長期戦の予感
さてマスタールームへ戻り交戦地点の様子を見ると、かなり暗い雰囲気だった。
状況を確認するや否やその中の一人がフマウンへ報告する為に《ハイジャンプ》で飛びながらフマウンへ。
残ったメンバーは遺品の回収作業を始めた。
形見の剣やペンダントや指輪等。
泣き崩れる者、淡々と作業する者、ナフィ部隊を警戒する者、こっそり遺品を拝借する者。
モニターで眺めていると色々な冒険者、兵士がいるのが分かる。
戦闘レベルが低い二人がその遺品をフマウンに送り届ける為に走り始めた。
残ったメンバーもフマウン側に引き返すようだ。
コボルド達の旧居住スペースまで戻った彼らは、そこで準備を始めていた。
恐らくナフィ側から本命の軍が来ると予想しているのだろう。
バリケードや木製の設置盾等を組み立てている。
「あー、こりゃよくねーなぁ」
「何で?」
「コータの《天地逆転》があんま有効じゃないし、何より長期戦になるぞ」
「そっか、設置された盾とかあると転んでもあんま意味ないしね」
長期戦になると、それだけハナやコボルドの介入できる隙が無くなる。
この位置だとカエルを背後に設置作戦も使えないし。
ただ幸いここはハナのダンジョンとなる場所なので、ハナの《ダンジョンレベル》をあげられるのは好都合だ。
モニターチェック役のコボルドに任せて、あとのコボルドやハイコボルド達を一度居住スペースに帰す。
俺たちも今のうちに休んでおこう。
いつ開戦になるか分からない。
フマウン側に続々と援軍が到着する。
やがて、ナフィ側にも200近い冒険者、兵士たちが集結する。
というか、この世界微妙に戦争の規模がちっちゃい気がする。
現実だと何万の軍が投入されたとかってイメージがあったが。
まぁこんなもんなのかもしれない。
そしてこちらの前衛もご立派な盾をお持ちで。
双方の戦術が大体わかった。
前に盾を置き、矢や魔法で攻めようという魂胆なのだろう。
確かに凄い有効だと思うが、ここはダンジョン内。一応ある程度の高さは確保したが、それでも先ほどの戦いでも天井に大量の矢が刺さった。
が、それだと俺たちあんまり美味しくないんだよなぁ。
しかしどうすることも出来ない。まったりと一人ずつ転ばせて行こう。
ナフィ側も拠点を作っており、食糧も万端のようだ。
「なぁ、これどっちが勝つと思う?」
「んー、フマウンかな。準備期間長かったと思うし。あんたは?」
「そうだなー、決着つかずだと思う」
「ほう」
やがて戦いは始まった。
剣と魔法の世界に似つかわしくない地味な戦い。
矢の半分は天井にぶつかって止まり、もう半分は盾に当たる。
ファイアが木の設置盾を焼こうとするも、なぜかほとんど燃えない。
何か加工がされてるんだろうな。準備周到というわけか。
こうして長い戦いが始まった。
■ ■ ■ ■ ■
戦争は膠着状態になった。
ある意味このトンネルはチャンスであり弱点だ。
どちらかが撤退すれば、反対側は機とばかりに町まで襲いかかるだろう。
兵糧作戦と行けばいいが、どちらも町までは10キロも離れていない。
少しでも不足になれば食糧が届く。
それは人員も同じだった。
始めは弓を飛ばしたりもしていたが、やがて牽制以外では矢も魔法もぴたりと止まった。
初日こそなぐり合っていたが、開戦3日目となる今日ではナフィ側も設置盾やバリケードを置いている。
両者の間に妙な空気が生まれる。
このトンネル、このまま封鎖した方がいいんじゃないか?というような。
しかしそれでは困る。
もっと地獄絵図みたいな事になって貰わないと。
そもそもこの状態だと俺達も大変ではあるのだ。
採掘も行けないし、外出もできないし、モニターに誰か二人はつきっきりになる。
俺も少しでも戦いのムードになると転送で小部屋に入ってコータと待機する。
が、結局硬直状態は続くだけで何も起こらない。
「どうしようかねー。どうしようかー」
俺はコータをいじりながら小部屋で呟く。
羽を開いてみたり、お腹をプニプニしてみたり。
ここまでされるがままのコウモリってのもどうかと思うが。
『なーにやってんのよ』
「暇だからコータとイチャイチャしてる。で、何かやることある?」
『……また攻撃の雰囲気なくなったから戻って来た方がいいわよ』
「はー、了解」
『じゃあ転送するね?』
「おーけー」
コータとモニターを抱えて転送してもらう。
いつもの俺の部屋だ。ここはいつも変わらずいつも……いつも……?
「あれ、何か俺の部屋にでっかい穴が開いてるんだけど」
「あぁ、掃除とかに使うものを使う倉庫が欲しくなって、スペースだけ作ろうかと」
「あー暇だからな。で、何で俺の部屋の隣に?」
「管理はまかせた!」
「おう! 相談してからにしろ馬鹿野郎!」
とりあえずでこピンだけしておいた。
光る壁が出ちゃったようなのでサクっと処理。
モグラ男さんこんにちは。死ね!
さて、俺達の掃除は普通ではない。
まず、トイレットペーパーや芳香剤等を倉庫に一旦移す。
そしてそのままトイレを売却処理する。
もっかい買う。
綺麗になったトイレが現れる。
倉庫から全部取り出して終了。
いやーお手軽だわ。
これはトイレを売った時と買った時の値段が同じだからこそできる芸当だ。
布団も干さずに売って買えば新品が手に入る。
お風呂場も売って買うだけでカビ一つ生えない。
歯ブラシや歯磨き粉、トイレットペーパーなんかの消耗品は流石に売れない。
マスタールームの床だけは掃除機を使う。
電源?さぁ……よく分からないけど動くし。
「で、どうするの?あの軍隊」
「どうするったってなぁ」
トイレの芳香剤を物置から運び出しながら相談をする。
売って買うという行動は済ませたので、元あった場所に戻す作業だ。
正直手は思いつかない。
あの両軍が今にも殴りあいを始めるような状況を作る案。
そんなものを思いついたらとっくに実行している。
どうしろって言うのだ。
じっくりトイレで考える。
「……あのさ」
「何だよ、今考え事してるんだよ」
「トイレ使いたいんだけど」
「だから」
「出てけって言ってるのよ」
「えー、見てようかと思ったのに」
蹴り出された。冗談なのに。
俺に音を聞かれないように、ハナはトイレの水をジャーっと流した。
……何か思いつきそうだ。
水を流す。水を流す……?
■ ■ ■ ■ ■
「じゃあ、やるぞ。周囲に人が来たら教えてくれ」
『分かった。今は大丈夫みたい』
「了解」
俺は誰も連れず、一人で小部屋にいた。
ここは池の反対側にある場所だ。
まず俺は床に小さく開いている穴を可能な限り塞いだ。
そして、この小部屋を一気に拡張する。
採掘をしまくったり、スコップで適当に掘ったり。
気になるのが採掘の際に発生する音だ。
壁があるとはいえ、少しは外に聞こえてしまう。
なので、その監視をハナに頼んでいる。
拡張が終わったら現れた光る壁をさっさと処理する。
コータがいるから音をさせる間もなく倒せる。
この作業を外を気にしながら行った為、2日要した。
かなりの大きさだ。ボス部屋より広い部屋かもしれない。
天井も高めに作っておく。
空間の中に大量の蛇口を設置する。
念の為《土》カードで外側の壁を厚くして、コータと一緒に転送でマスタールームに帰る。
準備は整った。
そして翌日。
「どうだった?水は溜まってる?」
「おう、満タンよ。ちょっと外に水が漏れだしてるから、今日決行する」
「わかった」
開戦から1週間。
戦わないお前たちが悪いんだからな。
さて、パーティーの始まりだ。
とりあえずTシャツに濡れてもいいズボンのラフな格好になる。
通信機も外して、ある場所に置いてきた。
転送で水中に送られる。
蛇口は撤去したが、それでも中は凄い水圧になっている。
急いで外に向かって《採掘》をする。
轟音と共にトンネル内に、大量の水が流れ込む。
それと同時に、俺はいつもの前線近くの小部屋に転送される。
「はー……はー……しんどかったぜい」
小部屋には既にモニターとコータ、そしてタオルと通信機が置いてある。
体を拭いてモニターを見ながら通信機を耳に付ける。
「どうだ?」
『いい感じ。間もなくそっちに水が押し寄せるわ』
「あいよっ」
このトンネルは平らではない。
すこしナフィ側の方が高くなるよう勾配がついている。
大量の水は、全てフマウン側へと流れてゆく。
その水は兵士や冒険者たちを攻撃する程の量ではない。
水の高さもせいぜい膝より少し上ぐらいだ。
ちなみに俺はそっと穴を塞いでいる。
ちょっと水が漏れてきてるが、俺はもうズブ濡れなので関係ない。
しかし、それでも強い流れによってナフィ側の兵士や冒険者の一部は足を取られて流される。
バリケードや設置盾も水圧や流される兵士たちによって破壊。
対立している両者の陣営はめちゃくちゃに。
コレで十分だ。
バリケードによって歯がゆい思いをしていた前衛冒険者たちが一気に攻め始めた。
ある者は仲間を助けに、ある者は武勲を求めて。
そして迎撃しようとするものにそっと《天地逆転》を。
美味しい。美味しいぞ!
大乱戦となりあちこちで切りあいが発生している。
それら全てがダンジョンレベルになり、そして《天地逆転》を打つ程経験値が入る。
1週間だ。1週間も俺たちは待たされた。
その借りを返すと言わんばかりに、俺はコータに指示を続けた。
俺は、その時コータに起こった異変に気付かないでいた。




