表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2.5次元の狭間にて  作者: 黒覇 媄兎
第3章 ソードダンス・ウエディング
20/32

第3クエスト 第2の魔王

 ――“ラッテ・イストワール郊外・リア邸内奥の教会・更衣室――


 日は落ち、すっかり空は藍色の暗闇へと移り変わりぽつぽつと星が輝きを放ち血色に染まった紅い月が昇り始めた。

「咲妃様、あと少しで終わりますので動かないでくださいませ」

 二人のメイドの手によって咲妃は、コルセットでウエストを引き締められ胸元を強調した後、フリルの付いたシルク製純白プリンセスラインドレスを着せられ両手にはドレスの色に合わせ肘上まである白のグローブ、頭には白銀のティアラ、そしてレースの入ったミディアムベールを被っていた

「咲妃様、とてもお似合いです」

「きっと旦那様もお褒めになるかと思いますよ」

「そうあいつがねー。……本当は――にあたしのこの姿見てもらいたかったなぁ―……」

 ぼそりと、咲妃は鏡に映る自分を見て呟く。

 すると、コンッコンッと誰かが扉をノックしてきた。

「失礼するよ」

 と、言って入ってきたのは、黒のタキシード姿のリアだった。

「旦那様、ここは男子禁制です。すぐにでもご退出を」

「そう難いこというなよアイリス。おぉ咲妃、よく似合っているよ」

「そう。予想通りのお言葉ありがとう」

「あいかわらずつらないなー。それと忘れたわけじゃないよね。今の君は僕の力によって魔力、武器の使用を差し押さえられ丸腰の状態なんだよ。それでこの僕に逆らうって言うのかい?」

「……そうだったわね」

 昨晩、リアとやり合って圧倒的力さにひれ伏した咲妃は、開き直りおとなしくなった。

「よしよしいい子だ。それと、先ほど君の友人が教会に入ったとの情報が入ったよ」

「!」

「せめてものことだ。なんせ今日で彼らと会うのは最後なのだからな。さて、そろそろ式の時間だ。行こうか咲妃」

「……はい」

 リアは咲妃の手を引いてメイド二人が開けた扉をくぐり、教会の礼拝堂へと向かった。


 そのころリア邸内教会礼拝堂の配列された長椅子に腰かけるユキと俊、アリスは礼拝堂を出入りしてくるリアが招待したと思われる人たちに目を配りながら今か今かと咲妃とリアの入場。それと街の方で合流できなかった神夜の到着を待った。

 ぞろぞろと入ってくる人たちの足並みが途絶え配列する長椅子が満席になったところで礼拝堂の扉が閉まり、壁際では各々に武器を持ったメイドと黒服たちが警護に当たった。

「……コホンッ。えー皆様大変長らくお待たせしました。新郎新婦のご入場です。皆様拍手でご迎えください」

 と、進行役をリアに任せられたと思われる執事によって式が進められ、外にいる者が礼拝堂の扉を開ける。そして、タキシードを着込んだリアと純白のウェディングドレスを着た咲妃が招待客から祝福の拍手とオルガンから奏でられる音色が送られる中で二人は神父様がいる祭壇へと歩みを進める。

 そして、二人は神父様が立たれる祭壇上に立ち分厚い聖書を広げる。

「新郎、リアよ。貴方は健やかなるときも、病めるときも、喜びのときも、悲しみのときも、富めるときも、貧しいときも、これを愛し、これを敬い、これを慰め、これを助け、その命ある限り、新婦咲妃を妻として真心を尽くすことを誓いますか?」

「誓います」

「……では。新婦、咲妃よ。貴女は健やかなるときも、病めるときも、喜びのときも、悲しみのときも、富めるときも、貧しいときも、これを愛し、これを敬い、これを慰め、これを助け、その命ある限り、新郎リアを夫して真心を尽くすことを誓いますか?」

「…………」

「? 誓いますか?」

「あ、あたしは誓わ……ない……」

 咲妃の口から言われたその一言で教会内はざわめきだした。

「さ、咲妃……何かの冗談だよな?」

「冗談じゃない。あたしは本気! だってあたしはっ!」

 ベールをあげた咲妃は、人目など気にせずにリアに抗議した途端、フッと礼拝堂内を照らしていたロウソクが全て消え去り白い煙を立ち上げる。

「おいっ! 何が起きた! 早く明かりを――」


『その必要はありませんよ、新郎さん』


 ボッと青い焔が礼拝堂内全てのロウソクに灯る。そして、身廊の真ん中に狐の面で顔を隠し、燕尾服を着込みフサフサした人一人分はある狐尾をした者が立っていた。

「い、いったいどこから入った? おいそいつを早く始末しろ!」

「「「「ハッ!」」」」

 リアの命令を受けた黒服たちが突然現れた狐の前に立ちふさがり、手に持っていたマスケット銃が向けられる。

「――撃てぇーっ!!」

 リアは挙げていた右腕を振り下ろして発砲命令を黒服たちに下す。マスケット銃のコックが下ろされ銃口から鉛玉が大気を裂いて発射される。

「怯むな! 奴は一人。意識があろうと無かろうと構わず撃ち続けろ」

 銃声は休む暇もなく礼拝堂内に響き渡る。そして、火薬の煙で侵入した狐の姿が見えなくなり始めた頃、マスケット銃の弾も底を尽き銃声が止んだ。

「撃ちかたやめ。侵入者もさすがにこれで生きては―……」

「私がどうかしましたか?」

 立ち上る煙を右腕の一振りで掻き消した狐の両手の指の間には黒服たちが撃ったマスケット銃の銃弾が受け止められ、受け止めきれなかった銃弾は扉に突き刺さる。なにより狐の身体には傷一つ着いていなかった。

「これは全部お返ししますね。それと関係のない方はお早めにここからお逃げくださいませ。私はそこの花嫁さんに用事があるのですから」

 狐の眼前に立ちつくす黒服たち目掛け指の間で受け止めた銃弾を腕の一振りで投げやり的確に人体の急所、心臓部、眉間を撃ち抜いていく。次々と倒れていく黒服たちを助けようとするメイドと黒服は各々が持つ武器の矛先を向けて襲い掛かる。しかし、狐はこのことを予測していたかのように、襲い来る鋭利な刃をかわしては隙ができた者から始末していく。

「えーいっ! どけ貴様ら! この俺が相手をしてやる!」

 先陣に立つ黒服とメイドの波をかき分けて、屈強な体つきに巨人族に近い体つきをした黒服が狐の前に立つ。そして、人一人は圧殺できるほどの拳を勢いよく振り降ろす。

「おいおい。あまりここの設備を破壊しないでくれよ」

「申し訳ありません旦那様。つい本気を出してしまいまして。でもご安心を侵入者はこの――」

『今の一撃で私を殺ったとでも? いいですか本当のパンチというモノはこうですよっ!』

 一際でかい黒服の拳をバックステップで避けた狐は右腕を振りかぶり、拳を黒鋼色に変色、硬化させ黒服の鳩尾を殴り飛ばす。

「そ、そんなバカ……な……」

 殴られた鳩尾を両手で押さえながらゆっくりと黒服は倒れ、ピクリとも動かなかった。


『な、なあこれ俺たちも加勢したほうがいいのかな?』

 襲い来るメイドたちをものともせず次々と倒していく狐の闘いを遠目で見ていた俊はユキとアリスに問う。

「したほうがいいと思います。もしかすると咲妃さんを狙う第三者かもしれません」

「咲妃、モテモテ。でもそうはさせない! 俊、後方からの狙撃お願い。アリスいくよ」

「はいっ!」

「魔導書展開っ! 武具召喚“ガゼル”っ!」

「魔力解放及び魔導書展開っ! 人形召喚(ドール・サモン)“黒騎士・オベリスク”っ!」

 無から氷を錬成させたユキはその氷塊の中から細剣『カゼル』を抜き取り、アリスは魔導書を床に叩きつけ書に記された魔法陣を転写する。そして、陣から大木を一撃でへし折れるではないかというほど巨大な大剣を持った黒騎士の人形を呼び出す。

「私が先陣を切るからアリスはそのあとに!」

 魔導書を閉じたユキは床を蹴り上げ狐の頭上高く跳躍し細剣を振りかざし、黒騎士をユキの斬撃の邪魔にならぬよう側面にまわらせたアリスは、巧みな指使いで黒騎士の身体を操る。

「(ユキ達、俺を敵だと思っているな―……しゃあない) これはこれは、また無知な奴らが現れましたか。では、まず魔導師のあなたから」

 狐は一瞬にしてその場から姿を消し、再びユキの前に姿を現す。突然のことで驚愕するユキは狐の身体に斬撃を喰らわせることを忘れてしまい身体が硬直する。そして、狐はユキの胸座を掴み黒騎士に狙いを定め容赦なく投げつける。

「きゃあぁぁぁぁっ!」

「っ! ユキさん! このっ!」

 投げつけられたユキとの衝突で制御不能になった黒騎士の糸を断ち切ったアリスは、他の人形を召喚せず、糸単体で狐に挑んだ。

「人形使いの武器は何も人形だけではありません! この、魔力によって生成される糸の強度は鋼以上なんですから!」

 指にはめる五つの指輪から伸びる糸を狐の身体に巻きつけ動きを封じる。

「ほう。こんな技があるとは……」

「動かないほうがいいですよ。わたしが力を込めればあなたを一瞬にして輪切りにしますよ」

「ふむ……どうしましょうか。この糸そう簡単に切れませんし……ですが、空間跳躍は可能みたいですね。転移」

 身体に巻きつく糸から簡単に抜け出した狐は、アリスの前に姿を現す。

「生成できる糸に魔封の特性をつければ、このようなことにはならなかったでしょう」

 と一言言って狐はアリスの背後にすばやく回り込みアリスを当身して気を失わせて近くの長椅子に寝かせた。

「あとはあなただけですか。先ほど身動きが取れない私を狙撃していればよかったものを……貴方はその好機を逃してしまった。――そんなんじゃ俺には勝てないぜ俊('''''''''''''''')……」

「! お前まさか! か――」

 声で狐の正体が判った俊はその名を呼ぼうと口遊んだ瞬間、狐は俊の鳩尾を殴り一時的に声を出せなくしその場を去り、ゆっくりと歩んで祭殿にいるリアと咲妃に近づく。

「これでほとんど片付きました。貴方が招待した人たちも応戦して来るかと思いしまたが力の差を知ったのか尻尾を巻いて逃げちゃいましたね。でも、あの三人はとても勇敢でした。それだけは評価しときましょう」

「チッ。あの腰抜けどが。……まあいい貴様ごときこの僕が始末するっ!」

 祭壇へと近づく狐の前に立ったリアは右袖をたくし上げ、腕を龍化させる。

「ほうこれは面白い。ですが貴方の相手をする気はありませんので」

「あんたにその気がなくとも僕にはあるんだよっ!」

 龍化した腕を振りかぶり狐の心臓部を貫こうとしてくる。

(狙いは俺の心臓か。このスピードなら余裕で避けれる)

 狐は右脚を軸にして回ってリアの攻撃をかわし、人一人分はある狐尾でリアの背を薙ぎ払い壁際まで飛ばす。

「くっ! まだまだーっ!」

 近くに倒れていた黒服が持っていたと思われる短刀を数本手にしたリアは、近くに咲妃がいるのにもかかわらず短刀を射るが、狐は射られた短刀を両手で全て受け止める。

「もしも、花嫁に当たったらどうするおつもりだったのですか!」

 指の間で受け止めた短刀を持ち直し、リアに送り返す。

 狐の手から射られた短刀は、弓から射られた矢のごとく速さで大気を射抜きリアの左頬を掠め壁に刺さる。

「これでこりたでしょう。では、宣言通り花嫁はいただいていきます」

「えっ? ちょっ、ちょっとー!?」

「では、失礼します。――転移ッ!」

 狐は咲妃をお姫様抱っこで抱え、靴のかかとで床を削って魔法陣を描いて礼拝堂から転移する。

「リア様、大丈夫ですか!?」

 祭壇側の扉を開けて、白髭を生やし燕尾服を着た初老の執事が壁にもたれるリアの側に駆け寄る。

「僕は大丈夫だ。それよりも咲妃を奪い返すのが先だ。使用人数名に避難した人たちの護衛に着くよう、それとケルベロス数匹と使用人六人は僕と一緒に来るよう伝えてくれ。じいは非難した人たちの護衛に着いてくれ」

「畏まりました。ではお気をつけて」

 老執事は空に魔法陣を描いてその場から姿を消し去った。壁を伝って立ち上がったリアはタキシードに手をかけて脱ぎ去り、黒マントと動きやすさを重視した鎧をまとい礼拝堂をでる。そして、老執事が呼んだと思われる黒服とメイド計六人が個々に武器を持って立っており、リアを先頭にして歩んでいく。


「――さん! ユキさん! 大丈夫ですか!」

「……ん、ん―……ア、アリ……ス?」

 黒騎士と衝突してしばらく気を失っていたユキがアリスの声に反応して目を覚ました。

「はい、そうですよユキさん。ケガはしてないみたいです」

「そう……。それより咲妃は!? あの狐はどこに!?」

「咲妃なら、さっき神夜が助け出したよ……」

「! 俊! ケガはないの!?」

「あーおかげさまで」

 大口径のライフルを杖代わりにして立ち上がった俊はユキとアリスの側に歩み寄る。

「それより、神夜が助け出したって言ったけど……あのあと神夜が来たの?」

「来たのは来たが―……なんと説明したらいいのやら」

 説明に困った俊は首をかしげて口を紡ぎ黙り込む。

「と、とりあえず助かったのならいいじゃないですか! わたしたちも早くここから――」

「待って、アリス! このタイミングでメッセージが届いた……いったい誰から?」

 険しい顔つきでユキは新着メッセージを開き、送り主の名前を見て驚愕する。

「えっ? 神夜から?」


           


「――離しなさい! いいから離しなさいよ! この堕狐!」

「強情な花嫁さんですねー。少しは静かにしてください。敵に見つかりますよ」

 礼拝堂から転移して抜け出した狐は咲妃を抱えたまま、屋敷にそびえ立つ木々の中へと逃げ込み軽い身のこなしで木の上に登って枝を蹴り別の木へと渡って移動していた。

「構わないわ!」

「はぁ―……ここまで強情な人は初めてですよ。ほとほとあきれます」

「ため息をつくなー! あ、あんたみたいな紳士ぶった獣人はあいつに……神夜に倒されればいいのよ!」

「ほう。で、その神夜という人はいったいどんな方で?」

「か、神夜はただの幼馴染みで頼りになる奴だけど、ちょっとイジワルでどこか人とは打って変わるような人で生真面目だけどあたしの心を温めてくれる大切な人」

「そうですか。激烈な告白をありがとな、咲妃」

 狐は素顔を隠していた狐の面を軽くズラした。そして、雲の隙間から月光が照り付け仮面の中の素顔が見え、咲妃はその素顔を見た途端、自然と頬が赤く染まり瞳から涙が零れ落ちた。

「――バカっ! バカバカ、神夜のバカ!! 遅すぎなのよ助けに来るのが!」

「悪かった。悪かったって咲妃」

「ホント神夜のバカ……誘導尋問して来るなんて神夜のくせに卑怯よ―……」

「俺も驚いたよ。咲妃が俺のこと、そう想っていてくれるなんてよ」

「……でも、ありがとう神夜。助けに来てくれて……信じてたよ」

「あー……。……! 咲妃、一度ここで下りる」

 俺は、咲妃を抱えたまま木の上から下り、咲妃を下して二人して茂みに身を潜める。

「! ケルベロス! それもあんなに」

 俺と咲妃から見て十数メートル先の林道には、体長五メートルはある数体もののケルベロスが喉を鳴らして辺りに目を光らせていた。

「もう追いつかれたみたいね……。ねえ神夜、ハサミか何か切れる物、持ってる?」

「ん? ハサミは無いが短剣ならあるぞ。てか、アイテムストレージから出せるはずだろ?」

「……ないの?」

 咲妃はうつむいて小声で何かつぶやいた。

「は? 今なんて言った?」

「だから今、使えなのよ……。アイテムストレージも魔法も装備を変更することさえも。あたしがリアに反抗できないようにってことで牢に閉じ込められている間に差押えの呪いを受けて……」

 差し押さえか―……。確かレイドイベントで一時期アイテムを使用するモンスターが現れたときに魔術師が使用できた呪いだ。でも、その効果は一時的なもので効果時間は大体十分ちょっと。連発するたびに効果は薄れていくからほとんどが終盤か序盤で使われるのがセオリーだ。ほかにも、効果を無くす方法としては術者本人を倒すという方法だ。これは一般的に使用される一番の対処法だな。

話は変わって、咲妃にかけられた呪いの持続時間だ。いくらなんでも効果の時間が長すぎることから察して、術者は相当な魔力の持ち主かリア本人と考えていいだろう。

「神夜? どうかしたの?」

「あーいや、なんでもない。ほらたまたま持ち合わせにハサミがあったから使えよ」

「うん、ありがとう神――キャッ!」

ハサミを咲妃に渡した途端、咲妃の手に電流が走りハサミが咲妃を拒絶した。

「だ、大丈夫か咲妃?」

「うん、大丈夫。それよりハサミが使えないんじゃあどうしよ。……やっぱりあの手しかないかな……。神夜しばらくの間ケルベロスの行動を見張ってて。あと、振り向いたら殴るよ」

「え? お、おう分かった」

 咲妃に言われるがまま、俺は十数メートル先にいるケルベロスの行動に目を引かせた。そして、少し行ったところから衣類を破くような音が聞こえてきた。ま、まさかな……。とりあえず、俺も今のうちにやれることをしておこう。

 メッセージボードを開いた俺は、手元に現れたホロウキーボードを打ちまだ屋敷のほうにいるユキたちにしかできない仕事の依頼を託したメッセージを転送した。

「神夜、ありがとう。もういいよ」

「そうか。結構早くおわっ! な、なんだよ咲妃! その格好は―!?」

 振り向くと、そこにはプリンセスドレスの心髄ともいえるフリルのロングドレスを破き、ドレスの中に隠していたと思われるミニスカートのドレスを露に、スカートから覗くおみ足を包む白ニーソックスは同色のガーターベルトでとめられていた。

「な、何か変かな?」

「いや、変っていうかそのー……ぶっちゃけ目のやり場に困る」

「じゃあ見なきゃいいじゃんかー。とりあいえずここから離脱しようよー」

「離脱しろにもケルベロスを何とかしなきゃならんだろうが!」

 目をつぶりながら俺は隠れていることを忘れてつい、大声を張り上げてしまった。

『! いるぞ! ケルベロス、火炎放射、発射用意! てぇー!』

「やっば! 咲妃逃げるぞ!」

 再び狐の仮面を被り獣人化した俺は咲妃を抱えてその場から離れようとした途端、赤く燃え盛る炎が草木を焼き尽くして眼前を通過する。

 すぐに俺は踏み止まって索敵スキルを発動し後ろから歩み寄ってくる敵の数を割り出した。

 人が六人、ケルベロス数体か。それに遠くから強大な魔力反応……これはリアか? 接触だけは避けたいね。でもその前に目の前のこいつらを片付けるか。

 俺は咲妃を下ろし後ろに隠れるよう指示する。そして、アイテムストレージから白太刀『白桜龍・極氷』を取り出し腰に納刀する。

「ようやく見つけたぞ怪盗風情が」

「やれやれ。とんだドジを踏んでしまいましたねー私も。でも時間がないので早急に片付けさせていただきます」

「大口をたたくのもそこまでだぞ。我々はリア様に雇われた使用人の中でも選りすぐりの戦闘力を誇る使用人だぞ。さっき倒した奴らとは打って変わるぞ!」

 ケルベロス数体を従え白銀剣、ハルバード、マスケット型魔砲銃を手にした黒服とメイドが手にする武器を構える。

「来るなら早くしてください。少なくとも全員相手でも勝てる自信がありますけど」

「! いちいち癇に障る野郎だ!」

 頭に血が上り、冷静な判断力を失った一人の黒服が手にするハルバードを構えてただがむしゃらに突っ込んできた。

 矛先には鋭利な槍に棒の側面には斧を持つハルバード。振り降ろし頭をたたき割るのも、正面から突くことも振り回して広範囲に攻撃することもできる万能性を持つ。その特性を生かすように、黒服は俺の頭上高く跳躍しハルバードを構え振り降ろしてくる。

 黒服から見て『手持ちの武器を構えていない。勝負は着いた』とでも思っているような表情を浮かべてやがる。

 バカな奴だ。

 武器を手にすることなんて最初から考えちゃいねえだけだ。お前らみたいな三下ごとき素手と魔法だけで十分だっていうことだ!

 頭上近くまで迫ったハルバードの刃を、ただ身体を少しずらしただけで回避した俺は、刃が地面に着く前にハルバードの柄を左手で掴み取り力強く引いた。そして、右手を魔力で硬化させ引き寄せた黒服の顔面を殴り地面に押し倒す。

「あと五人と数体……。そちらから来ないならこちらから行きますよッ!」

 血に染まった手袋を脱ぎ去り、替えの手袋を右手に被せ残り五人となった使用人たちとの間合いを詰めた俺は、動きについていけなかった白銀剣を持った黒服の心臓部を右手で貫き引き抜く。そのまま、手から離れた剣を手にしもう一人の黒服目掛け投げつける。

「く、来るなーっ!」 

 一瞬の出来事で恐怖を感じたメイド二人が手にしていたマスケット型魔砲銃を構え、迷いもためらいもなく発砲する。

 普通、銃口から飛び出した弾は銃声が聞こえた頃には、狙った場所を貫いている。しかし、それはあくまで常人の場合だ。俺みたいに高速で襲ってくる斬撃を受け止められるほどの動体視力の持ち主なら、飛び交う弾丸なんて飛んでいるハエを掴むようなものだ。

 マスケット銃のコックが下ろされ銃口から属性力を持った弾が飛んで来るのを見切り、一発だけ指の間で飛んできた弾を掴みメイドの持つマスケットの銃口に投げ入れる。

 投げられた弾は、大気を裂いてメイドの持つマスケット銃の銃口に入るが、その勢いは止まらず、銃身を破壊し右腕の肉を抉った。

「て、撤退! こんなバケモノに勝てるはずがない! 総員、撤退!」 

 わが身がかわいいのか、リーダー格と思われるメイドがその場にいるメイド二人とケルベロスに撤退命令を下した。

 おめおめ逃げられちゃこっちも堪ったもんじゃない。

 全員生きては返さない!

火炎魔法(フレム・マジック)超高熱焔線拡散砲(ヘルへパイトス)”」

 右腕を前に突きだし、自身の両側に朱い光球を数個出現させた俺は開いていた右手を閉じた。それを合図に光球から摂氏何千度もある熱線が放出され背を向けて逃げるメイドとケルベロスの胴体を貫いて行く。遠くから聞こえる断末魔が木々に反射してこだまする。

 敵反応が無くなりこの近くにはもう敵はいないようだ。これで全部おわ――。


『へぇあいつらを片付けたんだ。君すごいねー』


 声のした方を振り向くと、そこには龍の翼を背に生やし黒の鎧に身にまとったリアが紅い月に照らされて宙に停滞していた。

「バカな……索敵網には反応が無かったはずだ……」

「気配を消してたんだよ。単純だろ? に、しても君強いねー部下にほしくなっちゃったー。ねえ僕のもとで働いてみないか? 今なら三食昼寝付きだよ? 給料だって他の使用人よりもはずむ」

「あいにくですけどその気はありませんよリア。さっさと貴方を片付けてこの国から出ていく」

「僕を片付けるだって? 面白いこと言うねー少々図に乗っているみたいだ。いいよ。僕の能力を一つ見せてあげよう。魔力解放『我が肉体に流れし赤龍の血よ。我に力を。龍化“赤龍鎧(ドラグ・リュスティング)”』」

 肉体強化の魔法詠唱かと思ったが違った。

リアの足元に赤い魔法陣が召喚されリアの身体を陣から立ち上った炎に包まれた。そして、炎が消えた途端、リアの全身を赤龍の鱗から精製されたと思われる龍鎧のフル装備で俺の前に現れた。

「咲妃はこの力の一部を見せたけどフル装備を見せたのは始めてだ」

「そうかい。でも俺にはそんなの着けても打ち砕くだけだ!」

 地面を蹴り上げた俺は、右手を硬化させ龍鎧の腹部を殴りつける。

「今、何かしたかい?」

 腹部を殴られたはずのリア平然とした態度で立っていた。少なくとも俺は全力でやった。加減など一切していない。なのにこいつは……!

「いいか狐! 本当のパンチというものはこうやるんだよっ!」

 カチャリと音を立てて龍鱗を纏った右手を握ったリアを俺の画面に拳を振りかざす。避け切れないと察した俺はとっさに襲い来る右手の手を硬化させた右手で受け止める。少しでも判断が遅れたら首の骨が逝ってたかもしれん……。

「よく受け止めたねーいい反射神経だ」

「そりゃどうも!」

 右手を滑らせリアの右手首を掴み、左手で胸座の出っ張りを掴んで持ち上げ地面に叩き付け、次は左手を硬化させリアの顔面に振り降ろした。

 我ながら荒い二コンボだ。

 手ごたえはあったがこの感触、鎧じゃねえな。地面か!

「ご名答! なかなか激しいコンボだったよ! でも、それじゃあまだ甘い!」

 転移魔法で、瞬間移動でもしたのだろうか。リアは立ち上った砂煙を利用してリアが俺の隙を突く。

「ッ! かわし……切れん!」

 龍鎧をまとった右脚から刳り出される回し蹴りが右肩に触れた途端に、身体がくの字に曲がり力任せに押され飛ばされた。

「! 神夜―っ!」

 リアとの攻防戦を見ていた咲妃が不意にも俺の名を大声で叫んだ。

「? 神夜だと? 何ばかなことを言ってるんだ咲妃は」

「そう叫ばなくても俺は無事だよ咲妃。あと、名前ばらすなよな!」

 砂煙を腕の一払いで掻き消した俺は、ずれた狐の面を戻し素顔を隠しリアの前に歩み寄る。

「まさか君だったとはね……どうやってこの国まで来た? 転移陣は封印されているはずだけど?」

「なーに。お人好しの団長から貰った召獣笛で着たまでよ。それより陣を使えなくしたのがあんたらだったとは」

「君に来られちゃいろいろめんどうだったからねー」

「だったら初めから招待状をよこすなっ!」

 腰に納刀していた白太刀を抜刀し刃を晒す。

鞘から抜かれた白太刀の刃からは氷点下はある冷気を放ち、辺りの空気を凍てつかせていく。

「さっさと終わらせるぞリア!」

 白太刀を構えた俺は地面を蹴り上げ一瞬にしてリアとの間合いを詰め上げ、龍鎧の腹部を斬り捨てる。しかし、さすがの硬さゆえに鎧に多少の傷を付けることしかできず、生身の肉体には傷一つ入っていないだろう。

「ふんっ。なかなかの切れ味ではないか。でも、その程度じゃあ僕にダメージは通らな――」

「バーカ。さっき斬られたところをよく見やがれ!」

「ッ! 斬られたところが凍っているだと……! その太刀の能力か?」

「ご名答。白太刀の能力“瞬間凍却(フリエレン・モーメント)” 斬りつけた場所を一瞬にして凍らせることができる」

「……白桜龍が持つ能力とは厄介や刀だなーっ! 火炎魔法“イーラ・イラプション”!」

 勢いよく握りしめた拳を地面に叩きつけた途端。地割れが発生し熱がこもった赤い光が見え始めた。その光の正体は、地下深くに眠るマグマだった。魔法で生み出したにしろマグマはマグマだ。触れただけで肉は焼かれ消し炭同然だ。

 だが、今の俺にはそんなの通じない。この白太刀の前ではすべてが……凍る!

斬撃剣技(アタック・オン・ソードスキル)“タンペット・ニパス”!」

 氷点下の冷気を纏わせた白太刀を高々と振り上げ、迫りくる地割れと波打つマグマに向かって振り降ろした。刃に纏まっていた冷気は斬風に乗って大気中を進んでいき、何千度もあるマグマを一瞬にして凍てつかせていき道中には大小異なる氷柱が連なる。

「なっ! 炎が氷に敗けるなど……! 火炎魔法“イーラ・イプ――”」

 右手を手前に突き出し赤い火属性の魔法陣を召喚するも、吹き付ける斬風によって掻き消され鎧に傷がついていき徐々に凍って行く。斬風を耐え抜いたリアは再び陣を召喚し氷結を溶かそうとした途端、ガスッ、と突きだした右腕を冷風で発生した氷柱が貫く。氷柱の勢いは止まることはなく腕のみならず強固の鎧で守られている全身を氷柱が容易く貫きリアを氷柱の中に閉じ込める。

「バ、バカ……な……」

「これで終わりだリアッ!」

 白太刀を逆手に持った俺は大小異なった氷柱の間を掻い潜ってリアとの間合いを詰め上げ、左足を軸にして硬化させた右脚で氷漬けになったリアを蹴り崩し木端微塵に打つ。

 砕け散った氷は空気中で光の粒子となって消えて無くなり、道中に連なる氷柱も次々に破裂して跡形もなく無くなった。

「神夜。終わった……の?」

 木の後ろに身を潜めていた咲妃が姿を現し俺の側まで歩み寄ってきた。

「あー全部終わったよ。さあここから早く出よう」

 本当に全部終わったんだ……。あっけない最期だったなリア。あ、精々あの世で閻魔さまにでもみっちりしごかれるんだな。

 俺は狐の面をストレージに収納して咲妃の手を引いて少し開けた林道を目指し始めた。


『これで終わり? バカを言うな。こんなのただの序章にしかすぎんー』


 どこからともなく声が聴こえ、眼前には林道への道を閉ざすかのように業炎が立ち上り次第にその炎は俺たちを閉じ込める檻となった。

「神夜……どうなってんの? リアは倒したんだよね?」

 狂気に堕ちかけた咲妃が俺の腕にぎゅっと抱き着き何度も問いかけてくる。

『倒されたさ。でも、この程度で僕が死ぬと思うかい? “純粋な心の結晶(ピュアハート)”を持つ僕はたとえ肉体が砕けようとも何度でも復活する!』

 業炎の檻の一部が裂け、黒マントと動きやすさを重視した鎧をまとったリアが、平然とした態度で再び俺たちの前に現れた。

「そう怖い顔をするなよ神夜。あーもしかして僕を倒したとでも思ったの? こりゃ傑作だ。“ピュア・ハート”には蘇生、治癒の能力もあるんだ。でもこれには力の限界があるけどね」

「そうか。限界があるなら何度でも貴様を斬るまでだ!」

 ストレージに納めた狐の面“獣狐のお(マスケラ・ワービースト)”を装備し白太刀を鞘から抜刀し構える。

「まあそう焦るな。これ以上ここを荒らされたら庭師の仕事が増えるだろ。だから場所を変えさせてもらうよ。――転移っ!」

 両手を地面に着いたリアは自身の魔力を地に流し込み、囲っていた炎を操り五芒星の魔法陣を作り上げ俺たち二人もろとも別の場所に転移させた。


 強烈な光が目の中に入ってきた。

 ここはどこだ? 

 少なくとも朝と夜が逆転するような場所ではないようだ。それにこの内装……リアの屋敷か?

『ようこそ。僕の城へ。歓迎するよ神夜、そして我が愛しの妻、咲妃よ』

 声がした方を向くと、祭壇上にたつ玉座にふんぞり返るリアがおり彼の言葉を聞いて今はっきりと自分たちがいる場所が分かった。

 単純で明確。ここは“ラッテ・イストワール”の中心に建つイストーリア城さ。それも最上階にある王宮だ。

「……俺たちをここに呼んでどうするつもりだリア。国王として俺たちを裁くのか?」

「国王としてではないぞ。魔王として僕が貴様に裁きの鉄槌を下すっ! 魔力解放! “略奪”の名を持つ僕の前にひれ伏すがいい!」

「なっ!? 今なんて――」

 玉座から立ち上がったリアは瞬間的に驚愕した俺の前に姿を現し、胸元に手を這わせ

「スキル“空圧砲(エア・バースト)”」

 リアの手のひらに圧縮して集められた空気が一瞬にして弾け飛び胸骨が圧迫され肺の中の酸素が全て抜かれる。弾けた空気の勢いは凄まじく右脚を踏み締めて減速を試みるも勢いは止まらず扉付近の壁まで飛ばされてようやく止まった。

「神夜っ!」

「おーっと咲妃。君を彼のもとに行かせるわけには行かない。しばらくの間眠ってもらうよ」

 咲妃の眼前に近づいたリアは咲妃の口を塞ぎ意識を奪った。

「て、てめぇ―……咲妃に手ぇ上げるなんて……何考えて……」

「こうするんだよ。転移」

 意識を失った咲妃を抱え祭壇へと転移したリアは、咲妃を魔法で宙に浮かせ指を鳴らして魔法陣を召喚し、陣から下りてきた手錠の付いた二本の鎖で咲妃の両手首を縛り、目を覚ました時その場から動けないようにした。

「これでいいかい? 神夜?」

「リア、貴様ーッ!」

 乱れた呼吸を整えた俺は壁を蹴り上げ鞘から白太刀を右手で抜刀し姿勢を低くして祭壇にいるリアに向かって走った。

「やれやれ君も短気だねー。でも僕は嫌いじゃないよ。そういうの。じゃあまた一つ面白いものを見せてあげよう。魔力解放! さあ血に飢えた僕の魔武器よ。今その姿を現せ! 武器召喚、八つ裂き槍鋏“フォルフェクス・クラーケン!”」

 亜空間に手を入れ中から白銀のランスに八つの刃を武装した武器を取り出し、手持ちの引き金を引き閉じていた刃を開く。

「な、なんだよその武器はッ!」

 命の危機を感じ取った俺は、白太刀の刃先を床に向け突き刺し力任せに横に薙ぎ払い真横に避ける。

 鋏刃の範囲攻撃圏外から離れた途端、八方から刃が振り下ろされ空を斬り裂く音と刃と刃がぶつかり合って金属音が生じた。

「いい反応だ。そのまま突っ込んで八つ裂きにされればよかったのに」

「そう簡単にやれられてたまるかよ。……それよりその武器はなんだ? 見たことも訊いたこともないぞ」

 俺が知る中ではここが“SOW”の世界だということだけであり、武器の種類やアイテムの種類はほとんど頭の中に暗記されている。しかし、今装備している狐の面のようにゲーム時には無かったアイテムがこの世界には幾多数存在するとなるとここは類似の世界と言い換えねばならない。それにリアが持っている武器、槍鋏“フォルフェクス・クラーケン”あんなの見たことも訊いたこともない。ましてや鋏型の武器というのも“SOW”には実装されてはいない。

 つまり攻略方法も分からない道の武器ということだ。

「ほう。もうこいつの分析をしているのか。いいよ、教えてあげる。こいつは甲殻類の超特級危険種の鋏と僕の魔力で創られた武器でねーどんなものでもバッサリ斬り落とす。いうならば万物両断だね」

「防御力なんて無に等しいってことか……おもしれー!」

 白太刀を構え直した俺はその場から瞬時にリアの頭上近くまで跳躍し、白太刀の刃に冷気を纏わせ力任せに振り降ろし冷斬風を起こすも、リアは槍鋏を横に持ち替え盾代わりにして斬風を受け流す。

 よし、計算通りだ。

 見たところ槍鋏は他にも退魔効果のある聖銀やオリハルコンなどのレアメタルを合わせて創られていると見た。それにあの八本の刃さえどうにかできれば勝機はあるっ!

 そして、奴は“イージス”を展開するのではなく冷斬風を槍鋏で受け流した。俺の白太刀はすべてを凍らせる。

 ならばここでッ!

「武具召喚。黒太刀『黒桜龍・劫火ッ!』」

 白太刀で俺に向けられた槍鋏の槍先を薙ぎ払って直撃を避け範囲攻撃外へと移動し、白太刀を鞘に納刀する。そして、黒ずんだ鞘と武器を入れ替えすぐさま黒太刀を抜刀する。鞘から抜かれた黒太刀は刀身にゆらゆらと揺れめく焔を宿す。

「ここに来て武器を取り換えるとは愚かな。そのまま斬り裂いてくれ――」

「バーカ! 貴様の武器のありさまを見やがれ!」

「! や、刃が開かな――!」

 手持ちの引き金を引いて八方に開く刃を開こうとするも、冷斬風で急激に冷やされた関節部分が瞬間的に凍結されていた。

「これで貴様も終わりだ。あっけなかったなリア」

「終わり? いいやーまだ始まりにしすぎない! 絶対防御壁“イージス”展開っ!」

 範囲外から一気に槍鋏の範囲内へと入りリアの懐に潜り込んだ俺は、焔を宿した黒太刀を斬り上げるが、リアは左手の人差し指にはめた“ピュアハート”を輝かせ絶対防御壁“イージス”を展開して身を守る。

「チッ……やっぱり堅いなー……」

 奥歯を食いしばり力任せで“イージス”を断ち切ろうとするもヒビ一つ入らない。

 黒太刀の切れ味は奴が持つ魔武器とほぼ同じくらい鋭く、こいつも一種の万物両断。防御など無に等しいのに。それでもなお“イージス”を断ち切れないとなると厄介なことだ。

 刃を滑らせすかさず後ろに後退し黒太刀を構え、リア攻略を模索する。

ただでさえ、あの魔武器の広範囲攻撃で手を焼いているのに絶対防御壁を展開できる指輪ときた。それに奴にはまだなんらかの能力を隠し持っているはずだ。

“略奪”の名を持つ魔王か……。以前戦った魔王は“魂の支配”の名を持ってたっけな。略奪だから他人の能力を奪って自分のものにしてしまうのか? だとするとあの赤龍の力は……!

「! 神夜、君も察しがいいねー。さすがはギルドを張っているだけはある」

「な、なんのことだ!」

 心を読まれた? まさかな……ただの偶然だ。

「狼狽えているようだねー図星か。そう僕は今、君の心を読んだのさ。そして君は気づいた。僕の名の“略奪”の意味を教えるよ。僕の能力は吸血した相手の能力を奪い自分のものにすることが可能なんだよ。さっき見せた赤龍化は龍族の長がもっていてねー興味がわいたから殺して吸血して奪った」

「能力を奪うか……ホント厄介だなッ! 狐尾散開!」

 人一人分はある艶のあるきつね色をした狐尾を四分割してゆらゆらと揺らめかせる。一本一本の尾を自由に動かせる。やはり、尾の先まで神経が伸びているんだ。

 ならこれで!

 黒太刀の剣先をリアへと向けた俺は、心を落ち着かせるべく一度深呼吸する。そして、もう一度深く息を吸い込んだら肺に溜まった酸素を一気に吐き捨てて正面から突っ込んだ。

 ああやって立っている間にも奴は俺の心を読んでどのような攻撃をしてくるかわかったうえで身を守ってくる。その裏を返して攻撃してもその裏の裏を返されればこちらの負け。すなわち、死だ。

 それだったら小細工無用で攻撃するまでよ。

 槍鋏の広範囲圏内に入った俺は黒太刀の剣先をリアに向けて跳躍する。

 目の前には八本の手足を開いて獲物を捕らえようとするタコのように鋭利な刃を広げる槍鋏が待ち構えていた。そして、刃の届く有効圏内に入った途端、開いた刃八本が同時に閉じる。

 リアの目には無残にも斬り刻まれた俺の肉塊が映っていた。

「無様な最期だったな神夜。まああの世で僕と咲妃が幸せに――」

『おいおい。俺はまだ死んでねーよッ! 火炎魔法“超高圧熱線(プロメテウス)”』

 完全に閉じきったと思われた槍鋏八本の刃と軸となる槍先を黒太刀と四分割し魔力硬化させた狐尾で守りきった俺は左手を掲げ赤い魔法陣を出現させ摂氏何千度もある熱線を放つ。しかし、リアは熱線が通るであろう軌道線をとっさに見切りかわした。

 すぐに俺は四本の狐尾に力を込めて八方を閉ざす刃の囲いを開き再び距離を置く。

「な、なぜ生きている!? 確かに僕はお前を――!」

「斬り裂いたという夢物語を見たんだろうよ。見ての通り俺は生きているぜリア」

「……なぜだ……。なぜ貴様ら人間は僕たち悪魔、魔王よりも格段と力が劣るのにどうして対等に戦える!?」

「対等にか―……それは守りたいっていう気持ちがあるからじゃないかな? それと俺はこの世界では人間のようで人間じゃねえんだわ。こっちでの俺は人間ベースの天界人とエルフの混血種だ。覚えておきな!」

焦りを積もらせるリアのとの間合いを瞬時に詰め上げた俺は“イージス”を展開させまいと意気込み左手を魔力硬化させ、渾身の一撃をリアの腹部に打ち込む。

 まともに喰らったリアの身体は、くの字に曲がり微量の血がリアの口から吐き出されゆっくりと腹部を押えて後退していく。

 尽かさず俺は左手を伸ばしてリアの赤髪を掴んで手前に引き寄せ右ひざを上げて顔面を打ち、顔があがり背筋がのけ反ったところでリアの顔面を鷲掴んで後頭部から床に叩き付ける。

 黒太刀を掃い左腰にさす鞘に納刀しリアから距離をとった。

 まだ息はしている。さすがは悪魔の頂点に立つ魔王だけはあって頑丈な体つきだ。

「ま、まだだ……まだ僕は負けていない!」

 血を吐き捨てたリアはゆっくりと立ち上がり槍鋏の手持ちの引き金を二度引いて構える。引き金を引かれた槍鋏は閉じていた刃を開くも形状が先ほどまでとは異なっていた。

 軸となる槍先は伸び、八本の刃は開いているのか閉じているのか判断に困る曖昧な開きかたをする。

「無駄なあがきをッ!」

 納刀した黒太刀を再び抜刀し太刀先をリアに向ける。

「斬り裂け……。斬撃剣技(アタック・オン・ソードスキル)“怒れる鎖刃(コレール・ラムカデーナ)!”」

 右足を踏み締めたリアは衝撃に耐える体勢へと入り槍鋏の持ち手の手前にあるトリガーを引いた。すると、鋭利な鋏刃が一本、また一本と鞘から爆発音を立てて俺目掛け飛んできた。それも飛んできたのは鋏刃だけではなかった。刃の柄には回収可能か、あるいは追尾、束縛し刃を身体に絡ませ回収する際全身を裂けるようご丁寧に返し刃の付いた鎖が装着されていた。

 飛んで来る鋏刃の軌道を見切りながら黒太刀と四本の狐尾でいなして捌いていくも、鎖まで捌ききることができず服と手足、頬を掠めていく。

 捌かれ壁や床に刺さった鋏刃はリアの魔武器“フォルフェクス・クラーケン”へと回収されて何度も発射される。

「キリがねぇ!」

 腕を振る度に返し刃で掠めた傷から血が滲み出て神経を伝ってじわじわとした痛みを脳に伝える。

 こっちは五本に対してあっちは八本の刃を矢の雨のように発射してくる。そろそろ体力もげんか――!

 一瞬、全世界の時が止まったような感覚がした。

 撃ち続けてきた鋏刃の豪雨のようなラッシュは収まり、すべてが槍鋏の柄へと納刀されていた。

 いったい何が起こった? それにこの痛みは……脇腹からか?

 痛みが走る脇腹に左手を伸ばした。するとひんやりとした金属特有の冷たさと生暖かいぬめり気のある感触がした。

 ま、まさ……か!? 

 顔を下に向けるとそこには、右わき腹に白銀の槍が深々と突き刺さっておりそれもリアが持つ槍鋏の軸となる槍が伸びていた。

「ぐはっ! 伸縮……自在……だと?」

 脇腹から槍先が抜かれると夥しいまでの血が吹き出し俺の足元を血色に染め上げ、その中に俺の身体はゆっくりと膝から崩れ落ちうつ伏せに倒れた。

「く、くくく……アーハッハッハッ! なんて無様な姿なんだ! 滑稽だ。人間らしくこのまま僕にひれ伏せろー!」

 “ピュア・ハート”の治癒能力を使い全身の傷を完治させたリア高笑いしながら意識が朦朧とする俺のもとに歩み寄る。

「まだ意識があるみたいだけどそれも時間の問題かな? 死んだらあの世にいる母君と先に行っている君のお仲間さんによろしくいうんだよ。僕は咲妃と二人で幸せに暮らすからさ」

「あいつらが……あの世にか? バカいうなよリア……。あいつらがそう簡単に負けるかよ。あいつらは俺が知る中で最強のゲーマーであり最強の冒険者だ。死んでいるのは、お前のとこの使用人たちだ!」

「! デカい口をたたくなよ。この死にぞこないが―!」

 怒りに身を任せたリアは俺の頭を持ち上げ壁際に投げ飛ばし、壁に身体が寄り掛かった瞬間を狙って俺の顔面に蹴りを入れ壁深くに鎮めた。

 今の一撃で俺の意識は遠のいた。

 

           *


  ――“ラッテ・イストワール郊外・リア邸内奥の教会・礼拝堂”――


 時を遡ること数分前。

 狐もとい神夜からの攻撃を受けて気を失っていたユキ達は各々に目を覚ましてこれから教会の外に出て行った咲妃たちを追うとしていた時、ユキ宛に神夜から一通のメッセージが届いた。

「えっ? 神夜から?」

 メッセージを受け取ったユキは礼拝堂内を見渡し近くに送り主である神夜がいるのではないかと思い辺りを見渡すも人影はなかった。

「おいユキ。ほんとに神夜からなのか?」

「うん。送り主が神夜だからね」

「でもまだこの国に入ったという連絡は受け取ってませんよユキさん」

「そうだけど……とりあえず読んでみるね」

 メッセ―ジの封を解除したしたユキは中に同封されていた手紙の文面に目を通した。

『ユキ達へ。急にお前らを殴ったりしてすまない。これにはどうしても事情があってな。説教等はすべてが終わってから訊く。それでお前らに頼みたいことがある。屋敷のどこかに咲妃に“差し押さえ”の呪いをかけた魔導師がいるはずだ。そいつを見つけて倒してくれ。そすれば咲妃にかけられた呪いは解けるはずだ。それと、無事依頼を達成したら宿泊していた宿前で合流しよう。それじゃー』

 文面を読み終えたユキは手紙をストレージに納めとじた。

「あの狐が神夜さんだったなんて……」

「やっぱりか……どおりで、初対面なのに俺の名前を知っているわけだ」

「えっ? 俊のこと知っていたの!?」

「お、おー。あいつが『そんなんじゃ俺には勝てないぜ俊』って言ったからそこでピーンと来て神夜の名前を言おうとしたら思いっ切り腹部を殴ってきやがってよー。この借りはぜってー返す」

 両手を打ち鳴らし怒りに身を震わせ俊は意気込む。

「それよりも早く咲妃さんにかけられた呪いを解きましょう、ユキさん、俊さん」

「そうだな。ユキ。この屋敷のマッピングできるか?」

「もちろん。索敵スキル発動“サーチ・アクセス”」

 魔導書を開きページから青白い光を放つ球体を出現させ、エメラルドグリーンに変わったユキの瞳の中にはクモの巣状に張り巡らされたネットワークを利用して見えたモノを球体に転写していく。

「今見えているモノを転写しているけど神夜と咲妃の位置だけが分からない。それと強大な魔力反応が一つとそれに劣る反応が八つ、それと微力な魔力反応が数千」

「それなりに近いか―……」

「で、でも強い魔力反応が九つもあるんですよ! わたし達三人で勝てるでしょうか?」

「勝てるよアリス。私たちなら」

 本を閉じ索敵を止めたユキは不安になりつつあるアリスを宥める。

「そんじゃあそろそろ移動し――」

『おっ! リア様の情報通りいやがったぞウィザード! 魔導師と銃士、そして人形使いがよ』

『うれしそうですねーザング。では派手にやり合いましょうか』

 魔導書とハルバードを持ち燕尾服を着た二人組がユキ達のいる礼拝堂に入ってきてきた途端、二人は単縦陣をとり武器を構える。

「殺気ビンビンだな。ユキこいつらは……」

「うん八つあるうちの二つ。すぐに片付けるよ」

 ストレージから俊は魔法銃“ヘカトンケルト”を二丁取り出しハルバードを持つザングに銃口を向ける。後衛職を担当するユキは魔導書を開きアリスはユキの護衛に入る。

「へー俺と殺り合おうってか銃士さんよ?」

「たりめーよ。んじゃ時間がないんでとっとと始めようぜッ!」

 地面を蹴り上げまっすぐ、ハルバードを構えるザングに突進する俊は姿勢を低くする。そして、ハルバードの刃が届く距離に入るとザングがハルバードを振るい俊に攻撃してくるもスライディングして股の間をすり抜けた俊はがら空きになったザングの背に狙いを定め魔法銃の引き金を引く。

 俊が持つ“ヘカトンケルト”のマガジンの中には今、電気属性の実弾が仕込まれていた。対人、対モンスター用としても役立つ電気属性は着弾した相手を麻痺状態に貶める追加能力を稀に発動し相手の運動能力を奪うことができる。

 リアとの戦闘になると思いマガジンに仕込んでいた俊にとっては予想外の相手に使うことになるとは思ってもいなかった。

 二丁の魔法銃銃口から数発もの電気属性を宿した弾丸がザングの背に向かって飛ぶも、ザングの後衛職を担当する魔導師ウィザードが張った水の障壁が邪魔をしその場で分散させる。

「知ってましたか? 電気は水に触れると分散するんですよ銃士さん」

「へっ! そんなこと知ってるよ! 先にテメーから!」

「おっと! お前の相手は俺だろうがーッ!」

 背を向け魔導師ウィザードに銃口を向けて走る俊の背を狙ってザングがハルバードを振りかざす。

「俊さんっ!」

 俊の命の危機を感じ取ったアリスはユキよりも早く動いて左手にはめた指輪から鋼異常の強度を誇る糸を飛ばしてザングの全身を縛り、動きを封じた。

「な、なんだこの糸は!?」

「このまま斬り裂く! スキル“スレッドカリブス”」

 糸を断ち切ろうともがくザングの全身を縛っていた糸の締め付けが強まり徐々に全身の血管を圧迫していき服を裂いて肉に食い込む。

「フィニッシュッ!」

 アリスが指を閉じ伸ばしていた腕を引いた途端、ザングを縛る糸はより一層深く肉に食い込み全身を斬り裂く。ザングは悲鳴を上げることなく斬り裂かれブロック状の人肉となって無残に散った。

「ザング! このアマッ!」

 ザングが倒されたことにキレたウィザードは俊からアリスに魔法攻撃狙いを変え、日属性の魔法詠唱し数個もの炎球をぶつけようとする。

 瞬時に魔法銃のマガジンを抜き取り別の属性弾が入ってマガジンを入り弾を転送した俊は炎球に向かって連射し全てを打ち落とす。

「なっ! あの短時間でここまで動けるなんて!」

「ユキ! こいつに格の違いを見せつけてやれっ!」

「うんっ!」

 魔導書を閉じたユキは数十メートル離れたウィザードとの間合いを一瞬にして詰め上げ両手を這わせる

「貴方はとても優秀な魔導師。でも前衛職の人に頼りすぎた。それが敗因。氷結魔法(アイス・マジック)“零度の牢獄(アプソリュゲフリーレン・カンケル)”」

 パキーンッ! と空間と時間もろともすべてを凍結させたよう音を発してウィザードを絶対零度の氷柱の中に閉じ込めた。そして、ユキが背を向けて歩き出すと氷柱にヒビが入って行きウィザードの肉体ごと氷は砕け空気中に細かく散乱した。

「魔導師は倒したから咲妃にかけられた呪いは解けたはず」

「だといいが……まだ反応は七つと数千だろ? 今ので解けたとは思わんけどなー」

「……確かに。じゃあ残りも――」


『その必要はありませんぞ、ユキ様、俊様、アリス様』


 カツッカツッと革靴の底を打ち鳴らして長い廊下を歩いて礼拝堂内に入ってきたのはリアの使用人の一人、白髪初老の老執事と、燕尾服を着た六人もの若者が入ってきた。

「いやはや。貴方方のギルマスがこうも派手にやってくれるとは思ってもいませんでした。おかげでこちらは大損害ですぞ」

 老執事は不気味な笑みを浮かべながら話を続ける。

「なあじーさん。早くこいつらを殺ってもいいか?」

「これこれ官僚ともあろうお方がそんな下品な言葉を発していけませぬぞーミーレス様」

「いいじゃねえーかよ! 俺は早く殺りたくてウズウズしてんだよッ!」

 燕尾服の袖に仕込んでいたダガーを晒したミーレスは、老執事の言葉を聞かずして勝手に戦陣を切った。

「まずはお前から殺してやるよ、金髪の少女さんよー!」

「ッ! スキル“スレッドカリブス”」

 恐怖に屈服しそうになったアリスは、勇気を振り絞って左指に前に突き出して指輪から糸を飛ばしてミーレスの全身に絡みつきダガーの先が眼前に迫る前に動きを封じた。

「な、なんだ!? この糸は! ほどけ――」

「フィニッシュ!」

 絡みついた糸から脱しようともがくミーレスをよそにアリスは糸の縛りを一気に強くして、ミーレスの全身をバラバラに斬り裂いた。

 悲鳴を上げる隙を与えずにミーレスを倒したアリスは指輪の中に糸を収め一息ついた。

「ミーレスを一瞬で……執事殿、こいつら!」

「まあそう慌てなさらず。今のはミーレス殿が油断したからあーなったのです。いいですか。貴方方は国王であるリア様に選ばれた官僚なのです! 力はある。恐れることはないのです」

「それもそうだ……俺たちは選ばれし者だ! 全員でやればこいつらなんてゴミ同然だ! 武器召喚!」

 老執事の説得で燕尾服を着た若き官僚たちが各々に魔法陣を召喚して武器を手にする。

 手にした武器は、ハルバード、メイス、大剣にマスケット銃をもった官僚が二人おり、すでに三人かけているのにもかかわらず、アイコンタクトだけで陣形をとった。

「俊、アリス。細かい陣形は取らずに全員で前に出るよ」

「『当たって砕けろ……』かー。いつでも先陣切ってもいいぜユキ」

 魔法銃“ヘカトンケイル”に殺傷能力が高い対人用“ベネノ・ドルホ”の入ったマガジンを弾倉に詰め銃身に装填する。

「わたしもいつでもいいですよ。大切な人を救うのがわたしたちのお仕事ですから」

 左手に持った魔導書から三体の人形を召喚し、右手にはめている指輪の魔法石から出る糸と縫合させ宙に浮かせ人形の五体を操る。

「じゃあ……始めよう」

 手にしていた魔導書を閉じストレージに納め両手に冷気を纏わせたユキは、前衛職を担当する大剣とメイス、ハルバードの使いの間を瞬時に掻い潜ってマスケット銃の使い手の間に割って入り二人の方に触れる。

「チェック・メイト」

 触れた手を通じて纏った冷気が銃士二人の全身にまとわりつき、空気中の水蒸気を凝固させて氷柱の中に閉じ込めた後、空圧で瞬時に氷柱を打ち砕いた。

「なっ! 今に何が起き――」

「よそ見している暇があるのかよ!」

「ッ! しまっ!」

「遅いよっ!」

 大剣使いの眼前に現れた俊は左拳で腹部を殴る。

 殴られた剣士は腹部を押えて後ろによろつくも、俊は尽かさず顔面に右ストレートを決めそのまま蟀谷を鷲掴んで後頭部から床に叩き付ける。

「このやろーってなんだ、この人形?」

 背後からメイスを振りかぶって俊の頭を叩き割ろうとするメイス使いの頭部と背と足に三体もの人形がへばりついた。

「 “固有結界”展開。スキル“人形爆魔(ドール・ボマー)”」

 メイス使いは縦横二メートルの立方体の結界に閉じ込める。結界内に閉じ込められたメイス使いはメイスを振るい結界を破壊しようとするも時すでに遅く。身体にへばりついた人形の腹部が眩しい光を放ちながら膨れ上がった。そして、メイス使いの断末魔を掻き消すほどの爆音が結界内で響き渡った。

「そ、そんな……俺たちをい、一瞬で……」

 ガシャーンッと手にしていたハルバードを床に落とした生き残った官僚は足を震わせて一歩ずつ後ろに下がって行き背を向けて逃げ出した。

「逃がしはしな――」

「まあユキ。ここは俺に任せろ」

 前に出るユキを差し置いて俊は“ベネノ・ドルホ”が装填された魔法銃を構え、狙いを膝に絞り躊躇なく引き金を引いた。

「っ!」

 俊が撃った弾は逃げた官僚の膝を貫き、走ることも歩く事さえもできなくした。

「あ、脚が―! こ、このや――! かっ! い、息ができ……な―……」

 床に這いつくばり最期のあがきを見せようとした官僚は撃たれた直後、自らの手で喉をしめあげもがき苦しみ力尽きた。

「な、何をしたの俊?」

「ん? あーただの毒殺だが? 今装填している弾は相手を掠めさえすればそこから即効性の毒が全身に回って死に至らしめるんだよ。スゲーだろ?」

 ホルスターに魔法銃を収めた俊は両肩を回し深呼吸して一息ついた。

「あとは、お前だけだな。老執事さんよー」

「ほっほっほっ、そのようですなー。いやはや貴方方のお力を見くびっておりましたよ。まさかたった三人でリア様がお選びになられた官僚様方を葬るなど予想しておりませんでした」

「その口調……まさかお一人で私たちを倒せるとでも?」

「えー可能かと。久々に血が滾りましたぞ若造ども! 能力解放“死人舞踏会(アンデッド・オルケーシス)”」

 ユキ達が持つ魔導書よりも一回り大きく分厚い魔導書を開き、タクトを持った老執事は地中から出てきたアンデッド一体一体を演奏者と見立て指揮を出す。

「こ、この爺さん。まさか死人を操る魔導師なのか!?」

「そうじゃない! この人は死霊魔術師! ネクロマンサーよ俊」

「ふははははーッ! 踊れ! 叫べ! 引き裂かれ! 若造ども! 我が能力をこの数千年の生涯で破った者などおりはせん!」

 先ほどまでの紳士的態度とは裏腹に老執事の口調が狂い始めた。

「し、俊さん! ユキさん! 死人相手どうやって戦えばー!」

「それもそうだ……銃で撃っても肉を焼いてもこいつらに痛覚は愚かすでに死人だしよ」

「今考えてるから待って!」

 お互いの背を守りながら四方八方から押し寄せてくるアンデッドを蹴散らして体勢と間合いを維持する。

(焼いてもダメ……凍らせてもダメ……斬っても撃ってもこいつらには痛覚がない。こんな時、神夜だったどうするかな?)

 迫りくるアンデッドの顔面や腹部を蹴ったり殴ったりして間合いを取りながらユキの思考が止まることはなかった。

(考えろ! 思考を止めるな! 絶対に策はある! ……斬ってダメなら押しつぶす?)

「ユキ! 何か思いついたか!? そろそろ手が限界だ!」

「あった、あったよ! 最善の策が! 俊、アリスを抱えて! 一度上に飛ぶよ」

「お、おう! アリス、ちょっとごめん」

 ユキの指示を受けて俊は小さな体で迫りくるアンデッドを殴り飛ばすアリスを抱えて天井近くまで跳躍する。ユキも俊のあとを追うように天井近くまで跳躍し

「――“多重層A.T.フィールド”空間内全域に展開!」

 ユキは身体を宙に浮かせたまま足元に何十層にも及ぶフィールドを展開させる。

「そんなものを張ってどうするつもりだ? 魔導師よ」

「このまま圧殺する。――ハッ!」

 ユキの右腕が振り降ろされた途端、全フィールドが一斉に勢いよく落ち始めアンデッドの骨肉を粉砕していく。

 礼拝堂内に群がったアンデッドを全て圧殺し終える同時にユキと俊、アリスは血だまりと化した床に下り立った。

 腐敗した臭いと血の鉄臭い異臭が鼻をつく。

「これであんたを守る肉のカーテンは無くなった。おとなしく降参しろ」

「まだ負けたわけではないぞ。死体があれば何度でもそいつを人形として操れる!」

 タクトを振るい、床から再びアンデッドを召喚する。

「……切りがありませんよ」

「やはり術者を先に倒すしかないか。ユキ。俺とアリスで道を作るからお前はあの爺さんを氷漬けにしてやれ!」

「でも……」

「いいから! 遠近戦を得意とするお前にしかできねえだろ」

「俊……うん分かった」

「よっし! やるか。アリスーユキをあの爺さんのもとまで導くぞ」

「――はいっ!」

 魔法銃“ヘカトンケイル”に空圧砲を装填した俊は再び迫りくるアンデッドの頭に狙いを定め引き金を引いた。

 銃口からは何十倍にも圧縮された空砲が発射され、腐りきったアンデッドの顔面を破壊し視界を奪っていく。

「片付けはわたしに任せてください、俊さん。人形召喚(ドール・サモン)“魔鎚士・ニョルニル”」

 血だまりと化した床に手を着き魔法陣を転写したアリスは、陣から一振りで数人は薙ぎ払えるではないかというぐらいずっしりとした重量感ある鎚を手にした重戦士を呼び出す。

「縫合完了! 俊さん! 下がってください!」

 前線から俊に下がるよう指示したアリスは右人差し指を引いて鎚を持つ腕を振り上げさせる。そして、右腕を振ると同時に人形は鎚を薙ぎ払って視界を奪われたアンデッドもろとも迫りくるアンデッドを一網打尽に片付けた。

「ユキさん! 今のうちに早く!」

「うん! ありがとう、アリス、俊」

 右手に絶対零度の冷気を纏わせたユキは、俊とアリスが空けてくれた道を走り抜けタクトを振る老執事との間合いを詰める。

「これで、終わりだっ!」

「し、しまっ――たとでもいうと思ったか? バカめ!」

「えっ? ッ!!」

 ユキの死角を突くように巨大な手がにゅっと伸びてユキを壁際まで殴り飛ばした。

「くっ! な、なんだ今の……?」

 拳で殴られたものの、壁との衝突を避けたユキは立ち上った砂煙を掃い老執事のほうを見る。

「なーに。今のは“アンデッド・オルケーシス”を発動している時、私を護衛する衛兵ですぞ魔導師よ」

「そんなのがいたなんて不覚……。でもいたって私の敵じゃないっ!」

 再び冷気を右手に纏わせたユキは迫りくるアンデッドの頭を踏み台にして、老執事との間合いを詰め上げる。

「こしゃくな!」

 タクトが振られ老執事から指示を受けた衛兵はアンデッドの波を跳躍してきたユキに目掛け巨大な拳を振るう。

「そうくると思った。だから先にこの腕を凍らせる」

 迫りくる拳を、跳び箱を跳躍する要領でかわしたユキは、衛兵の腕に触れていたほんの一瞬の間に腕全体を凍結させ打ち砕いた。

「なっ!?」

「これで全てを終わらせる! 氷結魔法(アイス・マジック)“零度の牢獄(アプソリュゲフリーレン・カンケル)”」

 衛兵と老執事の背後に回り込んだユキは、床に手を着き空気中の水蒸気を一瞬で凝結させ零コンマという極短い時間で老執事もろともすべてを凍てつかせた。

「これで終わった。あ、俊とアリスもいっしょに……。どうしよ……」

 老執事と衛兵、アンデッドは倒した。しかし、渦巻くアンデッドの中には俊とアリスがいた。そのことをすっかり忘れて敬拝堂内を凍結させてしまいユキは心中焦った。

「と、とりあえず助けに――」

 凍結との境目に一歩足を踏み入れた途端、氷漬けにされた者たちの氷が砕け細かい氷の粒子となって消え去った。

「あっ……俊、アリス……ごめんなさい……私、私……」

『何勝手に俺たちを殺してるんだよユキ』

 ポンっとアリスたちを殺してしまった罪悪感で心が浸ってへこたれたユキの頭を叩いた。

「えっ? あ、俊……ア……リス? なの?」

「たりめーだろ? 俺たち以外誰がいるっていうんだ。それよりさっきは危なかったぞー。いきなりお前が魔法となえたもんだからアリス抱えて天井まで跳躍して――」

「俊ーッ! アリスーッ! 生きててよかった―――っ!」

 

 俊とアリスが生きていた。

 

 その事実を知っただけでユキは俊とアリスに抱きついた。そして瞳からは溢れんばかりの大粒の涙が頬を伝っていく。

「ど、どうしたんだよユキー! お前が泣くなんてよー」

「だ、だって私……てっきり俊たちを……」

「もう過ぎたことだ。俺もアリスも気にしちゃいねーよ。なあ、アリス?」

「はい、気にしてませんよ」

「俊、アリス……。ありがとう」

「いいってことですよ。それよりも俊さん、ユキさん。あの祭壇で光っている結晶はなんでしょうか?」

 アリスが指差した方向に手の平サイズの空色をした正八面体の結晶が祭壇の卓上で浮遊していた。

 卓上近くに歩み寄り結晶を手にしたユキは、結晶からかすかに感じる魔力の波長を感じ取った。

「この魔力……咲妃かな?」

「そ、そんなのが分かるのかユキ!?」

「うん……あ、でもただそう感じただけだよ俊。とりあえず神夜が指定した場所に行こう。もうここにようはないし」

 結晶をアイテムストレージに納め、ユキ達は礼拝堂を後にして神夜が指定した“ラッテ・イストワール”で宿泊している宿屋に向かった。


           *


  ――“ラッテ・イストワール中央街・イストーリア城最上階、王宮”――


「ん、んぅー……あれ? あたし気ぃ失って―……。――そうだ神夜は!? 神夜はどこ!?」

 目を覚ました咲妃は、気を失うまでの記憶を漁り状況を整理して神夜の名前を呼びながら戦場と化した王宮内を見渡す。

「神夜ー! どこにいるの!? いるなら返事してー!」

『彼ならもうこの世にはいないよ、咲妃』

 呼吸を乱しながらも“ピュア・ハート”の治癒能力を使って戦闘で受けた傷を癒しながらリアが祭壇の階段をゆっくりと登ってきた。

「えっ? い、今なんて……神夜はもうこの世にいない?」

「あー。さっき僕が殺したよ。ほんと人間風情が魔王である僕に立て付いたのが運の尽きだったね。雑魚は雑魚らしく地面を這いつくばってろ」

 咲妃の側に腰を下ろしたリア深呼吸して乱れた呼吸を整える。

「……訂正しなさいよ……今の言葉」

「ん? なんか言ったか咲妃?」

「訂正しないよ! 神夜は雑魚なんかじゃない! 神夜はあなたが思っている以上に強いんだから! 今言った言葉、訂正しなさい」

「……確かに彼は強かった。この僕をここまで追い詰めたのは彼が初めてだ。でも……」

「えっ? きゃぅっ!」

 腰を上げ立ち上がったリアは瞬時に身動きが取れない咲妃の喉をしめあげ窒息寸前まで追いやる。

「彼は僕に負けたんだよ。所詮、追い詰めても負けたんじゃ雑魚は雑魚だ。訂正するまでもない。それても、君が彼の仇をとるか? 武器も魔力も差し押さえられている君が! この、僕に勝て――!」


『その汚ねえ手を離せよリア』


 咲妃の首を締め上げるリアの手を白の礼拝手袋をつけた者が掴み、ギシギシと骨と筋肉が軋む音が立つ。

「あー? 今誰に向かってデカい口叩いて――!?」

「ようリア。数分……そこまで時間経ってねえか。とりあえずその手を離せ」

 幽霊でも見たようなひどい表情をしたリアはすぐに咲妃から手を離してしばしの距離をとった。

「な、なぜだ!? なぜ貴様が生きている……確かに僕は貴様を殺したはず……」

「確かに、俺は脇腹を深く刺され出血多量。おまけに顔を蹴られたんだ。普通なら死んでいる。普通ならな。でも俺はこの世界じゃ人間紛いのような存在。いうならば特異体質だな。さりより第二ラウンドとっとと始めようぜリア」

 鞘に納刀していた黒太刀を抜刀しリアに向けて剣先を向ける。

「神夜……なの? 本当に?」

「本当だよ咲妃。俺は俺。十六夜神夜だ。とりあえず、すぐ終わらせてくるから少し待ってろ」

「すぐって……その傷ですぐには終わるわけないよ! だって……まだ血が出るし……」

「それもあるが、俺は大丈夫だ。これくらいの傷……どうってことはないよ」

「でも!」

「いいから! 俺の言葉を信じろ。すぐにお前を助け出すから」

「うん……分かった。信じてるよ、神夜」

 俺の言葉を信じた咲妃は少し安堵の表情を浮かべた。

 とはいえ、ちょっとかっこつけすぎたか。

意識があるとはいえ、これほどの出血量。止血はおろか内臓もズタボロだ。

左手で傷口を押えているから多少の止血はできているが、白太刀を使っての二刀流が使えない以上俺に勝ち目はない。

 さて、いったい何分……俺の身体が持つかで勝負が決まってくる。

ギッと奥歯を噛み締め右手に持つ黒太刀の柄を握りしめ戦闘態勢に入る。

「すぐに終わらせる……か。僕もナメられたものだな。ましてやそんな深手で僕を――」

「吹っ飛べ!」

 リアとの間合いを瞬時に詰め上げ、右脚を上げ腹部に蹴りを一発かましリアを壁際まで飛ばす。

 つまらない戯言は一切無視する。

 今の俺には時間が惜しい。

「不意打ちなんてやってくれるね! おもしろいッ!」

 槍鋏の刃を一本、刃の柄から引き抜き刃の尻目に柄をさし鋏刃を刀剣にして左手で構え振りかぶり振り降ろす。

 右手で黒太刀を逆手に持ちかえ襲い来る鋏刃をいなし軌道をズラし、再び持ち替えリアの首元に狙いを定め右手を薙ぎ払うも、黒太刀の斬撃軌道を見切ったリアは背を反す。

「ちっ!」

 斬撃を見切られカラぶった俺は、右脚を前に突き出して後ろに下がりリアとの間合いを取った。

「どうした? すぐ終わらせるんじゃなかったのかーッ!?」

 鋏刃の刀剣を槍鋏に戻して槍鋏を構え、八方に仕込まれた刃を開き、持ち手手前にあるトリガー引き八本もの鋏刃を飛ばす。

 ジャラジャラと返し刃の付いた鎖が鞘の中で束なると同時に刃が鎖と擦れ合う音が大気を震わせながら逃げ場をなくすように襲いかかって来る。

 黒太刀の峰を背に這わせた俺は、深呼吸して心を落ち着かせ、刃が届く許容範囲内まで近づいてきた次の瞬間。右腕に仕込まれ引き締め合っていたバネを解き放ち、八本の刃を同時にいなして鎖の間を掻い潜りリアに突っ込む。

「バカな! 同時にすべての刃をいなすなんて!」

 焦りを積もらせながらもリアは解き放った刃すべてを鞘に納めるべき鎖を巻き戻す。

 今の奴は隙だらけだ。“イージス”を展開される前に倒す!

 再び黒太刀の峰を背に這わせた俺は、リアの懐に忍び込み左足を軸に踏み締め黒太刀を斬り上げる。

 今ならまだ奴に刃が届く! いくら展開が速くとも強固でなければ防御壁など無に等しい!

「いっけ――!」

 傷口から血が噴き出すくらい叫んだ俺は右腕に力を込め、切り上げ速度を上昇させる。

「――焦るとでも思ったか? わが身を守れ! “イージス”展開!」

 焦りが消えたリアは左手の人差し指にはめた“ピュア・ハート”を輝かせ“イージス”展開する。

 黒太刀の刃がリアの腹部を捕える紙一重のタイミングで張られ斬撃を弾き返される。改めて“イージス”に触れてわかった。この壁の頑丈さは常軌を逸している。

 普通の防御壁は展開されて零コンマ数秒で強固な盾となる。しかし“イージス”は他の防御壁とは違った。零コンマの壁を突破し展開と同時に強固な盾となる。

 つまり“イージス”を展開される前に斬りかかろうとしても、すぐに展開されたらその攻撃は無効となりカウンターをくらうということだ。

「なっ!?」

「残念だったな神夜。そして、これはその褒美だ」

 まだ巻き戻し終ってない鋏刃を一本、適当な場所に飛ばしたリアは、まるで飛ばした刃に自分の意志があるかのように宙を舞い。

 スパッ! と、背後から襲いかかり俺の左頬を掠め壁に突き刺さった。

「い、今のはいったい……!」

「ん? あー今のは人形使いの技術を応用した技だよ。これがまた結構難しくてねー」

 ヘラヘラと笑うリアを見て悪寒が走った俺はすぐにリアから離れ呼吸を整える。

 今の技が刃一本程度を操るのならまだいい。だがもし、八本同時に操ったらどうなる……? 見切ってかわすか、黒太刀で受け流すかしてもすぐに背後からの攻撃だ。四方八方前後左右逃げ場を奪われた。

 いやまて。一つだけ、一つだけあの攻撃をかわす手段があるぞ。

「もう諦めたのかい? じゃあ殺してあげるね!」

 持ち手手前のトリガーを引き、八本の刃で俺を包み込むように鋏刃を飛ばしてきた。

 鋏刃は八方に飛び散ったのち俺を貫こうとして空を裂きながら弧を描いて的目掛け飛ぶ。黒太刀の斬撃が届く許容範囲内まで飛んできたところで俺は黒太刀を持った右手を床に着け

「空間転移ッ!」

 鋏刃が眼前に迫ってきたタイミングで空間を跳躍して刃の斬撃をかわしすこし離れたところに姿を現す。

「空間転移なんて……考えたね!」

 リアは左指を巧みに動かして飛ばした鋏刃の軌道を操り別の場所に転移した俺目掛け飛ばす。

 尽かさず俺は刃が身体を掠める前に空肝転移して別の場所に姿を現した。

「ちょこまかと動きやがって! さっさと殺されて楽になればいいものを!」

 転移しているうちにリアは俺の転移先を予測し始めた。移動すればすぐに鋏刃が襲い掛かってくる。そのたびに黒太刀で受け流してすぐに転移する必要性が出てきた。

 だが、これもあくまで計画通りだ。

 奴は心を読める能力を持つといった。

 それはすなわち行動の手先を予知するのと同じことだ。俺はあえてその能力を逆手に取り利用した。鋏刃を自在に操って攻撃してくるのなら一本一本を分散させることだって可能だ。それならば分散させ動きにばらつきが出たところを!

転移した途端、リアが予想して配置し飛ばしてきた鋏刃を黒太刀で鎖もろとも断ち切り再び転移して次々と分散した鋏刃をあらかた破壊していく。

「き、貴様ーッ!」

 怒りで冷静な判断力を失ったリアは分散した鋏刃の位置などお構いなしに残った鋏刃三本を操り俺目掛け飛ばしてきた。

 分散させたことにより刃の着弾には時間差が生じる。そこを狙って俺は黒太刀を振るい襲い来る鋏刃を切り上げから薙ぎ払って二本の刃を破壊して、最後の一本を縦振りで破壊し黒太刀の峰を左わき腹に這わせて“イージス”の展開速度を上回る速さで間合いを詰め上げリアの左腕を斬り落とした。

「――ぎ、ぎあぁぁぁぁあーッ! 腕が! 僕の腕が! か、神夜ー……貴様―!」

 鋏刃を全て失い、ただのランスと化した槍鋏を構えたリアは、背後にいる俺の喉元にランスの槍先を向けて突っ込んできた。

「 “イージス”が張れないお前などもう脅威ではない! 斬撃剣技(アタック・オン・ソードスキル)焔獄超終(ヘルフレム・オーバーエンド)”」

紅蓮の劫火を纏い大剣へと武器の形状を変えた黒太刀を片手で構えた俺は背を反して、空を貫いて突いてきたランスの槍先をかわし大剣と化した黒太刀の柄を両手で握りしめ

「これで終わり……だあぁぁぁぁーッ!」

 腹部から手を離したことにより傷口から血が滲み出始めジワリとした痛みが全身に走るが、俺は屈服しなかった。

 そして、黒太刀の剣先ががら空きとなっていた左胸を捕えそのまま右わきにかけ斜めに斬り落とした。

「――かはっ! ま、まさか……この僕が、こんな下等種族に負けるなんて……」

 大量の血を口から吐いて床に倒れる瀬戸際、斬り裂いたリアの傷から焔の斬撃波が生じて手ごたえがあったということを教えてくれた。

 黒太刀の大剣化を解き狐の面をストレージに納めた俺はすぐに咲妃のもとに駆け寄り、両腕を縛る鎖を断ち切り束縛を解いた。

「これで全て……終わった……」

 黒太刀を鞘に納めた途端、立ちくらみが襲いかかり床に倒れかけるも咲妃が抱きかかえてくれたおかげで床との衝突は免れた。

「――ありがとよ、咲妃……」

「そんなことより神夜の方が―! 早く治療しないと」

「あぁ治療もだが……早く……ここを出ない――」

 ドスッと鈍い音が俺の耳元で聞こえ、音とともに背中から激痛という電流が流れだし俺は床にひれ伏した。

「い、いったい……何が? まさか……! あの野郎ー……まだ生きて」

「その通りさ神夜……。この程度の傷でくたばるほど、僕は軟じゃないんだ……」

 深手を負い呼吸を乱してなお、右手には白銀の剣を手にしたリアがふらふらになりながらも立ちつくしていた。

「魔王である僕をこんなになるまで痛めつけた奴は死だ。死、あるのみだ……!」

「っ! 神夜はあたしが!」

「逃げろ……咲妃……お前だけでも逃げ……ろ……」

「やっ! 神夜を置いて逃げるなんてあたしにはできないよ!」

「いい覚悟だ……! 二人まとめてあの世に送ってあげるよ!」

 リアが剣を振りかぶった瞬間、咲妃は床に倒れる俺をかばった。


『君は彼に負けたんだよ。その真実を認めたなリア』


 どこかで聞いたことがある声がした。

 顔を見上げてみると、そこに映った光景は、リアの背後にどこからともなく現れたセミロングヘアの金髪少女が手にしていた水色のフルートを振るってリアの身体を横に真っ二つに斬り裂いていた。

 切り離されたリアの上半身は宙で半回転して床に落ち、下半身は手前にひれ伏した。

「まったく往生際が悪い国王様だね君は」

 フルートに付着した血を掃ったその少女は俺が切り離したリアの左手から“ピュア・ハート”を外しゆっくりと床にひれ伏した俺の前にしゃがみ込んだ。

「やあ。また会いました神夜様」

「その声……アイリなのか? でもどうしてここに?」

「それはー……内緒です。それよりもこれを」

 アイリは俺の手の上にリアの指から取った“ピュア・ハート”を手渡してくれた。

「ありがとうアイリ……。指輪を……母さんの心を取り戻したくれて……」

「いいの、いいのいつもあの子の面倒見てもらっているからさ。それに私――うんん。ぼくはまだ用事があるから」

 そういってアイリは真っ二つにされ虫の息と化したリアの前に立ちつくした。

「やあリア、久しぶりだね」

「ま、まさか……アイリ。貴様だったとはな……。どうやってこの城に入った……?」

「答える気はないよ。それに君は魔王でありながら負けたんだ。それがどういうことをさすのか知っているかい?」

 人一人は圧殺できるほどの瓦礫を魔力で宙に上げリアの真上に持ってくる。

「さ、さあ……」

「負けた魔王は……死、あるのみ」

「ッ!」

 右手を振り降ろした瞬間、宙に浮いた瓦礫が床に寝転ぶリアの上に叩き落とした。

「ふぅー……任務完了っと。さてと、神夜様に咲妃様、ぼくはもう行くよ。本当はあの子の顔も見ておきたかったんだけどね。じゃあまたどこかで会おうね。あーそれと早くここからでた方がいいよ」

 そういってアイリは俺たちに手を振った後、姿を消した。

 アイリ……ちょっと謎が多い少女だ。

 なぜお初にかかるであろうリアが魔王だってわかったんだ? それにあいつが口にしてたあの子ってのは、いったい誰のことだ?

「神夜、傷は大丈夫なの?」

「あぁ……少しは。じゃあ、さっさとこの城から出ようぜ」

 左手で腹部の傷を押えながら、右手の人差し指で床に魔法陣を描いていると、奥の扉が開きこの城に仕えている者が入ってきた。

「し、失礼しますリア様。先ほどからこちらで不審な物音がしたのですがー……!」

 王宮に入ってきた使用人は扉を閉めて振り向いた途端、部屋の荒れように目を開き、開いた口を両手で覆い隠す。

「だ、誰か来てっ! リア様が! 国王様がっ!」

 使用人は声を張り上げて、城の衛兵を呼んだ。

「ちっ……めんどいことになった……。咲妃、お前だけでも先に逃がす!」

「神夜もいっしょにいこう! ね!?」

「俺はここに残る……。あいつに顔を見られたんだ。始末……しなきゃ……」

 黒太刀を杖代わりにして立ち上がった俺は、鞘から黒太刀を抜刀して構える。

 そして、扉を突き破って軽装と重装をした城の衛兵が声を張り上げて押し寄せてきた。

「ちっ……きやがったか。咲妃、またあとでな……。――転移ッ!」

「やっ! 神夜ま―……」

 魔法陣に俺の魔力を流し込んで咲妃だけをここから離脱させた。あとは転移先でユキたちと合流するだろう。

 そんじゃあ俺はこいつらを一掃するか……。

 乱れた呼吸を整え、迫りくる衛兵たちに向かって黒太刀を振るった。

 次々と溢れ返ってくる衛兵たちを一人一人薙ぎ払って倒していくも数が減っている感じがしない。

 こりゃあ……逃げれそうにない……ぐっ!

 正面に立ちはだかる衛兵を倒しているうちにできたわずかな隙を衛兵に交じって参戦してと思われる憲兵が槍と同じ長さの十手で傷口を打たれた。

 左手の指の隙間から血が滲み出て激痛が全身を走り抜け、一瞬だけ動きが止まる。そして、その隙を突いて衛兵は一気にたたみかけてきた。

 憲兵も手にした十手で動きが止まった俺の関節部位を突いて床に打ち倒し鋭利な剣の先を向け『動くな』と言いかけてきた。

「おい。封魔石の錠をこいつにかけよ」

「ハッ!」

 衛兵と憲兵を束ねる隊長が手にしていた錠を受け取った憲兵が俺の手を引いて両手首に封魔石の錠をかけ、体内に秘める魔力を使えないようにした。

「無駄な動きはするなよ侵入者め。よし地下監獄に連行しろ!」

 封魔石を引っ張って俺を立たせて憲兵に引かれるがままに地下監獄に連れて行かれた。



「よし。残った兵は王宮の修復にとりかかれ。それと署長に連絡を。あの者の刑の早期決定をと伝えてくれ」

「了解しました。それと隊長。あの者が持っていた武器のことで伝達です。回収しようとしていた武器が我々を拒むのですがいかがなさいましょう」

「武器が持ち主以外を拒む……か。伝えてくれ。武器の回収はしなくていいと」

「ハッ!」

 憲兵は隊長に敬礼して自分の持ち場へと戻った。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ