどを受け取るなり、すぐ作業に入った。

「「「なっ……」」」

 言い争っていた三人は絶句した。それはアリスがこの闘争に終止符が打たれたことを意味する。とにかく、なんか丸く収まってよかったよかった。

「はい、終わりましたよ神夜さん」

「ありがとうアリス。じゃあ次はアリスだな」

「は、はいっ!」

 シートの上にアリスはうつ伏せになると同時にリボンでまとめた金髪を少しずらしてうなじを露にした。

「そう畏まらなくていいからな。んじゃちとひやっとするけど、変な声出すなよっと、ん? なあアリス。このうなじに描かれた魔法陣はどうした?」

「あっ! そ、それは……気にしないでください! どうってことないですので……」

「そうなのか? 何か異常が起きたらすぐに言ってくれよ。多少は力になれるからよ」

「は、はい! ありがとうございま――ちべたっ!」

 アリスの背中に手にだして日焼け止めクリームを塗るなり、アリスも氷空同様に声をあげた。

「お、お前もか……。はい、終わったぞ」

「あ、ありがとうございます神夜さんっ」

 立ち上がったアリスはペコリと一礼した。

 アリスって、ホント健気で素直でいい子だよな~。

 さて、と。全員日焼け止めとか、各々のケアは終った頃あいか? じゃあそろそろ海にでも――。

「あっ! まって十六夜くん! せっかく海に来たんだからあれ、やろうよっ」

「あれ? あれと言われて思い浮かぶのは……! あれかっ!」

「察しが良くて助かるわ! じゃあみんな~横一列になってー」

 波打ちぎわに俺たちは横一列に並んだ。俺の右には咲妃。左隣にはユキが並び、二人して妙に顔が赤くなっていた。な、なんかこっちまで照れるからそんな反応しないでくれ……。

「それじゃあ『せーのっ』って私が言うからそれに続いてあの言葉を皆で言うわよ! それじゃあ……。――せーのっ!」

「「「「「「「「――海だ―ッ!」」」」」」」」

 とおりんさんの掛け声を合図に俺たちは目の前の海に向かって『海だ―!』っていって一斉に海の中に飛び込んだ。のも束の間。俺と俊はすぐに荷物のもとに戻って荷物番をするよう女性人たちからの指令が下った。

 まあ交代で荷物番をするのはいいけど、見渡す限りでは俺たち鳳仙生しかいないんだけど。荷物番する意味あるのか?

『おーいっ! 神夜―俊―ッ!』

 と遠くから風に乗って俺たち二人の名前を呼ぶ声が聞こえた。声がした方を向けばパラソルと敷物を担いだ圭介と小鳥遊さんが歩いてきた。

「おー圭介。随分と遅かったな」

「まあね。いろいろと探すものが多くて。あ、隣にこれ差していいかな?」

「もちろん、構わないぜ。なんなら手伝うよ」

「ありがとう神夜」

 圭介からパラソルを受け取り、固定具が倒れないように砂浜を平らにしてパラソルを指した。その上に敷物を敷いて圭介と小鳥遊さんは手荷物を置いた。

「じゃあ圭介も荷物番お願いねっ♪ 白星さーんお待たせ~♪」

 小鳥遊さんが海ではしゃいでいた咲妃たちと合流したことによって、あっちはあっちで盛り上がり始めた。

 に、しても小鳥遊さんもなかなかのプロポーションだなーって俺は中視感してるんだ!

「なあ神夜、圭介。ふと、思ったことを言っていいか?」

 突然、俊が俺と圭介に疑問をぶつけてきた。

「構わないよ」

「圭介と同じく」

「おう。じゃあ青い空ときたら?」

「白い雲じゃないかな? 神夜は?」

「波打つ青い海。白い砂浜。そして……」

 ん? この流れから行くと……答えとして正しいのは。

「「「海で戯れる水着の美少女達」」」

 顔を見合わせ問答一致の解答を、俺たち三人は顔を見合わせ口にした。そして押し寄せてくる笑い。こんな考えができるのは男子高校生だからそこではなかろうか。

「あっはははは。ちょッ! おまっ、それが言いたかっただけかよっ」

「それに乗ってくれる神夜と圭介はGJ部だっ」

 キリッとした真顔で俊は親指を立てた。

「いや~まさか皆考えていることが一緒だったなんてねー。確かに俺たちのまわりには美少女しかいないものねー。聖奈に八雲さん、それに白星さんたちも」

「それな。ある意味。俺たちってリア充リア充しているよなー。ま、圭介が真のリア充だけどな」

「もう茶化すなよ神夜。幼馴染で付き合うのって、よくある典型的パターンだろ?」

「そ、そうなのか?」

「そうなんじゃないかな? うちの高校に白木ってのがいるんだけど。そいつも幼馴染の子と付き合い始めたんだぜ」

「へえー。なんかラノベとかそういったモノの主人公みたいだなー」

 圭介の話を聞いていると、なんだろうなー。俺たちが体感したことないような別の世界に旅させてくれる気がした。圭介は高校生でもある中で作家でもあるのか?

「なあ圭介って作家も兼業してたりするのか?」

「兼業って言うより~文芸部に入っているからかな? 神夜の質問への答えとしては」

 なるほどな~。

「なあなあ! 圭介はどんな話を書いたりするんだ!?」

「ちょッ! 近いよ俊! 今まで書いてきたのはファンタジーと恋愛かな?」

「ファンタジーモノというと、やっぱ異世界ものだよなー」

「まあね。あ、でも書いたものの中にはゲームの世界に招かれて行き来できる話を書いたな」

 ビクッと口から心臓が飛び出るくらいのデジャブ感を感じた。

「ど、どうしたの俊!? それに神夜も!?」

「だ、大丈夫だよ圭介。な、神夜」

「そ、そそそそそうだよな! 俊! あ、あははははははッ!」

 言えない。俺と俊。そして今海で遊んでいる咲妃とユキ、白星さんはあの人気オンラインゲーム“SOW”の類似した世界に行ったことがある。ましてやそこからこっちに来ているアリスが異世界人だなんて絶対に口が裂けてもいえない!

 ……そう考えると俺たちもある意味ではラノベとかそういったモノの類の主人公しているのかな?



「お兄ちゃんたち何話しているのかなー?」

「どうせ。あたしたちのこと見て目の保養にでもしてるんでしょう。まったく男子高校生っていうのは……」

 ビーチボールを手にして海で遊んでいた氷空と咲妃が、砂浜でで荷物番している神夜たちの方を見てぽつりとつぶやいた。

「咲妃。神夜はそんなこと考えないよ」

「俊はどうなのよ」

「俊は……絶対考えている……よっ!」

「ズバッと言い切ったわね、ユキ」

 キリッとした顔つきでユキは、氷空があげたビーチボールを空高く打ち返した。

「そういえば。アリスと委員長たちがいないけど。どこに行ったか誰か知らない?」

「あ、あの私知ってるよ、八雲さんっ!」

 ユキが打ち上げたボールを聖奈が落下地点まで行って再び、空高く打ち返した。

「確か、ちょっと泳いだところでりんちゃんが水上バイクに乗って、バナナボートに乗っている二人を引っ張っていると思いますよ。ほらあそこで」

 少し耳を沖の方に傾ければ、水上バイクのエンジンの駆動音が聞こえた。颯爽と海上を青色のバイクが走り、その後ろに括りつけられたボートを力強く引っ張っていた。

「なんかすごいわねー……。てか、免許なんていつとったのよ?」

「さすがにそれは私でも知らないよ、咲妃」

「アリスさんたちいいなー。私もあとで乗せてもらおうかなー? とおりん先ぱーいっ! あとで私たちも乗せてくださーいっ♪」

 右手を高々と挙げ手を振った氷空に気付いたのか、とおりんはビシッと左手の親指を立て『了解っ』という合図を出した。

「白星先輩気づいてくれましたー♪ やったー♪」

「よかったじゃない氷空ちゃん。あ、あとであたしも乗せてもらおうかしら……。……に、してもここってホント人いないわよねー。あたしたちだけで貸し切っている感じ?」

「毎年ってわけじゃないけど、ここって圭介たちみたいな上級階級御用達の海辺ですよ咲妃さん。それにまだ夏休みは始まったばかりですから早々に来る人たちは限られますけどね」

「へぇー。聖奈はそういうの詳しいのね。もしかして聖奈もお嬢様とか?」

「わ、私は違うよ! 圭介と知り合ったのは親同士が親友で、それで知り合って仲良くなって今こうして付き合っているって言うか……」

「ふぅーん……親同士がねー……」

「八雲さんは十六夜くんとはどうなの?」

「どうなのって言われてもねー。神夜とは幼少期からの幼馴染よ。それ以上でもそれ以下でもない。別に親同士が初めから知り合いってわけでもなかったし」

「へぇ~私と同じ境遇ってわけじゃないんだね。じゃあ八雲さんは十六夜くんのこと、好きなの?」

 聖奈からの質問を投げられた咲妃だけでなく、その場にいたユキと氷空も反応した。

「か、神夜のことは……その……も、もうー! 何聞いてくるのよ聖奈はーッ!」

 葛藤した咲妃は両手で水を救い上げ聖奈に向かってかけた。

「ひゃっ! もうどうしたの八雲さん!?」

「うるさーいッ! ここであいつのことを聞いてくるなーッ! うわぁああああっ!」

 バッシャバッシャと癇入れず咲妃は聖奈に水をかけ、反撃の隙を与えようとはしなかった。

(もしかして八雲さん。十六夜くんのことが……。ふふっなんて分かりやすいんだろう。それに香西さんも氷空さんもかな。もしかすると……ね。このことは内緒にしとかなきゃっ♪)

 水をかけられながらも聖奈は笑って咲妃が葛藤する理由をうちの心に秘めた。



 ひとしきり遊べば、人間いずれかは腹が減り、喉が渇いてくる。

 咲妃たちもお腹が空いた。あるいは喉が渇いたのか、ぞろぞろと足並みをそろえてこちらに戻ってきた。

 それもそうだよな。雛乃町からこっちにきて早五時間ちょっとが経過した。さっき別荘に着いたときは冷たいアイスティしか口にしていないから、さすがに腹が減ってきた。  

見たところ海の家らしきものは見当たらないし。セレブ達はどうやって腹を満たしているのやら? 弁当持参とか?

「さすがに昼食抜きで遊ぶのはきついわよねー。神夜~何か持ってないー?」

 咲妃、ここで俺に振るなよな。俺は何も持っていない。仮に持っていたら俺は食っている。

「それもそうよねー。何か作ってくればよかったかしら?」

「あ、あのね皆っ!」

 突然、小鳥遊さんが頬を赤め緊張した趣で大声をあげた。

「どうしたんだ、聖奈。急に大声なんかあげてよ」

「ごめん圭介。あのね。さっき私たちお昼に食べようと思ってこれ作ってきたんだ」

 そういって小鳥遊さんが手荷物の中から少し大きめのバスケットを取り出した。それを開けてみれば、中には彩り豊かなサンドウィッチがぎっしりと入っていた。

 それを見た俺たちは、つい『おぉ~』っと関心の声を上げてしまった。

「つい作りすぎちゃったから、皆で食べよう? りんちゃんいいよね?」

「もちろんよ。だって皆、食べたそうにみているもん」

「そうだねっ♪ じゃあ食べよっか。あ、それから一つ。お腹減っているからってガッツいちゃだめだよ。それじゃあー」

「「「「「「「「「「いっただきまーすっ」」」」」」」」」」

 パァンッと手を打ちつけて合掌した俺たちはバスケット中のサンドウィッチに手を伸ばし、ありがたく頂戴した。

「んめえー! 小鳥遊さんって料理できるんだなー」

「うんん。できるのはこういった簡単なものだけだよ十六夜くんっ」

「簡単なものでも。できない奴は本当にできないからな~」

 チラッと誰かさんを指すかのように嫌みったらしく言ってみた。

「――神夜ッ! それ絶対あたしのことだよねっ!」

「さあな。俺は別に咲妃のことを指したわけじゃねえよ。それで反応するってことは自覚あるんだな」

「うぅー……神夜のバカバカバカーッ!」

 ポカポカと両腕を振って咲妃はかなりの力を込めて俺を叩いてきた。

「いてぇーっ! 悪かった! 俺が悪かった! すんません! これ思った以上にマジで痛いので勘弁してください!」

「じゃあごめんなさいは?」

「ごめんなさい」

 グスンっと鼻を啜って今にも泣きそうな咲妃に土下座して謝った。割と心に響いていたみたいだな。この話題はもう表に出さないようにしよう。

 つうかお前らは何和んでいるんだよ! とおりんさんと小鳥遊さんは我が子を見るような微笑ましい表情しないで! 氷空にユキもじっとこっち睨まないで~風穴あいちゃうじゃないか~。俊は俊で何一人だけバクジク食ってんだよ! さっきガッツクなって言われたばっかりだろ! ルール守れよ! えっ? 何? 『ルールは破るためにあるモノだろ?』 ガキみたいな言い訳して親指立ててウインクするなよ! すっげー腹立つ! 

 ……なんか内心で全力のツッコミを入れた気がする。なんか冷たいものでも飲んで頭冷やすか。

「ふぅ食べた食べた。そろそろ第二ラウンドにでも行きますか。氷空さん、水上バイクの後ろに乗ってみるわよね?」

「はいっ! ぜひともお願いします!」

「はーい。ほかに乗りたい人はいる? と、いってもあとはボートの方だけどね」

「お姉ちゃんもう一回乗ってもいい?」

「もちろんだよミチル♪ あと二人はいけるわよ。――もういない? ……いないみたいね。じゃあ二人とも私についてきて―」

「「はーいっ」」

 ビーチサンダルを履いて、とおりんさんの後を氷空と白星さんが追いかけて行ってしまった。

 さて、取り残された俺たちはこの後どうする? てか、俺たち三人もそろそろ海に飛び込みたいんだけどな~。

「お腹もいっぱいになったし、もう一回海で遊ぼうかしらね」

「咲妃。私は少しここで休んでいくね」

「オッケー。アリスたちはどうする?」

「わたしもユキさんといっしょにここで少し休んでいます」

「私は海で泳ぎたいかな~?」

「オッケー♪ じゃあ聖奈二人で行こう♪」

「うんっ♪」

 二人は立ち上がり、手を繋いで海へと走っていった。なんか百合百合しいなあ~。

 てか俺たち男子にはその質問は振らないのかよ。あ、いま咲妃の奴こっち向いてあっかんべーしやがった。絶対さっきの事根に持っていやがるな! 

「俊、圭介。あっちで~ビーチボールでもするか?」

「神夜。顔こえ―よ。つうか男だけでってのも……」

「俺も俊と同意見だね。絵的にきつい気がするよ。イケメンだけのビーチボールなんて腐女子歓喜間違いなしだよ」

なんか圭介だけ方向性が違う気がするけど!? てか、イケメンって……。

「そうか……お前らがそこまで言うなら仕方ねえ。咲妃たち誘うか」

「あ、ちょっと神夜―!」

 俊が止めに来るのを無視して俺は、ビーチボールを手にして海で小鳥遊さんと戯れる咲妃のところに向かった。

「咲妃~小鳥遊さ~ん。一緒にビーチボールでもしない?」

「え~……別にいいけど変なこと考えてないわよね?」

「ないない! 絶対ないから!」

「そうしょうがないわねー……」

「咲妃……ありが――」

「だが断る!」

「断るのかよ!」

 そう来たか! くっ……大方予想はしていたけど。まさか本当にそのような切り替えしを使ってくるなんてな!

「と、いうのはジョーダンよ。聖奈、いいわよね?」

「もちろんだよ、八雲さん。私も十六夜くんたちとお話とかしてみたいしね」

「それはどうもどうも」

 俊と圭介もようやく海のほうに来た。俺たちは円を描くようにして波打ち際に並び。

「んじゃあはじめっか。咲妃―行くぞ~。ほいっ」

 ポーンッとボールを咲妃の方に打ち上げた。そしてタイミング悪く風が吹いて少し軌道がずれた。

「いたずら好きな、風……ねっ! 俊っ! パスッ!」

 着弾地点を瞬時に判断した咲妃は数歩だけ移動して、俊のいる方にボールを打ち上げた。

「次は俺かって! ちょっと待て! このタイミングで風が吹くと! 間に合わな――!」

 海中の砂に足を取られた俊はそのまま顔から海に落ち、ポーンっとボールが俊の頭の上ではねて海に落ちた。

「俊。アウトー」

 デデーンっと年末にある某バラエティのBGMを流したかのようにして咲妃は親指を立てた。

「落としたら何かあるのか?」

「特に何もないわよ。ただ言ってみただけよ」

「ならいいや・いやーケツバットとかあるのかと思ったよ」

「お望みとあらば俺がしてやるよ!」

 グッと右脚に力を込めた俺は勢いよく俊のケツを蹴った。

 蹴られた反動で俊はまた顔から海に落ちた。

「いってぇー!! 神夜―! お前のそれはケツキックだ! しかもクッソいてぇよ!」

「わりぃな~俊。俺は力加減が下手なんでよ」

「ぐぬぬ……ゲスイ顔してよくいうよ」

「はははっ! お望みとあらばもう一発くれてやっても良くてよ!と、いうのは置いといて次、いっくぞー! ほいっ圭介―」

 ポーンっとボールを圭介のほうに打ち上げるも、また風が吹いて着弾地点から大きく逸れた。

「今日はなんだか。風が騒がしくない、か、なッ! 聖奈、パスっ!」

「わ、私っ!? わ、わ、わ、わっ!」

 テンパり始めた小鳥遊さんはボールを上に打ち上げたのではなく、真下にボールを打った。そして運悪く俊の顔面にクリーンヒットした。

「ぶほっ! な、なんで俺ばっかり……」

 と、自分の悪運を悔いて海に落ちた。

「聖奈っ! いくらなんでもアタックは決めちゃだめだよ!」

「あっ! ご、ごめんね! 園崎くん!」

 圭介に注意された小鳥遊さんは海に落ちた俊を起こして謝った。

「だ、大丈夫。大丈夫……ガクッ……」

 小鳥遊さんのアタックが強烈だったのか、そのまま俊は気絶した。南無三……。

「ビ、ビーチボールでのラリーはやめとくか。これ以上やると俊の身が危うい」

「神夜、あたしも同意見。とにかく俊を岸まで運びましょう」

「そうだな」

 俊を担いで、俺たちはユキ達がいる岸の方に向かい、彼を敷物の上に寝かせた。見かねてユキとアリスも俊のことを心配して彼の顔を覗き込んでいた。

「あたし、屋敷に行って湿布があるか探してくるね」

「咲妃。私も行く」

「わ、わたしも手伝います!」

「ありがとう。ユキ、アリス。じゃあ行こうか!」

 咲妃たちは屋敷の方に向かっていき、圭介は圭介で自分とこの別荘に向かっていった。四人ともありがとよ。

 咲妃たちが出払ってしまったせいもあってなんか重たい空気になってきた気がする。沈黙の嵐って奴か?

 頑として口を開かない俺と小鳥遊さん。な、何か話題を振った方がいいのかな~? あぁ~でも何をしゃべればいいのかわかんねぇ―!

「あ、あの十六夜くん!」

「は、はいぃー!」

 急に名前を呼ばれたせいもあってつい裏声で答えてしまった。

「な、なななななんでしょうか小鳥遊さん?」

「もう十六夜くん緊張しすぎだよっ。私だって緊張……してるんだよ?」

「へ、へぇー……そうなんだー」

「その顔は信じてないなー! もう!」

「そ、そんなことねえよ! 信じるよ!」

「その言葉信じるねっ。じゃあ十六夜くんに質問。君は八雲さんのことをどう思っているの?」

「ぶほっ!? ゲホッ! ゲホッ!」

な、なんでいきなりあいつの話になるんだよ! もう訳が分かんねえ!

「だ、大丈夫! 十六夜くん!」

「大丈夫、大丈夫! そ、それであいつのことだよな?」

「そうそう。八雲さんと十六夜くんは幼馴染なんだよね!? それでなんていうのかなー? 恋愛感情とか生まれたりしない? 私は中学の時に圭介から告白されてお付き合いし始めたんだよねっ。あはははっ……」

「そうだったのかー。まあ順を追って質問に答えると、あいつとはただの幼馴染ではそれ以上でもそれ以下でもない。ただな。俺中学時代に恋愛がらみでちょっとしたトラブルがあったんだよ」

「恋愛がらみでトラブル? それって十六夜くんにとってトラウマみたいなものなの?」

「まあそんなものだ」

「思い出したくもないなら言わなくてもいいんだよ!」

「いや、この際だ。はっきり言うよ」

 はっきり言うとか啖呵切って言ったけれど、本心は言いたくもないし思い出したくもない暗黒期。いや、空白の中学時代とでも言っておこう。

 じゃあここから先は空白の中学時代を語っていこう。

 今から約二年前。俺が中学三年、しかも中体連が間近に迫ってきたときの話だ。

 その当時の俺は剣道部に所属しており部長を務めており、個人戦の優勝候補として学校中から期待されていた。

 そんでもってある日のことだった。俺はとある女子生徒に告白された。もちろん告白は丁重にお断りした。普通ならそこできっぱり諦めてくれる……が世間一般でいう告白の一ルートだ。しかし、そうはならなかった。

 その子は俺への執着心が激しく、一言で言うならあれだ。画面向こうの嫁を誰にも盗られたくない。独占したいと思うようなそういう気持ちが強かった。そのため、咲妃や氷空たちに嫌がらせが起こる始末に。その真相を知った俺はその子に『なぜそんなことをするのか』との問いに対しての答えは単純だった。『あなたが私の気持ちに答えてくれなかったから』と。実に見苦しい答えだった。そしてその子はこんな条件をたきつけてきた。


『その二人への嫌がらせを止めてほしければ私と付き合え』


 とのことだった。もしこの条件を飲まなければ咲妃たちへの嫌がらせはさらにエスカレートすると。俺はしぶしぶその条件を飲むことにして建前上は付き合った。ただし本心は忌み嫌う赤の他人だと意識していた。

 それを期に俺が部活に行こうとすれば無理やりどこかへと放課後デート行く始末だった。おかげで実力も低下。部員にも示しがつかなくなってきたっけ。

 さすがに咲妃もそれにはキレて、その子とは超がつくほどの大喧嘩した。もちろん、俺は咲妃側に着いた。その時、その子はこういった。

『なんで私ではなく、そいつの肩を持つのか』と。

 愚問すぎて笑いが出た。

『テメェみたいな執着心の塊でできた女の肩を持つほど、俺はお人よしじゃない』

 そして、その子に魔が差したのか、彼女はポケットからカッターナイフを取り出して咲妃を刺そうとした。突然のことで咲妃も対処できなかったが、俺の身体は無意識に咲妃の前に立ちふさがりナイフの刃は俺の腹部に刺さった。

 刺した本人も顔を真っ青にして後退りしてその場から断ち去ろうとしたけど、咲妃がその子の襟首を掴んで手をあげようとしたけど俺が咲妃の振り上げた手を止めた。

 暴力沙汰だけは避けたかったからな。もし暴力沙汰を起こしていたら、中体連出場停止は免れなかっただろうな。咲妃も俺の顔に免じてその子には手は挙げなかった。けどそれじゃあ収拾がつかなかったから俺はその子の顔を見ながら言ってやった。

『二度と俺たちの前に現れるな。この……ブスがーッ!!』

 その言葉を聞いたその子は何も言わず、その場を立ち去ったよ。俺もすぐに病院に運ばれて検査を受けることになった。

「はい。ちょっとした昔話はこれにておしまい」

「そんなことがあったんだね……」

「あぁ。もう傷跡は残ってないけどね。そういうことがあったから俺は恋愛をすることに対して少し抵抗があるんだよ」

「なんかごめんね。思い出したくもないこと思い出させちゃって」

「小鳥遊さんが気に悩むことないよ」

「でもッ! それは十六夜くんにとっては苦痛なんだよね? それを私は……」

「いいからッ! そうやって自分をそこまで追い詰めるな。俺が自分で話すって言ったんだ。それにもう、これは過去のことだ。今更どうにかなることでもねえし。それに俺は今が楽しければそれでいい」

「十六夜くん……」

「もういいよ。話しちまったもんはしゃあないし」

 いつまでもこんな不の過去に囚われていちゃいけないし、これも一種のけじめとして過去のことは断ち切るか。それにこのことを他人に話すのは初めてだったし、なんか言えてすっきりした……ようにも感じる。

 そうこうしている間に俊のために一度、屋敷に戻った咲妃たちが救急箱を手にして戻ってきた。依然として俊は気を失ったまま。できたらすぐにでも目を覚ましてほしいものだ。だって治療っつても湿布を張るだけだけどなんかめんどくさい。

「やっと見つかったわよ。もう探すのが大変大変……」

「お疲れ様。咲妃、ユキ、アリス」

「じゃああとは神夜がやってね」

「えっ? 俺が?」

「そりゃそうでしょ。探すはあたしら。やるは神夜。摂理としてはそういうもんじゃない?」

「なんの摂理だ! まあ要は治療中に俊が突然目を覚ましてフラグりたくないだけだろ?」

「「「…………」」」

 絶対今こいつら図星を突かれた顔をしやがったぞ! 白状もの達が!

「分かったよ。救急箱もらうぞ」

 咲妃から救急箱を受け取った俺は、中から湿布を一枚取り出し俊のデコに張ろうと手を伸ばした時だった。

「ん、んぅー……あれ? 俺どうして……って、うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあ!」

 俊が悪いタイミングで目を覚ましてしまい、俺の手は俊のデコの上で湿布を張っている状態だ。そして、彼は絶叫したまま右拳を固めて驚いた拍子に俺の頬を殴った。

「ぶほっ!」

 あぁー……こんなにも速くフラグが回収されるなんて思っていなか……った……ガクッ……。

 


 あれから時間が過ぎたのだろうか……。

 俺が目を覚ました時には、空は藍色と緋色が八対二で交じり合っており、水平線の向こうでは太陽が沈んでいた。

 と、いうことはもう十七時ごろか。結局、今日はあまり泳げもしなかったな。いろいろありすぎて。

「やっと起きたか神夜。お前も片付けるの手伝えよ」

圭介と俊の二人が黙々とパラソルと敷物を片付けていた。

「あー……うん。それより咲妃たちはどこに行ったんだ?」

「一足先に屋敷に戻ったよ。それよりさっきは殴って悪かったな」

「寝ぼけていたんだし、仕方ないよ。でも、不用意だったら仕返ししてたがな」

「あははっ。以後気を付けます」

 起き上がって俺も俊たちの手伝いに参加してより早くスピーディにパラソル等の片付けは終わり、圭介とは一端別れてそれぞれの屋敷へと戻った。

 屋敷に戻ってみれば、庭ではバーベキューグリルに鉄板を乗せたバーベキューコンロ、そしてピクニックテーブルが二台出されていた。

 どうやら今夜は夏の定番ともいえるBBQみたいだ。

 そして、周囲には鼻腔をくすぐり、空腹で食に飢えた欲という欲がむき出しになりそうなほど、香ばしく焼けていく肉と野菜の音。

 あぁー……今すぐ似て背もあの肉と野菜にかぶりつきたい……。

「あ、十六夜くんと園崎くんが戻ってきたよ~。二人とも~お疲れ様―」

 俺たちの帰還に気付いたとおりんさんが右手を高らかに挙げてぶんぶんと横に振った。

「おつありです。それよりこれは元あった場所に片付ければいいんすか?」

「明日も使うからどこか適当に置いといてくれたらいいよ。それより聖奈さんたちまだ来てなかった?」

「聖奈さん? あぁー小鳥遊さんたちか。さっき圭介と別れたから、もう少ししたら来るんじゃないですかね?」

「そうだといいんだよねー。せっかく逢えたから皆でご飯食べよって誘ったんだけどね。それより二人とも、これ持って」

 と、言われてとおりんさんから俺と俊にジュースの入った紙コップを渡された。

「えーっと。切実ながら、私、白星とおりんがかんぱいの音頭を取らせていただきます。つもる話はありません! では、今日一日の素敵な想い出にかんぱ――」

『りんちゃんごめーん! 遅くなって~!』

 主役は遅れて来るもの。というのはこういうことを指すのだろうか。息を切らした圭介と小鳥遊さんがようやくやってきた。

「もう遅いよ~。ささっ、二人ともこれ持って―」

 とおりんさんも切り替えが早く、二人にジュースの入った紙コップを手渡した。

「えーっと、それじゃあ気を取り直して。今日一日の素敵な想い出に――」

「「「「「「「「「かんぱーいッ!」」」」」」」」」

 海で遊んで疲れたなんてことを微塵も感じさせない歓喜な声が庭一帯に響き渡った。グリル上では櫛に刺さった彩豊かな野菜と厚く切られた肉がジューっと、いい音を立てながら焼けていた。

 それに集まる育ちざかりの俺たち。考え付くのは一瞬にしてグリル上で焼かれている肉たちが無くなる。なければすぐに焼けばいい! ストックならいくらでもあるのだから。

 しっかし。これだけの食料をどうやってそろえたんだ? 今日だけで絶対何十万は行っているはずだ。加えて此処での滞在は多く少なかれ、今日入れてあと四日はあるんだ。そう考えるとかなりの額を負担してもらっている。白星家……恐るべし……。

 ゴクリっと、生唾を飲み込み白星家の財力に圧巻されつつ、俺たちは夜の宴を楽しんだ。



 時刻が二十一時を下回った頃を見計らって、今夜の楽しい宴がお開きになった。

 山のように持っていたバーベキューの具材たちは皆、俺たちの生きる糧となって腹の中に納まった。正直いって、動けません。

 圭介たちも二十時半ごろには自分とこの別荘に戻っていったっけ。明日もいっしょに遊べるといいな。

「食事も済んだことだし、そろそろお風呂にでも入りましょうか」

「いいわねー。あたしは賛成よ。ユキたちはどう?」

「私も咲妃に賛成」

「咲妃さん、私も賛成でーす♪」

「わ、わたしもですっ!」

「女性陣は満場一致よ、白星とおりん。あたしたちがお風呂入っているからって覗かないでよ。まあ覗けないと思うけど。もしやったらあんたたちフルボッコだからね」

「分かってる。分かってるよ、咲妃。ほら、片付けは俺と俊がやっておくから行って来いよ」

「あら、神夜にしては気づかいいいじゃない。それじゃあよろしくね~」

 そういって咲妃たちは屋敷の中に入っていき、浴室に向かっていった。

 それは褒め言葉としてお受け取りしておきますよ。

 んじゃあパパッと終わらせるか。

 グッと背伸びをして、俺と俊は片付けに取り掛かった。



「おぉー……結構広いわねー」

 バスタオルを一枚まいて、一番に浴室に入った咲妃がつぶやいた。

「普通に十人くらいは入れるほどの設計で造られてますからね、ここは。それにしても八雲さんって意外とおっきいわねー♪ いったい何をすればこんなに育つんですか~?」

 ぱふっと後ろからとおりんが咲妃の豊満な柔肌を揉み下して耳元でささやいた。

「ちょッ! どこ触っているのよ、白星とおりん……! それをあんたが言える口か―! あんただって十二分におっきいじゃないのよ!」

「ふふふっ。だって私はミチルにあんなことや、こんなことしてもらっているからおっきくなったのよ」

「お、おおおお姉ちゃん! それ言っちゃだめだよー!」

 とおりんと咲妃の話を耳にしたミチルは、顔を真っ赤にして変な誤解を生まないようにとおりんの口を塞ぎに行こうとした。

「あ、あああんなことやこんなことって……。ま、まったく破廉恥な!」

「いったい何を想像したのかしら~? 一番破廉恥なのはあなたじゃないのかしら?」

「うぅ……! あ、あたしは別に何も……考えてなんかないわよー!」

 ふんっと鼻息を荒くして咲妃は賭け湯を浴びて入浴した。

 咲妃に続いてとおりんたちも続々と入浴していき、今日一日の疲れを癒していった。

「それにしても……とおりんさんも咲妃さんも氷空さんも生で見ると三人ともおっきいですよねー……」

 アリスが三人の胸部をみて、ぽつりとつぶやいた。

「ア、アリスッ! あんたまでもいうかー!」

「だ、だって! わたしたち氷空さん以外、みんな同い年なんですよ! なのにそれほどまでの成長の違いを見せつけられると正直へこみます……」

「アリスの気持ち私も分かるわ」

「わたしもですよ」

「ユキさん、ミチルさん……」

 ヒシっと、三人は肩に手をまわしてギュッと抱きしめ合った。

「なんかあっちはあっちで意気投合しちゃったわねー。別に大きくたっていい事なんて一つないわよ。肩は凝るし、谷間は汗ばむし……そこら辺の男子がじろじろ見て来るし」

「そうですよねー咲妃さん。夏服になってから妙に男子の視線感じるんですよねー」

「確かにそうよね。私たちも私たちでいろいろと苦労することもありますし。それはそうと……氷空さんって今高一よね?」

「はいそうですけど? あの……とおりん先ぱ――!」

「んもうー胸の形はいいし、肌もすべすべ♪ あなたのケアもだけど十六夜くんの保護者力もすごいわねー……」

「やんっ! もうとおりん先輩くすぐったいですよー♪」

 とおりんに胸を揉み下される氷空の頬が徐々に赤くなるにつれて、声も少しずつ甘いものになっていった。

「やっ……とおりん……先輩……そんなとこ、さわっちゃー……」

「んぅー? 氷空さんって意外と感度が高いのね~……。ここかにゃ~? ここがいいのかにゃ~?」

「も、もうやめてくださ……い……」

「ふふふっ。ここか? ここがいいのかっ!?」

「あ、あああんたはこんなところで何やってんのよ!」

 ビシッ! と頬を赤くした咲妃がとおりんの頭にチョップして氷空へのセクハラ行為を止めさせた。

「もう痛いじゃないのよー。チョップが頭にめり込んだー!」

「そこそこ手加減はしたわよ。氷空ちゃん、大丈夫?」

「だ、大丈夫です~……。ハァ……ハァ……」

 胸に手を当てて氷空は新古杞憂して淫らに乱れた呼吸を整える。

「じゃああたし、先にあがるから」

 一足先に、咲妃は風呂から上がって脱衣所で着替えた。そして、家から持ってきたドライヤーで髪を乾かして浴室から出た。

(このあとどうしよっかなー……課題を少し進めてからゲームでもしよっかなっ!?)

 考え事をしながら歩いていると、前から歩いてきた神夜にぶつかった。

「わ、わりぃ! 咲妃大丈夫か!?」

「だ、大丈夫よ。ごめんなさい。考え事をしてて」

「ならいいが。俺も大丈夫だ。それにちゃんと前見て歩けよ」

「うん。ありがとう神夜」

「おう。じゃあ俺は部屋に戻るよ。咲妃も戻るところだったんだろ? 途中まで一緒にいくか?」

「うんん。あたしちょっと夜風に当たりたいから」

「そうか。じゃあまた明日な」

「うん。また明日ね」

 神夜と別れた咲妃は、手にしていた着替えをもう一度浴室の籠の中に入れて玄関から外に出た。

 そして、砂浜まで歩いて上を見上げた。

 そこには、藍色に染まったキャンパスの上に宝石が散りばめられたかのようにキラキラと輝く満点の星空が映っていた。

(雛乃町でも結構星は見られるけど、ここは一段と見えるわねー。夜風も気持ちいいし)

 ふぅと、一息ついて咲妃はしばらくの間、一人で夜空を彩る星々を眺めた。


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