出発
さて、ダンジョン内にいる死体漁りは夜間にはいなくなる。
出発する姿は見られたくないので、夜間まではヒマになる。
ということで、現在カロリーナをこき使っている。
「そっから4つ右!そう!そこ!」
『何や人使い荒いなぁ』
「いろいろ俺たちが手伝ってやってるんだからちょっとぐらい返してくれよ」
『むー』
「あ、ハナはその3つ左から後ろに5つな」
『はーい』
せっかく人手が増えているんだ。
今夜までに一気に迷路を作ってしまおう。
日没まで6時間。
時間はまだまだある。
とっとと完成させてしまおう。
「おつかれさーん!」
「かんぱーい!」
「いえー!」
あれからしばらく俺たちは淡々と作業を続け、四時間かけて完成させた。
ちなみに今乾杯に使ったのはシェイクだ。
冷凍バナナと氷、少量の牛乳をミキサーに入れて混ぜる。
夏場の暑い体には最適なものだ。
おぉ、美味い。試行錯誤を繰り返した甲斐があった。
「お、そうや。今のうちにあの技をお願いしたいわ」
「ああ天地逆転か。コータ!こっち来い!」
「はーい」
カロリーナは嬉々としてコータの前に立った。
そして天地逆転を受ける。まぁ今吸血鬼形態だから弱いんだけどね。
カロリーナは少し疑問に持った顔になったが、すぐにドヤァという顔になった。
「ずいぶん成長したんやなぁ自分!コータちゃんの技も耐えられるようになったわ!」
「いや、手加減してもらってるんだよ。コータの本気はヤバいぞ」
「ほほう?じゃあ本気で来いやー!」
「マスター、どうする?」
「……全力でやっていいぞ」
「分かった!」
そう言うと、バサッと形態変化をするコータ。
カロリーナが反応する間もなく天地逆転が発動。
例によって地面に倒れ伏すカロリーナがそこにいた。
さて、カロリーナが倒れたので今のうちにコボルドと打ち合わせをする。
ハナがアンと相談しているうちに、ジャンの怪我の様子を見る。
今はもう包帯は外れているが、それでも大きな古傷になってしまっている。
だが、これはこれで男の勲章って感じがするな。
本人も元気そうだし。
とりあえずハナが作っていた痛み止めを渡しておいた。
カロリーナが起きるのを待ってダンジョンを出る。
さーてまずはフマウンに向かうか。
「ちょっと待ってぇな。こっちに来てくれへんか?」
「うん?」
そう言われて向かったのは少し開けた空き地。
何だろう。
「かもーん!ター君!」
「……でっけえ!」
「さぁて、乗るで!」
以前戦った大鷲ばりのでかい黒鳥がそこにいた。
これが……ター君?
何だろう、男のロマンを感じる。
4人までなら乗り込めるとか。
移動用お供か。そんなものもあるのか。
遠慮なく乗り込むハナ。楽しそうだな。
ハナ曰くこの事はカロリーナから聞いていたらしく、へきへきは乗れないのでダンジョンに残し、向こうで呼び寄せるらしい。
「よーし、乗り込むぞコータ!」
「うん!」
「よしゃー行くでー!」
カロリーナを先頭に、俺とハナとコータが乗り込む。
巨大な翼を広げ、ター君は夜空へと羽ばたいた。
■ ■ ■ ■ ■
「うおおおぉ!たっけぇ!」
「ひゃっほーい!」
「せやろ!せやろ!」
ター君は俺たち四人を乗せて、どんどん高度を上げてゆく。
乗ってみて初めて分かったが、背中に突起がついている。
大鷲にもついていたが、恐らくこれは乗り物モンスター特有のものだろう。
冷静に見た事はあまりなかったが、空は満天の星空だった。
左には多くの人を苦しめた山脈が連なり、右からは塩の無い海から湿った風が吹いてくる。
少し離れたところに見えるはフマウン。
小麦畑が遠くで広がっているのが見て取れた。
「すごい!すごい!」
「サラマンダーより、ずっとはやい!」
「おいやめろ!」
やがてものの十数分でメーシャのダンジョンが見えてきた。
あらかじめ場所をカロリーナに教えてあった為、カロリーナもすぐに発見した。
ター君は姿勢を低くするとダンジョンめがけて一気に降下し……。
「きゃあああああぁぁっ!」
「うおおおおおぅい!」
「ひゃっふーい!」
俺達をあのジェットコースターに乗っている時特有の浮遊感が襲う。
いわばベルトで固定されてないジェットコースターだ。
振り落とされないのは、乗り物モンスター特有の特性か何かだろうか。
ター君は着地寸前でスピードを落とし、そっと着地する。
少し強めの重力を感じた後、着地を見てから俺たちは地面に降り立った。
そういえばコータがちょっと怖がるかなと思ったが、きゃっきゃ言うだけで平気そうだった。
冷静に考えてこいつ元々飛んでたんだよな。
そりゃ上空怖くない訳だ。
「メーシャ!会いにきたぞー!」
「ぞー!」
俺たちは遠慮なく通過できる壁を使って中に入る。
カロリーナはター君をどこかに隠してくるらしいので先に中に入ってしまおう。
さて、夜なので中でメーシャが爆睡していた。
まぁそりゃそうだろうなぁ。
しかし師匠である俺がせっかく会いに来たというのになっとらんな。
「ハナ!」
「おうよ」
慣れた手つきで買い物をするハナ。
買ったのはペンだ。
油性ペンか水性ペンかわからないが、きゅっきゅとメーシャの顔に落書きをした。
まずはおでこにペンを近づける。
そうそう、おでこに「肉」は定番だよね。うん。
……なんでおでこに「中」を書いたんだ?
■ ■ ■ ■ ■
「あれ?どうしました?」
「おぉ!タマ!軽く久しぶりだなー」
「そうですね、半月以上まともに会ってないですからね」
タマは何か物音がするということで武器を構えてこちらの様子を見に来たようだ。
やがて半分寝ぼけたポチも目をこすりながらやってきた。
せっかくなので二人にここに来た理由を話す。
「かくかくしかじか。ということなんだ」
「かくしか?まぁ大体わかりました」
「……あの山のボス倒しに行くの?」
「おう、まぁマスター四人もいれば何とかなると思うぜ!」
最悪骨折ぐらいなら、皆ベッドでいくらでもどうにでもなるはずだ。
死んだらまぁ自己責任だが、そんな簡単に死ぬ奴は今回のメンバーにはいない。多分。
とはいえ、鬼姉妹は不安そうにしていた。
どうやらたまに今回のようなボスは出現するらしく、ナフィではたびたび掲示板に情報が出されていたらしい。
が、その度に死者も多く出たとか。
ふと、タマが何かを思い出したかのようにごそごそとし始めた。
そして一枚のカードを渡してきた。
「あの、何かがあった時役に立つかもしれないので、お返ししておきます」
「おう、そういえばそうだったな」
《矢の雨》だった。
彼女たちにはここの留守番を頼みたいわけだし、確かにこのカードは今は持ってても仕方ないかもしれない。
と、ポチもカードを一枚差し出した。
「……大事なものだから、必ず返して欲しい」
「こ、これは……!」
《居合切り》のカードだった。
ずっと貸してくれないからいつか借りてやろうと思ったけど、今回は意を決して貸してくれたらしい。
これは絶対に生き残らないといけないな。
ありがとー!と言いながら、ポチの頭を撫でておいた。
やがて、カロリーナがダンジョンに入ってきたので転送を使ってマスタールームに招待する。
メーシャが起きるまでの間、いつもの如く「この娘は一体……」→「あぁ、コータだよ」→「えぇ!」の様式美を済ませておく。
ちなみに天地逆転を食らってみるか?と聞いたらお断りされた。
くそ、勘のいい奴め。
それからしばらく、カロリーナを交えて談笑に花が咲いた。
そういえば今話しているメンバーは初対面ではないもんな。
あの頃と比べて、俺達は強くなれただろうか。
ふと、そんな事を考えた。
その結果は、これから戦う強敵とやらで試すしかないか。
それからしばらくしてメーシャが目覚めた。
いきなり人口密度があがった部屋にびっくりするメーシャ。
そのおでこには『中』ではなく、『おでこ』とひらがなで書かれていた。
……何も言えねぇ。




