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2.5次元の狭間にて  作者: 黒覇 媄兎
第3章 ソードダンス・ウエディング
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プロローグ

「お母さーん。大会優勝したよー」

 紺色の道着袴と同系色の面と柄皮がすり減った竹刀を選手たちが通る道の邪魔にならないところに置いて、俺――神夜は試合場の場外で見ていた母――セレーネ・十六夜の側に駆け寄り優勝したことを伝えた。

「優勝おめでとう神夜。やっぱりあなたもおじい様に似ているわー。将来は立派な剣豪かしらね」

 そういって母は微笑んで俺の頭をなでてくれた。

「おめでとうお兄ちゃん♪ やっぱりお兄ちゃんはすごいなー……そらなんて一回戦負けだよ―……」

「そ、氷空はまだ始めたばかりだからー……そのー……」

「大丈夫だよ氷空。氷空だって才能を持っているんだから絶対に次の大会では一回戦突破できるよ」

「ホント?」

 つぶらな瞳を潤わせ半泣き状態にある氷空はじっと俺を見つめる。

「ほんと。だって俺たち、剣豪とも言われたおじいちゃんの孫なんだからさ。それなら氷空だって俺みたいに強くなれるよ」

「ウソじゃない……よね?」

「お兄ちゃんがウソついたことあるか?」

「うんん、ないよ……」

「なら、俺を信じて。一緒に強くなろ氷空」

「うん……うんっ!」

 瞳からこぼれそうだった涙を拭った氷空は立ち直りいつもの笑顔がかわいい氷空に戻った。

 こんな日常がこれからもずっと永遠に続けばいいなと、小学生だった俺は心から願っていた。そのころの俺は例の夢のことをまだ誰にも話さず自分の胸の内に秘めていた。

 そして、そんな願っていた日常が打ち崩されたのは俺が中学三年の夏。ちょうど中体連剣道大会個人戦の二、三週間前の日。

 

 突然、母が死んだ。

 

その日の天気は大雨で湿気がひどく汗を吸った面も生乾きの状態で部員たちのやる気を殺いでいた。そんな中でも中体連個人二連覇を狙っていた俺は一人汗を流して竹刀を振っていた。

 面をかぶり部員たちに号令をかけ打ち込みに入ろうとしたその時。顧問の先生と担任の先生が勢いよく道場に入ってきて俺と氷空を呼び出し『すぐに着替えて正門前に止まっているタクシーに乗りなさい』と言われた。

 突然の指示に俺と氷空は状況が読めなかった。しぶしぶ俺、当時女子剣道部の部長を務めていた咲妃に大まかな指揮を任せ部室へと足を運びその日の稽古を中断して着替えた。

 着替え終えた俺と氷空は先生方に連れられて大粒の雨が降る中傘をさして正門前に停まっていたタクシーに氷空と二人だけで乗り込んだ。

 先生方は『じゃああとはお願いします』と運転手に行って行先もしらない俺たちのことなどお構いなしに車を走らせる。

「お兄ちゃん……」

 か細い声で俺のことを呼んだ氷空はきゅっと俺のカッターシャツの袖をつまんだ。

「大丈夫だよ氷空」

 少し怯えがちの氷空の手を握って安心感を与える。そうこうしている間にタクシーは雛乃町から離れ都内の私立病院に着いた。

 病院のタクシー乗り場まで走ったタクシーは下車のところに停まりドアが開いた。すると仕事を途中で投げ出してきたと思う父が病院の出入口から現れ、タクシーの貸走料を支払ってはすぐに俺たちを院内へと連れて行く。

「ねえ、父さん。なんで俺たち病院に来なきゃいけないの?」

「……」

 父は俺の質問に答えることなく頑なに口を紡ぎ、目からツゥ―……と涙を流していた。

 上へと昇って行っていたエレベーターが止まり父はスタスタと病室の奥へと進んでいき、俺たちも父の姿を見失わないように後を追った。そして、父は明かりのついていない病室の前で立ち止まりノックもせずに扉を開けた。

 父が扉を開けた途端、俺の目は見開き口が硬直し一時的に声が出せなくなった。

「か、母さん?」

 病室の奥のベッドの周りにいくつの生命維持装置が置かれているも稼働しておらず、顔にかぶせられた白い布から見える長い金髪。間違いない。今ベッドで静かに眠っているのは俺の母だ。

「お母さん? お母さんっ! いやっ!死なないで! 死なないでよお母さん!」

 突然の別れに氷空はベッドで静かに眠る母の遺体にすがりつき、泣きわめいた。

「なんで……なんで母さんが死んだんだよ……。父さん教えてよ! 母さんにいったい何があったの! ねえ教えてよ父さん……」

 俺は父の胸座を掴み問いかけるも父の口から答えが利けることはなく、込み上げてくる悲しみに耐えきれなくなった俺は父の胸座から手を離し床に崩れ落ちた。

 母の死から二日が経った日。母の母国イギリスから母方の両親の親戚御一行とルナ姉さんたちが母の葬儀に出席した。突然の別れに誰もが涙した。ルナ姉さんは泣きじゃくる氷空を慰めるも自身も涙していた。

 葬儀が終わってもなお、俺の中で悲しみの連鎖が止まることはなく部活にもしばらくは顔を出さなかった。母が死んだその日から母は何らかの事件に巻き込まれて死んだと思い、ネットにインしては母の死に直結する事件の記事を漁るが一向に見つかることはなく、すべてが闇の中へと溶け込んでいく……そんな感じがした。

 だが、母の死から二年の月日が経ったその年。

 そうたったいま。俺はようやく母の命を奪った奴と異世界“SOW”で出会い、ようやく……ようやく二年間も晴らせなかった母の仇をとることができる。

 俺は張本人の名を叫び納刀していた黒太刀を抜刀し、張本人――リアに立ち向かう。


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