……おや!?
コータのMPが切れて《天地逆転》が打てなくなる頃、ちょうど両軍は編成を立て直す為に退却を始めた。
被害は両軍ともに出たが、比較的ナフィ側の方が大きな被害を負ったように見える。
さて、退却が始まり《天地逆転》も使えないのでそろそろ帰るか。
「ハナ、そろそろ転送頼む」
『あぁ、あのいいんだけどさ。あんたの相棒の変化気づかないの?』
「相棒って……うおっ!?」
コータが黄金に輝いていた。
何?次は黄金のコウモリにでもなるのか?
光ってるから闇討ち主体の俺らには困るんだけど。
『気づかなかったの?』
「夢中になってて全く」
『戦闘レベルが20超えた時からずっとそうよ。もう五分ぐらい前だけど』
「このままずっと光ってるのか?」
『さぁ、一旦転送するわね』
「おう」
モニターやタオル等持ってきたものを抱えてコータと一緒にマスタールームへと戻る。
とにかく各種チェックだ。
俺もコータも予想通り戦闘レベルが一気に20になっていた。
……のは良いんだがコータのステータスにあまり大きな変化は起きてないな。
あとは……あれ?
「なんか二択の選択肢がある」
「へー、どういうの?」
「さぁ、見覚えのない英語だから分かんない」
サック?とバンピ?とかいうやつだ。
しかし頑張れば読めそうだな。
「あぁ、それ下のVから始まる方が良いわよ」
「ん?分かった。」
まぁ、俺が見てもどうせ分かんないか。
ハナがこっちが言うんだから、こっちの方がいいんだろう。
さて、何か変化は……変化は……。
「何かすごいゆっくり変化してるな」
「変化に時間がかかるんじゃない?」
「あー、気長に待つか」
それから、俺はとりあえずシャワーを浴びたり飯を食ったりして時間を潰した。
コータは少しずつ変化してるが、正直すげー変化長い。
何か原型をとどめてない凄い変化が起きてるっぽいのは分かるんだが。
「なぁ、これいつまでかかるんだろう」
「もう寝ちゃえば?明日も戦いあるかもしれないしさ」
「あー、そうだな。朝には終わってるか。何か動きがあったら起こしてくれよ」
「あいよっ」
そう言って俺は就寝した。
目の前で起こっているコータの変化が気になるが、明日に差し支えては元も子もないからな。
体が揺さぶられている。
ハナか?何かあったのかな。
うーんしかし眠い。
「マスター!マスター!」
やっぱり揺らされてる。
ってマスター?マスターって誰だ?
状況的に俺の事のような気もするけど、マスターって呼ぶ奴いないし……。
気のせいか。寝なおそう。
「起きて!起きて!」
やっぱり起こされてるな。
一体何が……。
目の前に幼女がいた。
6歳ぐらいか?赤い目に緑の髪。
肌が真っ白でチラリと牙が見える。
すげー緑の髪なんて初めてみた。
ってそうじゃねえよ。
「……だれ?」
「コータ!コータ!」
「コータぁ?あぁ、そうか。夢か」
コータが幼女に見えるなんて変な夢を見たもんだ。
幼女を無視して布団に潜りこむ。
ハナを目の前に禁欲的な生活を続けてたせいかな……。
眠気に誘われていると、ハナの声が聞こえた。
「ねぇ、あの馬鹿起きた?」
「ダメダメー」
「じゃあさっき言ったように包丁で刺しちゃっていいよ。どうせベッドで寝れば治るから」
俺は飛び起きた。
キャッという声と共に幼女が弾き飛ばされる。紛れもなく本物だ。
え?というかコレ夢じゃねぇの?
■ ■ ■ ■ ■
幼女はすげー俺にベタベタくっついてきた。
朝食を作っている時も手伝ってくれたし、食べている間ずっと俺の膝の上に座っていた。
いや、嬉しいよ。女の子に懐かれるってさ。
でも何だろう、凄い罪悪感。ハナも何も言ってこないし。
「えっと、コータでいいのか?」
「そうだよ!そうだよ!」
緑の髪を揺らしながら、膝の上の幼女が答えた。
ハナは特に何の反応も示さない。
というかちょっと怒ってるだろコレ。
「えっと、これは朝から?」
「あたしが起きたころにはあんたの隣でこの子が寝てたの。ちょっと臭ったから一緒にお風呂入ったわ」
「へー。ハナはこうなるの知ってたのか?」
「昨日二択でヴァンパイアを選んだからね」
何というか、変化にまだ頭がついていけない。
えっと、ヴァンパイアと言う事は吸血鬼だろう。
ということは昨日の段階でハナは人間になる事は気づいてたのか。
「……ちなみにもう一択は何だったんだ?」
「サキュバス」
「おう……」
凄いもったいない事をしたような気がする。
サキュバスが仕えるとか男の夢じゃないか。
そしてハナが即答でヴァンパイアを選ぶ理由も明白だ。
まぁ、でもサキュバスになったらこれどころではない修羅場になりそうだったからまぁいいとしよう。
「おいしい!おいしい!」
「なぁ、コータ。何で2回繰り返すんだ?」
さっきから凄い気になってた。
こういう仕様なのだろうか。
「いや、妹キャラはキャラが濃い方がいいってハナが……」
「あぁ……」
ハナを指差すコータ(仮)。
あぁ、ハナの入れ知恵か。というか俺が起きるまでは仲良かったのか。
しかしその割にはハナの機嫌が悪いな。
あとその2回繰り返すのは俺の前ではやらなくていいから。
「何でそんなに機嫌が悪いんだ?」
「だって……」
「だって?」
「あたしより胸がちょっと大きかった……」
「お、おう……」
そうか……しかもこいつ多分レベル30や40になったらもっと成長するからな……。
どう、声をかけていいものやら……。
「でも、コータはこの身長では標準的なサイズだよ?」
「それ以上はいけない」
ナチュラルにトドメを刺すコータ(仮)。
しかし凄い懐いてくるな。
いやコータは可愛いよ。でも本当に可愛くなるとなんというか倫理的に問題がある気がしてならない。
絵面が非常によろしくないんじゃないか?コレ。
「なぁ、コータは俺の事が好きなのか?」
「うん!大好き!他にもふもふがいても、コータが一番可愛いって言ってくれた!」
ニカッと笑う幼女。
あぁ、可愛い。
凄い可愛い。
頭を撫でると「えへへー」と微笑んでくれる。
そしてハナから冷たい視線が飛んでくる。
何だろう、この冷たいものと暖かいものを同時に食べている気分。
よく分からないが、凄い空気が悪い事は確かだ。
うん。アレだ。
とりあえず簡単にデザート作って、ハナの機嫌を良くしておこう。うん。
■ ■ ■ ■ ■
さて、やらなければいけないことがある。
新生コータの各種性能チェックだ。
ちなみにハナはオレンジジュースで作ったシャーベットで適当に機嫌を直しておいた。
コータが小さなコウモリから大きなコウモリになった時、気になった事がある。
それは大きくなった事で攻撃が当たりやすくなるんじゃないか?ということだ。
結果的に大きい姿でも攻撃は受けなかったが、今回は幼女になった訳だ。
今まではコウモリだから狙われなかったが、幼女となると話は別。
場合によっては真っ先に狙われるかもしれない。
ちょっと強いスキルを覚えたぐらいではダメだ。
それでは一部から「何故ペット枠から人化したんだ」とクレームがつくだけで終わってしまう。
とはいえせっかく本人が日本語を話せるんだ。
いろいろ検証するより本人に聞いた方が早いだろう。
「という訳で、コータの性能を調べよう!」
「いえーい!」
「ひゃっほーう!」
うるさいのが二人に増えた感がある。
まぁとにかく調べていこう。
「えっとね、まずは今までのから使うね」
「おーけー」
コータは指をパチッと鳴らすと周囲から大量のコウモリが現れた。指ぱっちん上手いな。
えーっとにーしーろー……。
「16匹?」
「数えるの早いな」
「ふふーん」
「せーかい!せーかい!」
16匹。今まで8匹だったから倍か。
12か16だと思ってたが、多いほうで良かった。
ちなみに毒攻撃は爪か牙で攻撃するらしいが危ないので割愛する。
というか2回繰り返すのちょっと気に入ったのか。
「で、えーっと。マスターちょっといい?」
「あぁ、アレか」
《天地逆転》か。よーしばっちこい!
……あれ?
ちょっと気分が悪くなったけど、以前ほどの性能がない?
「アレは超音波を発生させるものなの。吸血鬼は少ししかできない」
「あーなるほど」
「弱体化してるんじゃ……?」
ハナがポツリと言ったが、俺も同意見だ。
コータの今までの最強技が弱くなってしまっては困る。
「という事で、新スキルの説明するよっ!」
「ほう、期待」
「その名も《変身》!」
「変身……?」
俺にも分かりやすいように日本語にしてくれたのはありがたい。
しかし変身って何だろう、魔法少女にでもなるのかな?
と思ったら、コータの体から急にコウモリが飛び出してきた。
何だ?と思ったら、コータは昔懐かしい小さいあのコウモリの姿になっていた。
幼女も可愛いけど、こっちもこっちでしっくりくるな。
「あれ、コウモリ増えてるね」
「ほんとだ」
数えようとしたら、コータが律儀に《警戒》で出した分と今体から出てきたコウモリを分けてくれた。
えーっと、9匹増えて合計25匹か。
そしてさっきの説明の流れだと、この状態だと《天地逆転》が普通の性能になるのかな?
あ、ちょうどいいところに。エビ!こっち来い!
エビを壁際に立たせる。
手には木製の盾を持っている。ヤンから作ってもらったのかな?
とは言ってもこいつも何度か《天地逆転》受けてるしなぁ……。
なんだかんだ言ってこいつもハイコボルドだ。体格は凄い良い。
そう考えてると、エビがガクッとバランスを崩した。
手に持った盾を杖代わりにしたが、やがて耐え切れなくなって地面に伏した。
あれ、性能が今までの比じゃないぐらい強化されてる?
というかあの、痙攣してるんですが大丈夫でしょうか?
ちょっとコータ、ストップ、ストーップ!
■ ■ ■ ■ ■
とりあえず技を解いても痙攣しているエビを部屋に運ぶ。
うーん大丈夫かなぁ。まぁいいかエビだし。
ハナとコータの元へ戻ると、コータは周囲に飛ばしていたコウモリのうち9匹を自分の近くに呼んだ。
コウモリたちは身を寄せ合い形を変え、いつのまにかあの幼女となったコータが目の前にいた。
「ふー……変身にまだちょっと時間がかかっちゃう」
「慣れとかそういうのもあるのか」
「うん、練習しなきゃ」
吸血鬼からコウモリはバサッと変身できるようだが、戻るのに数秒要してしまうのが気になるらしい。
その間無防備になるし、たしかに気にはなるかも。
「さーて、最後のスキルの説明です。いえーい!」
「いぇーい!」
「いいぞー!」
「ありがとー!」
とりあえず乗っておく。
こういうノリをやってたのがコータに伝染したんだろうな。
まぁ多分もう手遅れだ。いろいろと。
「さて、最後のスキルは《幻惑》です」
「つよそう」
催眠術や天地逆転は異様に強い。
なら幻惑も弱いとは到底思えない。
「じゃあ、ハナに《幻惑》かけてもいいですか?マスター」
「俺じゃダメか?」
「コータよりバトルレベルが低くないとかかりませぬ」
「なるほど」
「へぇー」
「あと《幻惑》は吸血鬼の能力なので、吸血鬼の時の方が使いやすい!」
「ほー」
「へぇーへぇー」
色々制約はついてるようだなぁ。
その分強そうな気がする。
コータはハナを見ながら少し強く念じた。
すると、ハナがちょっと困った顔でこちらをチラッと見た。
そしてゆっくり歩きだし……。
「ちょっどうした」
「……」
体を密着させて胸を押し当ててきた。
そして耳元に息をふーっと。
と次の瞬間、いきなりハナが俺からバッと離れた。
一体何だったのか。
不覚にもちょっと興奮してしまった。
「……今のもコータが?」
「うん!五秒間ぐらい相手を好きに操れるんだ!」
「つよっというかこわっ」
俺は同じレベルだからかからないが、これは強い。
これが吸血鬼の力というのか。
あと、何かハナが顔を真っ赤にして自分のマスタールームへと入ってしまった。
「なぁ、ハナの様子がおかしいんだが何をしたんだ?」
「マスターの事を好きって感情を暴走させて、それに従うように操作したからだと思う!」
「お、おう……」
「幻惑が切れても気持ちはそのままだから、あと10分はあんな調子だと思うよ!」
サラッと何言ってるんだこいつは。
鬼か。悪魔か。いや吸血鬼だから鬼ではあるのか。
というか吸血成分はどこ行った。
ともかく、これでコータの性能を知る事は出来た。
基本的にコウモリ形態と吸血鬼形態をその場に応じて入れ替えるのが吉と、そういうことか。
大きいコウモリ時代より強くなった事は間違いないらしい。




