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2.5次元の狭間にて  作者: 黒覇 媄兎
第2章 白の天使と黒の天使と
14/32

第5クエスト 歴史を記す国“ラッテ・イストワール”

 あれから何日たったのかな―……。わたしが彼らに囚われて……。一向に助けはこないし、両腕の感覚も無くなってきた。そもそも彼らの目的が分からないよ……。

 ほんやりとする目でじっと牢の明かりを見つめる白星。そして、目の前にはカンテラを片手にコップ一杯分の水とパンを片手に持った男が今日も白星の様子を見にきた。

「さて、食事の時間ですよ可愛い天使さん」

 と男はいつもののように薄気味悪い笑みを浮かべて白星が囚われている牢屋の中に入っては両腕を綛で縛られているミチルの口にパンを運び食事をさせる。

「ん……んんぅ―……」

「そう怖い顔をしないでくれよ。私はただ君にこうして食事を与えているだけではないか」

『ア、アザゼル様、大変ですっ!』

 と、ドタドタと慌ただしい足音とともに男――アザゼルの部下と思われる男が走ってきた。

「どうした騒々しい」

「さきほど現世から戻ってきた先遣隊からの情報です。今からですが二日前、彼女の友人かと思われる人物五人がゲ、開門(ゲート)を開いてこちらの世界にきたとのことですっ!」

 その話を訊いた途端、白星の心の中を染めていた絶望の闇が消え、希望へと染まり始める。十六夜くんたちだ……。きっとわたしを助けに来てくれたんだ。と神様に願ったことがかなったと心中そう思った。

「な、何だとっ!? チッ……奴らの中に開門(ゲート)を開けるものがいたとは……。ヘリオス、直ちに兵をかき集めろ、いいな」

「御意」

 アザゼルの指令を請け負った男は再び入りだし牢屋を出て行く。

「大いに予定が変わっちまったが仕方がない。もう一度本の中に入っていてもらう」

 アザゼルは白星にコップ一杯分の水を与えた後、亜空間からハードカバーの本を召喚し白星を本の中に閉じ込め牢屋を出て行った。


「――また閉じ込められちゃった? えっここどこ? 鳳仙学院?」

 本の中に閉じ込められたはずの白星は自身が見ている風景に目を疑った。自身が今見ている風景、それは窓から緋色の光を取り入れ明るい廊下。外からはひぐらしの鳴き声。そこは紛れもなく白星が通う学び舎、鳳仙学院だった。

「やった、これでおうちに帰れるっ!」

 白星は徐々に感覚を取り戻し始める両腕のいたみに耐えながら廊下を突っ切り一階の昇降口を目指して走る。

 しかし、昇降口の扉は固く外の世界を閉ざしていた。白星は強行策として扉に体当たりするも扉はピクリとも動かず逆に身体を痛める。

「あぅ……痛い……鍵もかかってないのにどうしてー?」

 焦りを募らせるミチルは扉を揺さぶって開ける作戦にでも一向に開く気配はなかった。そして、遠くから誰から足音が聴こえピタリ音がやんだ。

 気になったミチルが後ろを振り向くと、そこには鳳仙学院の冬服を着た銀髪のセミロングの少女が立っていた。そして、白星はその少女を見てみて口を閉じられずにあっけをとられた。

「えっ? わた……し?」


      *


 あれから二日。俺たち『六芒神聖』は『ヘブンス・ドア』西門を早朝より出発し世界の歴史を記す国“ラッテ・イストワール”という国を目指した。

移動の際、俺たちはアイテムウィンドウから馬笛を使い門から外の広大なフィールドを五頭の馬で駆け抜ける。もとより俺、咲妃、ユキ、俊にとって乗馬経験なんてもんは素人レベルと言ってもいい。だが、ここはゲーム時のSOWパラメーターと現実世界での身体能力を合わせ持つこの世界。それにおいてはゲーム時のパラメーターに乗馬スキルを習得しているから問題なく乗りこなせる。

 “ラッテ・イストワール”までの道案内は地図を見ながらなら俺が先頭を切って国を目指せる。だが何分、この世界についてはまだまだ知らなくちゃいけないことがたくさんある。だからこの世界のことに詳しいアリスに先頭を頼み“ラッテ・イストワール”まで案内してもらい、今現在俺たちは目的地“ラッテ・イストワール”の開閉門の前で入国手続きを済ませている。

 滞在期間としては三日ぐらいでいいと思うが、この先、何が起きるかわからないからな。せいぜい長くて一週間の滞在をすると入国書に記名し手続きを終え開閉門をくぐる。

 街並みは『ヘブンス・ドア』と似て中世代のヨーロッパをモデルにしたような感じで開閉門前からでも見える大きな黒鋼の宮廷はたぶん図書館だろう。

 それより、今日は街がお祭り騒ぎみたいに盛り上がっているが何かお祭りでもあっているのか? 

『おや? おたくら剣士だろ?』

 と街の行商人と思われる男から通りがかり尋ねられる。

「はい、そうですけど? 剣士がどうかしたのですか?」

「いや、気にしないでくれ。なんでも、ここからちょっと行ったところにある闘技場で国王主催の剣技大会が開かれるんだよ。優勝すれば一億ゼニー手に入るって情報よ。かー俺も出たかったなー」

 行商人の男は自分の職業を恨めしながらこのお祭り騒ぎの情報を教えてくれた。

「ま、出場するなら頑張りたまえ。出場者のほとんどが強者だって噂ですし」

 そういって行商人の男は、俺達に一礼して街の中へと入って行く。

「と、いう話だけど。神夜と咲妃は出場するのか?」

「ん―……確かにこの中での剣士職は俺と咲妃だけだし。それより、リアという人に逢わなきゃいけないし」

「せっかくだし出てみようよ神夜。もしかするとリアって人がいるかもしれないじゃん」

「そうだといいけど。行ってみるか」

 行商人が剣士なら出場することを進めてくれた闘技場を目指して俺たちは歩き出す。闘技場を目指している最中で幾人もの旅人剣士を見かけた。こいつら全員出場するか? 一国をあげての一大イベントとでも言うべきなのか。二日前のヘブンス・ドアと同じで道中には生産系を主にするギルドや街の商人たちに行商人が出店を開いて祭りを盛り上げている。

 やはり、どこの国の人でも祭りは好きなようだ。

 そうこうしている間に俺たちは“ラッテ・イストワール”の一角にある闘技場『十刃の戦場(エスパーダ・ペディオマキス)』に到着した。

 闘技場周りでは、出場受付を待つ剣士たちに場内へと浮き足で入って行く街の住人達でいっぱいだった。ここから先は別行動だな。俺と咲妃は出場者受付へ。剣士職ではないアリスたちは闘技場観客席へとそれぞれ分かれる。

 出場選手の半数近くが闘剣士の格好していた。片手には小型から大型の盾にリーチある片手用長剣。一人一人顔つきが違いいずれも幾多の戦場を駆け抜けてきた腕に覚えのある戦士たちだ。強者との戦いか―……腕がなるなー。

 受付嬢から出場登録書を受け取り、名前だけを書いてすぐに手渡す。俺はDブロック予選。咲妃はBブロック予選となった。

大会形式およびルールはいたってシンプルかつ明確なルールだった。予選一回戦はA~Fブロックに分かれてのバトルロイヤル。生き残った一人が決勝リーグ出場。ルールとしては剣士が持てる武器『剣、斧、斧剣(ハルバード)、短剣、曲刀、ハンマー、槍、細剣(レイピア)、刀、片手棍、鎌』の十一種類の中から一つだけで攻撃で魔法攻撃は禁止 (ただし決勝リーグは可) そして、身を守る盾は使用自由で剣技(スキル)、奥義の使用も可。それと身体を守る鎧は使用してもいいが重量制限あり。

 出場登録を済ませた俺たちは場内の係員に選手控室へと案内され、国王直々の開催挨拶があるまでここで待機してろと言われた。

 周りを見る限り男の闘剣士ばかりだ。その中で咲妃は唯一の女性選手だから余計に目立つ存在となり男たちの的となる。それに装備も装備だ。俺は『漆黒のロングコート』に『ブラッディ・ジーンズ』で上下を黒で統一し武器は『黒桜龍・劫火』を腰に納刀。

 咲妃は大胆にも胸元を晒した白のミニワンピの肩と胸に簡単な装甲を積み腰にはスピードを重視した白くて美しいレイピア『グランツ・ティア』と藍色のフォールドを装備。俺の装備はともかく、咲妃の装備を何とかしなきゃな……。男たちの目線がさっきから咲妃に集中してるし。

「なあ咲妃。お前装備変えた方がいいんじゃないか?」

「あ、あたしもそう思うんだけど……ほかの装備もこれと似た様なものだし……」

「……ハァ―……なんとも言えないな。大会開始まで俺のコートは羽織っとけ」

「うん、そうするね。ありがとう神夜」

 男たちの視線に耐え切れなくなった先に自身のコートを咲妃に貸し目線をよらなくした。

 待機室をしばし進み人気のないところで腰を下ろした俺と咲妃は使用する武器の刃こぼれが無いか点検に入り、使用できる剣技(ソードスキル)の確認も行おうとした途端、闘技場の鐘の音が鳴り響き国王の大会開始の挨拶が聴こえた。そして、さっそくAブロックの試合が開始された。

 床はすべて黄土色の大理石が敷き詰められただけでリングに目立った仕掛けはない。ただし今はな。今は仕掛けの目立たないリングだが決勝リーグの時はどんな仕掛けが発動するのやら。

 大観戦のなか、一際大きな闘剣士がリングのど真ん中で飛び掛かってくる剣士たちを両手斧で薙ぎ払い次々と倒していく。そして、最後まで生き残ったその闘剣士は決勝リーグへとコマを進める。

 さて、次はBブロックの試合。咲妃の出番か。

「咲妃、頑張ってこいよ」

「うん頑張ってくるね神夜」

 互いの武運を祈る意味で咲妃と拳をぶつけ合い、羽織っていたコートを俺に返してくれた。そして咲妃は選手入場口へ、俺は観戦可能な通路へとそれぞれ向かう。


 神夜と別れた咲妃はしばし緊張していた。

 これから行われる予選は、本物の武器で攻撃し合うわけで小学生からやってきた剣道の試合とは違い握るのは竹刀じゃない。振れば打撲じゃすまないし下手すれば命を奪うし奪われる。

 それなりの覚悟があって咲妃はこの試合に自身の名を書いた。今更後戻りはできない。

 意を決した咲妃は、腰に納刀している細剣(レイピア)『グランツ・ティア』の柄に手を添えリングにでた。

 リングに出た咲妃を待っていたのは地面を照りつける太陽。銀の光沢を光らせる武器の数々を持つ闘剣士たち。

「おい、見ろよ女じゃねーか」「先にあいつから片付けるか?」

 など、ヒソヒソと男たちの格好の的にされ剣先がじりじりと咲妃に向けられ、今審判員によるゴングが場内全域に響き渡り剣士たちが一斉に目の前の敵に向かって自身の武器を振る始め豪快な金属音を響かせる。

 そして、咲妃を標的としていた闘剣士たちも手を組んだかのように咲妃に向かって剣と斧を振るも。

「女だからってナメるなーっ!!」

 細剣(レイピア)『グランツ・ティア』を鞘から抜刀した咲妃は襲い掛かってくる剣を掻い潜り男二人の背後に回り込む。そして、弓の弦を引くように細剣を構え剣先の残像が残るほどの超高速剣裁きで剣を持った男を倒し左手のもう一度右手を引きもう一人の男も同様に倒す。

 開始早々二人も倒されたことにより観客のボルテージは盛り上がりを見せ、ほとんどの闘剣士の注目の的になる。

 闘剣士たちの視線に気づいた咲妃は装備欄からもう一本の細剣(レイピア)を取り出し左手に構えた途端、人一人分くらいはある両手斧が咲妃の眼前の地面に突き刺さる。そしてその斧を一人の年老いたドワーフ闘剣士が斧の回収にくる。

「いやー失敬失敬」

 老いたドワーフはなんのためらいも無く、地面に刺さる両手斧を片手で持ち上げ肩に担ぐ。それを見た咲妃は一度間合いを取りドワーフを警戒する。

「そう警戒しなくても大丈夫ですよお嬢さん」

 ホッホッホッとまるでサンタクロースのおじいさんみたいな笑いをするドワーフに対して咲妃は警戒心を解いたその時。

『咲妃っ! 警戒を解くなっ!!』

 と選手控室から咲妃の戦いを見ていた神夜の叫びでハッと我に戻った咲妃は紙一重のところで迫りきった両手斧の刃を二本の細剣(レイピア)で受け止める。

「不意打ち失敗……か。フンっ!」

 両手斧を片腕で扱う年老いたドワーフは細剣二本でガードする咲妃ごと闘技場の中央へと打ち上げ、老いとは思えない走りを見せながら打ち上げた咲妃を追う。

 打ち上げられた咲妃は細剣の剣先を地面に打ち付け減速を図る。そして、突撃してくるドワーフが再び両手斧を振り降ろすタイミングを見計らい視界に回り込む。

「ふむっ……動きは達者だな」

「おじいさん……あんた、何者なの?」

 少し呼吸を乱しながらも咲妃は年老いたドワーフに尋ねる。

「わしはドワーフのグランドルトじゃよ。この闘技場で六十数年活躍しておる。それに今このリングに立っているのはわしとお嬢さんだけじゃ」

 咲妃はドワーフ――グランドルトに警戒しながらも闘技場の全方位に視野をやる。そして、目に入ってくるのは深手を負い傷つき倒れる闘剣士に咲妃たちと同じ旅人剣士たちが多く倒れていた。

「では、さっそく続きといこうかのう」

 静かに息を吸い呼吸を整えるグランドルトは斧を持つ右手に力を込め肩に担ぎ天高く咲妃の頭上目掛け振り降ろす。

 小野は大気を裂きながら咲妃の頭を狙ってくるも、斧の斬撃軌道を見切った咲妃は右側面に避けがら空きとなったグランドルトの右肩に細剣の斬撃を食らわそうとするがグランドルトは地面を荒削りながら斧の腹で咲妃を殴りつける。

 もろに受けた咲妃は大きく宙を這うように飛び四度ほど地面にぶつかり闘技場の壁にぶつかってようやく減速する。

「少々やりすぎてしもうたか? まあいいこれで決勝出―……」

『まだよ……』

 ピタリと背を向けたグランドルトの動きが止まり砂ぼこりが立ち上るほうをみる。

「まだ終ってなんかないわっ!!」

 立ち籠る砂ぼこりを細剣の一振りで消し飛ばした咲妃は観客の大きな観戦のなか立ち上がり呼吸を乱しながらもしっかりとグランドルトのほうを見ていた。

「これは驚いたわい。まさか、まだ戦えるなんての」

「そうね。あたしも驚いているわ。だから次の一手で決着を決める」

 咲妃は左手に持っていた細剣を鞘に納め本来の戦闘スタイルに戻る。

「よろしい。だが、その前におんしの名前、聞かせてくれぬか?」

「あたし? あたしはギルド『六芒神聖』咲妃。魔法剣士よ」

「ほう。ならば咲妃とやらわしも次で終わらせる気で行く。覚悟はいいな?」

「いつでもいいよ。あたしも、覚悟決めてるから」

 左腕に持っていた盾を投げ捨てたグランドルトは両手で斧の柄を握りしめ力を込めていく。そして、地を蹴り上げ全力の籠った斧が咲妃に襲い掛かってくる。だが、咲妃は避けようともせずただ静かに腰を下ろし右手を弓のように引き細剣の傷一つない純白の刀身が空色に輝きだす。

斬撃剣技(アタック・オン・ソードスキル)“海王の神槍(ポセイドン)”っ!」

 眼前まで迫ってきた斧の刃を砕くように細剣を咲妃は突く。ただの突きかとグランドルトは思い斧に全体重をかけるが細剣が折れることもしなることもなかった。それもそのはず。細剣の剣先は三つ又の槍のビジョンをかたどり槍先の間でがっちりと斧の刃を受けとめて咲妃への斬撃を防いでいる。

「ハァ――っ!!」

 細剣に力を加えた咲妃は受け止めた斧ごとグランドルトを天高く押しのけ、一瞬の隙がうまれた。咲妃はすぐにグランドルトの頭上まで飛び上がり。

「これで終わり、だぁーっ!!」

 斧の腹でガードする隙も与えない雷光ともいえる速さでグランドルトの身体に重たい突きを食らわせ地面に叩き落とす。

 地面に勢いよく落ちたグランドルトは地面に落ちた衝撃と咲妃の突きのダメージで口から吐血し立ち上がることなく気を失った。

『き、決まった―!! Bブロック決勝リーグ出場はギルド“六芒神聖”咲妃だーっ!!』

 と大会進行役の大声が闘技場全体に響き渡ると同時に観客たちのボルテージも上がり観戦が湧き上がる。

 予選を終えた咲妃は、細剣を鞘に納めゆっくりとリングを離れ選手控室へと戻って行く。

咲妃のことが心配になった神夜も控室に戻ってくる咲妃のもとへと駆け走って行く。


 Bブロック予選で傷つき倒れた者をタンカに乗せせっせと運んでいく救護班に交じってゆっくりと咲妃が自力で戻ってきた。

「咲妃大丈夫か?」

「ん? あ、神夜。これで大丈夫にみえる?」

 特に目立った外傷はないが、ところどころにアザができていた。まあ斧の腹でなぐられるは地面になんども叩き付けられるはで受けたんだから仕方ないか。

「とにかく決勝リーグ出場おめでとう咲妃。とりあいず今はこれ飲んで体力回復しろよ」

「うん。ありがとう神夜」

 咲妃を控室の壁際まで運んで俺は彼女に自分のアイテムポーチからポーションを咲妃に渡し体力回復と傷の完治を進めた。

 もうそろそろCブロック予選がはじまる頃だろう。どいつが決勝リーグに来るか情報は知っておくべきだろうけど今は傷ついた咲妃の側にいるべきだな。

 

 しばらく遠くから聞こえてくる観戦の声に耳を傾けていると、早々にCブロックの予選を終える大会進行役の声が聴こえてきた。かすかに聞こえた範囲では名の知れない盾なし片手剣使いの闘剣士が決勝リーグ出場決めたらしい。そして、毎度おなじみで救護班の方々が駆け足で傷ついた闘剣士たちをタンカに乗せて運んでいた。

 さて、いよいよ俺の出番か。んじゃいっちょやってきますか。

「あ。神夜これから出番なの?」

「あー行ってくるよ咲妃。決勝リーグで会おうぜ」

「うん、頑張ってね神夜」

 ポーションを飲んでしばらく経つが咲妃の傷が完全に治るまでまだ時間が掛かる中互いに拳をぶつけ健闘を祈る。

 選手控室からリング出入り口に選手の姿は誰一人いなかった。どうやら全員もうリング場に行っているのか? 

 腰に納める『黒桜龍・劫火』の鍔に左手の親指を当ていつでも闘える準備に入ってリングに歩みを入れ入場する。リング場に入った途端、目がくらむほど眩しい太陽の日差しが一瞬だけ視界を奪い思わず手を額の上にかざしてしまったが自然と慣れてきた。そして、目に入ってきたのは闘剣士や俺と同じ冒険者の剣士たちではなく白黒よこしま模様の服装の囚人たちだった。

 おいおいマジかよ。

 なんかひょうきん抜ける気がする。囚人がこの闘技場にいるってことはもしかしてこいつら全員、死刑囚かもしれないな。漫画やゲームアニメではお約束ともいえる展開が今俺の目の前で起きている。だとすると答えは一つだな。こいつら全員手を組んで俺を殺して死刑を免れることを約束されているといってもいい。

 まさかDブロックのDって“Death row inmate”って意味なのか……。下らねえ。さっさと蹴り付けて決勝リーグへの切符を手にするか。

「おい、囚人ども! ささっとかかってこいよ。俺がお前らを天に滅してやるよ!」

 鞘から抜いた黒太刀を集団でかたまる死刑囚たちに向ける。

「いきがってんじゃねえぞガキが―っ」「おい、さっさとこいつを殺してシャバの空気を楽しもうやっ!!」

 囚人たちは自分たちが持つ武器を俺に掲げ一斉に襲い掛かってきた。

 太陽の光を浴びた無数の刃が白銀の光を照らして俺に降りかかる。全員目的が一緒とだけで一時的に手を組んだ連中だ。俺を殺した後は全員で殺し合うんだろう。

 そして、一本の両手剣が誰よりも早く俺に降りかかるも太刀の一振りで刀身をへし折りそのまま手首を返して頭上から黒太刀を振り降ろし地面に叩き落とす。地面には頭を斬られた囚人の血が滴り、囚人たちの顔色が変わる。

 その隙を逃さず俺は襲い来る囚人たちのドームから抜け出し

斬撃剣技(アタック・オン・ソードスキル)焔獄超終(ヘルフレム・オーバーエンド)”」

 両手で黒太刀の柄を握りしめ黒太刀は劫火を纏いし大剣へと姿を変え、囚人全員を斬り倒すほどの勢いで大剣と化した黒太刀を振るう。その勢いは凄まじく中央に群がる囚人たちの全身を斬り刻み次々地面に倒れていき砂ぼこりが立ち籠る。

 これで半数はやったと思う。あとボスと思われる人物と五体の巨人たちだけか。

 虫の息と化した囚人たちを見てもボスと思われる顔色一つ変えず俺を見据えていた。ひびっていないのかそれともあいつは俺を倒せるほどの実力があると俺は見た。

「いやー素晴らしい腕前だ。うちにほしいくらいだ」

「そりゃどうも。だが残念だ。俺はあんたの仲間になる気はさらさらないよ」

「言ってくれるねー。でも、今倒したのは人間だ。次は巨人が相手になるが君は倒せるかな?」

 ボスの命令を受けた五人の巨人たちが地面に突き立てていた斧、両手剣を手に取りさっきの囚人同様、無作為に俺をつぶしにかかる。

「展開見え見えだっつうの!!」

 黒太刀の形状を大剣に維持したまま俺は巨人が振り下ろした斧の斬撃軌道を見切って天高く飛び上がり斧の斬撃をかわし一体の巨人の喉元を斬り裂く。夥しい量の血が地が噴き出す前に倒した巨人の顔を蹴り上げ俺のスピードについてこれない、残り四体の巨人たちまで跳躍し同様に喉元を掻っ捌き太刀を鞘に納める。

 巨人の皮膚は通常の武器で攻撃すれば大抵の武器の刃はすぐ使い物になるくらい固い。だが、俺の黒太刀は以前の闘いで巨人の皮膚など紙切れに等しいと言ってもいいくらいたやすく斬り裂いた。今回の戦いもそうだ。形状は大剣でも切れ味そのものに変わりはない。だから奴らを倒せる。

 リズムカルな五体の巨人が一瞬にして倒された史実を知った男は、驚愕の表情をしていた。

「これで。残るはあんただけだな」

「ま、待ってくれっ! い、命だけはー!」

「何? この場に及んで命乞いか? 情けねえなー」

「頼むっ! 見逃しくれー!!」

 ボスは狼狽え泣きわめきながら俺に命乞いしてくる。

「そ―……だったら―……」

「み、見逃してく――」

「せめて……安らかに眠りな……」

 神速ともいえる抜刀術で俺はボスを一刀両断し苦しむ間も与えず倒し黒太刀の刃に滴る血を掃い鞘に納め選手控室へと続く道へと歩む。

『決まった―!! Dブロック決勝リーグ出場はギルド“六芒神聖”神夜だ―! それも一太刀も受けずに決めやがった―! これは波乱の幕開けかー!?』

 進行役の今の一言がたぶんこれから行われるE、Fブロックたちに衝撃を与え、A、B、Cブロックの連中からは完璧にマークされただろう。

 まったく余計なひと言を……。

 選手控室に戻るなり、まだ試合をしていない闘剣士たちと冒険者の剣士たちからの視線が俺に一気に向けられ、小声で噂するものまで出始めた。

 俺は咲妃のもとに戻り決勝リーグ出場を決めたと報告した。咲妃は俺の報告に喜んでくれたが無傷で生還したことにやや嫉妬したご様子だ。ま、たいして自慢することじゃないけどな。

 しばらく壁に寄りかかり残り二試合終了を待つことにした。控室の高台から見るのもいいし見なくてもいい。俺にしては先に知ってしまったらなんとなく楽しみがなくなってしまう気がする。

 

 あれから何分経ったかなー。時計がないから何分不自由は感じるが、進行役の声がデカいから試合開始終了か合図がよく聞こえてくる。

 それにこれだけ時間が経てば咲妃の怪我も完治するだろう。

『それではーこれより決勝リーグのトーナメントを発表したいと思いまーすっ!!』

 と進行役の大声が高らかと控室内に響き渡ってくる。

いよいよ決勝リーグか。さてさてどんな奴が相手なのか楽しみだ。

『決勝リーグ第一試合はーAブロック『イヴ』対Bブロック『咲妃』だー! 第二試合ーCブロック『ラグナ―』対Eブロック『ギアス』―! そしてーシード権を獲得したのは―……Dブロックで驚異の強さを見せた『神夜』対Fブロックー闘技場の主こと『サルバジル』だー!』

「ふーん。俺はシードか……」

 自分の試合の相手の戦闘スタイルを確認してないからなんとも言えないが、主って言うぐらいだからつよいんだろうな。それよりも注意せんといかんの咲妃の方だ。第一試合の相手はあの巨漢な男が相手だ。さっきのじーさんとの戦いでそこそこ体力を擦り減らしてい来るから咲妃にとってはちょっと苦戦になるかな。

「じゃああたし第一試合だからいってくるね」

「あ、咲妃傷の方は?」

「もう大丈夫だよ神夜。完全完治したよ」

 グッと両腕をガッツク咲妃は満面の笑みで答えてくれた。

「そっか。じゃあ頑張れよ咲妃。応援してるぞ」

「うん、ありがとう神夜」

 咲妃の健闘を祈って俺たちはもう一度互いの拳をぶつけ合う。そして、咲妃は選手控室を後にして闘技場リングへと向かった。


 選手控室の通路を通り抜けた頃には幾人もの手負いを負った剣士たちが壁に寄りかかって治療師の回復魔法で傷の治療を受けており中には深手を負って絶命寸前の者もおりなんとか延命させようと必死に魔法詠唱を続ける者もいた。

 咲妃は自分の右腕をぎゅっと抱き、躰の震えを押えてリングに出た。

 リングに出ると、底はさっきの予選の時とみる風景がちがっていた。観戦からリング端っこまであったリングは真ん中だけを残し周りは陥没し大量の水で満たされていた。水面からかなりの高さがあり、落下すれば下はコンクリート並の硬さの水面に激突する。

 咲妃は出入り口からリングへと伸びている鉄橋を渡りリング上に立ち鞘から細剣を抜く。

 咲妃の相手は盾なしの両手斧を片手で扱う大柄の闘剣士だった。咲妃は彼から感じるオーラを肌で感じながら試合開始の合図を待つ。

『さぁ始まりましたー決勝リーグ第一試合。当リーグからは予選で禁止されていた魔法の使用が認められますっ! はたしてどんな試合を見せてくれるのかっ!? では、試合、かいしーっ!!』

 進行役の合図とともにゴングの音が高らかに場内に響き渡り試合が始まる。

 イヴは地面に立てていた両手斧を軽々と持ち上げ大柄には似つかわしいほどのスピードで斧を構え突撃してくる。そして、左足を軸に斧を勢いよく横斬りするも予選で同じ技をするドワーフと戦った咲妃は斬撃が届く前に天高く飛び上がり細剣を持つ右手を弓の弦のごとく引き一気に前へと突き幾多の残像を残すほどの斬撃をイヴの顔面に喰らわす。

土岩(ソルロック・)魔法(マジック)“鉄壁の城壁(フェッロ・キャッスルウォール)”」

 と、闘剣士は咲妃の繰り出した斬撃を防ぐべくすぐに振りかざした斧を持ち直し瞬時に斧の柄を地面に突き立て斧を銀の光沢がする鉄の壁へと変化させすべての斬撃を受け止める。鉄壁にぶつかる幾多の金属音が鳴り止んだ瞬間を狙ってイヴは鉄壁ごと咲妃にタックルしてくる。

「! 水冷魔法(アクア・マジック)疑水人形(ヒュドールダミードール)”っ!」

 鉄壁が咲妃の身体に触れた瞬間、咲妃の身体が液体へと豹変しあたり一帯に極粒の水滴が飛び散る。そしてイヴから少し距離をとったところで咲妃は水滴と変えた自分の身体を集め再構築する。

「……ほう身代わり魔法とは。やるじゃないか」

「あたしだってあんたが魔法を使うなんて思わなかったわよ」

 地面に突き立てている細剣を構えイヴの出方を窺った瞬間、イヴはなんの躊躇も無く瞬時に咲妃との間合いを詰め上げ両手斧を頭上から振り降ろし地面をかち割ったときに生じた尖った石が咲妃目掛け飛ぶ。

 飛び石が眼前に届く前に咲妃は細剣で全て弾き飛ばすも、視界から斧の腹が横殴りで迫りくる。

 ここで喰らったらさっきの二の舞……もう同じ手は喰らわないっ!

斬撃剣技(アタック・オン・ソードスキル)“海王の神槍(ポセイドン)”っ!」

 細剣のガラスのように透き通る刀身を空色に光らせ迫りくる斧の腹目掛け剣先を突き、金属どうしが激しくぶつかり合い耳を劈くほどの金属音が響く。

 咲妃の細剣の剣先が折れるかイヴの斧の腹にヒビが入り砕け散るか。互いに一歩もゆずお互いの武器破壊を狙っていく。

「負けて……たまるかーっ!!」

 気迫で剣技の火力を底上げする。それに応えるように刀身の光が急激に輝きを増し迫りくる斧の腹を少しずつ押していきヒビが入る音が聞こえてきた。そして、自分が押してきていることに気付いた咲妃は右脚を軸に左脚で地面を蹴り上げイヴの両手斧を破壊する。

 武器破壊で試合は終わりになったと思ったやさき、咲妃はそのままイヴの胸部に剣先をねじ込み壁際まで吹き飛ばした。

『試合終了ーっ! 準決勝にコマを進めたのはギルド“六芒神聖”咲妃だーっ!』

 何回もゴングの音が場内に響き渡り試合終了を知らせる。音を聞いた咲妃は鞘に細剣を納め鉄橋を渡り選手控室へと戻るも、途中で軽くめまいが襲ってきた。

『おっと。大丈夫かいお嬢さん?』

 と、これから試合に出ると思われる赤髪で盾なし片手剣の騎士に控室の出入り口で支えられた。

「あ、うん。大丈夫。ありがとう」

 騎士の手を借りて立ち上がった咲妃は騎士にお礼を言って選手控室に戻って行った。


「咲妃! 大丈夫か!?」

「あ、神夜。うん、平気だよ」

 慌てて控室に駆け付けた俺の問いに咲妃は笑顔で答えてくれたけど身体にはだいぶ疲れが蓄積していると思う。

 せめて俺が回復魔法を使えたら疲れなんてすぐに吹っ飛ばせるんだけどな。

「神夜心配しなくても大丈夫だよ。それより、この試合が終わったら次は神夜の番でしょ。あたしの心配より自分の心配をしなさい」

「あ、うん。ごめん」

「何謝っているのよ。ほら、あそこで試合でも見てよ」

 咲妃に手を引かれ俺は先とともに控室の窓際からみえるリングを見据え決勝リーグ第二試合を見た。

 第二試合出場の選手は闘剣士ではなかった。片方は盾持ちの片手剣に急所を守れるほどの装甲を装備した剣士――ラグナ―に対し相手は、白マントに動きやすさを尊重して作られた鎧をまとった赤髪の盾なし片手剣騎士――ギアス。

 一見、ギアスの方が剣裁きだけで身を守らなきゃいけないから不利に見えるが、ラグナーの装甲や盾を見える範囲で見ると至る所に傷や欠けている部分があり呼吸も乱れてきている。あのギアスって奴は相当な手練れと俺は見た。

 そして、試合は一気にクライマックスを迎える。

 ギアス目掛け盾を投げつけるラグナーはギアスに一瞬の隙を作らせるも、それを見切っていたギアスはラグナーの背後に回り込み四コンボもの斬撃を喰らわせ剣を鞘に納める。

 斬撃を喰らったラグナーはゆっくりと地面に倒れ立ち上がることはなかった。

 そして、ゴングの音が鳴り響き試合終了を告げる。

『第二試合準決勝へとコマを進めたのはギアス選手だ―!』

 平然とした態度で片手剣を鞘に納めるギアスは何食わぬ顔で鉄橋を渡って行き、行き違いでタンカを持った救護班が倒れたラグナーをタンカに乗せ運んでいく。

 さて、そろそろ俺も試合か。派手にやってくるかな?

「咲妃、今のうちに体力回復させておけよ」

「うん、わかった。神夜も体力残しておいてよね」

「たりめーだ。じゃあ行ってくる」

 ロングコートをひるがえし、俺は選手控室からリングへと通じる鉄橋を渡る。

 リング周りを囲む水の中には目立った生き物は見当たらないが高さは十分にある。落ちればコンクリート並の硬さの水面と抱き合うことになるんだろうなー。まあ落ちなきゃいい話だし。

 左親指で黒太刀の鍔を少し浮かせいつでも抜刀できる体勢になりながらリングへと立つ。

 そして、向かい側の鉄橋から青のマントにちゃ色肩当てを装備。素顔を鉄仮面をかぶって隠し武器はいたって目立つような装飾が施されていないロングソードだけを獲物とした盾なしの闘剣士――サルバジル。

 当闘技場の主って言うぐらいだから相当の手練れだと俺は予想した。

「……ここは貴様のような若造が来る場所ではないぞ。さっさと負けを認めて帰れっ!」

 試合が始まる前にやたらしぶい声で俺に忠告してくるサルバジル。俺に勝つ自信ありまくりって事か?

「生憎、ここまで来たら優勝するしか選択肢しかないからよー勝たせてもらうぜサルバジルっ!」

 鞘から勢いよく黒太刀を抜刀しサルバジルに剣先を向け高らかに勝利宣言をする。

「そうか……なら致し方ない。その身に我が剣裁き……酷と刻んでやるわい」

 鉄仮面から覗く鋭い眼光が俺を威圧してロングソードを掲げる。そして、進行役は俺たちの行動を『待ってました』と言わんばかりに高らかに木槌を挙げゴングを叩く。

 試合開始の合図が場内に響き渡るが、俺もサルバジルも目を光らせ一歩も動かず相手の出方を窺う。そして、サルバジルの剣先が微動だに動いた瞬間、俺は地を蹴り上げサルバジルの眼下から黒太刀を切り上げる。

 いきなりの攻撃にサルバジルは焦りも無く剣先が鉄仮面の前を掠めることもなくかわし、俺の右側面からロングソードを振るが斬り返しができる太刀の剣裁きでソードの斬撃を受け止め耳を劈くほどの金属音が鳴り響く。

「なかなかやるな若造よ」

「しゃべる暇があんたにあんのかよ!?」

「これは失敬。……フンっ!」

 両腕が膨れ上がるほどの力を込めるサルバジルは空を裂くほどの勢いでロングソードを振り太刀ごと俺を吹き飛ばし体が宙を舞った。

 体勢を立て直すべく俺は黒太刀の剣先を地面に突き刺し減速しすぐにサルバジルの方を見るが奴の姿はなかった。

 まさか上かっ!?

 気づいた時には時すでに遅く、天高く跳躍したサルバジルはロングソードを掲げ振り降ろしてきた。

「 “A.T.フィールド”展開っ!」

 後ろに下がっても剣先がギリギリ俺の身体に触れると考えた俺は、右腕を挙げ絶対防御壁“A.T.フィールド”を展開し斬撃を受け止める。

 受け止めることはできたが、ほんの時間稼ぎにしかならず五秒も経たずフィールドにヒビが入り無残に砕け散る。その隙に俺は斬撃の届かない射程範囲外まで下がり黒太刀を構え再度サルバジルに突撃し黒太刀を振るう。

 しかし、サルバジルはロングソードを少し斜めに掲げ黒太刀の斬撃を受け止める。だが、これはあくまでは計算のうち。俺は右腰に隠し装備していた白い鞘に納刀する白太刀『白桜竜・極氷』の柄を左手で握り神速ともいえる抜刀術でサルバジルの脇腹を斬り裂く。突然の斬撃に黒太刀の斬撃を受け止めるロングソードのガードが緩んだ隙を突き、力押しで黒太刀を振り降ろしサルバジルの身体にもう一太刀入れ左足で蹴りを入れ、間合いをつくる。

「ぐむっ……わ、若造―……貴様まさか―……」

 突然の攻撃に見舞われたサルバジルは傷口を押え荒い呼吸で俺に問いかける。

「そう。俺の戦闘スキル“二刀流” さっきの女性剣士も俺と同じことができるけどなっ!」

 地を蹴り上げ突撃する俺は、無意味にロングソードを振り降ろすサルバジルの斬撃を左手に持つ白太刀で弾き飛ばし右手に持つ黒太刀でサルバジルの胸部を右斜め上から斬り裂く。そして立て続けに左手首を返し斬りつけまた右手で斬り崩す。

 両手から繰り返される斬撃を全身に刻まれていくサルバジルは、ロングソードで飛び交う太刀の斬撃軌道を断とうと試みるも残像が残るほど速く動く腕の動きについていけずなす術がないまま地面に倒れ込む。

 両手に持つ太刀を左右の鞘に納めた俺は乱れた呼吸を整えるため一息ついて呼吸を戻す。

『決まったー!! ついに『十刃の戦場(エスパーダ・ペディオマキス)』の主、サルバジルを倒し決勝へとコマを進めたのはギルド“六芒神聖”神夜だー! これは新時代の幕開けか―!?』

 熱の入った進行役の一言でようやく試合は終わりをつげ観客のボルテージはさらに上がる。

 試合が終わったことにより控室出入り口から鉄橋がこちらのリングにかかる同時に医療班がすぐに駆け込み傷だらけになったサルバジルをタンカに乗せ運んでいく。

 医療班のあとを追うように俺も鉄橋を渡り控室へと戻ったがさっきまでここにいた咲妃の姿はなかった。そして

『さぁいよいよお待ちかねー決勝リーグ準決勝ー! 試合をするのこいつらだ―! 超高速で突きを繰り出すギルド“六芒神聖”咲妃ー! 対するは華麗なる剣技で客人をも魅了するギアスだーっ!』

 キ――ンっと進行役の甲高い声が大気を震わせ闘技場全体に響き渡る。控室出入り口からリングを覗くと、リング上には細剣『グランツ・ティア』の柄に手を添える咲妃と戦闘態勢に入っていないギアスがいた。

 さてさて、この試合どうなるか楽しみだ。

 なんて期待を寄せていた矢先、ギアスの口からとんでもないことが言った。

「この試合、棄権さてもらうよ。女性に剣を振るなど僕の流儀に反する。だから棄権させてもらう」

 そういってギアスは咲妃に背を抜けリングを去り控室へと戻りの俺の前を素通りする寸前、俺はギアスの肩を掴んだ。

「オイ。これはいったい何のマネだ?」

「何のマネって、見たまんまだよ。僕は女性に剣を振るのは僕の流儀に反するからね」

「お前の流儀なんてどうでもいい。いいからリングに戻って試合しろ!」

「君の指図は受け付けないよ。それより僕は疲れているんだ。帰らせてもらう」

 俺の手を払いのけたギアスは白マントをひるがえし控室を出て行った。

 ザワザワと観客席がざわめきだし進行役や試合を見ていた闘剣士たちの口は開いたまま唖然とした表情していた。

『こ、この勝負リア選手の不戦敗となりまして咲妃選手、決勝進出です。ギ、ギアス選手の剣技で私、期待してましたのに非常―に残念ですっ! ですが、観客の皆さん、大変長らくお待たせしましたー! いよいよ決勝リーグ決勝戦! 参加総数一,二六九人の頂点に立つのはいったい誰なのか! 決勝はギルド“六芒神聖”同士の試合だー!』

 ギアスが去っていく姿をただ茫然と見ていた俺は進行役の声を聴いて我に返った。そして、すぐに鉄橋を渡り咲妃の目の前に立つ。

「約束どおり決勝まで来たよ神夜」

「俺もだ咲妃。まあ俺は派手にお前を斬るつもりで試合をするつもりはない。そこでだ。お互いの身体の一部分にでも一太刀はいったらそこで試合終了、優勝ってルールでどうだ?」

「いいよ神夜そのルールでやろう。あたし、絶対に負けないから」

「俺だって! じゃあ試合(ゲーム)を始めようか咲妃」 

 左の鞘から黒太刀『黒桜龍・劫火』を抜刀した俺と細剣『グランツ・ティア』を鞘から抜き剣先を俺に向けて咲妃は構える。

 そして、進行役が高々と木槌を掲げ、ゴングを高らかに鳴り響かせ試合開始の合図を送る。

 合図とともに俺は地を蹴り上げ離れていた咲妃との間合いを詰め上げ右手に持つ黒太刀を咲妃の眼前から振り降ろし早くも勝負ありかと思いきや咲妃は、素早い身のこなしで黒太刀が描く斬撃軌道の射程距離から逃れ細剣で俺の頬目掛け反撃してくる。

 超高速で打たれた突きが俺の眼前に迫る紙一重のところで避け、バックステップで間合いを取り左人差し指を咲妃に指し。

火炎魔法(フレム・マジック)超高圧熱線(プロメテウス)”」

 摂氏何千度もある気化した熱線が咲妃目掛け秒速何キロもの速さで一直線に放たれる。

水冷魔法(アクア・マジック)“水壁”」

 回避できないと判断した咲妃は細剣を横振りし空気中の水蒸気を集め具現化した厚い水の壁を造る。そして、熱線が水壁に衝突した瞬間、熱風ともいえる水蒸気が全方位に広がり視界を奪う。

 だが、視界を悪いのはあっちも同じだ。索敵スキルで咲妃の居場所を発見すればっ!?

 キラッと一瞬俺の目の前を細剣の剣先が目の前を通過し再び霧と化した水蒸気の中へと消えた。なるほどな。熱線が水壁に衝突する寸前に咲妃は俺の立ち位置を把握してしばらくはその場から俺が動かないと判断したうえでの攻撃か。

 索敵スキルを発動し霧の中を縦横無尽に駆ける咲妃を探しながら次の一手を考える。そして、咲妃の姿が索敵網にかかり背後に迫ってきた瞬間を狙って黒太刀を後ろに振る。

 キーンっと黒太刀の刃が咲妃の持つ細剣の刀身とぶつかった証拠として刃を通して金属音と衝撃が伝わる。俺は力任せに黒太刀を横に薙ぎ払い、霧を掃う。そして、黒太刀の刀身に魔法で生み出した劫火を灯して細剣を盾にしたまま地を低空する咲妃を追う。

 黒太刀の薙ぎ払いでリング外へと飛ばされる咲妃は細剣の剣先を勢いよく地面に突き刺し水上落下を避け細剣の刀身を空色に染め正面からぶつかってきた。

斬撃剣技(アタック・オン・ソードスキル)焔獄超終(ヘルフレム・オーバーエンド)”っ!」

斬撃剣技(アタック・オン・ソードスキル)“海王の神槍(ポセイドン)”っ!」

 劫火を纏い太刀の形状を大剣へと変化させた黒太刀と透き通るほど鮮度のガラスのような刀身を空色へと変化させ海王という名が似つかわしい力を発する細剣が激しくぶつかりあう。

 その衝撃波凄まじく、リング全体を囲っている水が激しく波打ち闘技場全体が揺れるほどの衝撃波だった。

 一瞬でも力を抜けばやられる。

 そんな言葉が俺の脳裏を掠め、自然と体内の魔力を全身に注ぎ咲妃の細剣を押し退けるも咲妃は一瞬たりとも力を緩めたりはしなかった。ついに互いを押す力が強すぎるがゆえにスキル効果を失った細剣と黒太刀が空高く舞いあがった。

 すぐに自分たちの獲物を追うべく空を舞う武器目掛け飛び上がるも俺の身体はびっしりと表面張力を利用した水の鎖が俺の四肢の動きを奪っていた。そして、咲妃は遅れをとった俺よりも早く自分の武器――細剣『グランツ・ティア』を手に取り地面に着地する寸前に地を蹴り勢いよく剣を突くが俺の眼前で剣先を止める。

「はい、あたしの勝ちだね神夜」

「そうみたいだな。俺の負けだよ咲妃」

 俺が負けを認めた瞬間、空砲が何十発も打ち上げられゴングの鐘の音が何度も叩き付けらめる。そして、満面の笑みで笑う咲妃は眼前に構えていた細剣を鞘に納め勝ちを自分のモノにした。

『決まった―! たったいま総勢一,二六九人もの腕に覚えのある剣豪たちの頂点に立ちここまでほぼ無傷で決勝まで上り詰めた神夜選手を破ったのはギルド“六芒神聖”咲妃選手だ―!! そして、今国王様より優勝賞金一億ゼニーが贈れまーす』

 進行役の言葉通り、控室の別口から頭をすっぽり覆った金の王冠に長く伸びた白髭で童話やラノベに出てくるような王様が咲妃の前に立ち優勝賞金を贈る。

 そして、観客からは盛大な拍手が贈られた。俺は地面に刺さった黒太刀を回収し鞘に納めて咲妃に『優勝おめでとう』の一言を言った。

 こうして国王主催の剣技大会は幕を閉じた。

 俺と咲妃は一足先に闘技場を出て、観客席から出てくるたくさんの人混みの中からアリスたちと見つけて合流した。

 合流するなり『優勝おめでとう咲妃』と各々に声をかけていくアリスたち。一億もの金があればしばらくは困ることはないがこの世界の住人でない俺たちにとっては無用の長物だ。

 闘技場前で話している間に街の街灯がぽつぽつと照り始め、時刻は夕方から夜になったことを教える。

 俺たちはこの街に来た当初の理由通り団長が書いた手紙を持ち『リア』という人物の家を目指した。




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