第4クエスト 結託、8ギルド同盟『クロス・D』
*LOG IN
開門を抜けた先で俺たちを待っていたのは、藍色の空を照らす星々に太陽みたいに輝く月に照らされ風で揺れる草に、草原を這う大小さまざまな雲が飛び交う場所。
『大空の草原』
俺たちが初めてこの世界の地を踏んだとされる場所であり、俺が幼少期からずっと夢の中で見ていた景色。
まさか、再びこの地に足をつけることになるとは思ってもいなかった。
「それより神夜。なんでまたこの世界に来たんだよ?」
疑問を抱いた俊が俺に質問してきた。
「あーそれはだな―……」
『どいてどいてどいて――っ!!』
と、どこからか聞き覚えのある声が聴こえてきた。そして、開きっぱなしだった開門が急に強い光を放ち始め何かを勢いよく吐き出した。そして、ドンっ! と俺にぶつかりそのまま数メートル先まで飛ばされる。
「――イッターイっ!! もうなんだったのよーあれはー! それよりもここどこよ?」
「そ、その声……咲妃……か?」
自分の耳を疑った。しかし、十三年も幼馴染をしていればわかる。この声は間違いなく咲妃だ。でもどうしてここに?
「あれ? どこからか神夜の声がするけど―……どこなの?」
「お、お前の……下なんらけど……」
「えっ? あ、か、かかかかか神夜っ!? なんであたしの下にいるのよーっ!!」
ようやく俺の上に馬乗りしていることに気付いた咲妃は、俺の右頬を圧していた右手を離し急に胸ぐらをつかんできた。
「それはこっちのセリフだ咲妃っ! なんでお前がここにいるんだよっ!」
「そ、それは―……そんなことよりここどこなの!? 神夜教えてっ!」
―……ここのことを話してもいいのかな? まあ来ちゃったものは仕方ないか。
「咲妃、いいか。ここは俺たちがいた日本もとい現実の世界じゃないんだ。お前もあの開門を通ってきたなら分かるよな? ここは紛れもない異世界、それもSOWの世界なんだよ」
「じょ、冗談はよしてよ神夜ー。ここがあのSOWの世界なわけないでしょー」
「俺はいつでも大マジだ。――なんなら見るか? 非現実なこと『魔法』ってやつをよ」
馬乗りしていた咲妃をのかし、草と抱き合っていた背中をようやく離れさせることができた俺は人のいない方向に右人差し指を指し
「魔力解放。火炎魔法『超高圧熱線』」
体内に封じていた魔力のトリガーを解除と魔法詠唱の同時進行によってこないだの戦いよりも紅く小さな魔法陣が指先に出現し威力はたいしてなさそうな熱線が大気を貫いた。
「い、今のって火属性中級魔法『超高圧熱線』だよ……ね?」
咲妃は目を点にして俺が見せた魔法に驚愕の表情を隠しきれずにいた。これで信じてもらえればいいな。
「どう? 信じる気になった?」
「う、うん……。ねえ『魔法』ってユキや俊、アリスも使えるの?」
「俊は魔法を使ったところを見たことないからわかんねえけどユキとアリスは使えるぞ。あーもちろん咲妃も使えるぞ。お前は俺と同じ魔法剣士だからな」
『あのー神夜さんっ。もういいでしょうか―?』
と数メートル離れた場所からアリスの声が聴こえてきた。いかん……すっかり忘れてた。
俺は咲妃と一緒にアリスたちがいる場所へと向かった。
「――さて、なんやかんやで全員そろってしまったわけだがここで話すのもなんだしアリスんちで話してもいいか? アリスいいか?」
「は、はい構いません。家もすぐそこですし」
「え、えっ? アリスの家ってこの近くなの?」
「はい、歩いてすぐそこですよ。では行きましょうか」
「だってよ。咲妃行こうぜ」
アリスに先頭してもらい俺たちは月光が降り注ぐ草原の丘を下った。移動中に俺はこの世界での咲妃のステータスを本人の許可なしで確認した。なんせ、咲妃は以前ネットゲームSOWのラスボスとほぼ同じ強さのパラメーター数値を持って和の国で俺と戦ったからな。もしかすると今の咲妃のステータスに響いているってことも考えられるから今のうちに確認しとかねば。
打撃、法撃、射撃、技量、全防御力……ともに正常。ゲーム時の咲妃のアカウントのパラメーターと現実世界での咲妃の運動神経を合わせると強さとしてはこれが打倒か。ほぼ俺に近いパラメーター数字だな。まあ何はともあれ魔王によるパラメーター汚染は検出せれてないしあとは魔法スキルを当の本人に確認してもらえればいいか。
そうこうしている間に、暗夜の空を照らす月の輝きをそのまま映し出した小さな泉。そしてその隣には木造とレンガが入り混じる三階建ての大きな家が見えてきた。
月光だけでこの明るさ。異世界の夜は現実世界の夜とは違うな。
窓から室内の明かりが灯ってないところをみる限り家の中は誰もいないと思える。一度でいいからアリスの両親に挨拶しておきたいな。同じギルドの仲間として。
ドアノブに手をかざしたアリスは特にポーチとかからカギを出すのではなく小声でかすかにしか聞き取れない魔法詠唱でドアの錠を解き、俺たちを家の中に招いた。
久々と言うのはちょっと言い過ぎかもしれない。つい四日前のちょうどこの時間帯ぐらいにアリスたちとパーティをしたっけな。あの日がまるで昨日の日のように俺は覚えている。
「なあ皆。さっそくだけど話し合いを始めてもいいか?」
気を利かしてアリスがランタンに火を灯してくれたおかげで少しは部屋の中が明るくなった。それで俺はさっそく木製の長テーブルに全員集まるよう言い、全員が椅子に着席したのを確認し例の事件についての話し合いを始めた。がその前に咲妃にはこの世界のことを詳しく説明した。
その一。この世界での『死』は現実世界と同じ。いくらこの世界がゲーム『SOW』の世界だからと言って蘇生はされない。死んだら肉体は愚か魂も消滅。
その二。自己の体内に秘める魔力には限界があること。このへんは体調管理みたいな感覚でやればいい。
その三。装備やアイテムは左の人差し指をスライドさせるような動作をするとメニューが開いて使用可能。このへんはタッチ画面をいじる感じで操作すればいい。
説明するとことと言えばこれぐらいかな? あとは自然と学んでいくだろう。
先に話しておくべきことかが済んだところで俺は、再びこの世界に足を運んだ理由を教えた。
この世界に来る前に町のあっちこっちで見つけた黒い羽と高度三千メートル地点にある次元断層の亀裂。これらから考えて白星さんはこの世界に住んでいる者によって誘拐されたと俺は考え再びこの世界に来た。それにアリスが現実世界に来た理由は現実世界にある次元断層の亀裂を閉じることだ。それと結び合わせてもその世界から現実世界への侵攻だって言える。
しかし、一つ不可解なのはなぜ『白星さんが誘拐された』かだ。確かに彼女は俺らと同じSOWのプレーヤーだ。それ以外はいたって普通の女子高生だ。犯人はいったい何が目的で彼女をさらった……。
考えても答えにはたどり着けない。
悶々とする頭を抱えて悩んでいるとピピッ、と視界の右上に新着メッセージのアイコンが現れた。
「ちょっとすまん、メッセきた」
一端席を離れた俺は部屋の隅っこに移動してメッセージを開いて読んだ。
送り主はトップギルド『聖王十字軍』団長のディフロト団長からだった。彼にはまだ俺たちがこの世界に来たってことを連絡していないのにまるで彼には俺たちがこの日にきることを知っているかのように思える。
内容はこうだった。
『明日の正午。『ヘブンス・ドア』ギルド会館会議所にて八つの有力ギルドを招いての会議を開く。ぜひ招集に応じてくれ』
とのことだ。有力ギルドねー……。確かに俺たちは以前『和の国』で魔王の一角を倒した功績がある。だがそれだけで有力とはちょっと言いすぎかもしれない。実力があるとはいえギルドとしてはまだ小規模の部類に入る。
まあでも、トップギルドマスターのディフロト団長から見れば俺たちも有力ギルドと同等の力があると見込んだんだろう。参加だけはしてみるか。
すぐに俺はプロジェクションキーボードで団長宛のメールを作成して送信し、ことが済んだところで席へと戻った俺は送られてきたメールの内容をアリスたちに説明した。
団長が開く会議にはギルドマスター一人とその補佐官一人が出席することになっているらしくアリスは過去に団長の補佐官として出席したことがあると話してくれた。俺としては咲妃かユキを補佐官にしたいところだがこの世界への知識はアリスを除く全員が無知だ。
そう考えると必然的に明日の会議、俺の補佐官としてはアリスが適任だな。
「アリス、明日の会議俺と共に出席してもらってもいいか?」
「はい、構いませんよ。わたしでお力になれるのなら」
とすぐにアリスから承諾をもらいこれで無事に明日に備えることができた。
長く感じた話し合いが終わり長テーブルに置いていたランタンの火を消し三階フロアのゲストルームに各々入り今日はこれでお開きとした。
ひとまず、装備画面を操作して一日中着てた制服から黒のインナーに着替えた。あとは明日の会議で着る服だけど、どうしよっかな―……。
普段ゲーム時のアバター『夜神』が着ている『漆黒のロングコート』を着ていくか。それてもここはオシャレ着として持っていた『バトラーテイルコート』を着るか。ここは悩みどこだな。メールを読む限り団長は六芒神聖以外にもあと六つもの有力ギルドを呼んでいるわけだし。やっぱ初めが感じだしー。あーもうどうしよっかなー!!
初デートに気合を入れていくような気がしてきた。
アイテム画面を見ながら悶々とする頭を抱えて考えをまとめている最中、コンコンっと扉を誰かがノックしてきた。
『神夜、まだ起きてる?』
とドア越しから声が聴こえてきた。俺は一端アイテム画面を閉じすぐにドアを開けた。声の主は咲妃だった。それもまだ鳳仙学院の制服を着たままだった。さっきアイテム操作の仕方は教えたはずだけどな。
「どうした咲妃? こんな時間に」
「あ、うん。ちょっと神夜に聞きたいことがあってね。ダメかな?」
「いや、ダメじゃないよ。さ、入って」
小さく頷いた咲妃は緊張した主脚で部屋に入りフカフカのベッドに腰掛けた。
俺に聞きたいことってなんだ? もし仮にこの世界のことをもっと知りたいなら俺よりアリスに聞いた方が効率はいいと思うが。
「それで俺に聞きたいことって?」
「うん。あたしたちがこの世界に来ているってこと氷空ちゃんには伝えてるの?」
「いや、伝えてないよ。それに今はルナ姉さんがいるから心配ないと思うよ」
「そうかな―……もしあたしだったらすっごく心配すると思うよ」
「まあ家族の心配も大事だけど今は白星さんを助けることが第一だろ。早く助けて一緒に現世に帰還しようぜ」
「うん、そうだね神夜。あたしも神夜の力になれるよう頑張るね。じゃあそろそろ部屋に戻るね」
「あー咲妃。ちょっとまってくれ」
部屋から退出しようとする咲妃を呼び止めた俺はすぐに自分のステータス画面からギルドマスターだけが扱えるマスターボードを操作し咲妃にある書類を転送した。
ギルド『六芒神聖』入団招待状
本来なら話し合いの初めの方に渡しておけばよかったのだが、思いのほか話すことが多くてすっかり忘れていた。
「神夜、この招待状ってギルドの入団招待状だよね?」
「それなんだけどね。本当はさっきの話し合いの時に渡せばよかったんだけどね。こんな形で渡すことになったこと、謝っとくよ。ごめん……」
「うんん、あたし気にしないよ神夜。あのときはいろいろと神夜も忙しかったし。こうして二人っきりの時に貰うってのもなんかいいかな? とにかくありがとう神夜。すぐにサインして送るね」
そういって咲妃は部屋を出て行った。そしても数分も経たないうちに咲妃からギルド入団承諾書が届きギルド『六芒神聖』のメンバーは五人となった。人数が増えたとはいえ、これでもまた小規模ギルドとほぼ同じか。まあこれ以上ギルドメンバーを増やす気は毛頭ないわけだし。明日の会議にはどのような有力ギルドが集まるかちょっと楽しみだ。
マスターボードを閉じた俺はそのままベッドに横になり明日の会議に備えて目を閉じた。
*
『ん、んん―……ここはどこなの?』
重たいまぶたをゆっくり開けたミチルはぼやける視界のなかで自分が置かれている現状を把握する。
湿った臭いのする薄暗い部屋。そして目の前には錆びかかった黒鋼の檻。ミチルは今いる場所を城か別の何かの地下牢と考えた。
『これはこれは。ようやくお目覚めですか可愛い天使さん』
カンテラの明かりとともに聞き覚えのある声の主がゆっくりと檻の前に現れた。
ミチルは声がした方向に目をやり身体を前に進ませようとするがミチルの身体は動かずおまけにジャラリと鎖同士がぶつかり合う音が聞こえた。それもそのはず。ミチルの両手はX字型の綛で縛られその場から動かないように繋ぎ止められているのだから。
「――ここはどこなの?」
「起きていきなりそれですか。少しは外の空気を吸ってはどうなんですか。さっきまで本の中に閉じ込められてて息苦しかったでしょ?」
「そんなことどうでもいいの! ここはどこなの!? 早く答えてよっ!」
「答える義理なんてないね! どうせ誰も助けにこないんだから!」
「――絶対に助けはくるよ! 私は信じるもん!」
「助けにー? 一体誰がー!? あー君の友人たちかー。でも残念。彼には絶対ここの場所が分かるはずがないのだよ!」
「――!」
ミチルの主張を全部、目の前の男に全否定され心が折れそうになる。
「ま、せいぜい来る日まで大人しく待っていたまえ可愛い天使さん」
そう言い残して男は牢屋の前から立ち退き扉を閉める音とともに消え去った。
「……くる……もん……。助けは、絶対に来るもん……。……助けてお姉ちゃん、十六夜くん……」
独房の中でミチルは目を閉じ静かに祈りを下げた。
*
翌朝、カーテンを閉めずに寝たせいで窓から日光が差し込むと同時に目を覚ました。なんか無理やり起こされた感じしていささか不満が募るが致し方ない。
大きなあくびをして部屋の扉を開けると一階のキッチンから朝食を作っている音が聞こえてきた。たぶん、アリスが作ってくれているのだろう。朝早くからご苦労様なこった。
まだ少し視界がぼやける寝ぼけ眼を擦って階段を下りる途中ですべり落ちかけた。おかげで少し目が覚めた気がする。
「おはよ―……アリス。朝から元気だな……」
「あ、おはようございます神夜さん。もうちょっとで出来上がりますので」
朝のあいさつを交わし終えるなり、アリスは鼻歌交じりで朝食づくりに戻った。鼻歌を聞いているとやたりアリスが上機嫌ってことが伝わってくる。それよりこの歌。どこかで聴いたことがある気がする。いったいどこだったけな―……。
最後の料理が各お皿に盛られ質素だったテーブルの上を高級ホテル顔負けの料理の数々が彩った。できあがりを合図に咲妃たちも三階からぞろぞろと下りてきた。これで全員集合だな。
「おはよう。やたら眠そうだけど寝不足かおまえら?」
「そう言う神夜は元気いいなーおい。この眠気をお前にやろかー?」
「いや、遠慮しとくよ俊」
俊は俺と同じでたただの寝不足みたいだ。さて、ほかのお二人方は?
「あたしも寝不足よ神夜。昨日の夜から自分のステータスと格闘してたんだから」
「私も咲妃と同じ」
徹夜でステータス画面と格闘とは―……。どんだけゲーマー廃なんだよ。まあ俺ほどではないにしろ。
「ところで。この朝食誰が作ったの? 神夜なの?」
「いや、俺じゃなくてアリスが作ったよ」
『アリス』といった瞬間、咲妃は驚愕の表情を隠せなかった。ただ『すごよアリスっ! すごいっ!』と連呼しながらアリスの両手を握って上下に振る。
「それじゃあ全員そろったことなのでいただきましょうか」
パンっと手を打ちあわせ五人そろっての『いただきます』を唱えアリスお手製の朝食にありついた。
『おいしい……!』
ただその一言しか言えないほどアリスの手料理はおいしい。こないだもアリスの手料理を食べたけど今日のはまた格別だ。毎日食べても食べ飽きないくらいだ。今度からの朝食当番は俺とアリスの交代でやりくりしよっかな?
高級レストランに出てきてもいいような豪華な朝食を食べ終えた俺たちは一度各々の部屋に戻りステータス画面を展開し画面に映る装備フィギュアをいじり装備を変更した。装備変更は一瞬で終わる。縦スクリーンを指でスライドさせ装備したいアイテム名が出たらそれを押すだけで着替えが完了する。
今回俺が選んだ装備は『漆黒のロングコート』『ブラッディ・ジーンズ』で上下を黒で統一し武器は『黒桜龍・劫火』を腰に納刀し自己アカウント『夜神』と同じ姿になった。
ちょっとコスプレじみているけど以前も今と同じ格好したしいいかな。
一度部屋に置かれている鏡の前で着崩れが無いか確認した後俺は部屋を出て一階のリビングにある椅子に腰掛けて全員を待った。
しばらくして三階の方から扉が開く音が聴こえた。そして、下りてきたのは咲妃とユキだった。咲妃の服装は大胆にも胸元を晒した白のミニワンピの肩と胸に簡単な装甲を積み腰にはスピードを重視した白くて美しいレイピア『グランツ・ティア』と藍色のフォールドを装備していた。レイピアのほかに左手に鈎爪の付いた籠手を装備していた。
ユキはユキでゴスロリ衣装を思わせる白のフリルがついたゴシックフリルレースに黒のミニスカートの上からはジョブ『魔導師』の特徴でもある黒のローブを羽織っていた。そして首元からは退魔効果のある十字架のネックレスをかけていた。手には杖らしき武器は装備していなかった。たぶん詠唱一つで魔導書を召喚して闘うんだろうな。
「あれ? まだ神夜だけしか来てないの?」
「そのようだな。そのうち俊たちもくるだろうって噂をすれば来た来た」
珍しい組み合わせもあるものだ。いつもはユキと一緒に登場する俊が今日はアリスと一緒に三階から下りてきた。
俊の装備類を見る限り俺のオシャレ着として持っている『バトラーテイルコート』に似ているが違う。彼が着ているのは『バトラーテイルコート』の中でも藍色の軍服だった。上から下にかけて藍色の生地でできており装飾としては白のラインが入っておりベルトと袖には小型のナイフを仕込めるようになっている。
アリスはやはり物語『不思議の国のアリス』に出てくる本物のアリスのコスプレをしているような装備だった。白のフリルがついた青のロングスカートにホワイトポンチョを羽織っていた。腰には小びんが三つくらい入るのではないかと思うポーチを着ていた。まあこの世界の事だからポーチは魔法の力でものがたくさんはいるようになっているんだろう。
「さて、これで全員そろったわけだし『ヘブンス・ドア』に行くか。アリス転移魔法をお願い」
「了解しました神夜さん。では皆さん行きますよ。転移『ヘブンス・ドア』」
魔法陣の書かれていない床に手をついたアリスは床に自分の魔力を流し込んで脳内で書いたと思う魔法陣を床に転写する。そして、次の瞬間俺たちの身体が青白い光に包まれるや否一瞬にして見ている景色が変わった。
俺たちがさっきまで見ていたのはアリス宅のリビング。それが今は白いハトが闇夜の晴れた空を飛びまわり朝から元気にはしゃぐ回る子どもたちがいる広場にいた。
一瞬にしてここまで俺たち五人を転移させるとはアリスの魔力は魔導師顔負けだな。
「えっ? ここどこなの神夜?」
「ここは『ヘブンス・ドア』っていう街だよ。まあゲームで言うとはじまりの街的立ち位置かな? それよりもなんか今日は町がお祭りみたいで賑わってるなー。何かあるのか?」
広場を見渡す限り小規模か中規模ギルド。それも交易系、生産系ギルドが中心となって道行く先に出店の準備を進めていた。『ヘブンス・ドア』にとって今日は何らかの記念日なのかそれてもただのお祭りなのだろうか俺にはさっぱりわからない。とりあいず有益な情報を得るため俺は広場のカフェテリアで湯気立つコーヒーを飲んでいる一人の紳士に話を訊いたところ。なんでも今日は聖王十字軍団長ディフロト氏が呼んだ世界の有力ギルドの七つがここ『ヘブンス・ドア』に集まるらしく、街中の小中規模ギルドが歓迎の意を込めて祭りを開いたと教えくれた。
なるほどな。その有力ギルドってのは、団長が送ったメールを受け取った者たちの事だろう。もうそろそろこの街に来ているころかな。
俺たちは紳士に礼を言って会議が行われるギルド会館に向かった。道中慌ただしい朝の道行く先々で木箱を大量に抱える商人がいったりきたりして出店の支度を急いでいる。そよほど今日の祭りで一儲け狙っているのかと思いたくなる。
ギルド会館が目と鼻の先に見え始めるころになるとここにきてようやく戦闘系ギルドの面々が道の真ん中を開け端っこの方によって有力ギルドのお出ましを今か今かと待っていた。
するとその願望をかなえるかのように道の奥から漆黒の騎士甲冑を全身に纏い背には真紅のマントをなびらせる男を先頭にざっと見、百人はいると思う剣士を連れたギルドが小中規模ギルドの間を通っていく。
見た感じ魔法を使えそうなやつは先頭を歩いていた男の隣にいた副官らしき人物だけだろう。
その後も立て続けに、美しい装飾品を纏いツンと尖った耳が特徴的ともいえる魔法攻撃に特化しているエルフ。
背は小さいが体つきを見る限り屈強な力を持ち背丈より大きな両手斧を背に掲げ特徴的な長ひげをもつドワーフ。
腰には日本刀を掲げ着込んだ着物をなびかせ何十頭もの馬を引き連れたまま街中を通ってきた和人たち。しかし、その先頭に立つ和人は以前『和の国』にいったときに遭った柊や時宗たちではなくまったくの別人だった。
和人たちが会館の方に行ったのを見計らい人混みを掻き分けて俺たちもギルド会館の方に向かった。
会館前から感じる異常ともいえる威圧感がドアノブを通して感じる。これが有力ギルドたちから感じるプレッシャーなのか?
『おや、神夜君たちではないか』
と不意に後ろから誰かに声をかけられた。振り向いてみれば両肩に白の十字架の紋章が入った深紅のローブを着込んだディフロト団長だった。
「だ、団長っ! おはようございます。でも、どうして団長がここに?」
「そう畏まらなくてもいいよ神夜君。私はちょっと交易系ギルドと交渉に行っていただけさ。さて、有力ギルドも全員揃っているみたいだし私たちも行くとしようか神夜君」
「はい。じゃあアリス行こうか」
「はい神夜さん」
団長の背を追うようにして俺たち六芒神聖はギルド会館に入った。
会議出席しない咲妃たちには会館のロビー、もしくは交易系生産系ギルドが開催している祭りに参加でもして会議終了までの時間をつぶしていてもいいことにして会議所がある最上階を目指す。
魔力を原動力として動くエレベーターが最上階に到達するなり目の前には左右対称にほられた繊細な彫刻模様をした扉がみえる。あそこに俺と団長を含む八つのギルドが集まるのか。最初が肝心だ。
扉から感じるプレッシャーに心が押しつぶされそうになるが、一歩、また一歩と足を進ませ扉を開ける。
扉を開けた途端、強い光が差し込み一時的に視界を奪われるがあっという間に視界がもとに戻ってきた。最上階だけとあって天井には青い空が見えるくらい鮮度の高いガラスを使った天窓。会議所中央には藍色の大理石で作られていると思う円卓。その周りには玉座を思わせるような繊細な模様が刻まれた椅子。そして玉座に腰かけて会議開始を待つ六人のギルドマスターたち。
街中でみたギルドマスターたちのほかに、容姿は人間そっくりだが岩のように固い皮膚を持ち身長は裕に二メートルはあるアースジャイアントがいた。
妖精族のギルドはこの三つ。あとの五つは人間か。団長も粋なことをする。
俺は団長の隣席に腰を下ろした。アリスには副官として俺の右隣に立ってもらい団長合図のもとで開始する会議開始を待った。
「さて、まだ会議開始時刻はまだ一時間も余裕があるが全員そろったので始めさせてもらう」
「おっと。その前に二つほどいいかディフロト」
開始早々アースジャイアントが岩のように大きい剛腕を高々と挙げ意義を唱えてきた。
「なんだね、ギルド『ラース・タイタン』ギルドマスター、リーゼ」
「今日の会議で呼ばれているギルドの選定基準はなんだ? それとさっき、あんたとここに入ってきたガキだが、まさかそいつも今日の会議に呼ばれているのか?」
本日の会議で呼ばれている有力ギルドの選定基準はこうだ。
まず主に戦闘実績が各国、街、大陸で名をあげている戦闘系ギルド。エリート剣士育成を主とする『黒竜騎士“ラグナロク”』 巨人族の一種アースジャイアントのギルド『ラース・タイタン』 『和の国』和人ギルド『東欧和国』 魔法攻撃に特化しているエルフのギルド『マジック・ツリー』 そして、世界トップギルドの名を持つ『聖王十字軍』の戦闘系ギルド五つ。
次に生産系を代表とするギルド。商売、交易を専門とする『カルディナラ・ストー』医術、武具生産、薬品調合を主とするドワーフのギルド『ルイナク・ヘズボーン』の二つ。
そして、八つ目のギルド『六芒神聖』の選定基準だけ団長は言わずしてリーゼの二つ目の問いに答える。
「彼は私が呼んだ有力ギルドの一つだ。私の目に狂いはない」
「確かにあんたは人を見る目はある。だが俺からすればただの力のないガキだっ!」
「ならば会議を始める前にリーゼ。彼とここで決闘してみてはどうかね?」
「ちょっ、ちょっと待ってください団長っ! 今日俺は会議に呼ばれてここに来ている。ただ決闘しに来たわけじゃ」
ガタンっと立ち上がった俺は団長に異議を唱える。命がいくつあってもあのジャイアントには勝てる気がしない。ただ攻略法さえ見つかれば話は別だけど。
「ほういいだろ。おい、ガキっ! ちょっとこっちに来いよ力の差を見せてやるから」
闘争に満ちたリーゼは席を立ち退き俺の側まで歩みを寄せる。
「……団長。彼と俺の決闘のせいでここを破壊したりしても知りませんからね」
やる気はないが売られた決闘は買う。それが俺だ。
席を立ち退いた俺はリーゼに連れられ会議所の少し開けた場所に移動した。他のギルドマスターたちも興味本位で俺とリーゼの方に目線を寄せる。
俺は周りに及ぶ被害のことも考え空間魔法『固有結界』を展開させ被害削減を試みる。
はたしてあいつにこれを破られないかちょっと不安だけどやらないよりかはましか。
「ほう魔法が使えるのか。人間のくせに大した奴だ」
「そりゃどうも『ラース・タイタン』ギルドマスター、リーゼさん。せっかくだし俺も名のっておくよ。俺はギルド『六芒神聖』のギルドマスター神夜だ。以後お見知りおきを」
「神夜。さっそく悪いがはじめさせてもらうぞーっ!!」
グッと剛腕ともいえる右腕に力を込めるリーゼは、その巨体に似つかわしいまでのスピードで俺との間合いを詰め右腕を振り降ろす。
速いっ! 仮に受け止めれたとしても勢いを殺すことはできないしA.T.フィールドの展開も間に合わない!
背中の紅翼を広げ顔面ギリギリまで迫ってきた拳を当たる直前にかわしリーゼの後ろに回り込む。
「翼を生やしているとはお前ホントに人間か?」
「列記とした人間だよ、俺は!」
内に秘める魔力を右腕に集中させ真正面からリーゼの腹部に一発お見舞いしに行く。
「正面から来るとは。そのままつぶしてくれるわーっ!」
剛腕を天高く掲げ自分の手を肥大化させたリーゼは勢いよく手を振り降ろしてくる。手が床に着くなり巨大うちわを扇いだ時に生じる風より衝撃波に近い風が前方全域に広がり結界が揺れ動き衝撃に耐えきれず消失した。
床に埋まりかけて手を掲げるとそこにはリーゼの手跡がくっきりと残っていた。結界は全方位それも床まで覆っていたが結界を破壊するほどの威力を持っていた。
「どうやら俺のほうが上だったみたいだなー! この決闘俺のか――」
「おいおい決闘はまだ終ってねーぞっ!」
隙だらけのリーゼの背後に回っていた俺は魔力で硬化させた拳に力を加え勢いよく殴りつける。岩のように固い皮膚だが魔力で硬化させた拳は岩をも砕く鋼の硬さを持っている。
「かはっ!? き、貴様いつの間に―……!」
「一振り目にはビビったけど、さっきの大振りの攻撃簡単に避けれるよっ!」
振り向いたリーゼが裏拳をしてくるが勢いもスピードも大して無く簡単に避けた俺はリーゼの顎目掛けサマーソルトキックを食らわせ二メートルもの巨体を宙に打ち上げる。そして打ちあがったリーゼの全身に魔力硬化させた拳を連続コンボでたたきつけ流れを自分のモノにする。
最高点に達し重力に引かれ堕ち行くリーゼの頭部を両手で打ちつけ加速させ床に打ち落とした。
勢いよく落ちたにも関わらず床が抜け落ちることはなく煙を立ち昇らせクレーターを残しただけですんだ。
リーゼが落ちたクレーター近くに下りた俺は煙を掃いながら彼に歩み寄った。驚いたことにあれほどの連続コンボを全身に受けたのにリーゼは立ち上がっていた。
「へへっ今のさすがに効いたぜ神夜……。だがまだ決闘は終わらな――」
『そこまでだっ!!』
パンっ!! と会議所の空気を振動させるほどの手なりが鳴り場の空気がいっきに静まり返る。手を打ち鳴らしたのはディフロト団長だ。今の決闘を見てこれ以上はここが耐え切れないと判断したのだろう。
「ディ、ディフロトっ! なぜ止める!? 俺はまだ闘えるっ!」
「リーゼ、もう闘わなくてよい。君も闘ってみて神夜君の実力が解っただろ」
「解らね―な。もう少しやらねーとっ!!」
「言っておくが私が見たところ彼は半分の力も出していないと思うぞ」
団長のその一言で俺とリーゼの決闘を見ていたほかのギルドマスターおよび副官たちがどよめきだす。やっぱばれてたか……。
「ほ、ホント―……なのか?」
「えっ? あ、まあな。あんたほどの実力なら半分の力も出さずに勝てる気がしてな」
「――な、ナメたマネしやがってー!!」
完全に頭に血が上ったリーゼは内に秘めていた力のリミッターを解除し建物全体を破壊するほどの力を拳に溜めて俺に殴りかかってくる。
「あーもう決闘はおしまいだって団長が言ったのによー!」
迫りくるリーゼの全力が込められた拳を掻い潜り、大気を打ち砕けるほどまで魔力硬化した右拳を人体の急所の一つ鳩尾に打ちつけリーゼを鎮める。もろに受けたリーゼは腹部を押えゆっくりと床に沈んだ。
「大丈夫ですよ。ただ気を失っているだけですよ。それより早く医務室へ彼を運んで」
俺の一言でハッと我に戻ったディフロトはすぐに十字軍の医療班を会議所に呼びリーゼの治療に取り掛かるように指示し、彼は医務室へと運ばれていく。
すこしやりすぎた気もするけどもしあの攻撃を停めていなければ会館が崩壊して被害がバカにならなかったと思う。
「さて、リーゼが医務室で治療を受けている間『ラース・タイタン』副官殿。君が彼の代理を務めてもらうがいいかね?」
「はい、わかりました。ディフロト団長」
「では、今の決闘を見てもらった通り彼『六芒神聖』ギルドマスター神夜君の実力だ。この中でまだ何か異議がある者はいるか?」
シンっと会議所が静まりかえり誰一人と異議を唱える者はいなかった。
「いないようなら彼を有力ギルドの一つとして認めたものとする。では、長なく待たせたな。さっそく会議を始めよう。とりあいず全員これを見てほしい」
そういって団長はウィンドメニューのアイテム画面を展開しギルドマスター全員に二通の洋紙が配られる。
一枚は、今後この世界がどのように変化していくか、まるで未来予知をしているかのように思える内容が書かれていた。そしてもう一枚の洋紙にはギルド同盟承諾書だ。全員、この洋紙に書かれていることに各々疑問を抱いている。正直、俺でもこの展開は読めない。まあなんにせよこれからこの洋紙が何を意味しているのかこれから団長の口から説明されるから謎はすべて解けるだろう。
「全員、この洋紙に目を通したと思うから説明を始める」
団長がいう説明はこうだ。
先日、俺たちの世界。つまり現世で大量のSOWプレーヤーの消失事件を引き起こした魔王が倒されたことによってこの世界は平和になった。が、魔王は一体だけでないことがつい最近見つかった古い文献に記されていたことが分かったらしくその数はおよそ七人。
俺たちが『和の国』で倒した魔王を引けばあと六人もの魔王がこの世界のどこかに潜んでいるらしく、未だその所在地は不明。ましてや情報など皆無。文献にはただ魔王が七人いるとだけしか書かれていないと団長はいう。
そこで、団長が考えた得策としてまず聖王十字軍のように街、国、大陸を治める有力ギルドと同盟を組み、今後現れるであろう六人もの魔王の所在を暴きともに闘おうという策だと俺は思う。
この世界の住人たちにとっては驚愕までともいえる情報をこの街に来た六ギルドに伝えたのだから全員驚きの表情を隠しきれていない。そろそろ異論の一つや二つ出てもいいと思う。
「おいっ! ディフロト、これは本当なのか!? 魔王が七人もいるなんてよ!」
いきなり円卓を叩きつけ団長に疑論を唱えたのは漆黒の騎士甲冑に身にまとったギルドマスターだった。
「いえ、正確にはあと六人ですわ、ジーザス」
「あー? なぜそんなことを言い切れるんだ梓?」
「いや、言いきれて当然だジーザス。つい先日『和の国』に魔王の一角が攻め込んだのをしているな」
「あー知っているが……。それがどうしたって言うんだ?」
「その魔王を私の隣にいる『六芒神聖』の神夜君が倒した実績がある。『和の国』は梓の祖国、だから残りの魔王が六人だと言い切れるのだよ」
「バカなっ! 魔王は神にも匹敵するほどの力をもっているとされているのに! それをこのガキがたった一人で倒しちまったのか! ハハッ……気でも狂っちまいそうだ。ディフロト。確かにこいつは有力ギルドに匹敵する力を持っているな」
ジーザスは俺の方を見て小さく笑って見せる。
「さて、話を戻すとしよう。今の情報より残る魔王は六人だ。しかし、いくら魔王の一角を倒した神夜君が残りの魔王をすべて倒してくれるとは限らない。仮にも魔王だ。個々で能力は違うし特殊能力を持つ者だっている。そこで私が二つ目に提案するのがこれだ」
バンっと円卓を叩きつけるディフロトが全員に示したのが二枚目の洋紙『同盟ギルド結託承諾書』だ。同盟ギルド名は『クロス・D』と記されていた。
「同盟を組むってことは掲げるは『打倒魔王』なんだろディフロト?」
「その通りだジーザス。察しが良くて助かるよ。以下の通り同盟ギルド『クロス・D』は『打倒魔王』を掲げる同盟ギルドとして結託し文献に記された魔王を打ち倒す。そして真の平和をこの世界にとどろかせようぞっ!」
団長の熱い訴えにほとんどのギルマス達が心を打たれ感銘を受けていた。やはり、この中にも世界平和を望むものがいるのか。
そして、団長の熱意に応えるかのようにして『黒竜騎士“ラグナロク”』 『ラース・タイタン』 『東欧和国』 『マジック・ツリー』 『カルディナラ・ストー』 『ルイナク・ヘズボーン』の六つのギルドが承諾書にサインし始め団長の手元に送られる。そして、俺『六芒神聖』も団長の考えに同意する意思を示し承諾書にサインして団長に渡す。これで全員の承諾が確認され晴れて八ギルド同盟『クロス・D』が現時刻を持って結託した。
無事に八ギルド召集のもと開かれた会議は無事に終焉を迎えた。そして、最後に団長は先ほど結託した八ギルド同盟『クロス・D』のことを『ヘブンス・ドア』にいる小中ギルドの面々に知らせるべくギルドマスターだけを連れて会議所を後にする。俺は会議所を出る前、アリスに『あとでギルド会館エントランスにくるように』と連絡するよう伝えて別れた。
今俺は八ギルドのマスターたちと会館二階のバルコニーにいる。一階には小中ギルドの面々が『何事か』という顔をして俺たちを見上げている。
こういうのってなんか緊張するな。ほかのギルマス達は涼しい顔をして人前に立つことに慣れている。
そしていいくらいに人が集まり始めた頃を見計らい団長が一歩前に出て下にいる者たちにギルド会館で何があっていたことを話し始める。
八ギルド同盟『クロス・D』のこと。そして、残り六人の魔王がこの世界に存在していることもすべてを隠さず全部明かした。
魔王討伐の時は主に俺たち八ギルドが主力となり戦場に赴くが俺たちだけで戦場に出てもし魔王のしもべ数で俺たちが圧倒されたらもとのこうもない。ので、団長は小中ギルドには『遠征』という形で戦場に赴くよう伝えた。もちろんギルドによっては実力の差もあり、いずれにせよ死の可能性だってある。だからそこは俺たち『クロス・D』がフォローすれば死者をだす確率は減ると思う。
今回の演説が俺には六人もの魔王たちに対する宣誓布告だと感じた。団長の演説が終わるなり下のギルメンたちは大声を張り上げ歓喜する。それほど『聖王十字軍』ギルドマスターの信頼は厚いということだ。
演説が済み俺たちはぞろぞろと足並みをそろえて会館内へと戻る最中、先頭を歩く団長がふと足を止め俺たちの方を振り向いた。
「会議も無事に済み他のギルドにもこのことを知らせることができた。みんなには感謝する」
深々とディフロト団長は俺たちギルマスに礼を述べる。
「これからギルド同盟結託を祝うパーティを我がギルド本部にて行う。ぜひ来てくれ」
そういって団長は再び歩きだした。俺は会館のエントランスで待つ約束をしている咲妃たちと合流すべく先を急ごうとしたとき
『ちょっと待ってくれないか『六芒神聖』の神夜よ』
と後ろから声をかけられた。呼び止めたのは黄緑色の振袖を着込み腰には夜空の空模様をそのまま映した藍色の鞘を持つ太刀を持った和人ギルド『東欧和国』のギルドマスター梓だった。
「急に呼び止めてすまないな神夜君。私はギルド『東欧和国』の長、梓だ」
「お初にかかります『六芒神聖』ギルマスの神夜です」
「うむ。噂通り、漆黒のロングコートに腰には太刀を納刀しているのだな。いや、何妹の柊から訊いたものでな」
「柊からって……まさかっ!」
「そう私は柊、時宗、彩の姉だ。とはいえ国の方は時宗に任せているがな。この間は我が祖国『和の国』救ってくれたこと大いに感謝しているぞ」
「は、はい」
少し腰が引けた返事を返してしまった。
「では、また本部のほうで逢おう神夜君」
そう言い残して梓は着物をなびらせて去って行った。俺もいそごっと。
階段を駆け下り会館のエントランスに着くと階段室に置かれているようなソファーに腰かける咲妃たちがいた。
合流するなり『神夜、会議お疲れ様』って咲妃たちが言われた。なんか照れるなぁ―……。正直今日の会議は大いに疲れたよ。始める前に巨人族と一戦交えることになったし。リーゼさん大丈夫かなー?
会館をでる前に俺はこのあとディフロト団長主催で行われるギルド同盟結託を祝うパーティが聖王十字軍ギルド本部であることを伝えた。
もちろんうちは全員参加という形になりさっそく咲妃、ユキ、アリス、俊はアイテムウィンドウを開きパーティに似合った衣装があるかどうか捜索を始める。そして、全員パーティに似合った衣装があったらしく安堵の一息をついてアイテムウィンドウを閉じる。俺は会議出席も兼ねて『バトラーズコート』を入れているから創作の必要はない。
無事にことが済んだ俺たちはお祭り騒ぎの道を歩いて、この街に初めて来たときに泊まった西洋の館に近い形をした宿屋に向かい、そこでチェックインを済ませ今夜の寝床を確保する。
さっそく俺たちは受付嬢からルームキーを受け取り、一度男女別れて部屋に入り各々ドレスアップに入った。
俺と俊は男性専用のオシャレ着『バトラーズコート』に着替えた。ロングコートといいこの世界で着るモノすべてがコスプレ感覚になってしまうのは俺だけかな?
一様武器の方は外すと考えたが万が一を備え俺は両腕の中に細身のナイフを仕込む。別にこの街は特別治安が悪いというわけではない。ちゃんと法律もあるみたいだし現実の日本と同じで平和な街といっても過言ではないな。
ドレスアップが終わり俺は俊と共に部屋を出て宿屋のエントランスにて女子三人を待つことにした。女性は何かと時間かかるからなー。
前言撤回。そう時間はかからず咲妃たちは来た。
ユキは水色のサマードレスに身を包み上からは白く透き通るような素肌をした細い肩を出して女性らしさを出している。
咲妃は黒塗りのロングドレスで黒だから身体の凹凸ラインが強調させられ大人の女性感を漂わせ宿屋に泊りくる男性人の目を奪っていく。
アリスはアリスで、元聖王十字軍だってこともありそのとき来ていたと思われる真紅のワンピースを着てきた。両肩には小さく十字架の紋章が描かれており咲妃やユキ達とは違って露出度が少なくとても清楚な少女に見える。
「どう神夜、俊?」
「あっ? あーみんなすっごく綺麗だよ」
「神夜と同じく」
「お約束の感想ありがとう二人とも。神夜達もすっごくかっこいいよ。とても高校生とは思えない」
「それをお前がいうか咲妃。んじゃ全員そろったことだし行くとするか」
ギルメンが全員そろい、俺たちは足並みをそろえ宿屋を後に聖王十字軍ギルド本部に足を向かわせる。
ギルド本部とだけあり先ほどのギルド会館よりも一際大きく言い換えるならここは城といってもいいくらい聖王十字軍のギルド本部は大きい。俺たちは今本部の四階部分に存在する大ホールにいる。ホールも大きくざっと三千人以上はここに収容できると見た。
そのため他のギルドマスターの護衛できたギルメン全員がこのパーティに出席していると見た。
そして、深紅のバトラーズコートを着込んだパーティ主催者聖王十字軍ギルドマスターディフロトがホールの大扉を開け祭壇に立ち軽いあいさつをかわす。
「今日はここにいる八ギルドで同盟『クロス・D』結託を祝う。では、かんぱいっ」
メイドからワインの入ったグラスを受け取った団長は高々と掲げ同盟結託を祝う一言を述べた。
パーティとだけあり料理は豪華で立食式。少し離れたところではオーケストラによる演奏。曲はなんとなくだけどゲームの時のSOWのオープニングテーマを訊いている感じがしてくる。
そして、各ギルドマスターたちもドレスアップして各々で晴れて同盟を組んだ者同士としてきちんと挨拶を交わしていた。
そして、俺のところにも挨拶を交わしに来た。そして戦闘系ギルド『黒竜騎士“ラグナロク”』のギルドマスター、ジーザスから剣技はいかほどの実力かと質問され答えるなり今度剣を交えないかと誘われ、『えぇいいでしょう』と答えて剣を交えることを約束した。
エルフのギルド『マジック・ツリー』のギルドマスター、リーフィアは俺とあいさつを交わすなり同じ魔法職のユキに質問していた。
ほかにもドワーフのギルド『ルイナク・ヘズボーン』のギルドマスター、グランデルからは『ぜひ回復アイテムはうちのを』と宣伝を受け苦笑いで『はい』と答えた。
オーケストラが演奏をしているから、ホール中央ではダンスを踊る者が多く華麗に踊っていた。
「ねえ神夜。あたしたちもあそこで踊らない?」
と咲妃から誘いを受けた。
「急だな咲妃。俺、ダンスで女性をリードしたことないぞ」
「大丈夫だよ神夜。リズムに乗れば大方分かるものだから」
「そういうもんなのか? せっかくの誘いだ。咲妃踊ろう」
俺は近くのテーブルにグラスを置き咲妃の手を引いてホール中央で踊っているみんなの輪の中に入る。そして、ギルドマスターとだけありパーティ参加者全員の視線が俺に向けられる。
「神夜、神夜ったら。早くあたしの腰に手を」
「えっ? あ、あ―……」
ギクシャクしながら俺は咲妃の細身の腰に手を当てる。
「こ、こうか?」
「そうそれでいいの。じゃあ踊るよ」
曲に合わせて咲妃は俺の手を引きいきを合わせる。
「ほら、ワンツーワンツー。そうそううまいよ神夜」
「咲妃がリードしてくれているおかげだろ」
「そうかな? 神夜の飲み込みが早いからだよ」
音楽に合わせただ二人で回って踊るだけではない。音楽のリズムを身体で感じ刻みそれに合わせてステップを大きくしたり小さくしたり。ダンスなんて難しいものだと思っていたがちょっとコツさえつかめば簡単なリズムゲームだ。
オーケストラによる演奏が終わり、俺と咲妃は手をつないだまま周りで見ていたパーティ参加者のみんなに軽く礼をする。さして、拍手が巻き上がり俺と咲妃は顔を見合わせ照れくさそうにハニカミ、ホール中央を去りユキ達と合流したが、アリスがディフロト団長から『今から私の部屋にくるように』と言伝をもらっており俺は一度ホールを抜け、団長の部屋まで走った。俺だけ呼び出すってことはいったい何を考えているのだろうかあの団長は?
ただ広いギルド本部を走り回っているうちに俺は団長私室の扉にたどり着きコンコンっとノックして部屋に入った。
「やぁ待っていた神夜君。まあとりあいず立ち話もなんだし座りたまえ」
こないだ招集された時の部屋とは違い、大きなロングソファーに長テーブル。そして、書類がまとめられた本棚に数々の勲章に世界地図。さすがは世界のトップギルドの団長の私室だ。
「で、用件はなんですか団長?」
「その前に。君がこの世界に来たってことは、また現世でこちら絡みの事件が起きたって事かね?」
「…………」
「図星……か。大丈夫問って食ったりはしませんから。では話を続けましょう」
団長が話すには、聖王十字軍は前魔王が開けた次元断層の亀裂を閉じていることは知っての通りだが、それを利用する堕天使が最近多々見受けられるという。
堕天使は自由意志をもって神に反逆した天使のこと。もちろん羽は白から黒に変わるから一目で分かる。なら、俺が現世で手に入れた黒い羽の正体がカラスではなく堕天使だとしたら……。団長がいっていることと辻褄があう。
「で、だ。神夜君たちには明日よりここを目指してもらう。世界の歴史を記す国“ラッテ・イストワール”という国を訪ね大貴族『リア』という男を尋ねるといい。一様私から彼宛の手紙を書いておいたから彼に渡すといい。きっと力になる」
団長から手紙を受け取った俺は礼の言葉を述べ手紙をアイテムウィンドウに保存する。
“ラッテ・イストワール”にいるリアという男と堕天使。いったいどういうつながりがあるのか、俺にはさっぱりわからなかった。それにこの手紙の内容も気になる。団長はいったいどこまで知っているのだろうか。まさか未来予知でもできるのか?
俺は団長に一礼して部屋を出た。そして、再びただ広い本部を走りホールにいる咲妃たちと合流する。ホールに着いた頃にはパーティはすでにお開きで残っていたのは咲妃たちだけだった。
俺はすぐに団長との会談内容を咲妃たちに話し翌朝、世界の歴史を記す国“ラッテ・イストワール”という国を目指して出発した。