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 寝ようとする頃にはわき腹のアザはまだ残っているものの、赤みも違和感も無くなっていた。

 この世界にいる時点で自然治癒力が上がっているのだろうか。

 今夜は自分の部屋で寝るとした。

 資金が大分カツカツになってきたので、あの良いベッドは今のところ保留にする。

 歯をシャカシャカと磨いて就寝する。歯ブラシは売っていた。


 睡眠はすぐに入る事ができた。

 とはいえそれまでずっと寝てたのと空腹感で二時間そこそこで目が覚める。

 いかんいかん、寝ないと…。


 ふと今日はノートを書いてない事に気づく。

 今までやらなかった事は習慣になってないと忘れるな…。

 光度を上げて体を起こし、ノートを出してカリカリと書き込みを始める。


 明日の朝のメシ……どうしようかな……。

 あまり金はかけられないが、手間のかからない美味いものが食べたいな……。

 調味料がないながらも、美味しいものが作れないものか……。


 ……ハッ。手が止まっている。

 いかんいかん。気が散ってしまった。

 慣れない事をするとこうなるから困る。

 顔でも洗ってくるか。


 シャワールームでシャワーを弱く設定して出す。

 顔をパシャパシャと洗い、用意しておいたタオルで顔を拭く。

 うーん足がちょっと濡れてしまった。拭いてシャワールームを出る。


 ハナの部屋をチラッと覗くと、机の上でつっぷして寝ていた。

 アレでは風邪をひくかもしれない。

 後で怒られても、風邪をひかれるよりはマシだろう。

 起こさないようにそーっとハナの部屋に入る。


 濡れたタオルをかける訳にもいかないので、壁にかけられた例のマントを取る。

 このマント、最初の一発ネタにしか使われなかったな。まぁいいか。

 そっとハナにかけてやる。

 その時、机の上にバインダーと何枚かのカードが置かれているのを…見てしまった。


 カードは三枚あった。

 全て縁が銀色。一枚は手に隠されて見えなかったが、間違いない。

 これは魔法カードだ。

 ハナは俺に嘘をついていたことになる。


 魔法カードはあらかじめカートリッジに装備して使用する必要がある。

 初期カートリッジは三つ、杖を装備していると魔法は二つまで装備できる。

 つまり、三枚あれば万全な状態+予備一枚となる。

 少なくても、今日発見された二つ目の光の壁を挑戦しても良いという事になる。


 恐らくだが、《戦闘レベル》が上がるとMPが増える。

 ダンジョンを作成する上で、MPが増えるのは有利に働くだろう。

 《採掘》の効率がそれだけ上昇するのが予想できる。


 では何故ハナはこれを隠すのか。

 少し考えたが、考えるまでもないだろう。

 ハナは俺が傷ついたところ、傷ついて苦しんでいたところを全て見ていたのだ。

 気絶して目が覚めたら傷がほぼ治っていた俺とは違う。

 彼女は何時間もの間看病し、その間苦しんでいる俺を見て涙を流してくれていたのだろう。


 いくら回復するとは言え、そんなところ何度も見たい奴なんていない。

 しかし魔法カードがあると俺が知ると、またモンスターに挑んでしまうかもしれない。

 魔法は必中ではない。

 敵の気を引き、足を止め、傷つくリスクを負うのは前衛である俺だ。

 今回は瀕死で済んだ。次は即死かもしれない。

 確かにそれを恐れるのは当然だろう。

 俺が思ってた以上に、ハナは傷ついていたのか。


 しかしいつまでも逃げる訳にはいかない。

 俺達はこのゲームから脱出するという目的がある。

 それにはNPCや、存在するか分からない他のプレイヤーを出し抜く必要がある。

 ならばどうすればいいのか。

 俺が強くなるしかないのだろう。

 ハナが心配しなくなる程に。


 俺はそっとハナのマスタールームから出る。

 両手に《こんぼう》を出す。

 《ハードヒット》ばかりに頼ってはダメだ。

 意味があるかは分からないが、とりあえず素振りをしてみよう。

 俺は寝つけるようになるまで、二本の《こんぼう》を振り回し続けた。



 ■ ■ ■ ■ ■



 

 翌朝ハナのマスタールームへ向かう。

 特に変わった様子は……巨大な紙を使って何かやっている。

 ちょっと怖いが声をかけない訳にはいかない。


「お、おはよう」

「おはよう」

「何作ってるんだ……?」

「ハリセン」

「お、おう……」


 何かオーラが怖い。

 何故ハリセンを作ってるのか分からない。

 しかしアレで叩かれそうな予感はする。


 とりあえず朝ごはんの準備をする。

 昨日はシリアルしか食べてないのでお腹がすいた。


 この世界では現状調味料がまだ入手できないらしい。

 俺も元の世界ではたまに料理を作る程度だったので料理の腕が特別ある訳ではない。

 せめて塩が欲しいが……。


 そこで考えたレシピの一つがこれだ。

 トマトを茹でて潰し、ベーコンやピーマンや玉葱等適当な食材を入れる。

 茹でたパスタにかけてチーズをちぎって乗せる。

 トマトスープパスタの完成だ?


 塩こしょうやコンソメの素が欲しいところではあったが、無くても割といける味ではあった。

 基本的に素材の味はいいのが救いか。

 ハナもまんざらでもない感じだったのでよしとしよう。


 食後、ハナがハリセンを取り出して表に出るように言ってきた。

 昨夜ハナにマントかけたので、部屋に忍び込んだ事はばれているだろう。

 とはいえこちらも魔法カードを隠されていたわけだし、イーブンだと信じたい。


「これを持って」


 とハリセンを渡される。

 え、俺が叩くの?と思ったがどうやら違うらしい。

 ハナはもう一本ハリセンをどこからか取り出した。二本作ってたのか。


「《カウンター》の発動条件を調べたいと思います」


 そういえばそういうスキルもあったな。

 考えてもみたら、オーク戦で何故か発動しなかった。

 ダメージを受けた時いくらか返すとかだったら便利だったのに。


 オークが《ハードヒット》を使ったということは《カウンター》をもっている敵も考えられる。

 というか冒険者が相手なら高確率で持っていても不思議ではない。

 逆に《カウンター》される可能性があるということだ。

 確かに発動条件を知っておくに越した事は無いだろう。


 それからハナにしばらく叩かれ続けた。

 そうだよな、カウンターなんだから叩かれないと。

 でも俺のハリセンはちょっと濡れてて叩き返してもシニャっとするのに

 ハナのハリセンは凄い出来がいいのは何故なんだろう。


 たまにハリセンを受け止めたり受け流したりしてみる。

 ハナの攻撃に合わせて攻撃し返したり、《ハードヒット》も一応出せた。


 結論から言うと、《カウンター》の発動条件はわからなかった。

 カードで出した武器以外でも《ハードヒット》は出せるとかいろいろ分かった事もあった。

 しかし、何よりハナが凄い楽しそうだったからまぁいいとしよう。

 昨夜部屋にこっそり入ったのをやっぱり気にしているのだろうか。



 ■ ■ ■ ■ ■



 朝食のパスタの残ったトマトソースで、お米を煮込む。

 パエリア風の何かを作ろうと思ったが、味はなんかイマイチだった。

 ハナも黙々と食べてはいたが、反応が微妙だったな。


 ここ三日間料理をいくつか作っては見たが、どうも調味料が一切ないのが辛い。

 俺の料理の腕がさほど良くないのもあるが、このゲームがそもそも美味しい料理を作らせない意図がある気がする。

 美味しいものを食べたければ強くなれ、みたいな。

 事実俺は外に凄い出たい。そして塩を手に入れたい。

 コショウが金みたいな値段で取引されるとかじゃない事を祈る。


 ダンジョンの作成はハナがガリガリ進めている。

 明日か明後日にはとりあえずダンジョンの入り口を作成できるぐらいまで行きそうだ。

 そうなったら、外に出ていろいろ調達できる。

 冒険者が来るまでの間にダンジョンを完成させればいい。


 ハナと打ち合わせを続ける。

 入り口の作成は予備を考えて三日後とした。

 それまでに準備をしなければならない。

 外に出る準備。敵が万が一攻めこんで来た時の準備。

 俺が傷つくかもしれないという事をハナが覚悟する準備。

 そして人を殺す覚悟を決めるという準備を。


 昼食前に行った《採掘》は途中で切り上げたお陰であまり良い成果が無かった。

 切り上げた理由は、もう一つ出たからだ。例の光る壁が。


 あの壁を無視するのは簡単だ。

 《土》カードを使って奥深くに埋めればいい。

 しかしそれはあくまで消極的な考えだ。

 脱出を本気で試みるなら、倒して少しでも《戦闘レベル》をあげるべきだ。


 それともう一つ懸念がある。

 俺らは仮の設計図を作ってダンジョンを作っている。

 仮に消極的な意見を採用して白い壁を毎回埋めるとする。

 直線で済むところを埋めて曲線にするという手間が発生する。

 仮に迂回しても、その先で再び白い壁にぶち当たったらどうするのか。

 さらに迂回するようにダンジョンを作るのだろうか。


 ダンジョンのとりあえずの完成を目指す今、そんな遠回りは正直したくない。

 そこで現在は保留になっている。

 専用の部屋を作ってそこに白い壁からモンスターを複数呼び寄せる。という案も考えてある。



 ダンジョンのギミックについての相談をしている時の事だった。

 ふいにマスタールームに設置してあるモニターが強い光を放った。

 普段何も反応がないモニターが急に光ったので、物凄いびっくりした。

 急いでハナがモニターをチェックする。


「何があったんだ?」

「これは……」


 俺もハナの横からモニターを覗く。

 そこには一匹のモンスターが映っていた。

 腰に二本の剣を携えている。

 ドラゴンのような、爬虫類特有の容姿。

 リザードマンか?


「うーん、来たかぁ」


 ハナがしみじみ呟いた。

 あまりがっかりした様子が無いのを見ると、いつか戦う相手が早めに来たという感じだろうか。

 もしくはこの状況も一応想定してはいたのかもしれない。


 現状から推測できる事で考えると、こういうことになる。

 あの光る壁には時間制限がある。

 恐らくだが、発見されてから丸一日経過すると強制的に中のモンスターが解放される。

 そういう事はチュートリアルで説明しとけよ!


 不幸中の幸いというか、このタイミングで二人ともマスタールームにいた事は良かった。

 下手したら仕様を知らず奥まで《採掘》して、モンスターが強制解放されて袋のネズミ。

 なんて事も十分に考えられた。

 せめて準備が出来る。作戦も立てれる。


 ハナとの意見は準備してから今すぐ戦うで一致した。

 二人とも《採掘》から時間が経過しているのである程度MPはあるという事。

 何より今大事なのは 一日で解放される という点だ。

 先ほど《採掘》でもう一つ光る壁を見付けてしまった。

 このまま一日放置してしまうと、倒さなければならない敵が二体ダンジョンにいることになる。


「悪いけどお前の魔法カード(ヘソクリ)、使って貰うぞ」

「……はいはい」


 出来れば魔法ナシで倒したいところではある。

 しかし相手は刃物持ちだ。

 出し惜しみして首を切り落とされたら、寝ても治らないだろう。。

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