MP残量
「ハナ、また審判よろしく」
「あいよ」
俺とメーシャは特訓に使用した、ボス部屋候補に向かい合って立った。
模擬戦のルールは以下の通り。
お互いお供、モンスターの使用は禁止。
カードは念の為ハナに渡しておく。
武器は全て本物。出来るだけ致命傷は避ける事。
今回はMPが大きく関わる為、最初に《魔力譲渡》でメーシャのMPを最大まで回復させておく。
その代わり、試合中のMPの回復は禁止。
これは本人たっての希望だった。
俺の戦闘レベルは15でメーシャは8。
ほぼ倍ですよ奥さん。
ということで一応ハンデとして《ゴーレム召喚》は使わない事に。
多分相性最悪だと思うし。
俺は両手に《強棍棒》を持つ。
ハッキリ言って、正面からレイピアと棍棒がぶつかれば一方的にレイピアを折る。
それは武器としての相性もそうだが、攻撃力に40以上も差がある上に《腕力上昇》がある。
《二刀流》もあるし何より実戦経験に差がある。
正直圧倒的に俺の方がこれでも有利だ。
しかし、それでもとメーシャは言った。
なら、その勝負受けてやらねばなるまい。
メーシャがレイピアを手に持つ。
俺の棍棒に全く怯えた様子を見せない。
何だろう、この違和感。
少女が棍棒持った男相手に恐怖してない事ではない。
何かが……。
「よーーい……どん!」
ハナの合図で試合が始まる。
まずはメーシャが様子を見ている。
いいのか?じゃあ俺が先制攻撃しちゃうぞ?
棍棒を持つ両手を前に出す。
そしてパッと消す。次の瞬間、弓が現れた。
メーシャの顔色が変わるが、もう遅い。
《ロックオン》と《ハードヒット》の合わせ技。《ハードショット》だ。
しかし弓のこれは投擲とは違う。避けるには本気の回避が必要だ。
さぁ、どうする?
メーシャは《二重存在》を使った。
分身を生み出し、そのまま回避もせずこちらに向かってくる。
弓は分身の一方を射抜き、その分身は煙となって消えた。
まずは1回。
メーシャは《二重存在》に回数の制限がある。
戦闘レベル6の時に5回。
8になった今、10回20回使えるとは考えられない。
7回、いや他のスキルを使いながらなら6回と考えるべきだ。
俺がスキルを先出ししても《二重存在》と《キャンセル》でどうにでもなる。
なので、俺は《二重存在》と《キャンセル》を使い切らせれば勝てる。
それまでに俺を負かせばメーシャの勝ちだ。
メーシャは再び《二重存在》を発動させる。
練習中よくある光景だ。
しかし、今日は違った。
時間差で攻撃してくるのだ。
秘密の特訓の成果か、メーシャは二つの分身をかなり自由に動かせるようになっていた。
俺が痺れを切らして《衝撃波》で吹っ飛ばしても、片方は犠牲になり片方は反撃に転じるようタイミングを調整している。
しかしそれだと攻撃の手が少し弱まる。
五秒間耐える事で、その分身の片割れは消えた。
これで2回。
次の分身を出そうとする、やや離れた位置にいるメーシャに向かって《ハイジャンプ》
そしてそのまま《衝撃波》を放つ。
射程外だと思っていたメーシャは予想外の攻撃に驚いている様子だ。
《ハイジャンプ》と《衝撃波》を併用させると攻撃範囲が広がるなんて教えてないもんな。
これで3回。
片方の分身は壊され、本体となった方は衝撃波で後ろに飛ばされる。
だが、《衝撃軽減》で大きなダメージはないはずだ。
立ち上がれ、メーシャ。
そして師匠を超えるのだっ!
……超えちゃダメだな。うん。
■ ■ ■ ■ ■
メーシャは立ち上がった。
膝が若干すりむけている。
ちょっと服も破けてしまった。
あとで買ってやろう。
しかしメーシャの闘志は一切衰えていない。
目でしっかりこちらを見据えている。
ぞくりと寒気がした。
この感覚、どこかで感じたような……。
そうだ。初めてカロリーナと会った時だ。
あの時は見た目金髪のねーちゃんなのに、何か違和感を感じた。
うーんこれが鬼姉妹の言っていた気って奴かな。
彼女たちはこれがもっとはっきり感じるっていうのだろうか。
ともかく、気持ちを引き締めなければならない。
彼女は教え子ではない。一人の敵だと思え。
さて、メーシャの取る選択肢は意外に少ない。
《二重存在》を出さないで俺に殴りかかると、圧倒的に不利になるのはメーシャだ。
つまり攻撃する際には分身で二択を迫り続けないといけない。
そして俺はそれをかわし続ければいい。
4回目の分身が時間切れで消える。
固まるメーシャ。
あぁいうときは次の手を考えているときだ。
しかし、距離を取って時間を作るというのは弓の餌食という事だ。
残念だったなぁ!
と思ったが、ソレは出来ないようだ。
メーシャの真後ろにハナがいる。
こいつ、分かっててそこに立ったな?
ええい面倒くさい。しかしルール上問題はない。
メーシャは動く気配がない。
そちらから攻めてこいということか。
いいだろう乗ってやる。
俺は棍棒を手にメーシャへと向かう。
メーシャは分身を出し、迎撃をしようとする。
よーし、前々から密かに練習したアレをやってみよう。
殴りかかると見せかけて、一気に《ハイジャンプ》で後方に飛ぶ。
相手が二体いて両方視界に入った時のみ発動する新技!
両方を《ロックオン》する!
その名も《ダブルロックオン》!
強棍棒を両方別々の方向へ投擲する!
二つの棍棒はメーシャへと飛んで行く。
《ハイジャンプ》で避ける訓練をすれば簡単に避けれるが、メーシャは《二重存在》で避ける選択をした。
さぁ、二択を選べ!どっちも同じだけどな!
左右にいたメーシャのうち、右側のメーシャが先に棍棒を受け消えた。
本体となった左側のメーシャも、棍棒がレイピアに命中。
良い感じに混乱しているようだ。咄嗟に分身の操作が上手くいかなかったな。
棍棒に弾かれたレイピアは、遠くに飛ばされてしまったようだ。
何はともあれこれで5回目だ。
ちなみに俺には手元にちゃんと武器がある。
強棍棒なんと三本目だ!
こういう事もあろうかと、よかれと思って作っておいて正解だった。
今回俺が持っていたのは弓、二刀流、強棍棒三本。
モンスターカードは預けるというルールに乗っ取って、一応三本目も装備していた。
《ダンジョンレベル》2になっててよかった。
カードが5つ装備できるからな。
じわりじわりとメーシャに迫る。
メーシャは少し考え事をすると、分身を出した。
片方はレイピアを拾いに、片方は俺に特攻を仕掛けに。
レイピアを二本装備とかはしていなかったようだ。
さて、俺はどうするべきか。
迫ってくるメーシャは武器もない。
急所突きで目つぶしをしてくるぐらいか?
流石にそれぐらいなら棍棒を持っている俺には脅威にもならない。
つまりこちらを適当にあしらいながら、全力でレイピアを拾いに行くメーシャに攻撃する。
これが正解だろうか。
そう判断して俺は動き始めた。
特攻メーシャがすぐ近くまで迫る。
大丈夫、こいつは適当にあしらって……。
悪寒がした。
これはマズいと本能が告げる。
この手の予感にはついつい従ってしまう自分がいる。
《ハイジャンプ》で特攻メーシャと距離を取った。
その手には……。
「そんなナイフあったなー……」
トーノで買ったナイフが握られていた。
俺がこのまま突っ込もうとすれば、ナイフが俺のわき腹とか首とかにグサリだっただろう。
奇襲に失敗した特攻メーシャはペロっと舌を出して消えた。
レイピアを弾かれたのはこの為の伏線だったのか?
何て恐ろしい子だ。
もう片方のメーシャが、悠々とレイピアを拾った。
しかしこれで6回。
せいぜいあと1回しか使えないんじゃないか?《二重存在》を。
■ ■ ■ ■ ■
メーシャのMPはカツカツのはずだ。
もうキャンセル一回、あって分身一回分ぐらいだろう。
彼女にとって最後のチャンス。
そしてその状況で、俺は強棍棒を一本しか持っていない。
俺は棍棒を両手で握った。
冷静に考えてこのスタイルになったのはいつぐらいぶりだろう。
最初にオークと戦った時以来じゃないか?
ある意味原点回帰かもしれない。
メーシャはこちらに突っ込んできた。
レイピアで果敢に突いてくる。
俺もそれを受け流していく。
フェンシングとは違う。俺は攻撃する必要がないし、距離を取っていい。
メーシャは《ハイジャンプ》で俺の頭上を飛んだ。
ジャンプがはえぇ!やはり《敏捷力》が75もあるとこういう基礎的な技も早いのか。
一瞬視界の外にメーシャが消える。
次に視界に入れた時には、メーシャは再び《二重存在》を使っていた。
やはりあと一回使えると思ってたのは正解だったか。
しかしこれを処理すれば勝利だ!
《カウンター》でどうにでもできる!
片方のメーシャが《ハイジャンプ》で俺の後ろに回る。
だがこちらのメーシャは硬直で動けない。
このメーシャを追うと壁に追い詰められる形になるが、何とかなるはずだ。
迷わず《ハイジャンプ》からの《クイックヒット》で分身を消しにかかる。
煙になった分身。
これで残るは《キャンセル》のみ。
メーシャは俺の硬直を狙って《ハイジャンプ》で飛んでくる。
だが、俺の経験上ギリギリこれは間に合う!
間に合う……。
まにゃ……?
メーシャは、《ハイジャンプ》をキャンセルして《二重存在》を使った。
あれ?何でメーシャが二人いるんだ?MP切れたはずじゃ……?
壁に追い詰められた俺は辛うじて一人の分身を倒したが、残ったメーシャが完全にフリーになっていた。
最後の一人になったメーシャはレイピアを光らせ、俺の顔に向かって突いてくる。
あれ?それ急所突きだよね?流石に死んじゃうんじゃ……。
「うふふ、うふふふふ」
「うぜぇ!すげぇうぜぇ!」
ねぇどんな気持ち?という顔をしてるハナがニヨニヨとこちらを見ている。
あとちょっと!あとちょっとのところまで行ったんだよ!
「たしかメーシャちゃんって戦闘レベル8だったよね?あんたいくつだっけ?」
「……15です」
「くふ、くふふふ」
「くっそぉ!」
バンバンと床を叩いた。
凄い悔しい。お願いだコータ慰めてくれ。
急所突きに対して目をつぶって覚悟を決めた俺が目をそっと開くと、ドヤ顔のメーシャがそこにいた。
メーシャはフェイントを体得していたのだ。
しかしフェイントは分身で俺を攻めた時は使った形跡がなかった。
どうやら《急所突き》を目の前でフェイントして寸止めしたいが為だけに封印してたらしい。
く、悔しい。
ちなみにMPについては《知性力》に3ポイント振ってたから大丈夫だったみたいだよ!
MPがカツカツで苦労して、使ってないポイントが3ポイントあるなら、そりゃあ《知性力》に振るよね!
彼女はこれから日本語を勉強したいらしいので、ちょっとぐらい振ってても損にはならない。
《二重存在》の回数をドヤ顔で数えてた俺が情けない。
あーもー恥ずかしい。
やめろハナ!そんな目で俺を見るな!




