第6クエスト Became slow. welcome to real world ,Alice.
LOG OUT
約十一日ぶり、時間で言うと約二六四時間ぶりに俺たちは“SOW”から俺たちが住むべきあるいは存在すべき現実世界に帰還した。
あっちの世界とこっちの世界の時間系列、配列は一緒。
たとえば、朝方にゲートを通れば向こうも朝方だということだ。
ゲートを抜けた先は俺んち、十六夜宅の庭裏にある物置前に俺たちは転送され日の傾きから察して時刻は十七時ぐらいだろう。
俺たちは自然な別れ方。
詳しく言うならば『また明日学校でな』と、いっしょに帰っている二人組、あるいは三人、はたまたそれ以上大人数で帰る学生が『僕、私、こっちの道だから、またあしたね』という極々自然な別れ方で俺たちは解散した。
咲妃たちと別れた俺とアリスは一息ついてから俺は玄関の取っ手に手をかけ開いているか試したが、カギはかかっており家に入ることはできなかった。
わずかな希望にかけ、着ている服のポケットを探るが鍵らしき物は入っていなかったがそれ以上に価値がある物が入っていた。
「ん? この感触……まさか“純粋な心の結晶”!?」
俺はあっちの世界にあるとき、アイリがリアから取り返してくれたこの指輪をアイテムストレージに納めた。それなのにどうしてポケットの中に?
不思議なこともあるものだ。
とりあえず、家に入ったらこの指輪を母さんの仏壇前に置いておくか。
指輪を再度ポケットの中に入れた俺は、石段に腰を下ろして氷空の帰宅を待った。
日の高さから察して本日分の学業はすでに終わっている。それに氷空は今部活には所属していない。兄妹二人で家事を賄わなければならないからな。俺としてはあいつに人生で一度しかない高校という青春時代を謳歌してほしいが『お兄ちゃんばっかり負担かけないから安心して♪』と入学式後あいつはそう言ったっけな。我ながらよくできた妹だ。将来はいい嫁になるだろう。
山の方から聞こえて来るひぐらしの鳴き声に耳を傾けて氷空の帰りを待つこと数分。遠くからかすかにだが自転車を漕ぐ音が聞こえてきた。そして、キィと門を開けて夕食の食材が入ったビニール袋を乗せた赤いフレームの自転車とともに肩まである淡い栗色の長髪をツーサイドアップに束ね、黒のラインが入った夏仕様の白のセーラー服を着込んだ氷空が帰宅した。
そして、彼女は玄関前で腰かけている俺とアリスに気づき、自転車のハンドルから手を離した。もちろん、自転車は支えてもらうものを無くしたからそのまま重力に引かれるがままに地面に倒れた。
「お、お兄……ちゃん? お兄ちゃんなの? それにアリスさんも……」
「そうだよ氷空。俺はお前の兄、十六夜神夜だ。心配かけたな」
「――お兄ちゃーん!」
瞳に溢れんばかりの涙を浮かべた氷空は俺の名前を叫んで泣きながら俺の胸の中に飛び込んできた。
「もうバカ! 今までどこに行ってたの!? ルナお姉ちゃんも心配してたんだよ!」
「どこに行っていたかは言えないが、心配かけてゴメンな氷空……」
泣きじゃくる氷空を抱きしめて俺は彼女に謝った。決して許されることをしたわけじゃない。約十一日間も俺とアリスは行先も告げずにこの家を留守にしていたのだから。
その後俺たちは氷空に家の施錠を解除してもらい家の中に入りすぐに自室に向かった。
壁掛け時計が示している時刻は十七時五十七分。あと三分ほどで十八時に変わる。
そして気になっていた日付の方は六月から七月に変わっており今日はその四日。それも木曜日だ。
時が過ぎるのって以外と早いものである。つい先日までは雨の日が鬱陶しいと思える六月だったにも関わらず、いざ気づけば七月になっている。
四日か……。そういやーもうすぐ母さんの命日だなぁ。中体連本番二、三週間前だったから鮮明に覚えている。今年は母さんにいい報告ができる。
そんな気がしたのも束の間。
十九時ごろ就活中のルナ姉さんが帰宅するなり、彼女は俺とアリスを和室に呼び出し普段は温厚なルナ姉さんからこっぴどく説教された。
さすがはこれから社会人になる者のいうことには説得力がある……。もう説教云々はこりごりだ! 自分のモチベーションが下がる!
あれから一時間が経って俺とアリスはルナ姉さんからの説教から解放された。
説教を終えた後の後味って最悪な気分になる。心の中がよどんでいく、そんな気がしてならないことに加えてもう一つ。気分がのらないことがある。
明日からまた学校。
気分としては『連休最終日の夜は虚しくなる』そんな感じだ。
だが、明日行けば明後日は土日。再び訪れる休日祭だし、その間にすべきことがいろいろあるしな。
和室を出る前に俺は母さんの写真が立てられた仏壇の前に立ち、さきほどまでポケットの中に入れていた指輪を指輪ケースにはめ込みそっと置いて和室から退室した。
俺はそのまま二階へと続く階段を上がり氷空の自室の扉の前に立ち扉をノックして部屋の中に入った。
「氷空突然入ってごめん。明後日、母さんの命日だろ? だからさ、その日母さんの墓参りに行こうと思うのだが……いいか?」
「うん、いいよお兄ちゃん。私も初めからそのつもりだったし」
「そうか……ありがとうよ氷空。それじゃあ邪魔したな」
「あ、待ってお兄ちゃん! ……お兄ちゃん、何かいいことでもあったの?」
「いいことね……。あったにはあったが内緒。それじゃあ」
氷空の部屋を出た俺は自室に向かう前にアリスとルナ姉さんにも今週の土曜日に母さんの墓参りに行くことを伝えると二人ともすぐに承諾してくれた。
これで土曜日の日程は埋まったな。……何か忘れている気がするが……まあそのうち思い出すだろう。
自室に戻った俺は、椅子に腰掛け超久々にいじるPCの電源を入れ立ち上がるのを待っていると、ベッドの卓上で充電されていたスマホに一本の着信が入った。
発信先は咲妃からだった。
俺はすぐにボタンを押し彼女の着信に応答した。
「はいもしもし?」
『あ、神夜! 今側にアリスいないわよね?』
「いないが……どうかしたのか?」
『もうバカ! 何忘れているのよ! もう前の話になるけどあんたんちでアリスの歓迎パーティやるって話よ!』
歓迎パーティ……。確かそんなこと立ててー……たな! 思い出した! 思い出したぞ!
「わ、わりぃすっかり忘れてた……。それで日取りはいつにするんだ?」
『土曜日と思ったけど。確かその日って神夜のお母さんの命日でしょ? だから翌日の日曜日にやるけどいいわよね?』
「俺は構わないぞ。ほかの人たちには連絡したのか? ユキに俊、氷空と白星さんたちに?」
『ついさっき伝えたし全員いいって。あとは神夜だけ。いいわよね?』
「もちろんだ。時間は昼ごろでいんだよな?」
『そう。皆にもそう伝えてあるから。くれぐれもアリスには内緒よ。それじゃあまた明日ね』
通話終了ボタンを押した俺はスマホを再び卓上に置き立ち上がったPC画面、ではなくレポート用紙を一枚机上に敷き、爽快にシャーペンを走らせパーティで提供する料理名を記載していく。
アリスの好物はもちろんのこと、いい機会だからまだ作ったことないものをパーティに出すのもいいかもしれんな。あとはケーキ……必要かな? 必要なら極力アリスにバレないところで作りたいな。
この宛は明日考えるとして、今記載したモノを中心として明日また考えるか。
それに今日はもう疲れた……。
どっと押し寄せてきた疲れに圧倒され俺のまぶたはあっけなく打ち負け机の上にうつ伏せた形で眠りに入った。
翌朝。
机上にうつ伏せで寝たせいか体中が妙にイタイ。それに机上に敷いたレポート用紙には寝ている間に垂れたと思われるよだれ跡がべっとりと着いていた。
これは早急に書き直す必要があるな。
俺はすぐにテッシュを数枚、箱から抜き取り乾ききってない分だけふき取り通学カバンに入れていたファイルの中に閉まった。
壁掛け時計に目をやると時刻は六時半を回っていた。
普通なら現時刻の一時間前に起きてアリスと氷空、俺、ルナ姉さんの四人分の弁当を作らなければならないが、今日に限って作る意欲が湧かない。
さてさて困ったものだ。
今日だけは学食にしてもらおうかな?
大きなあくびを一つして俺はゆっくりと階段を下りキッチンに足を運んだ。
「あ、神夜さん♪ おはようございます♪」
と、鳳仙学院の制服の上からフリルのエプロンを着たアリスが満面の笑みで微笑んで見せた。
「お、おはようアリス。今日はやけに早起きだな」
「はい♪ 今日からまた学校に通うと思うとなんかドキドキして~つい早起きしちゃいました♪ それで今日はわたしがみなさんの昼食を作りました」
「そうか。……なあアリス」
「はいなんですか?」
フライパンを片手に踵を返してアリスは振り向いた。
「その……なんだ。学校は楽しいか?」
「はい、楽しいです♪ あっちの世界じゃ普通教育は十五歳まででそれ以降はギルドに所属して戦いの日々でしたから。またこうして学校に通えることがわたしにとってうれしいです♪」
まぶしい……。この子、すっごく輝いて見えるよ。白星さんと一緒でこの子の心もピュアで純粋だよ。
「それはよかったアリス♪ まあうちの高校はいろいろとイベントがあるから楽しいと思うぞ」
「ふふっ♪ イベント、楽しみにしてます♪」
振り向きなおったアリスはコンロにフライパンを戻し料理の続きを始めた。
普通教育は十五歳まで。こっちの世界でいうといわゆる小中学生の義務教育みたいなものか。教育を終えたらギルドに所属。いわば就職か。
高校という教育機関はあっちに存在しないというべきだろうか?
考え事を悶々としている間にアリスは四人分の昼食を作り終え、ついで朝食も作り終えた。
「神夜さん朝食できましたよー♪」
「おう。ありがとうアリス」
アリスが朝食として出したのはオーソドックスに、ベーコンエッグとトーストにコーンスープ。それと挽き立てのコーヒーといったカフェテリアのモーニングセットだった。
「わたしは氷空さんを起こしてきますね」
エプロンを椅子に掛けてアリスは二階の自室で寝ている氷空を起こしにいった。我が家に新しいお母さんが来た。そんな風に一瞬俺の目にはそう映った。
朝食を食べ終えた俺は、空いた皿を台所に持っていき水洗いして少しでも洗い物の手間を省かせた。
洗い物を終えリビングに戻ると制服に着替えてなお眠そうにしている氷空の寝癖をアリスがクシで整えてあげていた。
「おはよう氷空。まだ眠いか?」
「ん? おはろーお兄ちゃん……。まだ眠たいよ……」
「ジュースでもクッて飲み干せば目も覚めるぞ」
「そうなの? じゃあそうする……」
グラスに入ったオレンジジュースを飲み干した氷空はほふぅ……と一息ついた。
「目、覚めたか?」
「うん……少しは」
「ならよし。ほら、あとは自分で髪を結んで。アリスも朝食を済ませていいぞ。久々に三人で登校しようぜ」
テーブルの上に置かれた自分の弁当箱を回収して俺は二階にある自室に戻りクローゼットの中にかけておいた制服に着替え、弁当を通学カバンに閉まった。
今日は少し寝癖がひどいがまあいつものことだと思って処理すればいいだろう。
時刻は七時半を回った頃に着替え終えた俺はカバンを手にして一階に下りた。
時を同じくしてアリスと氷空もカバンを手にして玄関に集まった。
「早く学校行こうお兄ちゃん」
「はいはい。さっきまでの眠気はどこにやったんだ氷空?」
「んー……わかんない♪ ほーら早く行こうよ」
ニっと笑って見せた氷空はローファーを履いて一足先に外にでた。
「わたしたちも行きましょうか神夜さん」
「おう」
ここ最近ブーツぐらいしか履いてないからローファーを履くのにすこし抵抗を感じる。
六月とは打って変わり湿気のない乾ききった風と、朝というのに煮えたぎるような暑さを醸し出す日光が俺たちの肌を焼いていく。
あちぃー……。早く涼みたい。
夏が来ると早く涼しさを求める明、あるいは冬になれ。冬が来れば早く、春、夏が来いと温かさを求める者だ。
俺もその一人だ。
夏になれば早く冬になれ。冬が来れば夏になれ。
そういった逆転の発想を求めたところで状況が変わるわけでもない。
月日はもう七月。夏本番だ。とはいえまだ上旬だ。
さほど暑くはないがこうして登校している間にも額から頬を伝って汗が流れ出る。先に言っておくが俺が太っているからとか汗かきというわけではない。
体型はいたって普通。言い換えれば中肉中背。身長は高二男子の平均身長よりちょっと高いぐらいだ。もっていうと発育がすこし行き過ぎているともいうか。
そうこうしている間に俺たちの目の前に鳳仙学院のシンボルともいえる時計塔が見えてきた。
俺を含み、咲妃、ユキ、俊、アリスは約十一日と何時間ぶりかの登校だ。
昇降口でローファーから上履きに履き替えた俺たちは、そのまま階段を上がり三階に辿り着き我らが教室に向かった。
さて、ここで一つ質問だ。
長期休暇を終えた人物が久々に教室に入るとき、いったいどんな顔をして教室に入ると思う?
答えは簡単で明白だ。
自然に教室に入り、長期休暇を取っていた者に気づいた生徒が驚愕な表情を浮かべ『うおっ! ○○! 超久しぶりじゃん! 今まで何してたんだよ!?』と話しかけてくるまでそわそわしない。自然な立ち振る舞い、いつもどおり平気を装ってやりすごす。
逆に『かまってくれ』オーラを発してはダメだ。
一例としては『うぃーす』と誰に向けて言ったのか分からないよう何気ないあいさつをして教室に入り、みんなの注目を浴びるという行為をすることだ。
注目を浴びるのが別に悪いというわけではない。目立つことが好きな人はどうぞお好きにしてくれ。俺は目立つことをするのがあまり好きではないし、構ってくんでもない。むしろ目立つことをあまり好まないいたって普通の男子高校生だ。
教室に入ると照り付ける太陽によって熱した風とは打って変わり、涼しい風をはくエアコンが稼働していた。
夏本番となった七月に伴って事務室が我ら生徒に気を利かせてくれたのだろう。ホントありがたい学校だ。
教室内では昨日にでも出されたのか、数学の教科書を開いて復習という名の課題を一生懸命片付けていた。
数学の授業は週七時間。と、いうと俺を含む咲妃、アリス、ユキ、俊にとっては約十三時間分の数学の授業を溝に捨てたようなもんだ。ほかの科目も数学同様に換算すると二けた行くか行かないかの瀬戸際の時間を捨てた。
さて、今日から復帰する俺ら五人はきっちり遅れを取り戻すことができるはずだ。
……いやまて。
この場合五人ではないな。咲妃はユキの二人に関しては遅れを取り戻すのは二日あれば十分ともいえる。アリスの学力はテスト結果次第で判断し、俺は理系科 目なら咲妃たち同様二日あれば十分だ。
だが、俊はどうなる?
あいつの頭脳だと一週間か二週間……下手すると夏休み突入前になるんじゃないか!?
これは我が校がほこる天才たちによる補習授業を行う必要があるかもな。
カバンを机の上に置き教材を机の中に納め、片手でスマホをいじりながら朝のホームルームが始まるのを待った。
続々とクラスメイトたちが教室に入り机にカバンを置くなり課題をやったか否かの質問を話すきっかけにしていた。
そしてようやく咲妃たちも登校してきた。
咲妃たちの久々の登校に気付いた女子たちが咲妃たちのまわりに集まり『久しぶり八雲さん』『今まで何してたの?』と質問攻めしていた。
突然の質問攻めに咲妃たちも聖徳太子じゃないから一遍に全ての質問を聞き取れず、一人ずつ質問を処理していった。
そうこうしているうちにチャイムが鳴り担任の岡村が教室にログインし、朝のSHRが始まった。
久しぶりに訊く担任の話。内容はいたってシンプルだ。来週か再来週あたりに夏休み明け九月に行われるスポーツフェスの選手決めをするとの話だった。
もうそんなところまで話が来たのか。
『スポーツフェス』
それを平たく言うと第二の体育祭とも言われている。
開催期間は九月の中旬。それも一週間まるまる使って行われるクラス兼学年対抗の体育祭だ。種目はバレー、バスケ、サッカー、野球、ソフトボール、陸上、水泳、硬式テニス、バドミントン、柔道、空手、剣道と言った武道の計十二種目にも及ぶ種目がトーナメント方式兼ポイント制で行われる。
中でも剣道は学園長が大好きらしくこの種目だけポイントが他よりも高いから、出場選手は剣道部をメインに各クラスは出してくる。
ちなみに去年、種目の剣道で優勝したのは俺だ。
クラスに剣道部員がいたが選手決めの際、一本勝負を申し込まれたので半分の力も出さずして部員を倒して出場権を獲得した。
今のクラスには剣道部員が二人、俺を合わせると三人か。
もちろん今年も俺は出場を希望する。なら最初の壁としてはあの二人を倒す必要性がある。あの二人も『出場するのは俺だ』と思っているはずだからな。
岡村の話が終わると同時にチャイムが鳴り一時限目の授業が始まった。
*
三時間半にも及ぶ午前中の授業が終わり生徒にとって至福のひと時ともいえる昼休みがやってきた。
カバンからアリスが作ってくれた弁当を取り出し咲妃たちと机を並べて、昼食を摂ろうとしたとき。
「あ、あのっ! 十六夜君!」
と、約五日ぶり? の再会ともいえるだろう。
少しほおを赤めた白星さんが俺に話しかけてきた。
「あぁ白星さん久しぶり。どうかしたのか?」
「うん……久しぶりだね。あ、あのね十六夜君……ここじゃ話しづらいから屋上でいいかな?」
ざわっ、と教室にいたクラスメイトたちの視線が全部俺のほう向けられた。
「あ、あぁ……」
殺気だった視線とざわざわと話しだすクラスメイトを余所に俺と白星さんは教室を出て人気の少ない屋上に向かった。
久々に来た屋上。あまりものの机がきれいに並べられていた。
「あ、あの。改めておかえりなさい十六夜くん♪」
照れくさそうに笑った白星さん。俺の心は一瞬ドキンッと跳ね上がり妙な高揚感に浸った。
「お、おう。ありがとう白星さん」
「うんっ♪ それでね十六夜くん。わたしあの後“ヘブンス・ドア”で買ったペアブレスレットをお姉ちゃんに渡したの。そしたらすっごく喜んでくれてね♪ 今もつけてきているんだ♪」
「それはよかったな。確か品名……もといアイテム名が“心を繋ぐ輪”だったよな。何か効果はあったか?」
「これといってはないけど……。なんとなく、お姉ちゃんとより一層親密になれた感じがするかな」
あの世界の持ち物はこっちに持ち出せたとしても効果は発揮されないっと。得するか損するか分からないが、いいデータがとれた気がする。
「それはよかったな白星さん♪ ……なあ白星さん話は変わるのだが。明日の夕方ごろさ。その……なんだ。白星さんの家にお邪魔してもいいかな?」
「わ、わたしの家に!? そんなの急すぎるよー!」
「そうだよな! ごめん! ホント急にこんなこといって……」
「うん……。でも、何か理由があるんだよね?」
「うん、まあね。その……な。日曜日にパーティやるのは知ってるだろ? それでアリスのためにケーキ作ってやりたいんだよ。サプライズでやりたいんだけどケーキって何かと時間かかるしさ。家にアリスいたらサプライズじゃなくなるー……」
「十六夜くんがいいたいことよくわかったよ♪ じゃあそのケーキ、わたしが作ってきてあげる♪」
「ほ、本当か白星さん!?」
「本当だよ十六夜くん♪ わたし、こう見えてもお菓子作りは得意中の得意なんだ♪」
「それは助かるよ。ありがとう白星さん!」
俺は彼女の小さな手を優しく包み込むようにして握りしめ、何度もお礼の言葉を述べた。
「あ、あの十六夜くん! その――」
白星さんは顔を下に向け口を紡ぐなり、少しずつ彼女の頬が赤くなっていった。
話を終えた俺は白星さんと一緒に教室に戻るなり、ごく少数の男子の視線が一斉に俺の方に向けられた。
まてまて。なんでお前らは俺の方をじっと見てるんだよ。ホモですか? お前らはホモですか!? それともなんだ? 屋上で俺が白星さんに告られたなんて思っているのか? んなわけないだろ。彼女にはすでにとおりんさんという素敵なお姉さんがいるではないか。今更彼女の心が揺らぐはずもないのに。
席に着いた俺は弁当箱のふたを開け、食べかけのおかず兼ごはんに手をつけ食べ始めた。
*
五十路前半後半の先生方にとって一番疲れが出やすい七時間目と帰りのHRを終え、本日分の学業終了を告げるチャイムが校舎中に響き渡り放課後がやってきた。
久しぶりの学校とだけありさすがに今日は疲れた。正直このまま眠りたい。なんて思うほどだ。でも寝るわけにはいかない。寝るならふかふかのベッドで寝たいし、ガチガチに固い机上で寝たら全身バキボキに硬直しているしな。
ふぅ―っと息を切らした俺は教材が入ったカバンを肩にかけ廊下で待つ咲妃とアリスと合流し正門をでた。
ユキは何やら家の用事があるらしくHRが終わるなり早々に帰り、俊は小テストの結果があるということで特別講師による補習なう。
なので今日は俺を含め咲妃とアリスの三人での帰宅だ。
夕暮れでもまだ熱がこもった風が吹いており、教室に完備されたエアコンの涼しい風が恋しい。家に帰っても熱がこもって軽いサウナ状態だし。どっかエアコンが利いているところで涼んで帰りたいな。
なんていっても『涼が取りたいなら川にでも飛び込めばいいじゃない』って前に咲妃がそういったっけ?
川ね……。少し歩いたところに小さな川があるが、あそこ浅いしなー……。今の俺が飛び込んでも精々足から涼が取れるぐらいだし。まあそれで涼めるならなお結構。
「ねえ神夜。あんたさっきから何ぶつぶつ言ってるの? 暑さで頭おかしくなった?」
「なってねえよ!」
心の叫びをつい口に出してたのかー! まったく気づかなかったー! やばい……恥ずかしいー……!
「まあそんなことより。今日、神夜の家で夕食食べて行くから。あたしんち今日も両親いないからさ」
「時には自分で作ってみればいんじゃないか?」
「あたしカプメンぐらいしか作れないし」
「お湯を注ぐことぐらい誰にでもできる。それにそれは料理なのか?」
「料理なんじゃないの? お湯沸かしているし」
「お湯を沸かすは料理じゃねえよ」
「ま、そんなわけだから美味しい料理、期待しているわよ神夜♪ そして未来の旦那様っ♡」
そういって咲妃は一足先に通学路を突き進み我が家へと向かっていった。それに彼女は最後に何か言ったみたいだが小言とだけあってなんていったのか聞き取れなかった。
あいつなんて言ったんだろうか?
まあいいか。俺も咲妃を追わねば!
「アリス、咲妃を追うぞー!」
「は、はい!」
先に行く咲妃を追いかけるべく俺たちは重たいカバンを揺らしながら、山に沈む前に本日分の熱量を絞り出す太陽に向かって走った。
息を切らしながら走ること数分。
家に着いたころには制服は汗を吸ってずっしり重くなっていた。
門隣りにはすでに氷空の自転車が置かれており、すでに彼女が帰宅してあることを暗示していた。腕時計を見る限り時刻は十七時を回っており、夕食の下準備に取り掛かるにはまだ少し早いかもしれないが五人分の夕食を作るとなるとそろそろ始めなきゃいけな。
戸を開けキッチンに直接向かわず、そのまま階段を上がり自室へと入り汗ばんだ制服をベッドに投げやり朝着ていた白のTシャツと黒の短パンに履き替え制服を手にして、階段を下りた。
一階に下りるなり制服を洗濯機の中に投げ入れキッチンへと出向いた。
「あ、おかえりなさいお兄ちゃん♪」
一足先に帰宅していた氷空が制服の上からエプロンを羽織って夕食の下ごしらえをしていた。
「ただいま氷空。ルナ姉さんは帰ってないの?」
「ルナお姉ちゃんなら商店街の本屋さんでしばらくバイトするって~。さすがに仕送りだけじゃやっていけないって」
「まあそうだよな。それで今日の夕食は?」
「今日は夏野菜カレーだよー。八百屋さんの店長さんがいろいろ勧めてくれてからね~」
「そうかー。んじゃ俺も何か手伝うよ」
「ありがとうお兄ちゃん。じゃう鶏ムネ肉切ってくれる? それ皮が硬いからなかなかきれなくてね~」
「確かにな―。こういうのはキッチンばさみを使うといいよ。てか、ばら売りがあったよな?」
「えっ、えっとー……それはー……ばら売りで安いのが無かったから~」
「そう。ならいいよ。氷空、冷蔵庫からニンニクだして。確かまだ使いかけがあったはずだよな?」
「うん。あったよーほいお兄ちゃん」
冷蔵庫から二分の一使われたニンニクを取り出した氷空は手に臭いが着かぬよう手早く俺に渡してきた。
ニンニクを切るとき必ずと言ってもいいほど注意しなきゃいけないこと。それは必ずゴム手袋をして指に臭いが着くのを避けることだ。
料理を始めて早二年ちょっと。
生まれて初めてこいつを切り終えた後自分の指を嗅いだとき、こんなかこう……すごかった。それしか言えない。
そしてまた後日、こいつを切ることになりもう二度とあんな思いはしたくないと思い装備し始めたのがこのゴム手袋。
それ以来。自分の指が守られるというメリットと引き換えに、ゴム手袋の指先に臭いが着くというデメリットを受け取るように。どの道プラマイゼロだからいいんだけど。
ゴム手袋を装備した俺は二分の一残ったニンニクから一片貰い、手早くみじん切りにし残りを厳重にラップ掛けして再び冷蔵庫の中に封じた。
他にも切るべき野菜はあるが、先に帰宅した氷空が切ってくれていたおかげで作業がスムーズに進んだ。
しかし。自分が切れない、あるいは切りたくないものだけを残すとは……明らかに策士だな、氷空の奴。でもかわいい妹だから許すけど。
いやまて! 今の発言からする俺、シスコンじゃね?
自分の発言につい過剰に反応してしまいひんやりとした汗が頬を伝っていくが、気にせず俺はナベに油を少量入れ、ナス、ニンニク、玉ネギ、トマトの順に炒めていく。
程よく炒めたら、残りの野菜とバラした鶏肉を鍋にぶち込み炒めていき肉がいい具合に焼けてきたところで水を入れ煮込みに入った。
二十分ほど煮込んだら一端火を止め、中辛のカレールーを入れ再び火をつけ中火に設定しお玉を混ぜながらルーを溶かしていった。
その間、氷空には前菜としてシーザーサラダを作ってもらった。
三十分後。
ルーもすっかり溶けて無くなると同時にトマトまでもが一体化して、ようやく今夜のメインである夏野菜カレーが完成した。
食器棚から少し大きめの平皿を取り出し、炊き立てご飯約四合を四人分、一人一合ずつ盛りその上からトマトと溶け込んだカレールーをかけリビングへと運んだ。
残りカレーは余熱がとれてからラップして冷蔵庫に入れればいいし。それに姉さんの分も残っているから問題ないか。
さて、皆を呼ぶか。
「おーい。咲妃ーアリスーご飯できたぞー」
「「はーい♪」」
と、和室の方から二人の声がしてドタドタと音を立てながら、子供のようにしてリビングに駆け込んできた。
「ん~いいにお~い♪ 今日はカレーか~」
「うん。氷空が下準備してくれていたからさ。それよりお前ら和室で何してたんだ?」
「白星さんに昨日までの授業ノートをお借りして二人で勉強していました」
「マジかよー! 俺にも勉強教えてくれよ! 特に英語を!」
「辞書使いながら勉強しなさい。それに高校英語なんて中学英語の応用みたいなものだし」
「英語なんてただの呪文だ……」
「そうかしら? あたしからしてみれば英語面白いわよ~。それにプログラミング言語が分かるあんたの方がすごいわよ。あれも一種の英単語でしょ」
「それはだなー……。あれはあれーこれはこれっていうことで」
「はぁー……あたしには一生分からない世界だよ。それより早くご飯たべよー! 氷空ちゃんなんかもう食べ始めてるし―。あーアリスまでー!」
「だ、だってーカレーはやっぱりあったかいのがおいしいですしー……」
「そうですよ~。お兄ちゃんと咲妃さんの二人の会話見ていると仲のいい夫婦に見えてくるなぁ~」
「「誰が夫婦だ! ただの幼馴染なだけだ!」」
二人してテーブルから身を乗り出して氷空の言い分に抗議した。
「ジ、ジョーダンだよお兄ちゃん、咲妃さん! 早く食べましょう! 冷めちゃいますよ」
「そうだな。――いただきます!」
パンッと両手を強く打ちつけて合掌し連語である『いただきます』を咲妃と一緒に呼唱し、スプーンを手にしカレーを口にした。
スパイスの辛味と熱々のルーが舌を刺激していく中で、ルーに溶け込んだトマトのほのかな酸味が口に広がっていく。
「んめー! やっぱ暑い日はカレーがいいよなー」
「そうね~。夏バテ防止にもなるし」
暑いけどついつい熱いものを食べたくなる。これも人間の本能って奴なのか、あるいは欲望か。
カレーを五割方食べたところで俺は一度席を立ち冷蔵庫から玉子を一個取り出し席へと戻った。そしてテーブルの角で殻を割り、ルーの上に落としては黄身をスプーンで割ってルーと絡め口に運んだ。
ルーと絡み合う黄身が辛さを中和してまろやかに仕立てあげ、素材のおいしさを引き立てた。
やっぱ玉子とカレーって合うな~。これ考えた奴マジ天才だわ。
ぼそりと一言述べた俺は丼ものを口にかき込むようにして残ったカレーを食べ終えた。
夕食を終えた俺たちは本日炊事担当の氷空に使い終えた食器を託して、俺たち二年生組は和室に五科目の教材を手にして勉強会を始めた。
互いの苦手科目を補いながら休校していた分の授業の内容を勉強していくが、主に苦手科目がない咲妃が俺とアリスに教えていく形になった。
「アリス、そこ間違ってるわよ。そこの問題はね、この公式を当てはめて解くの」
「あっ! なるほど~」
……なんかこうー……二人のやりとりを遠目で見ていると、現役難大大学を『現役合格しました』という肩書を持った家庭教師と中学生に見えるな~。
「――ねえ神夜。なにさっきからこっちをじろじろ見てるの~?」
「い、いや……なんか咲妃が先生に見えてよ……」
「ふふーん♪ それはほめ言葉として受け取っておきます。なんなら神夜に教えてあげようか~?」
「必要ねぇよ! 数学は俺の得意科目の一つだし。俺一人でできるよ!」
教科書をパラリと開いて、自分なりに内容をまとめていき例題と問題を解いていく。
ここ最近までの内容は簡単だな。まあこういうのって、ただの序章にしかすぎないし後半になるにつれて難しくなるのが定番だからこの際、応用問題も解いておくか。
カバンから数学チャート・青を取り出して、該当ページを開いて別のノートに問題を解いていった。
勉強会を始めて早三、四時間が経過しており、気づけばとっくに日付は変わりアリスは机にうっぷして眠っていた。
「咲妃そろそろ帰らなくていいのか?」
「えっ? あーもうこんな時間か。んー……今日は泊まって行こうかしら」
「泊まるっても着替えはどうするんだよ?」
「シャツは神夜ので、下着は氷空ちゃんかルナさんに貸してもらえればいいわよ♪」
「氷空のね~……。シャツはともかくホントに入りきるのかねーその胸に」
「ちょッ! 神夜どこ見てるのよー! この変態! あ、あたしだって好きでこんなのもってるんじゃないんだから……」
「悪かったよ咲妃。とりあえず俺はアリスを部屋に運んで来るよ。お前の寝床、アリスといっしょでいいか?」
「うん、お願いね神夜♪ じゃああたし、ルナさんと氷空ちゃんから下着借りてくるね。神夜もあとでシャツと短パン貸してよね」
「あいよ」
寝ているアリスをお姫様だっこで抱きかかえた俺は襖を開け、二階へと上がっていきアリスの自室に入った。
初めて入る彼女の部屋には、白いレースカーテンの付いた天蓋ベッドに白のドレッサーに机。シンプルなつくりのタンスの上には様々な洋服を着た人形が幾多数置かれていた。
シンプル・オブ・ベストって感じだなー……。こいつにもPCとかいろいろ買い揃えてやらなきゃな。
熟睡しきったアリスをベッドに寝かせた俺は窓のカーテンを閉めようとしたとき、一匹の黒猫が屋根上にのっていたが踵を返して地面に下り立った。
珍しい。内に野良猫が入り込むなんて。
むしろ俺は猫派だから大歓迎だけど、氷空は犬派だからな。ペットを飼うとき揉めてその話がなかったことになったっけな―?
クスリと、昔のことを思い出してしまいつい笑ってしまった。
カーテンを閉め終えた俺は物音を立てずしてアリスの自室から退出し、自室に駆け込み咲妃に渡すシャツと短パンを手にして一階に下りると、ルナ姉さんに借りたと思われる黒の下着を手にした咲妃が洗面所前で待っていた。
「お、咲妃ー下着の方は姉さんに借りたんだな」
「そう。もう氷空ちゃんも寝てるみたいだし」
「そうか。ほいよ咲妃。お前に頼まれていたシャツと短パンな」
「うん、ありがとう神夜♪」
「いいってことよ。あーそれと咲妃。明日の件だけど。明日母さんの墓参りに行くからよ。
明日の朝は超早いから」
「墓参り……。そうだったわね。明日は神夜の母さんの命日なのよね……」
「そう。だから朝早くに家を出てこっから数駅行ったところにある霊園にいくが……咲妃。お前も来るか?」
「もちろん♪ 神夜のお母さんにはあたしもお世話になったし」
「じゃあ決まりだな。明日の朝早いから注意しろよ」
「分かったわ。じゃああたしシャワー浴びてくるから。お先、失礼するわね」
そういって咲妃は洗面所に入って戸を閉めた。
さて、と。俺は俺で明日の朝食の下準備でも済ませておくか。
キッチンへと赴いた俺は、冷蔵庫から牛乳と玉子にヨーグルト、戸棚から砂糖を取り出しトレーの中に混ぜ合わせていき、市販の食パンを四分割してトレーの中に浸し冷蔵庫に入れた。
*
明くる日の朝。
昨日の夜にセットしていた目覚まし時計がベッドで寝ている主人を起こす時刻の、約一時間早く目が覚めた俺は学校が休みにも関わらず制服に着替え一階に下りた。
リビングは薄暗く、シンッと静まり返っていた。
俺は作業用BGMとして朝のニュース番組をつけるとタイミングよく今日の天気予報を言い始めた。
今日は全国的に晴れるらしく、絶好の洗濯物日和兼紫外線に気を付けてのことだ。
これもあれだな。ネット業界で太陽神として崇められているタレントの力が、自然の理をも捻じ曲げるほどの力を持っていたという証明になる。
太陽神すげー……。
昨晩、冷蔵庫に入れていたトレ―を取り出しながら俺は一人太陽神と呼ばれているタレントを褒めたたえた。
溶いた玉子が混ざった牛乳を吸収した食パンを、バターが溶けたフライパンの上にのせてじっくり焼いていった。
いい具合に両面が焼けたパンから大皿の上に盛っていきリビングへと運び、人数分の取り皿を並べた。
あとは、付け合せとしてベーコンエッグと野菜スープを添えた。
朝食の準備は終った。あとは皆起きてくるのを待つだけだ。その間にフライパンとか洗っとくか。
軽く背伸びをした俺は、水を入れて油を浮かせていたフライパンの中の水を流しに捨てスポンジで洗った。
そろそろこのフライパンのテフロンも取れてきたから買い替えるべきかなー?
フライパンからトレーの順でキッチン用品を洗い終えてリビングに戻ると、寝間着姿の咲妃、アリス、氷空、ルナ姉さんたちが椅子に座っていた。そして大皿に盛っていたはずのフレンチトーストが全て無くなっていた。
バ、バカな……。あれだけの量をたった数分。それも四人で平らげただと……!?
「あら神夜おはよう。フレンチトーストすごくおいしかったわよ」
「あ、あー……おはよう咲妃――じゃねえよ! 何お前ら四人で全部食ってんだよ! 少しくらい残しとけよ!」
「え~だってみーくんが作ったのってすっごくおいしんだもーん♪」
「そうだよ~お兄ちゃん。お兄ちゃんが作ったのって、もうやめられない、とめられないだよ~」
「うまい感じでなに某スナック菓子のキャッチフレーズ使ってんだよ氷空は!」
「もう朝からガタガタうるさいわよ神夜! 食べたいならもう一度作ればいいじゃない」
「作るったって……もう食パン残ってねえよ」
「なら諦めることね。人間諦めることも大事よ」
「諦めろって……そもそもお前らが俺の分残してくれてたらこんなことに――」
「あ、あのー神夜さん! わたしのでよければ――!」
アリスの取り皿の上にはフォークで綺麗に切られたのと、上からバターとメープルシロップがかけられてまだ手をつけてない二枚が残っていた。
「……いいのかアリス?」
「はいっ♪ それにわたし、もうお腹いっぱいですし……」
「じゃあ遠慮なく、いただきます」
手を合わせ俺は、皿の上にのったフレンチトーストを手に取り口に運んだ。
「アリスに感謝することね神夜♪」
「なんで咲妃が得意げな顔でいうんだよ」
「べっつにー。それより早く行きましょう」
朝食を済ませた俺たちは使った食器を流し台へと持っていき、手っ取り早く食器を洗っていく。
その間に、咲妃たちは寝間着から学校の制服に着替えるべく各自部屋へと戻った。
五分と経たずして全ての食器を洗い終えた俺は仏壇の引き出しから線香とロウソク、マッチ代わりにライターの入ったカバンを手にして玄関前で待つことにした。
女子って何かと支度に時間かかる。もしかすると一時間、あるいはそれ以上かかるかもしれない。
なんて考えとは裏腹に、三十分もかからずして支度を終えて全員そろった。
「やけに早いなお前ら」
「ルナさんとアリスが手早くやってくれたのよ。ホント手慣れたもんよねー」
「それよりお兄ちゃん、ここから結構時間かかるけどいいの?」
「あーそうだった。そろそろ行こうか」
ローファーを履いて俺たちは雛乃駅を目指して朝から燦々と照り付ける朝日の中を歩いて移動した。
道中『どうしてタクシー呼ばないのよー』とルナ姉さんと咲妃が口を揃えて文句を耳に胼胝ができるくらい聞き流している間に雛乃駅に着いた。
土曜の朝とだけあり都心方面から学院のほうに通う部活動生が『眠い』だの『暑い~』だの『今日も一日がんばるぞい』だのと、ぶつぶつ呟いていた。
そんなにいやなら休めばいいのに。俺だったら休むね。全力で!
母さんの墓のある駅までの切符を人数分購入した俺たちは、ちょうど来た下り線の電車に乗り込んだ。
目的地までは電車で約三十分ちょっと、九駅分の旅路だ。
なんせこれから行くところは町というよりもちょっとした田舎だ。だからと言って周りが野山や田畑だけしかないわけでもない。ちゃんと学校もあるし、小さな医療施設だってある。
だから俺はそこをちょっとした田舎と言っているが、そもそも田舎の定義ってなんだ? こんどグーグル先生に訊いてみよう。
電車に貨車させること三十分ちょっと、ようやく目的地である駅に着いた。
車内で軽く背伸びをした俺は忘れ物がないか確認して電車を降り、駅改札口を通過して母さんの墓がある霊園を目指して歩き始めた。
時刻はすでに九時をまわっており、日差しもこれから強くなる模様だ。
霊園までは徒歩で十、二十分ちょっと。距離にして一キロ強あるか無いかの瀬戸際だ。
前は父さんの車で霊園まで行っていたけど、父さんは海外なうだからなぁ。てか、ルナ姉さんって運転免許持っているのか? 持っているところ見たところないな―……。
チラッと、日傘を差しているルナ姉ちゃんのほうを見る。
日陰のない道を歩いているうちに、霊園直属の駐車場に差し掛かった。駐車場には事務所で働いている人の車のほうに普通車七人できるシルバーカラーのHYBRID Gが一台停まっていた。
俺たち以外にも、今日ここにくる人がいるとは。
事務所の職員さんたちに軽くあいさつして、俺たちは母さんのお墓がある墓所まで歩いて行った。
「ねえ神夜。バケツと柄杓はいいの?」
「あ、いっけねえとって来るの忘れてた……。まあ確か水汲み場が近くにあったからそこで借りればいいよ」
墓所第一、第二地区を抜けちょっとした丘を上がって第三地区へとたどり着いた。
俺たちは第三地区にある母さんの墓に向かって歩いていると、墓の前に黒の背広を着た男性がバケツと柄杓、輪菊・小菊・マム・カーネーションを中心にりんどう・グラジオラス・ケイトウの仏花を手にした墓の前に立っていた。
ま、まさか……な。
そんなはずはない。だって親父から『今月からイギリスなう(キラッ)』ってメールが五月にデコメできたばっかりだし。
と、とりあえず声かけてみるか。
「あ、あのー……」
「! おー神夜じゃないか! それに氷空もルナちゃん、咲妃ちゃんも来てたのか! そしてーこちらの金髪少女は? まさか、お前と咲妃ちゃんの子か?」
やっぱり親父だった。
俺が声をかけようとした途端、親父は何度も俺の肩をバシバシと力強くたたいてきた。
俺の親父、十六夜月斗。職業新聞記者にして世界中を飛び回っている。
前までは自宅から通勤していたが、なんでも上からの命令か何かで海外派遣が多くなったことから単身赴任となった。
「いや、俺まだ結婚できる年齢じゃねえし! つうかまだ高校生だ! ……こちらはアリス。留学生で内にホームステイしてるんだよ」
「なるほどねー。初めましてアリスちゃん。俺ぁ十六夜月斗っていうんだ。今後ともよろしくな」
「は、はい! よろしくお願いします!」
「ところで、親父いつ日本に帰って来たんだよ?」
「昨晩な。有給とって帰って来た。まあ墓参り済んだら夕方ごろにまたイギリスに戻るけどな」
「じゃあ駐車場に停めてあるあの車は親父の?」
「ただのレンタカーだ。どうせお前らも来ると思っていたから」
「そう。とりあえず墓参り済ませようぜ」
墓に向かって両手を合わせて合掌して、俺たちは枯れた仏花と親父が用意してくれた仏花と入れ替え花立に水を注ぎ墓石に水をかけて清めタワシで磨いていった。
清めが済んだらライターで線香に火を灯し、供物台に置いて再度合掌して墓参りは幕を閉じた。
「さて、墓参りも済ませたし。皆で飯でも食いに行くか?」
「食いに行くってこのあたりに飯屋なんてないぞ親父」
「んなこと分かってらあ。確か道中にショッピングモールあったろ? あそこまで行くぞ! ほら善は急げだ! 行くぞお前ら―!」
「「オーっ♪」」
と親父のノリに氷空とルナ姉さんだけが着いていけて、俺と咲妃はただ苦笑いするだけだった。
借りたバケツと柄杓を返して俺たちは親父がレンタルした車に乗り込んだ。
「全員乗ったな? じゃあ近くのショッピングモールは―っと……こっから結構離れてるなー。雛乃町を越したぞ。それでもいいか?」
「別に構わないよお父さん♪」
「わ、わたしも氷空さんに賛成です」
「まだ道が分かんないから皆にお任せ♪」
「あたしも構いませんよ」
「じゃあ決まりだな」
親父は俺の意見を聞かずして車を走らせ、霊園駐車場を後にした。まあ答えは言わずとも氷空たちに賛成だけど。
運転はもちろん親父で後部座席に咲妃たち女性陣が座り、助手席には俺が座る配置となった。
「でもって神夜。高校生活もそろそろ折り返しだが、好きな子とかできたか?」
「いきなり恋愛話かよ」
「時にはいいだろう。俺なんか母さんと出会うまでは恋愛のれの字もなかったんだからよ。お前は俺と違っていい面してるし、モテるだろ?」
「モテねーよ。クラスじゃ理学系しかできない廃ゲーマーとして見られてるしよ」
「理学系が得意ならいいじゃねえか。お前もじじいに似て腕のいいプログラマーになれっぞ」
「ホントだよ。うちのじいちゃんってプログラマーで剣豪だしよ」
「お前はじじいの遺伝子すべてを受け継いだのかもな」
カカカっと親父は高笑いが車内に響く。
そうこうしている間に、車を普通道路から高速道路に入りそのままショッピングモールがある地区を目指して走っていた。
それから親父との会話はめっきり無くなり後部座席で楽しげに話している咲妃たちの女子トークに耳を傾けていた。
高速道路を二十分ちょっと走ること、車は高速道路から一般道へと下りた。
そして、カーナビが『目的地に着きました』とのアナウンスをして役割を終えた。
週末とだけあって家族を乗せた車が多く、駐車場の空所を探すのに骨が折れそうな気がしてきたが。
「お前ら、一端ここで降りて飯屋の席とって来いよ。俺ぁ車停めてくるからよ」
と親父がショッピングモール東館入り口前で俺たちを降ろして車を停めに行った。
「飯屋の席とって来いって……何か食いたいもんあるか?」
「あたしはなんでもいいわよ。お昼なんて大抵そういうもんでしょ?」
「そりゃそうだけど。氷空たちは何かあるか?」
「バイキングでいんじゃないのお兄ちゃん」
「あっ。それいいですね氷空さん♪」
「ナイスよ氷空ちゃん♪ よ~しお姉ちゃんがぎゅうってしちゃう~♪」
「も、もうルナお姉ちゃんったら~恥ずかしいよ~」
ぎゅうと、ルナ姉さんは人目を気にせず氷空を抱きしめた。はたから見れば仲のいい姉妹に見えるのかな?
「じゃああそこの『バイキング ~ルナビアン~』にいるって親父に連絡しとくから」
親父に連絡してから俺たちは店内に入った。運よく六人席が空いているらしく俺たちは店員に案内されるがままその席に座った。
料理は主にイタリアンがメインらしく、他にもスペイン、地中海料理が置かれていた。
これから普通にイタリアン料理入ったほうが得だったかもしれんが、単品、あるいはセットで頼むよりかは断然こっちのほうが得かもしれんな。
「お兄ちゃん私たち料理取ってきていい?」
「あぁ構わないよ氷空。荷物は俺が見ているから」
「ありがとうお兄ちゃん♪ いこうアリスさん♪」
「はいっ♪」
「あ! もう氷空ちゃんもアリスちゃんも待ってよー」
氷空はアリスの手を引いてフードコートの方へと行ってしまい、そのあとをルナ姉さんが追っていった。なんか妹ができたのか氷空、アリスが来てからすっげえ楽しそうだ。
「で、咲妃は行かなくていいのか?」
「あたしは氷空ちゃんたちが戻ってきてからでいいわよ」
「そうか」
傍から見れば俺と咲妃ってどう見えるんだろう? やっぱカップルにみえ……って何考えてんだ俺は! こいつとはただの幼馴染なだけで特別な関係じゃないしよ……。
「お兄ちゃん、咲妃さんお待たせしました~」
と、取り皿いっぱいにパスタにピザを持って隅っこには少量のサラダをのせて氷空が戻ってきた。
「氷空……お前もう少しバランスというものをだなー……」
「別にいいじゃないお兄ちゃん♪ ほら、次お兄ちゃんたちが取りに行っていいんだよ」
「ありがとう氷空。親父来たら空いてるところに座ってって伝えといて」
「分かった。いってらっしゃいお兄ちゃん♪」
椅子から重たい腰を上げて俺と咲妃は取り皿を手にしてフードコートへと向かった。
カウンターには色とりどりの料理が並んでおり、正直どれにしようか迷う。食べ放題だから後で取りに来てもいい。だがこの場合『あとで』というのが軽い命取りになる。
いざとあとで取ろうとしたものが先に並んでいた人に取られて無くなったなんて経験は誰にでもあるし俺にもある。だからこそ食べたいもの、とっておきたいものは先にとって置くのがいい! そして、自分の胃袋の密度も計算したうえで量は極力最小限に済ませる!
緻密な計算をしながら取り皿のスペース、栄養バランスを考えながら料理を盛っていく。
大方スペースが無くなったところで俺は、氷空たちが座っているテーブル席に戻ると車を停めてきた親父が座っていた。
「遅かったな親父」
「なんせ今日は週末だろ? 子連れが多くてなかなか空所が見つからなくてよー。でも安心しろちゃんと停めてきたから!」
ビシッと親指を立てて親父は宣言した。
「それはお疲れ様でしたっと。親父は飯とりに行かなくていいのか?」
「んなもんあとでいいよ。それより俺は若いお前らと話してえしよ」
「あの月斗さん! 奥さんのセレーネさんとはどこで出会ったのですか―」
「おっ! いい質問だなアリスちゃん。じゃあちと長くなるが―……オホン」
親父は咳払いをしてアリスの質問に答えるべく長々と語りだした。
今から二十年前。親父こと十六夜月斗が大学二年の春ごろ。
当時親父が通っていた某有名国立大の姉妹校であったイギリスの某名門大学から留学してきた母さん、セレーネ・スピリットと履修していた科目が一緒だったのが出会いのきっかけらしい。
親父は一目ぼれして、出会って一週間も経たないうちに母さんに告白。誰もが口を揃えて『玉砕乙wwwmq(^д^)』って思ったらしいが、返事はなんとOK。
これには誰もが驚愕し、その訳を聞いても母さんは誰にも訳を話さなかった。
これはあくまで推測だが。母さんも親父に一目ぼれ? だったのかもしれないな。
さてさて話を戻すとしよう。
正式にカップルとなった親父と母さんは休み時間はもちろんのこと、登下校も一緒にするようになり、交際は順調に進んでいったのも束の間。
留学期間五ヶ月の任期を終えた母さんは再び母国、イギリスに帰ることとなり二人は離れ離れになって二人の恋は儚く散った、と誰もがそう思った。
そして二年の月日が流れて親父は大学を卒業して今の仕事に就いて、一カ月が経って日本がGWを迎えたころ。
新生活も慣れてきた親父は、一人で母さんの祖国であるイギリスに一人旅だって無事再会し、即日プロポーズ。返事はイエス!
そして、翌日には母さんの両親にあいさつを兼て結婚することを報告しにいったとのこと。親父のことを母さんがすでに大学生のときに話していたらしく、もめ事は最小で済んだと。そして、ビザが切れた親父は日本に帰国することになるわけで二人はまた離れ離れになるわけでもなく、母さんも親父と一緒に日本に行く、と言って二人して日本へ。
そして、親父は帰国してすぐ自身の両親に結婚することを伝えた。
こちらでも、もめ事なく両親は母さんを温かく迎え入れてくれて、翌日に国際結婚の手続きが大変だったらしく式の日程を翌日に繰り上げたとのことだ。
手続きを済ませた翌月に日本で式を挙げて、さらに翌月には母さんの母国で式を挙げた。
その写真は母さんが生前だった時に俺と氷空は見せてもらったな。ウェディングドレスを着た母さん、すっげえ綺麗だった。
「――というわけよ」
「月斗さん、本当にセレーネさんのこと好きだったんですねー」
「自慢の嫁さんだからなっ。さて、俺も飯とってくるか」
重たい腰を上げた親父は、一人フードコートの方へと行ってしまった。
昼食代の支払いは親父持ちで済ませて俺たちは店を出た。そんであとは雛乃町に買えるだけだが、せっかくここまで来たんだからちょっと本屋でも寄っていこうかな?
「親父、俺ちょっと本屋行ってくるから先に氷空たち家まで送っといってくれ」
「それはいいが。お前金は持っているのか?」
「そこそこ持っているから大丈夫。あーそれと氷空、アリス。雛乃町に着いたら夕食の買い出しお願いな」
「任せてお兄ちゃん♪」
「了解です神夜さん♪」
「もう伝えることはないな?」
「……親父。できたらいいからさ。今年の学祭、来てくれよ? ……またな」
「おう。またな神夜」
親父と最後の別れを告げた途端、車は雛乃町に向かって走っていった。
親父たちも行ったし、本屋寄って明日のパーティグッズでも買ってから帰るか。
モールへと再び入った俺は、入ってすぐ近くに設置されていたエスカレータに乗って二階に設けられた大型書店に入った。
大型とだけあって蔵書の量も幅広く取り揃えられていて、よく学校指定の参考書やら料理の本を買いに行く。さて、今日は何を買おうかなー?
参考書ゾーンを通って料理本コーナーに移ろうとしたとき、『ん! んぅー!』っと、頑張って背伸びをして自分の身長より上にある参考書を取ろうとしている、白のノースリーブ型ワンピースの上に水色の半そでの上着をきた銀髪少女がいた。
白星さん? まさかな。
俺は料理本コーナーに行かず、少女がいる本棚へと行ってさりげなく彼女が取ろうとしていた本を取ってあげた。が、少女の表情は自分がほしかった本を他人に横取りされたという表情で、今にも泣きそうだった。
「はい。この本で合っているよね?」
「――あ、ありがとうございま――って十六夜くん!? どうしてここに! それになんで制服?」
あ、やっぱり白星さんだったか。
少女こと、白星さんは本を受け取ると、大事そうに抱きしめた。あぁこの子ホント可愛いわ~。
「母さんの墓参りの帰りで立ち寄っただけで。白星さんは今日一人?」
「うんん、お姉ちゃんといっしょだよ。今はファッション誌のところにいるかなー」
なるほど、休日デートって奴ですか。ホント仲のいい姉妹だよなー白星さんたちって。
「それより十六夜くん。明日だよね? アリスさんの歓迎パーティ」
「そうだけど……何か問題でも起きたか?」
「だ、大丈夫! 問題ないよ。わたし、いつもよりケーキ作りに気合入れたいんだけどどんなのがいいかなーって思ってね」
「んー……一段か二段でいんじゃないか?」
「そうだよねー。十六夜くん、わたし頑張るからねっ!」
ムフンッ! と白星さんは無い胸を反らした。
「期待してるぜ白星さん♪」
「あまりハードル上げないでね十六夜くん。わたしプレッシャーに弱いからさ……」
「あ……ごめん……」
「謝るまでもないよ~もう」
『ミチルー買う本決まった―?』
トタタタッと、藍色のハーフパンツに白と黒のボーダーTシャツにスニーカーを履いたとおりんさんがお気に入りのファッション誌を手にしてやってきた。
「あ。こんにちは、とおりんさん」
「十六夜くんも来てたんだね~。何か買いにきたの?」
「料理本と明日のパーティグッズをね」
「あ~いよいよ明日だったわね~。ねえ十六夜くんこれから時間ある?」
「ありますけど?」
「それなら一緒にグッズと食材もここで買っておこうよ。ミチルもいいよね?」
「うん、構わないよお姉ちゃん」
「じゃあ決定♪ じゃあミチルと私の本、お買い上げしてくるからそこで待ってて」
白星さんから本を受け取ったとおりんさんは駆け足でレジへと向かっていった。
「……なんか二人の時間邪魔したかな?」
「気にしないで十六夜くん! お姉ちゃん、楽しいことに目がなくてね。もちろんわたしも楽しいこと好きだよ」
「いやでも……」
「いいのっ! お姉ちゃん、一度言い出したら止められないからさ♪」
ニカッと白星さんはいやそうな顔一つせず心から笑ってくれた。
「お待たせ~二人とも~♪ さ、早くグッズ買いに行こう―♪」
「わっ! ちょっ、ちょっととおりんさんっ!」
お会計を済ませてきたとおりんさんは、戻って来るなり俺たち二人の手を引いてパーティグッズが売られている店まで走った。
パーティグッズを売っている店。つまりは雑貨屋だ。ここのショッピングモールの雑貨店数はおよそ二十。そのうちの二店舗がパーティグッズを専門に取り扱っている店がある。
とおりんさんは俺と白星さんの手を握ったまま、ものの数秒ほどでその店に着いた。
「ふぅー着いた着いた♪ 十六夜くんたち大丈夫?」
「俺は大丈夫ですけど……」
チラッと目線を隣にやると、ぜぇー……ぜぇー……と息を切らして深呼吸する白星さんがいた。
「ミチル、大丈夫?」
「うん……大丈夫だよお姉ちゃん」
えへへっと、白星さんはとおりんさんに微笑んで見せた。
「よーし♪ じゃあさっそく買いに行こうー♪」
妙にとおりんさんのテンションがおかしくなった? 気がするのは俺だけだろうか? いや、このことは白星さんも気づいているっぽい。
三人でパーティグッズ専門店『テレティ』という店に入った。
店内には、とんがり帽子や超大型クラッカーに這いよる混沌というべき黒い影Gの人形が飛び出るクラッカーなど、バラエティ豊富な品ぞろえ数だった。
俺としては、手軽に五つ入りクラッカーを二袋買えばいいと思っているし、足りないと思ったらとおりんさんと白星さんに聞けばいい。
「ねえねえ十六夜くん。これなんかどうかなー?」
とおりんさんはクラッカー売り場まで来るよう俺を手招きしてきた。そして、彼女が手にしていたのは、よくバラエティでおなじみの仕掛け人と呼ばれる芸人が手にしているバズーカーだった。
「それをどうするんですか?」
「パーティで撃つつもりだけどダメかな?」
「音がデカいんで普通のクラッカーにしましょうよ」
「え~! せっかくなんだからこれ撃とうよ~。……もうそんな渋い顔しないで。冗談だから」
「冗談には聞こえませんでしたけど……。まあ買ってもいいですけど、とおりんさんの自腹ですよ」
「はーいっ。……あ、とんがり帽子とか買わないの? パーティだとお約束の」
「一応買っておきますか。なんか雰囲気出ると思いますし」
とんがり帽子人数分と五つ入り小型、中型クラッカーを二袋をもろしもカゴの中にいれレジへと並んで会計を済ませた。
必要なものを買い終えた俺とレジ出口で待ってくれていた白星さんたち合流して店を出た。
その後は白星さんの買い物。明日のケーキ作りで必要な材料とパーティのランチとして使う食材をショッピングモール内にあるスーパーで買い揃え、俺たちは雛乃町に帰還した。そして、そのまま俺は彼女らの家までケーキ作りに必要な材料が入ったエコバッグを持った。これは俺なりのせめてものお礼だ。
炎天下の中を駅から歩く事三十分。ようやく、白星さんたちの自宅に着いた。
「おつかれさまー十六夜くん♪ 荷物重かったでしょー?」
「いやいやーそうでもなかったけど」
「そうなの? まあいいか。ホントにありがとね十六夜くん♪ 明日のパーティ楽しみにしているから」
「はいっ。それじゃあ俺はこれで」
一礼し踵を返した俺が門を出ようとしたとき。
「十六夜くーんっ! わたしー頑張ってケーキ作るからねーっ!」
と、白星さんが珍しく大声を上げて帰路に立った俺に言ってきた。
「おーっ! 楽しみしてるよー白星さんっ!」
俺も彼女に向かって大声を張り上げて返事した。
……近所迷惑になってなきゃいいな―……。
なんて心配しながら家に帰った。
その後待っている本日の夕飯と明日のランチの仕込みで地獄を見るなんて思ってもいなかったのはまた別の話。
明くる日。
今日も設定した目覚まし時計が寝ているご主人を起こす一時間前に起きた俺は、俺を含めテ四人分の朝食づくり兼、パーティで出すランチの下ごしらえの続きを始めた。
段取りとしては、ルナ姉さんと氷空とアリス三人に買いに行ってほしいものを商店街まで買いに行かせ、その間に咲妃とユキ、白星さんたちに来てもらいパーティの設営と準備。
そして、アリスたちが帰ってきてリビングに入ったらクラッカー鳴らす!
完璧な段取りだ。
あとは、パーティを楽しむだけだけども、それまでの準備というモノが結構大変なのである……。
『朝から何ニヤニヤしてるのお兄ちゃん?』
「ッ! そ、氷空ッ! お前いつの間に!? てか俺口に出した!?」
「思いっ切りね。でも大丈夫だよお兄ちゃん。アリスさん、まだ部屋で寝ているからさ」
「よ、よかったー……」
ふぅー……と安堵のため息をついてかいてもいない汗を拭う素振りをした。
「それよりお兄ちゃん。私とルナ姉さん、アリスさんの三人に何を買ってこさせる気なの?」
「あーそれはだな―」
俺は前々から忘れないようにメモしていた紙を戸棚から取り出し、それを氷空に手渡した。
「これ、買いに行けばいいのね」
「そう。まあなるべく時間かけてきてくれ。任せていいか?」
「うんっ♪ 任されました、お兄ちゃん♪」
ニッと満面の笑みで氷空は俺に笑って見せた。
その後、アリスとルナ姉さんが部屋から出てきたのは、ちょうど九時ごろだった。俺たちは手っ取り早く朝食を摂りながら、氷空に手渡したメモ紙に書かれたものを買ってきてほしいと頼むなりあっさり承諾してくれた。
そして、十時すぎを目途に三人は商店街へと出かけて行った。
「よし、俺も最後の仕上げに入るか!」
ポケットに入れておいたスマホを取り出して俺は、手際よく咲妃たちに俺んちに来るよう素早く連絡し、前菜、メインディッシュ、サンドウィッチづくりに奮起した。
しばらくして、ピンポーンっと、玄関に設置されているインターホンを連絡済の誰かが押した。
「はいはーいっ」
濡れた手をエプロンで拭きながら慌ただしい勢いで玄関を開けると、咲妃とユキ、俊に白星さんたちが一堂に会していた。
「お前らはえーな」
「そりゃそうでしょ。ルナさんと氷空ちゃんが時間稼いでくれているんだもん。さ、早く準備してしまいましょう」
咲妃を先頭にユキと俊、白星さんたちが玄関を上がってリビングの飾り付け作業に取り掛かってくれた。
「俺も続きしなきゃな」
玄関を閉めた俺は、早歩きで彩りよく飾り付けられていくリビングを突破して戦場と化しているキッチンへと戻り作業を再開したのも束の間。
「あ、あの……十六夜くん! これ昨日の晩に作ったケーキ! それと、何か手伝えることないかな?」
振り向くと、昨晩作ったケーキの入った箱を手にした白星さんが立っていた。
「ありがとう白星さん。ケーキは一端冷蔵庫の中にお願い。それと頼めるとすれば、前菜づくりいいかな? そこに出しているトマトとモッツァレラをスライスして、皿に生ハムと一緒に交互に並べた後、上からオリーブオイルと千切ったバジルを乗せた簡単サラダをお願いね」
「うんっ」
手を洗った白星さんは、慣れた手つきでトマトとチーズをスライスして薄く切られた生ハムと一緒にガラスの平皿に彩りよく盛っていった。
「できたよ十六夜くん」
「ありがとう白星さん。じゃあそれをリビングのテーブルに。運び終えたら、そこに置いているサンドウィッチもお願い」
「了解だよ」
良妻ともいうべきだろうか。白星さんはテキパキと作りたての料理を、咲妃たちによって飾り付けられていくリビングに運んでいった。
「十六夜くーん。ほかに持っていくものない?」
「あとはこのメインディッシュであるターキーを持っていくだけだ。これ、重いから俺が持っていくよ。白星さんは咲妃たちの手伝いをお願い」
「はーいっ♪」
ビシッと敬礼して白星さんは、リビングの飾り付けにてこずっている咲妃の手伝いに向かった。
さて、そろそろターキーも焼き上がる頃かなー?
稼働するオーブンを見ると、ターキーの表面にはこんがりとしたきつね色の焦げ目がしっかりとついていた。
俺はとりけしボタンを押し、オーブンの稼働を止めた。やけど防止でミトンを装備し、中から熱々のターキーを取り出してリビングへと持っていった。
「お、いいにおーい! 神夜―それがメインかー?」
ターキーの香しい匂いにつられて、さっそく俊が食いついてきた。
「まあな。いろいろ考えた結果だが、こいつでいいかな? なんかクリスマスって感じだが」
「今日の料理長は神夜なんだからよ。お前がいいと思ったらそれでいいと俺は思うぜ」
「俊……。そー……そうだよな。さて、飾り付けもそろそろ終わる頃あいか。よっしゃ、今から全員にとんがり帽子とクラッカー配るからちょっと待ってろ」
キッチンへと戻った俺は、ミトンをいつも掛けている場所に戻して駆け足で二階の自室にある、クラッカーととんがり帽子を取りに行った。
そろそろアリスたちが戻ってくるころか。無事、買えているといいな。
スマホのデジタル時計を確認して、そろそろ買い物に出かけているアリスたちが戻ってくると読んだ俺は、駆け足でリビングへと出戻り咲妃たちにクラッカーと帽子を配った。
「飾り付けよし! 料理よし! タイミングとしては『アリスがリビングに入ってきたら一斉にクラッカーを鳴らす』これのみだ。それじゃあ電気消すぞー」
リビングの電気を消して、全員がリビングの扉からみて死角になる場所に待機して五分と経たずして『ただいま戻りましたー』と、玄関からアリスの声が聴こえてきた。
リビングの死角に隠れる鳳仙学院二年生全員に緊張が走る。
かくれんぼで鬼に見つからないか。あるいは、万全を期して試験に挑む中高生のような緊張感だ。
ゆっくりと歩み寄る足音。先頭を歩いているのはアリス……だよな? 氷空とルナ姉さんには『家に帰ってきたらアリスを先頭に』と伝えている。段取りは完璧だ。あとはクラッカーを鳴らして彼女を驚かせるだけだ。
ゴクリと、生唾を飲んで扉が開くのを待った。
「あれ? 電気が消えてますね」
ガチャッと、扉が開く音がした瞬間、俺たちはリビングの死角から飛び出し、クラッカーの紐を引いた。
パパパァ――ンッ! と爆竹でも鳴らしたかのような音が部屋中に響き渡り、突然のことにアリスは驚愕して尻餅をついた。
「な、何事……ですかこれは!? 神夜さん、咲妃さん! それにユキさんに俊さんに白星さんたちも!?」
「何って。そこにかかっている垂れ幕を見てみろよアリス」
「垂れ幕? あっ……」
尻餅をついたアリスに手を差し伸べて引っ張り上げて壁際にかかった垂れ幕を見るようアリスに言った。
起き上がった彼女は垂れ幕に書かれた言葉『welcome to real world ,Alice』を見た彼女の瞳からはツゥ……と一滴の涙が頬を伝っていた。
「あ、あれ……目から涙が……」
「企画したのは咲妃だ。まあ結構時間経っちまったけどな。――せーのっ!」
「「「「「「「アリスー! ようこそ、俺たちの世界に! そして、鳳仙学院に!」」」」」」」
「み、皆さん……。ありがと……ございます―……!」
ポタポタと、アリスの瞳から涙が止まることなく頬を伝って零れ落ちていく。
「おいおい泣くほどのことかよ。ほらハンカチ」
「ありがとうございます、神夜さん。だって、うれしいんです。皆さんに歓迎されて……また神夜さんたちと再会できたことも、何もかもがわたし、うれしくて……」
「アリス……。――ふう想ってくれて俺もうれしいぜ♪ さ、今日はドーンっと夜まで存分に騒ごうぜ! お前ら―飲み物は持ったかーっ!?」
「「「「「「「おーっ!」」」」」」」
「そんじゃあカンパーイッ!」
「「「「「「「カンパーイッ!」」」」」」」
ジュースが入ったグラスを高々と掲げて、互いに敬意をもってグラスを軽く打ち付け合いグッと飲み干して、彩り豊かな料理の品々に手を出していく。
「んめえーっ! やっぱ神夜は料理上手だなー!」
大飯ぐらいの俊の下を唸らせるほど、俺の手料理はうまいか。なんか主夫に目覚めそう。
「うん。神夜の料理は本当においしい。……毎日食べている氷空ちゃんが羨ましい……」
「? ユキーなんかいったかー?」
「な、なんでもないよ! 神夜」
ユキも俺の料理をうまいってくれたのが聴こえたが、そのあとなんて言ったのかが聞き取れなかった。まあ深くは訊かないでおこう。
「十六夜くんの手料理初めて食べたなー。今度の家庭科の時間、料理バトルしてみない?」
「食戟か。してみたいが先生に怒られるぞ」
「それもそうね♪」
ニッと微笑んだとおりんさん、相愛の妹である白星さんの隣に駆け寄った。
育ち盛りの高校生が七人もいれば、卓上から溢れるくらいに作った料理も一時間も経たずして無くなった。あとは白星さんがつくってきてくれたケーキを食べるだけだが、これは三時のおやつタイムに食べるとするか。
ランチタイムのあとは、全員持ち寄ったタブPC、ノーパソを開いてレッツSOWって感じで和気藹々とプレイしている。その間、俺は料理で使った皿を洗っている。
決して仲間外れにされているわけではない。家主として、本日の料理長として責務を果たしているだけだ。
「神夜さん、わたしも手伝います」
と、皆の輪に入っていたはずのアリスが俺の隣にきて洗い終えた食器を拭いてくれた。
「お、おうありがとうアリス」
ひとまず、俺はアリスに礼を言って休ませていた手を再び動かし始めた。
「あ、あの神夜さん。先ほどはありがとうございました。氷空さんとルナさんにもお礼は言いましたけど、神夜さんには何から何までお世話になってばかりで」
「礼はいいよ。それより気に入ってくれたみたいでよかったよ」
パーティが始まるまでの間。っていうより準備のために席を外してもらっていたあの時間たちに、氷空とルナ姉さんにはアリスと一緒に彼女専用のノートPCと自転車を買いに行ってもらっていた。
自転車はともかくPCは、なるべく性能がいいのを都心で買わせたかったが、こないだたまたま商店街を通っていたら『最新機種入荷』との張り紙が貼られていたから、店の亭主に予約して一台押さえてもらっていたのを今日取りに行ってもらった。
自転車に関してはアリスが気に入ったのを、その場ですぐに購入という形にした。
「PCの扱いで分からないことがあったら俺に言え。すぐ教えてやるから。それと“SOW”のほうもアカウント作っていてくれ。できたら、さっそく皆でレベリングだ」
「はいっ♪」
元気よく返事したアリスは、せっせと手を動かして洗い終えた食器の水気を噴き上げていった。
食器洗いを終えた俺とアリスは、さっそく“SOW”のアカウント登録とソフトダウンロードを始めた。
ソフトのダウンロードが完了するのは最速でも三時間、遅くて六、七時間はかかる。その間、アリスはアバターの名前と種族とジョブをレポート用紙にまとめていた。
俺のアバターである夜神が“SOW”の世界にログインした瞬間、咲妃たちのテンションは上がり白熱したレベリングが開始されたのも束の間。
ピンポーンっとインターホンの呼び鈴が鳴った。
宅配物か? あるいは親父か? はたまた悪質な子供によるピンポンダッシュか。気になった俺は夜神をオート戦闘モードに切り替え席を離れた。
「はいはい、今行きますよ」
引き出しからゴム印を取り出してそそくさと玄関の戸を開けると。割れ物注意の張り紙が貼られた長方形のダンボールを手にした配達員が立っていた。
「十六夜神夜さんですね? 十六夜月斗さんから速達です」
「(親父から?)はい、ありがとうございます」
受け取り印を押して荷物を受け取った俺は宅配員に一礼して戸を閉め、リビングへと戻った。
「神夜―なんだったのー?」
「親父から速達便での荷物だよ咲妃」
親父からは何も聞いていないし、これもサプライズの一環? なんだろう。そう自分に言いつけてガムテープをカッターで切っていき中身を確認した。
「? 米酒? それもノンアルか?」
ダンボールに入っていたのは二本の七五〇ミリ入りノンアルの米酒だった。そもそもなぜ米酒なんだよ。もっと他になかったのか? てか、ノンアルとはいえ酒って……。あ、手紙入ってる。
「えーっと……何々―?」
『なぜ米酒かって? それはそこに米酒があったからだよwww』
「『そこに山があったから』みたいに書くなよーッ!」
パーンッ! っと勢いよく手紙を床に叩きつけビリビリに引き裂いてゴミ箱にダストシュートした。
「おい神夜―何一人で粗ぶってんだよ」
「いや、なんでだろうねー。あはははー……」
あくまで白を切って俊に返事をし、夜神のオートモードを切り戦闘に再参戦した途端、親父が送ってきた米酒に咲妃が興味を示し始めた。
「ねえ神夜。あの米酒飲んでみない? せっかく羽目を外して遊んでいるんだしさ」
「羽目外してるっていうか、黙々とゲームしているのが羽目を外しているとは言わんと思うぞ咲妃?」
「ノンアルって書いてあるんだしいいじゃない」
「……じゃあ今からアンケとる。あの米酒飲みたい人挙手―」
俺の問いに答えたのはなんと全員だった。興味本位で飲んでみたいのか? まあノンアルだから未成年でも飲める代物だ。もしこれがノンアルじゃなかったら法的かつ打ち切り終了だ。
とりあえず全員分のグラスに均等に米酒を注いで、リビングに持っていき全員に手渡した。
「んじゃ、全員に行き渡ったみたいだしさっそく飲んでみるか」
一呼吸おいて、俺たちはグラスに注がれた米酒をグイッと飲んだ。
「……うまい」
いえるとしたらその一言だけ……あ、あれ、視界がゆがんで……。
突然、強い睡魔が俺の両瞼を襲撃して意識もろとも落城していった。そして、米酒を飲んテンションマックスになって騒ぎだす咲妃たちの笑い声を遠のいていく意識の中で聞いた。
「ん、んうー……あれ、俺寝ていたのか? てか、今何時だ」
スリープモードに切り替わっていたタブPCの画面をスライドさせて現時刻を確認した。
「十七時四十六分か。えーっと、酒飲んだのが確か十四時ぐらいだったから三時間弱爆睡してたのか。つうかノンアルで酔い潰れるとかマジありえないし……。てかこれホントにノンアルか?
いつの間にか空になっていた酒ビンを手に取りラベルをじっくり見ていると、ノンアルのところだけあとから付け加えらた感が出ていた。
「おーやーじ―!! イタズラ? にしては許せれない問題だぞこれー!」
絶対親父が帰って来たときには文句の一つや二つは言ってやる! あ、でも前に『俺も昔、高校生の時から普通に酒飲んでいたから大丈夫大丈夫』って言ってたっけ。
まあ十分問題だけど。
それより、こいつらも疲れて寝ちまったんだな。夕食はピザでもとるとして、あー……気分わりぃー……! 風にでも当たろ。
ふらつく足取りで立ち上がった俺は、リビングを出て縁側の戸を開けて、夕暮れ時に吹く冷たい風を浴びた。
「あー気持ちいいー生き返る」
緋色に染まりくる空と山の方から聞こえて来るひぐらしの鳴き声に耳を傾け、ふぅー……とため息一つついて外に足を出してぶらぶらとバタつかせたていると。
『十六夜くん、あの……隣いいかな?』
と、さっきまでリビングの方で寝ていたはずの白星さんがやってきた。
「おう、構わないよ」
「ありがとうっ」
そういって白星さんは、ちょっこんと俺の隣に座った。
こうして彼女を近くで見つめるとホント小さいなー。アリスと同じぐらいかな? 傍から見れば中学生、いや、小学六年生? もしくはそれより下と思われるんじゃないか?
「白星さん、疲れてたりしない?」
「大丈夫だよ♪ さっきぐっすり眠っちゃったからさ。それに……ね。わたし、まだあの時のお礼をしてなかったからさ。今、ここでしてもいい?」
「お礼? お礼ならもう貰って――!?」
白星さんの方を瞬間、彼女は俺の両頬に手を添えて幼さを感じる小さく軟らかいくちびるを近づけてきた。そして、俺のくちびると重なった。
キスする時は目を閉じるのが作法であるが、突然のことで俺は閉じるのを忘れてしまった。
くちびるを通じで伝わってくる彼女の体温と緊張。
そして、ほのかに頬は赤く染まっておりつぶらな瞳は涙で潤っていた。
「あ、あの白星さん……これは?」
「その、わたしなりのお礼……だよ。もしかして、いや……だった?」
「別にいやじゃないけど……その、白星さんのファーストキス貰っちゃって悪い気がして……」
「も、問題ないよ! わたしのファーストキス、お姉ちゃんだったから……。あ、でも異性は十六夜くんが初めて……」
うわぁぁぁあ! 俺はなんてことをしてしまったんだ! いくらお礼とはいえ、彼女のファーストキス(異性に対しての)をもらってしまうなんて! くそー……教会に行って懺悔した気分だ。
「でも、これはわたしの意志でやったことだからお咎めなしだよ!」
「白星さん……。そういってもらえるとうれしいかも。さて、皆おこしてピザ頼むか。そして、ケーキ食おうぜ」
「うんっ♪」
二人して立ち上がった俺と白星さんは、戸を閉めてリビングへと戻った。
戻ると、大きなあくびをする咲妃と俊。グラスに水を注いで乾いたのどを潤すユキとアリス。そして、白星さんと間違えて氷空とアリスに抱きつくとおりんさんたちの姿があった。
俺は起きている人たちに夕食はピザをとると言って割り勘で資金を集金して、Lサイズのピザを四枚注文した。
ちいさな町である雛乃町でも商店街の通りにちいさな支店があるから、決して配達圏外ではない。
三十分ほど時間が経った頃に注文したピザLサイズ四枚が届き、匂いにつられてなのかタイミングよく寝ていた三人が起き、本日最後のパーティが開幕した。
そして、食後は白星さんが作ってきてくれた二段もののショートケーキをデザートに食べた。
本人いわく『かなり気合入れて作ったんだよ』って、無い胸を反らしてエッヘンと威張った姿は可愛らしく、とおりんさんがスマホのカメラを連射してたっけ。
えらく盛り上がったパーティも二十一時をもって幕を閉じた。
その日は、アリスが記している日記にはこう書かれていた。
『楽しいパーティをありがとうございます! 咲妃さん、神夜さん、ユキさん、俊さん、氷空さん、ルナさん、とおりんさん、ミチルさん♪ わたし、この世界で皆さんに逢えたことがとっても幸せです。これからもよろしくお願いいたしますっ♪』っと。




