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戦闘スタイル


 リザードマンはこちらを見据えている。

 闘志は失ってはいないようだ。しかし、左腕の剣はかろうじて握られている状態と言える。

 このまま一気に持ち込みたいところだ。牽制し合うだけでも、相手は流血分の体力を失う。

 一瞬どこかを見た目線。アレは何かを狙っている目だ。油断はしない方がいいだろう。


 投げ捨てた棍棒を拾って構える。

 次をトドメにしたいところだが、相手は《高速移動》でいくらでも間合いを取れる。

 俺も体力が無限な訳ではない。息はとっくに上がっている。



 リザードマンに向かって全速力で向かう。

 リザードマンは右腕を後ろに振り……。


「ぅおわっ!」


 なんと今までのスタイルを捨て、剣をこちらに投げて来た。

 間一髪で体が反応する。袖が若干切れるが、こちらにダメージは無い。

 こちらが投擲できるのだ。モンスターが投擲できても不思議ではなかった。

 投げられた剣は地面に深々と刺さっている。

 あぶなかった。



 視線をリザードマンに戻す。

 足が光っている。《高速移動》だ。

 そのままこちらに突っ込んでくるのだろうか。


 そう考えて身構えていたが、そうではなかった。

 リザードマンは俺の横をまさに高速で駆け抜ける。

 駆け抜けた先は…。



「ハナっ! 危ない!」


 リザードマンはもう一人の存在に気づいていた。

 いや、一度ハナが声を上げていたか。

 俺を倒すのが困難でも、せめて一人は道連れにする。

 そういう覚悟での奇襲だったのだろう。

 投擲はその為の囮だった。



 リザードマンは一直線でハナがいる方向の通路へと向かう。

 ハナは急いで通路を駆け抜ける。しかし《高速移動》相手ではすぐに追い付かれてしまうだろう。

 俺も駆けだしてはいるが、すぐには追い付けそうもない。

 リザードマンは《高速移動》が終わると同時に《高速移動》を起動する。

 通路は直線になっている。ハナは二十メートル程走った後振り向き、杖を出す。

 かなり近くまでリザードマンは迫っていた。


 《ファイア》を使用するには、ある意味で好都合だ。

 動ける幅が狭い為回避が困難だし、天井も高くない為飛んで回避もできない。

 しかし一撃で倒せる保障はない。万が一避けられた場合も考えられる。



「いいだろう。来い!」


 とハナがマントをひらひらさせている。

 威圧感を出したいのだろうが、正直体格がいろんな意味でちんちくりんなので迫力がほとんどない。

 謎の余裕にリザードマンも一瞬足を止めるが、足を光らせて《高速移動》の準備をする。

 ハナは杖を上に掲げている。

 あのモーションは……。




 ハナは四つのカードを装備することが出来る。

 今回装備したのはまず杖、そして《ファイア》だ。

 《ファイア》の起動は俺と同じ念じる事にしている。

 わざわざ「ファイア! 」と叫んで魔法を撃つ馬鹿はいないだろう。敵に教えてどうする。

 残る二つが……。


 リザードマンはハナの一メートルの所まで迫りくる。

 ハナはタイミングを見計らって、杖を上から下に振りおろす。

 今回用意した秘策その三にして、ハナの自衛手段だ。



 リザードマンとハナの間に突如として壁が現れる。

 周囲と同じ土の壁だ。リザードマンは突然現れたその壁を避ける事も出来ず、衝突する。

 通路は行き止まりと化し、退路を完全に塞ぐ事に成功する。


 これは魔法カードではない。杖が無くても、大げさな動作がなくても出来る事だ。

 ハナが今回装備した残りの二枚は《土》と《採掘》。

 《土》カードは使用するとこのように一区間を一瞬にして土で埋める事が出来る。

 ハナ曰く「冒険者の侵入時は使えない。つまり侵入時じゃない時は防御に使える」とのこと。



 リザードマンは周囲を確認する。

 壁を叩いてみるがびくともしない。

 破壊するのを諦めたのか、こちらへ向きなおる。


 リザードマンの打開策はただ一つ。俺を倒す事だろう。

 この時の目は、それまでとは全く違ったものだった。

 死を覚悟し、それでも生を見出そうとする目。

 特攻だろう。


「いいだろう、来いよ」


 ハナの真似をしてちょっとキザっぽい台詞を言ってみる。

 棍棒を一本投げ捨てて両手持ちにする。

 リザードマンの足、剣が光りはじめる。

 《高速移動》に速度重視の攻撃スキルの同時起動。

 まさに一瞬でこちらに刃が向かってくるだろう。

 ならば肉を切らせて骨を断つ。

 相手が飛びかかる瞬間、「打て!」と念じるつもりだった。

 気合を入れ過ぎたのだろう。思わず声に出ていた。


「打てぇ!」


 ■ ■ ■ ■ ■



 互いの攻撃スキルが交差した瞬間、全く予想外の事が起こった。

 まずスピード重視のリザードマンの攻撃が俺の左肩に命中する。

 リザードマンの剣は俺の服の肩の部分を貫き、俺の肩の肉をえぐる…。



 ということは無かった。

 刃は何故か皮膚で受け止められ、傷一つつける事が無かった。

 そして俺の《ハードヒット》が相手に向かって放たれる。

 棍棒はいつもとは違うモーションで、いつもとは違う輝きでリザードマンの首の付け根に命中する。

 仮にこのゲームにクリティカルというものが存在するならば、こういうものなのだろう。



 リザードマンは叫び声を上げて消滅した。

 その後には一枚の銀カードが残っていた。

 何が起きたのか。いや、俺はそれが何なのか一つ検討がついた。



 《カウンター》



 これぐらいしかないだろう。

 相手の攻撃スキルのタイミングに、攻撃スキルを重ね合わせる事が発動条件だったのか。

 非常に強い気がするが、《カウンター》持ち同士の戦いだったらどうなるのだろうか。

 オークも恐らく持っていたのだろうと思うとぞっとする。

 カウンター発動時は恐らく威力が上昇する。

 下手したら一撃死だったかもしれない。



 銀カードを拾ってみる。

 つーそーどなんたら。二本の剣の…何だ?

 と頭を傾げていると、通路を塞いでいた壁が取り除かれた。

 ハナが《採掘》で除去したのだろう。



「勝利おめでとう」

「おう」


 そうだ、ハナに聞けば分かるか。


「そうだ、コレ拾ったんけど何か分かる?」

「うーん…直訳すると《二本の剣の剣士》だけど、これって《二刀流》じゃない? 」

「おぉ!かっこいい」


 《二刀流》か、なるほど。

 あのリザードマンが落とすものにしては納得だろう。あいつ見るからに二刀流だったし。

 剣のカード二枚装備して、それプラスこれを装備するのだろうか。

 三枚かー。なかなか圧迫するな。

 というか、棍棒は二刀流できるのだろうか。



 とにもかくにも一度マスタールームへ帰還する。

 まずは《ステータス》の確認をする。

 《戦闘レベル》が4になっている。

 ポイントも振れるので、《敏捷力》に振っておく。

 ハナもレベルが上がったらしく、《器用さ》に振っていた。


 アモルは俺に50、ハナには全く入っていなかった。

 経験値はパーティーに均等に、お金は与えたダメージ量によって振り分けられるのだろう。

 ちなみに落としておいた《短剣》と《棍棒》は拾ってある。

 リザードマンが持っていた剣は消失していた。

 本体が消えると、武器も無くなるのだろうか。


 《二刀流》を装備してみる。

 《棍棒》二枚と《二刀流》を装備したらカートリッジがいっぱいになる。

 うーん。変化が分からない。

 試してみたい。

 ちょうどもう一つ光る壁があるしなぁ。

 一応無傷だし、魔法カードも使っていない。

 上目づかいでダメ元で聞いてみる。


「……ダメ? 」

「ばーか」


 よし、肯定と取ろう。

 何が?では無い辺り、俺の考えを読みとってくれたのだろう。

 MPをある程度回復して食事でもしてから、もう一体も処理しに行くとしよう。



 ■ ■ ■ ■ ■




 ハナと話した結果、二段階に分ける事にした。

 まず光る壁を触り急いでマスタールームへ戻る。

 モンスターを出現させ、準備をした後討伐する。


 体が汗びっしょりになっていた為シャワーを浴び、着替える。

 ハナのベッドで少し横になってみると、みるみるうちに疲れが回復していくのが分かる。

 なんとなく匂いを嗅いでみようと思ったが、ハナが無言で杖を出そうとしていたのでやめておく。


「じゃあちょっと行ってくる」

「無茶すんなよ」

「おう」


 ハナが発見した二つ目の光る壁は、二つ目の部屋の作成中に発見された。

 この部屋はある細工をする部屋で、仕掛け部屋と呼んでいる。

 とはいえまだあまり掘っていないので、まだあまり広くない。



 光る壁をぱっと触り、急いで死角に隠れる。

 壁が強い光を放つ。中から出てきたのは…。小さい?


 外見はモンスターだが、今までに比べてかなり体格が小さい。

 ゴブリン…いやコボルドだろうか。何か獣っぽい

 手に杖を持っているから魔法使いタイプなのだろう。


 コボルドはまだこちらに気がついてない。

 距離としてもさほど離れていないので、すぐに格闘の距離に持ち込めそうだ。

 正直負ける気がしない。

 ハナに後で怒られるかもしれないが、やってしまおう。


 『A』『B』と続けて念じて棍棒を両手に出す。

 《二刀流》がどういうものか試すいい機会だろう。

 こっそり近づく。

 リザードマンと違って、なかなか気づく様子がない。


 「打て!」と念じる。

 確実に当たる状況で一発当ててもいいだろう。

 いざとなればこれだけ当てて、逃げ帰ってもいい。


 と思ったら、《ハードヒット》のモーションがイメージしていない動きをした。

 まず両方の棍棒が光る。

 右手の棍棒がコボルドの背中に命中。

 よろけたところに今度は左手の棍棒が強い突きを放つ。

 そして自然と飛びあがり、勢いをつけて再び右手の棍棒で強打。

 ここまで動く事が出来なかった。

 《二刀流》のカードは、《ハードヒット》を連続攻撃にするものだったのか。

 もしかしたら他の攻撃スキルを体得すれば、そのスキルも連続攻撃に変化するのかもしれない。


 最後の一発を受けた時点で、コボルドは消滅した。

 コボルド自体の耐久が低いのもあったのだろうが、三連撃版の《ハードヒット》の威力が高いのもあるだろう。

 というか、最初に戦う相手はこいつが良かった。

 初の戦闘がオークというのは、かなり引きが悪かったのではないだろうか。


 カードを拾う。銀カードだ。

 《コールド》。恐らく氷系の攻撃魔法だろう。

 ハナが多分マスタールームで怒ってると思うので、これで何とか機嫌を直して貰えないものだろうか。


 マスタールームへ帰る途中に考える。

 仮にリザードマンと魔法使いコボルドが手を組んだとしたら、結構厄介だったのではないだろうか。

 逆に言えば、ちょっとした戦力としては期待できる。

 そろそろ誰か、配下になるモンスターが欲しいところだ。

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