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2.5次元の狭間にて  作者: 黒覇 媄兎
第3章 ソードダンス・ウエディング
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第5クエスト ソードダンス・ウエディング

 あれ? ここはどこだ? 真っ暗な空間……見覚えのあるところだ。

 降下しているのか滞空しているのか重力感覚が今一つつかめない空間に俺は一人身を委ねていた。

 確か俺、国を脱出してユキ達が乗っている馬車に乗り移ってそれで……。

『突然の魔力解放に身体がついていけずに気を失ったんだよ!』

 声がした方を振り向くとカツカツっと重力が不安定なこの空間内で靴音を鳴らしながら漆黒のロングコートを羽織った俺が歩いてきた。

「お、俺……だよな?」

「たりめーだろ! 俺以外に誰がいるっていんだ!」

「だ、だよな。で、お前は何もんだ?」

「安直に言うと俺はお前で、お前は俺だ」

「ホント安直だな。さて裏世界の俺と呼称させてもらうが、率直に問う。俺は生きてんのか?」

「――なんだそんなことか! お前はちゃんと生きてるよ。そこは安心しろ。それに今お前の肉体は“ヘブンス・ドア”聖王十字軍の医務室で眠っているよ。治療は全てユキとアリスの二人がやってくれたみたいだし。ほら、さっさと起きて礼でも言ってやれ。出口はあっちだ」

 裏世界の俺は真っ暗なこの世界を照らす青白い月日のような光を指差した。

「そうか。ありがとよ」

「いいよ。あーそれと表世界の俺。別れる前に一つ言いたいがー……またの機会でいいや」

「そうかい。んじゃ、またな裏世界の俺」

 俺は光に手を伸ばしそのまま光の中に我が身を委ねた。



 ――“ヘブンス・ドア”ギルド会館・聖王十字軍直属の医務室――


 真っ暗な世界の青白い光に導かれるがままに手を伸ばしているうちに薄らと見慣れた白い天井が見えてきた。窓からは緋色の夕緋が差し込んでいた。

 裏世界の俺が言った通り俺は聖王十字軍の医務室で眠っていたらしい。

「! 神夜! よかったもう二日も寝込んでいたから」

 俺が起きたことに気付いたユキが話しかけてきた。彼女の瞳は薄らと涙で潤っていた。

「……そんなに寝てたのか俺は」

「うん。回復魔法をアリスと交代しながらしたからたぶん、痛みはないと思うけど」

「そうか、それはありがたい。ところでアリスたちは?」

「今ディフロト団長のところに今回の報告をしに行ってるよ」

「それ、俺が寝ていた二日の間にもできたことじゃないのか?」

「二日間ずっと神夜が起こした事件の始末書の片付け。ホント大変だったんだからね」

「そりゃすまなかったね。その埋め合わせはいつか精神的に。……あ、すまないメッセ入った」

 半身を起して俺は視界の右上に表示された新着メッセのアイコンに触れ送られてきたメッセージに目を通した。

 送り主は咲妃からだった。

『具合の方は大丈夫神夜? 起きて早々悪いけど今夜十九時、王宮にある大神殿の祭壇で待ってる。あと、これだけは約束して。絶対に一人で来るって』

 との内容か。

 王宮の大神殿。まだ俺行ったことないのに咲妃の奴、なんでそんな場所を指定したんだ?あそこは確か宗教団体がミサをやるときとか、葬儀とか、あとは一部の富豪が結婚式に使うぐらいだぞ。それをよくもまあ貸し切ったな。

「ユキ。俺ちょっと出かけて来るわ」

「? 出るってどこかいくの? もうすぐ俊たちが帰ってくるのに」

「まあちょっとそこまでな。なーにすぐ戻るさ」

 ベッドから下りた俺はコンソールを開き自分の装備項目を操作し病人服から燕尾服『バトラーテイルコート』に着替え病室をでた。

 時刻は十八時を過ぎた頃、約束の時間まで一時間を切ったしすこし急ぐか。

 身体に痛みはない。多少暴れることになっても支障はないだろう。

 ギルド会館の廊下を小走りで突き進み会館外へと出た。

 街中は依頼を終えた冒険者たちが意気揚々とした笑顔で語り合いながら大衆酒場、ギルド会館へと向かっていくのを通りがけに見た。

 依頼をこなせば経験値が培われ自分自身のレベルが上がる。これはどんなゲームでも同じことだ。アリスが言うようにこの世界はオンラインゲーム“SOW”と類似した世界。ならば、ゲーム同様に自身のレベルも上がる。通りがけに見たあの冒険者たちも依頼をこなしたからレベルが上がってうれしかったのだろう。

 でも一つ疑問が残る。俺自身のステータス数値は見た限りゲーム時のアバター夜神の数値、それと俺自身の運動能力が上乗せされた数値で表示されている。それは咲妃やユキ達も同様だ。それでもレベルだけが表示されていない。

 この点だけがゲームとこの世界が類似であるというところだ。

 アバターのレベルは各々覚えている。俺の夜神は運営が設定しているレベル一五〇に達している。なら、彼らは自分のレベルがいくつなのかわかっているのかその点は謎だな。

 今度アリスに詳しく聞いてみるか。

 ふと、思った疑問を脳内にいく人もの自分を呼び議論し合っている間に北西に位置する大神殿に到着した。

 教会というより、一つの城……いや、洋館と言ったほうがいいだろう。マップで上空から見てもかなりの敷地面積を持っているな。大神殿のシンボルともいえる時計台は天を突く一本の槍のように高くそびえていた。

約束の時間まではあと十分はあるが、敷地が広すぎだから祭壇まで少し時間が掛かるだろう。ならもう行くしかないか。

巨人族が悠々と入れるぐらいの大きさを誇る大扉をこじ開け教会内に入った。

大扉を開けた先に広がるのはヨーロッパにあるベルサイユ宮殿を思わせるような壁画の描かれた長い廊下。どうやら祭壇がある礼拝堂までは距離がありそうだ。

緋色の光から青白い月光が廊下に飾られたステンドガラスから差し込み薄暗い廊下を照らすその中を、俺は走り抜ける。

走ること数分。俺は大神殿礼拝堂に通じると思われる大扉の前に立った。

コンソールを開いたときに出る時計を見る限り、約束の時間には十分に間に合ったと咲妃に胸を張って言えるはずだ。

 扉に手を添えた俺は力をグッと込め重たい扉を開けた。

 扉が開くと、空に昇った月が大神殿祭壇に飾られたステンドガラスから青白い光が漏れ祭壇へと続く赤じゅうたんを照らしており、祭壇上では動きやすさを重視したミニスカートの純白のウエディングドレスを着た咲妃が祭壇で待っていた。そして、手には鞘から抜かれた細剣“グランツ・ティア”が握られていた。

「やっときた! 遅かったじゃない神夜!」

「約束の時間には十分間に合ったと思うぞ咲妃! それでこんな神聖なところに俺を呼んで何を始める気だ?」

「……神夜これ受け取って」

「木刀? それも黒太刀に似せて作られた模擬刀か」

 ストレージから実体化(ドロップ)させた黒太刀の木刀を手にした咲妃は俺に投げ渡してきた。

「こいつは退院祝いってやつ――!?」

 模擬刀を手にした瞬間、祭壇にいたはずの咲妃が一瞬にして俺の眼前に現れ容赦のない瞳で俺を見据えてレイピアを突いてきた。

 完璧たる不意をつかれた俺は黒太刀で受け流そうとはせず身をそらしてレイピアによる突きをかわし後ろに下がった。

「ちょッ! 危ねえじゃないか咲妃! お前ダークサイドにでも堕ちたか!?」

「堕ちてないわ。ねえ神夜退院していきなりで悪いんだけどあたしとガチで決闘して」

「け、決闘!? おいおい何かのジョーダンかよ」

「ジョーダンだったらこんなことしないわよ。それにあたしが今手にしているのはレイピアの模擬刀よ。二日前に武器屋に頼んで作ってもらったの」

「……そうかい。しゃあない。病み上がりだがその決闘受けてやるよ。だが、その前にルールを決めようぜ。基本的にソードスキル、魔法の使用は禁止な。あとは……」

「『どちらかがリザインというまでやり続ける』 この三つにしない?」

「いいぜ。その三つで。んじゃさっそく――」

「まって神夜! 始める前にこの決闘に名前つけたいの! いいかな?」

「いいけどなんてつけるのかもう決めているのか?」

「うん、もう決めてるの。その……ね。場所もそうだし、あたしの服装はウエディングドレス。それに伝えてもないのに神夜はタキシード着てきてくれるからこの決闘のタイトルは……『ソードダンス・ウエディング』でいいかしら?」

「『ソードダンス・ウエディング』 ……いいんじゃないか? それじゃあ神殿の破壊を防ぐため “固有結界”を張らせてもらうぜ」

 床に手をつけた俺は大神殿全体に結界を張り、此処一帯を別の空間として切り離し木刀を構えた。

「じゃあ始めようか神夜」

「あぁ。本気でいくぞ咲妃ッ!」

 柄を強く握りしめた俺は床を蹴り上げ木刀を咲妃の眼下から切り上げる。眼下からの斬撃を咲妃は見切り後ろに下がりレイピア型の木刀を突いてくる。

 木刀とはいえ本物と同様に作られた細剣の剣先が大気を射抜き俺の胸骨目掛け進んでいく。右手に持つ黒太刀を模様した木刀で払い除けたいが間に合わないと悟り、俺は左手を胸骨前にかざし身を守った。

 刃物じゃないから手を貫くことはなかった。だが、皮膚などたやすく貫けるのではないかというにぶい痛みが走り後ろに押される。

 なんて力だ……こないだよりも格段にレベルアップしてないか?

 咲妃から距離をとった俺は左手の平に負った傷を見て咲妃の力量を図った。

 これは早々にリザインって言わせられないかもな!

 左手の平からじわりと滲み出る血を舌で止血し、再度木刀を握りしめ大気を裂くほどの力で薙ぎ払った。

 薙ぎ払いだけで神殿内は地震が来たかのように大きく揺れ大気を震わせた。

「っ! 神夜あんたまだ本気、出してないでしょ!」

 斬撃波を受け流した咲妃は瞬時に俺との間合いを詰め上げ構えていたレイピアを残像が残るほどのスピードで振るう。

「少なくとも俺は本気だよ!」

 目で追うのがやっとともいえるレイピアの突きを同じスピードで木刀を振るい受け流していく。

 一瞬でも判断ミスをすればやられる! 

 リザイン以外でも勝負を決めることはできるなら!

 目で縦横無尽に飛び交うレイピアの剣先が眼前に迫ったところを狙って俺は右脚を軸にして身体をひねり射程外に交わした。そして木刀を構えレイピアの刀身を狙いに行くが。

「武器破壊で決着をつけようなんて考えが甘いよ神夜!」

 戦術を読まれ勝ち逃げなんて許さないと言わんばかりに咲妃も木刀の刀身目掛けレイピアを突いた。

 そして、レイピアと木刀が接触するや否、レイピアから繰り出された突きが一瞬早く木刀の刀身を捕え刀身にヒビを入れていくも、上から圧し掛かる木刀の勢いに押されレイピアの刀身にも亀裂が走り両者ともに武器の刀身が破壊され相打ちとなった。

 俺と咲妃の手から青い光の粒子となって武器が消え、二人して丸腰の状態になった。

「あーあー壊れちった。どうする? 続ける?」

「――もちろん続けるわよ。ただし次は本物でよ! もう魔法もスキルも使用可にしよう!」

 ストレージから『グランツ・ティア』をドロップした咲妃は早々に鞘から抜刀しその美しい白銀の刀身を晒し、指先に返し刃の付いた籠手を装備した。

「決着はリザインのみか。いいぜ咲妃! ケガしても俺は一切責任取らないからな!」

 咲妃が出した条件に乗っ取り俺もストレージから黒太刀『黒桜龍・劫火』をドロップし、鞘から抜刀し剣先を床に突き刺し。

「やる気は十分みたいね。じゃあ始めようか」

「「――魔力、解放ーッ!」」

 体内に秘める膨大な魔力を体外に放出させ使用可能にし、床に刺した黒太刀を抜き取り構え魔力を黒太刀に注ぐ。

 俺の魔力に反応し黒太刀の刀身に紅き焔が宿った。

「いくぜ、咲妃!」

 床を力強く蹴り上げ瞬時に咲妃との間合いを詰め上げ右から横に薙ぎ払いにいくが、返し刃の付いた籠手を左手に装備している咲妃は、斬撃を受け止めレイピアで突いてきた。

「! 魔力硬化!」

 とっさに左手を魔力で硬化させ突いてきたレイピアの刀身を掴みとった。

 俺は咲妃みたいに鋼級の硬さを持った装甲を装備していない。理由は単純で明確そのもの。動きが鈍くなるからだ。

 だから今回のように黒太刀で防御が間に合わない場合はこうして魔力硬化で身を守るようにしている。

「もうちょっとだったのに」

「そう簡単に終わらせるわけには行かないのでね!」

 レイピアの刀身を後ろに押しやり咲妃の体勢を崩し、自身の体勢を立て直し左人差し指を突きだし。

火炎魔法(フレム・マジック)超高圧熱線(プロメテウス)”!」

 魔力を指先一転に集め赤い魔法陣を召喚し摂氏何千度はある熱線を放射する。熱線は指先に召喚した魔法陣から一直線に飛びかい体勢を崩した咲妃目掛け飛んで行く。

水冷魔法(アクア・マジック) “水壁”」

 体勢を立て直そうにもできないと判断した咲妃は細剣を横振りし空気中の水蒸気を集めて分厚い水の壁を造った。そして、熱線が水壁に衝突した瞬間、熱風ともいえる水蒸気が全方位に広がり視界を奪う。

 またこのパターンか。

 前回は索敵を張る前に咲妃に先手を討たれたからな。今回ばかりは俺から討たせてもらうぜ!

 水蒸気の中から脱した俺は黒太刀を構え力任せに薙ぎ払って斬撃波を巻き起こした。

 木刀とは一味も二味も違い、水蒸気は一掃され固有結界が張られているのにかかわらず神殿内が大きく揺れスタンドガラスが次々と割れていき床がめくれ上がる。

 そして動き回っていた咲妃を発見し、もう一度俺は黒太刀を構え直して空を薙ぎ払った。

 黒太刀によって斬られた大気はかまいたちと化して大気を斬り裂いて進んでいき障害となりうる並べられた長椅子は豆腐のようにバラバラに斬り刻んで咲妃目掛け進んでいく。

「――フィールド展開!」

 咲妃はかまいたちを喰らう寸前に左手を突きだし半透明の障壁を召喚して身を守り、かまいたちが止んだ瞬間レイピアを構え神夜との間合いを詰め上げた。

斬撃剣技(アタック・オン・ソードスキル) “海王の神槍(ポセイドン)”っ!」

 手にしていた『グランツ・ティア』は三つ又の槍と姿を変えた。咲妃は神槍を両手持ちに切り替えて構え矛先を向け勢いよく突いた。

「もう決着をつける気か咲妃ー!? いいぜーノッた! 斬撃剣技(アタック・オン・ソードスキル)焔獄超終(ヘルフレム・オーバーエンド)”」

 黒太刀の柄を両手で持ち体外に放出している魔力を黒太刀にありったけ注ぎ込み黒太刀は劫火を纏いし大剣へと姿を変えた。

「神夜ーッ!」

「咲妃―ッ!」

「「――覚悟しやがれーッ!!」」

 右足が地に沈むくらい踏ん張った俺は『咲妃を斬る』という気持ちを抱き大剣と化した黒太刀を振るった。

 それぞれの募る思いを抱いた水冷の加護を受け海王の神槍と化したレイピア、焔の加護を受け紅き劫火を纏った大剣と化した黒太刀が激しくぶつかり合い、耳を劈くほどの金属音が響き渡り衝撃波が巻き起こった。

 両者一歩も引かず力の差は五分五分と言ったところだ。

「負けない! 神夜には絶対に負けない! ――ハァ――ッ!」

 両手で柄を握りしめた咲妃は体内に秘めた魔力をレイピアに注ぎ込み力の増幅を図った。

「俺だって……負けるわけには行かねえんだよーッ!! 全てを焼き尽くせ黒太刀ーッ!」

 声を上げ自身の魔力を黒太刀に注ぐと同時に大剣に纏った劫火は紅く燃え盛り、焔を弱体する水冷の加護を無力化していき神槍と化したレイピアを押しのけ天井に打ち上げた。

「くっ! ま、まだあたしは負けたなんか!」

 神槍をレイピアに戻した咲妃は天井にぶつかりそうになる寸善に体勢を立て直し天井を蹴り上げ地上にいる神夜目掛け突進するも。

「わりいな咲妃。この決闘俺の勝ちだ」

 天井を蹴り上げて落下してくる咲妃の背後に回り込んだ俺は咲妃の耳元で勝利宣言を呟き太刀の姿に戻った黒太刀を咲妃の頭上から振り降ろし祭壇に叩き落とした。

 とっさに咲妃は左籠手にレイピアの刀身を這わせて防御に転じたが、黒太刀の斬撃の勢いまでは押し殺すことまではできなかった。

「……ま、まだ……まだ終ってー……」

「往生際が悪いぜ咲妃。この決闘は俺の勝ちだ」

 瓦礫と化した祭壇を吹き飛ばした咲妃はレイピアを杖代わりにして立ち上がったが、俺は黒太刀を咲妃の眼前に突きだし『リザイン』するよう念じた。

「……そうね。この勝負あんたの勝ちよ神夜。――リザイン!」

 咲妃の口からリザインの言葉が発せられた瞬間、大神殿を覆っていた固有結界は解かれ決闘中に破損した長椅子や床、祭壇は修復され決闘なんてなかったかのように思わせるほどの修復力を見せた。

 黒太刀を鞘に納めた俺は咲妃の隣に腰かけ、ンっと背伸びした。

「あー……疲れた」

「親父臭いよ神夜。……やっぱり神夜は強いわね……最後の一撃、まともに喰らってたらあたし死んでいたわよ」

「わ、悪かったよ咲妃! 俺そんなつもりじゃ――!」

「知ってる♪ それにあたしね、うれしいの。こうして神夜とまた本気で剣を交えることができて」

「それは光栄だ。そう咲妃に喜んでもらえるなんてな」

「そうだよ。最初は中体連あとの部内での引退試合決勝戦。そしてさっきの決闘『ウェディング・ソードダンス』で二度目」

「ん? ラッテでの決闘は入れないのか?」

「あれは神夜本気出してなかったからノーカウントだよ!」

「そう。少なくとも俺は本気だったけどな。まあ咲妃がそういうんじゃそれでいいか」

「それでいいの♪」

 二人して顔を見合わせた途端、自然と笑いが込み上げてきた。俺と咲妃の笑い声が神殿内響き渡る最中、バンッ! と勢いよく扉を開けて黒ローブを着込んだ魔導師が入ってきた。

「やっと……やっと見つけたよ神夜! 咲妃!」

「ユ、ユキ! な、なんで俺たちの居場所分かったんだよ!」

 魔導師改め、ユキは俺たち二人の名を大声で叫んでズカズカと歩み寄ってきた。

「もう神夜は病み上がりなのに咲妃! 神夜と何してたの!」

「あ、あたしはその……け、決闘を―……」

「決闘……。はぁ……こんなのが学年次席だなんて目まいがしてくるわ。いい少しは神夜のことも気遣ってあげてよね」

「はいはい。ユキって神夜に少し過保護過ぎない?」

「か、過保護じゃないわよ! 私はただ神夜のことを気遣ってそういってるだけで……」

 目をそらしブツブツと小言を呟くユキの頬をほのかに赤く染まっていた。

「あ、いましたいました~♪ もうユキさん一人先にいっちゃダメですぅにゃー!」

 少し遅れてアリスと俊もこの大神殿にやってきたのはいいが、祭壇を上がっている途中アリスは自分の足に結まづき目の前にいたユキの背を押してしまった。

「えっ? ちょっアリス!」

「ユキ! 危ない!」

 とっさに俺はユキをかばいに行くもユキに両肩を押され俺も一緒に倒れる形とり。ガンッ! と後頭部から勢いよく倒れた。

 後頭部の痛みに悶絶すること数秒。俺は目を開けると眼前には潤んだ瞳が目の前にあった。長いまつげ、きめの細かい肌に艶のあるボブカットの白髪。そして、俺の唇に軟らかい感触が当たっていることに気付いた。


 ユキの唇だ……。


 ベタな展開だ。倒れそうになった女の子を救おうとして行動した男の子も一緒に倒れてしまい彼女を床との衝突から救ったのはいいが、彼の眼前には彼女の顔があってそしてキスしてしまった。

 ユキは慌てて顔をあげ、赤く染まった顔を両手で隠して

「か、神夜……その……ごめんなさいっ!」

 と一言言って駆け足で大神殿を出て行った。

「か~み~や~! あんた神の御前で何してるのよー!」

 怒りに満ち溢れた咲妃は指をパキポキと鳴らしながら起き上った俺に歩み寄ってきた。

「ち、違うぞ! 咲妃! こ、これはあれだ! 事故! そう事故なんだ!」

「いいわけ無用よ!」

「ま、まて! まて咲妃! 話せばわか――!」

 魔力で右手を硬化させた咲妃の平手が俺のほおに襲い掛かり、断末魔という雄叫びとともに俺は周歩廊まで殴り飛ばされ再び意識を失った。


          *


「やっちゃった……やっちゃった……やっちゃった……やっちゃった……やっちゃった……。私、神夜と……キ、キキキス……しちゃった……!」

 真っ黒のキャンパス上を点々とした星々が彩る夜の空下。一足先に神殿から出たユキは高鳴る胸の鼓動を沈めようと幾度と深呼吸して神殿内で起きたハプニングを忘れようとするも、何度もあのシーンが繰り返し脳内で再生され忘れようにも忘れることができずにいた。

「も、もう……どうしてあーなったのよ……。まだ告白もしてないのに……キ、キスからしちゃうなんて……」

 悶々とする自分の頭をポカポカと叩いてユキは邪念を掃った。



 翌日。

 大神殿を決闘で使用したことが聖王十字軍にバレた咲妃と神夜は大量の始末書に追われお上からキツク説教され、二人のモチベーションは底辺まで下がったままその日の夕方。俺たちは“スカイ・グランド”に転移しこの世界と俺たちが還るべき世界を繋ぐ門を開き現実世界に帰還した。


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