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終戦


 ハナが部屋に引きこもってしまったので、とりあえず自室に帰って来た。

 そうだ、流石に同じ部屋はマズいよな。

 どうしよう。


「コータ、自分の部屋欲しいか?」

「うーん、あそこがいい!」


 コータが指をさしたのは物置。

 と言っても掃除のときに使うぐらいなので今は掃除機しか置いてない。

 コータがここがいいって言うんだからここでいいか。

 多分俺の部屋に繋がってるからだろうなぁ。


 いろいろ検証の結果、ベッドの回復効果はモンスターには効果がないことが判明している。

 なので回復効果のない、そこそこ寝心地の良いものを購入。

 コータ用に洋服を買うのは……後でハナと一緒の方がいいな。

 ついでに廊下と直接つなげるよう廊下を採掘しておこう。

 トイレとかの時不便だからな。


 そういえば前々から気になってたことある。

 この際話せるんだから聞いておこう。


「なぁ、へきへきとは仲良いのか?」

「うん!最初は時々食べられそうになったけど、今は仲良しだよ!」


 そんな気はしてたけど、やっぱり食われかけてたのか。

 まぁ食われそうになってた側が良いって言うならいいか。


「食べられそうになったり大変だな」

「鳥さん……ター君?も凄い狙ってる目をしてたよ。自制してたけど」

「……大変だな」

「でも、途中から仲良しになったよ!」


 そういえばダブル天地逆転とかやってたもんな。

 捕食する側とされる側だと大変だな。

 俺の知らないところで苦労があるもんだ。


「じゃあ他のお供とは仲良いんだ」

「うーん……」

「あれ?違うの?」

「コータと一緒のコウモリ、アレはやだ」

「へ?何で?」


 えーっと、粒マスタードのくれた奴が持ってたあいつか。

 そんなに気に入らないのか?


「……ナンパしてくるんだもん」

「許せんな」


 仲良くしてるように見えたけど、アレはナンパだったんだ。

 あいつ自分はまだレベル10になってなかったはずだが。

 ええい許せん。



 コータの部屋は黒を基調にし、吸血鬼っぽい雰囲気の小物をいっぱい置いてみた。

 ドクロの置物なんかもおいてみた。特に意味はない。

 ちなみに棺桶は売ってなかった。残念。


「……そういえば気になってたことがあるんだが……」

「なぁに?」

「コータって名前、変えようか?俺、男の子の名前つけちゃったからさ」


 かなり長い間コータで通してしまった。

 今考えれば申し訳ないことをした。


「大丈夫!大丈夫!」

「そうか?いいのか?」

「だって、コータって名前。マスターがくれた初めてのものなんだもん!」


 そう言って、コータはニカっと笑った。

 くそ、可愛いな。そして何て良い子なんだ。



 ■ ■ ■ ■ ■



 ハナは掃除が終わってさらに30分後にそっと部屋から出てきた。

 10分で出てくるかと思ったけど意外に時間かかったな。

 顔がまだ赤く、何かうつむいた感じだったので適当に「愛してるぜー」と抱きついてみた。

 腹パンされたが問題ない。俺はこの度戦闘レベルが上がって全て《攻撃力》に振ったからな!

 61もあるから並大抵の攻撃じゃびくともしないぜ!

 あ、目つぶしは勘弁してください。



 ハナが部屋から出てきたので、コータは真っ先に一緒に引きこもらされてたへきへきの元へと向かった。

 うわぁ、上に乗って遊んでる。

 何なんだかんだで仲良しなんだな。凄い羨ましい。



「あのさ、あたしちょっと気になった事があるんだけど」

「どうした?コータの事か?」

「うん。何か、吸血鬼っぽくない気がして」

「あー」

「スキルも『吸血』みたいなの持ってるかと思ったけどそうでもないし」


 確かに吸血みたいなのを持ってるかなとは思ったが、そうではないらしい。

 コータ曰く普通の食事で良いと言っていた。

 俺の血を分けるぐらいの覚悟はしてたんだが。

 いいや、今日は色々実験してみよう。


 食事はパスタにする。

 が、こっそりにんにくをたっぷり入れてみる。

 後で問題があった場合の事を考えて、一応にんにくを全く使ってないソースも作成。

 さぁ、どうなる?


「コータ、ちょっとこれ一口食べてくれないか?」

「分かった!」

「あーん」

「あーんむ」

「どうだ?少しでも体が変だったら言えよ?」

「おいしい!」


 大丈夫らしい?

 いや、遅行性なのか?


「おいしいか?良かった」

「うん!にんにくの味がアクセントになっててグッドだよ!」


 あぁ、こいつ分かっててやがる。

 まぁ食えるならいいか。



「ところで、ハナのことを『ハナ』って呼ぶの変えた方がよくないか?」

「あたしは別に構わないけど」

「でもハナもマスターだし、目上といえば目上な訳だろ?」

「うーん」

「というわけでコータ、違う呼び方を考えてみよう」

「わひゃった!」


 パスタを口に入れながらしゃべるんじゃない。


「えっと……ハナター?」

「『ハナ』と『マスター』を足したのか」

「はなたれ小僧みたいな感じで何かアレね」

「じゃあハスター!」

「あたしはいいと思うわ」

「随分と冒涜的な名前だな。普通に『ハナさん』とか『ハナさま』でいいんじゃないか?」

「えー、他人行儀な感じがするからあたしはちょっと」

「ハナちゃん!ハナちゃん!」


 こんな感じでハナのコータからの呼び方は『ハナちゃん』になった。

 頭に花がついてるいもむしみたいなのを想像したが、当人たちが気に入ったみたいだからいいか。



 食後、ヤンからあるものが届いた。

 俺がこっそり注文したアクセサリーだ。


「コータ、これを見てどう思う?」

「綺麗!」

「嫌な感じはしない?」

「うん」

「じゃあコータにあげよう」

「わーい!」


 銀製ではないにしろ、加工しやすい金属で作ったロザリオなんだけどなぁ。

 こういうのは問題ないのか。


「コータは、太陽浴びたら大変とかないのか?」

「うん」

「あー、そういうのは無いのか?」

「そういうの?」

「ちなみに、心臓に杭を打ち込むと?」

「そりゃ死んじゃうよ」


 ですよね。



 ■ ■ ■ ■ ■



 さて戦争の方はというと、両軍ともそれぞれの入口に陣取ったまま動かなくなった。

 望まぬ形で乱戦になった事が響いたらしい。

 あれから二日経った今では、一部の冒険者が小競り合いを始めるぐらいに収まった。


 水攻めを起こしたあの空洞はナフィ側によって調査された。

 しかし池が近い為強い明かりが使えない。

 あくまで戦闘命なメンバーの調査なので、頭をかしげて戻って行った。

 安全が確保されたら専門家による調査が入るかもしれない。

 逆に言えば、それまではナフィ側も安全に攻め込む事ができない。



「あ、小競り合い始まった。お願いできる?」

「分かった。行くぞ、コータ!」

「うん!」


 俺はコータの手を取ると、モニターを抱えて小競り合いが起こった場所の近くの小部屋に転送した。

 両軍とも短気な冒険者だったからだろうか。三対三で普通に切りあってる。


 コータに指示をする。

 俺がモニターごしに指をさした冒険者は、コータの《幻惑》の影響を受けた。

 恐怖心が思いっきり増大し、体が固まって言う事を聞かなくなる。

 そこを相手の冒険者が剣で一刀両断。


 さて、この漁夫の利的な方法だが正直限界を感じ始めている。

 戦闘レベル20を超えた辺りから、更にレベルが上がりにくくなっている気がする。

 それには一つの理由がありそうだ。


 この世界に来てから、色々と経験値について検証した。

 そこで分かった事だが、どうやら自分よりレベルが高い奴を倒すと多く経験値が入る。

 しかし少しでも低い奴を倒したところで、望み通りの経験値は入らない。

 冒険者もまたレベル20が壁になっている。

 よって、レベル10~30の部隊と言っても30に近い冒険者は1割に満たない。

 多くは10を超えた辺りで一気に経験値を得たい者か、20で経験値の壁に当たりそれを打開したい者だろう。


 ということは、俺とコータは戦争で経験値稼ぎは厳しいということか?

 それでもモンスターを狩るよりは経験値は入るはずだが。

 強いて言えばハナにコータを貸して、ハナが《幻惑》を使えばレベルは上がるか……。



「マスター、終わったみたいだよ?」

「うん、もうちょっと様子を見たら帰ろうな」


 小競り合いはナフィ側の勝利だった。

 フマウンの冒険者の装備を剥ぎ取っている。

 特に何もなさそうなら帰るか。


 ふと、コータがじーっとこちらを見てるのに気づく。

 ただでさえ狭いのに顔が近いって。


「ど、どうしたんだ?」

「コウモリの時みたいに色々弄らないのかなぁって」

「あぁ……」


 そういえばそうだった。

 コウモリの時は、こういうとき色々ちょっかいかけて遊んでたなぁ。

 地味にアレが気に入ってたのか。


 もともと小部屋は二人入るようには設計されていない。

 その為、今俺の膝の上にコータがちょこんと座っている。

 非常に絵面が危ない。


 うーん弄るってもなぁ。

 とりあえず髪をわっしゃわっしゃ撫で繰り回す。

 コータは「えへへー」とかニヤニヤしてる。くそ、可愛いな。



 戦争で経験値があまり入らない。

 これは予想以上に壁になりそうだ。

 ダンジョンレベルも結構上がったし、そろそろ違う手を考えないといけないかもなぁ。

 そんな事を考えてると、冒険者たちは自分の本陣へと帰って行った。

 さて、俺たちも帰るか。



 ■ ■ ■ ■ ■



 俺が眠っていると、ハナが起こしにきた。

 どうやらまた数人がフマウンからナフィへ向かっていったらしい。

 隣の部屋で眠ってるコータを起こそうかとしたが、ハナに止められた。


「どうした?」

「何か様子が変なの。妙にレベルが高いし、多分この人お偉いさんじゃない?」

「どれどれ……」


 モニターをチェックする。

 護衛が確かに高レベルだ。

 30超えが2人もいる。指揮官クラスだろう。

 そしてその中に1人、レベルが低いものの着ているものが高そうな人がいた。

 手には高そうな鞄を持っている。

 只事ではなさそうだ。

 ふと、この様子を見ているハナが思いついた。


「もしかして、これって停戦協定じゃない?」

「この持ってる鞄に何か入ってるってこと?」

「そう」

「うーんなるほど」


 停戦協定か。

 ありうる話だ。ここでの戦いはもう泥沼になっており、どちらも疲弊している。

 このまま続けても仕方ないかもしれない。


 さて、俺達に残された道は二つだ。

 まず彼らを見逃す事。

 そうすれば恐らくこの戦争は終結するだろう。


 もう一つの道は彼らを殺す事。

 そうすればフマウン陣営は、ナフィ側が断ったと考えるかもしれない。

 しばらく戦争は激化するだろう。

 ダンジョンレベルを上げるという意味では非常に有効だ。


 今なら暗殺も出来るかもしれない。

 彼らの周辺には誰もいないし、フマウン陣営から二キロ以上離れた所で仕留めてしまえば気づかれても問題ない。

 コータのコウモリ形態天地逆転なら一体は仕留められる。

 アンに頼んで《フラッシュボム》使ってもらえば更に楽になるだろう。


 俺とハナは話し合った。

 戦争によるうまみは十分に得たともいえる。

 資金は大幅に増えた。

 メンバーのレベルも格段に上昇。

 ダンジョンレベルも急上昇し、コータも姿が変わった。


 いくつもの議論が交わされ、そして俺達は結論を出した。

 彼らを見逃す。 理由はリスクだ。

 今でこそ隠し扉が機能してダンジョンだという事が気づかれていない。

 だが、これが長期化して大人数が留まり続けたらどうだろう。

 それだけリスクは高くなる。

 そしてダンジョンだと気づいた両軍が、一気にダンジョンになだれ込むという最悪のシナリオもある。

 これ以上長期化すると、それが気がかりなのだ。

 まぁ今更という気もするけど。

 俺達が精神的に疲れた。

 だからこれ以上勘弁してくれ! というのが本音かもしれない。



 結局、俺達はフマウンの使者がナフィ側の陣営に到着するのを見届けた。

 この日、ナフィとフマウンとの間に停戦が成立。

 10日にも及ぶ戦いは終止符を打たれた。


 俺達は今まで一心不乱にダンジョンを作ってきた。

 だが、ある意味もう完成はしている。強化は出来るが。

 これから、俺達はどうやって行動するべきか。

 強さを手に入れた今、真価が問われるのはこれからかもしれない。

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