エピローグ
地上に下り立ち教会奥の長椅子に白星さんを寝かせるなり、全身に戦いの反動ともいえる疲れが押し寄せてきた。
やはり、二刀流は体力を使うな。
アザゼルは倒した。これで俺のアイテムストレージには“純粋な心の結晶”があるはず――。
『まだ……終わってなど……おらんぞ……』
ゾワッと背筋に悪寒が走る。後ろを振り向くと、全身傷だらけでもなお、肩で呼吸をしもはや気力だけで立っているアザゼルが俺ににらみをきかせていた。そして、彼の左手には依然として“純粋な心の結晶”がはめられていた。
「ア、アザゼル……お前まだ生きて……」
「俺はまだ死なない。天界侵攻を成功させるまで――!」
突然アザゼルの口の動きが止まり微動だにせず目を見開いたまま仰向けに地面に倒れる。彼の胸部には白銀の剣が突き刺さっていた。
倒れたアザゼルは咳をして吐血した後、顔をあげ胸に刺さる剣に触れるも剣はアザゼルを拒絶し触れようとする手を弾く。
「その剣には対堕天使用の魔法がコーティングされているぞアザゼル」
カツッカツッと足音を鳴らしてさっきまで行方不明だったリアが現れ地面に倒れ込むアザゼルを見下ろす。
「リ、リア様……。なぜあなた様がここに?」
「死にゆく者に応える義理はないよ。それより君も“純粋な心の結晶”を手に入れたんだね。でも、これはまだ効力が低すぎる。ひとまずこれを――神夜! 早くそれをその子に反してあげな」
と言ってリアはアザゼルの左手から指輪を取り上げ俺に投げてよこした。死の宣告まで一刻を争う。おそらく二分も残っていないだろう。
受け取った俺は彼女の胸の上に置いた。すると指輪が輝きだし白星さんの身体へと戻っていった。そして、すぐにユキとアリスが回復魔法を白星さんにかけ、一命を取り留めた。
「さてと。あちらの用事も終わったことだし、僕も戻るよ。あーそれと君が計画していた天界侵攻はさっきほど失敗したよ」
「! な、何……だと!?」
「僕がさきほど仕掛けたトラップに君の部下たちが引っかかったからねー一人残らず、滅してきたよ。それじゃあ君も仲間とあの世で会うといいよ。じゃあねアザゼル」
そういってリアはアザゼルの胸部に刺さる白剣を抜き取り、左手をアザゼルに掲げて全身の骨が砕けるほどの圧を食らわせた。
アザゼルにとどめを刺したリアは刀身についた血を掃い鞘に納め俺と合流する。
「リアまた助けてもらったな。ありがと――」
助けてもらった礼を言いにリアに言いかけた途端、腹部に何かが刺さったような痛みが走った。
「リ、リア……何を……!?」
喉から生暖かい血が微量に込み上げ口から垂れる。再び味わう鉄の味……これだけはどうもなれないな……。
俺は腹部に刺さる短剣を抜きリアと距離を取り短剣を遠くに放り投げる。
「疲れているとはいえやはりこれだけの失血じゃ、君も死ないよねっ!」
気でも狂ったかのようにリアはへらへらと笑いながら追い打ちをかけるように空間から短剣を錬成したリアは剣先を俺に向け振り回す。
腹部の出血量がやばいがこれくらいの剣裁き、たやすく避けれる。
ふらつく身体で縦横無尽に襲いくる斬撃を避ける。
「ほらほらどうしたー? 君の力はこんなものじゃないだろー!」
瞳孔を見開いたリアは空間からもう一本短剣を錬成し、無駄のないモーションで短剣を投擲してくるも俺は持ち前の反射神経で避けたが足元がもつれ床に倒れる。
「これでも君もおしまいだね。じゃあね神夜。あの世で君のお母様によろしくね」
不気味な笑みを浮かべたリアは手に持つ短剣に自身の魔力を注ぎ込み片手用直剣へと武器の形状を変え、剣先を俺に向ける。
詰んだ……。
そんな言葉が俺の頭をよぎった。
立ち上がるまでにアキレス腱を斬られるかで動きを封じられそのまま即死。紅翼で飛ぶにもそこまでの体力はほとんどない。万策尽き果てたか。
なんてあきらめムードになりかけたその時だった。一発の銃声とともに赤い閃光がリアの左胸を射抜きリアを後方へと飛ばす。
「神夜! 大丈夫か!」
声がした方を向くと煙が上がる大口径のライフルを構えた俊が俺の方まで走り動けない俺を担いでリアから少し距離をとった場所まで移動した。
「俊、ありがとう助かった」
「礼はいいよ。リアはさっき『お母様によろしく』って言っていたが? 何かあったのか?」
「さあ? 俺にはなんのことか。そもそもなんであいつが俺の母さんのことを……」
『まったく神夜といい君たちはホントにすばらしい力を持っているね』
左胸を俊に射抜かれ死んだと思っていたリアが苦しむ様もみせず、平然とした表情で距離をとった俺たちを追いかけもせずじっと見つめていた。
「お前……確かに俊に左胸――いわば心臓射抜かれたはずじゃ……」
「確かに。俊が放った弾丸は僕の心臓を射抜いた。証拠にほら。服に着いた血はある。でも傷はない。それはなぜか。答えは単純。この“純粋な心の結晶”の力で弾丸が心臓に到達する零コンマの間で破壊し傷を瞬時に癒したのさ」
“純粋な心の結晶”だと……!? いや、でもあれはさっきリア本人がアザゼルから奪い取り白星さんの肉体と精神に結び付いたはずだ。俺は確かにこの目でみた。
「さて、話は変わるけど神夜。君は今から二年程前にお母様を不慮の事故で亡くしていたね」
「ああ。でも、なんで今その話を切りだす」
「くくくっ……。君も薄々感づいているのだろ? この“純粋な心の結晶”の宿し主が君のお母様だってことによー! いやー彼女をやるのは容易かったよ。大雨の中で彼女を誰もいない場所に転移させて背後から刺殺。アザゼルみたいに儀式をやらなくても宿し主を殺せば簡単に手にはいるモノをー!」
怒りに打ち震える俺たちを嘲笑うようにリアは俺たちを見下す。
「な、なんてひどいことを……こんなこと! 絶対に許されませんよリアさんっ! 黙って法の裁きを受けるのです!」
「許す? 裁く? いったい誰が? 僕には理解できないね」
リアはアリスが言った正論を聞き入れず、依然として笑い続ける。
「そうか。お前が母さんを殺したんだな……」
「お、おい! 神夜! 憎む気持ちは分かるが今のお前の体力じゃあとても――」
俊の説得を聞き入れず俺は傷口を押えながらゆっくりと息を吸い込み
「火炎魔法“輪廻・護ノ焔”展開!」
体内の魔力を爆発させ、自分の周りに業炎の紅き焔のサークルと回復魔法“ヒーリング”と同じ効果を持つ炎の結界を張って腹部の傷を癒す。
「リア! 誰も貴様を裁いてくれないなら、俺が貴様を閻魔大王に代わって裁いてやるよ!」
鞘から黒太刀『黒桜龍・劫火』を抜刀した俺は、美しく煌めいた紅蓮の焔を灯し燃えたぎる剣先をリアに構え、地を力強く蹴り上げ一気に間合いを詰める。
To Be Continued
はい、どうも。黒覇でーす。
いやーようやく! 第2章終了ですが! まだまだ話は続きますよー! 話しの続きは第3章に持越し!
いろいろと長かったですなー。いやほんとすみません……リアルでいろいろとこざこざしたことがありまして更新は遅れるわ遅れるはで……。
スピンオフのほうもまとまり次第うPしますので楽しみにしていてください。では、またーノシ