二刀流対決
対リザードマンの為に万全を期す必要がある。
まず、振っていなかった俺のポイントを振る。
悩んだ末《敏捷力》に振った。
体感ではよく分からなかった。まぁ3ポイントだしなぁ。
「うーん。カートリッジの数が足りない」
「まぁカードが無限に装備出来たら、ゲームバランス崩壊しそうだしね」
卵は一旦外す事にする。
卵に経験値を入れてみたいところではあったが仕方ない。
まぁ孵化の条件が経験値とは限らないしなぁ。
今回の戦いでは、考えるまでもなく俺が前衛になる。
しかし相手は俺ばかり狙ってくるとは限らない。
そこで、ハナの自衛手段も何か考えておきたい。
「せめてカートリッジが四つあればなぁ……」
「まぁ、私のカートリッジ四つさせるんだけどね」
「……ぉえ?」
自分のバインダーを眺めていたら、ハナが爆弾発言をした。
思わず変な声が出てしまった。
まぁ聞く機会が無かったのもあるが。
「え、どうして俺より一つ多いんだ?」
「だって《カートリッジ増設》のスキル取ったから」
何だそのスキル、俺も欲しい。
ハナ曰くスキルは5ポイントで入手できるらしい。
3ポイント振った事に早速後悔し始めたアホな自分。
レベル8にならないと取得できないのかなぁ。
ともあれ、作戦の幅は広がった。
今回の目標は、無傷での勝利としよう。
刃物で切られたら痛そうだなぁ…。
出撃しようとしたら、ハナが何かに気付いた。
「おぉっと忘れてた。コレが無いと」
何かと思ったら例のマントだった。
「それ、大事なのか?」
「だって、これが無いと勝利ポーズが決まらないし」
「勝利ポーズ?そんなシステム無いだろ?」
「いや、やりたいじゃん」
ポーズ取りたいだけかよ、馬鹿だこいつ。
見せてみろと言ってみたが拒否された。
というか、何だかんだで戦闘にはノリノリなんだな。
モニターで確認したら、リザードマンはボス部屋をうろうろしていた。
よくよく見ればさほど大きい相手ではない。
体格としては俺と同じぐらいの大きさだろう。
武器もさほど大きくない。リーチなら棍棒の方が長いだろう。
だから怖れるな。なーに、ちょっと切られたぐらいなら寝れば治るさ。
ボス部屋はマスタールームからさほど離れていないところにある。
足音を殺して部屋を出る。
正直緊張する。
心臓がバクバク音を立てているのが分かる。
通路からボス部屋を覗く。
リザードマンは警戒しながら部屋を見回しているようだった。
俺には背中を向けている。
その上納刀している。
奇襲が出来るかもしれない。
ハナとアイコンタクトをする。
『A』と念じる。
右手に《棍棒》が出現する。
一回深呼吸する。
さて、行くか。
■ ■ ■ ■ ■
足音を立てないように近づく。
一メートルぐらい進んだ辺りでリザードマンの頭が動くのが見える。
このままではこちらに振り向かれる。
ならば一気に距離を詰めて一撃与える方がいいだろう。
《棍棒》を構えて土を蹴り駆け寄る。
リザードマンはこちらの存在に気がつくが、手に武器を持っていない。
……当たる!
心の中でそう感じた。
俺の武器はリザードマンの頭めがけて全力で振られていた。
ここからの体制では防御も出来ないだろう。
しかし結果、棍棒は空を切った。
一瞬何が起きたのか分からなかった。
リザードマンの足が光り、次の瞬間自分の前方へ大きく飛んだ。
通常ジャンプする時は生物を問わず、足を曲げて伸ばすという行動が必要なはずだ。
しかしリザードマンはそのままジャンプした。ノーモーションで。
足が光ったという事は、こういう事なのだろう。
何かのスキルが発動したと。
ただのジャンプにしては三メートル近く飛んでいるし、そうなのだろう。
仮に《高速移動》という事にしておこう。
リザードマンはこちらへ向き直り、抜刀しようとしている。
一気に駆け寄って、右手で棍棒を上から振り下ろす。
しかし、リザードマンは抜いた剣をクロスさせて受け止めようとする。
その動作を見ると、俺は『B』と念じる。
振り下ろした棍棒は二本の剣で受け止められる。
棍棒は硬いとはいえあくまで木製の武器だ。
剣に勝つことは出来ない。
しかしリザードマンの剣もさほど上等なものではないのだろう。
棍棒に三割程めり込んだ辺りで止まった。
しかし、俺の棍棒はもう一本ある。
左手に出現した棍棒は、リザードマンのわき腹に綺麗に命中した。
予期せぬ攻撃にリザードマンはたまらず防御を崩してギョギャッとかいう妙な声を挙げる。
右手がフリーになる。ここがタイミングだろう。
「打て!」と念じると同時に右手の棍棒が光る。
しかし、《ハードヒット》は命中しなかった。
またもリザードマンが例の《高速移動》で大きく距離を取ったからだ。
痛みで体制を崩しても間合いを作れる。
強いなぁこのスキル。
急いで再び距離を詰める。
思ったような攻撃は出来てないものの、一方的に攻撃出来ている事に変わりない。
この流れに身を任せてダメージを蓄積させたい。
リザードマンはわき腹を気にしながら二刀を構える。
右手の棍棒を振り上げ…。
「危ない!」
突然ハナが声を上げる。
直後リザードマンの右手の剣が光る。
何事かと思う間もなく、リザードマンの右の剣が凄まじい勢いで突きを放ってきた。
剣は俺の左腕の棍棒にて防がれる。
いや、これは防いだというより偶然当たったと言った方が良かった。
ハナの声が聞こえて一瞬足を止めたのが良かったのかもしれない。
何はともあれ相手の秘策は一つ防げた訳だ。
お返しに《ハードヒット》を当ててやる…!
と思えば再びリザードマンは《高速移動》で距離を取る。
こいつの戦い方はヒット&アウェイか。
なかなかにウザい。
何より、動き続ける事でハナの魔法が当たりそうにない。
ならば、アレを使うか。
■ ■ ■ ■ ■
近距離での戦いでは恐らく互角だろう。
俺は戦いの経験が薄く、ましてや二刀流の戦い方を知っている訳ではない。
相手は刃物であり、首のような急所をやられれば一発である。
しかし、リザードマンは一撃受けている。
武器としてのリーチはこちらの方が長いし、威力もある。
いざとなればハナが何とかしてくれるだろうという面もある。
そして、準備しておいた秘策もある。
再び距離を詰めて棍棒を振る。
リザードマンはそれを綺麗に受け流す。
何度か適当に攻撃した後、例の秘策その一を試そう。
ハリセンでハナと殴りあっていた時に偶然発見した事だ。
何度もバシバシ殴られた結果試した行動だった。
俺は「打て!」と念じると《ハードヒット》が出る。
流石にハリセンでも《ハードヒット》されるとちょっと痛いらしい。
そのうちハリセンが光るだけでハナに警戒されるようになった。
そこで「うーーーーーーてーーーーーー」と長く念じてみる。
すると、ちょっとタイミングをずらして《ハードヒット》を出せる事が分かった。
そしてその発見から秘策その一は生まれた。
「打て!」と念じるイメージで「うーーーーーー」と念じる。
左の棍棒が光り輝く。
リザードマンは一度見た《ハードヒット》を警戒し、《高速移動》で距離を取ろうと足を光らせる。
しかし、ここで念じるのをやめるとどうなるか。
《ハードヒット》は中断される。すぐさま次の行動に移れるようになる。
とっさの事でリザードマンは《高速移動》を発動させてしまう。
これこそが俺が用意した秘策、フェイントだ。
スキルを発動させる光だけを発し、相手を誘導する。
そして、《高速移動》を使った今が秘策その二の使い時だ。
右手の棍棒を手放し『C』と念じる。
新たに《短剣》が現れる。そしてすぐさまリザードマンに向けて投げた。
これは意図的に試した事だが、武器は切ったり殴ったりする以外に仕様として投擲が出来るらしい。
俺は野球とかをやった事は無いが、投げてみたら《短剣》は一直線に飛んだ。
土の壁に投げてみたところ、これまた綺麗に壁に突き刺さった。
ちなみにハナが試したところ、少しだけだが俺の投げた短剣より深く刺さった。
ハナ曰く、《器用さ》が関係しているのではないかとのこと。
《戦闘レベル》が上がった時に得たポイントを《器用さ》に振ったらしい。
《器用さ》は遠距離攻撃に影響するのだろう。
あるか分からないが、弓や銃が存在するなら《器用さ》が必要そうだ。
しかしダンジョンを探索する際に、それらの武器が有効かは疑問だが。
《ハードヒット》で自分が体験した事だが、スキルは発動してしまうと他の動作をする事ができない。
おそらく《高速移動》もそうなのだと思う。
《高速移動》しながらこの短剣を避けたりすることは困難なはずだ。
リザードマンは短剣を回避できないと判断しただろう。
《高速移動》が終わるとすぐに腕をクロスさせて急所を守った。
投擲された短剣は、リザードマンの左腕に突き刺さる。
リザードマンは右手でそれを引っこ抜く。左腕からは生々しく血が吹き出た。
ゲームの中で相手がモンスターとはいえ、自分の攻撃で相手が流血するのはエグいな。
しかし情けをかけている場合ではない。
俺は手放した棍棒を拾った。
リザードマンの目が別の方向をチラリと見たのを、俺は見逃さなかった。




