白のワンピース
「じゃあ呼ぶぞ、いいか?」
ハナとメーシャがうなずく。
予定通り鬼姉妹を呼び寄せる。
ちなみに今は最終日の朝だ
ダンジョンは全て完成し、鬼姉妹の部屋も準備万端だ。
あとは俺のダンジョンがちょっと心配ってくらいか。
メーシャが緊張の表情を浮かべる。
まずタマだけを呼び寄せる。
現れた何故ここに状態のタマに軽く状況を説明する。
ついでにメーシャの紹介も。
「で、ダンジョンの方は大丈夫か?」
「えぇ、なぜか冒険者が一気に減りました。アンたちがスライム取れると喜んでました」
「あー」
洞窟内で出るスライムは隠し扉の外しか出ない。
その為冒険者が出入りするようになると簡単に採取できない。
冒険者がいない今がチャンス。今頃注意しながらいっぱいスライムを集めてる事だろう。
「あと報告する事はあるか?」
「急な呼び寄せで、偽りの帽子を置いてきちゃいました」
「あー、しょうがない」
「あと、ポチを呼び寄せるのはちょっと待ってください」
「何でだ?」
「今、お風呂入ってるので」
ハナから飛び蹴りを食らった。
くそっ!何でポチを呼び寄せようとしたのがバレたんだ!
監視の目が強いので仕方ない。あと30分後にするか。
その後俺はタマにダンジョンやこの周辺についての説明を軽くした。
呼び寄せた理由がエグいものを見せたくなかったからというのにちょっと顔色が変わったが、理解してくれたようだ。
まぁ多分一週間から10日ぐらい外泊してもらう感覚だと思う。
カードもあくまで俺が持っている。
その後ポチを呼び寄せた。
一連の説明の後、連絡事項を聞く。
大きくなったカエルの一部を別の場所に移送したらしい。
冒険者が危険だと認識して根絶やしにされると困るからだ。
帰ったらその処理をしてほしいとのこと。
それと彼女だけ一応偽りの帽子を持っていた。
つまり鬼姉妹の部屋に一個だけ帽子があるのか。まぁ使い道ないだろうけど。
さて、一連の説明が終わったところでそろそろこのダンジョンともお別れになる。
トーノで少しメーシャと三人で買い物をして、そこでメーシャと別れて帰る予定だ。
いやーこの三泊四日、予想以上に充実してたなぁ。
■ ■ ■ ■ ■
鬼姉妹に留守を任せ、トーノへとやってきた。
この町は朝が一番活気が良い。
砂漠を通り抜ける際、一番安全なのはこの時間に出発するからだ。
夜間の砂漠はよく分からないが危険らしい。
何やら夜しか出ないモンスターがいるとか何とか。
なので、この時間に出発する冒険者、商人等が臨時でパーティーを組む為に集まる。
広場には護衛として雇ってもらおうとする冒険者や、雇おうとする商人。
それに一緒に付いて行こうとする者やレベル上げを狙う冒険者見習い等。
そしてそこには屋台も出て、それを目当てにフマウンから来る客や商人もいる。
ナフィもそうだったけど、この世界は朝が一番活気あるな。
ハナがわーいと屋台に向かっていった。
飯は食ってきたというのにまだ食べる気か。
仕方ない追いかけようと思ったが、ふと女性用の服を売っている洋服屋が目に入る。
そういやメーシャに服買ってやろうと思ったんだっけ。
いいや、せっかくだし今のうちに買っちゃおう。
メーシャに手招きして、洋服屋の中に入る。
「メーシャ、どれか記念に俺が一着買ってやろう。どれがいい?」
日本語で言う。
軽く身振り手振りで伝えると、理解してくれたようだ。
センキューセンキューと言いながら嬉々として選び始めた。
でもぶっちゃけ、ロシア少女は恐ろしく可愛い。
どれを着ても似合うと思う。
そうだなぁ……。
「メーシャ、これなんかどうだ?」
そう言って白のワンピースを見せる。
おぉ、試着するのか。
ハナは……何かタコの足を焼いたのを頬張ってるな。
いいや放置しておこう。
そんなこんなでぼーっとしていると、試着を済ませたメーシャがカーテンから顔を出した。
何という天使。日本人じゃ勝ち目ねーだろ。
思わずハグしたくなったが、後でハナに対して後ろめたく感じそうだったのでやめておいた。
俺が気に入った様子なのを見て、メーシャもコレにすると決めたようだ。
よーし買った買った。
メーシャはせっかくなのでこのワンピースのまま帰るようだ。
店から出たらハナがちょっと怖い目で立っていたが、まぁ気にしないでおこう。
どうせ後でちょっと美味いもん食わせれば機嫌が直るさ。
帰り際に冒険者掲示板をチェックし、俺たちはトーノでメーシャと別れた。
さほど長い付き合いではなかったが、名残惜しい気持ちだった。
彼女とはまた会う機会があるだろう。
まずはフマウンに向かい、そのまま俺達のダンジョンへと戻る。
「で、あたしには何買ってくれるの?」
「あとで美味いもん食わせてやるから」
「メーシャのより美味しいものが?」
「お、おう」
多分何とかなる。多分。
■ ■ ■ ■ ■
さて、ダンジョンに帰ってきた訳だが問題がある。
中に誰かいた場合困るのだ。
鉢合わせしたら大変だ。
そこで冒険者が来るようになって以降、以下の通りに打ち合わせしてある。
コボルドは俺達を見つけたら、まずダンジョン内の冒険者をチェックする。
安全を確認すると、そっと棒をダンジョンの中に設置する。
俺達は棒があるのを確認すると、隠し扉から中に入る。
無ければ周囲に冒険者がいるという事でそっと通り過ぎ、ナフィへと向かう。
こういう事にした。
「まぁ、誰もいなかったんですけどね」
「おかしいなー、逆につまらない」
棒を出すどころか、アンが直接出迎えてくれた。
全く冒険者がダンジョン内にいなかったらしい。戦争前だからだろうか。
それにしてもアンは何と良い子だ。ご褒美に《フラッシュボム》をあげよう。
いざという時に使って欲しい。
さて、帰宅した訳だがコレからナフィに向かわないといけない。
理由?戦争が起きて、フマウンがナフィ攻めるだけじゃ意味ないよね?
ナフィも迎え撃ってもらわないと。
このダンジョン内で。
ダンジョンの成長の条件は『人がこの中で戦う事』そして『人がこの中で死ぬ事』
つまり、この中で戦争が起きれば非常に美味しい。
これはダンジョン作成時の計画に実はちょっと入ってた。
しかし、都合よく戦争は起こせる訳がない。
ナフィを煽り、フマウンかマーシュを攻撃させる。
最初はそういう予定だった。
でも蓋を開ければフマウンとナフィは仲が悪い。
しかもなー、勝手に戦争するんだもんなー。
利用させて貰わない手は無い。
それも全力でだ。
アンから詳しい報告を聞く。
ここ数日で冒険者の死者が一人出たものの、他の冒険者に処理されたという。
俺が厳命して何があっても手を出すなと言っておいたので、処理されなかったのは正しい。
あとコボルドの赤ちゃんについてだ。
以前にも生まれてはいたのだが、今回双子が生まれたそうでかなり騒がしい。
そこで赤ちゃん用に少しスペースが欲しいとのこと。
かまへんかまへん。サクッと作ったるで。
最後にポチが移送したカエルは第二階層にいるらしい。
つい今朝の事なので、元気に跳ね回っている。
せっかくなので適当なスペースにちっさい池作って住まわせる事にする。
コボルドとハイコボルドの力を合わせる時だ!
と思ったが、現地に行ったらほとんどできてた。
この子たち賢い。
日課の光る壁処理が無かったから、時間はいっぱいあったそうだ。
とにかくさっさと完成させてしまおう。
その日の夜には池とコボルドの赤ちゃんの件の大体の作業が完成した。
赤ちゃん用のスペースには防音がちゃんとついていて、大きくなるまでここで遊んだりする。
いざという時にここがシェルターとなり、非戦闘要員が隠れられるようにもなっている。
俺、ちゃんとマスターやれてるなぁ。
こういう気遣いって大事だよね。
まぁ作ったのハナなんだけど。
■ ■ ■ ■ ■
さて、仕事は終わった。
これからナフィへと行く訳だが、その前にやらねばならないことがある。
掲示板に何を張るかという事だ。
俺達が掲示板にババーッと向かって『ナフィは狙われている!』なんて書いても信憑性は怪しい。
少し嘘が混ぜられたとしても、信頼できる文章を書くか。
それとも淡々と真実を書くか。
俺とハナは夜通し掲示板に張るメモの内容を相談し続けた。
すぐ決定したのは、フマウンで使われているメモを使って書くという事ぐらいだった。
少し拝借してきてよかった。
「こっちの案の方が俺は好きだな」
「そう?あたしはコレとコレでこういう……」
「あーなるほど、でもそれだとさー……」
20近くの案を元に、最終案を練り出す。
1つずつ案を没にしたり統合したり。
決定したころには、もうすぐ夜が明けようとしていた。
見張りのコボルドによろしく頼むと言って、ハナと一緒にお供を引き連れてナフィへ向かう。
徹夜になってしまったが、早めにこれを張りたい。
この時間なら、ギリギリ日帰りで帰れるはずだ。
「ねーむーいー」
「お前俺が池作ってる時昼寝しただけまだマシじゃねーか」
「でも眠いもんは眠いんだよ!」
「俺だって眠いわ!」
互いに声を張りながらナフィへとたどり着く。
こうやってないと眠ってしまいそうだ。
「なによこれー!」
「ぐっは……腹パンはやめろ腹パンは」
「だって!だって!」
冒険者掲示板行ったら驚愕した。
だってさーだってさー!
もうフマウンが攻めてくるって情報が細かく書かれてるじゃねぇか!
俺達のトンネルの位置から、フマウンの攻撃してくる日時。
攻撃してくる部隊の規模や要注意人物まで書かれている。
俺達よりよっぽど詳しいよ!そして悔しいよ!
フマウンの情報統制ガバガバじゃねぇか!どうなってやがる!
あ、ハナさん腹パンじゃないなら何でもいい訳じゃないです。
だから腕をつねるのもやめて下さい。
俺たちは立腹だった。
そして空腹だった。
朝ごはんも食べずに来たからだ。
ハナに美味しいものを食わせると約束してしまったので、ここで果たすとする。
よく分からないけど高そうな店に入った。
多分このナフィで一番高い店だろう。
出てくる出てくる高そうな食事。
ええい、もっと飯持ってこい!金には拘らないぜ!
隣では酒だ!酒を持ってこい!と言ってるハナがいる。
こいつ絶対酔い潰れるな。
まぁ、うん。いいか。
■ ■ ■ ■ ■
マスタールームに帰るやいなや、ハナはトイレに駆け込んだ。
酒が弱いのにあんだけ飲むから……。
非常に下品な音が聞こえてくる。
アレでも俺の恋人なんだよな……?
さて、現実逃避の為にこれからの方針を考えたいと思う。
メーシャの事で《敏捷力》50のスキルの《キャンセル》はかなり有効と判明した。
そこで、ハイコボルド達を強化しようと決断した。
彼らは戦闘レベル10で皆キャンセルを覚える。
そしてキャンセルはやはり他の《攻撃力》等どれとも相性が良い。
そこで、まずは全員10にする。そしてそこから全員違うステータスを伸ばす。
そのために、いまから全員の所属と武器を見直す。
さて、誰をどうするか……。
「……ふー!すっきりした」
「おう、良かったな」
「気分爽快!……ってほどでもないか」
トイレから帰ってきたハナがさっぱりした顔をしていた。
色々出してきたのだろう。下からではない。上から。
「で、この前話したハイコボルド隊の事なんだが」
「あぁ、チーム魚貝類ね」
「そんな名前なのか……」
ちなみに魚介類じゃなく魚貝類なのは理由がある。
次のハイコボルドが来た場合、シジミとアサリになる予定だからだ。
何と哀れな……。
「で、あいつらの事?個人的にカニが弓だと思う」
「カニが?」
ハイコボルドは、エビとカニがオス、イカとタコがメスだ。
シンプルにエビとカニを前衛にしようかと思ってたが。
「カニは最初こそあたしにビビってたけど、今であたしに簡単にビビらないのはあいつだけなのよ」
「ほう」
「強敵と相対して、ビビらない奴がリーダーの方がいいでしょ?」
リーダーは後衛職。これがアンから続く俺達のパーティーの組み方だ。
イカはアンと仲がいい。
よく一緒に料理を作る間柄だそうだ。
ちょうどいいので、彼女を魔法担当にすることに。
タコは頭の回転がハイコボルドの中で一番早い。
よって、スキルの組み立てが大変な《敏捷力》75は彼女に託す。
え?エビ?
あまりものの《攻撃力》でいいよ。
さて、そうと決まれば採掘だ。
そして光る壁から出てきた敵を使って、それぞれの新しい役割に慣れてもらう。
戦闘レベル10は間に合わないかもしれないが、せめて戦争が起きるまでに武器ぐらいは慣れておいて貰わないと。
でも、ちょっとだけでいい。ちょっとだけでいいから昼寝をさせてくれ……。
■ ■ ■ ■ ■
さて冒険者がほとんどいない今、戦争に対する備えが必要だ。
その一つが介入用スペースだ。
まずトンネル部の適当な場所を二回採掘し、《土》のカードを使って手前だけ埋める。
中に出来た空間の間に僅かに穴を開ける。
最後にスコップを使って削り、《採掘》特有の掘り方を変化させておく。
これを戦闘が予想される位置に10メートル間隔で作る。
僅かに開ける穴に関しては、床に木の細い棒を置いておく事で解決した。
棒を床に置いて《土》を使い、最後に棒を引っこ抜く。
本来は物があったらダメなはずだが、ゴミぐらいの大きさなら問題なく発動する事も多い。
これを利用してバンバン作っていく。
コボルドとハイコボルドの男勢を総動員だ。
それと、カロリーナのダンジョンにあった身を隠しやすい穴をいくつか作っておく。
全長四キロ以上あるダンジョンだ。どこにどんな穴があったかなんて覚えてないだろう。
作業は二日間で八割は終了した。
再び冒険者がポツポツと入ってくるようになってきたので、あとは断念だ。
まぁでも残りの二割は念の為だった場所なので大丈夫だ。
今までと少し変わった事があった。
ナフィ側からも冒険者が何人か入ってくるようになったのだ。
しかし、フマウン側と鉢合わせをしてもマズいので途中で引き返している。
そのおかげでカエルの餌食は今の所出てない。
あとは日課の採掘だ。
出来れば未来のシジミとアサリになるハイコボルドが欲しかったが、運が悪いのか出てこなかった。
まぁいいさ。
戦争予定日前日。
フマウン側に100を超える冒険者や兵士が出そろっていた。
恐らくこれでもまだ一部なのだろう。
ナフィ側にも念の為配置されたのだろう、30人ぐらいがナフィ側の出入り口を監視している。
いやーこれだけいると圧倒されるな。
一斉にこの人数でダンジョンを攻められたら一たまりもないだろう。
今回の相手が俺達じゃなくてよかった。




