来訪者
戦争が終結して翌日、トンネル内では複数の死体荒らしグループが我先にと死体を漁っていた。
死体が装備していた戦闘スタイル、貴重な装備等は、軍の者が遺族への遺品として回収している。
また目ぼしいものは、戦争に参加した冒険者たちがこっそりと回収してたりもする。
さらにその中でもある程度価値がありそうなものは、俺達がこれまたこっそりと回収している。
そしてその上残った物と言えば予備として持っている安い武器や、毒消し丸等である。
それでも大規模な戦闘だっただけあり、結構な数がある。
まとめて売れば数か月食うのには困らないだろう。
ただし、彼らはアイテムを剥ぐ代わりに死体の処理を都市から任されている。
黙々と死体を荷馬車に乗せる彼ら。
流石に明るい表情では無さそうだ。
俺はそんな様子をモニターで眺めながら、もう一方のモニターを覗く。
そこではハナが作業をしている。
採掘作業ではない。第二階層の迷路作りである。
まず、紙にこれから作る迷路を設計図に書き出す。
次に俺がモニターでチェックしながら、ハナが土カードを使って指示通りに土の壁を設置していく。
モニターは上の方からの視点を得る事が出来る為、迷路の全体を把握するのに適している。
ハナから通信機で連絡が入る。
次の指示を求める連絡だろう。
『できたわよー、次言ってー』
「えーっと、そっから3つ手前から右に4回。んで、そこから後ろに5回」
『ここー?』
「違う違う、一個前」
『じゃあここー?』
「そうそう」
『わかったーじゃぁにー』
「はいはーい」
プツっと通信を切る。
息抜きにマスタールームの外の様子を見る。
へきへきの上にコータが乗っていた。
お供連携の練習とか何とか。
全力で走るへきへきの上に、コータがしがみついている。
まぁ仲が良い事は悪い事ではないか。
たまにズベーと上から落ちて擦り傷作ってはへきへきにペロペロ舐められている。
雑菌とか大丈夫なのかな。
まあ自然治癒力は高いみたいだし気にしないでいいか。
コータはこちらに気づくと、とてとてと走ってきた。
「えへへー、転んじった」
「あんまり無茶するなよ?あとトンネルまで音が聞こえないように注意しろよ?」
「うん!大丈夫!大丈夫だよ!」
笑顔で返事するコータ。
へきへきの上にまたがると、また猛ダッシュが始まる。
元気だなぁ。
何故か年寄りの気分になってしまう。
マスタールームへと戻り第二階層の様子を見る。
迷路はかなり完成している。7割と言ったところか。
実はここ10日程、俺達は採掘の代わりに少し時間を見つけてはこの作業をやっていた。
採掘を行っていない理由は、怪我をしない為だ。
誰かが動けない時に急に人手が必要になったら困るからな。
あと、光る壁を処理しなきゃいけないとか無いしね。
そういえばジャンの怪我は大丈夫だろうか。
一昨日の段階ではかなり傷がふさがっていたが、後で様子を見に行っておこう。
ふと、ブザーが鳴っているのが聞こえた。
何だ?と思ったら入口にブンブンとモニターに向かって手を振っているぱつきんのちゃんねーがいた。
あのおっぱい、カロリーナだな。
って、死体荒らしのグループが近づいてるじゃねぇか!
いいから何とかして隠れろ!モニター相手に手ぇ振るんじゃねえ!
■ ■ ■ ■ ■
「いやー外大分暑うなってきたなぁ!」
「アイスティーしかなかったけど、いいかな」
「おお、おおきに!」
俺は急いでカロリーナを転送でマスタールームまで連れてきた。
一体何の用だろうか。
ちなみに今飲ませたのはニータが出してくれたアップルティーの試作型だ。
味はニータのものより劣るが悪くない出来だと思う。
「ぷはー!美味かったわ!」
「それはどーも。で、要件は?」
「んー、ハナちゃんが来てから話すわ」
そういうと上着を脱ぐカロリーナ。
汗で凄い色っぽいんですが。
あんた自分が美人って自覚ねーのかよ。
「で、ダンジョンは留守にして大丈夫なのか?」
「あぁ、なんかどこかで戦争があったらしくてな。冒険者がさっぱりこなくて暇やねん」
「お、おう……」
「どこやろーなー。戦争起きたのー」
完全なる棒読みである。
しかし俺達のせいではないぞ。戦争をおこしたのはフマウン側がやりたがっただけだ。
「そういえば、もふもふはへきへきとしてあの娘だれや」
ボス部屋で走り回っているコータを指差すカロリーナ。
そういえば前回は皆一回り小さかったっけ。
「コータですよ」
「コータって、あのコータぁ!? 何や可愛らしくなったなぁ」
「おい!コータ!ちょっと来てくれ!へきへきも!」
「うん!」
「そぉい!」
てとてと走ってくるコータ。
《ハイジャンプ》を使ってまで強襲するカロリーナ。
完全にコータが困ってる顔をしている。
金髪美人と我らが幼女のスキンシップ。
何と反則的なまでに綺麗な絵面なんだ。
しばらく放置しておこう。
『作業終わったわよ!ねえ、カロリーナ来てるの?』
「おう、今転送するから待ってろ」
ハナを転送してこれでメンバーがそろったか。
いや、一人というか一匹足りないか?
「あれ、ター君は?」
「あぁ、訳あって外で待っててもらっとるわ」
「はぁ……」
あいつもそろそろ20だと思うから進化してるかなと思ったけど、今は見れないか。
いや、進化したからこそ外で待機なのか?
「で、今日は何でここに?」
「おう!とっておきの情報があってな」
「とっておき?」
凄いドヤ顔のカロリーナ。
膝の上にガッチリ抱きかかえられているコータ。
コウモリ状態になって一回抜けちゃえばいいのにと思うがまぁ放置だ。
「ナフィで見つけた情報なんやけどな、どうやら特別強いモンスターが現れたようやねん」
「特別強い?」
「せや、ナフィとフマウンを繋ぐ山道の途中でや」
危険と名高い場所だが、特別強いモンスターと聞くと確かに気になる。
「でや、協力せーへんか?」
「協力?」
「わざわざ情報が出るってことは……つまり」
「つまり?」
「調味料が出る可能性が高いっちゅーわけや」
調味料が出るかもしれないモンスター。
それはダンジョンマスターとして非常に興味深い内容だ。
共同でそれを狩ろうという事か?
■ ■ ■ ■ ■
「たしか、以前聞いた話によるとレベル30以上の冒険者が集団でようやっとって話じゃなかったか?」
「粒マスタードの件な。そらそうやけど、冒険者の30とマスターの30は違うやろ」
「まぁ、確かに」
人間、モンスターにはそれぞれ種族ごとに戦闘レベル上昇以外に振れるポイントが決まっている。
ダンジョンマスターで言う最初にもらった50ポイントだ。
俺たちの場合は他にポイントを振る項目があるから振っているようなもんだ。
が、それを差し引いても人間より俺たちの方が強い事には変わりない。
人間より頑丈に出来てるしな。
あくまでも試算だが、例えば俺たちが戦闘レベル10の時は冒険者のレベル20中盤ぐらいの強さではないかと考えている。
つまり俺やカロリーナは20。冒険者換算すると30は超える。
レベル的には確かに適正かもしれない。
もちろん俺たち二人だけではない。
コータは明らかに人間より強い。まだ会っていないがター君も戦闘レベル20は超えたのだろう。
これだけでも確かに戦力として十分と見える。
更にこれにハナも加わるし、へきへきも加わる。
が、これだけだ。
いざとなれば俺たちもコボルドを動員できる。
カロリーナも白蛇を動員できる。
だが、俺たちは戦争があったばかりで守りをこれ以上薄く出来ない。
カロリーナも同様だろう。
それでも戦力として強いといえば強いが……。
「うーん」
「大丈夫やって!イケるわ!」
「……モンスターの強さは?」
「知らん」
「場所は?弱点は?」
「知らん」
「落とす調味料は?」
「知らんて」
「……はぁー」
正直うんとは言いづらい状況だ。
しかし、興味が凄いあるのも事実だ。
理由は二つある。
まず一つ、戦争直後で冒険者が動きにくいという事。
つまりそれは外出のチャンスということだ。
強いモンスターを狩るにはある程度遠出をする必要がある。
俺たちのダンジョンは戦場だったからそうでもないが、しばらく他のダンジョンは手があきやすい。
つまりカロリーナが遠出するチャンスだ。
もう一つ、粒マスタードをとうとう使い切ってしまった。
これが俺たちの心を大きく揺さぶっている。
そろそろ欲しいなぁと思ってた頃にこの提案。
正直凄い飛びつきたい。
「うーん、しかしもっと戦力がいないと不安だなぁ。他の冒険者やマスターの心当たりは?」
「あるわけないやろ」
「だよなぁ」
コータはこっそりカロリーナの腕から抜け出してハナとへきへきと遊んでいる。
ちょっとは議論をしてくださいよ。
ロベルトはまだダンジョンが未完成だ。
ニータも山から遠い場所にダンジョンがある。
うーん、そう考えたら適任者は一人しかいねぇな。
ダンジョンが完成してて、一応ダンジョンの留守番がいて。
俺に黒星付けた弟子が一人。
でも巻きこんでいいのかなぁ
「なぁ、お前らはどう思う?」
「そうだね!それがいいと思うよ!」
「分かった!分かった!」
「絶対話聞いてねえだろ!」
まぁ、でもここまできたらメーシャも巻きこんでしまおう。
俺たち、カロリーナ、メーシャ。
三つの勢力が手を組んだ、ダンジョンマスター連合を一時的に結成しよう。
そうだなぁ、調味料連合とでも名付けるか。




