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2.5次元の狭間にて  作者: 黒覇 媄兎
第3章 ソードダンス・ウエディング
21/32

第4クエスト 終焉を笑う者

――“ラッテ・イストワール中央街”――


「――! 神夜? ウソ……だよね? なんで、なんであたしなんかのために必死に……」

 神夜が発動した転移魔法で城から無事に抜け出せた咲妃は、薄暗い宿屋の一室に転移した。

「もうやだよ……これ以上友人が傷つくのなんて見たくない……」

 自分の両腕をギュッと抱き寄せて身を縮めた咲妃の瞳から大粒の涙が溢れ、乾いた床の上に落ちる。

「でも、いつまでもこうしているわけにはいかない……早く神夜のもとに――!」

 涙を白のグローブで拭った咲妃は、立ち上がって扉を開け薄暗い部屋の中を歩いて外へと続く扉を開けた途端、黒のローブ姿の三人組と鉢合わせとなり腰を抜かした。

「だ、誰なの、あんたたちは―!」

「誰って……ひでーな咲妃は。俺だよ俊だよ。それにアリスもユキもいるぜ」

 黒のローブのフードを脱いで素顔を晒したのは、リアの屋敷から帰還したユキたちだった。

 三人と逢えた咲妃はほっと安堵のため息をついて胸を撫で下ろした。

「咲妃さん! ケガは無いですか? それとどこか痛いところは?」

「だ、大丈夫だよアリス。心配してくれてありがとう」

「でもよかった咲妃が無事で。ところで神夜は?」

「…………」

 ユキからの質問に咲妃はうんともすんとも言わず、ただ口を紡いで下を向いた。

「ねえ神夜はどこなの? 答えて咲妃!」

「ちょ! 落ち着けユキ! なあ咲妃、神夜はどこにいるんだ? あいつからのメッセじゃ全員集合のはずだろ?」

 冷静さを失ったユキを俊が宥める。ユキに代わって俊が改まって咲妃に問う。

「……神夜は……今城のほうで衛兵たちを倒しているけど……たぶんもう、捕まって収監されていると思う……」

「収監か……。アリスこの国の地図はあるか?」

「今地図を広げましたけど、監獄らしき建物はありません。でも確か闘技場がありましたのでわたしの推測だとたぶんそこじゃないかと」

「闘技場。あたし行ってく――!」

「まって咲妃! 今のあなたに何ができるの? 魔法も剣技も使えないあなたが行っても犬死するだけよ」

「じゃあ……どうしろっていうのよ! ユキ達ならできるっていうの!? えぇそうね! 今のあたしは魔法は愚か武器を持つことすらできないただ皮肉な人間よ! ユキ達について行っても足を引っ張るだけ! 魔法が使えて武器が持てるユキ様達の力なら神夜を助け出すことだって――!」

「っ!」

 パーンッ! と張りつめた空気を一気に凍てつかせるような音が部屋中に響き渡った。

「……。ッ! な、何する――!」

「バカ言わないでよ……咲妃。あんたは私たちを過剰評価しすぎてる。私たちの力をもってしても無理なことだってあるの。だからお願い! 咲妃も一緒に来て!」

「今あたしが行っても……」

「うんん。咲妃は力を取り戻すよ。この結晶にそのすべてが……」

 アイテムストレージから空色の結晶を取り出した途端、ユキの身体は天から吊るされた糸が切れたかのようにバタリと床に静かに倒れた。

「ユ、ユキ大丈夫?」

 突然のことに困惑する咲妃はゆさゆさと横になったユキの身体を揺さぶった。

「ん……脈はあるか。たぶん魔力切れか疲労だろう。俺、ユキをベッドまで寝かせてくるからアリス後のことは頼んでいいか?」

「はい、構いませんよ。俊さんも身体に気を付けてくださいね。あーそれと寝ているユキさんに変なことしちゃダメですよ」

「分かってるよ! じゃああとは任せた」

 ユキを抱えた俊はユキが寝室として使っている部屋へと向かった。

(……ユキが出したこの結晶があたしを呼んでる気がする)

 床に転がった結晶に咲妃が振れた途端に結晶が強い光を放った。

 その光は見ている者すべてを青色に染まった大海の中へと引きずり込むような錯覚を感じさせた。

「い、いったいなんなのよこの現象はー!? なんであたし海の中に!」

「落ち着いてください! これはただの幻覚です!」

「……アリスこれ幻覚じゃないよ。あたし感じるの。強い力。この世の全てを沈められる水の力。あたしこの力を使って神夜を助けたい! そしてまた皆といつもの日常をおくりたい!」

 咲妃の想いに応えるかのように大海の力を持った咲妃の魔力が全て咲妃の体内に吸収され視界に映る景色は月明かりが差し込む薄暗い寝室に戻っていた。

「……戻ってきたのですか?」

「そうみたいね。それに……」

 グッと右手を握りしめ差し押さえの呪いが完全に解かれ本来の力を取り戻したことを実感する。

「力も戻った。これで武器も魔法も使え―……る……」

 急激な力を身体に取り戻した反動で立ちくらみが生じパタリと咲妃の身体は冷たい床の上に倒れた。


           *


 ――“ラッテ・イストワール” イストーリア城・地下監獄――


 ここはどこだ……?

 鼻をつくようなカビ臭くて血生臭い空間とこの湿った空気。

例の地下監獄って奴か?

両足に枷……それに両腕の感覚もほとんどない。

 手首に繋げられた枷と短い鎖が両腕を湿った壁に縛り付けられ、その場から一歩たりとも動かせてはくれない。


『おやおや。やっとお目覚めか』


 ぼやける視界の先で声がしたほうを向くとカンテラと曲刀を腰にぶら下げた軍服の男が二人立っていた。

「……」

「まだ状況が読めてはいないようだな。いいだろう説明してやる。ここはイストーリア城の地下に設けられた地下監獄だ。貴様は今、国王殺しの大罪で両足の足枷と両手を縛らせて監禁している。日が昇るまでまだ時間はある。日が昇ったら貴様を王立裁判所まで連行し法の裁きを受けてもらう。ま、どうせ極刑は免れないだろうがな」

 カンテラを手にしていた男は大声で笑いながら去って行った。

 法の裁き……か。

 まさか十代で罪を背負うことになるなんてな。

 それよりもユキたちが心配だ。

 あいつら、無事に咲妃にかけられた呪いを解いてくれたかな? 

 リアを倒した時咲妃にかけられた呪いが解けるかと思ったが解けなかったからもしかしてと思って屋敷にいるユキ達に依頼しといたから難なくこなしてくれたはずだ。

 咲妃にかけられた呪いが解けてればいいな。

 ふぅ―……と深く息を吐き捨て明日俺に下される法の裁きがを待つことにした。


           *


 ――“ラッテ・イストワール”中央街――


 翌朝。

 激闘の咲妃救出から半日が立ち、宿のリビングではアリスお手製の朝食を咲妃たちは食べていた。

 重い空気が部屋中を漂う。

 本来なら咲妃とともに神夜もこの席に在籍していたはずだった。

 なのに彼は自らを犠牲にしてまで咲妃を城から脱出させて城の兵士と戦うことを選び注意を自分に向けた。

「……なんか空気重いね」

「神夜がいないからじゃねえのかー」

「そー……ですね。にしてもなんか外が騒がしくないですか?」

「確かに。なんかあったのかな?」

 外の騒ぎが気になったユキは窓を開けて下を見て現状を認識しようとした。

「新聞? にしては紙切れ一枚に見えるから号外かな? あ、一枚落ちてきた」

 屋上からヒラヒラと落ちてきた紙切れを手にしたユキは記事に目を通した途端、口を押えクシャリと紙を握りつぶし手から離した。

「お? ユキーその紙に何が書かれてたんだー?」

 床に落ちた紙を拾い上げた俊はしわを伸ばし記載を読んだ。

「おいおい……これはマジかよ。『新国王リア・グリモワールが死亡。犯人と思われる男をその場で取り押さえ地下監獄に収監。極刑は確実。明日正午、闘技場にて刑を執行す』だってよ」

「……ねえアリス。この世界で死刑に用いられる刑具って何?」

「国によって違いますよ。電気刑だったり絞首刑だったりいろいろ。もっとも古いので断頭刑ですかね」

「神夜……神夜が殺される……。新王殺害の罪で! ねえ早く助けに行こう! アリス、ユキ! 今すぐ地下監獄の場所を調べて! “サーチ・アクセス”を使って!」

「……」

「どうしたのよユキ! なんで発動してくれないの!?」

「ごめんなさい、咲妃……。今朝“サーチ・アクセス”を使って神夜のいる座標を割り出そうとしたの。でも確認できなかった。彼の魔力の反応はなかったわ」

「そんな……」

 ガクッ咲妃は膝から崩れ落ち床に手をつき落胆する。

「で、でも! まだ神夜が死んだってわけじゃない。咲妃は見たんでしょ? 目の前でリアが倒されるのを?」

「うん……見たよ」

「だったら神夜はまだ生きている。この男のことってのは絶対に神夜のこと。なら刑が執行されるのは明日の正午。それまでに助け出せばいい」

「ユキ……そうだよね。あたし何落胆してたんだろう」

 我に返った咲妃は立ち上がり目じりから今にも零れそうな涙を拭きあげる。

「それで今日はどうするんですか? もう一度索敵をかけてみますか?」

「ううん。今日はまだ全員の魔力が完全回復したわけじゃないからやれることをやろう。俊って確か地理は得意だったっけ?」

「俺の数少ない得意科目だしな。なら脱出ルートの確保だな。任せとけ」

「あ、あのユキさん。わたしは闘技場のほうに行ってきます。微量の魔力で作れる魔糸なら立体移動も可能ですので転移しなくても闘技場の偵察に行けます」

「じゃあお願い。くれぐれも無理だけはしないでね」

「はいっ!」

 返事をしたアリスと俊は迷彩マントを羽織って不可視状態となって部屋を出ていった。

 部屋の残ったのは咲妃とユキの二人だけだ。

 自然と空気が重くなってきた。

「あ、あのさーユキ。昨日はーその……強く当たっちゃってごめん……」

「いいわ気にしてないから。それにこちらこそごめんなさい。血が頭に上っちゃってつい手が出ちゃったわ」

「ユキ……ねえあたしにできる仕事あるかなー……。あたしは俊と違って地理把握能力は乏しし、神夜みたいに空を飛べるわけでもない。力は戻ってもまだ完全じゃない。あたしみんなの足引っ張って……」

「咲妃。考え方が後ろになってる」

 だんだんネガティブ思考に堕ちいてきた咲妃の両肩を握ったユキは咲妃を元気づけた。

「ユキ……」

「大丈夫。咲妃は足引っ張ってないよ。咲妃には咲妃にしかできない仕事があるの。でも今はその時じゃない。時が来たらきっちり仕事してもらうから覚悟してて」

「うん……ありがとうユキ」

 元気づけてくれたユキをギュッと咲妃は抱きしめた。


           *


 宿屋正面玄関で俊と別れたアリスは、指にはめた指輪の魔法石から自身の魔力から精製できる魔糸を正面に聳える建物目掛け飛ばしひっかけ一気に引き戻して体を浮かせて移動始めた。

 魔糸をひっかけた建物の屋上に着いたアリスは何食わぬ顔で闘技場を目指して走り出した。

 中央街は依然として新国王になったばかりのリアが死んだことに疑問を持つ者が多数おり下からは『なぜ彼が死ななければいけないのか!』『王国転覆をはかった旧国王派の者の仕業だ』などと考えるやからまで現れ始めた。

 闘技場までおよそ百メートル地点まで近づいたアリスは右手を前に突き出し魔法石から魔糸を闘技場最上部に飛ばして飛び移った。

 闘技場にたどり着いたアリスはポーチから一眼鏡を取り出し可視可能能力を持った者がいないか確かめてから闘技場中央にそびえ立った断頭台に目をやった。

 そこでは死刑囚と思われる人たちが死刑の執行、あるいは刑具の調整として利用されており囚人はもがきながらその場から離れようとしていた。

 しかしそれを看守は許そうとはしなかった。

 囚人の両手に付けられた枷の鎖を引っ張って涙ぐんで逃げたがる囚人を断頭台に上げては首を固定され問答無用で刃の固定具が外され囚人の首めがけ刃が落ち斬首された。

 その瞬間を見るに堪えないアリスは目をつぶってみて見ぬふりをした。しかし、残酷な光景を始めて目の当たりにしたアリスは見て見ぬふりをしてもつい闘技場中央の断頭台に目をやると首の固定具にはべっとりと着いた生々しい真紅の血が滴っていた。

「――ッ!」

 見るに堪えないと思ったアリスはすぐにその場を離れ別の建物に飛び移って乱れ始めた呼吸を元にもどそうとした。

「な、なんて光景ですか……。こんな……残酷なやりかたって……!」

 急に込み上げてきた吐き気に耐え切れずアリスは四つん這いになって込み上げてきたモノを吐き出してポーチから水が入ったビンを取り出し、水を飲んで深く息を吸い込んだ。

「はぁ……早くこのことをユキさんたちに伝え……今何か視線を感じた気が……気のせいですよね」

 一瞬、誰かの視線を感じたアリスはあたりを見渡した人の気配はなかった。

 ただの思い過ごしかと思い、もう一口だけ水を口の中に含んで飲み込んだアリスは別の建物に魔糸を飛ばして宿屋を目指して移動し始めた。

 

           *


 一方そのころアリスと別れた俊はコンソールからマップを取り出し、縮小したり拡大したりして念入りに脱出ルートを確認する。

「ん―……ここを通るのはな―……。神夜の傷が必ずしも癒えているわけじゃないしな」

 マップにバツ印を記して俊はめずらしく頭をフル回転させて最短かつ確実にこの国から脱出できるルートの確保に専念した。

(手っ取り早くは転移魔法陣を使った方がいいかもだが、見張りの目もあるかもだしなー……)

 頭を掻きながら思考を凝らした俊は転移魔法陣から脱出は予備プランとして保留扱いにした。

(闘技場から国防までならおよそ数キロちょっと……。陣までほうが距離的にはこっちのほうがいいがー……んー……)

 マップの上に自分の指を這わせ道を記していると、国壁のほうから鐘の音が聞こえさっきまで騒いでいた国民たちが皆街の大通りのほうへ行ってしまった。

『何事か?』と思った俊はフードを深く被って素顔がなるべく見えないようにして国民の中に紛れ込んだ。

 大通りを通っていたのは白銀の重装と白マントを羽織った数百もの戦士を引き連れ先頭を行く馬車に乗った皇族が通っていた。

(新しい国王か? それともリアの葬儀にでもきた他国の皇族か……?)

 馬車の窓から薄らと見えた人影は一つ。つまり今あの中には側近の執事、あるいはメイドは乗っていない。

 そう考えた俊は踵を返して人の波から抜け出し路地裏に姿を消した途端、カチャリと銃のスライドを引く音が聞こえた。

 音を聞いた俊は顔を隠すためにハーフタイプのガスマスクを装備して素顔を隠した。そして右袖に仕込んでいた投げナイフを取り出し背後にいる者が銃の引き金を引く前に投げつけるも、銃撃によってナイフは破壊され直撃はしなかった。

「……てめぇ何もんだ?」

 俊は引き金を引いた赤ローブを全身に覆り体つきから察して男と断定した者に問う。

「コタエルギリハナイッ!」

 曇った声で話を打ち切った男はその巨体に似つかわしいほどのスピードで壁を蹴って俊との間合いを詰め上げ死角を突くようにして短刀を突いてきた。

「ッ!」

 背をのけ反らせナイフの刃が前髪を掠める紙一重というところで後ろに避け体勢を立て直そうとするも男はナイフを持ち替え、第二撃を繰り出した。

 予測してもいなかった出来事に俊は迷いも恐れもしなかった。左袖を振るって仕込んでいた投げナイフを手に取り第二撃を受け止めた。

 そしてそのまま右手で男の胸座を掴んで壁に押し付け投げナイフを喉元に当てる。

「無駄な抵抗はするなよ。手に持ったナイフを捨てろ! なぜ俺を狙った?」

「……ウエノメイレイトダケイオウ。ソレイジョウハイエナイ!」

 男は首に当てられた投げナイフを持った左腕を握りしめ、刃を頸動脈のある位置に持っていき恐れ躊躇いもなく腕を引いて頸動脈を裂き自害した。

「なっ!?」

「コレデ、イイ……」

 傷口から噴き出した血が壁に飛沫を上げて飛び散らせて男は倒れた。

「こいつには死をも恐れない覚悟があったとはな……恐れ入ったぜ……」

 ガスマスクをとった俊は自害した彼に合掌した。その後俊はフードを深く被って路地裏の奥へと進んでユキ達がいる宿屋まで向かった。



 宿屋に戻った俊は羽織っていたローブをストレージに納めて部屋に戻るとぐったりと疲れ切ったアリスが先に戻っていた。

「あ、俊おかえりなさい。はいお水」

「おう。ありがとう咲妃」

 コップに入った水を一気に飲み干した俊はテーブルに置いて椅子に座った。

「それで俊。脱出ルートは?」

「あらかた検討して調べた結果だが。転移魔法陣は使わず街門から馬でこの国を脱出だな」

「馬となると“ヘブンス・ドア”に戻るのに二日はかかるよ」

「時間を短縮するならやっぱり魔法陣を使った方がいいかと」

「陣を使うったって……確か移動地点から距離に応じて膨大な魔力を消費するんだよな?」

「うん。使うよ」

「魔力が使えるのは俊を除いて四人。でも神夜の魔力がどれくらい残っているか……」

「それにもよるよな。で、アリスはなんでぐったりしているんだ?」

「闘技場で……すごいものを見たんです……それでです俊さん」

「ゆっくり部屋で休んできていいぞアリス」

「あ、ありがとうございます……」

 コップに注がれた水を飲んだアリスはふらついた足取りで自分が使っている寝室に入り扉を閉めた。

「闘技場でいろいろねー……」

「とりあえずアリスが部屋で休んでいる間にあたしたちだけでも考えをまとめておきましょう」

「うん」

 俊から脱出ルートが記載されたマップデータを受け取った咲妃とユキは、ホローキーボードを開いて作戦の大まかな内容を書き記していく。

 俊もマップデータを見ながらほかに手がないか考え始めた。

「……ねぇ咲妃。私、一つ思ったんだけどさ。処刑の時―……仮に断頭刑にしましょう。刑執行の際必ず処刑台に刑具があるわけじゃない?」

「そりゃあそうよね。それで?」

「それで思ったの。台の前には必ず乱入を防ぐため人払い、あるいは結界が張られるんじゃないかって」

「も、もし結界が張れたら……」

「救出はほぼ不可能といっても過言ではないわ……」

「いや、不可能とは限らないぜユキ。魔導師なら結界を破る侵入コードを入れればいいじゃないか」

「俊、簡単に言ってくれるね……あれって膨大な情報量を脳で全て処理しているから使えるんだよ。複雑になればなるほど脳に負担がかかるの下手すれば死よ」

「あ、あぁ……ごめん」

「結界が張られていたら神夜をあんたは見捨てるの、ユキ?」

「そう言っているんじゃない! 私は神夜を見捨てたりはしない。何か結界を破壊する方法があればいんだけど……。咲妃、あなたのスキルで結界壊しに特化したのない?」

「あたしが使う武器はレイピアだから一点を突いて壊すくらいはできると思うわ。でも完全には無理だと思うわ。せいぜい風穴ひとつが限界かしらね」

「俊は何かある?」

「徹甲弾をぶち込むって手段があるが、結界に使用したことないからなんともいえん」

「魔法を結界に当てるのは無意味だし……。ねえアリスはどうかしら?」

「アリス? あいつって確か人形を操ることと糸飛ばして動きを封じることぐらいができる程度だろ?」

「その人形を操るがキーよ! ほら思い出して! リアの屋敷でアリスは一回り大きい重戦士の人形を操っていたじゃない! だったらもっと大きい人形を操ってもらって結界を壊すことができるんじゃないの!?」

「確かにな……いける、そんな気がしてきた! よし。その流れていこう」

「結界対策はあとであたしからアリスに伝えるわ。あとは役割ね」

「あの咲妃。私なりに考えたんだけど。俊と私は遠距離から人払いと道の確保をするわ。それでアリスと咲妃は刑具及び結界の破壊、それから神夜救出をお願いしてもいいかしら」

「もちろんよユキ♪ あたしに任せなさい!」

「俊もいいよね?」

「あぁもちろんいいぜユキ!」

「じゃあこれで明日はいくよ。神夜を救出して還ろう私たちの世界に」

「「オーッ!」」

 手を重ねた三人はモチベーションを上げようと円陣を組み声を上げ、手を掲げる。


           *


 ――“ラッテ・イストワール” イストーリア城・地下監獄――


 今朝、日が昇ると同時に神夜は看守立会いの下王立裁判所での判決を受けた。

 判決は死刑。

 当たり前だ。あれほどのことをしたのだから。

 それも執行猶予一日というこころの余裕を与えることすら許さない実刑判決を受けて俺は地下監獄に戻ってきた。そして、再び手足を封魔石の錠で拘束され明日執行される刑に備えた。

「明日でこの世ともお別れか……。刑具はたぶん断頭台。あるいは絞首刑。数えてあげればきりが無いな」

 自分が明日死ぬというのに頭の中には死刑刑具が次々と思い浮かんでくるせいで、つい笑ってしまった。

『ふーん。もう諦めモードに入っているんだねー神夜様は』

 と、声がした方に顔を上げると黒ローブを着たセミロングヘアの金髪少女――アイリが牢の中に入っていた。

「お前……どうやって! 確か見張りが――」

「少しの間眠ってもらいました。それよりあなた様ほどの者がまさか捕まるなんて……」

「仕方がねえだろ。あれほどの深手を負っていたんだ。捕まることぐらい覚悟はしていたことだ」

「そうですか。それぐらいの覚悟があるなら刑を受けなさるのですね」

「あぁ。受けるよ……」

「助けを待つことなくですか?」

「助けね……。わずかな希望にすがる気分だな。だがあいつらはきっと来るさ。そういう奴らだからね」

「では刑具については知っているのですか?」

「いや知らない」

「刑具はギロチンです。ちなみに断頭後はしばらく意識がありますので痛いかもしれませんが耐えてくださいね。じゃあぼくはもういくよ。無事生きて脱出してみせてよ神夜様」

 ニカっと笑ってアイリは俺の目の前から姿を消した。

 あいつってホント何者なんだ。普通の村人がこんな監獄に易々と入れるものなのか? それでもあいつは深手とは言え、リアにとどめを刺したんだ。それに『負けた魔王は死、あるのみ』ってまるで魔王に敗北は許されない。いうならば『縛り』みたいなものだ。アイリはそれをリアに告げて殺した。リアよりもその縛りのことに詳しいみたいな言い方だったし。

 くそっ……今はアイリのことを考えるのをやめておこう。まだ何かと謎が多いしアイリがいうあの子の存在も気になる。

 ……あ――! 考えるだけでいろいろ連想される!

『おいっ! さっきからうせるえぞクソガキー!』

 ガシャガシャと牢に囚われている囚人たちが鉄格子を揺らして怒り狂い始めた。どうやら俺の独り言が駄々漏れだったみたいだ。

「あーあ……やっちまったよ」

 怒り狂った囚人たちを静めるため看守たちが警棒を何度も地面に叩きつけるも、怒りは静まらず頭に血が上った看守は牢から一人の囚人を引きずり出し見せしめとしてその場で首を斬り飛ばした。

『まだ騒ぐようであればもう一人殺す。いいなっ!』

 血の付いた剣を薙ぎ払ってこべりついた血を掃った看守は死体を火炎魔法で焼却したのち出て行った。

 囚人たちの怒りは静まり俺も平常心を取り戻した。

 処刑は明日……生きるか死ぬかは神のみぞ知るってことかな?

 深呼吸をした俺は静かに目を閉じしばしの休息を得た。


           *


 ――“ラッテ・イストワール”中央街・闘技場、十刃の戦場(エスパーダ・ペディオマキス)――


 夜が明け天にも届きそうな外壁から朝日が差し込み始め街に朝が来たことを教える。

 いつもと変わらない朝がやってきた気がするが、今日だけは緊張感がある朝がきたと国民たちは誰もがそう察していた。

 新国王、リア殺害から早二日。

 朝から街の闘技場――エスパーダ・パディオマキスは国王殺害で収監された神夜の公開処刑のため朝早くから一般開放されていた。

 場内はもちろんのこと観客席も隙間なく埋まっており全員の視線がギロチンの置かれた処刑台に向けられ、その周りには重装備を施した衛兵と看守によって守られ警備は万全を期していた。


『おい、囚人番号〇一六号神夜。そろそろ時間だ』

 封魔石の手錠を手にした看守が鉄の扉を開けて俺が収監された牢屋に入ってきた。

 看守はすぐに錠をかけ、ごみでも見るかのような見下した目つきで俺に『先頭を歩け』と命じ処刑台が待ち構えている扉まで護送した。

 何千段とある長い石段を上がり俺の目の前には牢屋の鉄扉よりも数倍の大きさと分厚さを誇った扉へとたどり着き、扉は主役の登場を待ちかねていたかのように勝手に開き太陽の光を監獄内に届けた。

 扉の向こうは、俺がこの国に来たとき最初に訪れた闘技場。それも場内だった。

 そして、その周りには隙間なくびっしりと埋まった見渡す限り人、人、人。正直ここに全国民が集結しているのではないかというぐらい集まっていた。

『み、見ろっ! ついに出てきたぞっ!』『悪魔の化身め! 死を持って償えっ!』

 俺の面を見るなり怯え驚愕する者、怒りに身を任せて罵声する者が出始めた。

『――静まれ! ラッテの民たちよ!』

 カッ! 場内で特別席ともいえる高台には金髪のミディアムショートの皇族が一人いた。たぶん、リアに代わって新たな国王になる人物が手にしていた杖を強く打ちつけ怒れる国民を黙らせた。

『これは厳粛たる処刑! 卑俗な野次は慎んでもらおう! ――ではこれより死刑囚神夜の刑を執行する!』

 刑執行を宣言が言われると国民のボルテージは一気に頂点に達し『殺せっ! 殺せっ!』と何度も声にして叫び始めた。

「さぁ! 膝まづけ!」

 手錠の鎖を手にした看守二人が俺の肩を押して膝まづかせ首を固定具に固定される。

『陛下、準備が整いました。ご命令を』

『分かった。では死刑囚神夜に問う。自生に残す言葉はあるか?』

「新王だが知らねえが俺はそう簡単には死なねえよ」

『それが、貴様が残す言葉だな。よろしい。断頭用意!』

 陛下は右腕を高々と掲げ下にいる看守に断頭の合図を送る瞬間だった。

 ドンッ! と銃弾一発分の銃声が場内に響き渡った。その音を聞いた誰もがあたりをキョロキョロして錠を撃った者を探すもどこにも見当たらなかった。

『――ぎ、ぎぎゃあぁぁ―ッ! う、腕が! 僕の腕がっ!』

 高台から陛下の声と思われる者の声がした。うっすらとしか見えないが手の甲を貫通性の高い弾で打ち抜かれていた。

『だ、誰がこんなことを……衛兵と看守たちよ! 早く狙撃主を――!』

 高台から身を乗り出した陛下が下にいる看守と衛兵に命令しようとしたとき、ぐらっと一瞬だけ地面が揺れた。そして、その揺れは段々と大きくなっていき、国民がいるのにもかかわらず岩でできた巨人のような腕が浮き上がりやがて数メートルもある一体の岩人形(ゴーレム)が俺の目の前に現れ、処刑台のまわりに張られた結界をものともせず打ち砕いた。

 こんな芸当ができるのは俺が知る限りあいつらしかいない。

「やっぱり助けに来てくれたか。信じてたぜ、お前ら」

 ゴーレムに恐怖を感じた国民たちはパニックになりながらも一目散に出口を目指して走り出し看守と衛兵はゴーレムを攻撃するも誰一人と手に負えなかった。

 そしてゴーレムは断頭台を地面から引き剥いて持ち上げ、首の固定具と刃を掴んでは紙のようにいともたやすく引き裂かれそのまま俺はゴーレムの手の上に落ちた。

「いてて……着地に失敗した」

『まったくだらしないわね。それでもあたしらのギルマスなの?』

 細剣『グランツ・ティア』を鞘に納め白の軽装姿が板につき、風でなびく腰まである艶入り茶髪の女性が俺に手を差し伸べた。

「たりめーだ。……ありがとう咲妃。助けに来てくれた。それよりこのゴーレムは……まさかと思うが……」

「操っているのはアリスよ。今観客席からこれを遠隔操作しているわ。それと俊とユキは闘技場の場壁部にいるわ。アリス、ユキ、俊っ! 神夜を救出したわ。早くここから離脱しましょう!」

『了解しました!』

 客席にいるアリスは右指を巧みに操ってゴーレムの五体を操り、その巨体に似つかわしいスピードで場内を走り攻め来る看守と衛兵たちをなぎ倒していく。

「観客席に着くわ。神夜、アリス! ユキたちと合流するわよ!」

「はいっ!」

「えっ! あ、ちょッ! 咲妃ま――!」

 客席に着くと咲妃は俺を肩に担ぎ上げ、助走をつけずして一回の跳躍で場壁近くまで跳躍した。その後ろからゴーレムに施していた魔糸を取り去りその糸を飛ばしてアリスが追ってきた。

「咲妃、アリスお疲れ様。それからおかえり、神夜」

「た、ただいまユキ」

「感動の再会はまたあとでよユキ! 看守たちが血眼になって追って来たわ。俊すぐに馬車を!」

「準備はできている! 狙撃した後すぐに準備したからな」

「さすが。皆いくわよ!」

 場壁から飛び降りた俺たちは俊が準備していてくれた馬車に乗り込み、二匹の馬に繋げられた手綱をユキが握り馬に合図して走らせる。

「このまま開閉門まで行くよ! 」

「開閉……! ユキ! 行先を変えて城に向かってくれ!」

「し、城に!?」

「あぁ! どうしても行かなきゃならねえ理由があるんだ!」

「お、おい神夜どうしてだよ? 俺にはさっぱりわかんねえんだけど」

「そうよ神夜! せっかく助かった命なのにどうして!」

「わりいなお前ら……せっかく助けてくれたのに。でも俺は行く!」

 背中から紅翼を生やし広げた俺はカーテンを開けてイストーリア城を目指して一人で飛び立った。

「ユキ! 神夜行っちまったぞ!」

「まったくっ! 今更進路変更なんて……」

 手綱を強く握りたユキは二頭の馬に減速して進路の変更を伝えようとした矢先。

「あたしが行ってくる! ユキ達は先に国から出てて!」

 そう言い残して咲妃は馬車から飛び降りイストーリア城を目指した神夜を追った。

「ちょっと咲妃! ……行っちゃった」

「でユキ。俺たちも加勢しに行くか?」

「今は咲妃の言葉を信じて私たちは私たちでできることをしましょう」

 ユキは馬に進路の変更を伝えずそのまま開閉門目指して馬を走らせた。



「陛下っ! 大丈夫ですか!? すぐに傷の手当てを―!」

 燕尾服を着た陛下と呼ばれている者の側近が、傷の痛みにもがく陛下の側に駆け寄る。

「手当は後ででも構わないっ! それよりあの死刑囚を逃すとは看守と衛兵どもは何をしている!」

「も、申し訳ありません!」

「クソッ! 処刑が済めばこの僕がリア兄様の後を継ぐ国王になれるというのに……。いいか! 開閉扉と転移魔法陣を今すぐ閉鎖させろ! それから早急に馬車を用意しろ! 今すぐに城に戻るぞ」

「城に……ですか?」

「あぁそうだ。あの死刑囚のことだ。今から奴は忘れ物を取りに城に行くはずだからな。そこを捕えて僕の手で刑を執行してやる」

「……分かりました! すぐに馬車の手配をいたします」

 陛下に一礼した執事は踵を返して一階へと戻って行った。



 一方そのころユキ達と別れた俺は二日前にリアとの戦いの後鞘に納め忘れた“黒桜龍・劫火”の回収をするためにイストーリア城の正門に下りたった。

「! 止まれっ! 貴様どこの回し者だ!」

「いいからそこをどけよ……」

「あーっ!? いまなんて言った?」

「いいからそこをどけ!」

 紅翼で宙に舞いあがった俺は右脚を高々と掲げ門番の頭上目掛け踵落としを喰らわせ意識もろとも自由を奪った。

「貴様ーっ!」

 もう一人の門番が手に持っていたハルバードを構え頭上から振り降ろしてきた。俺はかわそうとはせず錠に付けられたわずかしかない鎖で刃を受け止めた。

「ほう……避けもせず受け止めるとは。そのまま脳天叩き割ってやるっ!」

 鎖にかかる刃の重さが増し鎖に亀裂が入っていく。そして、鎖がちぎれ支えるモノが無くなったハルバードの刃が重力に引かれて俺の頭上に降りかかってくる。

 俺は身を引いて紙一重のところで斬撃を避け刃が地面を叩き割った瞬間を狙って自由になった右手を門番の顎目掛け伸ばして打ち脳を揺らした。

 脳を揺らされた門番の意識は飛びそのまま後方に倒れた。

「ようやく両手が自由になったか。とはいえ、これで魔法が使えるようになったわけじゃあるまいし。こいつが使っていたハルバートでも使って王室を目指すか」

 地面に落ちたハルバードを担いだ俺は正門を開け城内に侵入した。 

 しかし侵入したことがすぐにバレ数百人もの衛兵が武器を手にして襲いかかってきた。

「チッ……めんどくせーな!」

 ぐっ、とハルバードの柄を握り、力を込めて半径一メートル以内に衛兵が入ってきたところでハルバードを横に薙ぎ払い迫り来た敵を打ちのめし一掃する。

 そのまま俺は紅翼を羽ばたかせ宙を舞って王室を目指した。

「弓矢部隊、撃て―!」

 城壁に待機していた弓矢部隊が一斉に弓の弦を引いて矢を射る。

 風を切って放たれた矢が王室を目指して飛ぶ俺の後を追って飛んで来る。

「なんのこれしきっ!」

 襲い来る矢の軌道を呼んだ俺は城壁を蹴り上げ空目掛け一気に急上昇して矢の雨から逃れ第二射で射られた矢はハルバードを振って打ち落とした。

「城の警備も大したことないな。さてと、王室は……どうやらあそこみたいだな!」

 滞空状態を維持しながら俺はハルバードをやり投げの構えで持ち十分に力を溜め上空から見つけた王室の窓目掛けハルバードを投げつけた。

 投げられたハルバードは射られた矢のように大気を切って進み王室の窓ガラスを派手に割り、床に突き刺さった。あとに続いて俺も窓から王室に侵入し床に刺さったハルバードを抜き取るも、床との衝突に耐え切れず槍と柄に分離し青いガラス片と化して消え去った。

「さてさて。例の物は確かここに置き忘れて―……あった!」

 王室に入って一分も経たずして部屋の中央付近に転がった黒太刀を見つけ柄を握りしめる。

「武器庫に回収されてなくてよかった。とりあえずこいつを鞘に納めて一刻も早くここから」

『ここからどうするってだい死刑囚!』

 バンッ! と大扉を勢いよく開けて入ってきたのは白銀の細剣(レイピア)を腰に納め右手に包帯を巻いた皇族――まわりの付き人から陛下と呼ばれていた男だった。

「やはり貴様はそれを取り戻しにここにきたか」

「あら~初めから判っていたみたいな言い方だな」

「そりゃそうさ。昨日ここの軍隊長に教えてもらったからな。本来、貴様が死ねばこれは僕のモノになるはずだったのに……」

「あげるわけにゃいかんのでねこいつは。わりぃことはいわねえ。今すぐ俺の目の前から消えな」

「ふざけるな! 僕は一刻を担う王だぞ! 今ここで引いたら先代の王とリア兄様に合わせる顔がない!」

「強情な王だ。悪く思うなよ!」

 黒太刀を構えた俺は陛下と名乗る男との間合いを瞬時に詰め、眼下から薙ぎ払うようにして切り上げたが陛下はいとも簡単に斬撃を避け鞘から白銀のレイピアを抜刀し死角を突いてきた。

 手首を返しすぐレイピアの突きを黒太刀の反り立つ刃でいなして細剣の刃を打ち上げコンマ二秒遅れて黒太刀を横に薙ぎ払い陛下を壁際に押しやる。

「ほう。魔力を封じられ傷は癒えておらずしてコンディションは最悪なのにそこまでの剣技とは。殺すのが惜しいくらいだ」

「お褒めの言葉、ありがたくいただくぜ陛下さまっ!(……って活き込んでみたが、やはり魔力が使えないとソードスキルの発動は不可能。奴の懐にこの錠の鍵があればいんだが)」

「――君、今僕の懐に『錠の鍵があればな』と思ったでしょ」

「コイツ心を!」

「読んだのは心じゃなく顔の表情を読んだのさ。そして君がほしいのはこの鍵だろ?」

 陛下は上着の内ポケットからダイヤのマークの柄が着いた鍵を取り出し俺の前に差し出した。

「へぇ。気前がいいじゃないか。じゃああんたを殺してでもいただこう!」

 黒太刀の峰を背に当てた俺は高ぶる気持ちを抑えるため一拍置いた。そして、地面を蹴り上げ陛下の首元目掛け刃を振るうも、身を反して陛下は斬撃を避けた。

 身を反した陛下はレイピアを構え起き上がると同時に勢いよく右腕を前に突き出す。

 手首を返して黒太刀で受け止めようにも間に合わないと悟った俺は、身をそらし突きをかわそうとしたが、剣先が右肩を掠める。

「くっ!」

 左手で右肩に負った傷口を押え出血を防ぎ、陛下との間合いを取る。

「僕を殺すんじゃなかったのかー死刑囚!」

 間入れずして陛下は間合いを詰め上げ剣先の残像が残るほどのスピードでレイピアを突き動かす。

 目で追いながらすべての突きを両手持ちに切り替えた黒太刀で捌いて行くものの、頬をはじめ捌ききれなかった斬撃が徐々に全身を斬りつけていく。

「ほらほらほらーっ! どうしたー!?」

「まだ……終わりじゃねーっ!」

 黒太刀から左手を離して片手持ちに切り替え飛び交う残像を斬撃を、離した左手で掴み取り斬撃を止めた。

「なっ! 貴様正気か!?」

「正気だから……こうするんだよっ!」

 レイピアを掴まれた陛下は武器を手放し後方に下がろうとした。

「させる、かーっ!」

 掴みとったレイピアを捨て、片手持ちに切り替えた黒太刀を逆手に持ち後方に下がった陛下の心臓部目掛け投げつける。

「ぐっ! あぁあーっ!」

 投げられた黒太刀は陛下の左胸を貫き深々と突き刺さり陛下を壁際まで押しやり貼り付けにした。

「はぁ……はぁ……これで終わり、だな……」

「ぐっ! この僕が……ここで負け、るとでも思っていたのか!」

「何? それはどういう――!?」

 突然、壁を障子のようにいとも簡単に突き破って巨人族の手が現れ俺の口を塞ぎ持ち上げた。

「んっ! んんぅっ!」

 油断した! 瀕死のこいつに見とれていたから太刀を引き抜くことを忘れていたから今は手ぶら。丸腰同然だ! それにこいつ俺たちがここにいるのが分かったんだ!? 

 それより今は何とかしてこの状況から脱却せねばっ!

「遅れて、申し訳ありません陛下」

「気にするな……それより、さっさとそいつを握りつぶせ!」

「承知、しました」

 陛下の命令を受けた巨人は、命令通り俺の顔を掴む手に力を込め始めギシギシと頭蓋骨が軋む音がし始める。

 本格的にやばくなってきた! 意識が……薄れていく。こんな三下みたいなやつに俺は殺されるのか? 

 巨人の腕を叩く力すらもう入らなくなってきた。そろそろ俺も終わりかもしれないな。

 命の灯火が消えかけようとしたその時だった。

 ガシャーンっ! と盛大かつダイナミックに王室の窓ガラスを割って誰かが侵入し

斬撃剣技(アタック・オン・ソードスキル)“デンス・スクアーロ”』

 足音から察してそのものは着地地点から巨人がいる地点まで軽々と跳躍し青い光を纏ったレイピアを切り上げ、大木のように太い腕を切り落とした。

 腕が斬り落とされたことにより俺の顔を掴む力が抜け離れた。そして、そのものは俺を担ぎ巨人から間合いを取った。

「う、腕が? オレの腕が……き、斬り……斬りやがった!」

 巨人は大声を張り上げ痛みに悶絶していた。

 それより誰だ? 俺を助け出してくれたのは? アイリか? それとも……。

「――や! 神夜! 大丈夫!?」

「……その声。咲妃か?」

「そうだよ神夜! よかったー間に合って。そこで待ってて。すぐ終わらせてくるから」

 そういって咲妃はレイペア“グランツ・ティア”を手に取り、先手を打たれ頭に血が上った巨人に剣先を向ける。

「陛下。あの女殺しても?」

「構わない。殺ったあとはあの死刑囚を殺れ!」

「了解、しました!」

 巨人は腰に納めていた斧を手に取り、陛下に命令されるがまま咲妃に突撃し斧を頭上に掲げ振り降ろしてくる。

 斧の刃が当たる寸前に咲妃は踵を返して斬撃をかわし、巨人の胸に高速で十連撃もの突きを喰らわせ身体をくの字に曲げためらいもなく巨人の首を跳ねあげた。

 とてもレイピアのような突きに特化した武器からは想像もできない切れ味に鳥肌が立った。普通のレイピアなら首を跳ねあげる前に途中で失速して刀身がへし折れるはずだ。なのに咲妃の奴は力づくで奴の首を跳ねあげたのか。

大した奴だよ。ホントに。

 一呼吸おいて俺はゆっくり立ち上がった。

「ふぅ……。巨人なんて初めて戦ったけど大したことないのね。さてあとは瀕死のあんただけよ。何か言い残すことはある?」

 レイピアに付いた巨人の血を拭った咲妃は壁際で貼り付けにされた陛下に剣先を向ける。

「……ふ、ふざ……ふざけるな! どうしてこの僕が殺されなきゃならない! 僕が何をしたって言うんだ! 僕はただリア兄様の後をついで国王としての任を果たそうとしただけ……なのになぜ……」

「……じゃあなぜリアが死んだか。それは知ってる?」

「そこにいる死刑囚が殺したからであろう! 」

「その様子だと真意までは知らないみたいね。いい。あんたの兄、リアは世界を滅ぼせる力を持った魔王の一人だったのよ! 神夜はそれを知ってリアを倒したのよ」

「リア兄様が……魔王……。そ、そんなはずがないっ! まったくのでたらめだ!」

「でたらめなんかじゃない! 奴は本当に魔王なのよ! お願い信じて!」

「はいそうですか……というとでも思っているのかー!」

 魔力でレイピアを精製した陛下は壁を破壊し黒太刀による貼り付けから逃れる。そして、咲妃にレイピアの剣先を向け怒りに身を任せの突きを入れようとする。

「!」

 出遅れた咲妃はレイピアでの受け流そうにも間に合わないと悟り、後方に下がろうとしたが瓦礫と化した壁の破片に躓き尻餅をついた。


『あたし死ぬかもしれない!』


 そう察した咲妃は目をつむり死の恐怖から目を晒そうとしたその瞬間。

「ごめん咲妃。俺、本当に国王様殺してしまった」

 咲妃の危機を察した俺は紅翼を背中から伸ばし一瞬にして咲妃と陛下との間合いに入り、陛下の胸に刺さった黒太刀の柄を握りしめ力任せに黒太刀を横に薙ぎ払う。そして、手首を返して陛下の眼下から黒太刀を斬り上げ全身を斬り刻んでいく。

「これで終わり、だっ!」

 最後の一太刀を振り終えた俺は、意識がもうろうとした陛下の胸骨を左手で打ちつけ床にひれ伏させた。

「か、神夜?」

「――あーあ……やっちまったよ」

 床に倒れた陛下の内ポケットから手錠の鍵を取り、錠前に刺して手錠を解除されたことにより封印されていた魔力が解き放たれ内側から力が溢れてくる。

 すぐにでも一暴れしたい……。

 荒ぶる気持ちを静めるため自身の力で溢れ出る魔力を押えこみ深いため息をついた。

「か、神夜……本当に……」

「辛うじて息はしている。早く回復魔法をかけてやれば助かるかもしれん。さて、その隙に俺たちはここから出るぞ咲妃」

「え、あ、か、神夜ー……」

 黒太刀を鞘に納めた俺は咲妃をお姫様抱っこして宙に舞い上がり、窓ガラスの割られた窓から王室を抜け出し二人して城から脱出した。

 俺はすぐに索敵スキルを発動し、馬車で移動したユキ達を探し始めたがものの数秒で彼女たちの居場所が分かった。

 ユキ達はすでに開閉門を通じて国外に出ており“ヘブンス・ドア”に向けて馬を走らせていた。

 移動速度から察して追いつけないことはないか。

 よし、行くか!

 グッと両翼に力を込めた俺は限界まで縮められたバネをイメージし、一気にバネという筋肉を解き放ち大気を両翼で殴りつけて大気を射抜く一本の矢のごとく速さで国外に出た。

 もう俺を追ってくるものはいないはずだ。これでまた普段通りの日常を送れる。

 国を出て数分。

 森林内を一台の馬車が走るのを見つけた。索敵位置から察してあれがユキ達が乗る馬車と察して少しスピードを落としながら俺は減速し馬車の後方から車内に入り咲妃を下した。

「! か、神夜!? おま、どうやって!」

 薬莢に火薬を詰めていた俊が俺と咲妃が返って来たことに驚き手元から火薬を少しこぼしてしまった。

「どうやってて……ここまで飛んで来たんだよ」

「な、なるほどね。に、してもこれまた無様な姿だな神夜。傷だらけじゃないか」

「そうでもねえよこんなの……」

 ふっと、突然全身の力が抜け落ち、糸を切られた操り人形が地面に這いつくばるようにして俺は車内に倒れ意識を失った。


           *


『ふふっ。無事この国から脱出していったみたいね神夜様』

 瀕死の状態で発見された陛下の集中治療で慌ただしくなったイストーリア城展望台の屋根上に腰を下ろしていたアイリが笑った。

「こうも予言がうまいこと進むなんてちょっと出来過ぎじゃないかしら? でもぼくとしては好都合この上ないこと。さて、この国に眠る重要機関の本は頂戴したしもうこの国にようはないね。では、神夜様……次逢うときはあの子を連れてきてくださいね♪」

 屋根上に立ち上がったアイリは空間を跳躍して“ラッテ・イストワール”中央の上空に姿を現した。そして、右人差し指一点に自身の魔力を集中させすべてを無に還せる漆黒の光球を作り出した。

「さようなら、ラッテの民よ。あなた方が記した書物の数々、決して無駄には致しませんわ」

 そう言い残してアイリは光球を地上目掛け投げやり爆発に履きこまれる前にその場から姿を消した。


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